4月22日(日) 名古屋の味は、味噌の味

モーニング初体験〜「ベルヘラルド」

名古屋2日目の朝。名古屋に来て初めての朝。

名古屋の朝は、やはり「モーニング」で始めなければならない。
喫茶店におけるサービスが他県より遙かに充実しまくっているこの地においては、コーヒーを頼んでコーヒーしか来ないところはケチンボさんなのであるらしい。頼みもしないのにコーヒーに柿の種やらおせんべやらがついてくるという風土において、最たるものはモーニングサービスの充実ぶりであるのだそうだ。

ちなみに「モーニングセット」はドリンクの値段に少し上乗せされたセットメニューのことであり、「モーニングサービス」はドリンクの値段のみでオプションメニューが追加されるものなのだとか。いきなり朝から奥深い名古屋だ。

さて、その「モーニングサービス」の充実ぶりがすごいのが、名古屋駅地下街に位置する「ベルヘラルド」という喫茶店であるらしい。朝はドリンクの値段だけでパンとゆで卵が食べ放題になるのだとか。しかもただの食パンなどではなくて菓子パンロールパンサンドイッチなどなどが盛り沢山だという。そんな幸せな店に行きたくなってしまうのも仕方のないことなのであった。たとえ昼や夜にハイカロリー食事が待ちかまえていようとも。

ホテルからてくてく歩いて、名古屋駅地下鉄改札前の「ベルヘラルド」に到着。
日曜9時だというのにほぼ満席の店内の、奥まった4人掛け席に滑り込み、コーヒーと紅茶、オレンジジュースを注文。あとはバイキング形式で並べられるワゴンから皿を取り、適宜パンとゆで卵を自分で取ってくるようになっている。

380円の紅茶は、葉っぱ入りポットで来た、まずまず普通のものだった。不味くもないけど特別に美味しいというわけでもない、普通の紅茶。だが、その380円で食べられるパンときたらチョコデニッシュ、苺ジャムを練り混んだデニッシュ、ミルクロールにロールパン、チーズスティックにピーナッツバターサンドと盛り沢山。甘いのも甘くないのもたっぷりと揃っている。ジャムやバター類も各種、小さなパック入りのが取り放題。そして、籠に山盛りのゆで卵。壮観だ。

うきうきと数種類を皿に持ってきて、食べる。刻み栗の入った「天津甘栗デニッシュ」なんてのもあって、どれもなかなかに美味しい。10種類ほどが並ぶワゴンの皿は次々と空になる。空になった皿は次々新しいものと取り替えられていて、タイミングによってはハムサンドや卵サンドも出てきたりする。そういうものは周囲の注目を浴びてものの数十秒で消え去って行くのであった。サンドイッチは大人気。

私たちの席からは、ワゴンは死角になっているけれど、だんなの席からは厨房の出口が見えるらしい。時折そちらに鋭い視線を送っていただんなは、
「……サンドイッチ登場!」
と言い置いてワゴンへダッシュ。大挙して押し寄せるおばちゃんおっちゃんらに混じりつつ、4切れのサンドイッチを抱えて意気揚揚と戻ってきてくれたりした。
日曜朝にしてなかなか熾烈な戦いが繰り広げられている喫茶店。……楽しかった。

名古屋駅地下街「ベルヘラルド」にて
モーニングサービス(紅茶)
\350

嗚呼素晴らしき哉、名古屋ネクタイ

各種パンを堪能し、店を出ると9時半。ホテルに一旦戻るほどの余裕はなく、だがどこへ行くにも早すぎる半端な時間だった。しばし、駅前のセントラルタワーの広場でぶらぶらと時間をつぶす。長いロープが上から下に斜めに張られ、そこには大量の鯉のぼりがゆらゆらと揺れている。雲一つない良い天気で気持ち良い。

そうこうして時間は10時。名鉄百貨店が開く時間となった。このデパートには、何をおいても来なければいけない用事があった。名古屋の「4M」と言われる4大デパートの、他の松坂屋・三越・丸栄では駄目だ。名鉄でなければならない。名鉄には、我々が愛してやまない「名古屋ネクタイ」が販売されているのであった。

「名古屋には名古屋ネクタイがある」
という噂を聞いたのは、もう5年以上も前の話だ。一見ストライプだけど実はきしめん、一見シャチホコのパターン柄だけど1つだけ海老フライ、などという各種名古屋名物が面白おかしくデザインされたネクタイが、名鉄百貨店から出ているのだと聞いた。どうやら今でも売っているらしいと数ヶ月前に知り、思わず数本通信販売してしまっていたのだ。

現物の売場を見てみなければならない、と初めて名鉄百貨店ネクタイ売場に足を踏み入れる。幅50cmほどの小さな一角に名古屋ネクタイが綺麗に並べられていた。今年の春の新柄はナナちゃん・きしめん・名古屋名物・えびせんの4種類。パステル調の色味も用意された、どことなくポップな印象のネクタイ群だ。ていうか、まだまだ新柄が出続けているというのが恐ろしい。

上は水玉模様であるのに下にいくほど粒がでかくなり、いつしかえびせんとなっている柄の「えびせん」、四角いパターン模様にじわじわと茶色い模様が乗り、山椒の葉などが飾られている「味噌おでん」、そしてシンプルなイラスト調の模様が飛び交い、一番下に若干リアルに大きく描かれたものがのる「ひつまぶし」の3本を選んだ。名古屋に連れてきてくれたお礼に、私がだんなにプレゼント。ネクタイの袋をぶらさげて、今度はぷらぷらと栄に向かう。

名鉄百貨店にて購入
名古屋ネクタイ「えびせん」
名古屋ネクタイ「味噌おでん」
名古屋ネクタイ「ひつまぶし」
\6,000
\6,000
\6,000

三越、丸栄とデパート巡り。目当ては「名古屋におけるマンゴープリン」の存在の確認であった。だが季節はまだ4月で、真夏が旬のマンゴーの季節にはちょっと遠かったらしい。結局、「ややや、ここにはこんなういろう屋が」「ああ、ここのケーキ屋は美味しそうだねぇ」なんて言いながらの食料品売場探索になっていた。

少々疲れて、丸栄内食料品売場の隅にある「FLO」という店の小さな喫茶コーナーで一休み。キッシュとサラダがウリのお総菜屋さんだ。卵サラダがなかなか美味しくて、何度か買ったことがある。
お茶だけにしておけばよいのに、ついついケーキが並ぶショーケースを見て「私シュークリームね」「あ、僕はミルフィーユね」なんて頼んでいる私たち。

バニラビーンズたっぷり入りの巨大シュークリームは確かに美味しかったけど、この30分後に味噌かつ喰う羽目になるのであった。……後悔はしない。

中区栄 丸栄内「FLO」にて
シュークリーム
アイスカフェオレ

味噌かつを喰わねばならぬ〜「矢場とん」

名古屋へ来たからには、やはり味噌かつを喰わねばならないだろう。
名古屋在住歴のあるだんなの同僚の話曰く、
「栄の"もり川"が一番旨い」
のであるらしい。しかしながら「"矢場とん"は外してはならない」という話も各所で聞く。現在位置からの移動距離や日曜昼の営業の可能性等々を考えて、「矢場とん」に行ってみることにした。

昼の12時きっかり。店の前には10人ほどの行列ができていたが、次々と店の中に吸い込まれていく。えらく回転の早い店であるらしい。ほどなく2階の席に案内され、冷茶がテーブルに出てきた。わらじとんかつ1600円、味噌かつ丼は味噌汁つきで1000円。中日ドラゴンズにそれはそれは深いつながりがある店とのことで、店の中には選手のサインやユニフォームが溢れている。

「矢場とん」のロゴがしっかりと入ったどんぶりに、茶色く染まったカツがどかんと入ってやってきた。カツの隙間から茶色く染まった御飯が見える。普通のとんかつソースと違う、ちょっと赤くてねっとりしたソースからは濃厚な味噌の香り。こってりと甘く、口にすると「みそみそみそみそ……」と口中全面的に八丁味噌の香りが漂う味噌ソースだ。そのまま食べても良し、甘く思う人はカラシをつけても良し、唐辛子をかけても良し、または胡麻などかけても良し、と食べ方指南がテーブルに置かれている。確かにそのまま食べても旨いけど、胡麻をかけるとまた良く感じに風味が変わって得した気分。

わらじかつも、それはそれは巨大なものだった。やや薄くはあるけど巨大なカツがどどーんと大皿に盛られ、味噌ソースがでででーんとかけられ、キャベツもどっさり、そして御飯とワカメ入りの味噌汁。

甘い味噌が染みた、ちょっとクタッとなったカツを頬張りながら、甘い味噌が御飯の下にも敷かれた茶色い御飯をわしわしと食べる。ああ、これが名古屋か。すばらしきかな名古屋。濃厚だな名古屋。

……思わず帰りがけにお店特製持ち帰りソース300円も買ってしまいました。
これで我が家でも味噌カツ可能。野菜炒めなどに使っても良いそうな。

中区矢場町「矢場とん」にて
味噌かつ丼(汁つき)
持ち帰り用ソース
\1,000
\300

観光の基本だ名古屋城

味噌カツを堪能したあとは、観光客らしく名古屋城など見に行くことにした。第二次世界大戦中に焼失したという城は、綺麗に復元されている。綺麗すぎてとても昔の城には見えず、観光名所然としすぎているけれど、金のシャチホコ輝く天守閣はやはり美しい。敷地はやたらと広く、ジャリを踏みしめつつあちこち見学。シャクヤクが満開で、そこかしこに紅色やピンクのヒラヒラした花が揺れていた。数日前までは雨の予報だった空は雲一つない良い天気。

日曜とはいえ、それほど多くの客がいるわけでもなかったけれど、私たちがいざ天守閣に向かわんとしたところ、100人以上の団体がざかざかとジャリの向こうから大挙してやってくるのが見えた。どうやら中国人観光客の観光ルートになっているらしく、中国語を話す軍団が一気に名古屋城に押し寄せてくる。そのまま団体に追われるように急ぎ足で城内の見学。原寸大シャチホコの模型にまたがって写真撮影までしてしまった。観光客丸出しの私たち。

名古屋城探索を終えて午後3時。一旦宿に戻ってきた。9時からぶっ通しで出歩いているとさすがに疲れる。
息子を昼寝させている間、だんなと二人、密やかにおやつ。部屋の中の冷蔵庫から牛乳とコーヒーを出してアイスカフェオレにしてグラスに注ぎ、昨日買ってきた、「グラマシーニューヨーク」のケーキを分け合いつつ食べる。私はパイナップルが中に入ったココナッツのムース「アイランド」。だんなのは苺の入ったミルクケーキ。やはり上品で軽い甘みの食べやすいケーキだ。見た目も美しい。

このお店、1日に3度ほどの焼き上がりで「ニューヨークチーズケーキ」なるものが売られているらしい。金属の輪っかがはめ込まれたままの姿で、直径20cmくらいのケーキがワンホール2000円。東京に持って帰ろうと、目下画策中。(他の焼き菓子類もめっちゃ美味しそうで、これも気になっちゃう〜)

おやつは天むす〜「千寿」

つい十数分前におやつを喰ったばかりなのに、「ああ、天むす喰わなきゃ」とか言っている私であった。4日の滞在期間で喰うべきもののスケジュールをたてると、どうしても天むすが喰えなくなる。ならばおやつで、と、胃袋にスケジュールを合わせずスケジュールに胃袋を合わせようという所行に及ぶ私たちであった。

ホテルにはレンタサイクルがある。3時間300円。息子を乗せて移動することはできないけど、一人だったらこれで栄にでもどこにでも行くことが可能だ。
「俺、外に行ってくるよー。気になる電器屋があるし。」
とだんなが一人買い物に出かけていった。30分ほどして戻ってきたその手には、東京じゃ品薄で入手困難だというゲームボーイの充電器が握られ、天むすの小さな袋もまたぶら下げられていた。充実したお買い物タイムだったらしい。

名古屋名物とうたわれる「天むす」だが、「天むす」を「天むす」として商標登録しているのは「千寿」という店なのだそうだ。デパートの地下食料品売場にて5個600円だったという、小さな包みを開けて第二のおやつ。お供に冷茶。

まだほの温かい天むすは、まん丸でころころしていた。海苔が細長く、ちょいと不思議なラインを描いて巻かれている。肝心の海老の天ぷらは、御飯にほとんどくるまれて薄く茶色い衣が見えるか見えないかという感じ。小さくて可愛い天むすだ。

うっすら甘いタレに絡んだ、しっとりした小さな海老天が入るおむすびを1人2個くらいずつぽいぽいと食べる。現在、時刻は5時。夕食前にこんなん喰って良いのだろうか。

「千寿」の
天むす
\600/5個

胡椒たっぷり手羽先〜「世界の山ちゃん」

一応予定では、本日の夜は味噌煮込みうどんを食べに行くことになっていた。
が、昼に味噌カツを喰って夜に味噌煮込みうどんを食べるというのはいかにもヘビィだ。手羽先を喰いに行くことにした。

手羽先の有名店は「世界の山ちゃん」及び「風来坊」という2大チェーン店であるらしい。名古屋駅からほど近いガード下にあるらしい「世界の山ちゃん」を目指してみることに。
午後6時45分、店は既になかなかの混雑だった。たまたま空いていた座敷席に通されて、足を伸ばしてくつろぎながらメニュー検討。基本は居酒屋であるので、酒の肴系食べ物ばかりが並ぶ。5本380円の手羽先はとりあえず10本、そしてサラダや串揚、どて煮などを次々と注文。当然ビール。

しかし、店頭にでかでかと描かれていた社長の顔らしいイラストが、店内にも溢れている。何やらイヤらしげな眼の垂れ眼のおっさんの絵だ。これ……初めて来る人には逆効果な宣伝なような。ちょっと怖い。ていうか引く。
おっさんは、箸袋にまで登場し、「手羽先の美味しい食べ方」を漫画で指南している。曰く、"く"の字の接合部をひねってちぎり、大きい方の身は歯で挟んで引っ張る。肉を綺麗にしゃぶって骨だけになるように。骨までしゃぶって欲しいのだと力説している。座敷の壁に掲げられた店の新聞の名は「てばさ記」。ベタベタなネーミングなのだった。これが名古屋か。そうなのか、名古屋。

丁度注文が混みあっている時間帯なのか、最初のビールが来てからしばし時が止まる。座敷席のふすまの向こうからは「あいにく満席になりまして〜」なんて言葉も聞こえてきた。で、やっと手羽先の登場。
茶色くテラテラと光る手羽先は皮がパリパリ、そして胡椒がこれでもかと効いていてピリ辛だった。ビールが進むことこの上ない味になっている。手羽先の"く"の字の中央をパキンと2つに折ってそれぞれしゃぶるようにして食い尽くす。濃い味でビールが進む。進みまくる。こりゃいいや。いいけど、胡椒効きすぎなような気もしないではない。

焼肉サラダはにんにく醤油味の焼き肉がこれでもかと乗るキャベツサラダ、クラッカーチーズはクラッカーにパイナップルを混ぜたクリームチーズが添えられる。400円の串揚もりあわせは2本ずつのみそかつ、チーズフライ、うずら卵のフライのセット。細い串に小さなフライがそれぞれ刺さっていてこれまた悪くない。

……しかし、確か「昼に味噌カツ食べたから夜は手羽先にしよう」と言ってここに来た筈なのだった。小さいとはいえ味噌カツを食べ、しかもどて煮まで喰ってしまって、もう何が何やら、という感じ。
どて煮は、豚のモツとこんにゃくを八丁味噌味のタレでこっくりと煮たもの。シチューのような見た目で、椀に盛られてやってくる。こってりと甘いタレに浸ったモツもこんにゃくも、どれを喰っても味噌味噌味噌味噌とひたすら濃厚な味がした。甘いよー。味噌だよー。濃厚だよー。美味しいんだけど、美味しいんだけど、私の胃袋はちょっとばかり「八丁味噌がお腹いっぱい」状態になっていた。胃袋に脅えが走る。
何だか名古屋は、味噌の味。

シメは、醤油味の焼きそば。薄い醤油味の焼きそばは、しかしこれまた胡椒がこれでもかと効いていた。どうやら胡椒大好きな店らしかった。悪くないけど、鼻がもげもげしてくるような感じ。

けっこうな量を食べて食べて、お会計は5000円を切っていた。いいなぁ、手羽先。

名古屋駅前 「世界の山ちゃん」にて
手羽先唐揚5本
焼き肉サラダ
クラッカーチーズ
串揚もりあわせ
どて煮
鶏皮パリパリ揚げ
しょうゆ味焼きそば
ビール
\380×2
\490
\350
\400
\390
\350
\490
\780

食後は、2km超あるホテルへの道のりを歩いて帰る。そして大浴場でのびのび入浴。大浴場のあるホテルはやはり素晴らしい。