何もかもが1.6倍の道で

高速道路なのに、こんな急な坂が……

「アメリカは、何もかもが日本の基準の1.6倍という感じだから」
という話を聞いたことがある。ドリンクのサイズが1.6倍、食事の量も1.6倍、服のサイズも1.6倍。かなりの部分、頷ける。そして一番頷けるのが道路事情の1.6倍だ。

車線が多く、かつ道幅も広め。そして距離の基準となる「1マイル」は1.6kmだ。時速40kmのつもりで「40」のメーターを見ながらアクセルを踏むと、それはすなわち時速40マイル、時速65km弱ということになる。そしてそれが体感としてはそれほどのスピードに感じない。周囲のゆとりが多めなので車の流れも何かと早めになっており、日本、特に都市部では出さないようなスピードを市街地で出すことになる。マイルとkmの差があまり感じられなくなってくるのだ。

ついに高速道路では100マイル(時速160km)のスピードでかっとばしてもあまり違和感を感じなくなってくる。さすがに100マイルスピードで走ると周囲の車はするすると避けていく。80マイルくらいが巡航速度だろうか(それでも時速130km、日本じゃここまで出していない)。そのうち地図を眺めて「ん、この街からこの街まで200マイルくらいだから2時間ちょっとで着くよね」みたいな事を言い出すようになる。危険である。

いかにも「大陸」というだだっぴろい草原や森や荒野を突っ切るようにどこまでもどこまでも一直線の道路がでーっと伸びている……という光景が州を結ぶ高速道路で馴染みの光景だ。時速100マイルで30分ほどハンドルを固定したままでも良いほどのまっすぐっぷりは、「大陸だなぁ……」という感慨が沸いてくる。

そして、我が家が住むテネシー州あたりでは道路にやたらと起伏があるのも特色だった。
まっすぐな道には、しかし起伏がそこここに。うねるように上って下って上って下って上って下ってを3回くらい繰り返す時が頻繁にあり、そういったもこもこした起伏には街の郊外でも住宅地でも頻繁に出会うのが我が家周辺の光景だ。まっすぐの道路の先に豊かな起伏が見え始めると、頭の中には「ルパン三世」でルパンと銭形警部が追いかけっこする時のBGMが流れ始める。もうほんと、アニメにでも出てきそうな光景なのだ。「うわぁ〜お」とルパンの声音で言いながら車がぽわんぽわん跳ねるのを楽しんでしまったり。

日本じゃ「そんな半端な起伏は削っちゃいましょう」「埋めちゃいましょう」となるような気がする。半端じゃない急な坂道だってそうそうないと思う。だがここはアメリカ、自然の地形そのままに、波打つ起伏は容赦なく、半端じゃない坂道も高速道路にあったりするのだった。細かな気遣いの日本人、笑っちゃうほど大雑把なアメリカ人。それはもう随所で感じることになるんだけど、道路事情でも何となく感じられちゃうのであった。