この特集のリポーターは、作家の中村うさぎさん。1ページにわたってレポートの文章がありましたので「"引用"としてしまうには長いかも……」と少々の危惧を抱きつつ、以下に御紹介致します。
昨年の夏、本誌の企画でこちらの絶品マンゴープリンを食してからというもの、私は友人たちから「パークハイアットのまわし者」あるいは「マンゴープリン伝道者」などと言われるくらいに熱心なファンと化して、布教と勧誘にこれ努めた次第であった。
実際、ここのマンゴープリンのとろとろぶりは素晴らしく感動なのである。私に勧誘されて食した友人知人はことごとく驚嘆の声をあげ、おかげで私は「中村、意外とグルメかも……」という尊敬の念を集めちゃったりしたもんだ。いやぁ、マンゴープリンさまさま、ですわい。
で、そんな私の布教の功績が認められてか(んなワケないって)、今回ついに、シェフから直々にマンゴープリンの作り方を伝授していただけるコトになった。デザート作りどころか、飯もろくに炊かぬ中村だが、あの夢のマンゴープリンを自宅で味わえるようになるのなら、ひとつ腕まくりして頑張りまっしょい!
てなワケで、さっそくシェフからの懇切丁寧なご指導が始まったのだが、なにしろ素人の中村、いちいち驚く。
「マンゴーをミキサーにかけ、さらに漉します」
「えっ!?漉すっ!?なぜっ!?」
「マンゴーは繊維が多いので、漉さないと滑らかな舌触りにならないんです」
「ほぉ〜、なるほど!」
あくまで追求するのは、「滑らかな舌触り」。マンゴーもココナッツミルクもミキサーにかけてさらに漉す、そのひと手間があの絶妙なるとろとろ感を生むのであった。
シェフの、この「とろとろ滑らか感」に対するこだわりは徹底的で、たとえば生クリームを泡立てずにそのまま加えるアイデアも、この「とろとろ滑らか感」への試行錯誤から生まれたのだそうな。
「最初は生クリームをホイップして加えてたんです。ババロアなんかは、そうやって作るのでね。でも、出来上がりの舌触りが、どうしてもイメージと違う」
「フワッとしちゃうんですね」
「そう。でも僕はフワッとした舌触りより、もっとトロッとさせたかったから」
「最初に、自分の作りたい物のイメージが、かなり鮮明にあったんですねぇ」
「明確なイメージを持つことは、お菓子作りに大切なんです。で、自分の目指す味や触感を完璧に実現するために、いろいろ試行錯誤するんですね」
技術もさるコトながら、料理は、作り手のイメージ力によって、完成度が大いに違ってくるワケなのである。小説なんかも、そうですね。イメージ力の貧困な作家は、いきいきとした作品が書けない。シェフ、中村は反省いたしましたぁ〜!
こうして、手取り足取り教えていただいて完成したマンゴープリンは、まさにあの夢の舌触り。とろりと甘く柔らかく、喉につるんと流れ込む冷たい快感……ああ、諸君、私はこのマンゴープリンに出会えて幸せである!この味わいこそ、シェフの「とろとろイメージ」に賭けた情熱と創意工夫の賜物。文学や美術に比肩する、これは妙なる芸術作品なのだ。
『dancyu』2001年8月号p128より抜粋