安くて高い電話事情

ピポパの音は同じね 「日本は本当に電話料金が高い。それに引き替えアメリカは云々〜」
などということを、日本にいる間はよく聞いていた。アメリカでは、地域内の通話はタダなんだってよ、とか、繋ぎっぱなしでも全然お金かかんないんだってよ、とか。それは確かに真実でもあるけれど、そうではない部分もあるということが、アメリカで生活してみてやっとわかったのだった。

家を探した後、電話会社と契約しなければいけないのは日本と同じだ。市内通話のためのローカル会社と契約し、更に国際通話・長距離用の別会社にも申し込みしなければいけない。私たちが住むエリアのローカル会社は、BellSouth(ベルサウス)ただ一社だった。"全米最低のサービスの電話会社"との悪評が高いらしいそこの窓口に電話をかけ、電話開通の申し込みをする。ソーシャルセキュリティーナンバーを持たない外国人の私たちは、最初に数百ドルのデポジットを払わなければならないのだけど、最寄りの窓口は、町の中でかなり治安が悪いとされているエリアにある、窓に鉄格子がはまっている恐ろしげな店だった。そこに行き金を払えば数日後に開通する。

我が家は、ローカル通話・通信が無料になる(その分月額料金は高くなる)プランを申し込んだ。他には特にオプションをつけず、それで月額22ドルくらいだ。だんなの通う大学に無料でアクセスできるダイヤルアップアクセスポイントがあるので、そこに接続すればプロバイダー代や電話代が一切かからずインターネットサーフィンやメール送受信ができることになる。それは確かに安く済む。すごく有り難い。

そして、"この会社を使うよ"と申し込んだ長距離会社は業界最大手のAT&Tだけど、実際に使っているのはBigZooというIP電話(インターネット網を使用して通話する方式)の会社。この会社宛に電話をかけ、会員番号と暗証番号を入れた後に、電話をかけたい相手先の番号を入力する。距離に関係なく、日本にも1分6セントくらいで通話できるのでこれはとても安上がりで便利だ。ただ、通話用のみに使っている回線を伝っていくわけではないので当然音質は少々悪くなる。旅行先から大学に電話したり、自宅から旅行先のレストランを予約したり、などという時にもこれを使っていた。

そんなこんなで渡米後数ヶ月は"安い電話料金のアメリカ"の喜びを享受していたので、旅行先のホテルの電話などを使ってもそれほど高くないんだろうな、と私は思ってしまっていたのだった。泊まるホテルによっては「ローカルコールはタダ」というところもある。「1コールに35セントもらうけど、通話時間は問わない」というところもある。最初の3分は50セント、その後1分ごとに5セント徴収、などというきっちりしている宿もあった。長距離通話は上記のIP電話を使っていたので、困ることもなかった。

で、問題が発生したのは、渡米後数ヶ月後に行ったアメリカ西部の国立公園旅行。
旅行中は、日本でずっと契約していたプロバイダーの海外ローミングサービスを使っていた。かなりのアクセスポイントがあるようだったので、宿泊するような町では大抵ローカルコールでインターネットに繋げるのだろうと思っていたけど、これが甘い考えだった。ガススタンド1軒とモーテルが2〜3軒しかないような小さな町には、アクセスポイントなんて存在しないのである。30マイルも行けば大きな町がありそうだけど、そこに電話をかけると長距離扱いになってしまう。メールの送受信ができないまま数日経過し、さすがに困って隣町のアクセスポイントまで長距離扱いを覚悟して通信した。時間はおよそ10分間。メールの送受信をした程度だったけれど、チェックアウト時に請求された通信料は10ドル以上。距離にして、東京から箱根に電話したような、その程度のものだったと思う。それなのに1分1ドル。「日本より高いじゃん……」とショックを受けつつ支払いをした。

「そうか。アクセスポイントが多いように感じていたけど、実はそうでもないんだな」
「あえて都市部を避けて郊外に泊まることもあるしね」
と、この件でようやっと学んだ我が家は、BigZoo経由でインターネット接続する設定をした。ここに電話かけてアナウンスが終わったらこれを入力して○秒待って……と長い設定をようやく終え、繋がるまでの時間はかかるものの、どこに旅行していてもバカみたいな金額はかからずにアクセスポイントまで繋がるようになった。回線品質は悪くなるので、本来56k近くで繋がるべきはずのところが半分以下の速度になったりする。それでも1分1ドルよりは全然マシだ。

そんなこんなでIP電話さまさまな今日この頃。

最後に。
渡米直後、アメリカの電話のプッシュボタンに"ABC""DEF"と書いてあるのを見て「なんじゃこりゃ?」と思っていたのだった。"2"の上に"ABC"とあったりするので、「2を2回押せばBってことかな?」などと思っていた。数週間して、新聞広告やテレビCMで"お電話は1-800-flowersまでお気軽に"などというものを頻繁に見るようになって理解した。1-800-flowersは、1-800-3569377ということ。各英文字に対して、1つの数字が対応するようになっていたのだった。日本は117117(いいないいな)みたいな語呂合わせをするけれど、アメリカ式もアメリカ式でわかりやすい。
「じゃあ私は1-800-seriaで」
「いや、それじゃ2桁足りない」
「……じゃあ1-800-seriaykで」
「……わかりづらいよ、それ」
などと、ちょっとばかり盛り上がったのだった。