7月15日(金) 名古屋初日は「ひつまぶし」

万博だ宿探しだ

今年は名古屋万博の年。春から関東のテレビ局でも何かと特集を組み、
「ほー、マンモスか」
「おおー世界最大の万華鏡とな」
と、それを見ながらぼんやりと「行ければいいねぇ」くらいに思っていた。息子の学校が夏休みになり、夫が無事に夏休みを取れれば7月下旬あたりに行けるかなぁ……と。

それが、突然、「海の日の連休に行くぞ!」ということに数週間前に決定した。息子はその連休から夏休み。金曜日の昼過ぎまで学校があったので、息子の帰宅を待ってから午後の新幹線で名古屋に向かうことになった。
わーい、久しぶりのナナちゃん〜

……で、バタバタと決まったものだから、何より宿探しに苦労した。万博を目当てにやってくる日本中のお客さん、海外からのお客さんを受け入れるには、名古屋のホテルは部屋数が圧倒的に足りないらしい。名古屋駅近辺の宿は万博中軒並満室だよとは聞いていたけれど、こんなに苦労するとは思わなかった。

インターネットで予約できる宿探し系サイトは、ほぼ全滅。大手ホテルの公式ホームページなどの空室情報は日程全て(とその前後もみっちりと)空室なしの「×」マーク。

それでもなんとか、ネットの宿サイト経由で名古屋駅から歩いて15分くらいのところにある「かね秀旅館」という宿を金曜日一泊分だけおさえることができた。なぜか「大人2人子供1人」で入力しようとすると「空室なし」になってしまうので、「大人2人」で予約しておき、おさえられたところで宿にお電話。

「インターネットの旅行サイト経由で宿泊の申込みをしたんですが、大人2人ではなく子供も1人同行するんです。それでも良いでしょうか?」
と確認しがてら、なんとかその翌日、翌々日と連泊できないかとお願いしてみる。結果、子供1人の追加も問題なく、なんとか部屋の調整をするから2泊連泊で良いですよー……ということになった。考えなければならないのはあと1泊分。インターネットを駆使し、大手ホテルには電話で確認もしてみたりしながら探したのだけれど、どこもかしこも空きがない旅行代理店の宿泊キャンセル待ちリストにも入れてもらい、更にダメもとで以前宿泊したことのある「ドーミーイン名古屋」に相談したところ、キャンセル待ちを受け付けているとのことでお願いしておいた。

出発3日前。もう名古屋駅付近の宿は望めないかなと、電車で20分ほど離れたところにある宿に問い合わせをはじめたところ、「ドーミーイン名古屋」からキャンセルが出ましたよとの連絡が。ばんざーいばんざーいばんざーい……ということで、荷物を用意していざ名古屋へ。ああ、良かった……宿取れたよ……。

アットホームな木造旅館〜「かね秀旅館」

扉がふすまの、可愛い部屋そして夕方、名古屋に到着。荷物をガラゴロ引きずって、駅から徒歩15分のところにある「かね秀旅館」を目指した。「旅館」というものの、実体は「民宿」で、素泊まり可能(というか、基本は素泊まりという感じ)。親子3人で1泊素泊まり12000円だった。昔ながらの木造二階建ての宿で、打ち水のしてある玄関脇には小さなお稲荷さんの祠がおいてある。広い玄関に、天井の低く廊下が奥に伸び、左右に小さく並んだ客室が。トイレ風呂は共同だ。
すっごくレトロなトイレの洗面

客室は電話も冷蔵庫もちゃぶ台もない、奥に伸びた6畳間。狭いし古いし……という感じではあったけれど汚いわけではなく、トイレやお風呂はとても清潔。板張りの天井の造りの凝りようはけっこうなもので、全体的に「良い建物」であることが伺える。「ただ寝る場所」としては客室の内装がやけに凝っていたところとか、この宿の周囲はちょっとした風俗街になっていたところから、ここは昔「置屋」とかだったのかなぁ……などと思ったりした。

時代を超えまくったようなレトロ感が逆に新鮮で、板戸がガタピシいうトイレをおそるおそる使ってみたり(トイレそのものは和式だけれどちゃんと水洗よ)、私の足の付け根くらいの高さしかない小さな洗面台を眺めてみたり。部屋には小さなポットが置かれていて、中にはキーンと冷えた麦茶がたっぷり詰まっていた。世話好きそうな宿のおばちゃんは色々話しかけてきて、
「今日ね、学生さんたちが夜泊まりに来るからね、良かったらお風呂入っちゃってくださいよ。時間が悪いとね、いっぱい待たなきゃいけなかったりするからね」
と、最初の到着客らしかった私たちはそのまま一番風呂を使わせていただくことに。男湯も女湯もない「家族風呂」だったので、3人一緒に入れそうだねと家族でのんびり汗を流した。風呂上がりの麦茶がしみじみ美味しい。

炭火の香りのひつまぶし〜「いば昇」

さて、そして最初の「名古屋飯」。
味噌カツ、味噌煮込みうどん、どて煮にきしめん、イタスパにあんかけスパに喫茶マウンテンのイロモノパスタ。名古屋には美味しいもの(とか不思議なもの)が山ほどあるけれど、そんな中で私の心を一番に掴んではなさないのが「ひつまぶし」。名古屋でないと食べられないというものじゃない(一度食べれば、家で割と簡単に再現できる)けれど、これを考えた人はえらい!えらすぎ!と、家で鰻を食べるたびに、私は密かに名古屋方面に感謝している。4年前に名古屋にやってきて「ひつまぶし」を一度食べてからというもの、我が家で鰻を食べるときは常に常にひつまぶしセットを用意するようになってしまった。

前回名古屋に訪れた時には「あつた蓬莱軒」に行ってみたので、今回は色々と良い評判を聞く「いば昇」(いばしょう)というお店を目指すことにした。栄の駅から歩いて数分、三越デパートにほど近いところにある。

いかにもな鰻屋さんの香ばしい香りの煙がもくもく出た店に入ると、目に入ったのは店内をうねうね並ぶ長蛇の列。間口は狭いけれど奥ににょろにょろとテーブル席やお座敷の席が伸びていて、その席に沿った通路にずらーりとお客さんが並んでいた。6時を過ぎたばかりだという時間帯で、30人ほどは並んでいただろうか。20分くらい待って、鯉の泳ぐ中庭に面した4人がけテーブルに通された。
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東京より幾分か蒸し暑く感じる名古屋。ひとっ風呂済ませてきたというのに既に背中も顔も汗びっしょりで、
「ビールビール、とりあえずビール!」
「卯巻きあるかな、卯巻き」
「……メニューにないけど、聞いてみようか」
と、ひつまぶしの前にビールと卯巻きを注文する。卯巻きは「口取」という名前で一皿500円だった。

しっとりと冷たい卯巻き。太く大きな卵焼きの生地の中にも細かく鰻の身が入っているようで、中央部分には更に蒲焼きが収まっている。柔らかな優しい味で、最初は「いらなーい」とか言っていた息子が猛烈な勢いで食べ始めた。お皿の隅っこに盛られた数個の枝豆が良い感じ。
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そして、いよいよやってきたひつまぶし。注文した人数分のサイズに合ったおひつ(2人分なら直径20cmくらい)に御飯が詰められ、ざくざく刻まれた鰻が海苔と共に盛りつけられている。テーブルには刻んだ長ねぎとおろしわさび、緑茶の入った急須と、鰻のタレの入った小さな瓶が並べられ、
「最初にそのまま食べてね、次の一膳はこちらの葱を添えてください。で、最後の一膳はこちらのお茶をかけて、葱とわさびを添えてくださいね」
と説明が。あとは肝吸い(別料金200円)とお漬物。

以前食した「あつた蓬莱軒」のものはお茶ではなくて鰹だしをかけていただくもので、だからそれを真似た我が家のひつまぶしはずっとずっと鰹と昆布のだし汁を使っていた。吸い物よりちょっと強めに塩加減をしただし汁をかけていただく「うな茶」は絶品だったのだけれど、このお店のはだし汁ではなく、緑茶をかけていただく。それもそれで、さっぱりとしていていくらでも食べられそうな危険な味だった。だし汁を使ったうな茶は途中で少し「食べるのに疲れる」ような状況が訪れるのだけれど、お茶を使ったうな茶にはそれがなさそうだ。

炭火で焼かれているという鰻は適度に香ばしい焦げがあって、歯応えがそれなりに残る力強い味わい。2人前注文して3人で分けて食べたので、ごく軽めにだんなが3膳私も3膳息子は2膳、という感じで。「鰻御飯」をいただいたのは最初のほんの2口分ほどで、さっさと「葱かけ鰻御飯」にして、更にさっさと「うな茶」に移行して、存分にうな茶の美味しさを堪能した。鰻御飯に海苔と葱とわさびの薬味はなんてステキに似合うんだろう。そしてそこにだしとかお茶とかかけるのが、なんでここまで旨いんだろう、と、今日も「ひつまぶし」の存在に心から感謝。

「……うーん、これなら1.5人前くらいは食べられるかも」
なんて思ってしまいながら、綺麗におひつを空にして店を出た。

名古屋 栄 「いば昇」にて
口取(鰻巻き)
櫃まぶし
肝吸い
ビール(大瓶)
\500
2×\2100
3×\200
\650

手羽先と部屋飲み

で、レッツゴー2軒目。長くはない名古屋滞在、限られた食事の回数をどう有効に使おうかということで、「ハシゴをすればいいじゃないのー」という実に簡単な結論が導き出された。栄には手羽先の「風来坊」があるよねー……と、「いば昇」を出てから大通りをてくてく歩く。15分くらいかけてせっせと歩いてビルの地階にある「風来坊」にたどりついてみると、広くはなさそうなお店は満席だった。

待ってもいまいち席は空きそうになく、ショボーンとなってお店を後にしながら
「あ……確か、三越の地下にお店があるよ、テイクアウト用の」
「んじゃ、そこで手羽先買って、部屋でビールでも飲むかー」
と話し合い、再び三越デパートに向かっててくてくてく。後になって思うと、この店からそう遠くないところに「風来坊」の別の支店があったし、テイクアウト用だったら満席で断られたお店でも包んでくれたんじゃ……と思うのだけれど、そのへんに思いが至らず、「テイクアウトならデパート行かなきゃー」とてくてく歩いてしまったのだった。

ともあれ無事にテイクアウト手羽先が購入でき(でも最後の1箱、1人前しか残ってなかった……)、同じ三越のデパ地下で「金しゃちビール」なる瓶入り地ビールも買い、タクシーに乗って宿まで帰還。部屋に戻ってから手羽先つつきながらビールを飲んだ。浴衣着て、布団並べて敷いて、隅っこで小さな酒盛り。なんだか修学旅行みたいで楽しい(いや、修学旅行で酒盛りはしないけど)。

カラッとキレの良いピルスナータイプに、こってりとしたコクのあるアルトタイプの2種類の「金しゃちビール」はどちらも好みな味わいで、今日通りかかった伏見にはその会社の経営するビヤホールもある模様。今度はこの店にも来てみたいなー。

宿の部屋で
「風来坊」の手羽先
金しゃちビール(赤ラベル)
金しゃちビール(青ラベル)
\450
\380
\380