12月10日(金) カヤトーストとホーカーズとナイトサファリ

シンガポールのニャンコたち

「明日は絶対カヤトースト。シンガポール名物、カヤトーストの朝御飯を食べるんだよ。食べるんだもんね〜」
と宣言して寝た昨夜。ホテルの朝食はどっちみち無料だからジュースの一杯でも飲みに行ってよいのだけれど、行ったら絶対何か固形物を口にしてしまいそう。だから私はパスしたのだけれど、
「私、朝にヨーグルト食べないと調子出ないのよね」
「ぼくはぁ、カリカリのあさごはんのほうが、好きなんだなぁ」
と、母と息子は2人で階下のブッフェ開催中カフェテリアに行ってしまった。私は部屋でボーッと待機。しばしして2人が戻り、9時を過ぎた頃に本日の散策へと出かけていった。

ねてます こちらはキジトラニャンコ

目的地はチャイナタウン。ホテルの前にタクシーがいなかったので、ちょっと歩いたところの交差点で拾いましょうかねと、100mほど通りをてくてくと。歩いてその交差点に行きたいのにはもう1つ理由があって、病院があるこの交差点脇の敷地はめちゃめちゃ可愛い子猫数匹の生活圏となっているのだった。触らせてくれるほど近くには寄ってこないけれど、数メートル先までちょこちょこ寄ってきては愛くるしい姿を見せてくれる。

「きょうは、ねこさん、げんきかな?」
「うん、どうだろうねぇ、起きてるといいねぇ」
とか言いながら、この滞在中ずっとずっとこの交差点の敷地を気に掛けていた私たちだった。案外と無防備に、人が歩くほんの1メートルほど先でくーくー寝たりしている。……うー、スーツケースに入れてお持ち帰りしたいよう。

色々歩いて思ったけれど、シンガポールは案外と野良猫が多い。バリ島なんかは、ちょっと不気味にさえ感じてしまうガリガリに痩せた犬が町中にいたりするのだけれど、そういった犬の姿は全くない。代わりにアラブ街や中華街あたりで、けっこう頻繁に猫を見かけた。可愛がられているのか、人慣れしていてあまり逃げる様子もない。猫を見るたびに
「写真撮らせてえぇぇぇ」
とおっかけしている私(←猫フェチ)だった。……動物の写真って、撮るのが難しいね。

上の子猫2匹のお母さん?同じ場所にて アラブ街で見た茶猫
これは植物園の猫。蘭に寄り添ってます。

甘いトーストは甘いコーヒーと共に〜「Ya Kun Kaya Toast」

どこか香港のお粥屋さんのようでもある "交差点の猫"を今朝も堪能して、首尾良くタクシーに乗り込み、「チャイナタウンへ!」とお願いする。目当てのお店はカヤトーストが名物の老舗のお店、「Ya Kun Kaya Toast」。店頭に書いてあった漢字を見ると「亜坤(ヤークン)」というのが中国語での店名になるらしい。ちなみに「カヤトースト」は「 [口加]椰 [火考]面包」となる模様。

シンガポール内に現在15店舗ほど展開しているこのお店、一応チャイナタウンのFar East Squareにあるのが本店である……らしい(違ってたらごめんなさい)。一度移転しているそうで、ツルッとした床に、無造作ぽく置かれたテーブルと椅子、高くない天井は、どこか香港のお粥屋さんのような雰囲気もある。外にもパラソルつきのテーブルと椅子がいくつも並んでいて、こちらも気持ち良さそうだ。

勝手に席についちゃって良いのかしら?とお店の入り口あたりでキョロキョロしていたら、お店のおっちゃんが
「コッチコッチ、外、キモチイイヨー」
と屋外の席に案内してくれた。片言の日本語ながらえらいスピードで
「トースト、1人ヒトツ?コーヒーコウチャ?エッグは?」
とまくしたててくる。他に何のメニューがあるのか知らないまま、トースト2人分、卵も2つ、アイスコピを3つ注文。数分後には、深皿に入れられた半熟卵がやってきた。

ほんの数分だけ茹でたゆで卵みたいな感じの、とろんぷるんとした卵。テーブルには卵と同時に醤油と胡椒もやってきて、「好きなようにかけて喰え」ということであるらしい。とりあえず、トーストが出てくるまでに卵をつるりとたいらげちゃう。醤油をちらっとかけてトロリとした卵に混ぜると、日本人としてはそのままアツアツの白い御飯にぶっかけたくなるもので、その欲望をぐっとこらえつつ、そのままそろりそろりとスプーンですくいとりながらペロペロと舐めるように食べる。なんてことないけれど美味しい卵だ。うん、このプリトロ感がなんともねーとか何とか言っていたら、お待ちかねのカヤトーストとコピもやってきた。
これがカヤトースト。あまうまっ

シンガポール名物「カヤトースト」とは、甘いペーストをこってり挟んだ薄切りパンのトーストサンドイッチのこと。ペーストの材料はココナッツミルクと卵と砂糖なのだそうで、店によってそれぞれレシピが異なるらしい。トーストしたパンにそれをこってりと塗り、バターも一緒に挟んでサンドイッチに。それにシンガポールのコーヒー「コピ」(練乳を入れた甘〜くミルキーなコーヒー)をあわせるのが最高なのだと聞く。

炭火でトーストしているのだという茶色みがかったパンは、カリカリサクサクの歯触り。まるでラスクのようにサクサクとした食感のその2枚の間にはカヤジャムがたっぷりと塗られている。バターも「厚切り」というか「厚がけ」というか、とにかくごろっとしたものがジャムと一緒に挟まっていた。確かにジャムは甘く、甘いのだけれどそれほどコッテリした風じゃなく、案外ばくばくと食べられる。ほんわか漂うココナッツの風味がなんとも素敵で、その甘さが練乳入りのコーヒーに素晴らしく良く似合う。ココナッツ味は大好物だし、練乳の味なんかもこのうえない好物なので、この組み合わせが嫌いなはずがない私。すてきすてき、この朝食は最高だわー!と大喜びだ。

やってきたトーストは、7cm×7cmくらいなのを1切れとして、4切れが1人前のよう。息子が1切れ、母が2切れ3切れほど食べて、
「ほらほら、美味しいでしょうカヤトースト。どう?」
「うん、美味しいわね。でも、ちょっと多いわ。あと食べてね、由紀ちゃん」
なんて事になり、1.2人前くらい食べた私はほんのりお腹一杯になってしまった。
カヤトーストが美味しいお店はまだまだあり、それぞれパンの感じやジャムの味も異なるそうで、食べ歩きするのも面白そうだ。

このお店、お土産用のコーヒー粉とカヤジャムもあるとのこと。ジャムとコピ、お土産にいただきたいんですがー、とお願いしたらすぐに持ってきてくれた。散策最初にいきなりちょっと重めの荷物を得てしまい、袋をぷらぷらさせながら中華街散策。

Chinatown 「Ya Kun Kaya Toast」にて
カヤトースト
半熟卵
アイスコピ
 
お土産カヤジャム
お土産コピ粉
 
2* $?
2* $?
3* $?
全部で$6.80
 
 
合わせて$11.00

中華街巡り、そして蛋撻

photo まだ10時にもならない時間帯。日本の中華街は、そのほとんどが飲食店で占められていて、あとは雑貨屋とかお茶屋さんがその隙間を埋めるように……という感じだけれど、ここは普通の住宅街然とした通りが多いように思われる。ぽつりぽつりと寺院があり、飲食店が並ぶ通りも「いかにも中華料理」という風ではなくて、夜だけ営業のちょっと洒落た店構えなものがよく目についた。期待の雑貨屋さんも、さほど数がない。

中華街に限らず、シンガポールの町を歩いていると左の写真のような観音開きの鎧戸のついた建物ばかりをよく見かける。壁の色はカラフルで美しく、白い壁に青い鎧戸、クリーム色の壁にグリーンの鎧戸など、目に鮮やかな建物が多かった。
特に写真の建物は、窓1つ1つに美しく花を飾っていて、とても素敵。

とりあえずちょっと歩こう、と、Telok Ayer Green(テロック・アエー・グリーン)やThian Hock Keng Temple(ティアン・ホッケン寺院)がある方向にてくてくと。

"Telok Ayer"とはマレー語で「水際」の意味だそうで、かつてこのあたりが海岸線だったとか。それを示す碑や銅像があるのが小さな公園「Telok Ayer Green」で、そこを少し南下するとシンガポール最古の中国寺院「Thian Hock Keng Temple」がある。私たちが訪れた時はちょうどオージーの観光バスが到着したばかりのようで、寺院内は体格の良いおっちゃんおばちゃんで溢れていた。

横浜の中華街でお馴染みの関帝廟などとはまた赴きの違う、横方向に長いどっしりとした建物を構えた寺院だった。そこら中にお香の匂いが漂い、豪奢な金の飾りや龍の彫り物を堪能しながら境内をぷらぷらと。
photo photo

建物もさることながら、私は床に綺麗に張られたタイルの模様に釘付けで、
「わ!あそことここも模様が違う!」
「わお!壁にまで!」
とタイルの写真をせっせと撮ってみたりして。凝った模様も素敵なら、その色合いもとっても素敵。緑がかった青や、この国の空のような突き抜けた青が目に染みる。

更にてくてく歩いて今度は「Sri Mariamman Temple」(スリ・マリアマン寺院)方面に。こちらはシンガポール最古のヒンドゥー教の寺院。独特な台形の形状をした華やかなゴープラム(高門)がそびえ立ち、数百メートル先からも「うわ!何かある!」という風によく目立つ。このあたりの通りにはおみやげ物屋さんも多く、怪しいTシャツが売られていたり、中華チックな小物も売られていたり。

とある屋台の店で、立ち止まる。
「この布、すてきよすてき……って、布じゃなくてショールなんだ。……え?1枚15ドル?14ドルにしてくれるの?」
お店の人と交渉をし始めたら、
「あらぁ、いいわぁ由紀ちゃん、1枚ずつ買いましょう」
と、母も参戦。
「じゃあ、えっとー、2枚買うから、もっとディスカウントしてくださーい。……ダメ?」
交渉して、でも結局2枚で28ドル。もうちょっと粘れば良かったかなぁ……と思いつつ、満足のいくお買い物にブルーのショールを大事に抱えて、更にてくてく。母はアンティークを扱うお店で七宝焼きみたいな焼き物のブレスレットを買っていた。

Chinatown 「Sri Mariamman Temple」近くの屋台にて
ショール2つ
$28.00

そろそろ歩き疲れて一休み……と、ここで目を付けていた「美味しいエッグタルトの店」に。
「Tong Heng」(トン・ヘン=東典)という名のお店、店内に小さなイートインコーナーもあり、缶ジュース類も置いてあったのでここで休憩することにした。
ぷりぷり蛋撻

「エッグタルトは〜……1人1個でいいですか?」
「いいわよ」
「いいよぅ〜」
と、まずは名物エッグタルト(蛋撻)を1人1個。歩き疲れただろう息子のリクエストに応じてあげて、息子にはコーラを1本。できれば甘くないお茶が欲しいんだけど……冷蔵ケースに入っているお茶は、なんかどれも甘そうなものばかり。

「杏仁豆腐ってないのかしらね?私大好きなのに。……あらぁ、"杏仁茶"ってあるじゃない。これ飲むわ」
冷蔵ケースを覗いて、うきうきとそう言う母。
「あのね……それ、甘いよ、けっこう、きっと。それにけっこうくどいと思うから、喉乾いた時には逆につらいかもよ」
「いいのよ、杏仁味なんでしょ。これくださぁーい」
一応脇からアドバイスしてみたのだけれど、聞いちゃいない私のママン。こりゃ、私の分の飲み物は買わない方がいいだろな……と、私の飲み物は買わずにとどめておいたのだけれど、案の定数分後に
「由紀ちゃん、これいらない」
と言い出した。……だから言ったのにー。

エッグタルトは通常は丸っこいものだけれど、このお店は菱形をしている。しかも1個1ドル(60円!)という価格に反して、大きさもたっぷりどっしり。中華系のパイより洋風のパイに近い、サクサクパリパリとした歯触りのパイで(中華風のはもっとモロモロポソポソとした歯触りになる)、卵たっぷりのプルンとした黄色い生地は、いーい具合にプルプルプリプリ。甘さも強すぎず弱すぎずでとても好みな味のエッグタルトだった。

で、冷たい杏仁茶は少々粉っぽいところはあったけれど、甘さは思ったよりも強くなく、想像していたよりもずっとずっと飲みやすかった。レトロなパッケージが良い感じの、他ではあまり見かけない類の杏仁茶だったな。

Chinatown 「Tong Heng」にて
エッグタルト
杏仁茶・コカコーラ
 
3* $1.00
 
全部で$6.20でした

お昼はここからほど近いホーカーズ(屋台街)に行こうと思っていたのだけれど、まだ各店がオープンする11時までは20分ほどある感じ。確かこのへんに、気になるお茶屋さんがあったはず……と少し歩き、次なるお店は「Yixing Xuan Teahouse」(怡心軒)という中国茶専門店。

店の入り口付近には、様々な茶器が飾られ販売されていて(割と古風な感じのが多かった)、茶葉も10種類以上が置かれていた。奥からご主人が出てきて、「ちょっと飲んでいかれます?」とあれこれお茶を試飲させてくれる。お客が他にいなかったのを良いことに、隨分長居してあれこれ飲ませていただいてしまった。

扱うお茶は中国産と台湾産のもの2種類。台湾のご出身なんですか?と尋ねたところ、シンガポールに来て2代目で、その前のご先祖が台湾に住んでいたとか。あそこのあのお茶は美味しいですよね、なんて話をしながら東方美人をいただいたり、スタンダードな味わいの鉄観音をいただいたり。3種類目にいただいた「金萱」(Jin Xuan Oolong)の味がダントツに美味しくて、値段を聞いたらこれがまたダントツにお高くて、あれこれかなーり悩んだ末に一缶いただいてきてしまった。母は母で、「これ、ミルクピッチャーにいいわぁ〜」なんて、茶海(ほんとはミルクピッチャーじゃなくて、お茶を均等に碗に注ぐために一旦茶壺からお茶を移すための器なのよ……)を1つ購入。
「はぁ〜、お茶でお腹ぽんぽんになっちゃったよ」
とか言いながら店を出る頃には、ちょうどホーカーズも各店オープンした頃だった。

Yixing Xuan Teahouse」にて
特選 金萱
$80.00

初体験、ホーカーズ〜「Maxwell Food Centre」

わくわくしちゃうよ ホーカーズとは、シンガポールにおける屋台街のこと。シンガポールは全体的に清潔感が漂う都市で、それは屋台街においても例外ではなく、台湾やインドネシアあたりの屋台と比べるとずっとずっと安全性が高いという。台湾ですっかり屋台の味に取り憑かれた私は、なんとしても一度くらいはシンガポールの屋台街というところにも行ってみたくて、
「だから、一度だけ。ね、今日のお昼に、これ!っていう屋台街のそば通るから。ね?」
と、その手のものがほんのり苦手な母にお願いして、行ってみることにしたのだった。それが「Maxwell Food Centre」。2001年にリニューアルした、人気のお店も多い、規模の大きめなホーカーズなのであるらしい。

「ほら、いっぱいお店あるでしょ?好きそうなの言ってくれれば、私が買ってきてあげるから。にんにくも入れないでって、ちゃんと言ってあげるから」
ざっとひと通り見て、母と息子を適当な席に座らせてからあれこれ買ってテーブルに運んでみる。お店は100軒ほどもあるだろうか、麺料理ありお粥ありデザート専門店ありドリンク専門店ありと、とっても多種多様。屋台に囲まれるようにたっぷりの椅子とテーブルがあり、食べたものはその場に置いておけば担当の人がどんどん片づけてくれる。
香港麺。細く固めの麺が、いかにもな味

「焼きそばみたいなのだったら良いかしらね。……うん、この焼きそばがいいわ」
写真つきのメニューが並ぶとあるお店、"Hong Kong Mee"と書かれたその写真を指さして母が言い、息子も「ぼくもー」と続けて言った。じゃあ、万が一「ハズレ」だった場合の事を考えて、とりあえずその香港麺をひとつ。お菓子がたくさん並ぶお店で中華蒸しパン(馬拉[米羔]=マーライコー)も見つけたので、これなら絶対大丈夫と息子用にひとつ。フレッシュジュース屋さんを発見したので、そこでストロベリーバナナシェイクもひとつ。とりあえずそれだけ母と息子のために用意して、いざ自分のものをとじっくり屋台を見て歩く。

台湾の屋台は、いかにも「これは台湾の食べ物でございます」といった風の料理が多くみられたけれど(他の国じゃあまり見かけないような、麺料理ひとつとっても香港とかとはちょっと違うぞ、みたいな)、シンガポールの屋台は内容がとても雑多。中華料理を食べる人なら誰でも知っているような、馴染み深い写真が並ぶ餃子屋さんや麺屋さんお粥屋さん、そしてコテコテのインド料理っぽいお店、バリ島に旅行したときに食べたサテとかミーゴレン、ナシゴレンのお店。ひとつの空間で4〜5カ国分の料理は簡単に味わえそうな豊富なメニューが揃っていた。中華街にあるホーカーズということでほのかに中華料理っぽい品揃えかなという印象で、そして日本料理というものは特にないみたいだ。
案外とあっさり味だったバクテー

気になるものは数あれど、私が食べられるのは1種類かせいぜい2種類。どうするどうする、あそこはとっても行列していて美味しそうだけれどお粥のお店みたいだし、今はお粥って気分じゃないし……とあれこれ考え、以前から食べたいと思っていた「Bah Kut Tea」(肉骨茶=バクテー)を食べることにした。その名も「南京街肉骨茶」というお店で、「バクテー1つ!」と注文する。小ぶりのラーメン丼くらいのサイズのプラスチックの器に、たぷたぷと褐色の汁とスペアリブの巨大な肉がごろごろと5本くらい満たされたものが渡された。そろそろとそれ持って、あとは他の店で買ったボトル入りの水もトレイに乗せて席に戻ると、
「なにこれー?」
と、母と息子から予想通りの反応が。スペアリブだよ、バクテーだよ、美味しそうでしょ。バクテー、3ヶ所くらいで見かけたんだけど、一番美味しそうに見えたところで買ってきたんだから。

予想通り、
「なにこれ、にんにくくさーい」
と母に言われてしまいつつ、いいの、私が食べるんだからいいの!と、初体験バクテーをがつがつと。労働者の朝御飯として食べられているらしいバクテー、御飯を添えて中国茶をガッパガッパと飲みながら食べたりするらしい。店によってはやたらと漢方薬臭かったりにんにく臭かったりするという話だけれど、私が今回食べたこれは案外とあっさり味。スープの色こそドロリと濃厚に黒みがかっていたけれど、醤油がベースと思われるその味は案外とあっさりしていた。さほど塩辛くもないし、甘ったるさもない。ただ、肉は骨から身がスルリと外れるほどに柔らかくふくよかに火が通っていて、とろけるように柔らかい。見かけはいまいちそっけない料理だけれど、すっごく美味しかった。最後に白い御飯を入れてかき混ぜて啜りたいような、そんな味。

香港麺は、いかにもな細く固めの麺ともやしや青菜、海老や豚肉を炒め合わせた具沢山なもの。適度に塩気がつき、オイスターソースの味がほんのりと効いている。もしも母も息子も麺を食べなかったらどうしよう……と思っていたので、その保険にと私は御飯をつけなかったのだけれど、案の定
「ぼく、パンたべたから、おそばは少しでいいんだよ」
「私も焼きそば、このくらいで充分だわぁ」
と焼きそばが1/3くらい残されて私の元にやってきた。で、私は焼きそばチュルチュル食べながら褐色のバクテースープをゴブゴブと。170円くらいしかしないくせに、さりげなく豪華な麺料理だ。屋台料理、ブラボー。

「食後にフルーツ、食べたいわぁ」
余裕が出てきたのか、そんな事言いながら目の前のフルーツ屋さん(ストロベリーバナナシェイクを買ったお店)を覗いている母に、
「頼めばジュースじゃなくてフルーツのまま出してくれると思うよ。……買ってみれば?」
と言い置いて私はスペアリブでベタベタになった手を洗いに中座したのだけれど、戻ってくるとそのフルーツ屋の前で
「これ、ドリアン?ドリアンじゃないの?マンゴー?ほんとにマンゴー?」
と、日本語でまくしたてている我が母が。さっき私が買い物した店員さんは、困ったような表情をして「助けてくれよー」と目線で私に訴えかけてくる。助太刀しようと思っている間に商談はめでたく成立したらしく、キウイと梨とマンゴーのカットフルーツのプレートを作ることで双方合意したらしい。やけに華やかな模様のついたプラスチックのプレートにそれらを盛り合わせてもらってきて、母は満足そうだった。

で、そのフルーツプレート、母曰く、キウイと梨は甘さが少なくていまいちだったそうだ。でも、マンゴーの味は最高で、
「ほら、食べてみなさいよ由紀ちゃん、このマンゴー」
とお裾分けしてもらったそれは、これまで食べたどんなフィリピンマンゴーより甘く感じた、とんでもなく美味しいフィリピンマンゴーだった。今年の夏に何度か国産のアップルマンゴーを口にする機会があり、それも相当甘く相当美味しかったけれど、それよりも甘いかもしれない、完全に完熟した黄色いマンゴー。とろけるように柔らかく、独特の花のような匂いがイヤミに感じさせることなく口の中にふわぁと広がって、へたなケーキよりもずっとずっと美味しいシロモノだった。うわぁ美味しい美味しいどうしようなんだこりゃ、すっごく美味しいじゃないこれ!と、お土産に包んでもらうことに。

「えっとー、このマンゴー、持って帰りたいの。カットしてくれる?」
先ほど、母に日本語でまくしたてられて困惑しまくっていたお店のお兄ちゃんのところに行き、今度は私が身振り手振りで要求を伝えてみる。ビニールにカットマンゴーを丸1個分入れてもらって、ちゃんと竹串(フォーク代わり)を添えてもらって、何より何より。「このジャパニーズ、そんなにうちの味が気に入ったのか」と店のお兄ちゃんも何やら嬉しそうだった。しかもこの、超旨マンゴーがたったの150円くらい。なんだこりゃというほどお安い。いいなぁ、南国。

あれこれ買い物しちゃったし、ビニールに入れたマンゴーなんか持ってるから地下鉄に乗るのもねぇ……と、タクシーでホテルに一時帰還。

Chinatown 「Maxwell Food Centre」にて
店名不明の馬拉[米羔]
「吉雄小吃」の香港麺
「南京街肉骨茶」の肉骨茶
「848 Fruit & Juice」の草梅青蕉[女乃]
「848 Fruit & Juice」の切果
「848 Fruit & Juice」の芒果(テイクアウト)

$0.80
$3.00
$4.00
$3.00
$3.00
$2.40
$1.00

プールでのんびり

「プールに、はいりたいなぁ〜」
泊まるホテルにはプールがついているみたいだよ、と、旅行前に伝えておいたところ、それからずっとずっと「プールはいりたいなぁ」と言っていた息子。一応、水着も持ってきた。昨日朝食を摂った後に
「プールはどこにあるのかな?」
と探検して、地下2階にあるプールの場所を確かめてきてある。大きいとはいえない屋外プールだったけれど、大人用プールの他に子供用の3m×10mほどの浅いものもあり、毎朝ちゃんと清掃されている様子。朝10時から夕方頃までオープンしている。

一度プールを目にしてしまってから息子はますますご執心で、昨日からずっとずっと「プールはいりたいなぁ」コールが続いているのだった。
今日は夜に出かけようと思っているし、この蒸し暑い時間帯に外を歩き回っているよりはホテルでのんびりしている方が得策かと判断して、午後は何時間かのんびりプールに行くことに。部屋で着替えて適当に上着をひっかけ、階下にあるプールに向かう。ビルの谷間に作られたようなプールは昼のほんの数時間しか日光が差さないような場所だったけれど、それなりにお客さんで混雑していた。プールサイド脇でタオルを人数分借り、日の当たるデッキチェアを3つ取ってからおもむろに水遊び。

水深60cmの子供用プールはとても水が温かだったけれど、水深が浅くて1.5m深いところは3mもある大人用プールの水はさすがに温かいとは言えない。深いところはじーんと冷たく、ちょっと泳いでは日に当たって乾かしたり、すぐ脇の子供用プールに移動して息子と遊んだりを繰り返すことになった。

少しだけ顔を水につけてバタ足で数メートル泳げるようになった息子の泳ぎの練習をしている間に、どうも雲行きが怪しくなってきた。午前中は雲一つない良い天気だったのに、どんどん黒い雲が押し寄せてくる。午後3時くらいには部屋に戻り、温かいシャワーを浴びて一息ついて、買ってきたマンゴーを皆でつついていると、ベシベシと窓を水が叩き始めた。それがすぐにバシバシと強い音になり、雷まで鳴り始める。この季節は雨期。昨日は一度も降られなかったけれど、この時期は一日に一度か何度かバケツをひっくり返したような雨が数十分あると聞いている。1時間くらい激しい雨が降り続き、その後カラッと晴れてしまった。……そろそろ出かけても大丈夫かな?

ぷりぷり小龍包を食べに〜「Crystal Jade La Mian Xiao Long Bao」

午後4時半。スコールの後だから少しは涼しくなったかしら〜と、外に出てみれば、まだまだまだまだ蒸し暑い。逆に、雨が降ったせいで一層湿度が増したようで、空気が体にべったりとまとわりついてくる。そういえばデパートの中のお店なんかはまだ少しも見てなかったねと、オーチャードの大通り沿いの大きな建物をちょこちょこと見て歩いた。

オーチャードロードのひときわ目立つでっかい建物が、高島屋デパート。すぐ隣には伊勢丹などもあって、
「日系のデパートって……どんなもの置いてあるんだろうね」
と高島屋の"デパ地下"(地下2階だった)に足を踏み入れてみたら、これがとんでもない混雑ぶりだった。日本のデパートと同様に総菜屋さんやお菓子屋さんが詰め込まれたデパ地下は、人をかきわけて進まなければならないほどの大混雑。我が家近くのスーパーにも入っているシュークリーム屋さんがあったり、カツサンド屋さんがあったり串揚げ屋さんがあったり、品揃えは微妙に違うけれど、紛れもない「デパ地下」がそこにあった。もう少しじっくり見て歩きたかったのだけれど、何しろ大変な混みようで、デパ地下というより年末のアメ横か何かのよう。こりゃ長くはいられないねと早々にフロアを移動することにした。

私や母が気になるもの(←調理器具や生活雑貨だ)を売っているフロアは地下1階。年末のセールシーズンなのかワゴンセールの食器があったりして、それらを眺めつつ雑貨のセレクトショップみたいなコーナーで足を止める。カラフルな模様のついた揃いの名刺入れとマネークリップのセットが並んでいて、
「……これ、海外出張行ったときに使ってくれるかなぁ」
と、だんなにお土産を購入。白と黒の格子模様や、ほのかにパステル調のストライプ模様なんかがあって、男性向けとも女性向けとも取れる柄が多かった。
「おとうさんに、どれが似合うと思う?」
「んとねー、これかなー」
息子と相談して、ブルーが基調の名刺入れセットを購入。案外安かった……。

Orchard 「Takashimaya Shingapore」にて
Avveus Lifestyle (名刺入れ)
Avveus Lifestyle (マネークリップ)
$15.90
$12.90

さて、ちょっと早めの夕御飯は
「普通の中華が食べたいわ」
という母のリクエストに応じて、事前に「ここの小龍包は美味しいですよー」と教えていただいていた「Crystal Jade La Mian Xiao Long Bao」(翡翠拉面小龍包)に向かってみた。高島屋デパートの4階に入っており、同じフロアのすぐ近くには同じ系列の高級店も構えている。更には地下にぐっとカジュアルなお店も持っていて、他にもあちこちにお店があるみたい。

「ここなら、けっこうちゃんとしたものが食べられそうだし、そんなに肩肘張ったお店でもないし、いいんじゃない?」
と、夕飯にはちょっと早めの5時過ぎという時間帯に、ほぼ満席という混雑ぶりのそのお店に入ってみた。4人がけのボックスシートなんかもあって周囲には家族連れも多く、雰囲気はファミレスだ。

メニューには馴染み深い一品料理の中華料理名も並び、点心類も30種類ほどはあっただろうか。更には店名にもあるとおり、麺料理もあれこれと。品数豊富でわくわくしながら悩んでしまう。卓上には印刷されたオーダー用紙が置いてあり、そこに個数を書くなりチェックを入れるなりして店員さんに渡すようになっていた。どのくらいの分量が出てくるかわからないし、それぞれの喰いっぷりを見ながら適当に追加注文しようねということにしたのだけれど、これが後の悲劇を招くことになったみたい……。

まずは、お店のおすすめだという小龍包を。あとは旅行中は野菜不足になりがちだしと、野菜炒めもひとつ。前菜は塩漬けダックを1皿と、そして「北京風水餃子」なるものもひとつ。そして母のリクエストで鶏を使った酢豚みたいなの(糖醋鶏球)も。これからちょっと遠出するというのにしっかりビールも注文して、
「かんぱーい」
「いただきまーす」
とのんびり夕御飯を堪能してしまった。

スープぶりぶり小龍包 酢鶏もなかなかのお味
これが干し龍眼のデザート

どれも洗練された味の、安心して食べられるものばかりだった。全体的にほんのりと塩気が強めかなという印象もあったけれど、シャキッと歯ごたえの残る程度に絶妙に火の通った青菜(香港野菜とメニューにあったけれど、多分あぶら菜だと思う)とか、ふくふくと柔らかな骨つきの塩漬けダックとか、見事にカリッとした衣の歯触りが残っている"酢鶏"とか、どれもこれも懐かしささえ漂う美味しさだった。どの皿も300円とか400 円とか、せいぜい600円とか。こんなにカジュアルな価格と空間でこれだけ美味しい中華料理を食べられるというのは幸せなことだ。

スープが欲しいねと注文してみた「清[火屯]鶏湯」は、骨付き鶏の入った澄まし汁。深みのある味で嫌みがなく、これもとても素敵な味。期待の小龍包もきっちり外さず、中からたぷたぷとた〜っぷりのスープが溢れ出す素晴らしいものだった。皮はちょっと厚めでモチモチとしていて、中の肉あんもたっぷりと。外の皮と中の肉が微妙に違うモチモチ感があって、中からあふれ出すスープがそのモチモチをスッと溶かしてしまうような感じ。やっぱりちょーっと塩気が強めではあったけれど、これがたったの200円だなんて、近所にあったら絶対通ってしまいそうだ。

あまり小龍包を食べたことがなかった母、「これは美味しいわねぇ!」と大喜びでもう1蒸籠追加(1蒸籠は4個入り)。
「……で、まだいけるかな?チャーハンくらい、最後に食べたいよね」
「うん、じゃあこの五目っぽいのがいいかな」
と、「三鮮炒飯」も注文。小龍包の追加と一緒にそれをお願いしたのだけれど、先にやってきた追加小龍包をつつき終わったところで、お店の人がテーブルに敷いていたランチョンマット代わりの紙と一緒に箸もレンゲも全部さらって持って行っちゃった。小龍包の汁やら何やらで紙がけっこう汚れてしまっていたから取り替えてくれるのかしらん?なんて思っていたのだけれど、な〜んにもなくなっちゃったテーブルの中央に炒飯がドスンとやってきて、他には何もないままに。……おやー?

給仕の人はせわしなく動き回っているのに、数分待っても取り皿や箸が来る気配が全くない。こちらも必死になって店員さんをつかまえて、
「箸、くださいな」
と英語で伝えてみる。あと、皿もよ……と言おうとしたのだけれど、それを遮るように
「Go Away?」
と。そうそう、全部持って行かれちゃったのよ、go away されちゃったのよー、と、そういう意味にとってしまって頷くと、その店員さん、炒飯を go away してしまった。……茶碗も何もないから取り分けてきてくれるとか?……まさかねぇ……と不安ゆんゆんで待っていたら、お持ち帰り用プラスチックタッパーに詰めた炒飯が袋詰めされたものが数十秒後にテーブルにやってきてしまったのだった。違う違う、そうじゃなくてね……という気力もごっそり消え失せるほど綺麗に包まれちゃったそれを見て、それはそのまま次の目的地に持っていくことに。うう、アツアツの炒飯が食べたかったんだけどなぁ……どうしてこんなことになっちゃったのか。追加注文なんてめんどくさいことやったから勘違いされちゃったのかな。しょぼん。

ともあれ、それでもデザートは食べたい気分ではあったので(母待望の杏仁豆腐がここのメニューには載っていたことだし)、1人1つのデザートを注文。これはタッパーなぞに入れられず、ちゃんとスプーンつきでテーブルにやってきてくれて、席でめでたく食べることができた。
母と息子は龍眼(ロンガン=ライチに似た、でもちょと大きめな白くぷるんとした果物)入りの杏仁豆腐を、私はその龍眼を干したものをギンモクセイ風味のシロップで煮込んだというものを。

ねっとりとした食感の、ちょっと不思議な舌触りの杏仁豆腐は、しっかりと杏仁の香りが漂う本格的なもの。私の「銀桂糖水」は香りの良いシロップに白きくらげとクコの実がたっぷり入った冷たいスープだった。干して戻した龍眼では、残念ながら「……これなら生の方がずっと美味しいかも……」と思える少々味気ないものだったけれど、でもちょっと変わったデザートが食べられて私は満足。

Orchard 「Takashimaya Singapore」内「Crystal Jade La Mian Xiao Long Bao」にて
南京金陵鹽水鴨
白灼香港油菜
上海小龍包
北京水餃
糖醋鶏球
清[火屯]鶏湯
三鮮炒飯
龍眼杏仁豆腐
銀桂糖水
ビール
スプライト
$6.00
$8.00
2* $3.20
$4.00
$9.50
$6.00
$10.00
2* $3.00
$3.00
2* $7.00
$1.80

ヘビにもさわれる夜の動物園〜「Night Safari」

夕食後はタクシーに乗って、夜の動物園「Night Safari」へ。
世界でも珍しいという、夜だけオープンする夜行性動物を集めた動物園は、シンガポールの繁華街からかなり北側に位置している。すぐそばに地下鉄の駅があるというわけではなく、個人で目指すにはタクシーを使うのが一番なのであるらしい。

「帰りは大丈夫なの由紀ちゃん?遅くなって、向こうから帰って来られないってことはないの?」
「大丈夫でしょ〜。そうやってタクシーで行くお客さんがほとんどなんだし、帰りも当然タクシーが乗り場に並んでくれていたりすると思うよ?」
心配そうな母に大丈夫大丈夫と告げて、高島屋からタクシーでいざいざナイトサファリへ。タクシーで30分近く、途中高速道路みたいなところをすっ飛ばして行かなきゃいけない距離なのだけれど、でもタクシー代は1000円かかるかかからないかという程度だ。

しっかし、こちらのタクシーは運転が荒い。かなり荒い。特にこの時に乗ったタクシーのお兄ちゃんは、すぐ前に無理矢理ねじ込むように割り込みされたワーゲンビートルに対し、「……ッチッ」と舌打ちしたが早いか、猛烈にそのワーゲンをあおり始めた。無理矢理追い抜き、無理矢理その車の前にねじ込み、「してやったり」という顔をしている。お客として乗っているこっちは
「いいから!報復なんてしなくていいから!そんなに飛ばさないでー!無理しないでー!ヒー!」
という心境だ。ごくごく稀に、急発進急停車乱暴な割り込みをしない運転手さんもいたけれど、ほとんどは最低な乗り心地のタクシーだった。ケーキなんて持ってタクシーに乗った日には、降りる時にはグズグズになっていそうな、そんな感じ。

動物園には午後7時過ぎに到着。確か8時からアニマルショーがあるはず、と、チケットを購入したその足ですぐに「日本語トラム」の予約に走る。入園料は大人18ドル子供9ドル。園内には歩いて回れるトレイルルートもあるけれど、1周45分のトラム(左右の壁がない吹き抜けのバス)に乗るとプラス大人が6ドル子供が3ドルだ。トラムに乗ることでしか見られない動物もいるので、トラムに乗ってトレイル歩いてそれでやっと園の全部が回れる仕組みだ。英語案内の通常のトラムは随時乗ることができるけれど、1時間に1本くらい出ている日本語案内のトラムは予約が必要。やっぱりここは日本語トラムの方が色々と便利かなと予約することにしたのだった。

「今からなら7時○分のトラムにご案内できますが〜」
カウンターには日本人女性のスタッフがいて、しっかり日本語でそう聞かれた。いや、アニマルショーを見たいのでその後のトラムにしてください、とお願いしてトラムの予約も無事に済ませ、ショーまでの数十分、会場近くのフードコートで先ほどのタッパー入り炒飯をつつくことにした。

炒飯は、海老とチャーシューと鶏肉入り。サラッとした口当たりのタイ米が使われていて、卵と葱もたっぷりだ。ベタつかずポロポロホクホクとしていてとても美味しい。美味しいんだけど、やっぱりこれは温かいうちに食べたかったよねぇ……と、苦笑い。ペットボトル入りの水を買って、それで流し込むようにせっせと炒飯をかっくらった後、席が8割方埋まりつつあったアニマルショーの会場に入った。
ここで観客の誰かにも協力していただきましょう〜って感じのところ

ショーの会場に限らず、園内全体はかなり暗め。青く色をつけたライトがぼんやりと照らされ、ショーのいくつかのコーナーでやっとスポットライトが中央に照らされ、写真はなんとかそこだけで撮れるような状態だった。フラッシュを炊いての撮影は禁止されているから(でも、そこら中でお客さん、フラッシュ炊いて写真撮影してたけど……)、肉眼で動物を確認することはできても、写真残すのはなかなか大変なことで、だからこんな薄ぼんやりとした画像しか残せなかった。写真には残せなかったけれど、でもとても楽しい動物園だった。息子はもちろん、私も大満足だ。
大蛇。これに触ってきました

ショーは30分。こちらは英語のショーだけれど、司会のおねぇさんの英語が素晴らしく早口で、ぜんっぜん聞き取れなかった。でも、続々と出てくる動物たちにひたすら「わー」とか「キャー」とか、大人も子供も大喜び。
頭上をフクロウが飛び、ビントロング(ジャコウネコ科の、レッサーパンダみたいな体型の黒い体毛の動物)が頭上に渡されたロープを歩き、目の前2mほどの距離の、土を盛ったステージの上をアライグマやカワウソが駆け抜け、サーベルキャットが地上から2mほどの高さにまで軽々とジャンプする。途中には
「大変だ!僕の友達がいなくなっちゃったんだ!大きくて……長いの……」
「え!?なんですかお客さん!」
なんて仕込み劇もあったりして、とんでもないところからとんでもない生き物が出てきたりも。最後には、その大きくて長いとんでもない生き物に触らせてくれて、私も息子もぺたぺたなでなで触ってきた。大蛇の体って、案外と滑らかですべすべしているのよー。

ショーを堪能した後は、いよいよトラムに乗って園内を一周。ハイエナもライオンもバクもカピバラもカワウソも、皆さん昼の動物園の顔と違って元気元気。サファリパークのように「乗り物のすぐ真横を動物が!」なんてことはほとんどなくて(一部だけ、シカなどが放し飼いになっているエリアがあるけれど)、おおっぴらな柵はないけれど堀や植え込みで動物とこちらの距離はちゃんと取られ、見えない檻ができあがっている。先ほどのカウンターに立っていたスタッフの日本人女性がそのままガイドとして、
「右手に見えてきましたのがサバンナの王者、ライオンでございます〜」
なんてやってくれるのだった。

45分のトラムを堪能した後は、
「せっかくだからちょっとだけトレイルも歩く?」
と、一周15分くらいで帰って来られるであろう「Forest Giants Trail」を歩いてみた。途中には大きな吊り橋もあって、さほど高さはないものの、吊り橋らしくゆーらゆらと微妙に揺れる。周囲はうっそうとしたジャングルのようになっていて、空ではゴロゴロと不穏な雷の音も鳴り始め、本当にどこかの森に迷い込んだ気分。息子は
「ジャングルのたんけん!よるのたんけんだぁ!」
と妙に張り切っていて、もう夜9時を過ぎようという時間帯なのに元気に歩き回っている。その息子の後をついて歩いていたら、一周してすぐに園入り口に戻るはずのルートを間違えて、奥に進む方に来てしまっていた……みたい。

気がつくと、目の前には「East Lodge」の看板があった。入り口からは正反対の位置にある奥の奥にあるロッジで、ここまで歩いてきた20分ほど、同じだけの分量を歩かないと入り口には帰れないということになる。空はますますゴロゴロすごい音を立てて時折閃光まで走っているし、こりゃもうジャングル探検は切り上げてとっとと帰る方が良いのかもしれない。
「……え?まだ歩くの?もうイヤよー」
「いや、イヤも何もね、今一番奥まで来ちゃったから、帰り道進まないと。でなきゃ、英語版のトラムでよかったらここから乗って帰れると思うよ、さっきと同じルート通るけどね」
「ぼくはー、ジャングルたんけんしたいなぁー」
歩きたくない母と、ここで止まっててもしょうがないから歩くかトラム乗らなきゃと思っている私と、まだまだ歩きたい息子。空模様を気にしながら、残りのトレイルも歩いていくことにした。

行きとはまた違ったルートで、途中にはワニがいたりレオパードキャットがいたり、ナマケモノがいたり。"Fishing Cat Trail"とトレイルの名前にもなっているフィッシングキャットは、
「ぼかぁ今、朝食を捕っているところなんだよ」
とばかりに、そばを流れる小川を泳ぐ魚を捕まえようと、あっちをうろうろこっちをうろうろ、目星をつけて姿勢を低くし、尻尾をふって魚に飛びつこうと構えていた。眺めてたらそのうち魚を捕獲してくれるかしら……と、2分ほど眺めていたのだけれど、あまりに天候がヤバくなってきたので"フィッシングキャットの魚捕り"の全貌を確認することなく、そこを離れて入り口エリアに。じゃあ、もう10時半を過ぎてるしタクシー乗って帰ろうね……と、タクシー乗り場に行った途端にすごい雨が降ってきた。スコールの見本のようなスコールだ。

「あっはっは、お客さん、良かったねぇ。すごい雨ふってきたねぇ」
妙に陽気なタクシードライバーの兄ちゃん(でも運転は乱暴)の運転する車で、行きよりは幾分ゆっくりのスピードでホテルに帰還。何しろすごい雨だからワイパーがどんなに動いてもフロントガラスが雨でぼやけて全然見えないのだ。遠くの方にビシビシと稲光が落ちていくのもはっきりと見える中、事故することなく数十分後に車はホテル玄関に到着した。
「はー、もう、さっきお風呂入っちゃったからもういいやー」
「うん、いいやー」
と、私と息子は早々にベッドに沈没。明日はもう帰国だよ、早いなぁ……。

Mandai 「Night Safari」にて
Adult
Child
2* $24.00
$12.00