Thanksgiving Dinnerに挑戦

Thanksgiving Day (感謝祭)はアメリカの祝祭日で、11月の第四木曜日。
19世紀後半からのニューイングランド地域での慣例行事だったこの行事。起源は1621年 (メイフラワー号が新大陸に辿りついた翌年)、プリマス植民地の知事が近隣に住む先住民族達を収穫の恵みを祝う祭りに招いたことにあるらしい。

「その年の豊作と自然の恵みを祝う日」という名目のこの日、一体何をするのだろう。 インターネットで"サンクスギビングとは?"などというキーワードで検索してみると
「アメリカ版のゴールデンウィーク」
「食べて寝て食べて、日本における正月みたいな感じ」
「家族や親戚が集まって、フットボール中継見ながらだらだらする休暇」
「1週間くらいのまとまった休みが取れる季節なので、旅行に行っちゃう」
とか、そんな感じなのだった。日本の正月と同じような、まったりとした空気が流れる(そしてアクティブな人は旅行などに行くという)のがサンクスギビングを挟んだ1週間ほどの流れらしい。通常は、会社なども木曜日から週明けまでの4日間が休暇になったりするのだそうだ。ちなみに夫が通う大学も、お休み。

「でさー……結局何をするの?」と私はニューヨーク在住の友人Yに聞いてみた。

えーと.....ワタシの中では、『食い倒れの休日』という印象が強く(笑)
日本でいうところのなんか正月みたいなもんよ。
家族集まってー、ターキーとか(これがおせちにあたるのか?!(笑))異様なまでの食料をかこんでー、連休中、ずっとターキーくってるような(笑)

……やっぱり"食い倒れ休日"なのだった。
どこもかしこもターキーなのであるらしい。ニワトリよりもずっとずっと大きな七面鳥を焼くのが通例で、これをだらだらだらだら食べ続けるのが毎年のことらしい。休暇の間食べ続け、休暇を明けてもスープにしたりサンドイッチにしたりと食べ続けるのがサンクスギビングだということだ。メニューは、きっかけとなった当時の食卓を再現するのが常であり、コーンミールで作るパン、クランベリーを使ったソース、カボチャを使ったスープやパイが食卓を彩るのだそうだ。

うーん、気になる…… 10月末のハロウィンが終わると、スーパーマーケットの売場はサンクスギビング対応に装いを変えた。サンクスギビングディナー用に使われるカボチャやさつまいもの缶詰やコンデンスミルク、スパイス類が大量に安売りされるようになり、肉売場には巨大なターキーが並び出す。スーパーマーケットで購入できるターキーは、冷凍ものばかり。カッチンカッチンに凍ったターキーは、小さなものなら3kgほどのサイズのものから、中程度は6kg、大きなものは9kgを越えるものもある。中程度のものが4人家族などには手頃らしく、その品揃えが豊富だし、安価だった(我が家で買ったのは6kgほどで7ドルほど)。

そして、ターキー売場の横には当然のようにスタッフィング(詰め物)の棚も出現する。
多くは、大きめのクルトンやコーンブレッドが元になっていて、各種ハーブや野菜などが和えられている。ターキーの腹の中にはそういうものを詰めて焼くのが定番で、もちろん各家庭自慢のレシピも多く存在するようだ。

我が家、この年のサンクスギビングデーはニューヨークに旅行に行くことになっていた。旅行は楽しいけど、ターキーが調理できないのはちょっとつまらない。スーパーマーケットでターキーを見ていたらムラムラしてきてしまい、結局サンクスギビングデー1週間前に自宅でターキー焼いて食べてしまうことにした。そうなったら親子3人では1日で食べきれないので御近所の留学生仲間Iさん・Mさんコンビを呼ぶことにして、「サンクスギビングディナーとはいかなるものか」を調べてちゃんとそれっぽいものを作ってみようかという気分になる。幸い、料理雑誌はサンクスギビングディナーの大特集だらけで、伝統的なものから"恋人同士でシンプルに過ごすサンクスギビングを"なんてレシピまで盛り沢山。あれこれ学ぶことができたし、いくつかは食べた事があるものもあったのでちょっと下にまとめてみる。

メインディッシュ

一番のメインディッシュは、もちろんローストターキー (Roasted Turkey)。
雑誌などを眺めていると、これはもう「伝統」というより「儀式」という感じ。
「腹に詰め物をして、塩胡椒して肉汁かけつつ数時間かけてオーブン焼きに」というのが基本の流れだけれど、そのバリエーションは恐ろしく豊富だ。

「Brined Turkey」なるものは、ターキーを焼く前日に丸一日、たっぷりの塩水にターキーを漬け込んでしまう(そして当日、水気を綺麗に拭き取ってからオーブンに入れる)もの。塩水にはメープルシロップを入れてみたりハーブを入れてみたりと、色々な種類があるが、どうしてもパサつき感のあるターキーをふくふくに焼き上げる工夫であるようだ。
「Herbed Turkey」は、その名の通りハーブをたっぷりまぶしたターキーだけど、"皮の上から散らす"他に、"皮と肉の隙間にハーブを敷き詰める"という技巧を凝らしたレシピもある。皮からハーブの葉が透けて見える焼き上がりが美しいらしい。

スーパーマーケットでターキーを買ってくると、腹の横には赤いピンが刺さっていて、"焼き上がるとこのピンが突き出ててきますよ"という親切設計になっていたりする。更には腹の空洞の中に「Gravy Sauce Base」(ターキーの焼き汁と共に水で伸ばして混ぜるだけでグレービーソースができますよ、というグレービーソースの素)と「Turkey Soup Base」(ローストターキーが残ったら、このスープの素で簡単ターキースープが翌日に楽しめますよ、というスープの素)の液体パッケージまで詰め込まれていたりして、なんだかすごいなぁ、と笑ってしまったのだった。
ターキーの解凍には時間がかかる。我が家は前日の朝からクーラーボックスに入れておいてみたけれど、あまりに溶けなくて一晩中常温放置してやっと解凍したのだった。

ターキー以外のサンクスギビングのメインディッシュとしては、小ぶりの鶏(Cornish Henとか)を同じく丸焼きにしてみるとか、さもなくば厚切りのカントリーハムをメインに持ってきたり、ということもあるらしい。大人数じゃないと、ターキーは食べきれないし。

スタッフィング&ドレッシング

ターキーの腹の中に詰めるものをスタッフィング (Stuffing)あるいはドレッシング (Dressig)と言ったりする。何がスタッフィングで何がドレッシングなのか、レシピや説明を探して眺めて見ても今ひとつわからなかったが、どうもアメリカ北部ではスタッフィングと言い、南部ではドレッシングと言っているだけのような感じもする。
スタンダードなのはコーンブレッド (Cornbread)を使ったもの。焼いたコーンブレッドを一口大にカットし、ハーブやにんにく、野菜などと合わせてターキーに詰める。野菜だけ、ハーブだけ、といったシンプルなものも多い。

スタッフィングのレシピ集を見ていると、案外と牡蠣を使ったものも多いのである。
「Southern Cornbread & Oyster Dressing」は、玉ねぎとセロリを炒めた後にコーンブレッドと生牡蠣、卵を加え和えてターキーに詰める、というものだった。甘さのある「Baked Apple-Pecan Dressing」(焼きリンゴとピーカンナッツの詰め物)とか、「Chopped-Egg Stuffing」(刻み卵の詰め物)とか、本当にバラエティーは豊かだ。
スーパーマーケットに並ぶものは、ワイン風味やハーブ風味、ガーリック風味というあたりが主流っぽい。

ソース類

ローストターキーに欠かせないのがグレービーソース (Gravy Sauce)。ターキーが焼き上がった時に下にたっぷり溜まっている肉汁を別容器に移して煮詰め、小麦粉を加えてとろみをつけたような茶褐色のソースで、ガーリックをたっぷり入れたり牛乳を入れてみたり洋酒を入れてみたり、と多様なレシピがある。ターキーにつけて食べるというよりは、添え物のマッシュポテトにダバダバとぶっかけるためにあるようなソース。
「ターキーが残るでしょ。サンドイッチにするでしょ。冷たいターキーをパンに乗せてね、熱いグレービーをかけると美味しいんだわぁ〜」
とは、お世話になっている研究所スタッフMさんの言。

更にローストターキーに欠かせないのはクランベリーソース (Cranberry Sauce)。クランベリーを水(とか洋酒とかアップルサイダーとか)と砂糖で煮込んでジャムのようにしたソースは、ターキーに添えて食べる。スパイスがたっぷり入るレシピもあるし、干し葡萄やオレンジピールなどの別の果実類で風味づけをするものも。案外と口がさっぱりとして、甘いクランベリーソースとターキーの組み合わせというのも悪くない。豚肉のソテーなどにも合うソース。

サイドディッシュ

サイドディッシュは生の野菜や果物がメインのサラダ類 (Salad)や、オーブン焼き料理のキャセロール (Casserole) ものが並ぶ。特にキャセロールは、アメリカのおっかさんの手料理に欠かせないものであるようだ。

「Potato Casserole」は、茹でたじゃがいもをバターとクリームチーズと共にフードプロセッサーにかけ、チェダーチーズやパルメザンチーズ、玉ねぎ、牛乳を加えて混ぜた後にオーブン焼きにする、というもの。チーズ風味マッシュポテトのオーブン焼き、といった感じだろうか。スタンダードなマッシュポテトも添え物の定番だけれど、ポテトキャセロールも家庭の味の1つらしい。

サンクスギビングの定番サイドディッシュの中でも、ちょっと抵抗を感じてしまうのが「Candied Yams」。この季節、「Yam」とラベルのついた缶詰が大量に並べられているけれど、"さつまいものシロップ煮"がその正体で、味は芋羊羹をネットリしたロップで更に伸ばしたような、そんな味。その、ただでさえ甘いさつまいもの缶詰にコーンシロップを加え、マシュマロを上に散らしてオーブン焼きにするのが「Candied Yams」。つけ合わせというより、お菓子じゃないかと私は思うけど、これはデザートではないらしい(デザートにはちゃんとスィートポテト・パイの存在があり、この材料もまたYamラベル缶詰を用いるのが主流らしい)。バーボンをかけて大人の味に仕上げたりするバリエーションもある。

更にはクリーム味の野菜料理もつけ合わせとして一般的。茹でたほうれん草をホワイトソースで絡めてオーブン焼きにしたのは「Creamy Spinach」で、これが小玉ねぎになれば「Creamed Onions」といったものになる。
その他、シンプルに塩やにんにく、レモンなどで味をつけただけの蒸し野菜、炒め野菜も食卓には並ぶらしい。

冷製サラダとして、サンクスギビングディナーにとインターネットのレシピページで紹介されていたのは「Ambrosia Salad」。ミックスフルーツ(缶詰のフルーツカクテル)、オレンジ、パイナップル、チェリーをサワークリームベースのドレッシングで和えたものだった。
コーンをベースに豆、玉ねぎなどを混ぜ合わせたビネガー味の甘酸っぱいサラダ「Corn Relish」といったものも。

パン類

南部料理としても欠かせないものであり、サンクスギビングにも当たり前の顔をして登場するのが「Corn Bread」(コーンブレッド)。コーンミールをたっぷり混ぜ込んで焼いたパンは、ポソポソポロポロする素朴な味の塩味のケーキという感じのもの。

更にはビスケット (Biscuits)。お菓子ではなくパンの仲間として食卓に登場するこのビスケットの定番は、「Buttermilk Biucuits」(バターミルクビスケット)。小麦粉にバターミルクとショートニング、塩やベーキングパウダーを練りこみ、ビスケット型に成形して焼き上げるもので、さつまいも入りやナッツ入りといった具入りものも多いようだ。

デザート

そしてデザート。カボチャという食材がターキー、クランベリーなどと並んで重要な位置にあるようで、「Pumpkin Pie」(パンプキンパイ)が最もスタンダードなデザートらしい。スーパーマーケットにはマッシュにしてシロップ漬けにしたカボチャの缶詰がうずたかく積まれて売られており、既にグラハムクラッカーが敷かれたタルト生地にこのカボチャの缶詰を使って作った生地を流して焼くのが一番簡単なパンプキンパイの作り方のようだ。
「パンプキンパイ・ミックス」などという名称のスパイスミックスも売られていて、これでもかとスパイスを効かせて作ることが多いらしい。

更に、傾向としては同じ味の「Sweet Potato Pie」(スィートポテトパイ)。こちらもYam缶詰を使ってスパイスたっぷりで作ることが多いらしい。パーティーで出てきたこのパイは「からい!」と思うほどにスパイスどっさりだった。漢方薬囓ってるんじゃないんだから、もうちょっと何とかならないものかなぁ。辛い上に、甘い。大変なことだ。

あとはカボチャやさつまいもに拘らず、季節の果物やナッツを使っての「Apple Pie」(アップルパイ)や「Pecan Pie」(ピーカンパイ)など。パイ系が多いように思うけれど、雑誌の特集記事では「Apple Crumble」(アップルクランブル・アップルパイを崩してココットケースに詰めて焼いた、みたいなお菓子)や「Vanilla Cheesecake with Cherry Topping」(バニラチーズケーキ チェリー添え)などというものも紹介されていた。

さすがに4人がかりでも食べきれなかった大御馳走

そして、挑戦してみた「サンクスギビングディナー」。

ローストターキー
クラムチャウダー
マッシュポテト
芽キャベツのグリル
グレービーソース
クランベリーソース
ビール
赤ワイン

パンプキンパイ
アイスカフェオレ

という布陣で臨み(詳細は当日の日記に詳しくございまする)、自分で思っていた以上に美味しく楽しい夕食になった。ターキー喰いを手伝いに来てもらった留学生仲間2人にも、けっこう好評だった模様。

ターキーって、思っていた以上に美味しいもので、何より巨大で面白く、ちょっとこれはクセになってしまいそうだ。