食欲魔人日記 00年9月 第1週
9/1 (金)
レモンカードのトースト
アイスカフェオレ

レモンカードを1瓶、試供品でいただいた。
レモンカードとは、レモンと植物油と卵黄なんかをこねこねした、ジャムのようなマーガリンのようなものだ。レモンタルトなんかのデザートの材料になる他、イギリス本国ではパンに塗って食べたりもする……らしい。

はるか昔、10年くらい前に買って食べたことがあったきりのそれを、トーストにして食べることにする。
レモンの皮のほんのり苦いような味がする甘酸っぱいレモンカードをパンに分厚く塗ってこんがりトーストに。焼きたてのレモンカードは油分が異常に熱くなっていて唇が火傷しそうになるのをふーふーしつつ食す。
そうそう、こういう味だ。レモンタルトで良く食べるような懐かしい味がする。

初めてレモンカードを前にする息子は「んま〜♪」と喜びながら平らげていたけど、だんなは不審そうな顔をしている。
「…………」
無言でもそもそとトーストを囓っている。
どうやら彼はレモンカードをお気に召さなかったようだ。

門前仲町 ミスタードーナツにて
 チョコファッション
 カスタードクリーム
 アイスカフェオレ

仕事で門前仲町に行ったら、駅前にはミスドがあるのである。近所にも銀座にも台場にもないミスド。うきうきと扉をくぐってドーナツ2個喰ってる自分がここにいるのである。

むかしむかし、ミスタードーナツで食べられるドーナツは1つしか無かった私。私好みのちょっと固くて揚げたようなやつはオールドファッションしかなくて、あとはキライなふわふわ系でありクリーム詰め物系だった。あれから十数年、ここにあるのは好物ばかりという嗜好の変遷があった。成長したなぁ(←成長と言ってよいのかなぁ)。

それでも未だにオールドファッションは大好きだ。チョコのコーティングがしてあるチョコファッションも大好きだ。これを1つ。
ふわふわ系、カスタードクリーム入りのやつも1つ所望。
アイスカフェオレと一緒にお盆に乗せてもらい、一人テーブルにて食す。

もやしのバター醤油炒め
ジャーマンポテト
ポークソテー
南瓜とパプリカのスープ
御飯
モルツ、アイスカフェオレ

冷蔵庫の中に、骨付きの分厚い豚肉が2枚。
「ポークソテーを作りましょ〜♪」
と、久しぶりに気合い入れて厨房に立つ。今週、家族が揃って夕食を喰うのは始めてなのだ。

付け合わせにオーブン焼きにしたジャーマンポテト。じゃがいもと玉ねぎ、ぶ厚めに切ったベーコンをざくざくと盛り合わせて塩胡椒してオーブンに入れるだけ。あとはもやしのバター炒め。

そしてそして、今日のメインはポークソテー。
ケチャップを入れるレシピあり、ビールを入れるものあり、ポークソテーにも様々あるけど我が家はバターと醤油とウィスキー、これだけだ。
塩胡椒した豚肉に小麦粉ふって、バターでこんがりと焼く。醤油とウィスキーぶっこんで火をつけてフランベ。「炎の料理人ごっこ〜♪」とはしゃいでいる間にソースが煮詰まるという寸法。
簡単なだけにバターやウィスキーの分量でかなり味が変わってしまうので、いつも苦労させられてはいるのだけれど。

焼きたてのお肉に付け合わせを並べて、ビールを2缶開ける。冷凍庫に入れておいたキンキンのグラスにたっぷりのビール。……至福だ。

9/2 (土)
吉野家の
 牛丼(並)
 味噌汁
 ポテトサラダ
麦茶

「"ケ"かぁ?」
人が朝から一生懸命掃除をしようとしている時に、背後から囁きかけるのはだんななのであった。
「……はい?……いいよー、"ケ"で。」
と答えると
「ダメだよぅ。答えは"よし"か"う?"の2種類で答えてくれなきゃぁ〜」
とくねくねしながら隣室に消えていった。なんなんだ一体。

"ケ"とは吉野家を指す我が家の隠語である。発祥はだんなの高校時代であるらしい。
「吉野家」の「家」から「ケ」になったというその言葉は、更に進化を重ねて
「ケか?」「よし」(訳:「吉野家に行くか?」「いいんじゃねぇの」)
「ケか?」「う?」(訳:「吉野家に行くか?」「それはちょっと賛成しかねるな」)
という最大4音で会話が終了するやりとりにまで発展してしまったということだ。

しかし、朝から夫婦の会話が
「ケか?」
「……よし」
なんてあまりにもどうかと思うが、どうか。

ともあれだんながチャリに乗って牛丼を買ってきてくれた。私、並。だんな特盛。味噌汁にサラダ。息子にも取り分けてやって皆で牛丼をかっこむ。相変わらずの吉野家の味だ。醤油や味醂の味とも違うちょっと独特な牛丼は相変わらず美味しい。

台場ビーナスフォート 青龍門にて
 棒棒鶏とチャーシュー入りピリ辛サラダ
 皮蛋豆腐(ピータン豆腐)
 回鍋肉
 空心菜の炒め
 油淋子鶏(ユーリンチー)
 香菜
 香腸(腸詰)
 割包(カーポ)
 扣肉(豚肉の角煮)
 小篭包子(小龍包)
 蝦餃(海老蒸し餃子)
 鮮肉焼売
 肉末魚塊(魚介のフライとひき肉の炒め)
 担々麺
 ココナッツミルクのアイスクリーム
 生ビール

夕刻、だんなの高校来の友人Tさんが遊びに来る。Tさんが運転する車に乗り、
「じゃあビールでも飲みに行こうか〜」
と台場に繰り出すことに。目指すはビーナスフォート内の青龍門。らくちんな服着て、お店の雑多な空間の中で中華料理とビールを堪能するのじゃ。わーいーわーい。

……午後7時のビーナスフォートは大混雑だった。そういえば今は開店1周年記念のバーゲンセール開催中なのである。しかも「ポロ・ラルフローレン秋冬ファッションショー」なんて通りを長々と使ってやっていたりして、そりゃもう凄い人混みである。かき分けかき分けお店に入る。ほぼ満席状態のお店の一角に腰掛ける。いつもザワザワとやたらと騒がしい店内だけど、今日はまた格別に騒がしい。ファッションショーの音や光が吹き抜けのホールからばしばし飛んでくる。

まず生ビール。で、つまみにとサラダやピータン豆腐、腸詰に回鍋肉など数皿を注文。冷房の効いた中、生ビールを飲めるだけ一気に腹に流し込む。……っはぁ、美味しい……。阿片窟を模したという店内は怪しい雰囲気で、なんとなく煙っている。叫ぶように話す店員に、家族連れや着飾った女性客がこれでもかと食べている。こういう雰囲気、大好きだ。「さぁさぁ食べなさい」と言われてるようで、ついつい食も進んでしまう。

最初にサラダ。バンバンジーやチャーシューと一緒に揚げたワンタンの皮が一緒に盛られ、レタスと一緒に甘酸っぱいタレで和えられたやつだ。そして豆腐にかつお節たっぷり、ピータンが少々乗ったピータン豆腐。小皿に山盛りの香菜。ちょっと甘口のホイコーローがずらりと並んだ。小ぶりのお皿にポイポイと取り分けながら、もりもりと食す。
私の大好物の香菜、一皿取ったもののだんなもTさんも好きではないらしい。生のやつをただざくざく刻んだだけの香菜は、私の傍らに置いて、手を伸ばしてビールを片手にシャワシャワといただく。ピータン豆腐を食べる時にも一口。サラダを食べる時にも一口。この調子で私の口にするものは本日全面的に香菜風味だ。シアワセだ。

にんにくの効いた醤油味の空心菜の炒めや揚げ鶏に甘酸のタレがかかった油淋鶏をじゃかじゃかと片づけて、注文第2段。二つ折りの蒸し饅頭、カーポに豚肉の角煮、小龍包や餃子などを追加で注文。

このお店、いつもいつも微量に注文を間違えてくれる。頼んだものが来なかったり、頼んでないものがやってきたりする。今日も頼んだ腸詰がなかなか来ないのにチャーシューまんが来たりした。それでも店員の対応がいつも悪くなかったりするもんだから、"しょうがないよなぁ、この店は〜"でいつもなんとなく済んでしまう。どうも私は青龍門が好きであるらしい。

で、カーポが来た。豚まんの皮の部分を塊にして丸くまとめ、それをつぶして2つ折りにしたような形状のもので、間に適当におかずを挟んで食す。やはり豚の角煮なんかがサイコーに美味しい。皆でカーポを掴み、間に角煮を挟んでわしわしと食べる。甘辛く、トロリとしたタレのかかった角煮は、八角の香りがふわりとただようものだ。旨い。

スープが詰められた小龍包も堪能したし、プリプリした焼売も喰った。3人もいると種類がたくさん食べられて良いことだ。
最後のシメは担々麺。小さなお椀に入った麺類は1杯200円前後。私は担々麺にし、だんなとTさんは担仔麺に。奇をてらった味でもなく、特別に上品なスープでもない、俗っぽい味の小さな麺だけど、妙に旨い。上にたっぷり乗ったシャキシャキのもやしも良い感じだ。ビールを飲み終えるとすぐに冷たいお茶が出てくるし、麺を食べ終わるとすぐにおしぼりの替えも来た。

で、デザートだ。私はココナッツミルクのアイスクリーム、だんなは杏仁豆腐、Tさんはタピオカココナッツミルク。
妙に粘度のある、もっちりした食感のアイスクリームはココナッツクリームたっぷりという感じだった。口にした途端に、口から喉から鼻から全面的にココナッツココナッツしてきてとても気持ちが良い。ねっちりもっちりしたアイスクリームを息子と分け合いつつ食べてお店を出ると8時過ぎ。

そのまま同じビル内の巨大ペットショップを皆でひやかし、車でぶいぶいと竹柴桟橋まで行って夜景などを見、のんびり帰宅すると10時半を回るところだった。何だか久しぶりに夜遊びした気分。たまにはいいやね〜。

9/3 (日)
デニーズにて
 コンビネーションブランチセット

昨夜、結局我が家に泊まっているTさんなのであった。来客だというのに、今朝は10時過ぎまでぐーすか寝ていた私とだんな(と息子)。
「食欲魔人日記読んでるから休日に何時に起きるかくらいわかってたんだよなぁ……」
と頭をかきかき寝起きの私らと顔をあわせたTさんは、朝6時に目を覚ましていたらしい。す、すみません。でも昨日寝たの12時過ぎでしたし。

昨夜外食してたから朝食の準備もなく、皆でTさんの車に乗り込んでファミレスに向かう。車なら15分ほどの距離にデニーズがあるのだ。
午前10時半過ぎ、メニューはまだ朝食用なのであった。ちょっと悲しく思いながら、それでも好物のフレンチトーストのセットはあるのでこれを注文。
フレンチトーストにツナサラダ、ドリンクとフルーツヨーグルトがセットになって950円なり。いかにも女性用という感じのプレートだ。

ふわふわと卵のソースをつけられてこんがり焼かれたフレンチトーストに、バターを塗ってシロップをかける。説明するだけで口の中が甘くなってしまうこれが、私の大好物なのであった。横の息子もバターとメープルシロップにまみれてパンケーキと格闘中だ。そして目の前ではTさんが海老マカロニグラタン、だんなが鶏の照り焼き丼とうどんのセットを食しているのであった。ああ、いかにもファミレス御飯という風景だ。

かき氷(いちご)

Tさんと別れ、数日分の食料を買い込んで帰宅すること12時過ぎ。風は強いけど今日もやっぱり蒸し暑い。
「かき氷しましょ!かき氷かき氷かき氷」
と、買い物袋から肉や野菜を冷蔵庫に移した後、おもむろに冷蔵庫からシロップを取り出す。だんなの好みは"みぞれ"一辺倒、私は"いちご"と"メロン"が好みだったりする。"抹茶"やカルピス、練乳も悪くないけど「かき氷喰うぞ」と家で燃える時に食べたいのはいちごでありメロンだったりしちゃうのだ。

我が家のイカすかき氷機は手動のもの。青と白の色使いで、真横には「氷」と赤い字で書かれているシンプルなものだ。結婚後の最初の夏、
「かき氷機を買うぞ買うぞ」
「しかしドラえもんやウルトラマンなんかの模様のはイヤだぞ」
とデパートを歩き、小売店を覗き、大型スーパーで探し、ついに上野の松坂屋で発見して一目惚れしたかき氷機なのであった。ううん、キュートだ。

冷凍庫で固めた専用の丸い氷をシャーコシャーコと削って作るかき氷。いちごやみぞれの氷を並べて、家族でわしわしと食す。後頭部がキイィィィンとするのもまた一興なのだ。

自家製チャーシュー入り長浜ラーメン
麦茶

確か一週間前に作ったチャーシュー、だんなはまだ一口も食べられていないのであった。おやつ代わりにチャーシューラーメンしましょう、と午後2時過ぎにおもむろに麺を茹でる。九州土産のとんこつスープの長浜ラーメン、紅生姜や胡麻と一緒にチャーシューをごろごろと盛り付けて、食す。

にんにくのきいた醤油だれのチャーシューは、多分醤油ラーメンなんかのほうが似合うのかもしれなかったけど、とんこつスープでもけっこうイケた。噛むと甘辛いタレがじゅわっと染み出てくるチャーシューは良い出来だった。また作ろう。

ポテトコロッケ with 山盛り千切りキャベツ
シーザーズサラダ
豚汁
御飯
モルツ、麦茶

「コロッケが、食べたいのよねぇ〜」
と呟いたら、だんなが
「僕も僕も」
と賛同してくれた。なんでも木曜日あたりから食べたいとほのかに思っていたとか思っていなかったとか。

ならばと、夕方からじゃがいもをごろごろと蒸し始めることにする。小ぶりだけど7つものじゃがいもを丸ごと蒸し器でシュンシュンと蒸す。炒めたひき肉と玉ねぎ、それに隠し味の練乳をひとたらし入れて混ぜ混ぜ。大量のタネが出来上がった。

「コロッケならさぁ〜」
今度は千切りキャベツに取りかかろうとしていた私にだんなが横から話しかける。
「豚汁だよね。」
???わかめや油揚げの味噌汁じゃまずいっすか?
「コロッケみたいな揚げ物には、やっぱり豚汁が似合うんだよー。美味しいんだよー。」
……でも大根やごぼう、買ってきてないよ。
「じゃあ、生協行って買ってくるよー。」
行ってしまった。

数十分後、だんなが買ってきてくれた大根やごぼうを使って豚汁作成。回鍋肉用にと買ってきた豚バラ肉の塊を薄く薄く何枚もスライスして野菜と一緒胡麻油で炒めて煮込む。こってりした豚汁ができあがった。安売りしていたサニーレタスを使ってシーザーズサラダも用意した。

私がペタペタとタネを整形して、衣をつけたところでだんなが揚げ物鍋に張り付いてじゃんじゃん揚げてくれる。シーザーズサラダ用のクルトンも食パンを揚げて作り、そして9個のコロッケと4個のミニコロッケ(息子用)がこんがりと完成した。ダッシュで盛りつけビールも入れて、急いで乾杯。やっぱり揚げたてを急いで喰わなければならない。

噛むと歯まで火傷しそうな感覚になる揚げたてのコロッケはやはりサイコーに美味しい。食卓にはとんかつソースと、"どろソース"が置かれていて、それを適宜つけて食べる。"どろソース"は神戸のソースだ。真っ黒でどろりと本当に泥のようで、めちゃめちゃ辛い。普通のソースのつもりで迂闊に舐めると、舌がビリビリとしびれるソースだ。残り少なかったとんかつソースの代打のつもりで食卓に出してみたら、これがすこぶる美味しかった。ビリビリした辛みに濃厚なコク、さっぱりした後味は何ともクセになる。

「美味しいねぇ」
「たまりませんなぁ」
とビールを飲みつつ5個のコロッケを消化。
「やっぱりコロッケには豚汁ですねぇ」
「わからんでもないですねぇ」
と今度は御飯で3個のコロッケを消化。息子も自分の分4個プラス大人用の1個まで奪って喰い、結局山のようなコロッケは全部なくなってしまったのであった。

そう、コロッケやとんかつってやつは、"余ったら明日コロッケ丼とかにしよう……♪"とか画策しても大概無駄になるのだ。全部食べちゃうから。