アイスホッケーを見に行こう

試合開始〜

我が町ナッシュビルには、ダウンタウンの"Gaylord Entertainment Center"をホームグラウンドとしているアイスホッケーチーム、"Predators"がある。プレデターズ、意味は"捕食動物"なのだそうだ。鋭い牙が2本光っているサーベルタイガーの横顔がトレードマークで(その他にサーベルタイガーのドクロバージョンもある)、なかなかかっちょいい。……が、プレデターズは名前負けしているというかトレードマーク負けしているというか、あまり強いチームではないらしい。

「でも、ちょっと見てみたいよね」
と、留学生仲間3人プラス我が家3人で観戦しにダウンタウンへ繰り出すことになった。

"Central Division"という地区には5チームが所属しているのだけれど、プレデターズはその5チーム中5位。びりっけつだ。そして今日の対戦相手は"Pacific Division"内でトップ争いをしているほどの強いチームで、アナハイムの"Mighty Ducks"という。1998年からこれまで18回ほど対戦したことがあるらしいけれど、プレデターズが勝ったことは4回しかないということだ。

正直言って"負けてもともと"な試合であるわけで、なのでそれほど観戦者もおらずまったり観戦モードな試合なのかと思っていた。が、会場に到着すると、そこはすごい人。プレデターズのレプリカユニフォームを着たおっちゃんや、にーちゃんねーちゃん、それに沢山の子供たち。
今日の試合は、月に数度のプロモーションデーのうちの1つだった。時によって「先着10000人様にTシャツプレゼント」とか「先着5000人様にプレデターズCD-ROMをプレゼント」とか、内容はスポンサーによって色々らしい。今回はラッキーなことに「先着4000人の12歳以下のお子様に子供用プレデターズヘルメットをプレゼント」というものだった。それもあってか、会場にはとにかく子供がたくさん。うちの4歳児も大きな箱入りヘルメットを1つ手渡された。大きな箱を抱えて席に向かう。

一番高い席は85ドルするけれど、69ドル、59ドル、47ドル、……10ドルと、座席は8つほどの価格区分がされている。私たちは28ドル、下から3ランク目の席だ。3階席だけれどリングを真横から見下ろすことができる席で、選手の顔などはわからないけれど試合全体がよく見える良い場所だった。
アメリカ人らしく、ドリンクとポップコーン(更にピザも買ったら完璧にアメリカ人)を買って席につく。ジュースやビールには通常サイズのものの他に、ちょっと割高な"Souvenir Soda""Souvenir Beer"なんてものもあり、チームのロゴとマークが入った丈夫なカップになっている。1リットルくらい入ってるんじゃなかろうかと思いたくなるような巨大カップは、席の肘掛けについているカップホルダーに差し込めるようになっている……けど、持ち上げようとするともれなく腕力が鍛えられてしまいそうな重量感。なかなかすごい。ポップコーンはポップコーンで、"バケツじゃないんだから……"と唸りたくなるサイズの紙容器(いや、紙バケツ)に入っている。もぎゅもぎゅポップコーンを囓りながら、試合開始を待った。

"……あ、試合始まったみたい""あ、点、入ったみたい"といった感じに、のほへ〜んと進む試合なのかと勝手に想像していたのだけど、細かなイベント目白押しの、やったら派手な試合だった。試合内容も派手だったけれど、演出が派手だった。
シャウト系のギャンギャン響く音楽が大音量で鳴り響く中、練習を始める選手たち。照明が一気に落とされて選手が入場してくるところなんかはスポーツというよりプロレスの登場シーンのようだ。そして、試合直前の国家独唱。我が町の歌手と思われるおにいちゃんが浪々と国家を歌う中、立ち上がった観客達は右手を胸に当て、神妙な面もちで聞き入っている。その後は大騒ぎしながらの試合観戦だ。

審判が敵寄りの判定を下すたびに
「BOOOOOooooo!」
と叫び、チャンスが訪れると、どこからともなく
「Let's go PREDATORS!!!」(直後に拍手が"チャッチャッチャチャチャッ"と)
と大騒ぎ。反則をすると、反則をした選手は数分間"ペナルティボックス"に入っていなければいけないのだけど(そして代わりの選手が出ることは通常できないので、本来6対6の試合を5対6で戦わなければいけなくなる)、敵がペナルティボックスに入ると
「Yeaaaaaaah!」
と両手でVサインを作って"いってらっしゃ〜い"とお見送り。その直後は
「Power〜!! Play〜!!」
と(敵が少なくなっている間を"Power Play"と言い、その間はこちらの大きな得点チャンス)、これまた大騒ぎ。アメリカ人、もうノリノリ。

ただでさえノリノリのアメリカ人なのに、試合の演出がまたそれを煽りまくるようにできている。得点チャンスが近づいた時などに、中央の画面には大きく「MAKE SOME NOISE !」と出てきて音量メーターが表示されたりする。ちょっとでも試合が中断すると合いの手を求めるおきまりの音楽が流れ始めたり、ムービーが流れたり。ノリの良い観客もどんどん画面に映されるので、踊り出したりする人もけっこういる。
ムービーも、「いくらホームの試合だからって、そんな内容はひどい〜〜」と笑い泣きしそうになるようなものが流された。
「ダックハントをしてみましょう〜」(←今日の敵は"マイティ・ダック")
とファミコン画面のようなものが表示され、アヒルがバンバン打ち落とされるものが表示されたり(そのゲームをやっているのはサーベルタイガーだったというおまけ設定つきで)、更にはアヒルが黒こげになるアニメーションが流れたり。全体的に敵チームはクソミソに表現されており、かなり徹底的だし容赦ない。

1ピリオド20分が3つ続くのがアイスホッケーの流れなのだけど、第1ピリオドで一気に2点先取したプレデターズが第2ピリオドで1点返され、でもそのまま最後まで逃げ切るという、私たちにとっては素晴らしく良い流れの試合だった。テレビで見てもいまいちその面白さはわからなかったのだけど、実際に見てみるとハイテンポだしかなり面白い。選手交代がゲームを中断することなくどんどん行われるというのも見ていて面白かった。そして何より、アメリカ人の熱狂っぷりというのが見ていて楽しかった。競技場の椅子にはおさまらないんじゃないかというでっかい身体のおっちゃんらがレプリカユニフォームを着て、彼が持つと普通のサイズに見えてしまう巨大なカップと巨大なポップコーンを抱えて応援している様なんて、微笑ましいなぁというかプレデターズ愛されてるなぁというか、何だかニヤニヤしてきてしまう。

おみやげセット。 初のアイスホッケー観戦が勝利試合に終わって心も軽く、帰宅した。ろくにルールもわからずに観戦したアイスホッケーだったけれど、ルールや反則もなんとなくつかめた。

今日、息子がもらってきたヘルメットは、プロショップにて25ドルで販売されていたものと同じものだった。無料だからちゃっちぃヘナヘナなやつかと思っていたら、中のパッドを調整してサイズ変更もできるかなりきちんとしたものになっている。サイクリングやローラースケートをするときに使えますよ〜、と説明書きがついている。息子は大喜びしているし、何だかちょっと得した気分。
来月には"12歳以下のお子様にチームジャージをプレゼント"というプロモーションデーがあるらしい。今度はそれを狙っている我が家だった。