Mammoth Cave で洞窟探検

ここがフローズンナイアガラのクライマックス

私たちが住む町Nashvilleの近くの国立公園というと、1つはGreat Smoky Mountains。もう1つがMammoth Caveだ。どちらも周辺に大きな観光都市があるわけでなく、そもそも南部地方には国立公園そのものも少ないということで日本からのツアーなどはほとんど来ないらしい。共にアメリカ人にはかなりの人気がある国立公園だけれど、日本では『アメリカの国立公園』という題名の本にすら掲載されていない、私たちには馴染みの薄い国立公園だった。

調べてみると、我が家から1時間半程度のドライブで余裕で到着できるところらしい。所在地は、隣の州のケンタッキー。我が町Nashvilleとケンタッキー州内最大の町Louisvilleのちょうど中間あたりにある。
Mammoth Caveという名前のとおり、洞窟(Cave)がウリの国立公園だ。レンジャー引率の洞窟ツアーがメインなアトラクションで、あとは地上でキャンプしたり川遊びをしたりトレッキングをしたり……という楽しみ方がされているらしい。やはりここは基本の洞窟探検に行かなければ、ということになった。

公式ホームページによると、ツアー参加は予約しておくことを強くお勧め、ということだ。ホームページからクレジットカードの番号を入力し、翌日分のツアーの予約でも簡単にできてしまう。制限人数のあるツアーも多いことから、前日にちゃんと予約してから行くことにした。
ツアーの種類は10種類ほど。乳児連れでも平気です、という簡単なツアーから6時間以上をかける16歳未満参加禁止のすごいものまである。"Easy""Moderate"から"Strenuous"、"Extremely strenuous"まで何段階かに別れている難易度のうちから、5歳の息子も参加可能な"Frozen Niagara Tour"に申し込むことにした。難易度は"Strenuous"。所要時間は2時間、移動距離は3/4マイル、ただし合計500段の階段の上り下りがあるということだ。留学生仲間の話によると、
「参加したけど、ただただ歩くだけの見所もあんまりないツアーだった」
という人もいたりして、同じ難易度のツアーであっても通るルートも違えば体験するものも随分異なるようだった。

ふくろう、カワイイ〜♪ そして、当日午前8時。10時からのツアーに申し込んだので、それに間に合うようにと早めに出発することになった。9時半に到着してみると、既に他のツアーが次々と出発していくところ。ビジターセンター内のカウンターで予約番号を告げてチケットを発行してもらい、数分後の出発時間を待つ。
ビジターセンターの前では、レンジャーの女性が"ふくろうの生態"についてのレクチャーをしている。手には生きているふくろうが乗り、きょろきょろと丸い目を動かしている。か、かわいい……と、しばしその場に硬直してふくろう観察。そのうちバス乗り場前に、私たちが参加するツアー担当のレンジャーがやってきてツアーに関する説明が始まった。フローズンナイアガラツアーは入口までバスに乗っていき、別の出口に出たところで再び迎えが来るようになっているとのこと。スクールバスのような形をした可愛らしい緑色のバス3台に分乗して100人以上がぞろぞろと洞窟入口に移動した。
ここから下に降りていきます

バスを降りて100mほど林の中の小道を進めば、そこが洞窟入口。「いかにも洞窟入口でございます」的な、コウモリでも出てきそうな口がぽっかり開いているのかと思ったら、頑丈な銀色の鍵つき扉がついている。
「はーい、この中でマンモスケイブが初めてだという人は?……はい、では洞窟自体も初めてだという人〜?あ、はいわかりました。実は僕も洞窟、初めてなんです」
ぺらぺらと滑舌よく話し出すレンジャーの兄ちゃん。ああ、ここはジャングルクルーズなのかディズニーランドか、と苦笑いしていたら
「中はとても暗いので、手持ちの荷物を落とさないようにご注意くださいねー。洞窟の中には何も残して帰らないように。あ、お子さんもお忘れなく」
あああ、やっぱりジャングルクルーズだよ。……と、変な具合に肩の力が抜けてしまいながら、いざいざ洞窟へ。
「入口のところ、スパイダーがいっぱいいますけど気にしないでくださいねー」
と言われていたのだけど、コンクリートの壁には本当にクモ(……というかカマドウマみたいな虫)が大小うじゃーっと張り付いていた。狭い通路なので壁はすぐ真横。ちょっとばかり泣きたくなる。ジャングルクルーズというよりインディジョーンズみたいな気分になってきたよママン。

ツアーには、子供も多く参加していた。息子よりも更にたどたどしい足取りの子供もたくさんいる。子供をだっこしているお父さんまでいた。
そんな中、最初の20分ほどはえんえんと階段を下りていく。工事現場に作られているような感じのスチールメッシュのちょっと頼りない風情の階段は、上から垂れる水で濡れていてかなり怖い。しかも時折下が透けて見えるのだけど、「一体底はどこー?」と冷や汗が出るほど眼下には暗い空洞が広がっていたりする。下まで降りきったところには数百人が余裕で入れるほどの平らな広い空間があり、ベンチが並んでいるそこで10分ほど休憩。ここまでは特に"鍾乳洞"という景色ではなく、ただただ"洞窟"という感じだった。

「あちらこちらにライトがついていますがー」
レンジャーのお兄ちゃん、再び説明。
「雷雨があったりすると、このライトが突然消えたりします。そうしたら僕がこうしてライトをつけますので、慌てず心配せずにね。お連れの方の服などを掴んで離れないようにしてください。知らない人を掴んじゃダメですよ」
と、ここでも笑いを取ろうとする兄ちゃん。
「洞窟は、光が本当に入ってこないんです。本当の暗闇というものを体験してみましょうか?」
と、そこのライトがバチンと消された。これほどの暗闇は、確かに初めてだ。"鼻をつままれてもわからない"という言い回しがあるけれど、それどころか自分の目が開いているのか閉じているのかすらわからないような、本当に何も見えない真っ暗闇が広がっていた。
「ほら、ライターの光1つも、こんなに明るいものなんですよ」
ライターを取り出してつけると、隣に座るだんなの顔も分かるほどに明るくなった。閉所恐怖症、暗所恐怖症にはこたえられない(?)空間なんだなぁと思ってみたり。

そして再び、てくてくてくてく歩いて先へ進む。階段降りは終わったものの、微量に登ったり下ったりと高低差がある。しかも頭がぶつかりそうな高さだったり、カニ歩きをしなければ通れない細いところありと、なかなかしんどい。ただの岩だった壁が、だんだん鍾乳洞のそれになってきたところで最終地点である"Frozen Niagara"に辿り着いた。どーんと深く落ちくぼんでいるところに50段ほどの往復用の階段がついており、下まで行けるようになっている。大きな鍾乳石が垂れ下がっているところは確かに"凍ったナイアガラ"に見えなくもない。民間の会社が運営する洞窟ツアーだったりすると、ここで華やかなライトが照らされてジャジャジャジャジャーン!と芝居がかった音楽でも流されてしまうところだけど、オレンジ色のスポットライトに照らされているだけのそれは、シンプルなだけにとても綺麗に見えた。

その後は、2分ほど歩いたところですぐに出口。迎えのバスがすぐにやってきて、再びビジターセンターへと戻ってきた。所要時間はかっきり2時間。"やや辛い"程度の難易度だったけれど、息子も元気に最後まで歩いてくれたし、私は微量に筋肉痛になった程度で済んだ。期待以上に楽しかった洞窟探検で、かなりご機嫌に帰路についた。
ここしばらくの運動不足を解消して、息子ももうちょっと大きくなったらいつかまた来て3〜4時間かかるツアーにも参加したいなぁ。