4月23日(月) イタスパだなも。

小倉トーストの朝食を〜「ロンシャン」

名古屋来訪、2回目の朝。
「今日は、小倉トーストを食べに行こう」
と午前8時過ぎのホテルを抜け出した。

小倉トースト1つに電車に乗るのも少々手間だということで、徒歩で行ける名古屋駅周辺の喫茶店を順々に覗いていく。ビルの地下1階、地下2階などに並ぶ飲食店街に点在する喫茶店はおおむねオープンしており、「モーニングセット」「モーニングサービス」の文字も見てとれる。

店頭の「小倉トースト」の文字を確認して入った最初の店は、注文すると「あいにく切らしておりまして……」とのこと。小倉トーストが食べたいんですごめんなさいごめんなさいと、水とおしぼりを出してくれた1軒目の店からぺこぺこしながら出て行き、2軒目へ。「ロンシャン」という名の、8卓ほどしかない小さな喫茶店は、客が5〜6人入っていた。小倉トーストセットは500円。ドリンクと小倉トーストのセットだ。だんなの頼んだモーニングホットドッグセットは450円でドリンクとホットドッグとゆで卵のセット、息子用のモーニング卵サンドセットは500円でドリンクと卵サンドとゆで卵のセットとなっている。

小倉トーストは、サンドイッチ用の薄切り食パンがバタートーストにされており、その2枚の間に粒あんがたっぷりと挟まれているものだった。厚切りトーストにあんこが添えられる姿をイメージしていたので、この「シベリアパン」じみた光景に一瞬たじろぐ。あんこたっぷりだ。ひょー。

薄いパンはサクサクで、バターの香りも濃厚だ。間には甘い甘い粒あんがどっしりと詰まっている。和菓子のようなパンは、だけどバター臭くもあってちょっと奇妙な感じではる。いや、美味しいんだけど。

アイスレモンティーをずるずると啜りながら甘い甘いパンの朝食。

名古屋駅近くのビル内「喫茶 ロンシャン」にて
小倉トーストセット
(アイスティー・小倉トースト)
\500

「イタスパ」を知ってるかい?〜「喫茶ユキ」

本日、だんなはお仕事である。お昼に某所に行かねばならないらしい。
小倉トーストの朝食の後、私たちは一度ホテルへと戻り、少々だらだらとしてからスーツ姿に着替えただんなと共に町へ再び繰り出した。目当ては「イタスパ」だ。

名古屋名物としてメジャーなものでないけれど、「名古屋に来たら一度は喰わねば」と切望されていた品が「イタスパ」である。イタリアンスパゲッティーである。スパゲッティーというものがそもそもがイタリアンであるのにイタリアンスパゲッティーとは何事か。ステーキ用の鉄板の上に乗る卵焼きとナポリタンスパゲッティーという風貌であるというその「イタスパ」は、しかし絶対イタリアには無いと思われるシロモノだ。

喫茶店にある料理であるらしい。しかし、「名物!イタスパ!」なんて店頭に掲げられるようなものではなくて、当たり前のようにひっそりとメニューに並んでいるもののようだ。一体どこにあるんだ、イタスパ。
……結局、『るるぶ』を見て知った、イタスパ発祥の店というところに行くことにした。ここならば確実にイタスパが食えるだろう、という期待を抱いて。

「喫茶ユキ」は、栄から2駅離れた「千種」もしくは「車道」駅の中間あたりにある。繁華街からは少々離れたエリアだ。駅を降りると、もう生活圏の商店街、という感じの年期の入った小売店がつらつらと並んでいるような町並である。車通りが少ない細い通りをてくてく歩き、町並み以上に古びた感じの喫茶店に辿り着く。赤いランプシェードがかかったライトがそこかしこでゆらゆらとぶら下がり、壁には木彫りの魚の額や、亀の大きな壁掛けなどなど。賞状入りの額がかかり、人物画がかかり、何というかしっちゃかめっちゃかな内装だった。どこか懐かしいような、時が止まったままの喫茶店、という感じ。

使い古されたグラスの水がやってきて、一緒に来たおしぼりは袋にはいった良くあるレンタル品じゃなく、ごく普通のタオルだ。使い古されたような花柄がうっすらとかすれているようなタオルが温かく濡れて出てきた。客は他に誰もいない。私もだんなも当然のように注文した「イタリアンスパゲティー」が奥に伝えられるや否や、奥から包丁のトントンという音が聞こえてきた。上方に設置されたテレビからは、えんえんとこちらのローカル放送らしきドラマが流されている。昔の刑事物ドラマの再放送のようで、場面は裁判所。容疑者の追及シーンというところだ。検事や弁護士が濃厚な愛知弁をしゃべっている。ポロンポロンチャララ〜ンと流れる、昔のドラマ独特の効果音。
「おみゃあさんは、犯人だにゃぁて…………だも。」
「そぎゃぁこと……」
「ホントの事を教えてちょ。」
……ディープだ。店内の雰囲気と相まって、何だか「昔なつかし昭和初期」なんてテーマパークにでも来ているかのような空間だ。

ほどなく奥からジュジュジューと野菜を焼くような匂いと音がし始めて、そのうちジュクジュクと音を立てるアツアツの鉄板が木皿に乗せられてやってきた。ナポリタン然としたケチャップ色のパスタの下には固まりつつある半熟の卵。スパゲティの上には格子に飾り切りされた真っ赤なウィンナー。すばらしい。これがイタスパか。

良く炒められたスパゲティーは、熱い鉄板の上でなおも火を通されてこんがりと焼き目がついていっている。具は玉ねぎにピーマンにキャベツに豚肉、ころころとグリーンピースも入っている。そして真っ赤なウィンナー。味はごくごく普通のケチャップ味だけど、半熟の卵が絡んで何とも良い感じ。どこか懐かしいようでボリュームのある昼御飯だ。
家でも鉄製フライパンを使えばできなくもなさそうだけど、このステーキ用鉄皿みたいなのが良いのだ、きっと。

食べ終わり際に来たのがミックスジュース。バナナとリンゴの味がメインの素朴なジュースには、しっかりと小皿に乗ったかっぱえびせんが出てきたのであった。さすが名古屋だ。

千種区車道「喫茶ユキ」にて
イタリアンスパゲティー
ミックスジュース
\650
\450

高いぞ高いぞテレビ塔

だんなは仕事に向かい、私と息子はセントラルパークに取り残された。
道路に沿って伸びる(というか2方向の車線に挟まれて伸びている)長い長い公園は、大きな木々が鬱蒼と茂り、人工川まで流れている。そこここでサラリーマンがお弁当を食べていたりもする。
「やっぱりここは、観光だよねぇ〜」
と息子と二人、750円を払ってテレビ塔に上ることにした。

エレベーターを乗り継いで、展望台へ。シースルーのエレベーターが上っていくと、高所恐怖症じゃないけど足の下がむずむずしてくる。塔の中はバスツアーの観光客のおっちゃんおばちゃんらでなかなかの混雑だ。
「おおー、セントラルパーク丸見え」
「おおー、あっちが駅だ」
「やややあっちに山らしきものが」
と息子と二人できゃあきゃあと展望見物。展望台内部の階段を上がると、吹き抜けの屋上にも出られるようになっている。金網がついているとはいえ、ガラス越しじゃない展望はなかなかの恐怖を味わえる。女子高生らしき女の子のグループが、その屋上で缶ジュースと沢山のスナック菓子を持ってきゃあきゃあと酒盛りのように騒いでいた。楽しそうだ。

塔からは、階段でも降りられる。エレベーターの周囲を螺旋になって下まで続く階段は、床以外は全て網。段と段の間も細い針金があるだけの、落ちはしないけどいと恐ろしき階段だった。
「……降りてみよーか?」
と一歩踏み出した息子はその場で硬直し、私も5段ほど降りたところで「やっぱ止めようね、うんうん」と展望台に逆戻り。そのまま素直にエレベーターで下まで下りたのだった。

名古屋駅に戻り、またもや高島屋内の「グラマシーニューヨーク」でケーキを買ってからホテルに戻る。今日は息子の3歳の誕生日。
お祝い用にショートケーキを3つに、おやつに食べようとパンナコッタを1つ。仕事中のだんなに「すまん」と心中謝りつつ、1つのパンナコッタを私と息子で半分こした。

バニラビーンズがたっぷり混ざったぷるぷるのパンナコッタはホイップクリームとアーモンド、キャラメルソースが添えられている。紙製の角皿に盛られた形のそれを、ケーキ屋さんが入れてくれたスプーンで息子と二人寄ってたかって食べる。ううう、この地域にしかない他のケーキ屋のも食べてみたいのに、ついついこの店ばかりが気になっちゃう。美味しいなぁ。

私、赤味噌から逃げてしまいました〜「山本屋本店」

名古屋の夕飯、最後の日。ここは、まだ食していない味噌煮込みうどんを食べようということに。
「山本屋」というのが有名な店であるらしい。パイオニアなのであるらしい。名古屋駅の近くに「山本屋本店」なる店があるので、そこに行こうということになった。ここがきっとパイオニア。……あとで違うということが判明するんだけど。

仕事を終えて帰ってきただんなと午後6時半、地下街一角にあるその店を目指した。ふらりと入れるカジュアルな雰囲気ながら、モダンな感じのテーブルと椅子が並ぶ。値段は……あんまりカジュアルじゃない。味噌煮込みうどんは1600円くらいから。名古屋コーチンが入ると一気に2000円を超える。いやーん、高ーい。

空腹もさることながら、喉も乾いていたのでビールを注文。ついでに「名古屋コーチンねぎま」なる焼き鳥も注文。こちらは2本950円。やっぱり高い。
注文をすると、名古屋に来てから何度か聞き続けているフレーズがぽんぽんと店員さんの口から飛び出した。
「うどんは少々お待ちしてからで宜しかったですか?」
「お子さまの器を持ってくるので宜しかったですか?」
「焼き鳥はすぐにお持ちするので宜しかったですか?」
こちらは別に「うどんはちょっと待ってね」も「子供用の器ちょうだいね」も「焼き鳥はすぐにね」も言ってないのである。なのに「宜しかったですか?」と承諾を求めるような口調で言ってくるのだ。
この「宜しかったですか?」のフレーズは、名古屋に来てからかなりの頻度で聞いている。そういえば、東京の飲食店ではあまり聞かれないフレーズなのであった。

総じて、名古屋のサービス業従事の人々は印象が良い。タクシーの運ちゃんも愛想が良く、飲食店は喫茶店をはじめ、これでもかとサービスが良いのがあたりまえのようだ。この「宜しかったですか?」も客の言葉を待たずして「はい」「いいえ」で済ませようとする言葉先回りのサービスなのだろうか。

テーブルには、突き出しの「ふき味噌」、そしてうどんについてくる漬け物の盛り合わせもやってきた。白菜ときゅり、きゃらぶきの3種類がこんもりと大量に深皿に盛られている。これをつつきながらとりあえずはビールをぐびぐび。やや薄い味の漬け物はとても食べやすい。
続いて焼き鳥。気合いの入った値段の焼き鳥だが、姿も気合いが入っていた。長い葱がぶっすぶっすと刺さり、肉もでかいものがぶっすぶっすと刺さっている。岩塩らしい旨味のある塩が少々強めにかかっていて良い感じだ。

そして、待望の味噌煮込みうどん。
後でとてもとても悔やまれたことだけど、私は当時「八丁味噌がお腹いっぱい」状態になっていた。昨日の昼飯、味噌カツ丼と、夕飯の更なる味噌カツ及びどて煮が私を脅えさせていた。あのどて煮は本当に濃厚だった。で、せっかく味噌煮込みうどんの専門店に来ておきながら、私は真性味噌煮込みうどんから逃げてしまったのだった。

メニューには「春味の煮込みうどん、出ました」などとあったのだ。味噌の味が軽い、薄目の「春味」。私はついつい帆立入りだというそちらの煮込みうどんに逃げてしまったのだった。だんなから真性煮込みうどんを一口貰えば良いやと思いつつ。

だんなの前にやってきたのは、テラテラと赤く光る「これぞ味噌煮込みうどん」然としたもの。私のは白味噌仕立てのいたくあっさりした感じのもの。具は葱やワカメ、名古屋コーチン、かまぼこなどなど。私のには帆立もごろんごろんと入っている。そして上には生卵がぱかんと。
ねっとりした味噌で少々の粘度があるアツアツのうどんは、鍋の蓋を椀代わりにしてよそいながら食べる。そうできるように、鍋の蓋には通常開いている空気穴がない作りになっている。

白味噌仕立ての春味煮込みは、そりゃもうさっぱりとしていた。旨味も濃厚に漂うスープは確かに美味しい。美味しいは美味しかったけど、これは「味噌煮込みうどん」とはやっぱり違うものだ。だんなの鍋から奪っては、赤い味噌の絡むうどんをずるずると啜る。甘くほの辛い味噌。飲み込んだその直後、舌の根から喉にかけて味噌の苦いような後味がじわーっと広がっていくこの味、これがやっぱり味噌煮込みうどんの味だ。濃厚な濃厚な味のだしは、それだけ飲むと何とも喉が乾いてくるので白い御飯を口直しにしながら、というか御飯のおかずに味噌のだしを飲みながら、食事を進める。お代わり可能ですよ、という店員さんの声に、しっかり1膳お代わりしただんなであった。


こちら、白味噌。

こちらが、赤味噌。

食後には、すかさず冷たいおしぼりが出てくる。入店した時は温かいおしぼりであったはずだ。気がつくと顔にびっしりと汗をかいているのであった。冷たいおしぼりを出してくれるお店のサービスに、感謝。

ああ、旨かった旨かった。だんなの赤味噌スタンダードな味噌煮込みうどんが特に。
後で知ったことだけど、「山本屋」は「山本屋本店」なる店と「山本屋総本家」なる店の2種類があるらしい。暖簾分けなのか喧嘩別れなのか、それとも全く別の店であるのか、その2店は「まぎらわしい店名の店がありますが〜」なんてお店のパンフレットに載ってしまうほど似て非なるものらしかった。
発祥の店は「山本屋総本家」側であるらしい。そちらは安いぞ。名古屋コーチン入りでも1200円。こちらは2200円。値段の差は何だろう。
何だか色々と悔しいから明日また食べに行っちゃおうかしら、そっちの味噌煮込みうどん。

名古屋駅地下街「山本屋本店」にて
名古屋コーチンねぎま
帆立入り味噌煮込みうどん(春味)
ビール
\950
\2200

誕生日おめでとう

今日は息子の誕生日。彼は今日で3歳になる。
午後8時過ぎにホテルに戻った私たちは、少々してからケーキでささやかに誕生日祝い。ローソクもなし。とりあえずプレゼントも延期。お祝いディナーというほどのものもなし。全て帰宅してからに延期して、今日のところはささやかにお祝い。

すっかり気に入った例の店(←「グラマシーニューヨーク」)で買ってきたショートケーキは、1人1個サイズの小さなもの。小さな丸いスポンジにたっぷりの苺とホイップクリームが盛られ、更にスポンジとクリーム。上には苺とラズベリーとブルーベリーが綺麗に飾られている。シンプルだけどクリームの味が良く、いくらでも喰えそうなケーキだった。部屋の畳コーナーに座り込んで、皆でもっきゅもっきゅとケーキを食べる。

明日は、できることなら1日に3回焼き上がるというホールのチーズケーキを買って帰りたいものだ。「予約できますか?」と聞いたら「できません」と言われちゃったのだ。焼き上がり時間に行けってか。大変なことだ。

今日は、私は大浴場のお風呂抜き。1つしかない大浴場を男湯と女湯タイムに切り替えて入浴させているこのホテル、今日は8時半を境に女湯から男湯へ切り替わったしまったのだった。部屋の狭い狭いユニットバスで今日のところはぐっと我慢。
敷き布団が薄くてかなり固かったりするホテルではあるけれど、いつでも大浴場に行けるわけじゃなかったりするけれど、やっぱりこのホテルは快適なのだった。部屋にコンロがついているし、鍋も貸してくれるそうだから部屋で味噌煮込みうどんも作れるし。(←作るんかい!)