3月20日(土) 田村・がもう・はりやなど

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サンライズ瀬戸に乗って

高松駅に無事到着〜

3月半ばの3連休。
久しぶりにうどん食べに行く?行っちゃおう!と家族で話が盛り上がり、8年ぶりに香川に行ってみることになった。
 
最近はお手頃価格の飛行機チケットも出るようになったし、新幹線や長距離バスなど諸々交通手段はあるけれど、今回は「いつか乗ってみたいなー」とずっと思っていた寝台特急「サンライズ瀬戸」を利用することに。「片道1万円」といった正規割引料金が出たりする飛行機に比べると割高感はあるものの、「午前中オープン午後2時には閉店」といった営業時間が多いうどん屋さん巡りには、朝に到着する寝台列車のメリットはとても大きいかも、と、今回実感することになった。
 
「サンライズ瀬戸」は「昼は座席、夜は寝台」というタイプの寝台列車ではなく、寝台列車としてのみ利用される専用の列車で、その多くは個室タイプになっているのが特徴。ビジネスマンが主なターゲットであるためかシングル個室が車両の大半を占め、車両の端などに少しだけ「シングルツイン」といった2人でも寝られるタイプの部屋がついている。
 
なかなか人気のある列車らしく、チケット発売直後に「シングルツインとシングル1つ」という組み合わせで予約するつもりが、シングルツインはあっという間に満席に。小学生の息子をシングルに泊まらせるのはちょっとばかり不安があったけれど、同じ車両の上階下階に別れた3室を確保することができたので、まぁ大丈夫でしょうと、それで行ってみることにした。
 
東京駅を午後10時に発ち、岡山で「サンライズ出雲」と「サンライズ瀬戸」に切り離される。「サンライズ瀬戸」の終点は高松で、到着は午前7時20分くらい。ややのんびりめのスケジュールで、だからしっかり眠ることができる。
 
「サンライズ瀬戸」の通路はホテルのよう 東京駅の東海道線ホームから乗った、「サンライズ瀬戸」の個室寝台。
 
まるでホテルのように廊下を挟んで左右に個室のドアが並び、「B寝台1人用個室シングル」は、やや細めのベッドの他は靴を脱ぐエリア20×40cmほど、あとはごく小さなテーブル(上にドリンクホルダーと紙コップつき)と荷物を置けるベッド脇の細いスペースのみという、思っていた以上の狭さ。
 
それでも小さな鏡がついていたり、ハンガーつきのフックがついていたり、個室毎に調節できる暖房のスイッチやアラーム時計、コンセントが壁面についていたりと、室内はとても機能的。
 
シーツの敷かれたベッドの上には枕とカバーつきの毛布、浴衣が置かれていた。
 
朝、大きな窓から外を見る しかも各室には大きな窓がついていて、これがとても気持ちよかった。
 
天井高も床から普通に立っていられるくらいの充分なもの。昔ながらの「寝台列車」に比べると1人あたりのスペースがたっぷりで、「寝台列車ってすぐ近くに人の気配がしまくりで、あんまり寝られないのよねー、うるさいお客もいたりするし」などという思いを払拭する快適な列車だった。
 
個室だから、他の部屋の話し声もほとんど届くことがない。
 
東京駅で列車に乗り込み、いそいそと各自自分の個室に荷物を運んだ後は、夫と息子の中間地点にあたる私の個室に集まって、ちょっとだけ酒盛りをした。
 
小瓶の日本酒やビールを飲んで(息子はジュース)、スナック菓子やチーズをパンチェッタで巻いたおつまみなど軽くつまんだ後、横浜を過ぎた頃に就寝した。
瀬戸大橋通過中
 
大きな窓が嬉しいなぁ、全体的に綺麗でとっても素敵……と、毛布かぶって枕抱えて、静かな部屋を満喫しつつすぐに眠りに落ちて、目覚めるともう窓の外は明るかった。
 
ほどなく「おはようございます、ただいま6時を過ぎました」と車掌さんからの放送があり、「あと20分ほどで岡山に到着です」と。
 
岡山で列車切り離し作業があり、それから30分後くらいに列車は瀬戸大橋を渡り、無事に高松に到着した。
 
工業地帯のシルエット 瀬戸大橋を渡るのは私はこれがうまれて初めてで、上階の息子の部屋にお邪魔して海の上を走る車窓風景を満喫。上階は天井上部が少し斜めになっていて、下階よりもちょっとだけ窮屈な印象があった反面、寝ながら空も見える風になっていた。
 
「A寝台1人用個室シングルDX」になると、部屋の中にテーブルと椅子、小さな洗面所までついているとか。しかもA寝台のお客さんにはコイン式のシャワー室のコインもついてくるらしい(他のお客も車掌さんからコインを買えば利用可能なのだそう)。すごいね。

変わらない濃厚いりこだし〜綾南町「田村」

今日はレンタカーを借りて、ぐるぐると香川県内を移動しながら、とにかくメインは「うどん屋さん巡り」。
 
8年前は、「1日7軒」(だいたい1軒1人1玉)なんて強行軍もできたけれど、今はもう、さすがにそこまでの量、胃袋が受け付けてくれない。
 
せっかくの美味しいうどんを美味しくいただけないというのも悲しいことで、
「まぁ、年齢相応に、"無理はしない"ってことで」
「ぼちぼちのんびり回ればいいよね」
と車を走らせ、今日は5軒のうどん屋さんを回ってきた。
 
いずこも、8年前にも訪れた事のある、当時からの有名店ばかり。新しい店を開拓するわくわく感とは無縁の一日だったけれど、どこも幸せに美味しく充実した一日になった。
 
「田村」、わかりやすい看板が嬉しいです まず最初に目指したお店は「田村」。
 
とても濃厚ないりこだしが味わえるお店で、その濃厚っぷりに対しての好みは別れるところかもしれないけれど、だんな曰く「このだしが、もうたまらなく最高」とのこと。
 
今日を逃すと明日明後日は休業らしいので、まずは開店時間が比較的早めな、このお店に向かってみたのだった。
 
9時開店の店に、到着は8時40分くらい。ぞくぞくとお客さんが集まってくる中(我が家は3組目くらいだった)、ちょっと早めに開店してくれたことを喜びつつ、朝御飯代わりにさらさらっとうどんを1杯。
 
「田村」の揚げ物コーナー、大将おすすめ昆布天は下段の奥 ここは「小」とか「大」とか頼むと、どんぶりにぺろっとうどん玉を入れてくれ、その後はセルフサービス。
 
うどんをゆがく鍋のところまで数歩歩き、自分でテボにそのうどん玉を入れて、お湯の中でゆさゆさと揺らして温める。
 
テボを引き上げてざっと湯切りしたらどんぶりに移し、タンクに入った温かいだしを注いだら、葱や生姜、あとは有料の揚げ物を乗せたりして、適当に店内のテーブルでいただいたり、混んでいる時は外で立ち食いしたり。
 
お会計はうどんを打っている大将の手が空いたところで、食べる直前だったりどんぶりを返すタイミングだったり、臨機応変に。
 
うどん玉を貰うすぐ脇では大将が鮮やかな手つきでひたすらうどんを打っていて、「ああ、香川に来たなぁ」と心から思った。もうなんだかたまらない光景だ。「すごいね」「綺麗だね」と伸ばされているうどん生地を目にして息子と囁きあっていたら、大将が顔を上げて目を合わせ、にこぉ〜といーい笑顔で笑いかけてくれるのだった。もう、色々とたまらない。
 
澄んだ、色みの薄いだしは相変わらず濃厚ないりこ風味で、のびやかなうどんはモチモチと素敵な歯ごたえ。切れ目がピシッと整っている、以前と変わらずとても綺麗なうどんだった。
 
「田村」で小を。トッピングは昆布の天ぷら! 他のお店ではあまり見かけない、大将おすすめだという「昆布の天ぷら」(甘じょっぱく煮た昆布をぐるりとロール状に巻いて天ぷらにしたもの)が、香りの強いいりこだしによく似合う。
 
以前は少しえぐみを感じるくらいのいりこの濃厚さだった記憶があるけれど(たまたまだしがちょっと煮詰まっていたタイミングだったとか、そんな感じだったのかもしれないけども)、今日のは濃厚だけれどえぐみない、本当に素晴らしいだしだった。
 
今日最初の一杯、「さぬきうどんなら都内の○○で食べれば、とりあえずなんか満足できるよね」とか思っていて本当にごめんなさい、という感じ。本場香川のさぬきうどんは素晴らしい。世界遺産に指定したい。

綾南町「田村」にて
うどん(小)
てんぷら(昆布)
150円
50円

大行列の末のシアワセ〜坂出市「がもう」

さて次はどうしましょう、と手にしたうどん本を開き、「お昼に行く予定の"はりや"には、開店までにまだ時間がありすぎるしね……」と、「田村」からほど近いところにある「がもう」を目指すことにした。ここも名だたる名店だ。
 
「がもう」の看板。この下には呆然とするほどの大行列…… 以前から行列のできるお店ではあったけれど、驚いたことに、到着時の"9時を少し過ぎた"頃の時間帯で、行列は50人以上。100人近くいたかもしれない。
 
数十メートルに伸びる行列のうしろについて、「まぁ、時間あるし、のんびり食べないと満腹になっちゃうし」とのんびり待つことにした。
 
うどんを口にできたのは並びはじめてから1時間ほどが過ぎてからで、次のお店はボリュームあるところだし、と、2玉を3人で分ける形でいただいた。
 
ここのうどんは、冷たいのか温かいのかを選べる。「温かいの」「冷たいの」と伝えると、それぞれどんぶりに入れられて渡される。揚げ物のコーナー手前にお金を払うコーナーがあるので、「揚げ物1つ……いや、2つね」と申告しながらお金払って、揚げ物乗せて、だしもお会計を済ませてから。温かいの、冷たいの、だし醤油など、これも好みで。刻み葱が置かれているのは最終フェーズ。
 
「うう……ここで天ぷら食べたら、絶対後にひくってわかってるんだけど」
「でも食べたいよね……1個だけ」
と、私はゲソ天をトッピング。
 
「がもう」にて。うどんも旨いし麺も旨いし風景も最高〜♪ 遠く山や田んぼを臨みつつ、屋外で食べるうどんの美味しさは相変わらず格別なものだった。
 
以前はもっと風光明媚な光景が間近に迫ってきていたけれど、駐車場拡充でお店周囲はちょっとばかり殺風景な感じになっていたのが残念ではあったけれど、お店の外見も雰囲気も、変わっていなかったのが素晴らしい。
 
私はうどんもだしも冷たい「ひやひや」で。透明感のあるえぐみの全くないいりこ風味たっぷりのだし、ピシーッと折り目正しく、でもぬくもりのあるうどん、全てがパーフェクト!という風の、これまた素晴らしいうどんだった。
 
人気店になると味が落ち、雰囲気も悪くなる店が多い中、相変わらずの良心価格、むしろますます美味しくなった風にも感じたうどんにひたすら感動。
 
息子は口にする直前までは「ちょびっとでいいよ?」などと言っていたのに、一口啜ったら目の色が変わり、私のうどんを食べ尽くす勢いで麺もだしも啜りまくっていた。後に息子が語ることには、今日5軒行った中では「1軒目と2軒目が、もう最高だった」のだそうで。うん、「がもう」美味しいよね。なんというか、美味しいよね。
 
いつのまにか店外にはお土産物コーナーのプレハブまでできていて、麺は2玉単位、かけだしは1人分単位で買えるようになっていた。思わず大量に買い求めてしまって、荷物がえらいことに……。

坂出市「がもう」にて

天ぷら(ゲソ)
130円
80円

かしわ天、ごろごろ〜高松市「はりや」

「がもう」で結局1時間くらい並んでしまって、「大変大変、開店しちゃう!」と急ぎ向かったのは、「はりや」。
「田村」と同じく日曜祝日休業とのことで、今日を逃すとこの旅行でチャンスがないお店の一つだ。
 
ここもまた人気店。揚げ物を自分で選んで乗せたりということのない、店舗型のお店だ。カウンターのみの席には15人ほどしか座れず、回転はそれなりに早いものの、「うどん玉だけ貰ってあとはセルフ」といったお店に比べると、どうしても待ち時間は長くなる。
 
「はりや」の店頭。行列込みのこの風景で、「ああ、はりやだ」と思う。 できれば開店時間(=11時)の20分以上前には到着して並んでいたかったところだけれど、お店の前に到着したのは開店15分ほど前のこと。
 
店頭には既に10人以上のお客さんが並んでいて、ほどなく開店して順に奥から席につき、私たちは「空席あと2つ、私たちは3人」という状態になった。
 
ああ、1回転目に座れなかったかー、と数十分待って、むすこはシンプルなざるうどん(400円)、私はかしわざる、だんなは「いか天ざるうどん」(700円)を注文して、揚げ物はだんなと2人で半分こにすることに。
 
息子は私たちに比べると食べるのが遅いし、一人でも食べられるよと息子も言うので、「じゃあ空いてる席2つとっておくのも悪いし、君だけ座って先に食べていたら?」と並ぶ私たちからはちょっと遠く離れたカウンターの空き席に座らせて先に食べてもらうようにしたら、その一人座る息子を大将がちらちらと気にしている。
 
「ぼく、寂しくない?お父さんたちと食べたくないか?」
席は空けておいても大丈夫だからさ、なんて話を息子とごにょごにょし始めて、でも息子は「大丈夫、一人で食べられます!」と返事したらしい。
 
くるりと振り返った大将、こちらを見て
「お父さん、息子は立派な"男"に育ってます!」
と言って、お店の中が笑いに包まれた。
 
結局、息子のうどんが茹で上がるよりも前に3人並んだ席が空いたので、息子は席を移らせてもらって家族3人並んで食べてきた。息子の分が最初に茹で上がり、家族3人食べ終わるのがちょうど同じというタイミングに。
 
しかし大将……8年前と比べて、えらいことふくよかになっていた。かつては「ガチマッチョ」系、ガテン系イケメンだったけど(でも、しゃべりがいけるのは昔も今も変わらない)、腕も腹もバボーンと太くなっていて、ちょっとびっくり。だんなも数ヶ月前に訪れて大将の変貌ぶりに驚いたそうで、事前に「はりやの大将の体型が変わった!」とだんなに言われていたのだった。
 
輝く麺!たっぷりの揚げ物!これぞ「はりや」という感じなのです ともあれ、ひさしぶりの「かしわざる」。
 
ここのざるうどんのつけつゆは、ちょっと甘めさ強めの独特なもの。
小皿に添えられた葱と生姜、胡麻をつゆに入れつついただくのだけれど、生姜を入れたこのつゆがまた良い感じ。
 
やや太めに見える、どっしりとした麺は断面がこれ以上なくピシーッと美しい感じで、どこもかしこもピカピカしている。料理だけでなく、カウンターの向こうの厨房も、すごくピカピカで、これもまた気持ちがいい。この清潔さを感じる麺が、「ああ、はりやだ」という感じ。
 
かしわ天は、鶏むね肉の天ぷらがごろりごろりと6個ほど。いか天は、1本ずつバラしたゲソがひと掴み分ほど、たっぷりどっさり揚げられている。天ぷらも、ちょっと胡椒の風味が効いていて、これをつけつゆに浸しつつ食べるのがよく似合う。
 
「さぬきうどんは透明ないりこだしが主流である」という感もあるけれど、醤油かけるだけで食べるうどん、濃いめの醤油味だしを少量かける「ぶっかけ」の専門店もある。そして、「ざる」で出すお店も少なくはなく、でもその中でもここのつけつゆはちょっと独特だなという印象を持っている。だが、それがいい。それでこそ「はりや」。
 
息子は「ここのうどんは僕の思う"さぬきうどん"じゃない」という思いを抱いたようだけれど、でもここもさぬきうどんの名店。変わっていなくて嬉しかった。
 
ここは、大将の「常連のお客さんを大切にしたい、これ以上県外のお客さんが殺到しても困る」という意向で、うどんガイドブック系への露出がとても少ないお店(さすがに『全店制覇』などには掲載されているけれど)。カウンター席での食事も、そのカウンターのすぐ後ろに並ぶ席待ちのお客の行列も、皆「暗黙の了解」という風に淡々としている。早く席が空いたところで、麺茹でで待つ時間もあるから「早く席空けろよ」とギラギラするお客さんもあんまりいない(ギラギラしているのは一見の、県外から来たお客さんだ)。
 
帰宅してから「お店の公式ページってなかったよなぁ」とネットで検索してみると、この行列(カウンター席の後ろに並ぶというスタイル)がありえないとか、段取り悪いとか、エラそうに語る県外のブロガーが思った以上に多いことにげんなりしてしまった。地元に根付いて愛されているお店なんだけどな。大将最高。うどんも最高。

高松市「はりや」にて
かしわざるうどん
700円

るみおばあちゃんは健在、なれど……〜高松市「池上製麺所」

さすがにそろそろお腹一杯。
「はりや」って、けっこうボリュームあるもんね……と車に戻り、でもまだ12時にもなっていないタイミング。もうちょっと行けるかな?と、車を走らせて今度は「池上製麺所」に。
 
8年前は、小ちゃい小ちゃいお店だった。
当時、お店最寄りのスーパーで買い物ついでに車を駐車場に止めて、その足で隠れた名店と言われていた「池上」を探して歩くこと数分。店の前にちんまりとおばあちゃんが立っていて、「うどん、たべてくぅ?」「これね、あたしンちー」と店に誘ってうどんを食べさせてくれたのだった。
 
その時、他にお客は誰もおらず、ニコニコと話しかけてくるおばあちゃんの前で食べるうどんは本当の本当においしかった。醤油かけただけなのに美味しいと思ったうどんは、このお店の他には2つか3つくらいしかない。
 
あれから「るみおばあちゃんのうどん」は大変な人気になってしまって、その小ちゃいお店では駐車場を用意することもかなわず、近隣からマナー違反の駐車客にたいしてクレームが寄せられることになったらしい。そこで2009年に移転して、町から南下した空港寄りの場所に開いたのが今のお店。
 
あの味にまた出会えるのなら……と向かってみたら、そこはなんだかすっかり「観光地」になっていた。
 
店頭では若いお兄ちゃんが「食べるなら"ひや"がおすすめ、おすすめですよ〜」と声をかけ、お客は「釜あげ希望の列」「それ以外を希望の列」に整然と振り分けられる。流れ作業のように麺を受け取り天ぷら、卵などを貰ったら、会計済ませて専用出口へ。そこはテーブルが並ぶ屋根つき、半屋外のスペース。そこからの出口は更にお土産売り場に続く……と、すっかり悲しい感じの効率化が図られていた。
 
以前は、温かいのか冷たいのかのうどん玉をもらって、だしはなく、味つけは醤油のみ(あと生卵)、という感じだったのに、今は「ひやかけ」「あつかけ」(だしは熱いものしかなく、うどんの温かさのみ選ぶ)も選べる。「釜あげ」も選べるようになっていた。
 
うん、美味しいんだけど……不味くはないんだけど……あの「池上」はもう無いのね やっぱり池上ならお醤油だよね、と、冷たいうどんにだし醤油をかけていただいたのだけれど……うーん、美味しいんだけど、不味くはないんだけど、でも「普通に美味しいうどん」くらいになっていて、悲しかった。
 
あの小ちゃなお店のうどんは、本当の本当に神がかって美味しかっただけに、残念。
「たにべい」みたいな、いっくらでも喉に吸い込まれていきそうな感じの、滑らかで優しくて、でもちゃんとコシもあって……というあのうどんとは全く違うものになっていた。
 
るみおばあちゃんは健在で、私たちがお店に着いた時はお土産コーナーのベンチに座って次々訪れるお客さんとの記念撮影に応じているところだった。次の瞬間、天ぷらコーナーのところにいるのを見かけて、その数分後にはまた別のところに……と、おばちゃん、シャキシャキ動いている。お元気そうで本当に何より、と思ったけれど、あの、のんびりとした空気で「うどん食べていくー?」と笑いかけてくれたおばあちゃんではいられなくなってしまった、このうどんブーム。なんだか、「ごめんなさい」という気持ちになった。
 
決して不味いわけではなかったけれど、でもだんなとの共通な思いは「もう、"池上"には来られないね」というもの。
 
来る度に、きっと私たちは「ああ、もうあの"うどん、食べてく?"の池上はどこにもないんだ」と思い知らされてしまう。私たちにとっての「池上」は、あの記憶の中の小ちゃいお店だけでいい。
 
この旅行を終えて帰宅してから、手持ちの本を開いていたら、『恐るべきさぬきうどん 第5巻』に
「本に書いてて何を言う、と言われるかもしれないが、ここは絶対荒らしてはいけない。高松のうどんの文化財だ。」
という一文があった。今読み返すと、すごく重い。

高松市「池上製麺所」にて
ひや
150円

このだしの味が忘れられなくて〜高松市「谷川製麺所」

「谷川製麺所」、お店の入り口はこんな風 ……で、ここまででうどん屋さん巡りは4軒。
 
軒数はさほどではないけれど、何しろ今日は「はりや」に行ってしまった。「はりや」のうどんは(揚げ物も)たいそうお腹が膨れる。
 
「でも、あと1軒くらいは行けるかなぁ」
「今1時でしょ、今から行けば"谷川製麺所"の営業時間に間に合うねぇ……あそこは2時閉店みたいだから」
ここからなら遠くないし行っちゃいましょうか!と、ここでとどめの1軒を目指す。
 
「がもう」に負けず劣らず風光明媚なところにある「谷川製麺所」は、だしが独特で私がたまらなく好きなお店。
「谷川製麺所」の店頭風景。ここに座ってうどん食べます。
 
店頭に大きな看板はなく、ぱっと見普通の民家。
 
今は「橋渡った先の、あの青い屋根のところ」とわかるけれど、確か初回は「このへん?」と車止めて探して、ひょいと覗いたところでうどん食べてる人たちを見つけて「ここだー!」ということになったのだった。
 
昭和の時代にタイムスリップしたようなお店の感じは8年前とほとんど変わらず。
 
お店を入ったところには無造作に事務机的なものとか事務用椅子的なものが適当に置かれている。日当たりの良い入り口に観葉植物の鉢が並び、椅子とテーブルが並ぶ薄暗い店内の奥には、更に薄暗い厨房がある。
 
そうそう、水も冷水機からセルフサービスなのだけれど、積まれたコップは「ワンカップ」の空き容器。そこがまたたまらない。
湯気もうもうのうどんの茹で鍋
 
厨房入り口で「小で」「大で」などと伝えると、麺入りのどんぶりを渡されるので、「田村」と同じく自分で麺をゆがき、巨大な寸胴鍋からだしを注ぎ、葱を乗せたらテーブルに移動していただく。
 
ここのかけだしは温かいの1種類のみ。自家製のしっぽく風のおつゆで、野菜たっぷりの具沢山なものだ。大根やごぼう、人参、油揚げ、鶏肉などが入っていて、干し椎茸の旨味もじんわりと感じられる。甘じょっぱくてなんとも癒される味で、冬の季節には大将が捕まえるイノシシもだしに加わるのだそう。
 
うどんは若干細めで、のびやかだけれどちょっとこう、クタッナヨッとした感のあるもの。「はりや」あたりが"若侍"の印象なら、こちらは"熟女の色気"的な雰囲気がある気がする。
私の大好きな「谷川製麺所」、唯一無二のしっぽく風のうどん
 
ここのうどんも「小」サイズでなかなかの食べ応え(寸胴鍋から具をたっぷりすくってきてしまったというのもあり……)。
 
ここでもう、「喉の上くらいまでうどんで詰まってます、いっぱいです」という感じになってしまい、うどん屋巡りはおしまいにして、あちこち寄り道しながら今日明日泊まる宿に移動することにした。4軒目5軒目は息子の分は頼まず、2玉を3人で分ける(というか私のうどんを息子に手伝ってもらう)形で食べていたというのに、こんな早く限界が来てしまうなんて。なんだか悔しい。

高松市「谷川製麺所」にて

200円

宿で「一鶴」

うどん屋さん巡りは、朝は9時頃から本格的にはじまり、午後2時にはひとつの区切りがやってくる。
 
製麺所系のお店は2時を境にほとんどが閉店し、あとは繁華街に集中する「夜に営業する一般店」の開店を待つか、夕方まで通し営業をしているお店を探して行くか、という感じ。
 
でも、今日はもうかなりお腹一杯だよね……と、宿に向かってしまうことにした。でもまだ2時頃、宿のチェックインは4時から。
 
「道の駅」にちらっと寄り道してみたり、「谷川製麺所」が高松空港からほど近いところだったので、「さぬき空港公園」にも立ち寄ってみたり。たいそう広い公園で、少し歩くと小さな梅園があった。
「さぬき空港公園」の梅園で
 
見た目がまんまポップコーンのような可愛い白梅や、色鮮やかな紅梅がそこかしこに咲いていて、「今日はうどんしか撮影してないし〜」などと言いながら花の写真をいくつか撮影。今日はやたらと気温が高く、公園を歩く時は半袖になっても良いくらいの陽気だった。
 
夕御飯は「一鶴」のテイクアウトで。
 
骨付きの鶏もも肉をちょっとピリ辛味に焼いた「骨付鶏」の専門店で、横浜などにも店舗があるものの、本店は香川の丸亀にある。高松界隈にも3店舗。「おやどり」「ひなどり」を1本ずつと「とりめし」を1パック買い、スーパーで飲み物購入ついでにおつまみチーズやちょっとしたスナック類も調達して宿に向かった。
 
今回宿泊の宿は、昔馴染みの友人が経営している、庵治にある旅館。うどん屋巡りプランということで素泊まりが可能だったので、ここにお願いしてみることにした。大きなお風呂に入れるのがありがたい。ただ、高松の繁華街からはちょっと距離があり、一度宿に行ってしまうと「夕飯のためにまた車乗って外出」はちょっと大変(そうして出たところで車だからお酒は飲めないわけで)。だからあれこれ買い込んで、お風呂に入ってから部屋でのんびりしましょということになったのだった。
 
宿のロビーフロアには「ご自由にお使いください」と電子レンジやサランラップの用意があって、これは嬉しい、ありがたい、と、骨付鶏やとりめしを温め直して食べる。大浴場でのんびりしてぐにゃぐにゃになったところで、広い畳の部屋でくつろぎながら食べる鶏は、また格別に美味しかった。「おや」はびっくりするほどの歯ごたえ(簡単には噛みちぎれないほどだから、肉にたくさん切り込みが入れられている)があり、でも旨味充分。「ひな」は普通にイメージする感じの骨付き鶏もも肉な感じのもの。食べやすいし美味しいけど、「一鶴」の真の魅力は「おや」にあるような気がする。
 
ごく軽く、おつまみ程度の夕御飯にしておいて、また明日の朝から全開の予定。

一鶴」からテイクアウト
おやどり
ひなどり
とりめし
980円
870円
450円