紅茶といえば、アイスティー

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オーガニックスーパーの紅茶コーナーにて

渡米前、
「どこででもコーヒーは飲めるんだけど、これがさすが本国!という感じの"アメリカンコーヒー"でねぇ……不味くてねぇ……」
という話を聞いていた。だけれど、紅茶については「日本でも手軽に紅茶葉が買えるのだから、アメリカでもさほど困らないだろう」と勝手に思っていた私。荷物に詰めたのは入手しがたいと思われる中国茶や日本茶、そしてほんの少しの紅茶葉だった。
そしてアメリカに来てみて数ヶ月後、「一体、紅茶の葉っぱって、どこで手に入るんだぁ!」とあわてふためく私がいたのである。
日本のスーパーマーケットで普通に見かけるリーフティー、それがアメリカでは見かけることができないのだった。

学生の頃、フォートナム&メイソンだスコーンだクロテッドクリームだ何だと英国アフタヌーンティー文化におおいにはまっていた私は、今でも"紅茶はティーバッグではなく紅茶葉で淹れるものである"という思いが強い。ティーバッグはあくまでも代用で、手抜きであると思っている。それほど明確な味の違いがわかるわけでもないけれど、これが2002年のファーストフラッシュのダージリンなのよ〜、などと紅茶葉を集めてあれこれ飲み比べるのがけっこう好きだった。アメリカに来ても、スーパーで"ファーストフラッシュなんちゃらかんちゃら"は買えなくても紅茶葉のダージリンだのアッサムだのはごくごく普通に買えるものと思っていたのだ。

が、そんなもの、スーパーの棚には全く並んでいない。種類はある。すごく豊富だ。けれどそれはハーブティーやフレーバーティーの豊富さであり、そしてその全てはティーバッグなのだった。売り場の1区間、幅3mほどの棚を占拠するほどに紅茶は豊富なのに、花だのスパイスだの香料だのが入っていない、いわゆる"普通の紅茶"は1割ほどしかない。ほんのわずかな種類の「ダージリン ティーバッグ」や「オレンジペコー ティーバッグ」を前に私は呆然とするのだった。アッサムはどこー?アールグレーはどこー?と探し回ると、やっと1種類見つかるかどうかという感じだ。

そういう状況なので、高級レストランで「アールグレイ、くださる?」と言ったところでポットの中にはアールグレイのティーバッグが2個入っているだけというのが不自然ではないことになる。もっとさばけた店だと、「ホットティー、くださる?」と言うと大量のお湯と共に大量の多種類ティーバッグが籠に入ってやってきたりする。それはそれで、いろんな味が楽しめて良いのだけど……ランチタイムに"安らかな眠りに"なんて名前のハーブティーが籠にたっぷり詰まっていたりして、どないせーっちゅーんだろう。

紅茶葉は購入不可能なのかと思うと、さすがにそんなことはない。だけれど、"ちょっとハイセンスな生活の彩りに"という位置づけででもあるかのように、茶葉を見かけることができる店は高級食材店や高級調理器具店であったりすることが多い。具体的には「DEAN&DELUCA」であったり「Williams-Sonoma」であったり。また、スーパーにティーバッグを卸している大手紅茶メーカーも、ホームページでの通信販売では紅茶葉を扱っていたりもする。オーガニック食材店などで量り売りの紅茶葉もちょこちょこっと見かける。
総じて値段は高めな傾向。日本での紅茶葉の価格はピンキリだけれど、アメリカのそれはピンもキリもないという印象で、100g500〜800円という価格帯の茶葉をよくみかけた。そしてやっぱりフレーバーティー指向が強く、紅茶葉そのもののグレードというよりはそのブランド独自のブレンドや風味づけをした紅茶が自慢、という感じ。ごくごく普通のアッサムが欲しいんだけど〜、という野望は、なかなかどうして叶えられない。

アメリカは、こんな感じにティーバッグ大国。
そして更に、アイスティー大国でもある。

アメリカで消費される"紅茶"("紅茶葉"の消費量を指しているのか、"紅茶"として販売されている液体を含めた加工商品全体を含めた売上高を指しているのかは不明)のうち、80%以上がアイスティーと消費されているものなのだとか。確かにレストランで注文するドリンクといえば、ソーダ類と共にアイスティーがメジャーだ。アイスティーは甘いのと甘くないのが選べたりするけれど、アイスコーヒーというものは不思議と見かけない。コーヒーはホットで(しかも多くの場合、かなーり薄いやつが)飲み放題なのが普通だ。
スィートアイスティーは、大抵どこで飲んでもすこぶる甘い。自分でディスペンサーから注ぎ入れる場合はスィート半量アンスィート半量にカップに入れてやっと飲める濃度になるほどで、そこに生のレモンをギューッと絞ると、それはそれで夏には美味しかったりする。時折、ちょっと凝ったレストランでは「うちでアイスティー作ってますよー」と、フレーバーティーのアイスティーが準備されていたりもする。それ以外の店は、"いわゆるアイスティーの味"以外のバリエーションは望めない。アールグレーの香り豊かなアイスティーなんて、まず飲めない。

ちなみにコーヒーの豆は、紅茶葉と異なりスーパーマーケットでごく普通に見かけられる。コーヒーメーカーが5ドル程度で買えちゃったりするので、職場はもちろん自宅でもコーヒーを淹れてがぶがぶ飲むのがアメリカ人というものらしい。インスタントコーヒーも無いではないけど、豆(というか粉)がずららららーとスーパーの棚には何種類も並んでおり、外で飲むコーヒーの薄さはなんともしがたいものだけど、家で濃いめに淹れるそれは味も悪くなかったりする。アメリカにおける紅茶の、あまり喜ばしくない状況を眺めていると、コーヒー派に転向したくなってきてしまうのだった。

先日どこかで飲んだ紅茶は、甘味つきレモンティーのティーバッグ。ティーバッグを1個熱湯に放り込むだけで、レモン風味の甘い紅茶が飲めてしまうという大変合理的な(というか大雑把な)品だった。けっこう美味しいかも、と思い始めた私はヤバイのかもしれない。