運転免許をとりに行こう・2

「Knowledge Test」(学科試験)に通ったのが2002年8月のこと。めでたく「Leaner Permit License」を取得した私は、だんなに助手席についてもらい、そろそろと練習を開始した。場所は、週末の大学構内駐車場。アクセルとブレーキの場所すら知らないような、アクセルを踏み込むのも初めてという人間が、他人様の車が普通に駐車されている場所で練習しても良いものかと思う。
「だいじょうぶだいじょうぶ、皆そういうところで練習始めるんだから」
と研究室のスタッフMさんに励まされ、ぐるぐると駐車場を回ることからスタートした。

「はい、そこでハンドルきって〜」
「うわあぁぁぁ、まわる、まわるよ、まわってるよ」
「そりゃ、ハンドルきれば回るさ……、はい、一応"急ブレーキ"の練習もやっておこう。力一杯アクセル踏んで〜」
「いやあぁぁぁぁぁ」
「いや、だから"イヤ"じゃなくて」
我が愛する夫が鬼教官となってビシビシとしごいてくれた。一家で車に乗り込み、駐車場をぐるぐる回ってる私たち。思い切り不審人物だ。それでも「運転練習中」というのはわかるらしく、近くを通ったおっちゃんがニコニコしながら親指をぐぐっと突き出して「がんばれよー」と励ましてくれた。

駐車場を何十周もして、進み方と止まり方、曲がり方、ついでにウィンカーの出し方を覚えたところで、一般道へ。住宅街の中の、ほとんど車が来ないような道路をそろそろと回ったりしながら、片側2車線のちょっと混雑する道路を通りつつ大学の研究室まで行ってみたり。
練習は順調ではあったけど、11月に病気したり、ついでに旅行行ったりだらだらしたり積雪してしまったりしているうちに、すっかり年が明けて2月になってしまった。雨天時には、ドライビングテストはやってくれないそうなのである。晴れていたとしても、雪が積もってるような道路じゃ受験するこちらがイヤだし、とタイミングをうかがいうかがい、ついに2月5日にテストセンターに向かうことになった。

6:45 起床
今日はまた、"最低気温マイナス7度"てな感じのめちゃめちゃ寒い朝だった。早く事を済ませるためにはとにかく早く行って並ばなきゃいかんので、急いで着替えて出発。

7:20 「Driver License Stations」到着
センターが開くのは8時半だけど、既に先客が5〜6人ほど、寒そうにコートにくるまりながら待っていた。この気温の中、息子を外で待たせるのはちょっとかわいそうということで私と息子が車の中でしばらく待機。だんながあったかいコーヒーを抱えつつ足踏みしながら一人で並んでくれた。人は続々集まってくる。8時を過ぎた頃には30人ほどが列を作り、駐車場はすっかり空きがなくなってしまうほどだった。

8:30 受付開始
入口のカウンターで自分の用件を伝えていく。
「ドライビングテストを受けたいのー」
と、Leaner Permit Licenseをぴらぴらさせると「では、これに記入してね」とA4版の紙を1枚渡され、"F4"なる札をもらった。今日のドライビングテストの4番目だよ、ということらしい。前回取得したライセンスを見せるだけで、他には何の証明書も必要とされなかった。一応、住所確認用の"自分宛に届いた郵便物"だとか、パスポートだとかも持っていったのに……簡単だなぁ。

自分の名前や出生年月日、住所や電話番号に加え、目の色や髪の色、人種(BlackとかIndianとかWhiteとかHispanicとかAsianとか)、更には身長体重を記入する(これらは免許証にも記載される)。あとは、「他の州や国の免許を持ってますかー?」とか「ドナー登録もしますかー?」などという数項目の質問に答えるだけ。記載した紙を持って、順番を待つ。

9:30 「Driving Test」開始
自分の番号が呼ばれ、まずはカウンターで簡単な視力検査と車種の確認。続いて試験官を自分の車に連れて行き、車に不具合がないかどうかの簡単なテスト。
「ブレーキ踏んでー」
「左のウィンカーつけてー、次は右」
と指示されたとおりに動かす。そして、試験官を助手席に乗せたらいよいよスタートだ。

だんなが駐車してくれたその場所から、私の運転でそろりそろりと抜け出して試験官の指示で右に左に。最後にセンターに戻ってきて自分で駐車して止めれば完了だ。たったの5分そこらのドライブだった。
センターを出て、目の前の道路を右折
→500mほど直進して、小さな道路に左折して入る
→200mほど進み、片側2車線の道路に右折して合流
→50mほど先を信号で右折
→700mほど直進して、最後は左折してセンターに戻る
という感じ。え、こんなんで良いんですか?という簡単な簡単なコースだ。最後に若干広めな駐車コーナーにゆるゆると駐車すれば
「はい、合格」
と、いとも簡単に合格がいただけちゃったのであった。

9:45 ライセンス交付
カウンターで代金を払う。前回の仮免(Leaner Permit License)取得時は5ドル50セント、今回は16ドル。たったのこれだけで私は免許を取得することができてしまった。今回の内訳は、
Application Fee : $2.00
License Fee : $14.00
だそうで、テストに2ドル、免許発行に14ドルてな感じらしい。
もしもドライビングテストで落とされた場合、テスト代の2ドルだけ払って「また1週間後以降にいらっしゃいね」(筆記は翌日でも良いけど、実技は1週間たたないと再試験を受けられない)と言われるだけだそうだ。

最後は出口付近のカウンターでライセンスを受け取るだけ。
「前回のライセンスの写真とサイン、そのまま使う?」
と言われたので、いいよー、と返事をすると、1分後くらいに目の前のプリンターからペーッと私のライセンスが吐き出されてきた。出来たてほやほやのライセンスだ。比喩じゃなくて、ほんとにあったかい。カウンターのおばちゃんが、あつあつのライセンスを指でつまんで
「はいどうぞ、おめでとう」
と差し出してくれた。めでたいめでたい、おめでとう自分。

めでたく筆記も実技も一発合格で免許が取れてしまったのだけど、自分はけっこう運が良かったのだと思う。
試験官には、"なにがなんでも受からせてあげよう"というタイプと、"なにがなんでも落としてやろう"というタイプがいるのだそうだ。不幸にして後者のタイプに当たってしまった人たちは
「え?なに?アンタ、私の英語がわからないっての?」
とテスト前から喧嘩腰のような状態になってしまい、技術的には問題はなかったはずにも関わらず
「ちゃんと停止線で止まらなかったからアンタ失格ね」
と落とされてしまったりしたのだそうだ。中には「アンタ、もっと英語勉強してきなさいよ」と言われた人もいるのだとか。

夫は実技試験ですごく良い人にあたったのだそうだ。「髭のおじさんでねぇ、すごく良かったんだ」と聞かされていて、練習ついでにだんなが通ったという試験ルートをなぞって何度か予行試験をしてみたりしていた。人によっては「最初に……左折したよ?」という人と「右折だったけど?」という人がおり、その予行練習は役に立たないかもなぁと思いつつ。

そして今日当日。実技試験のカウンターには、まさにその"髭おやじ"がいた。
「あの人、今日の実技担当かなぁ?」
「だといいけど……」
とだんなとごにょごにょ話しつつ、内心"髭おやじ、カモーン!髭おやじ、カモーンカモーン!"と必死で念じていた私。その思い通じてか、今日の担当は彼となった。私は試験受ける前から嬉しくて涙目になっていたし、だんなは心中「この戦、もらった!」と拳を握りしめたのだという。

そして噂どおり、その試験官のおじさんはすごくすごく良い人なのだった。
「はい、次は左ね。……車線、車線そっちに行かないとダメだよ……」
とか、
「次を右。……そろそろ止まる、止まる、止まる……はい」
と、試験官なのに妙に色々アドバイスしてくれる。そんな人が横にいるのだから、追突事故でも起こさなければ試験に落ちようがないのだった。しかも、通ったルートは予行練習した全くそのままの道路だったりして。

受け取った免許証は、クリーム色の地に紫と緑の色使いのもの。確か先月頃まではブルーが基調のものだったのだけど(既に免許を取得しているだんなや留学生仲間のものも、私の仮免もそれ)、つい最近にデザインが新しくなったのだそうだ。
免許証のデザインが変わってしまうということにちょっと驚きを覚えつつ(だってそういうものってあんまり変化しないものだと思うけど、普通……)、今日からこれで私も一人で公道に出られてしまうのだ。恐ろしいなぁ。

photo
というわけで、全然違う新旧の免許証(青色っぽいのが旧、黄色っぽいのが新)