私を野球に連れてって・1

のどか〜マターリ〜

アメリカでのスポーツ観戦といえば、アメフト、アイスホッケー、バスケットボール、プロレス(? スポーツか?)、そして野球。一年中、大体ひっきりなしに何かがシーズンであるという感じだ。野球は4月から8月がシーズン。

我が町Nashville(ナッシュビル)にも、野球チームがある。ただし、大リーグの下部球団(いわゆる"2軍")、AAA(トリプルエー、またはスリーエーともいう)の球団だ。大リーグばかりが有名なアメリカンベースボールだけど、その大リーグの下にはAAAの他、AA(ダブルエー、またはツーエー)、A(シングルエー)と、ぞろぞろと下位の球団があるのだと、私はこの観戦直前に初めて知ったのだった。

やっぱり2軍ということで、それほど人気のあるものではないらしい。席のランクはほとんどなく、10ドルあればバックネット真裏にも座れる。当日でも余裕でチケットが買えるし、「水曜日の試合チケットは"BUY ONE GET ONE FREE"(1枚買うともう1枚はタダ)です!」なんて、卵の特売じゃないんだから的なキャンペーンをしていたりもする。それは安いね嬉しいね、と私たちは親子3人合わせて18ドル50セントの水曜日デイゲームのチケットを購入して観戦してみることにしたのだった。

我が町の野球チームの名はNashville Sounds。カントリーミュージックの有名な町なので、ナッシュビルサウンズ。球場のスコアボードが、ギターの形をしている。上位球団はピッツバーグのPittsburgh Pirates(ピッツバーグ・パイレーツ)だ。
シーズン始まったばかりの今現在、しかしながら10勝1敗となかなかの成績らしい。話によると、マイケル・ジョーダンが一瞬このチームに在籍していたこともあるという。
今日の試合の相手は、同じテネシー州内、メンフィスのチームMemphis Redbirds(メンフィス・レッドバーズ)。上位球団はセントルイスのSt.Louis Cardinals(セントルイス・カーディナルス)。この、レッドバーズには元オリックスの田口が現在在籍しているということで、
「田口を見に行ってみるか!」
と、今日の試合を選択したということもある。
どのくらいガラガラかというと、このくらいガラガラ

球場は、想像以上にガランガランだった。お客さんは、一番多く来ていた瞬間で300〜400人というところだろうか。元々小さな球場ではあるけれど、それにしても空席だらけで非常にまったりのんびりとした観戦になった。私たちの席はキャッチャー真後ろの前から6列目という、多分すごく良い場所だと思うのだけど、それでも私たちの前の列には誰もおらず、その前に1組の夫婦がいるぐらい。見晴らしの良いことこのうえない。観客は、好き勝手に前の席の背もたれに足を放り投げたりしながらだらだらと観戦している。私たちも、ビールとポップコーンを買ってきてだらだら観戦。

ビールは、この町の地ビール屋さん"Blackstone"の屋台が出ていて、その名も"Nashville Sounds Red Ale"というこってり味の濃厚な生ビールが販売されていた。ポップコーンは、百合の花のような面白い形の容器にどっさり詰まっている。
「あれ?これってメガホンの形だよねぇ」
「おおー、底が抜けるようになってるぞ!」
と、ポップコーンをもりもり平らげた後は、そのまま底を外してメガホンとして使用。面白い。
田口だ田口だ

他に売られている食べ物は、ホットドッグやハンバーガー、フライドチキンやフレンチフライなど。甘いものはコットンキャンディー(綿菓子。日本のとほとんど変わらないけれど、こちらのはピンクやブルーのカラフルなものばかり)や、今回初めて食べてみた"Funnel Cake"。にょろにょろとスパゲッティのように絞られたケーキ生地(というよりドーナツ生地)がこんがり油で揚げられた、揚げドーナツのようなもの。紙皿にどっかりとたっぷりな重量があり、上から粉砂糖とシナモンパウダーをたっぷりかけて齧る。これが、素朴な味ですごく美味しい。粉砂糖が風でそこら中にぶわぶわ飛んでいくけど、粉砂糖を浴びる苦難も手のベタベタも気にならなくなるほど、美味しい!

アメリカの野球は大リーグだろうがAAAだろうが、7回表の攻撃が終わったところで"とあるお約束"がある。皆で一緒に歌を歌うのだ。
曲名は"Take me out to the Ball Game"(私を野球に連れてって)。ボーイフレンドから映画に誘われても断ってホームチームの野球の応援に行ってしまう女の子の歌だ。選手たちを応援するためにこの歌を歌うのよ〜♪という歌詞が出てくるのだけど、7回表の攻撃が終わると観客は立ち上がり、皆で一緒にサビの部分、
「ピーナッツとクラッカージャックを買ってくれたら、もう帰れなくてもかまわないわ〜♪」
などというあたりを歌うのだった。
カントリーチックな甘ったるい懐かしいようなメロディの曲で、青空の下、コットンキャンディーやコークやポップコーン片手に歌うのになんとも似合う歌。とりあえず今回はメロディーを覚えてきたものの、歌詞はとても覚えきれなくて鼻歌でふんふんと皆と調子を合わせるだけだった。

そして、今日の試合。
1回表に1点先制された我がチームは5回裏に1点返し、そのまま双方得点がないまま延長戦に突入。最後は11回裏でサヨナラヒットが出て、めでたくナッシュビルサウンズの勝利に終わった。
試合運びはシャキシャキとハイテンポだったものの、漂う空気はとにかくのんびりマターリしたもの。
田口は5打席あったものの、ろくにヒットも打てずに終わってしまったのだった。