12月4日(月) 魅惑のこってり豚骨スープ

本場の福岡ラーメンを食べに

昨日までうどんの国の人だった私たち。昨日までの3日間、飽きるほどうどんうどんうどんうどん、とうどんにまみれた生活を送ってきたのであったのだが、今日から4日間はラーメンの国の人となる。今度は福岡!

今回はレジャーメインの旅行なのではなく、だんなのお仕事がメインなのであった。片づけなければいけない用事がいくつかあるというだんなに、私と息子がついてっちゃうことになったのだった。だんなのいない時間には私と息子で観光なり食事なりをしなくちゃいけない。2歳児の息子を連れてここまで出歩くのは実は初めてなので、どうなることやらちょっとどきどきする。息子のペースに合わせてゆっくり移動すればどうということはないかしら。太宰府とか福岡タワーとか、色々行きたいよねぇ〜。

で、夕食のメインは勿論福岡ラーメンだ。先月も福岡に来る機会があっただんなは、怒濤のように3泊で6杯のラーメンを喰ってきた。仕事の関係で夕食が出た日もあったのに、である。「ここがこのように美味しくて」「ここはこのように腹立たしくて」を詳細に聞かされた私の頭は全体的に豚骨スープと化していた。

豚骨ラーメン、実はちゃんと食べたことがないのである。もう10年以上も前になろうか、「とっぱちからくさやんつきラーメン」という愉快な名前のインスタントラーメンが大好きで大好きで食べまくった記憶があるけれども、まともに店で食べたものと言ったら「じゃんがら」くらいであろうか。
だんなに福岡ラーメンの体験談を聞くにつけ、なんと私は福岡ラーメンを知らなかったのだろうと恥じることしきり。曰く、

  • 豚骨を原料とする白濁スープが基本。でも白濁していないのもある。
  • 麺は縮れの全くないまっすぐな麺。そして細い。平麺を使うところも。
  • 葱はもう、100%万能葱系の青葱。長ねぎの立場なし。
  • 具はチャーシューと葱だけというシンプル系、多し。
  • 紅生姜は必ずしも入れなければならないものではないらしい。
  • 他のトッピングはきくらげ・もやし・卵・海苔・胡麻あたりがメジャーなようだ。
  • そして注文の際、固さを問われるものらしい。「固め」「柔らかめ」とか。
  • 忘れちゃいけないのが「替え玉」文化。自分のどんぶりのスープを飲み干さずに玉のみ追加注文するシステム。安価に腹一杯になれるとこれを愛する人は多い……らしい。

……という感じなのであるらしい。福岡ラーメン、深い。
友人Kさんから『福岡・北九州・久留米のラーメン』(プランニング秀巧社)なる『シティ情報ふくおか Fukuoka』臨時増刊ムックも東京に送っていただいた。事前準備はばっちりだ。真上からどんぶりを撮った写真がこれでもかと並ぶこの本、とても魅惑的。
さぁ、ラーメン食べに行きましょ―――――っ!

芸能人写真満載の店〜博多区「博多龍龍軒」

羽田発午前11時25分のJAS便で一路、私たちは福岡にやってきた。福岡ラーメンの国。明太子の国。芸能人を多く輩出する国。そうそうストリートミュージシャンのメッカでもあると聞く。
行きの飛行機からは富士山が良く見えた。ここまで綺麗な富士山をほぼ真上から見たのは今回が初めてかもしれない。だんなより息子よりもはしゃいでいた私はデジカメ構えて大騒ぎだった。

機内から見た富士山

午後1時30分、強い向かい風の影響で定時より20分ほど遅れて福岡空港に到着。地下鉄に乗って2駅行けば博多駅だ。そう、福岡市には「JR福岡駅」というものは存在しない。「博多駅」があるのみだ。地下鉄も通るこの「博多駅」、しかし繁華街はここではない。更に地下鉄で3駅先の「天神駅」が一番大きな繁華街である。この天神というエリアに地下鉄「天神駅」の他、「西鉄福岡駅」がある。何というか、県外者から見るととてもややこしい。

で、私たちの宿泊先は博多駅が最寄りの「ホテル日航福岡」なのであった。JALのマイル貯めに熱中している昨今、ついつい選ぶホテルもJAL系になっている最近の私たち。インターネットプランと銘打ち、けっこう安いプランがあったりする。

早々にチェックインして部屋に荷物を運び入れる。ダブルベッドの部屋は思ったよりも広い。手頃なサイズのクローゼットに椅子つきの化粧台、ティーテーブルに椅子2脚、その他に椅子つきライティングデスクも揃っている。持参したノートパソコンが打ちやすい素晴らしい環境だ。ライトやファブリックに統一性があってとても落ち着いている部屋だ。

もう2時を過ぎた。では3時で閉店してしまうという、近隣にある「龍龍軒」に早速行ってみようかということになる。何でも山本益博氏が「博多で一番旨い!」と絶賛していたというラーメン屋なのであるらしい。ホテル前の太い通りを越え、徒歩3分ほど。店の脇には巨大な看板がかかっており、イラストにて髭面店主の顔がどどんとこちらに迫ってくる。……ハズレっぽい。

店に入る。
カウンター状の高いテーブルに高い椅子の6人がけの島が3つほど。そして奥に厨房。壁にはひったすら掲載雑誌と色紙、有名人と店主のツーショット写真がところ狭しとかかっている。……ますますハズレっぽい。
ああ、厨房側の左上の写真では髭面店主と山本益博がにこにこと2人で笑っているではないか。……あああ、なんだかますます(以下略)。

これでもかこれでもかと色紙や写真を見せびらかされるとどんどん期待と食欲は萎えてくる。んもぅ萎え萎えである。そういう気分で席につく。……いや、食券購入が先であるらしい。

「これを選べ」と言わんばかりに"おすすめです!"とラーメンチャーハンセット\700が食券機の上に写真入りでポスターがかかっていた。ラーメンと半チャーハン、それにラーメンのトッピングを1つ選べるらしい。胡麻やわかめ、にんにく、からし高菜などなどなど。腹も空いていることだし、チャーハンもちょいと食べたかったしでだんなと2人これを食すことにした。

給水機から自分で水を汲み、席にて待つ。「麺の固さは?」とお姉ちゃんに問われて、とりあえず「普通で」と答える。何せ私、福岡に来るのも幼少の頃から久しぶりの2度目であるし、本場の豚骨ラーメンを食すのは初めてなのだから。

「龍龍軒」 ほどなく、かわいらしいチャーハンに脂たっぷりラーメンが来た。ものの本には「豚骨特有の臭みがないさっぱり味のスープ、脂分は少ない」などとあるけど、私にしてみれば「嘘だ……」である。スープの上部2mmくらいの厚さにある透明の層(脂だ……)と今まさに溶けていこうとしていくそのふわふわした背脂は何だというのだ。これでさっぱり系なのか!?博多ラーメン、おそるべし。

トッピングは私が「味付け卵」、だんなが「こってりスープ」である。私には周囲が茶色く染まったゆで卵が両断されて入っており、だんなのは……うわ、表面が全面的に背脂でギラギラとしている。すごい。かなりなこってりだ。

スープは確かにさっぱり味であるかもしれない。どんぶりの中の背脂はギットギトであるけれども、スープそのものはどろっと白濁しつつも、くどくはない。塩味が強くもなく、辛くもない。なかなか飲みやすい。表面ギットギトだけど。

そして縮れのない細麺だ。白濁の豚骨スープに浸った麺が背脂の層をくぐってツヤツヤしたまま口に入る。ああ、豚骨スープだ。はやはり美味しい。
具はトッピングの味付け卵の他、葱と胡麻ともやしが少々。脂の層も艶やかな、ぐるんと丸いチャーシュー2枚。

食べ慣れてないので、ここがいかほどの味なのかは比較しようもないけれど、私としては悪くなかった。「うまいぃぃぃぃ〜」と止まらなくなるほどのものでもなかったけど、「ああ、博多ラーメンって美味しいなぁ」と実感するに充分だった、というか。
替え玉まで頼んでいただんな曰く、
「ん、まぁまぁ美味しかったよ。"こってりスープ"がスープがこってりというよりは脂がこってりって感じでちょっと邪道じゃねぇかと思ったけど。」
だそうである。
で……夕飯もラーメンすか!?

博多区「博多龍龍軒 本店」にて
ラーメン・チャーハンセット
\700

小さなコロコロ、美味しい餃子〜博多区「鉄なべ」

だんなは夕方、一旦お出かけしていった。私たちも外出しているほどの時間もないので、帰ってくるまで息子は昼寝、私は香川うどん旅行記をライティングデスクでもくもくとパソコンに打ち込んでいた。

午後8時20分、戻ってきただんなと一緒に夜の博多探索。彼オススメのお店に連れて行ってもらうことにする。まずはホテルから徒歩で行ける「鉄なべ」なる鉄鍋餃子屋さん。先月だんなが、ホームページを見て東京から来た、と告げたら店の人大喜びで色々おまけしてくれちゃったんだそうだ。勿論餃子も旨かったらしい。

バス通りから1本外れた裏通りにある餃子屋さんは、8時半を過ぎて大盛況。ごくごく普通の居酒屋という雰囲気の店内、一人客はカウンターに座り、グループ客は奥の座敷に座りガヤガヤと酒飲んで餃子喰ってる。こういう雰囲気、大好き。「喰ってるぞー飲んでるぞーた〜のしいぞー」というオーラが店内に漂っている。
「餃子……4人前ね。」
とだんなスラリと注文。え、4人前ですか!?これからラーメンも喰うのに!?
「いやー、こないだ1人で2人前喰って丁度良かったからさ。」
なんてしゃあしゃあと言ってますけど、私はだんなほどにはラーメンは食えない。猫舌だから食べ終わる前に満腹中枢が刺激されまくってしまうのだ。脂の層があるラーメンだと尚のこと脂の熱さに困惑してしまってしばらく箸の動きが遅くなる。香川で一日6玉とか7玉とか喰ってたうどんは脂の層がないし、大体それほどには熱くないのでけっこう喰えたのだ。

お店のオススメだという手羽先の煮込みを2本もらい、ついでにつまみにモロキューももらい、餃子が焼けるまでビールを一杯。
「あらあら、東京からいらしたんですか。」
とおばちゃんが蓮根の小さなきんぴらを1つサービスでつけてくれた。

どれもこれも「おふくろの味」的で非常に良い。茶色く煮染めた蓮根も、骨がずるりと取れる、数時間煮込んだという甘辛い手羽先も、塩が軽くまぶされて粒のはっきりとしたもろみ味噌をつけて食べるきゅうりもしみじみ美味しい。店員さんは元気だしシャキシャキ動いている。ビールが進むし話も進む。

「鉄なべ」鉄鍋餃子で、本題の餃子。1つの大きさは「点天」よりは大きく普通の自家製餃子よりは小さい、という感じ。えーと、親指と人差し指で円を作ったくらい、というか。肉あんが皮に軽くくるまり、端をちょいちょいと摘んだだけのようなかわいらしい形をしている。それが丸い深みのある鍋に美しく円を描いて並べられていて、表面が程良く焦げている。美しい。

で、博多の餃子は柚子胡椒をつけて食べるものであるらしい。
醤油を垂らした皿に餃子をとぷんと漬け、上に自家製だという粒々の固形物たっぷりの柚子胡椒をなすりつけて口に放り込む。なすりつけただけで周囲に鮮烈な柚子の香りが広がって、口に入れるとその香りと一緒にこれまた鮮やかにピリリとした辛さがピリピリと刺激になってやってくる。醤油とラー油に慣れた口には新鮮でびっくりだ。これが不思議と合う合う。醤油とラー油で「もう腹一杯かも」と思っても柚子胡椒ならあとまだ5個は胃袋に入る、そんな感じ。表面パリパリ……というよりはサクッとした感じの皮の焼き具合も良い感じだった。ジューシーで柔らかな肉あん。これは美味しいや。

ビール2本空けて、良い気分になって店を出る。
バスに乗って、だんなオススメのラーメン屋でラーメン1杯ひっかけて帰ることにしよう。

博多区「鉄なべ」にて
鉄なべ餃子×4
モロキュー
手羽先の煮×2
ビール大瓶×2

泣けちゃうほど旨かったです〜中央区「秀ちゃんラーメン」

福岡と言えばバスである。バスと言えば福岡である(←それは違う)。
JR、地下鉄と共にそうは充実していない福岡市内の交通において、最も重用されるのはバスなのであった。福岡のバスはすごいぞー。団子になってわんさか通りを走ってくる。ホテル最寄りのバス停に停車する路線は20ほどもあろうか。ひとつ間違えたらどこか遠くに連れていかれそうだ。「天神」や「キャナルシティ」などを通るバスはちゃんとその旨プレートに書いてあるので問題ないとは思うけど。繁華街に行くバスは、2分を待たずとやってくる、そんな感じなのだった。
バス路線図もバスターミナルにて入手した。1000円のバスカードも買ってきた。バスを活用して博多の夜を回る。

バスに揺られて博多寄りの地区から天神を過ぎて「警固」という地域へ。バス降りて数分歩くと黄色いのれんのラーメン屋につく。店中の壁といわず天井といわず脂が染み込んでいるような店だ。壁という壁に来客の名刺や写真、プリクラシールから千社札までが所狭しと貼られている。その紙がおしなべて、うっすらと脂で黄色く変色しているような、そんな店だ。木製のカウンターも艶やかに光っている。でも掃除は行き届いていて少しもベタベタしない。

「秀ちゃんラーメン」 店はほぼ満席。隅っこにたまたま3席空いていたので家族で腰掛ける。ラーメンは600円。ニラ餃子などもメニューにはある。
ほどなくやってきたラーメン、ねっとりとしている。どんぶりを揺らすとスープが粘度を持ってゆったりと揺れるのだ。こってり系もこってり系、この店は最右翼のこってり系なのであるらしかった。だんなが絶賛する理由がなんとなく知れる。

スープの中には甘辛いタレの味の染みたチャーシューが静かに沈んでいる。素麺もかくやと思わせるほどの細い細い麺に、上からは刻み葱が表面を覆うようにたっぷりとかけられている。かなり個性的なラーメンじゃなかろうか。
レンゲですくうと、やっぱりゆらりと揺れるスープを口に含むとどこまでも濃厚なスープが喉を降りて行った。脂は浮いていない。脂っこいというのとは違う、ただただ濃厚なスープだ。なんでも豚骨を強火でガーッと火を通すことでゼラチン質が溶けてこうなるものであるらしい。どことなく我が家の水炊きのスープの作り方にも似ていて、ゆえに風味はどことなく似ている。骨の中のゼラチン質が溶けきってできたような濃厚なスープなのであった。時間が立つとゼラチンが固まってしまいそうなスープだ。

麺をひとすすり。細い麺に濃厚なスープが絡んでこれはいける。たっぷりの葱がまた泣かせてくれるし、下に沈んでしまったチャーシューのかけらが濃厚なスープの合間を縫って出てきたりするのがまた嬉しい。嬉しいんだけど……餃子4人前喰った後にこれはキツイっすよだんな。美味しいけどスープ全部はとても飲み干せそうにないっす。飲み干したいけど。

いやいや、美味しいラーメンだった。多分好みは相当別れると思うけど私は大好き。濃厚で濃厚で濃厚で、ひたすらこってり、でも実はさっぱり、という豚骨スープは心にぐっときてしまった。昼に食べた「龍龍軒」のこってりスープが邪道、とだんなが言ったわけが良くわかったよ。口の周りがギットギトになっちゃったけど。
博多初めての夜、あまりにも旨すぎるラーメンを食した私は一気に幸せになってしまったのであった。

中央区「秀ちゃんラーメン」にて
ラーメン
\600