7月17日(月) "コロニアル風"に負けた夜

午前7時50分起床。今日も抜けるような良い天気。

今日は朝食後早々にメインプールで泳ごうと、水着の上にワンピースを羽織った格好で朝御飯ブッフェ。だんなは水着にTシャツを羽織っただけ、息子も同じ。同じようなことを考える人は案外多いようで、朝食ブッフェの席にはビキニ姿の女性なんかもやってきていたりする。"おおぅ、グラマ〜♪"なんて目を細めちゃう私はもしかしたらだんなよりオヤジ体質入っているかもしれない。

牛乳とグアバジュースをテーブルに置き、
「今日はサンドイッチにしよう」
とパンコーナーに行く。食パン2枚をトースターにセットし、皿に乗せた周囲にハムやチーズ、ベーコンなどを盛りつける。最後に卵コーナーに行き、
「目玉焼きくださーい、卵1個ね。」(←たどたどしい英語で)
と伝え、焼きあがったそれをパンの上に乗せてもらう。自分の席でトーストにバターを塗り、目玉焼きと一緒にハムやチーズ、ベーコンなども挟み込んで豪華トーストサンド。こういうことが自分の好みで色々とできるのでバイキングは楽しい。

だんなはというと、たっぷりの"NASI GORENG"(ナシ・ゴレン=炒め御飯)に卵2個の目玉焼きを乗せ、黄身を崩しながら食べているのであった。それもそれでとても美味しそうだ。

で、トーストサンドを片付けた後は第2ラウンド。すっかりお気に入りの"BUBUR AYAM"(ブブル・アヤム=鶏のお粥)に今日もたっぷりの揚げ玉ねぎや卵、葱を散らして持ってくる。そして昨日はなかった"SATE SAPI"(サテ・サピ=牛肉のサテ)も2本、サンバルソースをたっぷりかけて横に置く。ついでに少々のナシ・ゴレンも。何だか皿は一面バリ色になっているのであった。バリ飯の大好きなわたくし。

食後はそのまま海岸の方向へ向かってほてほてと向かい、途中のガボゼに席を取る。3畳くらいはある広々足を伸ばせるガボゼはやはり競争率が高いらしく、周囲のものもどんどんと埋まっていく。
ハネムーンで行ってしまったような"超"がつくような高級ホテルならば、こういうところに座ったりするだけでスタッフがタオル持ってすっ飛んできてくれるのだけれども、ここはそうもいかないらしい。自力でタオル貸し出しコーナーまで歩いていって、ルームナンバーとサインを記してタオルの必要枚数を書いてから貸し出してもらう仕組みになっている。「ちゃんと返してね。返さないと1枚あたり$30の罰金よ。」と英語で注意書きまでされている。

3枚のタオルを借りて、ガゼボに敷く。タオルを置くことで「キープしてるのよ」という意思表示になる。
とりあえずごろごろしてみると、横で「ケッケッケ」という鳥の声。……七面鳥だ。しかも7羽。一群になった七面鳥は「ケッケッケ」と言いながら草をついばんだりしている。……何故ホテルの敷地内に七面鳥が。
「あれさぁ……1日1羽ずつ減っていったりしたらヤだよねぇ……」
とだんなが横で言っていた。夕食のメニューに「七面鳥の丸焼き」とかあって、目の前のこれが焼かれてでてきたりして?


花だらけのプールサイド

ごろごろしていてもつまらんので(大体息子が"遊ぼうよ"体制にフルモード突入しているのだ)、迷路のようなラグーンを息子と一緒に探検に出てみたり、ラグーンの果ての滝まで行ってみたり、プールに浮いているバスケットボールで遊んだり、ハンモックに横になってみたり。SPF30の日焼け止めをたっぷりと塗ってはいるけれど肩がチリチリと焦げていく感じがする。プールの上には周囲の花木からピンクの花がヒラヒラと落ちてきて……今日も暑くなりそうだ。

昼御飯。
隣接するシェラトン・ヌサ・インダ・ホテルにイタリア料理店があるらしい、昼でも食えるらしい、とホテル案内で読み行ってみることに。こちらのホテル側のロビー横の通路をてくてくと進み、屋外の小道を抜け、同じシェラトンながら雰囲気がやや大人っぽく感じられるヌサ・インダホテルに到着。
ロビーは冷房が効いていていきなり4階くらいの吹き抜けになっており、渡り廊下が縦横に走っている。重厚そうな黒褐色の柱の下、ロビーで談笑する欧米人の姿が目立つ。
スタッフに聞きつつプール横を目指し、プールサイドにある吹き抜けのレストラン、"IKAN"でランチターイム。

バリ・ハイビールをもらい、今回バリに来て初めて食す"SOTO AYAM"(ソト・アヤム)。好物なのに今日までお目にかかれなかったのだ。それにピザとパスタを1品ずつ。

緑色の陶器のボールがやってきた。中身は空だ。ほどなく土鍋状の陶器の器に台が添えられ、ロウソクで温められたものが供された。中にはたっぷりのソト・アヤム〜♪スプーンで土鍋からボールに中身を移しつついただく。
ターメリックとサフランがたっぷり入ったようなちょっとスパイシーなチキンスープ、ソト・アヤム。中にはモヤシや春雨、ゆで卵などがどちゃどちゃと入っている。怪しい蛍光イエローのスープ。これだこれだ。やっぱりバリに来たからにはソト・アヤムを食べなければならない。
ホテルらしい、上品な味のソト・アヤムは旨みも充分、卵もうずらの卵であったりと凝っている。65,000Rp(=約700円)もするだけあってさすがに美味しい。街中では40円くらいで食べられるらしいけど。これはこれでとっても美味だ。

石釜で焼くらしいピザは、4種類の具がそれぞれ区分けされて4通りの味で楽しめるようになっているものだった。パリパリの薄い生地に、生地より厚いモッツァレラチーズが溶けていてそれが嬉しい。ハムにサラミにマッシュルームにアーティチョーク、それぞれ90度ずつになんとなく分かれているものの、ピザの切れ目はそれと全く関係ないようにざくざくと適当に筋が入っている。いいかげんだなぁ、と笑いながらマッシュルームとアーティチョークの両方が乗った部位やらアーティチョークをサラミの乗った部位やらをばくばくと食べる。
ぐずぐず食べてると、せっかく溶けたモッツァレラチーズがまた固まっていってしまう。急げ急げ。

もう1品は自家製フェットチーネ。ごろごろとでっかいマッシュルームと、マッシュルームよりでかいレバーと、レバーよりもでかいドライトマトの丸々としたやつが絡んだパスタだ。こってりしていてなかなか美味♪
どちらもイタリア料理であることはあるんだけど、どことなーくアジアンチックな匂いが漂っている。そこがまた笑っちゃうような楽しさがある。

数々食べて、すっかり満腹。すばらしいタイミングで、スタッフが、
「Dessert?」
とメニューを差し出した。「homemade icecreme」なんて文字が目に入って、思わず注文。だんなはバニラアイス、私はココナッツアイス。

背の高いグラスにころりとアイスクリーム、苺が飾られ、お店のキャラクターとなっている魚の尻尾を模したクッキーが飾られている。RP15,000なり。まったりとミルク分も濃厚なココナッツアイスは半屋外で汗をかきつつピザやパスタを平らげた胃袋にはありがたかった。汗がすーっと引いていく。
お店の周囲は花だらけ。草も木も、わしわしと育っていて表現は悪いけど「熱帯の植物は無駄に大きく育つよなぁ」と見ていて思う。だんなに言ったら笑っていた。

部屋のベランダにもピンクや黄色の花が下に垂れ下がるようにして数個の鉢が並んでいる。自分のベランダも綺麗だが、上の部屋から垂れ下がってくる花もまた綺麗だ。泳いでいると次々花びらが散ってちてプールは花びらだらけになってしまう。それでもわしわしと続々花は咲き乱れているようで、何だかすごい。

SHERATON NUSA INDAH内 "IKAN"にて
ソト・アヤム
サラミとマッシュルーム、ハムとアーティチョークのピザ
自家製フェットチーネ きのことレバーとドライトマト
ココナッツアイス
バリ・ハイ

食後は部屋の前のプールでまたひと泳ぎする。南西を向いている私たちの部屋の前のプールには、午後になってからさんさんと陽が差してくるのだ。プールの水もだんだん温かくなってくる。
今度は部屋の真正面の位置にあたるデッキチェアに席を取る。

再びタオルを借りてきて、大判の青と白のストライプのタオルをデッキチェアに敷き、休みつつ遊ぶ。息子は彼専用浮き輪をいたく気に入ったらしい。プールから上がろうともせずにばしゃばしゃとそれで遊べと要求してくる。
砂浜コーナーで砂を掴んで投げてみたり、デッキチェアの横の乾いた砂で砂遊びを始めたり、彼は彼なりにリゾートを満喫中だ。
風がふくとプールには大量の花びらが上からふってくる。午前と午後、スタッフが網持ってやってきてプールの上の花びらや葉っぱを回収してくれている。回収しなければ1日くらいでプールの表面はきっと花びらだらけになってしまうのだ。

さて、時刻も3時。
ホテルのロビーでは午後3時から4時の間にアフタヌーンティーサービスが催されているらしい。紅茶やコーヒー、そしてパティスリーシェフによる日替わりのお菓子が供されているとか。

毎晩、ナイトベッドメイキングの際に1輪の蘭の花と共に部屋にやってくるホテルインフォメーションペーパーには、"明日のアフタヌーンティーのデザートは○○です"と記されている。今日のデザートは"Lemon Meringue Tartlet"、レモンメレンゲタルト、ときた。お、美味しそう。
部屋の前での水泳を早めに切り上げ、着替えて一家でロビーへ向かってみる。

かなり広いロビーには、既に10組以上の滞在客がそこここでお茶を楽しんでいる。紅茶を3ついただき、まもなく小さな丸いタルトがやってきた。タルト生地にチョコレートコーティングがされ、酸味と甘味の両方が強いレモンクリームがたっぷりと乗っている。上にはふわふわのほの甘いメレンゲ。甘いけれどもさっぱりとした菓子で、クリームは冷たくツルンとしていてすこぶる旨い。

私たちの座ったソファの横では揚げ鍋が置かれていて"PISANG GORENG"(ピサン・ゴレン=揚げバナナ)が次々と用意されている。こちらもいただく。
親指サイズの小さめのフライの中には酸味のあるバナナ。甘くないサラリとした甘味のないカスタードクリームに苺のソースもかかっている。ふわっとした柔らかい衣とバナナはいかにも南の国のデザートだ。
そうそう、ハネムーンでのバリ島、こいつを朝御飯に頼んだらこれでもかという大量のフライが盛られていてとても焦ったんだった。

さて、午後5時。
息子は遅まきながら午睡に突入してしまった。その間私は日記の作成、だんなはつらつらガイドブックを眺めていたりなどした。
そしてこの記録を記しているのは現在午後9時半。私は食欲魔人日記始まって以来の大ピンチを迎えているのであった。

日記が、旅行記が、書けない。
書きたくない。
書いたら吐く。あの皿はもう、思い出したくない。いや……美味しくはあったんだけど。

事の始まりはホテルからのインフォメーションペーパー、日付は今日のもの。
「Mayang Sari Restaurant Monday Nights Featuring US Prime Rib of Beef − Succulent US Prime rib of Beef oven roasted to perfection carved tablesede accompanied by baked poteto, market fresh Fegetables, Yorkshire Pudding, Beef jus and a selection of Mustards and Horseradish, onry Rp 160,000,-.」
というそれに惹かれて今日の夕飯はこれ!となっていたのだった。

夕方に寝こけた息子が目を覚ましたのは午後7時40分、それから一家でそのレストランへ向かってみることにしたのであった。私はテレテレワンピース姿、だんなに至ってはTシャツに短パンスタイルだ。シェラスコみたいな、気軽な雰囲気で食べられるものだろうと踏んでいたのであった。
ところがところが。

入り口は重厚そうな木製扉、すぐ脇のガラス窓から覗ける店内は豪奢なシャンデリアがかかり、赤みがかったライトに照らされた店内はワイングラスもキラキラ光る瀟洒な雰囲気だ。げ。なんだかメインダイニングのような重厚さ。

そ、そういえば最初に見たホテルの案内で「コロニアル風」とかあったようななかったような。"コロニアル風"ってぇとシンガポールはラッフルズホテル、香港はペニンシュラホテルに代表されるような格調高い系のスタイルだ。"植民地風"というやつで。
こりゃいかん、出直しましょう、ととりあえず一旦部屋で着替えなおしてお店に向かう。そもそも2歳児が同席するのもまずいかも、と思いながらダメならお店で断られればそれで良いし、と思いながら。

お店の雰囲気はやはり2歳児を拒んでいる。
チャイルドメニューは一切なく、それでもお店のスタッフは子供大歓迎だ。
「ヨクキタネー」
と握手をしてくるし、
「チャイルドメニューは無いけれど横のカフェから色々お持ちできますよ。」
とか言ってくれる。
子供椅子が無い代わりに、大人用の椅子にふかふかのクッションを敷いて高さを調節してくれようとしたり。そう、どうやらバリの人々は仕事抜きで本気で子供が好きみたいだ。どこを歩いていても、「Oh! Baby〜♪」とか言いながら寄ってくる。 他の客席もかなりガラガラだったのを良いことに子供同伴でコロニアルスタイルのダイニングで豪華夕食。

見れば見るほどすごい部屋なのである。薄い薄い砕けそうなワイングラスが並び、高い天井からは輝くシャンデリア、レースの天蓋状のものがついたソファの席に椅子やテーブルの調度品も洒落ている。

で、メインはその"US Prime Rib of Beef"に決定し、あとは前菜代わりにスープを飲もうということに。
だんなは椎茸と海老のクリームスープ、私は海老のスープ。それにシャンパンをグラスでつけてもらう。

白いスープ皿に、具が乗っただけのものが出てきた。私の皿には海老や野菜の一口大のものが盛られてフランスパンが2枚、だんなには薄切りの椎茸たっぷりの中に大きな海老の塊が2つ。
「??」
と思っていると、その後から恭しく銀のスープボールに入ったスープを給仕が目の前の皿によそってくれる。私は茶褐色のクリームスープ、だんなには乳白色のクリームスープ。
そのフレンチ然としたスープを、
「まぁフレンチは専門外のバリ島だし……」
とほとんど期待しないで口に入れてみると、これが旨い旨い旨い。手間をかけてスープを取り、裏ごししたようなスープは濃厚でクリーミー。素材の味もしっかりとしている。海老のワタの旨みが凝縮されたような私のスープ。フランスパンを浸しながら美味しくいただく。だんなの真っ白なスープもこれまた丁寧に取られた海老のスープがこってり濃厚だ。

次にはグラニテとしてレモンシャーベットが。
甘さは強いけれどもさっぱりとしたソルベに苺が飾られている。その凝りようにメイン料理が待ち遠しくなっちゃう。息子はパンをつまみつつ、彼用のスパゲッティボロネーゼをチュルチュルと一口二口、食べている。一応彼なりに「騒いじゃマズイみたいだ」と思っているらしく神妙な顔で椅子に腰掛けている。
通りがかりのスタッフが息子にヒラヒラと手を振ると、笑いながら大声で
「ばいば〜い」
とか言っちゃうのは……まぁしょうがないだろう。お店の人も笑いながら構ってくるし。

……さて。メイン料理だ。
これが……つらかった。人生最大のピンチ料理だった。
大きな大きな白皿に、2枚のボリュームある分厚いローストビーフのようなもの。上にはグレービーソースもたっぷりだ。左前方にはたっっっっっっっぷりのマッシュポテト、ニンジンやブロッコリーも添えられている。前方中央に見えるのは赤ん坊の拳大のヨークシャープディング。そして右前方には大きなじゃがいもが丸々1個。クリームソースとベーコンビッツと刻み葱を上からこれまた恭しくかけて下さるのだ。

見事な一皿だ。すばらしい。大きさが1/2程度であったらもっと言うことないのだが。
そして皿に取りかかる私たち。肉は推定220gはあったであろうか。元は大きな大きな塊肉をオーブン焼きにしたらしいそれは、中央から周囲に渡ってジューシーで味のある美味しいものだった。そう、せめて150gくらいであったならばもっと美味しいものだったに違いない。

マッシュポテトもこれまたこってりクリーミーで美味しいものだった。ふわふわで口の中でとろけんばかりだ。そう、せめて1/3量くらいであったならばもっと美味しくいただけたに違いない。

ヨークシャープディングはモチモチネチネチした歯ごたえのマフィン、のようなもの。これはまぁ、なんとか余裕で食べられる大きさだ。フカフカで味らしい味というものはなくグレービーソースを吸い込ませつつ食べるようなものだ。

そして最終兵器は右側に鎮座まします巨大じゃがいもだ。濃厚なクリームソースもたっぷりかかったそれは、無い方が全体のバランスとしては良かったに違いない。

巨大な巨大な皿である。ベイクドポテトがやや苦手なだんなに対し、私はじゃがいもが大好きなのだ。負けてはならない。負けてなるものか。1つ1つは本当に美味しい。だけれども機嫌良く食べられたのは皿に取りかかってから10分くらいまでのことだった。
皿の上の料理、全然減らないのである。
肉を噛みしめても噛みしめても、じゃがいもを切り崩しても切り崩してもその量はほとんど減ってくれないのだ。美味しいけどつらい。つらすぎる。修行僧のような気分になってくる。堪えることこそ人生だ。

気の遠くなるような十数分の格闘の後、だんなが敗北宣言をした。
「ごめん。じゃがいも……食えそうにない。」
彼の皿には1/4ほどのベイクドポテトと2口分ほどのマッシュポテトが残っていた。
そしてまもなく私も敗北宣言。
「私も……食えないわ……。」
私の皿にも1/4ほどのベイクドポテト。マッシュポテトは何とか食べきることができた。

両者共、肉だけはきっちり全部食べたというのがらしいといえばらしいけど、悔しいことこの上ない。
「あうあう、息子の分を食べるとかいうのは別にして、自分の皿を食べきれないことがあるなんて……」
「俺もだ……」
「ましてや、ポテトは私の大好物なのに……」
「ああ、痛恨だ……」
「ああ、悔しい……」
涙をぐっと堪えつつ、お皿を下げてもらう。ああ、私達の胃袋を持ってしてもクリアできないお皿があるとは……。

そしてデザート。
とてもじゃないけどケーキやらトライフルやらの粉もの系は食べられるはずもなく、
「あ、アイスクリームは食べたい……」
「俺もだ……」
とバニラアイスクリームを2ついただくことにする。
1スクープくらいのアイスクリームはとても食べたい気分だった。

……しかしやってきたのは。

私たちの背後から、ドラえもんはジャイアンの登場シーンで流れるような
「デンデンデンデンデンデン♪」
という音が確かに聞こえた……ような気がした。
大きなデザートグラスには、たっぷり3スクープもあるバニラアイスクリームが、そして巨大な薄いクッキーが添えられていた。想像の3倍量のアイスクリームだ。
私たち、絶句。これをあのメインの次に食べろというの!?

バニラビーンズのたっぷり入った香り豊かなアイスクリームだ。ミルク分もたっぷり、でも不思議と軽いものではある。アイスクリームというよりジェラートのような、そのさらっとした印象のバニラアイスをおそるおそるすくって食べる。
私は「甘いものは別腹」の人種だ。満腹も極まっていたけれど比較的サクサク食べることができた。

だんなは半分ほどを食べてからは泣きそうな顔になっている。
「アイスクリームにまで敗北するわけにはいかん!」
と悲壮な形相でアイスクリームと対峙している。このときの彼ほど真剣な面持ちでアイスクリームを食べる人を私は知らない。あ、彼の顔には暑さとは無縁のものと思われる汗が浮かび上がってきている。

私もだんなも泣きそうになりながら夕食を終えた。グリッシーニを齧り、アップルジュースを飲み、少しばかりのスパゲッティボロネーゼを食べただけの息子はとても元気だ。
よろよろの夫婦と一人元気な息子はそのまま部屋へ。半分以上も残ってしまった息子用のスパゲッティは、
「部屋で続きを食べてもよい?」
と聞いてみたら、
「もちろんOK!」
という返事をいただき、私たちの背後からウェイター氏が肩に皿の乗ったトレイを乗せて部屋までついてきてくれた。
ははは、持ってきてもらったは良いけど、いつになったら食べられることやら……。

……そして今、だんなはベッドに倒れ付したまま動かなくなってしまった。
「仰向けにもなれない……」
とか言いながら。
私も口元押さえながら打っているこの記録が終わったら速攻寝るつもりだ。
コロニアルスタイル料理に負けた、本日の夕食。

ホテル内 "Mayang Sari Restaurant"にて
フランスパン入り海老のクリームスープ
"US Prime Rib of Beef"
バニラアイスクリーム
グラスシャンパン、エスプレッソ