2月28日(金) コカコーラの本拠地へ

いきなり飲茶〜「Hong Kong Harbour Restaurant」

「大学、3月第1週はお休みでーす」
とだんなから言われ、
「じゃあ、どっか行こう!」
「冬だし、北上するのは雪が怖いから近場で勝負だ!」
と盛り上がる。ここにしよう、と決めたところはこのあたりでは一番の大都市であるアトランタ。南北戦争が激しかったところであり、「風と共に去りぬ」の舞台であり、オリンピック開催地であり、コカコーラ本社があるところ。我が町テネシー州Nashville(ナッシュビル)からは250マイルほどの距離だから、そう遠くない。2月17日木曜日午前中、休み前の最後の授業を終えただんなを待ち、早々に出発した。まずは通り道であるテネシー州内のChattanooga(チャタヌーガ)でぷらぷらと1泊し、それからアトランタへ。

そして2月28日、宿泊モーテルで簡単な朝御飯を済ませた後、車で南へ南へと移動する。テネシーも暖かいけれど、ジョージア州は輪をかけて暖かだった。一応コートを持ってはきたけれど、昼間はそれがいらないほどの気温だ。トレーナー1枚ほどで余裕でしのげる気温だった。

町に入ったのは11時過ぎ。朝食が軽めだった私たちは、空腹きわまりない状態だった。
「だ、だめだ、たべもの食べなきゃ、死ぬ……」
「ホテルに向かっても、チェックインできないしねぇ」
「どこか通り道にチェックしていた店、あったっけ?」
と、助手席でがさがさと"食べたいお店チェック済みマップ"を取り出した私。事前に貰っておいたAAAのアトランタシティマップには、行きたい場所や気になるお店の場所がチェックしてあり、住所と営業時間、休業曜日まで記入されている。ガイドブックを持って町を歩くのはなんとなく格好悪いし、がさばるし、ということでここしばらくの旅行はマップ1つ持って移動することが多かった。

ここにしよう、と決めたのはアトランタに数軒あるらしい飲茶屋さんの1つ、「Hong Kong Harbour Restaurant」。私たちが住む町には中華料理店は数あれど、飲茶ができるところは存在しない。美味しい餃子や焼売、大根餅がなどは何かと懐かしくなってしまう味だった。
11時半の開店直後に店に入ると、私たちが今日の最初のお客だった様子。メニューとは別紙の飲茶のオーダーシートもやってきて、品名の脇に個数を書いて店員さんに渡すようになっている。
最初、
「これはフライドダンプリングでね……」
と英語での説明を試みていた店員の中国人のおばちゃんは、
「"フライドダンプリング"って……ハムスイコッ(咸水角)のこと?」
と中国語名で確認してみた途端に、品名を全て中国語で言うようになった。
「これ、ハーガウ、こっち、シューマイ、これ、チャーシューパオ、マーライコー」
おお、何だか香港にいる気分だ。ちょっと嬉しい。

点心点心♪ 炒飯炒飯♪ そして点心点心♪

ほどなくして、調子に乗って頼みまくってしまった点心類がテーブルにずらずらずら〜っと並べられた。どの点心も「これはすごい!すばらしく美味しい!」……という程のものではないけれど、素朴な味で充分美味しく食べられるものだった。ふわんふわんの蒸しパンに、プリプリした海老がたっぷりの海老餃子。分厚い大根餅はボリュームたっぷりで、そしてなんといっても豆鼓蒸しの排骨(骨つき豚肉)が最高だった。テラテラとした醤油ベースのたれで蒸された豚肉がぷりぷりとした歯ごたえながら柔らかく、中まで甘辛い味がじっくりと染みている。海老餃子の皮が蒸籠にぴったりくっついてしまっていたり、饅頭の皮がちょっと過剰にお酒臭かったりもしたけれど、久しぶりの点心類はしみじみ美味しかった。

そして、ついつい頼んでしまった炒飯。咸魚(ハムユイ)という、独特の匂いがある魚の塩漬を入れた炒飯、咸魚炒飯は、たっぷりの鶏肉入り。パラッと仕上がり、咸魚独特の塩辛さと香りが全体的に漂っていて、いくらでも食べたくなってしまう味だった。
1つ1つの点心が微妙に巨大で、揚げ餅餃子(咸水角)はとても3個全ては食べきれず、饅頭ものも食べきれず、結局包んでもらってホテルに持っていくことになった。数日間、これがまたホテル滞在中の良いおやつになっちゃったりして。

Buckhead 「Hong Kong Harbour Restaurant」にて
春巻
蝦餃 ×2
蟹肉焼賣
豆鼓排骨
咸水角
蘿蔔餅
叉焼飽
カスタード饅
馬拉[米羔]
咸魚炒飯
中国茶
を、家族で食べて$31.43

それはもう魔法の世界です!〜「World of Coca-Cola」

昼食後は、一旦宿泊ホテルに立ち寄って車を置かせてもらうことに。チェックインにはまだ早い時間ということで、しばらくダウンタウン付近をぷらぷらしていることにした。
最初に向かったところは、コカコーラ博物館(World of Coca-Cola)。やたらと目立つ赤いコカコーラのマークがぐるんぐるんと空中を回っている、間違いようがない建物がすぐに見つかった。

ここに入場するときから感じ始めたことだけれど、アトランタの人々は外国人旅行客(特に日本人)の扱いに慣れている感がある。それも、英語がろくに喋れない旅行客の扱いに長けている……というか。こちらが何も言わなくても、窓口に近づくだけで"How are you?"もなく
「大人2人だね。○○ドルだよ」
などと言ってきて、とっととレジを打ち始めてしまうのだ。
「いや、大人2人なんだけどね、AAAのカード持ってるよ。割引あるんでしょ?」
と慌ててカードを差し出すと
「ん?ああ、AAA持ってるのかー、ごめんごめん、だったら1ドル引きになるよ」
とレジを打ち直すのだった。
観光客がそれだけ多くやってくる地であるということらしく、この博物館でも「あ、そうそう、これあげる」とA3版の紙にコピーされた日本語版のパンフレットが渡された。

コカコーラロゴがぐるぐーると ボトリング工程が現実と幻想の合成によって説明されています←パンフレットより そのパンフレット、これがめちゃめちゃ傑作だった。いかにも翻訳ソフトにかけて訳したような、日本語として妙に不自然な訳語がずらずらと並んでいる。

曰く、
「展示されている電子ディスプレーでは興味深い珍情報を引き出すことができます」
「"コークがあれば万事オーケー"という歌い文句で行われた宣伝活動などの展示をお楽しみください」
「次に訪れる場所は、この素晴らしいワールド・オブ・コカコーラで最も忘れられない場所になるはずです」
「世界で最も素敵な味のソーダ水の泉からすくった飲み物で喉の渇きを癒してください」
「お帰りの際には"全てコカコーラ"店にぜひお立ち寄りください」
だそうで……。

「"コークがあれば万事オーケー"って……ナニ?」
「えーと……英語版パンフよると"Thing Go Better With Coke"の事だそうだ」
「じゃあ、"全てコカコーラ店"って……」
「"Everything Coca-Cola"だろう」
「な、なるほど……」
「わからないよなぁ……」
と、苦笑いしながら楽しくパンフレットを読んでしまった。まるで"これを英語に訳してみましょう"という問題にでも出てきそうな文章だ。

展示は、まさにコカコーラだらけ。工場のボトリング過程を再現した、レールに沿って瓶がぐるぐると動いているところなどは、息子が張り付いて動かなくなる。昔々のごろりとした瓶から現在の瓶への流れとか、いかにもバタくさいポスター絵柄の変遷とか。話には聞いていたけど、サンタクロースの服が赤色になったコカコーラの宣伝広告によるもの(←それ以前からもサンタの服を赤く塗っていた本やポスターは存在していたけれど、コカコーラの宣伝によって圧倒的に"サンタは赤"が人々の心に擦り込まれたのであるらしい)、というのが改めてわかるものもあった。恐るべし、コカコーラ。

途中には10分ほどのムービーを見るところもあり、そこではいかに世界中でコカコーラが飲まれているのかを見せつけられた。
日本の光景も出てきたけれど、畳と障子の部屋に膳が並び、"正月ですか?"的な着物着用の親子が談笑しているという怪しいもの。膳の上には、これまたいかにも和風な料理が並び、そこにお母さんが「ほぅら、コカコーラですよぅ!」といった感じに瓶入りコカコーラを持ってくる。うやうやしく栓を抜くお父さん、喜ぶ子供たち。……日本人、そうやってコカコーラ飲む人は多分いないぞコカコーラ。何か間違ってないかコカコーラ。そんな光景が出てきて、思わずげたげた笑ってしまう私たち。しかも、現在は死滅したとされる"タケノコ族"が踊りつつコカコーラを飲むなんて図も……(もう笑死寸前)。

色々な意味で非常に楽しかった展示物を越え、最後には噂の「最も忘れられない場所」にやってきた。そこでは、コカコーラ社が世界各国で販売している飲み物を少しずつ好きなだけテイスティングできるようになっている。
例えば、日本はVegita Betaのアプリコット味。韓国は"Kin Cider"というもの、ドイツは"Mezzo Mix"なるもの。馴染みのファンタやミニッツメイドなども数多く並んでいるけれど、見たことがないフレーバーのものも多い。レモン味はともかく、マンダリンオレンジ味やパッションフルーツ味のファンタは初めて見たし、ストロベリー味のミニッツメイドというのもなかなかインパクトのある味だった(正直言って二度と飲みたくない……)。

コカコーラの陰謀にまんまとはまり、ドリンク類で胃をたぷたぷにして出口を出るとそこは広大なおみやげ物屋さん。あやうく胃のたぷたぷで思考力が低下してあれこれ買い物しそうになってしまったのだけど、そこはぐっと堪えて何も買わずに出てきたのだった。

Downtown 「World of Coca-Cola」にて
大人 入場料(AAA割引)
2×$5.00

五輪の噴水〜「Centennial Olympic Park」

雰囲気もなんとなく日比谷公園 コカコーラ博物館を後にして、ぽてぽてと歩いて向かってみたのはCentennial Olympic Park。1996年のアトランタオリンピックを記念して作られた公園で、日比谷公園と同じくらいのサイズだろうか。日本と変わらず(いや、多分それ以上に)失業者が多いのか、公園のベンチに座り込む路上生活な方々という何やら見慣れた光景が広がっている。公園の中央には五輪の形の噴水が。さした段差もなく、床からリズムよくピューピューと吹き上がる噴水は、夏には子供達の良い遊び場になっているらしい。

日に何度か噴水ショーも行われているということだけれど、その無料のショーまではまだ1時間ほどもあった。1時間待つのも……ということで、ちょっとぷらぷらした後は戻ってホテルにチェックインすることに。

アトランタ滞在中のホテルはHoward Johnson Plaza Hotel & Suites。めちゃめちゃ便利な立地で、しかも全室スイートルーム、それで1泊90ドルということでここにしてみた。地下鉄の数駅先にはリッツカールトンやウェスティン、ヒルトン、マリオットなどの高級ホテル群があったけれど、ここより安いところはなかったのだった。

Haward Johnsonはちょっと高級めなモーテルといった感じで、あちらこちらの町にある。泊まるのは今回が初めてだったけれど、清潔だしお風呂も広いしで嬉しいホテルだった。ソファやライティングテーブル、冷蔵庫や電子レンジがある居間と壁を隔ててベッドルーム。テレビは2ヶ所についており、浴槽は充分足を伸ばしてのびのびできる、深さも充分な嬉しいものだった。

そんなこんなで
「良い部屋〜♪うれし〜♪」
「スイートだぁ」
と喜んでしまって部屋でだらだらだら。昨夜のモーテルでは空調がうるさくて今ひとつ眠れなかったということもあり、私と息子が揃って昼寝に突入してしまったのだった。

ぼったくりおばさん……〜「Pittypat's Porch」

昼寝から目覚めると、午後7時。まだ寝ている息子にすまんと思いつつ起きてもらい、地下鉄に乗って夕食を摂りに出かけていった。
ホテルの最寄りの地下鉄駅は、南北線と東西線が交差している"Five Points"というところ。どちらに向かうにも乗り換えの必要がないので便利だ。駅前には、うじゃうじゃ〜っと人々がたむろしていて、その騒がしさや何やらに
「な、なんか渋谷の駅前みたいな……」
「"年齢層高めな渋谷"って感じ?」
と会話してしまう私たち。

以前、この町に一家で遊びに来た留学生仲間Hさんの奥さんによると、
「アトランタ……楽しくなかったわけじゃないけど、なんだか怖くて、あそこ」
とのことだったけれど、それもなんとなくわかる気がしてきた。同じアメリカ南部とはいえ、私たちが住むナッシュビルは白人が多く住む地域なのに対し、アトランタには黒人が多くいる。多くいるどころか、町中や地下鉄内にいるのは90%以上が黒人たちで、肌が黒くない私たちが地下鉄に乗ると、ちらっと目線が飛んでくるような感じ。微妙な圧迫感がある。

食事に向かったのは1駅先から歩いて数分の店、"Pittypat's Porch"。日本のガイドブックにもアメリカのガイドブックにも「アトランタで南部料理を食べるならここ!」と紹介されている有名店らしい。いかにもな南部料理の店ということで、しかも地元の人にもそれなりに人気があるらしいと、気になって行ってみたのだった。店名は、"風と共に去りぬ"の登場人物からきているのだそうだ(まだ映画も小説も見たことがない私……)。

平日の夜8時前という時間、店はなかなかの混雑だった。店頭には食事を終えて出てきた団体客がたむろし、店内には更に別の誕生日祝いか何かのパーティー客がわいわいと賑やかに食事している。1階がバーで地階がダイニング。壁にはかまどを模した窪みがあり、鉄の鍋やら釜やら皿やらが、古めかしく飾られている。"風と共に去りぬ"のポスターも貼ってあったり。

メニューに並ぶ品々は、馴染みのある南部料理ばかり。南部風のフライドチキンや豚肉、鶏肉のグリルなどがあり、メインディッシュを注文するとサラダバーのサラダとパンがついてくる。前菜はとても食べられそうになく、私は"Rhett's Chicken Breast"という鶏肉料理、だんなはご飯の上にグリルした牛肉と野菜を乗せたものらしい"Beef Tenderloin 〜(以下失念)"を注文した。、食前酒のメニューには"Specialty Drinks"とあり、ちょっと変わった名前のものが載っている。ケンタッキーダービーの公式ドリンク"Mint Julep"や、"Ankle Breaker""Pittypat's Potch""Moonshiner's Punch"など。その中でもひときわ面白い名前だった"Scarlett's Passion"を思わず注文してしまった。

やってきたのは、フローズンストロベリーダイキリ。くびれのある背の高いグラスにそれがたっぷり満たされてやってきたのだけど、シャリシャリとした心地良い口当たりとは裏腹にアルコール度数はかなり高い。
「スカーレットの情熱は、イチゴ味だったよ……しかもガツンと強いよ……さすがスカーレット」
などと言いつつぐびぐびと啜る。他のテーブルを見ると、ジャムの瓶に入っているような外見のカクテルを飲んでいる人も。

味は良かった。美味しかった。けど…… カクテルを傍らに、サラダバーから取ってきたサラダもちょこちょこ食べる。ヤム(さつまいも)の甘いサラダに、魚介のサラダ、マカロニと鶏肉をグレービー入りのクリームソースで和えたもの、米と豆のサラダなど、サラダもまた南部の匂い溢れるものだった。レタスやフルーツと共にそれらも少しずつ盛り合わせ、メインディッシュに差し支えないようにとちょっとずつ食べる。どれも独特なクセなどはない、食べやすい味のサラダだった。

そして、巨大な鶏肉が2枚、皿に盛られてやってきた。皿の底にはワイルドライスが敷かれ、上には野菜の炒めと共に鶏肉が。カレーベースのほの甘いソースが絡まり、上からはローストアーモンドがバラバラッと散らされていた。
話には聞いたことがあったけれど、"ワイルドライス"を食べるのは初めてだった私。"ライス"と名がついてはいるけれど、実際には穀物ではなく水生植物の実なのだそうだ。プチプチモチモチした面白い食感だけれど、穀物と思って期待して食べると"な、なんか違う……"と思ってしまう。黒々としていて、どことなく海藻くささが漂うような気もしないではない。
「あれだよ、あれ、"とんぶり"みたいな味」
「ああーちょっと似てるかもー……っていうか、"とんぶり"の味自体がよくわからないし」
と、あーだこーだ言いつつだんなと2人して初めてのワイルドライスをつついてみる。なかなか難しい味だ。面白いけれど、正直言ってそうしょっちゅう食べたい味ではない。

優しい味のカレーソースの肉はジューシーで美味しかった。パン籠にはコーンブレッドやビスケットマフィンなどが山盛りやってきて、これもまた香ばしく美味しかった。全体的に味は上々だったのだけど、伝票を見てびっくりした私たち。
料理の合計は63ドル。それだけでも「うへぇ……」と思ったほど高めな金額だったのに、その伝票には更に"20% Service Charge"なるものがしっかり加算されていた。税金等々合わせると、合計金額は80ドルだ。20%もサービス料取られるほどのサービスは受けていないような気がするし、大体、料理のボリューム(アメリカのレストランにしては珍しく、比較的ささやかな量のメインディッシュだった)とか、その内容、お店の雰囲気などを考えると料理代40ドルにチップを足して……というくらいが妥当な金額のような気がする。
「美味しかったけど……高かったね」
「観光客向けの店なのかなぁ」
「地元の人もけっこう来ているみたいだけどね」
「ここは"もういいや……"って感じだね」
と、少しだけシオシオした気分でホテルに戻ったのだった。
明日は美味しい(そして安い!)朝食を食べに行こう。そうしよう。


Downtown 「Pittypat's Porch」にて
私:
    Rhett's Chicken Breast
    Scarletts Passion
    Iced Tea
だんな:
    Beef Tenderloin
    Beer (Michelob)
    Coffee
息子:
    Coke
 
$19.95
$8.50
$2.00
 
$22.95
$3.95
$2.00
 
$2.00