玄関にブランコ、居間には暖炉な南部の家

建築の細かい様式などのことはさっぱりわからないけれど、私はその地方地方の家を見るのが大好きだ。ああ、ここは赤煉瓦造りの家が多いなぁとか、このへんはいかにもな建売住宅っぽいけど細かいところがそれぞれ違うよなぁ、とか、住宅街をドライブするとまじまじと観察してしまう。
で、よくみると同じアメリカ南部の町でもテネシー州とケンタッキー州とジョージア州の家は、それぞれ微妙に違っていたりする。

こういう家、いいなぁ…… ここに載せた2枚の写真が、我が家近くの住宅街の、比較的スタンダードな大きさの家だ。
もうちょっと郊外に行けば、1軒1軒の間隔が開いていき、敷地も家の大きさもすごいものになってくる。門扉から家までの距離は300m以上あったり、道路からちらりと見える白亜の家はまるで「ベルサイユ宮殿ですか?」と言いたくなるほどの豪奢なものだったりもする。でも、我が家の近所は写真のような2ないし3つのベッドルームに居間とキッチンとバス、というような間取りのものが多いようだ。

道路から玄関までは10mほどの距離があり(道にべたっとひっついて建っている家は、ほどんとない)、綺麗に整えられた芝生に玄関までの小道がつけられていたりする。芝は、暖かい季節にはこれでもかと伸びるのだけど、それを綺麗に整えるのはその家の人の役目。よく休日にお父さんが芝刈り機をギャギャギャギャギャと動かしていたりする。それが面倒な人は庭師を雇い、いつも綺麗な芝生にしておくのが一軒家に住まう住人の勤めのようになっている。 こういう家も、いいよねぇ……

で、道路と家、家と家を隔てる"柵"や"壁"というものは、あまり見られない。時折、高い木塀で囲まれた家も見なくはないけれど、それは珍しい部類に入る。美しく整えられた庭は道路を通る人全ての目に触れられるようになっていて、散策する側としてはかなり楽しい光景だ。
そして、玄関先は屋根が突き出たような形になり、広々とした空間がとられていることが多い。広く取られた玄関先のスペース(左の写真)には椅子やソファが置かれ、天井から木製のブランコがぶらさがっていたりする。日曜の午後などは、ここでのんびり読書している老夫婦などを買い物途中に見かけたりもする。右の写真の家は、玄関先に広いスペースがない代わりに、家の右側が屋根つきのテラスになっていてテーブルと椅子が置かれている。夏は猛烈に蒸し暑い南部の町では、風通しの良い日陰のスペースが各家に作られていることが多いけれど、このあたりの家は玄関先のテラスがその部分にあたるようだ。

そして、平屋の家も二階建ての家も、必ずと言って良いほど存在しているのが"暖炉"。家の屋根を見ると、1つあるいは2つの煙突がついているのが印象的だ。多くの場合、暖炉は居間についている。実際に使うかどうかはともかく、周囲に家族の写真を飾ったり季節の品(クリスマスリースとかイースターの飾りとか)を並べたりしている。

家の中を装飾するのが上手いよなぁ、明かりの使い方も素敵だなぁ、と、こちらのお宅の中を拝見するたびにため息ついたり目を輝かしたりしていたのだけど、もうひとつ、カーテンの存在意義が私たち日本人とはちょっと違うんじゃないかと思い至った。
どうも、こちらの人たちは"目隠しとしてのカーテン"に重きを置いていない様子だ。日よけ、あるいは装飾としての価値が大きいような感じ。なにしろ、夕方から夜にかけて住宅街を車で通ると、家の中が丸見えのお宅がとてもとても多いのだ。台所で動くお母さんが丸見え。居間のソファや飾り棚が丸見え。クリスマスあたりになるとその傾向が一層顕著になって、居間の窓際に置いた大きなクリスマスツリーを「どう?見て!」とばかりにカーテン全開で道行く人に見せつけてくれる。
目隠しとして使われるのは、カーテンよりもむしろブラインドのようだ。賃貸のマンションなどでは、全ての窓にあらかじめブラインドがつけられていたりする。我が家も、そして我が家より幾分家賃が高く広いマンションに住んでいる留学生仲間も、窓には同様にブラインドがつけられていた。我が家は夕方になると目隠しの意味もあってブラインドを閉めてしまうのだけど、無頓着に全開な家もやっぱり少なくない。

昔っから"屋根裏部屋"とか"暖炉"とか"家の庭の木にブランコもしくはハンモック"というものにすごく憧れていた私としては、ここで見た家々はとてもうっとりするものばかり。しかも、写真くらいの規模の家なら、地元のタウン誌に"$89,900"なんて価格が記されていたりして(当然土地つき)、なんかもう日本の家がこればっかりは恨めしくなっちゃうのであった。