結婚式/事前準備編

あれはまだ、Kさんと付き合い初めて数ヶ月の頃だったと思う。
二子玉川園そばの河川敷で、Kさんの友人がガーデンパーティを行なうというので一緒に行ったのだった。案外早く駅に着いてしまい、暇を持て余してミスタードーナツで時間を潰していたように記憶している。駅前で何の気なしに(というのは多少嘘で、多分におねだりだとか、教えたいぞという欲求だとか、色々な思いがあったのだった、実は)JALのバリ島旅行のパンフレットを貰ってきた私は、ミスドのオールドファッションをかじりかじり、Kさんにバリ島についての、正確には"バリ島のホテル"についての素晴らしさについて語ったのだった。

「日本のホテルとは比べ物にならない広さなの」
「このホテルには、一部屋に一つずつ、プライベートプールがあって」
「ほら、このホテルにはお昼寝用カウチが」
「ジュースがとにかく美味しくて」
と、ひたすら「バリ島良いとこ一度はおいで」攻撃につとめたのだった。
「いつか一緒に行こうね、ふふ」
としめくくり、いつか一緒に行くだろうことは彼のなかなかの反応の良さからも予測できてはいたのだけれど……まさか新婚旅行になろうとは。

ハワイなんて俗なところは冗談じゃなく、あわただしいヨーロッパなどもやっぱり嫌で、私のひたすらなプッシュもあってかハネムーンはバリ島になったのだった。
「6月は飛行機代も安いから」という理由だけで6月に結婚式を挙げることにした、なんてあんまり人には胸を張っては言えないかもしれない。
出発は6月15日。8泊10日の、リゾートにしては長い旅行である。

本格的に結婚を決めたのが1月初旬、ホテルに予約を問い合わせたのが2月に入っての事だった。選んだホテルはフォーシーズンズリゾートとアマンダリ。
「もっと安いホテルにしようよ〜」
というKさんの嘆きをふりきって、半ば無理矢理、強硬にフォーシーズンズリゾート5泊、アマンダリ3泊というスケジュールにしてしまったのだった。だってリゾートで2泊以下なんて恥ずかしくてやってられないわよ。3泊だって短いと思うのに。と、一度バリ島に行った位でリゾートを熱く語ってしまう高飛車な嫁である。
私の我侭でスケジュールをたててしまった以上、予約も自力でやらなきゃいかんと、私は現地に直接ファックスを送りはじめた。つたない英語で「我々はハネムーナーなのだが、それ向けのプランなどはあったりするのだろうか」などとも問い合わせてみる。流石一流ホテル、2日をあけずして予約OKの返信がファックスで送られて来た。

アマンダリからは「あいにくハネムーナー向けのプランは無いのだが、私たちは貴方達がハネムーナーであると言う事を心に留めて、真心こめてサービスします」というような、フォーシーズンズからは「ハネムーナーならば、"ROMANCE BEGINS IN BALI PACKAGE"というプランをご用意させて頂いていますがどうでしょうか」というような返信内容である。
このフォーシーズンズのプランが結構なかなか凄いというか恥ずかしいというか、ちょっと赤面を誘う内容の羅列で、

・メルセデスベンツで空港への送迎。
・お二人様に滞在ヴィラ内、あるいはスパ内での1時間のバリニーズマッサージ。
・冷やされたシャンパンとトロピカルフラワーアレンジメントで到着のお出迎え。
・毎朝のアメリカンブレックファーストつき。ヴィラあるいはダイニングルームで。
・PJ's beach restaurant での1回の昼食つき。
・ヴィラ内でのスペシャルディナー1回。プールに花とキャンドルを浮かべ、テーブルも花とキャンドルで飾りつけ。
・ウィンドサーフィン、カヌー等のウォータースポーツが無料。
・テニスクラブ&スパの利用が無料。

といったものが記載されていた。
……うわぁ、恥ずかしい、何が恥ずかしいってタイトルも相当恥ずかしいものがあるが、「Dinner by candlelight in your villa」が何と言っても恥ずかしい。それなりに恥ずかしいベンツ、シャンパン、トロピカルフラワーアレンジメント(舌噛みそうだ)も「プールに花を浮かべます、キャンドルも浮かべます」と気合の入ったディナーに勝るものはない。一体浮かべてどーすんだ、浮かべた花はくれるのか、キャンドルはディナー後に回収されてしまうのか、と興味がいまいち別の方向に走ってしまうのは性分だから仕方がない。
……ま・でも、ちょっと気になるし、何といっても一生に一度ハネムーンだし、何といってもお得だし、と自分に言い訳しながら結局は楽しそうに本申込をする私たちである。
これが5泊でUS$2,680 。さらに税金、サービス料で21%の上乗せが加わる。1泊1人\35,600というところだろうか。日本の高級ホテルの軽く上をいってしまうこのお値段。
一生で最初で最後の豪遊になったらやだなぁ。そうなる確率高そうで怖いぞ、これは。

そうこうしているうちに、Kさんもいつのまにかインターネットでフライト情報や現地情報を集めていた。ガルーダの正規割引航空券の手配もしてくれて、すっかり頭は式も披露宴も友人とのパーティもそっちのけで「バリ島だバリ島だ」となってくる。それじゃまるでバリ島行きたさに結婚したんじゃないのかと言われそうだが、かなり本当の事だから仕方がない。

さて、予約も済んで、気が付くともう6月が間近となっていた。一番のお楽しみである新婚旅行以外の雑事がどんどこ増えてくる。気がつくとホテルとの打合せも何もしていない。あわててYMCAと打合せをし、帝国ホテルにも帰国後のドレスの宅配について相談する。そして確定した便名をバリのホテルに報告。フォーシーズンズもアマンダリもホテルへの送迎が含まれている。しかもリムジンだ。うふ。
アマンダリは太っ腹な事に「どこからでも、どこへでも送迎します」的な事を以前知らせてくれていたので、遠慮なく「ではフォーシーズンズに迎えに来い」とリクエストさせて頂く事にした。ますます頼りなくなってくる英語力で、Kさんに尋ねつつファックスを送る。1日後、両方のホテルから返事が来た。15日にフォーシーズンズホテルからトヨタ某の車が迎えに来(ベンツじゃなくなってしまった)、20日にはアマンダリからリムジンがフォーシーズンズにやってくるということだ。リクエスト通りに受取って頂けたようで大変嬉しい。
もう式まで丁度2週間。まだ色々と決めなければならないこともあったりして、ついつい現実逃避したくなってくる。バリに行ったら布、沢山買うんだ〜、お昼寝沢山するんだ〜、踊りも見るんだ〜……夢は膨らむ。腹まで膨れてきたら大変だから、そこはそこ、ちゃんとボディケア用品もぬかりなく持っていくこととしよう。……ダンベルも持って行こうかしらん(無理)。