極彩色の激甘ケーキ

渡米3日目。まだ住居も決まらず、したがってスーパーマーケットにも訪れていなかった私たちは、A教授の誕生日お祝いパーティーで初めての"アメリカのケーキ"の洗礼を受けたのだった。

研究所のスタッフMさんが買ってきたのは、白いバニラクリームでコーティングされたチョコレートケーキ。
白いだけのコーティングならば日本でも珍しくないものだけど、その純白クリームの周囲には、目の覚めるような真っ青なクリームが飾られていた。普通の食材を普通に使っていたところでまずお目にかかれない色のクリームは、「さっすがアメリカ……」とある意味感動させられた。

そして、甘さ少なめのチョコレート風味のケーキ生地をカバーするがごとく、そのクリームはこってりねっとり甘かった。白いところも青いところも関係なしに、それはそれは甘かった。歯が痛くなりそうな甘さだよね、と周囲と苦笑していた足下で、我が息子と留学生仲間の娘さんが美味しそうにケーキをぱくついていたのが思い出される。あのとき、「ごちそうさまでしたー」と"ニカー"と笑った息子の口は真っ青だった。……すげぇや、アメリカ。

そして家も決まり、馴染みのスーパーもでき、ついでにと色々なところへ足を伸ばすようになった。
そこに、それはあった。
どこもかしこも、スーパーというスーパーは全て、ショーケースには"あのケーキ"が詰まっているのだ。極彩色のケーキは、売ってるところには売ってるんだろうけど、どこででも買えるものでもないんだろう……と思っていた私は甘かった。そりゃもう、どこででも買えるのだ。なにもこんなにしなくても、というくらい、色のバリエーションは豊富だ。赤にピンクに黄色に水色、黄緑色なんてものまである。紫色が大好きな私の母は、この紫クリームコーティングのケーキを食べてくれるだろうか、と想像してしまう。

もう、なんか食べ物とは思えない色合い……

その外見だけで「甘そう……」と、ちょっとげんなりしてしまう。
いかにアメリカのステーキが旨くとも、パンケーキが旨くとも、更には、いかに日本における甘党であっても、ここのこういうケーキだけは受けつけることができなかった私。だって本当に甘いのだ。甘さが鼻孔を突き抜けてこめかみがキーンと痛くなってしまうほどに甘いのだ。ヨーグルトだの牛乳だのの乳脂肪削る前に、まずこの甘さを何とかしろよアメリカ人!と激しくつっこみたくなってしまう。
最近は、パーティー用カップケーキにも同じような装飾が施されているのを見てしまい(大きな大きなプラスチックケースにカップケーキが30個ほどみっちりと詰まり、上には極彩色のコーティング)、後ずさってしまった。

こういったケーキが並ぶスーパーマーケットのコーナーには、その近くにミニカップケーキの類だとか(コーティングされていない代わりに生地そのものがねっとり甘い)、ドーナツの類だとか(生地そのものは美味しいけど、ハニーコーティングやチョココーティングがどっぷりと……)、フルーツケーキの類だとか(ふわふわ、というよりはモチモチ、といった感じの生地で……やっぱり甘い)、あるいは砂糖コーティングしたデニッシュの類だとか(もう中身が何なのか考えるのも辛くなるほど甘い)、そういうものがたっぷり売られているのだった。そこのコーナーは、歩いているだけで体重が増えそうだ。

こういったものの、需要があるんかなぁ……と不思議だった私。ケーキ専門店ともなればそれほどコッテリネットリ系のものばかりでもないし、レストランで食べるチーズケーキなんかはちゃんと普通に美味しいと思える。
一体誰が買うんだろう……?と不思議に思っていて、そして謎はあっさり解けた。毎週木曜日に開かれる、教会とボランティアの人々で運営される外国人向けの英語&カルチャー教室。そこのテーブルの上には、いつもスーパーで見かけているドーナッツやカップケーキが山を成していたのだった。買う人は買うのである。そして、置かれていれば、皆さんもりもり食べてしまうのである。さすがに極彩色ケーキは置かれていなかったけど、甘い甘いバナナケーキを囓って「なるほどなぁ……」と思った。需要があるから供給されているのよね。