運転免許をとりに行こう・1

夫は日本の運転免許を持っている。アメリカに来るにあたって当然国際免許を取得してやってきたが、テネシー州法によると、テネシーに居住する者は国際免許を持っていても、居住しはじめて1ヶ月以内にテネシー州の運転免許を取得せねばならないとのこと。夫は1日がかりで筆記試験・実技試験を受けてめでたく運転免許を取得した。

次は私の番なのである。この地に住む者、車の運転ができなければどこにも行くことができない。常に常に夫に送り迎えを頼まなければならない生活になってしまうのだ。嬉しいことにお金はほとんどかからないし、しかも「外国の免許を受けた後その国に通算して三カ月以上滞在していた場合」には「免許試験の一部免除により日本の免許を取得することができる」らしい。(参考:警察庁ホームページ内運転免許関係諸手続

というわけで、「教習所に通うのがめんどくさいしー」「都内で住む分には車なんて必要ないしー」と免許を取らずに日本で生活してきた私が、アメリカで免許を取らんと努力することになったのだった。左ハンドル、右側通行のアメリカで取った免許で果たして無事に日本で運転することができるのかは、私もおおいに不安だけどそういうことは帰国後に考えることにする。

日本と同じく、アメリカの免許取得においても「Knowledge Test」(学科試験)、「Driving Test」(技能試験)をクリアすることが必要とされる。ただし「適正試験」にあたるものはない。
その流れも、日本の「教習受けてぇ〜、仮免試験受けてぇ〜」なんて面倒なことは一切なく、

  1. 「Knowledge Test」を受ける
  2. 受かったら、助手席に免許保持者を乗せて運転して良いことに。各々勝手に練習する。
  3. 「Driving Test」を受ける
  4. 受かったら、その日に免許交付

と、これだけだ。
テネシー州内あちらこちらに「Driver License Stations」があり、そこに行けば全ての手続きが行えるようになっている。とりあえず、私は「Knowledge Test」をクリアしなければならなかった。

コンピューターで出題され、3択で答えるこのテストには幸いなことに日本語バージョンもあるとのことで、かなり気楽に勉強する。日本語のマニュアルは特にないようだけれど、夫の留学先研究所には歴々の問題集や日本語訳になったマニュアルが置かれていて、それを見て勉強。更には英語版ならばインターネットでも「Tennessee Driver Handbook」がダウンロードできるようになっていて、標識の意味などをこれで覚えたりしてみた。

さて、2002年8月15日、いよいよ「Knowledge Test」に臨む。

7:20 「Driver License Stations」到着
朝6時半起床、7時出発。センター着は7時20分くらい。
センターが開くのは8時30分だ。お役所だからして、それ以前に開くことは絶対になく、毎日大変な混雑であるのにのったりのったり仕事をするのも、これまたお役所なのだ。周囲は皆、
「とにかく8時前には着くように行きなさい。そうしないと試験が明日に回されたりするからね」
と言う。

ドアが開く1時間前以上前に着いたというのに、既にドアの周囲、ベンチには6組ほどの先客が座っている。特に並んではいなかったけれど、8時近くなると「それが慣習」と言わんばかりに全員が立って列を作り始める。
「私はあんたより前に来たぞ」
「僕は君のすぐ後ろに来たよな」
みたいな事を言いつつ、しっかり並ぶ。順番を抜かされたと思ったら、即座に「ちょっと待てぃ!」と言わねばならない。言わねば伝わらない。負けちゃいかん。

8:36 受付開始
免許の書き換えに来た者も、テストを受けに来たものも、順番に1人ずつ受付されていく。
新しく免許を取る者は、ID証明を1つ(パスポートとか、Social Security cardとか。2つ見せろと言われることもあるらしい)と、住所の証明とするために自分宛に届いた郵便物を2通見せなければならない。無事に認証されたら、「Apprication for Tennessee Driver License」なるA4版の紙1枚を渡され、住所氏名生年月日、体重や身長、人種(White, Black, Hispanic, Asianなどとなっている)、目の色や髪の色、その他
「これまでにテネシーの運転免許を取得したことがありますか?」
「他の州の免許を持っていますか?」
「臓器ドナー登録をしますか?」
などという項目にYes・Noで答えておく。そのうち、「C2」などと自分の番号札が読み上げられるのでじっと待つ。

9:00 視力テスト
待合い席の左右にあるカウンターの一方に呼び出され、そこの係の人に「日本語でテストを受けたいんだけど?」と聞いてみると、「Sure」とあっけなくその場でOK。そしてすぐに視力テスト。カウンターの上に1台だけ視力テストの機械が置いてあり、「覗いて、○番を読み上げて」と指示される。カウンターのその場で立ったまま(別室とかいかないのね……)、「Three, Eight……」と10個ほど並んだ数字を読み上げる。ここで通らなければ「眼科に行っていらっしゃい」とその後の試験は受けさせてもらえない。

9:05 「Knowledge Test」
続いて、「あっちの部屋の○番の席で受けてね」と別室へ。しかし部屋と言っても待合い席からはガラス張りでスケスケで、横との区切りもほとんどなく、隣の人が何に答えているのか見ようと思えばすぐ見られるような感じ。あまりにスケスケだからカンニングはしにくいかな、くらいのあっけらかんとした試験場だ。

モニターに30問、次々出てくる問題にABCで答えていく。その場で「正解です!」と表示が出て、間違えた時には解説と共に正解が表示される。
出された問題は、

「重要な事柄を伝える標識の形はどれか?」
 A:正方形
 B:長方形
 C:ひし形
    正解 B

「下記の中で違反となるのはどれか?」
 A:踏切から50フィート以内の駐車
 B:消火栓から15フィート以内の駐車
 C:その両方
    正解 C

「赤の点滅信号の意味は?」
 A:完全に停止し、安全を確認してから進行
 B:減速し、安全を確認してから進行
 C:加速して一気に進行
    正解 A

「アルコールの作用は次のうちどれか?」
 A:興奮剤
 B:抑制剤
 C:どちらでもない
    正解 B

というところ。覚えておくべき数字もいくつかあるし、実際に出題もされていたけど、標識の意味や運転の上でのマナーなどは免許を持っていない私でも常識の範囲内で答えられるものがほとんどだった。飲酒やドラッグについての質問が25%を占めているのが、アメリカらしいかもしれない。さくさく答えて、めでたく満点。
ちなみに、30問中24問以上正解しなければならず、制限時間はない。私の隣に座ったおっちゃんは、躓いたらしい1問に15分くらいかけて唸っていた。

9:25 Leaner Permit License交付
テスト終了後、しばし待合い席で待つと、名前を呼ばれる。
「Konwledge Testに受かったけど、Driving Testも今日受ける?」
と言われるけど、「うんにゃ、受けないよー」と言うと「Leaner Permit License」が交付される。今日の費用は試験費用に2ドル、ライセンス料に3.5ドル、合計たったの5.5ドル。

入り口のInfomationカウンターでこれ以上なく簡単な設備で(だって通り道に椅子があって青い背景布があるだけ)写真を取られ、数分待つと日本の免許と同じようなカードがプリンターからぺーっと吐き出されてくる。正式な免許と違うのは、「Driver License」の部分が「Learner Permit」となっているだけ。
ちなみに写真は笑顔、笑顔で写らなければならない(いや、義務じゃないと思うけど……)。ライセンスマニュアルに載っていたライセンス例も、3点載っていた写真全てが見事な笑顔だったので、私も夫も必死で笑顔だ。こんなことならプリクラで練習しておけば良かった……と思っても遅い。歯を見せて笑っている私の顔は(だんなの顔も)、妙に横に伸びていて笑っちゃうような写真だった。

で、今日は幸いさくさくとテストも終わり(日によっては朝早く行っても既に長蛇の列で何時間もかかっちゃうらしい)、1時間かかった手続きとテストを経ただけで「助手席に免許保持者を乗せたら、あんたは運転していいよ」とお墨付きを貰ってしまったのであった。
……って、いったいどこで練習すれば良いのだろう。とりあえずマンションの敷地内の道路が1週500mくらいありそうだからそこで練習。
「あ、あのね、週末の大学内の大きな駐車場なんかはいいわよ。誰もこないから」
と研究所スタッフMさんの助言もいただいた。

……一ヶ月くらいで実技試験に臨めると、いいなぁ……(がんばれ私)。