11月28日(木) サンクスギビングのニューヨーク

パレードパレードパレード

今日はサンクスギビングデー。アメリカ人にとっては、クリスマスと同じくらいに大切な休日であるらしい。
(サンクスギビングデーについてはこちらのコラムにちょこっとだけまとめてあります)
1年に1度、家族が集って食卓を囲むというこの日、美術館などは軒並休みで、飲食店なども閉店がほとんどだということだ。友人Y曰く、
「夕食にお呼ばれしている家とか家族とかにお土産持っていったりするから、午前中あたりはケーキ屋さんや食材屋さんもやってるのよ……でも、午後になったらバッタバッタと閉まっていくわねぇ。夜は閑散としたものよ」
だそうである。この日の夕食が、実はこの旅行一番の懸案事項だった。果たしてレストランなんてやってるものだろうか。

ともあれ、サンクスギビングデーのこの日、ニューヨークではこの日だけに行われる名物行事があるらしい。デパートの「Macy's」が「Macy's Thanksgiving Day Parade」なるものを毎年、セントラルパークの中程(77th St.)からBroadwayを南下して34th St.まで朝9時から3時間ほどかけて催すのだとか。テレビカメラも出て、その光景は全米に生中継されるのだそうだ。
「でも、すっごい人混みよー。私、いっつも家のテレビで見ているわね」
とYは言う。しかも、サンクスギビングの日はいつも「極寒」か「雪が降る」かのどちらかなのだそうだ。ここ2日ほどの気温を考えるとそんなに寒くはならなさそうではあったのに……その伝統のとおり、今朝は震えるほどの寒さだった。

それでも、「サンクスギビングにニューヨークに居るなんてこと、もう一生ないかもしれないしねー」と、朝8時半過ぎにホテルを出発してパレードを見に行ってみた我が家。私たちの宿泊ホテルは31th St.沿いにあり、ほんの数ブロック歩けばパレードの最終地点のはずだった。……が、そのあたり一体は警察がロープを張ってパレードルートにすら近寄れないようになっている。
「ここはVIP用のエリアです!一般客は42thまで進んでください!」
と誘導され、そのままよろよろと10ブロックも北上する羽目になった。42th St.はとびきり混雑しそうなエリア、Times Squareのあたりだ。時刻は9時を過ぎていたけど、まだパレードの先頭がそこにやってくる気配はなかった。

すっごい人混み……

おお!ピカチュウがやってきた!"TOYSRUS"の前あたりは、これでもかという人の波。雪も降りそうな寒さの中震えて待っていると、サンクスギビングらしく、ターキーの山車(←山車と言わず"フロート"と言うのが本当らしい)がやってきた。上に人が乗っているのが見えるような……見えないような。ブラスバンドの音も聞こえるけど、その姿は見えるような……見えないような。もう、とにかくすごい人混みだ。

立っていたところは、丁度パレードルートが斜めにカーブするところ。見る場所さえ良ければ、奥から手前にやってくるパレードを真正面から見ることができる人気の場所だったらしい。奥からは、ピカチュウの巨大バルーン(体長20mくらいありそうな巨大なもので、バルーンから数十本出ているヒモを、ピカチュウの扮装をした人々が持って歩いてパレードしていた)がゆらゆら揺れつつやってくる。浮いているバルーンは人混みの中からでも良く見え、チャーリー・ブラウンやセサミストリートのキャラクターなど、何種類もがぷわぷわ揺れつつ通り過ぎて行く。

この人の多さは覚悟していたことではあったけど、覚悟していなかったのは寒さだった。寒い。めっちゃめちゃ寒い。旅行に来て、今この瞬間が一番温度が低いんじゃないかと確信するほど、寒い。
私はセーターの上にコートを羽織ってもまだ寒く感じ(当然手袋は手放せない)、息子はセーターの上にカウチンを羽織り、ボストンで買ってきた耳当てつき帽子と手袋を装着した上で顔色が白くなっていた。だんなが肩車する上でカタカタと震え始めてしまい、慌てて私が巻いていたマフラーをすっぽりかけてやる。息子はそのうち、パレードを見るどころじゃなく寒がり始めてしまい、結局パレード観覧は30分ほどで断念したのだった。次に見るときは、スキー場に来るような完全な防寒準備を整えて来なければならないようだ。

そして暖を求めて避難〜「YOSHINOYA」

息子はすっかり顔が青ざめているし、私たちも指先が強張るほど身体が冷え切っていた。
「この辺に何かお店あったっけ?」
「吉野家があるぅ!」
と目指した先は、数日前に来たばかりのような気がする、吉野家。熱い味噌汁を注文して啜ると、やっと生き返ったような心持ちになった。息子も、彼のために注文した1人前の味噌汁を抱えてふーふーと啜り飲んでいる。やっと顔に血の気が戻ってきたようだ。

こんなの、吉野家の味じゃないやい 朝御飯にと食べたものは、「Combo Bowl」なるもの。牛丼と野菜丼、鳥照り焼き丼がラージサイズ牛丼と同じサイズのパックに納められたもので、日本にはないその味にちょっと期待して注文してみたのだった。
結果は「……ただの牛丼にしておけば良かった……」というもので、野菜はグダグダに火が通った甘めに味付けられたやつ。照り焼きも、アメリカでありがちな甘ったるくテラテラとしたいかにもな味のものだった。今ひとつ、どころか全然美味しくない。つくづくノーマルな牛丼にしておけば良かったなぁ……と思いつつ、ニューヨーク2回目の牛丼を平らげた。

Times Square YOSHINOYA」にて
Combo Bowl
Beef Bowl (Regular)
Miso Soup
Green Tea
$4.99
$3.59
3×$1.29
$0.89

クリスマスな町並みを

夜には一層綺麗だろうねぇ…… こちらはセント・パトリック大聖堂 牛丼を食べて気力もいささか回復し、「パレード見ながらロックフェラーセンター方面まで行ってみよう」ということに。
ロックフェラーセンター名物アイススケート場を上から眺め(なんてこたーない、狭いスケート場だ)、巨大なクリスマスツリーを見やり、隣接するセント・パトリック大聖堂の前を通る。「サンクスギビングが明けると、いよいよ町はクリスマス」という話を聞いていたけれど、とっくに町はクリスマス状態だ。あちらこちらに緑のリースが飾られ、電飾がピカピカしている。大聖堂入り口のシンプルだけど巨大なリースにかかった真っ赤なリボンが印象的だった。

ここでの目的は、紀伊国屋書店及び、"生チョコレートがすっごく美味しい"と教えてもらった「5th AVENUE Chocolatiere」にチョコを買いに行くこと。サンクスギビングゆえ、閉まっていても気にしない、という気分でぷらぷら歩いて行ってみた。
紀伊国屋書店はあたりまえのように営業しており、しかも品揃えは旭屋書店より豊富。発売されて間もない漫画の新刊なども並んでいて、ついついあれこれ購入してしまった。値段は日本での定価の1.5倍ほどだ。

そして、残念ながら「5th AVENUE Chocolatiere」は本日閉店。店内には明かりがついていて、美味しそうなチョコレートのあれこれが並んでいるのが見てとれた。数日中に買いに来られれば良いけど……あまりこのあたりに用事はないのだ。しょぼん。

マフィアも来るレストラン!?〜「LANZA RESTAURANT」

そうこうしているうち、そろそろ昼御飯という頃合いに。
「やっていないかもしれないけど、美味しいと噂される"VENIERO'S"のケーキを買いに行ってみよう」
「やっていないかもしれないけど、そのケーキ屋さんの近くにあるらしい"LANZA"ってイタ飯屋に行ってみよう」
「両方ともやっていなかったら……それはそのとき、考えよう」
と、サンクスギビングデーを今ひとつ舐めている私たちはEast Village方面に向かい、地下鉄に乗った。

10thストリート付近で地下鉄を降りると、車はほとんど走っておらず、いくつかのスーパーやデリの他はほとんど閉店。冷たい風がホコリを巻き込みつつピューッと通りを抜けていって「ここはホントにニューヨークか!?」と思いたくなるほどの寂寥感に溢れていた。
「うっわー、閑散としてる……」
「これがサンクスギビングの町か……」
と思いつつ、とりあえずケーキ屋さんの捜索から。が、どうもマップにつけた黒丸印が本来の住所とズレていたようで、見つからないままイタ飯屋に到達してしまった。じゃあ御飯食べつつ店員さんに聞いてしまえ!と、とっとと入店。

ありがたいことに、サンクスギビングの今日も、このお店はやっていた。それどころかサンクスギビング用のスペシャルコースまで用意して万全の体勢、という感じだ。私たちが入店した午後1時の段階では2つほどのテーブルが埋まっているだけであり、「予約はしてないんだけど……」という私たちにも快く席を用意してくれた。が、それから続々と予約のお客さんが来るわ来るわ。2人組の老夫婦、仲の良い友人同士らしいおじさんおばさんの6人ほどのグループ、中年女性とその両親のような3人連れなどなどで、午後2時を過ぎて壁際の席はいっぱいになった。常連さん、といった風情のお客が多く、お店の内装も良い感じに古めかしく、壁紙や調度品がしっくり馴染んでいるようなお店だった。広くはないお店だ。50席ほど、だろうか。

このお店は「Kolis Inn」のウェブマスター、コリスケさんに教えていただいたのだった。
「ニューヨークに行くんだよー」
と伝えたところ、いくつもいくつも「ここは美味しいよ」というお店を紹介してもらい、私が持つAAAのマンハッタンマップは"コリスケさんオススメ"印入りのお店の位置が沢山黒丸で記されている。
LANZAなるこのお店、イタリア系マフィアのおっちゃんらも食べに来るようなお店であったらしい(いや、全然高級とかそういうんじゃないんだけど)。

サンクスギビングスペシャルコースは、とても魅惑的な内容だった。前菜・パスタ・メインディッシュ・ドルチェ全てが数種類の中から選べるようになっており、それでたったの25ドル。もちろんターキーもメインディッシュの中の1皿として用意されている。「あああ、吉牛でラージサイズのものなんか食べるんじゃなかったよ」と思っても後の祭りだ。とてもわしわしと肉料理を食べる腹具合ではなかったので、前菜とパスタとドルチェという軽い組合せで食べることにした。

クラムのオレガノ焼きランツァ風パスタリコッタチーズケーキ。うま〜

私が注文したのは「Clams Oreganata」(クラムのオレガノ風味グリル)、「Spaghettini al Lanza」(ランツァ風スパゲッティーニ)。
だんなは「Fritti di Calamari」(イカのフライ)と「Linguine al Olio, Aglio e Vongole」(アサリのアーリオオーリオリングイネ)。息子には私たちの皿から取り分けてやることにし、飲み物はサンペレグリノの大きな瓶を家族で飲むことにした。

やってきた料理の数々は、華美な装飾のない素直な外見の料理ばかり。それがまたなんとも美味しそうで、実際、美味しかった。
香草パン粉がまぶされ、こんがりと焼かれたクラムが6個ほど皿に並べられ、皿の中央にはその香草風味のパン粉をスープで伸ばしたようなソースが 敷かれている。クラムはブリブリと大粒で香草も香ばしく、適度な塩加減。だんなの皿にはこんもりと一口大のイカフライが盛りつけられ、甘さと酸味が適度にあるトマトソースが小皿にたっぷりと添えられていた。こっそりと互いの料理を交換しつつ、
「君のイカ、うまー!」
「おゆきさんのクラムも、うまー!」
と盛り上がりながら前菜をぺろりと平らげる。

さほど待つこともなく、良いタイミングでやってきたパスタもまた、久しぶりに食べるイタリアの味がした(アメリカのパスタは"アルデンテなにそれ"状態にグダグダに茹でられているのが常なので……)。
「ランツァ風」と店の名前を冠したパスタは"パスタ版マルゲリータ"という感じのもので、トマトソースとモッツァレラソース、バジルを和えたものだった。甘さの強いトマトソースにバジルが散らされ、モッツァレラは形を残したまま大ぶりなものがごろりとパスタに絡められている。その組合せだけを考えると「そんなの、誰にでも考えられるよー」と思ってしまうけれど、これが妙に美味しいものだった。普通のトマトの何倍も濃縮したような濃い味のトマトは、これまであまり食べたことのないトマトソースの味になっている。威勢良く入れられたモッツァレラの量も"多すぎる"に達する直前の量で、チーズ好きにはたまらないこってりさ。シンプルな構成なのに、いくらでも食べられる味だった。パスタの量も心もち多めなのがまた嬉しい。
塊のにんにくがごろりと入っただんなのボンゴレも、やはりシンプルな外見ながら心を鷲掴みにされる美味だった。

我が家の息子、生意気なことに、美味しいパスタを前にすると無言でフォークを動かしてモリモリ食べる。適当な店の適当なクリームパスタなんかには適当に取り組むくせに(しかも残したりする)、私たちが「これは美味しい!」と思うようなパスタに対しては非常に真面目な顔になるのだ。
私がちょっと分けてやったランツァ風パスタは、息子の心をも鷲掴みにしたらしい。いつもはトマトソースのパスタにはそれほど熱心ではなく、「クリームのスパゲティがいいなぁ……」とか言うくせに、チーズよこせだのスパゲティもっとよこせだの、食べた食べた。そんなに喰うな、というほど、食べた。

で、パスタを大量に息子に奪われたこともあり、ドルチェもしっかり楽しむことに。
この店自慢のドルチェは「Lanza's Ricotta Cheesecake」というチーズケーキであるらしい。入り口近くのバーカウンターの脇には大きな平皿に盛られたケーキがあって、どうやらそれがそのチーズケーキのよう。それが「私を食べて♪」と訴えてきていたので、
「あれ、チーズケーキ?あれが食べたいですー」
と、持ってきてもらった。

リコッタチーズをベースにしているこの店のチーズケーキは、リコッタ独特のポソポソポクポク感がある。口にした時は若干乾いた印象もあるのに、噛みしめるとジュワッと水分が染み出てくるような、ちょっと不思議な食感のケーキだった。ニューヨークチーズケーキとはまた違う、イタリアっぽいチーズケーキに、またちょっと嬉しくなった。

East Village 「LANZA RESTAURANT」にて
Clams Oreganata
Fritti di Calamari
Spaghettini al Lanza
Linguine al Olio, Aglio e Vongole
San Pellegrino
Lanza's Ricotta Cheesecake
Espresso
$7.95
$7.25
$12.50
$12.95
$5.50
$4.50
2×$2.50

基本はホール買い〜「VENIERO'S」

場所がわからなかったケーキ屋さん「VENIERO'S」は、昼食後すぐに見つかった。先のお店で
「このへんにVENIEROというケーキ屋さん、ある?」
と聞いたところ、速攻で
「近くよー。うちの前の通りと11thがぶつかった角、ちょっと11th側に入るとあるわよ……んー、でもね、今日は確か3時半で閉店なはず……」
とのことだ。今日はもうオープンしていないか早じまいしているだろうと半ば諦めていたのだけど、昼食後に行ってもぎりぎり購入できそうだ。急いでその場所に向かうと、お店の前は大行列!

基本的に年中無休で、朝8時頃から深夜までぶっとおし営業しているようなお店だ。ケーキショップの脇にはカフェコーナーも併設されていて、通常だったらそこでお茶しながらケーキを楽しむことができるらしい。が、昨日と今日は"サンクスギビング特別対応"ということでカフェコーナーはお休み。カフェコーナーの中をずららららーっと当日買いの人が列をなし、外は外で"予約ケーキ受け取り"のカウンターに行列ができているのであった。あと1時間ちょっとで閉店だというのに、人は続々とやってきている。いかにも「今日のディナーの締めくくりはここのケーキなんだもんね」という風情に、ホールケーキが入っているらしい箱が店の外にバンバン出ていくのであった。想像以上の人気っぷりだ。

この店、友人Yには
「基本中の基本のケーキ屋さんよー。ローカルな美味しいケーキ屋さん、というと十中八九ウチらの間で出ますね。
友人仲間うちで誕生日の際はたいていここでホールのケーキをゲットしてきます。
ワタシも大学院にいたときとか見事に3年連続ここのケーキで突撃祝い攻撃を受けま した......(笑)」
と勧められ、コリスケさんからも
「オレ、ショートケーキってあまり喜んで食べないのですが、ここのショートケーキだけは別なんです」
とショートケーキ強烈プッシュを受けていた。とりあえず、ここのチーズケーキとショートケーキは抑えておかなければならないようなのだった。

20分ほど待って待って郵便局や銀行で受け取るような番号札を取り、ケーキショップコーナーに入る。カウンターの向こうのレジコーナーにはおねぇちゃんが5〜6人詰めていて、「はい、次は番号札○番の方〜」と呼ばれるようになっている。そこであれちょーだいこれちょーだい、と伝える仕組み。
残念ながら、ホールのチーズケーキは売り切れだった。ショートケーキは1個だけあった。あるんだけど、ホールでしか購入はできないようだった。一抱えもありそうなショートケーキを買うのはさすがに諦め、その代わりに冷蔵ケースにぎっちり詰まっているプチフールやミニケーキの類をいくつか買って行くことに。プチフールは1ポンド買って9.5ドル(個数でいくら、じゃなくて従量制というのが何だかすごい)、ナッツやイチゴが乗っているやつを6個ほど詰めてもらい、更にミニサイズチーズケーキとイチゴ入りミルフィーユを見つけ、それも詰めてもらった。冷蔵ケースには日本のケーキ屋さんみたいな商品札などついておらず、
「ミルフィーユちょうだい〜」
「は?どれ?」
「いや、だから、その奥から2番目の、これ!これぇ〜!」
と必死こいて指示しなければいけなかった。ケーキコーナーもすっごい人混みだ。わずかに残るホールケーキもどんどん売れていく。

今度こそホールケーキを…… 買い物を終えて外に出ると、店員さんが「今日は3時半までですよー」「この中に並んでくださいねー」などと書かれていた札を取り去る作業をしているところだった。現在並んでいる人をさばき切ったら閉店ね、という事らしく、その頃になってもまだ続々とやってくる人は「Oh〜」とため息をつきつつ去っていく。私たちも無謀なタイミング(サンクスギビングの昼下がりなんて……)で買い物に来たなぁという自覚があるのに、アメリカ人も案外と無謀だ。

「タクシーで帰りたいところだが!」
「そう、タクシーで帰ると急発進・急ブレーキでケーキはぐちゃぐちゃになるっ!」
「じゃあ、地下鉄で帰ろう……」
と、地下鉄に乗ったはいいけど、やっぱり地下鉄も急発進・急ブレーキで結果はあまり変わらないのだった(いや、タクシーよりはさすがにマシか)。日本ほど、きっちり崩れないような丁寧な包装などしてくれないアメリカなので、ホテルに帰って箱を開けてみるとプチフールの2つほどが上下反転していたり。繊細な細工をしたケーキなど買った日には、一体どうやって持ち帰れば良いのだろうねぇ(歩いて帰れってか……?)。

ホテルに帰り、早速プチフールをつまんでみた。
素朴な素朴な外見のケーキだ。バターたっぷりのサクサクタルト生地の上には、しっかり泡立てられた固めのホイップクリームが。そして上にはチョココーティングされた苺が乗せられていたり、ナッツが散らされていたり。生クリームは、ありがちな植物性油脂の味などは全くしない、良い感じにこってりした美味しいものだった。素直な味のプチフールに、「あー、これは人気があるのもわかるなぁ」としみじみ思う。だんなはプチフール2個目を早々に食べているし、息子は息子で口の周囲をベタベタにしながら苺乗せのやつに取り組んでいた。

残りのケーキは、紙箱をきっちり閉じてビニールに入れ、ホテルの部屋のベランダへ。外の気温はもしかしたら氷点下で、
「これは……"冷蔵庫"というより"冷凍庫"だよねぇ……」
「スキー場でさ、よくこうやってドリンク冷やしたりしてね……」
と、ケーキが凍ってしまうんじゃないかと心配してしまう私たちだった(でも、部屋の中に入れるとあったかすぎるしなぁ)。

East Village 「VENIERO'S」でお買い物
プチフール
ミルフィーユ
チーズケーキ(小)
$9.50/1lb (で、買ったのはいくらだったのかは失念)
$2.00
$2.00

サンクスギビングだし〜「Peking Duck House」

今日はサンクスギビングデーだからして、町中ターキーターキーなのである。この日は丸焼きターキーを食べるのが昔っからの伝統(日本人が正月におせちや雑煮を食べるようなもの?)なので、サンドイッチ屋もスペシャルターキーサンドを出すし、イタリア料理屋のメインディッシュにもターキーのクランベリーソース添えが登場してしまったりするのだった。
「サンクスギビングだもんね」
「ターキーだしね」
「仲間だしね」
「……ダックは仲間か……?」
と漫才しながら、今日の夕飯はチャイナタウンで北京ダックを食べてみようかという話になった。チャイナタウンならば、サンクスギビングはさほど関係ない……はずだ、多分。

目指そうと思った店は「Peking Duck House」なる北京ダック専門店。
昼食と同じく「Kolis Inn」のコリスケさんに教えてもらったお店で、サイト内の「食に関する話」コーナーに「ペキンダック」なる題名で掲載されていたお店。"身の丈2mはあろうかというシェフが、アヒルの血だか何だかわからないものをエプロンにつけたまま客の前でダックをさばく"というくだりが私たちの間に妙にうけ、
「このお店って、どこですかーーーー?」
と尋ねてしまったのだった(そして他にもいっぱいオススメ店を教えてもらった、と……)。

さすがに日が日なので、電話で確認してみた。アメリカ留学も5ヶ月目になり、夫の英会話能力もじわりじわりと上昇中。がんばれだんな。
「……ンンゥ?オォゥ、OK、OK、サンキューゥ」
本日、営業は夜10時過ぎまでやっているらしい。ただし予約はいっぱいで、来るなら予約なしで来て並んでね、と、ものすごーくつっけんどんに言われたそうだ。
「"来てくれれば案内するよ"という前向きな感じではなく?」
「うーん、"来るなら勝手にくればぁ?"というような言い回しだったなぁ」
と少々の不安を抱えつつ、それでも出かけてみることにした。午後4時を過ぎて、町中はどんどん閑散としていく。普段だったら絶対やっているはずのダンキンドーナツだのピザ屋だのまでバタリバタリと明かりを消し、ケーキを食べるときのコーヒーすら買えなかった程なのだ。ホテルでは、ご丁寧に近所のデリバリー中華料理屋のメニューが各部屋に配られていた。もう、いちかばちかな気分でチャイナタウンに今日の夕食を託すことに。

嬉しいことに、チャイナタウンではいくつかの店が煌々と明かりを灯していた。お洒落な内装のケーキ屋兼カフェには多くの人が集い、店頭に旨そうな焼き豚を並べる丼もの屋のようなものもオープンしている。道中、乾物屋も発見し、
「お!干し貝柱発見!」
「しかも、けっこう安いかも〜!」
と、自宅で中華粥製作時などに使おうと、干し貝柱を購入してみたり。

Chinatown 「蟲草城 参茸店」にて
干し貝柱 ($28.88/lb)
$36.97

その乾物屋のすぐそばが「Peking Duck House」だった。つい最近改装したような、白い壁にガラス窓が目立つ小洒落た店だ。話によると、コリスケさんがコラムに書いた後にオーナーが変わったらしい。"予約がいっぱい"の言葉どおり、1階と地階に多くの席を備える店はぎっしりと満席で、しかも10人ほどが店内に行列を作っていた。15分ほど並んで無事に席につき、夜8時過ぎてからのちょっと遅めの夕御飯。

ばっさばっさ 1階のフロア中央にワゴンが1つ置かれ、数分に一度、店員さんが恭しく丸ごとのダックを運んでくる。頭もついたままのダックの後ろからは、白い調理服を着た料理人。手には布にくるんだ包丁を持ち(残念ながらその姿は血でまみれてはいなかったけれど)、ワゴンでばっさばっさとダックをさばいて皿に盛りつけていく。皿には皮はもちろん部位によっては肉もつけ、こんもりと1羽分のダックが盛られるのだ。まだだいぶ肉が残ったままのダックはそのままうやうやと厨房に下がっていき、客のテーブルには皮と肉の皿がやってくる。うはー、うまそー。

席につきメニューを眺め、青島ビールが他のテーブルに出ているのを発見してまずはそれをすかさず注文。
メニューには点心類も載ってるし、麺料理や炒飯、スープや一品料理類も数多く載っている。だけどそこは"北京ダック専門店"であるので、各テーブルにはほぼ確実にダックのトレイが置かれている。我が家も当然、北京ダック。一羽たったの34ドル。お得だ。
そして「小龍包」の文字をみつけ、ついつい好物のそれも注文。絶対に北京ダック一羽を我が家で喰いきる事は不可能と確信しつつ(だって、4人家族とかもドギーバッグを持ち帰っているし……)、まずは小龍包を待つ。

小龍包〜♪ ペキンダック〜♪ ステンレス製の蒸籠に、小龍包が8個。トングも来たしレンゲも来たし、黒酢と生姜もやってきた。飲茶専門店ですら小龍包にレンゲをつけてくれないところもあったりするのに、パーフェクトなセッティングだった。ちょっと厚めの皮はいかにも自家製という感じで、トングで持ちあげると中のスープがぷるぷると震える。見るからに美味しそうな小龍包だった。

「ちょっと皮、厚めかなぁ……」と思いつつ口にすると、その皮のブリブリ感にも負けないほどのブリブリした食感の肉あんが中にごろりと入っていた。スープも好みなケダモノ臭さがちょっとだけ漂ってくるやつがたっぷりと詰まっている。全体的にもっちもっちとした歯ごたえが楽しく、久しぶりに食べた美味しい小龍包だった。レンゲに乗せて端を囓ると、溢れそうなほどにスープが溢れてくる。添えられた黒酢や生姜もちょこちょこつけつつ、
「北京ダック屋なのに小龍包がおいしい〜」
「なんか、反則〜」
「なんか、ずるい〜」
と訳のわからないことを呟いてしまう私たちだ。

そしていよいよ、北京ダック。店員さんが「このダックですよー」とさばかれる前のダックをテーブルに持ってきてくれ、数分後には皮と肉だけになったプレートが目の前にやってきた。ステンレス製の蒸籠にはたっぷりとクレープのような皮。そして小皿に刻まれたキュウリと葱、たっぷりの甘辛いタレ。それらがテーブルにずらりと並べられ、自分で好みな具合に巻いては食べ、巻いては食べする。
皮はアツアツ、パリパリでジュワジュワ。皮だけの部位を控えめに乗せて巻くと、普通のお店で食べるような北京ダックになる。そして、肉つきの部分!皮の真下の肉はプルプルと脂たっぷりで、ちょっと黒みがかった淡泊な肉もそれはそれで美味しい。小麦粉の皮で巻かずにそのままつついても旨いし、塩ふって囓ってもまた旨い。1つ2つ、普通の北京ダックとして楽しんだ後、テーブルは反則技であふれかえった。

「私は"肉つきの部分だけを3切れ巻き"にしちゃうわよー!」
「な、なんて豪華な!ならば俺は"皮の部分ばかり2切れ堪能"だっ!」
「"皮に塩ふって、葱と一緒に食べる"、これもまた捨てがたいっ!」
もはやそれ、北京ダックじゃないような気が。

何しろ、小麦粉の皮でけっこう腹が膨れちゃうんである。"とにかくダックを食べる"という戦法で挑んだにも関わらず、さすがに一羽のダックは大人2人子供1人にとっては多すぎた。6切れほど余ったそれは、包んでもらって持ち帰ってきた。ダックのイラストが書かれたキュートな袋の中には、紙の箱に入った小麦粉の皮とキュウリとネギ、そして別箱にダックが収められていた。プラスチック製のミニ容器にタレも入れられていて、それらは翌日の夜に平らげることになる。

夜10時近くなり、北京ダック入りの袋をぷらぷらさせながらホテルに帰還する私たち。
「なんかね、もー、美味しくて美味しくて……キモチワルイ」
「うん、美味しくてシアワセで……ムネヤケが」
と、ムカムカしてしまうほど北京ダックを胃袋に詰め込んで、それもまた幸せな私たちだった。
サンクスギビング、おめでとー。

Chinatown 「Peking Duck House」にて
小龍包
北京ダック
青島ビール
コカコーラ
$5.75
$34.00
2×$3.50
$1.75