4月21日(土) 本場の「あんかけスパゲッティー」との出会い

いざゆかん、名古屋

「4月に名古屋に行くかもしんない。」
出張予定があると告げた、だんなの顔は心なしか輝いていた。
名古屋と言えば、味噌かつである。味噌煮込みうどんである。ひつまぶしである。あんかけスパであり、イタスパであり、きしめんであり、天むすであり、手羽先である。大抵その地方独特の料理というものはあって当然だけれども、名古屋の独特さは尋常ではない。東京と大阪の間に位置するのに、東京にも大阪にもない料理が多数あるのであった。「あんかけスパ」はその最たるものかもしれない。

「出張に行くよ。」と言っただんなの言葉の裏に「いろいろ美味しいものを食べてくるからね。」の意図を読みとった私としては、黙っているわけにはいかなかった。ついていく。毒をくらわば皿まで。死なばもろとも。(←用法が違います)

もう数週間前から「どこで食べるか」で家族会議が多数開かれていた。私がインターネットで見つけてきた名古屋在住人のサイト諸々や、名古屋在住歴のあるだんなのお仕事仲間からのアドバイスなどなど。全部の情報をノートパソコンに打ち込んで、それを持っていざいざ名古屋へ。
遊ぶぞー。いや、食べるぞー。

初めてのあんかけスパ〜「チャオ」

11時半。私たちは名古屋駅に降りたった。
とりあえず徒歩10分ほどの距離にある今回のホテルに大荷物を置きに行くことにする。名古屋駅から隣接して名鉄百貨店、そして名鉄セブンが連なる。名鉄セブンと言えば、名物(?)のナナちゃんを忘れてはいけない。アーケードの中、天井に迫る勢いの巨大なナナちゃん。
「おお!ナナちゃん!」
「生ナナちゃん!」
ということで、いきなりのナナちゃん記念撮影。ナナちゃん、でかいわー。

そこから歩いて最初の名古屋味を求めに行く。いきなりパスタだ。あんかけスパ。
ものの本によると、「名古屋の風土に合うパスタ料理を」とのことで昭和35年、横井さんが編み出したソースが「あんかけソース」。野菜や肉、トマトピューレなどをベースにして5日かけて作ったベースに、片栗粉でとろみをつけたそのソースは名古屋人におおいに受け入れられ、「スパゲティーハウス ヨコイ」がオープン。現在はヨコイの他にも多数のあんかけスパ屋があるということだ。そのあんかけスパ屋大手の1つが「チャオ」だ。名古屋駅のすぐそばにある。

時間は12時半。土曜日だというのに、店はサラリーマン然としたグループ客を始め若いグループ客、女性1人客、競馬新聞を持ったおじさん3人組などなどで大混雑。少々の行列までできている。
店頭のショーケースやメニューを眺めてあれこれと悩みつつ注文を決める。スパゲッティーの種類は豊富、デザートなどもあって誘惑されることこの上ない。

名物は「カントリー」というものらしい。
竹の子とマッシュルーム、玉ねぎ、ピーマン、コーン、トマトが炒められてスパゲッティーの上に乗せられ、周囲にあんかけソースが敷かれたものだ。この「カントリー」を基本とし、鶏の唐揚げが乗れば「からあげカントリー」などとなる。
ちなみにウィンナーが乗った「カントリー」は「ミラカン」、白身魚のフライと目玉焼きが乗った「カントリー」は「バイキング」と名前が変わる。あんかけスパゲッティー道はいきなり難しかった。

私は「からあげカントリー」を、だんなは「ミラカン」を注文。680円追加することで可能な「Bセット」はコーンスープとサラダとデザートがついてくるらしい。
腹ぺこだった私たちはセットで注文。だんなはデザートのつかないAセットにし、自家製プリンを追加注文。名古屋到着早々、全開な私たちだった。どーすんだ、夜は「ひつまぶし」喰いに行くのに。

スパゲッティーの価格帯が700〜900円あたりであるのに、セットにすると680円追加というのはちょっとお高い。
そう思っていたところ、巨大なサラダがやってきた。どんぶりサイズのボウルにレタスとトマトがどかんどかんと盛られている。オニオンサラダを選択した私には山盛りの刻み玉ねぎと鰹節が、コーンサラダを選択しただんなにはこれまた大量のコーンがこんもりと積まれていた。す、すごいです。セットのサラダというレベルじゃないです。
続いて、これは普通のサイズのコーヒーカップに入れられたコーンスープもやってきた。サラダを囓り、スープを啜り、しばしスパゲッティーが来るのを待つ。

さていよいよ、レギュラーサイズであるのに、こんもりと山を成したスパゲッティーが運ばれてきた。
太めの麺の上に炒められた野菜類。横に置かれた巨大なわらじのような鶏の唐揚げ(というかチキンカツ)。そして周囲に敷かれた赤みを帯びた茶褐色のとろみのあるソース。かの姿は全て各種メディアにて確認したものと同じで、私は感動を隠せない。いやーん、とても美味しそう。

これまで私が食べてきた「あんかけスパ」というと、「ヨコイ」から発売されていたレトルトパックものだけであった。東京近郊に住む者としては、このレトルトパックを入手することしか「あんかけスパ」への道は開けなかったのだ。
そのレトルトソースに比較すると、この目の前のソースはピリ辛感はあまり感じられない。ケチャップに似ているようでケチャップ味ではなく、ドミグラスソースにも似ているようでやはりそれとは違う不思議なソースだ。肉のコラーゲン成分でついたとろみではなく、片栗粉でついたあの独特の粘るようなとろみ感は、やはり「あんかけ」の名にふさわしい。

トロンとしたソースを絡めて食べるのは、バターで炒めたコクのある太い麺。肉や野菜のエキスたっぷりの濃厚なソースに、油で炒めたたっぷりの野菜、しかも鶏のフライと、何だかどこを食べても栄養のありそうなパスタ料理であるのだった。しかも横にあるサラダは巨大だし。

旨味と少々の甘味と、もっと少々な酸味が感じられるソースと麺は良く似合う。フライものをつけてもやっぱり似合う。本場のあんかけスパはどことなくジャンクな風味もあるものの、やっぱり美味しかった。行列できるほど愛されるのも良くわかる。

そして、デザートもまた見逃せなかった。セットについてきたデザートはヨーグルトムースのオレンジソースがけ。果実を絞って作ったようなオレンジのソースは良い香りでほんのりと甘い。
それはそれで悪くはなかったけれど、ホイップクリームとさくらんぼが飾られた「自家製プリン」には心奪われた。ふわんと柔らかく卵の味がし、きちんと蒸し焼きされて作られた本物の味がする。カラメルもほどよく苦く、滑らかな舌触りのそのプリンに、だんなは
「10点満点中8.5!」
という彼にしてみれば大層高い評価を下していた。

美味しいパスタに美味しいデザート。海老フライとコーンが乗ったパスタなんかも新発売されているようで、お店はますますお客に愛されているようだった。名古屋到着で、いきなり幸せな昼御飯。

名古屋駅前「チャオ」にて
からあげカントリー + Bセット \1,490

買い物は楽しいな〜

食事の後は、お買い物ターイム。

まずは、日本では名古屋高島屋にしかないという、ニューヨークのケーキ屋さん「グラマシー・ニューヨーク」を覗きに行く。何でも、そりゃもう美味しいマンゴープリンが売られているらしいのだ。マンゴプリン探求家としては見逃せないケーキ屋なのだった。

昨年春にできたという駅ビル、「JRセントラルタワーズ」はそりゃもうあちこち美しかった。タワー下部に入っている高島屋もそこかしこキラキラとしている。タワーの前の広場では鯉のぼりが20〜30列なしてヒラヒラと舞っていた。
さて、件のケーキ屋さんは大混雑。他にも人気ケーキ店が数多く入っているのに、「グラマシー・ニューヨーク」の人混みは一段と凄かった。人並みをかいくぐりしばらく並び、目当てのマンゴープリン\400也と、ついでに杏仁豆腐、ココナッツのムース、イチゴミルクケーキを購入。

1個500円近いケーキが多く並ぶショーケースの中はどこもかしこもキラキラとしている。暗褐色と金色がテーマカラーのブースは重厚さが漂い、ケーキにはどれも細かなチョコの細工だとかフルーツの飾り付けなどが美しく成されていた。生ケーキも焼き菓子も、どれもこれも美味しそうだ。買ったものが美味しかったら、帰宅する直前に何か買って帰るとしよう。

しばし名古屋駅近辺を歩いた後は、地下鉄で2駅の「栄」に向かう。栄は名古屋の中心部。松坂屋の本店があり、三越などの各種デパートが並んでいるエリアだ。ここにあるダイエーがとりあえずの目的地で、食料品売場を眺めて「名古屋ならでは」の食材を探してみる。レトルトパックのヨコイのあんかけソースに、味噌かつ用味噌ソース。東京では売っていない「コーミ」という会社のソースが各種売られていたので、こちらではメジャーなメーカーなのかとウスターソースも1つ所望。ついでに、荷物になるからと持ってこなかった息子用の紙オムツもここで購入し、旅行客とは思えない怪しげな大荷物を抱えてホテルに向かうことになったのだった。

イカしたホテル、「ドーミーイン」

3泊4日の名古屋滞在の拠点としたのが、「ドーミーイン」というホテルだ。
今回の宿は「寝られれば良い」くらいの安い宿ばかりをターゲットにして選んだのだが、このホテルのユニークさと、ホテル案内サイトでの誠実な対応に興味を持ってここにしてみたのだった。3人1泊で8200円。バストイレつきの部屋で、食事はなし。
なかなか安く、しかもかつてなく面白い部屋(というかホテル)だった。

ダブルベッドの部屋には、何故か畳のスペースが1畳分ほどついていて、そこに布団を敷いてもう1人が寝られるようになっている。テレビが置かれてるライティングデスク然としたコーナーも畳にぺたりと座って使うような低い高さ。狭いながらも畳のコーナーは裸足になってごろごろできるので、これがとても快適だ。

部屋は狭く、ユニットバスは一層狭い。しかし、1階にひとつだけある大浴場が夜9時半までは女湯で夜10時からは男湯で、という感じで使えるようになっている。部屋には部屋着兼寝間着の作務依があったり、荷物を入れるクローゼットは皆無だけどベッドの下が収納スペースになっていたり、ベッドのくせに掛け布団がシーツじゃなくて厚めの掛け布団だったり、部屋が自宅のように明るくていろいろ作業しやすかったり、何故かミニキッチンコーナー(ちゃんと電気調理器がついていて、ついでに鍋や皿も貸してくれる)がついていたり、と「ホテルってこんな感じ」とことごとく覆すような仕掛けばかりが揃っていた。

レストランも、ない。ただ、朝食はバイキング式の他、日によっては無料サービスのパンとコーヒーが出されたりする。フロントでは、部屋で湯を沸かして調理できるようにインスタントもののスパゲティーやカップ麺がほぼ定価で販売されていて、ついでにジュース類も定価のままだ。冷蔵庫も小さなサイズのものが空の状態で部屋についていて、ケーキを買ってきて保存しておくということが簡単なのだった。素晴らしい。私たちのように「御飯は外に食べにいくもんね」という人にはぴったりのホテルなのだった。

何しろ、畳の床と大浴場というのが何より嬉しい。スタッフの応対もなかなか親切で、全国に10カ所くらい拠点があるらしいこのホテルチェーンのファンになってしまった私たちだった。

で、午後3時、このホテルにチェックイン。
早速靴と靴下を脱いで畳コーナーでくつろぎ始める私たちだった。息子と共にだんなまで昼寝を始めたので、そこから2時間ほどのんびりと過ごす。夜は……ひつまぶし喰いに行くんだ。楽しみ〜。

ひつまぶし♪〜「あつた蓬莱軒」

「ひつまぶし」の美味しいお店は、どうやら熱田神宮そばの「あつた蓬莱軒」というところであるらしい。

「ひつまぶし」はおひつの中に御飯とざく切りにした鰻が詰まっているものだ。かき混ぜて食べるらしいのだが、それを知った頃は「要するにうな重のチープなもの?」という印象しかなかった。
しかし、その食べ方を知ってからはその未知なる「ひつまぶし」の虜になってしまった次第。すなわち、

・御飯と鰻を充分にかき混ぜ、最初の1膳は盛りつけてそのまま食べる。
・次なる1膳は、御飯の上に葱や海苔、ワサビといった薬味を盛りつけて食べる。
・最後の1膳は、薬味を乗せた御飯にダシをかけ、うな茶漬けとして食べる。
ううう、これを見て食べたくならないわけがない。特に最後の茶漬けというのがめちゃめちゃにそそられてしまう。

というわけで午後7時、電車を乗り継いで「伝馬町」に降りたち、「あつた蓬莱軒」に到着。
事前に予約できるかと電話してみたら、「到着順にご案内しております」とのこと。店頭はもう10組ほどが並んで席を待っている状態だったが、回転が良いのか席数が多いのか、次々と中に吸い込まれていく。10分ほど並んで、掘り炬燵になっている小さな座敷に通された。メインのひつまぶしの前に、ビールを1杯、その肴に「うまき」と「肝焼き」を注文。どちらも800円というなかなかの値段だ。

塗りの器に入った、鰻入りの巨大なだし巻き卵の「うまき」はほんのり薄味で柔らか。
同時に来た「肝焼き」は、1人分が小さな片口の器に10尾ほどもあろうかという肝がみっしり詰まっているというシロモノだった。こんなに豪華な個数が入った肝焼きは初めてだ。ほんのり苦みのある肝は香ばしく、でも少しも生臭くない。すっきりした甘さのタレがほどよくなじんでフクフクと焼けた肝焼きは、これまで食べてきた中でも特上級の味がした。じわんとした旨味のある肝はビールととても良く似合う。いや、日本酒の方がきっと合うのだろうけど、疲れている今飲むには日本酒は危険な飲み物なのだった。

続いて、期待の「ひつまぶし」。
使い込まれたおひつに、みっしりと鰻。そして御飯。御飯、鰻、御飯、鰻と2段構成になっている内部はタレが程良く染みて良い色になっている。ざくざくかき混ぜて小降りの茶碗によそい、一口。
香ばしく柔らかで、上品な味の鰻だ。こんがり焼かれた鰻からは何とも香ばしい香り。甘さもきちんとあるけれどくどい甘さではないすっきりとした味。細切れの鰻から染み出た脂でツヤツヤ光る御飯は、うな重とはまた違った美味しさだった。薬味をかけて食べなくても、これだけでも充分美味しい鰻御飯だ。わたくし、「ひつまぶし」を侮っておりました。

で、海苔と万能葱の刻みをぶわっとかけ、ワサビを少々なすりつけて2膳目を食べる。これまたすっきりと軽い口当たりになって「あと2膳はいける」が「あと4膳は軽いかな」くらいに食べられそうな気になってくる。大変危険だ。

そして最後、待望のお茶漬け。薬味をたっぷり乗せて(ワサビもたっぷり小指の先ほど)、上から鰹節の香りが強い熱いだしをじゃばじゃばとかける。鰻のこくがだしに染み出し、鰻はだしを吸って柔らかな味になり、見た目は宜しくないけどぐじゅぐじゅになった御飯の旨いこと旨いこと。
ああ、これまたやばい料理だ。これならもうエンドレスで喰えそうな気分になってくる。かき揚げを乗せた「天茶」もそれはそれは美味しいものだけど、「うな茶」がこんなに美味しいものだったなんて。
「家でやっちゃうもんね。鰻買ってきて、だしを取って、葱と海苔とワサビぶっかけて食べるんだもんね。」
と固い決意を密かに胸に秘め、ざくざくと食べ続ける私だった。

さて、可哀相なことに、だんなはちょっと風邪気味であったらしい。どうも口数が少ないなぁと思っていたところ、
「……全部喰えそうにない……」
と哀れにも1膳ちょっと分ほどを残して敗北宣言が出た。
当然私が残りを引き受け、息子と一緒に綺麗に全部平らげた。さすがにちょっと腹一杯。

熱田区「あつた蓬莱軒」にて
うまき
肝焼き
ひつまぶし
ビール
\800×2
\800×2
\2,300×2

おやすみなさい

ホテルに戻ると夜8時半。女湯の使用時間は9時半までということで、息子と急ぎ大浴場に向かう。
小さなサウナもついている風呂は、洗い場が4人分ほどの、それほど大きなものじゃなかったけれど、ユニットバスしか普通望めないホテルにこういうのがあると嬉しい限りだ。のびのび入れる湯船にたっぷり浸かって、部屋に戻る。

風呂上がりにアイスコーヒーを飲みつつ、今日買ってきた「グラマシーニューヨーク」のマンゴープリンや杏仁豆腐を皆でつつく。生クリームで、透明プラスチックカップの内側にまで模様がつけられているマンゴープリンは、濃厚なマンゴー風味ただよう凄くリッチな味のもの。東京でも滅多にお目にかかれないハイレベルなマンゴープリンだった。大粒タピオカとマンゴーの果肉のシンプルな飾りの、濃厚美味なプリンだ。

杏仁豆腐も、杏仁の香りただようすっきりしたシロップに浮かぶのは、もちもちとした固めの食感の四角い杏仁豆腐。こちらも風味が豊かで食感がこれまでにあまりなかったタイプの面白いものだった。キウイや杏仁の粒がたっぷりと入っている。
なんてステキなケーキ屋だ。すばらしい。

名古屋1日目、早くも色々な美味を堪能して、シアワセなまま眠りにつく。
明日はいよいよ名古屋味噌文化に触れ合う予定。