食欲大魔人特別寄稿 : 九州ラーメン(+α)行脚

by せりあだんな
福岡に3泊4日の出張が入った。これは九州ラーメン行脚のチャンスだ!

 思えば高校生の頃、九州のラーメンはとんこつスープという白濁したスープで食べるものだと物の本で知り、東京にできた九州ラーメン屋で食べたその味にいっぺんにとんこつスープのファンになり、さらに替え玉という文化の存在を知ったときには、俺は感動のあまり涙したものだった(←オーバーだっつーの)。
 その福岡ラーメンを食べ歩くチャンスが巡ってきたのであるから、これはもう怠りなくチェックをしなければならない。仕事の準備もそこそこに、うまいと言われるラーメン屋の調査に入った。以下、4日間で食べ歩いた7軒(うちラーメン屋6軒)の記録である。
 うーむ、仕事がなければこの倍はいけたのだが……(←食い過ぎです)

11月6日 : 初日

◎秀ちゃんラーメン(警固):ラーメン600円、替え玉150円

 初日は立食パーティーがあった。これで夕飯一食助かるな、と思っていたら、オードブルのようなものしか出ず、腹を空かせて飲んでいた俺は完全に「この後ラーメンしっかり食っちゃるけんね」モードに入っていた。
 仕事終了後、速攻でバスに乗り込み、警固町バス停から徒歩2分ほどのこの店へ。情報によると「こってり派のあなたなら大満足!」ということであったので、腹を空かせたこってり派の俺にはちょうどよかろう。
 店内は、いかにもとんこつラーメン屋といった風情で、有名人のサインがぺたぺた貼ってある壁には、メニューの書かれた小汚い木札が数枚貼られている。餃子も名物らしく、店員のおねーちゃんが一所懸命包んでいる。が、この後はしごする事を勘案して、ラーメンのみ注文。

 ほどなくして出てきたラーメンは、どんぶりに口切りいっぱいのスープで満たされており、そうめんの様に細い麺に超こってりのスープ、チャーシューが2枚に青ネギいりという様相であった。一口食ってみると、確かに非常に濃厚である。以前家で食べた水炊きのトリガラスープをとんこつにした感じ、とでも表現すればよいのだろうか、よい意味でケモノ臭い、濃厚でありながら脂っこくない、非常にコクのあるスープである。確かにこれはうまい。いままで福岡で食った中で一番うまい(←1軒目だろっ!)。
 細い細い麺は食べ応えがないように感じ、あっという間に1玉目がなくなろうとしていた。ここで思わず替え玉を注文。150円と福岡ラーメンとしては高価ながら、替え玉特有の、1杯目とはやや違った、言うなれば麺の味を楽しむことができるうまさであった。
 ごっそさん、うまかったです。あーおなかいっぱい……って、はしごするんだったよ、おい! こんなことなら最初から餃子頼んでおけばよかった……(きっとそしたらもっと被害甚大でした)。

◎元祖長浜屋支店(長浜):ラーメン400円

 警固から長浜屋まで約1km、まあ腹ごなしに歩くか、と、誰もが勧めるこの店へ足を延ばす。最寄りは「港1丁目」バス停であるが、警固から長浜方面へのバスはない。ぜひもなし。てくてくてく。
 実はこの店、以前北九州出張の際に寄っており、その安さとチープな味が相当気に入っていたため、再訪することにしたものである。
 店はうらぶれた感じで、店の中にはいるとぷんと香ってくる、すえたような臭いがたまらない。ああそうそう、この臭い、なんか知ってると思ったら、新宿・思い出横町の臭いだ……良いわ……。

 店内には、大テーブルが4〜5台と、その周りに各々10個前後の丸いすが設置されている。テーブルの上にはお茶入りのでっかいやかんと、たれ入りの小やかん、さらに湯飲みが大量に入ったかごがおかれている。何しろメニューがラーメンとビールしかないため、店内に入ると自動的におばちゃんが「1杯ね〜」と厨房に声をかけるシステムだ。こんな店でも若いおねーちゃん2〜3人組が何組か入っているのが不思議だ。
 すでに2玉が腹の中に入っているため、慎重にラーメンのみを待つ。「堅めでね」とコメントすることも忘れてはいなかった。

 程なく出てきたラーメンは、見事に堅めであった。ていうか半分生じゃん、これ。さらに青ネギが散らしてあり、「実はスープをとったガラなんです僕」といた風情のチャーシューの細切れが入っている。そうそう、これこれ。これだよー、とこのチャーシューにうれしくなる俺。……バカ?
 さっき秀ちゃんのこってりしたラーメンを食べたせいか、わりとあっさりに感じる。先日本店(100mほど離れたすぐそばにある)で食べた時にはこんなにあっさりじゃなかったような気もするのだけど……と思いつつ、ゴマをふり、たれを注いで食う。「長浜ラーメン」と称するものは、全体としてあっさり味の傾向があるような気がする。
 さらにこの店のうれしいところはお代わり系の安いところである。替え玉も、さらに変え肉(チャーシューお代わり)までもが50円で注文できる。

 ともあれ、腹一杯で食った割にはうまかった。今度は2玉も腹に入れずに再訪することとしよう。
 しかし、長浜屋に関してのみ言えば、ラーメンを食いいに行くと言うよりは、雰囲気を食いにいくようなところがあるかもしれない。や、確かにおいしいんだけど。

11月7日 : 2日目 

◎鉄なべ(祇園):餃子2人前、ビール、おでん5個で税込み2,100円なり

 2日目は夕食が出ない。自力での確保が必要とされる。そこで、これまたぬかりなくチェックを入れていた「鉄なべ」に、鉄鍋餃子を食いにいくこととする。おお、ホームページまであるじゃないか。チェックチェック。(http://www.tetsunabe.co.jp/)

 地下鉄祇園駅から徒歩3分くらいのところにあるこの店は、結構奥行きがあって広かった。入り口脇のカウンターに「一人ね〜」と指をひらひらさせて腰掛けると、早速若いにーちゃんがやってきて、まだなにも言わないうちから「餃子、2人前くらい行きますか?」と聞いてくる。1人前の目安もわかんないし、んじゃおっしゃるとおり2人前ね、あとおでんもね、とおでん鍋の中をのぞき込んで、すじ串(2本)、大根、たまご、がんもを注文。そうそう、ビールも忘れちゃいけない。お、うれしいな、モルツだ♪>冷蔵庫の中

 ……あれ、おでんが来たのにビールがこない。おかしいぞ。というわけでカウンターの中のおっちゃんに「すんません、まだビールがこないんですが……」と声をかけると、持ってきてくれて注いでくれた。おお、いいねえ。人情を感じるねえ。
 で、そのおっちゃんと、カウンターの中にいたおかみさん(らしき人物)に「ホームページ見て来たんスよー」「東京から来たんスよー」と話をしていたら、おっちゃん、感激してアラ大根ともやしのナムルをサービスしてくれた♪ これがまたすこぶるうまい。おおお、ありがと、おっちゃん、などと言っていたら、おかみさん「こん人がモンペのおっちゃんやで〜」と。おお、確かにモンペはいちょる。モンペのおっちゃん、改めてありがと〜!
 ※モンペのおっちゃんについては鉄なべHP参照のこと。

 餃子は一口サイズよりやや大きいものが8個くらいで1人前。すんません、おかみさんとの話に夢中で数えてませんでした。これに、カウンターにおいてある餃子のたれ&ご主人特製の自家製柚子胡椒をつけて食べる。この柚子胡椒が、適度に辛くて、柚子の香りが鮮烈で、すこぶるうまい。Kさんから頂いた湯布院の柚子胡椒よりうまいかもしれー。2人前くらいなら、これでばくばく食える。きっと俺でなくとも食えるぞ、こりゃ。
 最後に「あさって帰るんだけど、また来るからおみやげ作ってくれますか〜?」とおかみさんに聞いたところ、「一番弟子が東京で店出しちょるけん。弟なんやけどね」と、東京の鉄なべ餃子やさんを紹介してくれた。阿佐ヶ谷の「なかよし」という店だそうだ。帰ったら早速チェックチェック。

◎一蘭(天神):ラーメン650円

 飲んだ後はやっぱりラーメンだろ、というわけで「元会員制」というふれこみのチェーン店、一蘭へ。ところがこれが、福岡最大の失敗店だった。
 なにしろいちいちむかつく店なのである。

  • 有名人のサインは全店で見られます、とか言って縮小コピーしたサインを並べて飾ってあるのがむかつく。
  • 味に集中できるようにとやらでカウンターに仕切りがあるのがむかつく。
  • ラーメン1杯に650円もとるのがむかつく。
  • 食券制なのもむかつく。
  • 元会員制というところがむかつく。ラーメン屋風情が何様のつもりだ。
  • 店に入るなり注文用紙とやらを渡されて、好みを書いて店員に渡せというシステムもむかつく。なに、味の濃い薄い?こってりあっさり?麺の堅さ?ニンニクの量?チャーシューの有無?秘伝のたれの量?ネギは青ネギか白ネギか?なんじゃそりゃ、そんなもんどうでもいいわい、まず基本の味付けで持ってこんかい。こちとら初めてなんでい。
  • なに?それはお客様のお好みの味で食べられるように、だあ? じゃあ通って好みの味を見つけろってことかい。その、客に媚びているようで実は不遜な態度がむかつく。
  • しかも秘伝のたれを1/4にしてくれという注文に「できません」と軽く言ってくれるところもむかつく。
  • 注文用紙を渡すと、頼んでもいないゆで卵が出てきて、しっかり「100円」とか書いた紙が添えてあるのがむかつく。
  • そんなことしておきながら、ラーメンが来て食べ始めると手をつけていないゆで卵を「お下げします」と言って下げるところもむかつく。
  • 箸袋が追加注文用紙になっているところもむかつく。
  • 替え玉が150円もするのがまたむかつく。
  • なんといっても、ちっとも旨くないところが超〜〜〜むかつく!
 というわけで、「二度と行かねぇ!こんな店」だんな版に見事ランクインと相成りました。ふざけんな一蘭。ぷんぷん。

11月8日 : 3日目 

◎一風堂(天神):白丸元味550円+税

 3日目、またも立食パーティー。今度はしっかりごはんものがあり、飲んで食って夕飯一食助かってしまった。でも……やっぱ飲んだ後はラーメンだよね〜。
 というわけで、お仕事終了後、速攻でバスにて天神警固神社前へ。本当はもう一つ先が最寄りなんだけど、博多駅から100円で行ける範囲が警固神社前までだったので、ここで降りて歩くことにしたのだった(←セコイぞ)。
 お目当ては一風堂、ラーメン博物館にも出店していたことがあり、同店の名前のついたカップラーメンも発売されている、福岡では有名な店、らしい。

 店内はこぎれいで清潔感のある、有名店にしては好感の持てる店である。メニューは主にコクと辛みの「赤丸新味」\650と、あっさり味の「白丸元味」\550の2種(それぞれチャーシュー麺+\150もあり)。この他、一口餃子なども名物らしいのだけれども、今日はわりとしっかり食ってきたので「白丸」のみを注文。俺、辛いの苦手なんだよね。
 テーブルの上には、水のようなものに浸されたニンニク片と、ニンニク絞り器があり、絞り立ての生ニンニクをお好みで入れてください、というシステムらしい。ニンニク好きな俺にはかなりうれしい気配りだ。程なくやってきた白丸におろしたニンニク1片分を絞り込み、早速いただきます。

 あっさり目のスープに、細めながら九州ラーメンとしては標準的な程度の太さ、と言った風情の麺のラーメンは、たしかにそれなりにうまい。しかし妙に印象に残らない味である。なにが旨かったのか、と問われると、「全体のバランス、かなあ……」としか言いようのない、これといって秀でたところのない、でも全体として完成度は高いラーメンである。こういうラーメンは批評に困る。困る上に「もう一度行きたい」という強烈なインパクトが残らないので、たぶんまた行くことはないのだろう。味としては良いのに、非常に残念である。ただ、飲んだ後のラーメンとしては最高である、と評しておく。
 なお、ニンニクを入れすぎたのか、この後ホテルに帰ってからも口の中が自分でニンニク臭くて仕方なかった。一風堂においでの方は、くれぐれもニンニクの入れすぎに注意してほしい。(入れなくても十分おいしいですよって)

◎博多ラーメン(中州):ラーメン280円

 ついでに中州に寄り、「安くて旨い」との情報を得た「博多ラーメン」へ。これがまた、一風堂に輪をかけて印象に残らない味であった。一風堂はうまいかまずいかで言えば「うまい」といえるのでまだ良い。この店に至っては、まずいわけではないのだが、決して積極的に「うまい」と評する訳にもいかず、正直言って評価に困る。ただただ「ごくふつうの、とにかく安い博多ラーメンを食べた」、という印象であった。
 ……とほほ、こんな来訪記にしかならないよ、この店は(泣)
 ※ごめんなさい、実は最終バスの時間が迫ってて、あわててたんです。もいっぺん行ってみることにします……。

11月9日 : 最終日 

◎名代ラーメン亭(博多駅地下):チャーシューメン500円

 あと2時間で帰りの飛行機が出ようという最終日の仕事終了後、そういえば夕飯を食わなければ夜10時頃までなにも食えないかもかもしれない、ということに気づき、急遽博多駅地下の「名代ラーメン亭」に飛び込む。
 この店は、店頭に「クッキングパパ」と「風の大地」という漫画で、登場人物が「この店が旨い」と言っているシーンの拡大コピーが貼ってあり、怪しさ大爆発である。

 店に入ってみると、やはり長浜屋と同じようにすえた臭いがしてくる。値段もとにかく安い。ラーメン350円、チャーシューメン500円、チャンポンまであって、これがまた500円である。そこでチャーシューメンを注文。
 ところが、このラーメンもまた印象に残らないのである。カウンターにおいてある半分ひからびたような紅生姜を入れても、あまり味の印象が変わらない。どちらかといえばまずい、具体的に言うと、あっさりしすぎていてスープのコクが足りないといった風情である。チャーシューも、煮過ぎなのかスープのガラなのか(おいおい)、完全に固くなっていて、歯の間に詰まるほどである。これはいかん。
 ま、駅地下のラーメン屋に期待した俺がバカだったね、ということで、ひとつ(どこぞに本店もあるらしいんですけどね)。

総括&次回への抱負 

 「縮れのないストレート細麺+とんこつスープ」という王道継承九州ラーメンばかりを食べ歩いてみたが、麺の太さやスープの味にしても、とても一言では言い表せない種類があることがよく分かった。今回の一押しはやはり「秀ちゃんラーメン」である。だから福岡で食った中で一番だって言ったやん(←最初に食うとるやんけ)。

 全体的に、博多のラーメンはチャーシューに対してあまり力が入っていない様に感じる。ただ、それが悪いと言うことではない。醤油ラーメンの場合は、いかに旨いチャーシューを入れるかがラーメンの大きな評価ポイントの一つになるかと思うが、九州ラーメンのポイントはなんと言ってもスープのうまさであり、チャーシューはあくまで添え物である。ここは今回初めて気づいたポイントであった。薄々感づいてはいたが、今回確信に変わった。

 なお、来月にもやはり3泊4日の福岡出張を予定している。次回は、中州の屋台で「替え玉が空を飛んでくるラーメン屋」を是非訪問してみたい(が、場所を知らない)。また、キャナルシティバス停から天神に抜けるバス通りの途中にある「大砲ラーメン」も、そのすえた臭いが非常に気になる。以上2軒につき、情報をお待ちしています。

謝辞 

 最後になりましたが、博多のラーメン店食べ歩きにあたり、非常に有意義な情報を頂きましたKさん、どうもありがとうございました。とても参考になりました。末筆ながら御礼申し上げます。