7月1日(星期日) This is my Stamp.

機上にて

成田10:00発のキャセイパシフィック、CX509便で私たちは一路香港を目指す。だんなも私も5年ぶりの香港だ。念願の香港だ。野望の香港だ。悲願の香港だ。わくわくするなという方が無理である。

機内食は、大人用のは特筆するようなこともない、ごくごく普通のもの。しかし、事前に伝えて用意して貰った3歳の息子用チャイルドミールがなんともなんとも美味しそうだった。
ナポリタンスパゲッティーに、カレー味のナゲットと長いソーセージ。ツナサラダとパンとバターの他は、全て甘いものだらけだ。ぶどうのゼリーに、ポケモンの小袋入りグミ。m&m's1袋。ドリンクはアップルジュースにフルーツオーレ。何かそれ、とても美味しそうだぞ。息子、ずるい。

諸々のサービスが悪くなさそうだし、香港側が運行するフライトなら現地で色々と便利だろうということで選んだキャセイだったけれど、広めの座席幅だとか(←たまたまこの便がエコノミーも広い席の便だったらしい)快適なトイレだとか充実したドリンクサービスだとかで私たちは大満足。

しかも、食後のデザートにとスチュワードがトレイを持ってやってきたその上にはハーゲンダッツアイスクリームのミニカップが山盛りとなっていたのである。これには私たち、心を鷲掴みに。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕はクッキー&クリームをいっちゃおうかな。」
「私はね、私はね、バニラ〜♪」
すっかり浮かれている。デザートにアイスクリーム(しかも好物のハーゲンダッツ)なんて、超絶嬉しい。
「キャセイ、いいね。」
「キャセイ、最高だね。」
ハーゲンダッツアイスクリームですっかりキャセイファンになっている単純な私たちだった(いや、これは重要なポイントだよ、うん……)。

機内食も堪能し、昼寝もし、あと20分ほどで香港に到着という態勢に入りつつあるころから、眼下に不穏な雲がたくさん見えるようになってきた。雲をくぐってもくぐっても、一体何層あるのやら雲の波がつきることがない。そのうちグラグラ揺れ始めたかと思うと、いきなりストーン、ストーン、と2度ほど急速落下した。体感で10数メートル落下したように感じた、ほとんどノリは遊園地。私は、絶叫マシーン系は苦手なのである。ジェットコースターはともかく、急速落下系はとにかく苦手なのである。もともと飛行機があまり好きではないだんなも声が出せず、私は私で全身にイヤな汗が一気に吹き出した。神よ、香港に上陸しようという私へのこれが試練なのでしょうか(←大袈裟な)。
これまで何度か飛行機に乗ってはいるけど、こんなにストンと落とされたのは初めてだった。息子だけは、元気。

This is my Stamp.

かくして、ほんのちょっぴり身体に疲労を感じつつ、現地時間午後1時過ぎ、無事に香港に到着することができた。気がつくと、外は大雨だ。気流が乱れまくっていたのは雨雲の影響だったのであるらしい。

入国手続きの列をしばし待ち、だんなの番になったとき、係員がだんなのパスポートをしげしげ眺め、
「This is my Stamp.」
と言ったのだと、空港を出るとき彼が教えてくれた。その時は何を言っているのかいまいちわからなかったのだけど、返してもらったパスポートを見たら、だんなが5年前に香港に来たときに入国のスタンプを押してくれたのが今日の人と同じだったのであるらしい。頻繁に香港に来ているならまだしも、2回来てその2回に同じ人が当たるというのはちょっと面白いことだ。

空港からは「AIRPORT EXPRESS」なる電車に乗るのが早いらしい。九龍駅まで20数分、往復チケットや3日間の地下鉄乗り放題権などがついたチケットは1枚HK$300ということだ。安いというほど安くはないけど便利かもね、とこれを購入。首尾良く発車間際のAIRPORT EXPRESSに乗り込むことができ、九龍駅からは無料のホテル巡回シャトルバスで一路、今日の宿泊地「香港洲際酒店(Hotel Inter-Continental Hong Kong)」を目指したのだった。

海を見ながらアフタヌーンティ〜「Lobby Lounge」

「香港洲際酒店(Hotel Inter-Continental Hong Kong)」、今年の6月1日まではその名はかの「麗晶酒店(The Regent Hong Kong)」だった。海に面していて香港島への眺めが絶景な、「半島酒店(The Peninsula)」と並ぶ豪華ホテル「麗晶酒店(The Regent Hong Kong)」は、私たちが予約を入れた直後にインターコンチネンタルホテルに買収されてしまったのだ。「名前は変わったけど、他は何も変わってませんよ」てな感じのポスターがホテル内のあちこちに貼られている。

チェックインを済ませた後、そういえば腹が空きはじめていたんじゃないかと、ホテル内ラウンジで軽食をとることにした。折良く「Afternoon Tea Set」なんてものが供されている時間帯だ。5年前に来たときは、この同じラウンジでSちゃんと一緒に、やけに巨大なステーキサンドを食べた記憶がある。あのステーキサンドは、ごっつぅ美味しかった。

「ステーキサンド、ありますか?」と聞いたらば、前のものとはちょっと違った、スパイシーなステーキサンドがあるということ。だんなはそのサンドイッチを注文し、私は豪華三段重ねの「Afternoon Tea Set」を堪能することにした。

三段重ね♪ このセット、2人前になっていたらしい。ドリンクも2人分、盛り合わせもたっぷりたっぷり2人分だ。
香港島の景色が素晴らしく良く見えるラウンジで豪華三段重ねを堪能。紅茶か珈琲を数種類載るメニューから選び、三段重ねお茶菓子もやってくる。最下段は甘くないサンドイッチ類、中央はスコーンと焼き菓子、最上段はプチフール類が8種類ばかり盛られている。盛り沢山のサンドイッチもケーキも、同じものは2つとない感じのゴージャスな盛り合わせだ。

ポロポロと崩れそうなスコーンを上下に2つばかんと割り、クロテッドクリームとジャムをこってりなすりつけて食べる。……涙ちょちょぎれる程美味しい。なんか、香港に来た感じはいまいちしないけど、それでも美味しい。
クロテッドクリームは、ふわふわと空気を沢山含んだ「ちょっと濃密なホイップクリーム」という感じのもの。イチゴジャムとマーマレードつき。
きゅうりのサンドに卵のサラダのサンド、フルーツケーキやチョコケーキ、ティラミス風ケーキやブルーベリーのタルトなど、息子やだんなと寄ってたかってつまみ続ける。……夕飯までお腹空くのだろうか、これで。

最後、数個のプチフールと焼き菓子がどうしても食べられなくなり、「部屋に持って帰っても良い?」と聞いたらばアルミの箱に納めたものを紙袋に入れて渡してくれた。香港では「ダーパオ」がごくごく普通の文化だ。どんなに高級な料理店でも「ダーパオ」と言うと、皿に残った料理を持ち帰り用に包んでくれる。アフタヌーンティーでもそんなことやって良いのかなー、と思いつつ頼んだら、さも当然のように袋が出てきてちょっと嬉しかったのだった。

紙袋をぷらぷらさせながら、じゃあお泊まりの部屋に入ってみることにしよう。

尖沙咀「香港洲際酒店(Hotel Inter-Continental Hong Kong)」内「Lobby Lounge」にて
Afternoon Tea Set
HK$250/2per

スーパーへ買い物に行こう

おやつだか食事だかよくわからない充実した「軽食」を摂った私たちは、いよいよ宿泊部屋に入った。
ドアを開けると、幅10mほどの巨大な窓がばばーんと目に飛び込んでくる。香港島の景色が海と共に一望できる、最高のハーバービューの部屋だった。16階建てのホテルの14階という、眺めの良い部屋だ。

キングサイズベッドがどかんと奥に置かれ、入り口近くには応接セットと大きなライティングデスクも完備。息子用のエキストラベットも無料で設置してくれている。息子用のベッドの上には、なぜか高さ30cmほどのパンダのぬいぐるみがちょこんと置かれていた。ホテルの制服と帽子をつけた、キュートなパンダだ。息子、パンダが気に入ったようで抱えて離さない。

パンダだ……

バスルームも、素晴らしく広かった。スーツケース置き場にはたっぷり2個のケースが並べて置け、シャワーブースが別についているバスタブも広々長々だ。洗面台はシンクが2つ。素晴らしい。
部屋をひととおり堪能して休憩したあとは、隣のショッピングビルにでも買い物に行ってみようということに。何しろ私もだんなも腕時計を日本に忘れてきてしまっており、出歩くのにめちゃめちゃ不便な状態だったのだ。腕時計を求めに行かねばならない。

最寄りのショッピングセンター「新世界中心(New World Centre)」にはスーパーマーケットも入っていて、それはそれは楽しかった。
本屋と時計屋で買い物をした後は、スーパーマーケットを散策しまくる。日本の食材も山ほど売られており、見たことがあるものはともかく、「そんなの日本には売ってないぞ……」みたいな怪しい商品も山盛りだ。「原宿うどん」って、何なんだそれは一体。

切り売りのチャーシュー類や総菜も盛り沢山。しかも物価はほとんどが日本より断然低い。日本から輸入しているようなものだけはさすがに日本の方が安かったりするけれど、野菜や果物、ヨーロッパからの輸入物食材などは軒並み驚くほど安価だった。すごいものは半額とか、少なくとも3割引程度の価格があたりまえ、という感じだ。

日本で700円以下では買えないアンチョビの瓶詰めが400円しなかったのを見て思わず2つ籠に入れる私の横で、だんなは見るからに怪しいカップ焼きそばを籠に入れているのであった。ヒガシマルのうどんスープが売られていたり、ポケモンスナックが売られていたり。見たこともない食材が並ぶ合間に当たり前のように日本の商品も並んでいてものすごく違和感だ。

生鮮食料品系がまた面白い。
日本ではプリンだのヨーグルトだのムースだの、カップ入りデザートがこれでもかと目白押しであるのに、こちらではせいぜいヨーグルトくらいしか売られていないのだということもわかった。たまにカップ入りデザートが売られているかと思うと、それは全部日本製のものなのだ。

肉や魚はもちろん、野菜や果物も全て相当に安い。安い上に大きさも何だか妙に大きめだ。
日本で買うマンゴーは1個150円ほどがせいぜいで大きさは大人の握り拳くらいが普通だろう。私の目の前にあるのは私の手首から肘くらいまでの長さがある巨大な巨大なマンゴーで、しかもそれが1個50円くらいだったりするのだ。赤く熟したアップルマンゴーも、やはり巨大で2個で150円程度。日本で食材を買うのがだんだんアホみたいに思えてきてしまうのであった。

あれもこれもとミネラルウォーターやペリエを買い込んで、買い物袋をシャリシャリいわせてホテルに戻る、怪しい私たち……。

尖沙咀「新世界中心(New World Centre)」内 本屋にてお買い物
『香港街道地方指南』
『THE FOOD OF CHINA』
HK$62.00
HK$69.00

尖沙咀「新世界中心(New World Centre)」内「新世界百貨(New World Sotre)」にてお買い物
コントレックス500ml
レモンペリエ
炒麺王鮮味蠣油海鮮(カップ焼きそば)
フィレアンチョビの瓶詰
HK$7.90×3
HK$6.50×4
HK$4.90
HK$29.90×2

あれこれと買い物しているうちに、時間はすっかり6時を回っていたらしい。
夕食は、7時で予約済なので、急いで準備しなければならない。ばたばたと動いていたところ、突然ホテルメイドのチョコレート1箱がやってきた。想定価格2000円くらいと思われる豪華チョコレートセットだ。ついてきた手紙の封を切ると、中からArrival Services Managerなる人の名刺と共にサイン入りの謝罪文が入っている。「到着時に迷惑かけて、ごめんねごめんね」てな内容だ。

そういえばさっきお茶して部屋に入ったとき、まだスーツケースが届いておらず、しばらく待ってたけれどやはり届かず、「荷物はまだ?」と電話して聞いたのだった。電話のあと1〜2分で荷物はやってきたし、別にこちらも怒っていたわけでもなかったのだけど、アフターフォローチョコレートを届けてくれちゃったらしい。ちょっと恐縮しながらありがたくチョコレートをいただくことにした。

さて、それじゃ夕飯の場所に向かおう。目指すは「九龍酒店(Kowloon Hotel)」だ。

鳩の頭とこんにちは〜「環龍閣」

本日予約して行ったのは「半島酒店(The Peninsula)」の姉妹ホテル、「九龍酒店(Kowloon Hotel)」地下にある「環龍閣(Wan Loong Court)」という料理店。姉妹ホテルと言ってもこちらはビジネスホテル然とした幾分かカジュアルなホテルなので、料理店もちょっとカジュアルな値段であり雰囲気であるらしい。

ここのマンゴープリンを世界一だと評する人も少なくなく、それゆえに是非一度食べてみたかったお店ではある。
メニューを眺めて好みの料理を適当に注文、海老などの魚介を時価で好みの調理法でやってくれるとメニューにあったので、
「海老がいいなぁ。家族で食べていくらくらいになりますか?」
から交渉して、
「蒸してね、ガーリックたっぷりで。」
と注文してみた。何だか楽しい。

鶏が2種類、皮パリパリの焼き物が最初にやってくる。骨付きの肉は表面がカリカリのパリパリで中はふっくら。骨の回りの肉がこれまた旨い!……けれど、食べにくい。
いきなり初手から食べにくいものを注文してしまったなぁ、と困惑しつつ、
「手、使っていいっすか、手。」
「ここはしゃぶりつきでしょう、やはり。」
と早々に箸を放り出して両手でむしゃぶりつきはじめた私たち。すぐさまフィンガーボールもテーブルにやってきた。手を洗っては食べ、洗っては食べを繰り返す。じわーっと中から染み出てくる肉汁が最高だ。美味しい。こういうものが美味しいと、他の料理も全部美味しいんだろうなと期待も高まる。

海老〜プリプリ〜 次に期待の海老の蒸しもの。これでもかこれでもかとガーリックが効いた海老は殻つきのままで、それが縦半分にぶった切りにされている。殻にヒラヒラと身がついていて、これまた食べにくさハイレベルという感じの食べ物で、両手を引き続き駆使。何だか箸を使って料理が食べられない状況に陥っている。

殻をペリペリと剥がしてはそれをそのまま口に持っていく。海老には葱と共ににんにくの香りがしっかり染みついていて、塩気もガツンと良い感じに効いている。御飯がここにあったなら、そのにんにくだれをぶっかけて食べてしまいたいところだ。
プリプリの海老は、「これこそ香港!」という感じ。

ふわふわとした細かい海苔の乗る野菜のうま煮は、絹笠茸の他、マッシュルームやふくろ茸、その他ヒラヒラしたきのこも混ざっていて、それが空芯菜と一緒に盛られている。ほのかにオイスターソースの味がついた、比較的さっぱりめの料理。スープで炒めたようになっていて、皿の底には旨味が溶け出たスープが溜まっている。海苔から漂う淡い磯臭さときのこの味が不思議と良く似合っていた。

鳩のロースト。頭が……。 そして待望の鳩のロースト。ご丁寧に、頭までもこんがり揚がってついてきている。ついつい嘴を両手でつまんで「むがー」とやって遊んでしまったりしつつ、茶褐色のツヤツヤした鳩を食べる。何だか前菜に食べたものと同じような皿ではあるけれど、私もだんなも「皮つき肉のこんがり揚げ」系のものがめちゃめちゃ大好物なのだから仕方がない。

肉たっぷりのところはふくふくと柔らかくて良いし、骨ばかりのところはそれはそれで表面のパリパリが何ともイケる。鳩は鶏とちょっと違った独特な臭さもあるけれど、それもまた心地よい味のひとつになっている。野性味溢れた鳥肉は、油と相性が良いみたいだ。指先も口もベタベタだけど、それもまた本望。

最後は乾燥貝柱と生の貝柱が盛り沢山の、海老も豪華にたっぷり混ざった炒飯。日本の丸っぽい米ではない、細長いサラサラとしたこちらの米は炒飯にするとそのパラパラ感がとてもステキだ。乾燥貝柱独特の旨味が存分に混ざっていて、プリプリの海老と帆立の食感もまた楽しい。ほぐれた魚も入っているようで、全体からほんのり磯の香りが立ち上ってくるさっぱりとした炒飯だった。
立て続けに中華料理を食べて「ああ、香港だね」「香港だ」とやっと実感するに至れた私たち。

で、で、で、「世界一」と評されることもあるマンゴープリンは確かに絶品だった。
マンゴーの果肉はざかざか入り、第一印象は固めに感じるプリンは口に入れるとそのままスーッと溶けていく。甘さがちょっと強めでこってりしているのに、不思議といくらでも食べられそうな軽い食感でもある。青臭くも生臭くもない果肉はただただ濃厚に甘く、芳醇な香りもかなりのものだ。
しみじみしみじみするほど旨かった。日本一のマンゴープリンと思っているお店のものを軽くオーバーしそうなほど美味しいマンゴープリンだった。嗚呼、香港ってすばらしい。

尖沙咀 「九龍酒店(Kowloon Hotel)」内 「環龍閣(Wan Loong Court)」にて
焼きもの2種盛り合わせ(BBQ PLATTER)
海老のガーリック蒸し(FRESH SHRIMPS)
絹笠茸と野菜のうま煮(BRAIS VEG FUNGUS)
鳩のロースト(DF SHEKKI PIGEON)
乾燥貝柱とシーフードの炒飯(RICE CONPOY)
凍香芒布甸(MANGO PUDDING)
プーアル茶(CHINESE TEA)
ビール:サンミゲール2本(SAN MIGUEL)
HK$110.00
HK$108.00
HK$120.00
HK$130.00
HK$90.00
HK$84.00
HK$15.00
HK$92.00

変わらない美味〜「糖朝」

食後。
「やっぱりデザートを食べなきゃね。」
と宿泊ホテルを背にして、てくてく歩き始めた私たち。つい十数分前に美味なるマンゴープリンを食べたような気がしないでもないけれど、
「あれは食後のデザート。今度はデザート屋さんのデザートだから違うの。」
と全くわけがわからない。

時間は夜の8時半。香港が夜が遅い。東京に住んでいると、地方都市あるいは海外に行ったときに「なんでこんなに早く店が閉まっちゃうの?」と思うこと度々だけど、こと香港についてはそういう心配は無用だ。夜8時まで営業はごく当たり前。9時でも大丈夫。甘味屋さんだって、夜中過ぎまでやっている。軽食屋もいたるところで営業している。しかも朝6時頃からやっている粥麺専家などもあるので、その気になれば一日中出歩いて楽しむことも充分可能なのだった。

「不味いということは絶対ないから、ここに行ってみよう。」
とだんなを「糖朝(The Sweet Dynasty)」に連れていくことにした。5年前の香港旅行の際、一番最初に入った店だ。最近になって、この店のオーナーの著作が日本でも発売された。相変わらず商売繁盛のようだ。

店は食事を摂る人、甘味を摂る人でごったがえしている。白塗りの壁の、どこかコロニアル的雰囲気もある店は天井が高くて気持ちが良い。壁に沿って2人用のボックスシートが用意されており、あとは大きな円卓と丸い椅子が置かれている。6人ほどがつけるテーブルなので、相席も当たり前だ。

茶色い再生紙のメニュー兼注文票がやってくる。商品名の横には個数を書く欄があり、客はテーブルのペンで個数を書いて注文をする。私たちは地元のカップルらしき2人組と同席した。マンゴープリン(鮮芒果凍布甸)と杏仁味の豆腐(凍杏汁杏仁豆腐花)(←これは新商品らしく「新出品」と書かれていた)、マンゴーとミルクのジュース(冰凍鮮芒果[女乃])を注文。今は、クリアファイルに入った日本語メニューも用意されていた。でも、漢字で書かれたこのメニュー群は見ればなんとなくその品が想像できなくもない。

スタンダードなハート型のプリンはエバミルクがたっぷりかかっていて、これまた先と同じく果肉たっぷりな美味なるものだった。若干水っぽさもあるプリンはプルプルと柔らかく固まっていて、ちょっとばかりマンゴーの味と香りは先のものに劣る感じではあったけれども美味なことに変わりはない。エバミルクがたっぷりと、果肉1切れが添えられたプリンは「これが香港の甘味でございます〜」と美しく光り輝いていた。

だんなの「凍杏汁杏仁豆腐花」がまた面白い。パフェグラスにたっぷり入っているのは、豆腐だ。葱とおかかと醤油ぶっかけて食べたらさぞ旨そうな、豆腐だ。その豆腐にかかっているのが、杏仁の味がふわふわと漂う甘いシロップ。一番上にはスイートバジルシードが飾られている。全体的に真っ白な、見ただけではどういうものかさっぱり不明な物体だ。だんなから分けてもらって食べてみると、爽やかな香りの、でもしっかりと甘いシロップの味が杏仁と共に口に広がる。「あ、美味しい」と思った途端に「でも豆腐……」と豆腐の主張が。シロップが喉をつたって降りていくころには「豆腐だよ、ね、豆腐でしょ。豆腐なんだよ……」てな感じに全体的に豆腐の味ばかりが残るのだ。正直言って少々不気味だけど、妙に美味しい。くせになる。

これが凍杏汁杏仁豆腐花

息子のマンゴー味濃厚なジュースもまた南国的な味でうまうま。3種のデザートを皆で交換して食べながら、香港の夜は更けていくのだった。

最後支払いをしようとした時、小さなケースに「糖朝」の文字も鮮やかなA5版の本が並んでいるのが見えた。良くみると、何種類か発行されているこの店のレシピ集のようだ。当然マンゴープリンも掲載されていることだろう。買わねばならぬ。買わねばならぬ。

英語もいまひとつ通じなさそうな店員さんに
「レシピ、レシピ……えーと、マングォーポゥティング?(←広東語の"マンゴープリン"の発音はこんな感じ……らしい)」
と聞いて、何冊かのレシピをひっくり返して探してもらった。『洪翠娟食譜 糖朝甜品』という一冊にめでたくレシピを発見。他にも胡麻の汁粉だとか、燕の巣入り蛋撻だとかの作り方も盛り沢山。写真も美しいステキな本だった。広東語に加えて英語も併記されているので、合わせて読むとなんとなく理解もできる。
美味しいデザートを食べたうえに素晴らしいお土産も購入できて、すっかり浮かれた私たちは店を後にしたのだった。

尖沙咀 「糖朝(The Sweet Dynasty)」にて
鮮芒果凍布甸
凍杏汁杏仁豆腐花
冰凍鮮芒果[女乃]
『洪翠娟 糖朝甜品』
HK$17.00
HK$17.00
HK$15.00
HK$48.00

パラパラな貴方はヒーロー……

食後、ホテルに戻る道すがら、ぷらぷらと気になる店を覗きつつ帰る。安売りをしている化粧品屋だとかDFSだとかコンビニだとか。
香港の夜は長い。もう10時にならんとしている時間なのに、まだまだ店は営業中だ。
スーパーに寄ると、ついつい日本でそうやっているように、ついつい冷蔵品コーナーを覗いてしまう。牛乳や生クリームの隣にある、プリンやヨーグルトのコーナーが目当てだ。「新発見のマンゴープリンは置いてないかー?」と棚を覗くと、棚にあるのはヨーグルト類のパックが数種類だけ。やはり香港というところは市販の冷蔵デザートというものはメジャーではない存在なのらしかった。でも、スーパーオリジナルのマンゴープリンを根性で発見。お茶コーナーで陸羽のティーバッグも見つけたので、一緒に買ってみた。全部で400円というところ。

尖沙咀 「百佳超級市場(Park'n Shop)」にてお買い物
烏龍水仙茶包廿五包装
鐵観音茶包廿五包装
東京中餅(芒果布甸)
HK$8.50
HK$8.50
HK$8.00

更に、歩く。何やら回転寿司屋などが入る、いかにも日系企業が持っているようなビルの中にゲームセンターがあるようだ。「香港のゲームセンターってどんなだろう」という興味と共に、「ゲーセンだったらHK$1やHK$2なんかの小銭が両替機でじゃらじゃら手に入るかも」という現実的な目標もあって薄暗い店内に足を踏み入れてみた。

中は昨今流行りのDDR系がところ狭しと並んでいる。キーボードマニアだろうがドラムマニアだろうが、日本と同じものがこれでもかと置かれており、香港ローカルの若者の皆様がそれに大量に群がっている。中でも人気は「パラパラゲー」。周囲には速度の早い例の系統の音楽が流れ、画面に移るポリゴンキャラと同じ踊りをするというやつだ。画面の前に立ち、完璧なその踊りを披露しているのは痩身の男1人。しかしその横にも後ろにもゲームをプレイしていないにも関わらず並んで踊っている男たちがいる。それを観覧するがごとく後ろの手すりに掴まって見ているギャラリーは多数。ゲーム1台の前で一大パラパラゾーンが完成されているのであった。手すりに掴まる女の子たちも、踊る踊る。ここはゲーセンだというのに。

画面の前に立つ、一番完成された踊りの彼が名実共に場の中心であるようだった。この半径5mの空間で、彼は「勇者」だった。微量に恥ずかしい「勇者」なような気がしないでもない。

場の雰囲気に少々圧倒されつつ、それでも首尾よくHK$30を30枚の1ドルコインに両替することができた。トイレに行っても使う、トラムに乗っても使う、ホテルにいればとにかく使う、主にチップで消費されるコインは大切な存在だ。
気がつくと、ゲーセンの店員らしいおっちゃんに早口で何か注意されている私たち。どうやら保護者つきでも子供をゲーセンに連れてきてはいけなかったらしい。慌ててパラパラな音楽が鳴り響き続けている店を後にした。勇者さん、さようなら……。

夜景が美しくなったホテルの部屋に戻り、のんびりと風呂に入ってから就寝。部屋からは香港島のビル群がそれは美しく見えた。グラデーションに色が変わり光るビルもある。明日の朝は、ちょっとディープな香港朝食を体験予定。おやすみなさい。