3月1日(土) マーガレットミッチェルと、CNNと

空飛ぶビスケット〜「The Flying Biscuit Cafe」

アトランタ2日目。宿泊ホテルには朝食がついていなかったため、8時半過ぎにホテルを出てまずは朝食を摂りに行く。
地下鉄に乗って目指したところは、The Flying Biscuit Cafeという可愛らしい名前の店。Atlanta版Citysearchで"Best Breakfast"に選ばれていた店だ。この都市別の情報サイトは美味しいと噂されるお店の情報もピンキリではあるけれど、全米展開のチェーン店を"アトランタの美味しいお店"として掲載してしまっているような日本のガイドブックよりはあてになるような気がする。Citysearchで気になるお店をリストアップして、改めて検索エンジンにその店名を入力したりして行きたいお店を絞り込んでみたのだけど、この店も行ってみたかった店の1つだった。

地下鉄南北線のMid Town駅から徒歩10分ほどのところにその店はあった。9時を過ぎた土曜日の朝、店頭には6人ほどが並んでいる。中は大混雑で、皆美味しそうにワンプレートものの朝食をつついているのが見えた。入口近くにはコーヒーサーバーが用意され、待つ人はそれを飲んで待っていて良いらしい。

夏には吹き抜けのテラスになるのだろう、煉瓦敷きの一角はビニールシートで壁が作られていた。天井からヒーターが吊されたその煉瓦敷きの4人席に通され、この店自慢のビスケット(何しろ店名が"空飛ぶビスケット"なのだから)つきの朝食セットを注文する。各種卵料理がメニューに並び、それらにはビスケットの他にじゃがいも料理かグリッツかがついてくるらしい。私はスモークサーモン入りのスクランブルエッグにグリッツをセットで、だんなは卵料理とソーセージにグリッツをセットにしてもらっていた。息子には子供用の卵料理とビスケットのセットを。

小雨の降る涼しい朝だったので、飲み物はチャイラッテ。スパイスの香りがふわふわ漂う甘い紅茶は牛乳たっぷりで、大ぶりなカップになみなみと入ってやってきた。

だんなの目玉焼きセット 私のスクランブルエッグセット そしてやってきた、巨大な巨大なビスケットつきの朝御飯。スクランブルエッグは卵4個くらいは入っているんじゃないかというボリュームで、中にはチーズとスモークサーモンがこれでもかと入っていた。脇には大人の握り拳よりも巨大なビスケット。そしてココットケースにグリッツがこれまたたっぷりと詰まっている。

"ビスケット"とは、平たい焼き菓子のことではなく、ケンタッキーフライドチキンで売られている"ビスケット"と同じようなもの。アメリカ、特に南部では朝食にも昼食にも夕食にもよく見かけられ、ほのかに塩味があってポソポソとした食感。ケンタのビスケットほど油っこくないものが多いし、中央に穴もないものの方が多い。正直言って、「ビスケットよりは普通のパンの方が好きだなぁ……」と思うことがこれまでは多かった。

が、ここのビスケットはさすが空を飛んでしまうだけのことはあった。ふんわりしていてイヤなぽそぽそ感が無い。表面は適度にサクサクとした歯ごたえがあり、中はふわんふわんでグズグズと崩れない。うっすらとした適度な塩気があって、その軽い食感と味はいくらでも食べられそうな印象だった。
「こ、これは!」
「このビスケットは!」
「美味しいねぇ……」
「止まりませんね」
「止まらない美味しさですね」
と、大量の卵料理を前にしながらも、もぎゅもぎゅと巨大ビスケットを平らげてしまう。1個で充分すぎるほどの本当に大きなビスケットだった。

そして、"グリッツ"。これもまた、アメリカ南部の朝御飯として定番のものだ。"風と共に去りぬ"にも登場する食べ物で、とうもろこしが原料のお粥のようなもので、コーンミールとはまた違ったもの……ということは知っていた。知っていたけど、これまで食べたことはなかったので今日が初めてだ。このお店のは、チーズ風味のグリッツ。プチプチというかクニュクニュというかモニュモニュというか、なんともいえない微妙な舌触りの食べ物だった。全体的に粘度が強くもっちりしていて、その中にはスクラブのような細かい粒々が入っていてそれがモニュモニュとする。チーズの風味はするけれど、塩気は薄めで、今ひとつ掴みどころのない味だった。不味くはないんだけど……なんというか、"味がない"。
「塩かけて食べてみようか」
「ケチャップつけると、けっこう旨いよ」
などと試行錯誤しつつ、それでもやっぱり掴みどころのない味なのだった。何しろビスケットがめちゃめちゃ美味しいものだから、ついついそちらばかり食べてしまう。

そして、1皿朝食ですっかり満腹になった私たち。絶品のビスケットと出会えてかなり幸せな一日のスタートとなった。

Midtown 「The Flying Biscuit Cafe」にて
私:
    Smoked Salmon Scramble
    Chai Latte
だんな:
    The Flying Biscuit Breakfast
    Coffee
息子:
    One Egg Scrambled
    Milk
 
$8.95
$2.50
 
$6.50
$2.00
 
$1.99
$0.75

小さな小さな1号室〜「Margaret Mitchell House & Museum」

朝食後は、そのレストランから歩いて数分の距離にあるMargaret Mitchell House & Museumへ。マーガレット・ミッチェルが『風と共に去りぬ』を書いた時に住んでいたアパートを再現した博物館だ。実際のアパートは燃えてしまったということだけれど、当時の彼女の部屋やインテリアが再現されているということだった。

一見豪邸だけど、これがマンション アパートとは別棟の建物に入口があり、まずは写真や年表などの資料を見学。他の見学者は、5人ほどだ。
「あと15分ほどで建物へのツアーをしますからー」
と受付の人に言われ、展示をぷらぷら眺めていた……ら、博物館の前に観光バスが。ぞろぞろと20人ほどの団体客が降りてきて、結局ツアーは彼ら団体客と一緒に行くことに。更に続々と観光バスはやってきて、見学は別々に行われたものの博物館は一気にざわめきに包まれた。ここはアトランタ観光の一大拠点らしい。

「それじゃ行きますよ〜」
と受付のおばちゃんの先導により、受付のある棟を抜け、まず向かったのはアパートではなくこれまた別棟の"風と共に去りぬ"関連の展示館。映画のロケで実際に使われたという品々や各国の映画ポスターなどが飾られている。ざざざっとそれを見た後は、いよいよマンションへ。坂になっている土地に建てられたマンションで、地面と同じ高さにある玄関を入って奥にある階段から地階に降りるとそこも地面と同じ高さ、という作り。マーガレット・ミッチェル夫妻が住んでいた部屋は、その地階にあたるところにある1号室にあった。

リビングルームとベッドルームの他には台所とバスルームだけというその住まいは1つ1つの部屋が非常に小さく、しかもアメリカの住居にしては珍しく思われるほど天井も低めだった。リビングルームの窓際にある小さなテーブルには彼女が使っていたものらしいタイプライターが置かれている。リビングルームを越えると小さなバスルームと、これまた小さな台所。2畳ほどしかないように見える台所は小さなコンロと棚だけでいっぱいいっぱいという感じだ。小さなベッドルームには小さなカフェテーブルと椅子2個が置かれ、ベッドはセミダブルもないような幅の狭いもの。
「ここにマーガレットとそのだんなさんが寝ていたんですよ」
とガイドのおばちゃんが言っていた。我が家だったら1晩で"これからは交代で1人がソファーに寝ることにしよう"などということになりそうな幅のベッドだ。

マンションを出て、最後はおみやげ物屋さんでお買い物。スカーレット人形や映画のワンシーンのイラストが描かれた皿、書籍の類などが並べられた中には"映画登場のドレスの型紙"などというものもあった。絵葉書を数枚買い、1駅移動して"High Museum of Art"に行ってみることに。

Midtown 「Margaret Mitchell House & Museum」にて
大人 入場料(AAA割引)
絵葉書
2×$10.00
3×$0.75

生放送やってました〜「CNN Center」

ハイ美術館(High Museum of Art)にはフランク・ロイド・ライトがデザインした窓ガラスがあるということで、それを一番の目当てにぽてぽてと行ってみたのだけど、ミュージアムは何やら大混雑。チケット売り場には50人ほどの行列ができており、スクールバスや観光バスまでやってきている。現在やっている特別展示があと2週間で終わるから……というのが混雑の理由のようだった。

「こりゃ、だめだー」
「きっと中もすごい人だろうしね」
と美術館は諦め、次に向かったところはCNN CenterCNN (Cable News Network)の本社であるここでは、スタジオツアーに参加することができる。チケットカウンターに行き、
「ツアーに参加したいんだけどー」
と伝えると
「次に参加可能なツアーは15時のものだね」
との回答が。今は12時半、ツアーの10分前にツアー開始場所に集合せよとのことだったので、まだ2時間以上の余裕がある。外は小雨が降っており、2時間でどこかに行って帰ってくるのもなぁ……ということで、ここでだらだーらして時間を潰すことにした。

フードコート脇で、なにやら収録が……

建物の中は巨大な吹き抜けになっており、吹き抜けの一番下は巨大なフードコートになっている。ハンバーガー店はマクドナルドやウェンディーズなど3店舗、更にタコベル、ピザ屋、サンドイッチ屋などがぞろりと並んでいる。中にや「Fuji」なる名前の怪しいジャパニーズフードのお店もあるけど……しごくハズレな香りが漂ってくる。

充実した朝御飯だったので軽めに何か食べましょうかね、とウェンディーズのハンバーガーで昼御飯。チキンフィレサンドは特になんの感動もない味だったけれど、何の気なしに頼んだドリンク、Hi-Cグレープフルーツフレーバーが感動するほど不味かった。飲んでいる最中は心地よいグレープフルーツ味なのだけど、飲み込んだ直後にえもいえぬ後味というか後臭というかがもやんもやんとせり上がってくる。かなり不味い。向かいのだんなは好物のドクターペッパーを飲んでいて、そちらを分けてもらおうにもそっちも不味い(と私は思う)。息子はダンキンドーナツで買ってきたチョコドーナツと牛乳を美味しそうにたいらげていて、これを奪うのも申しわけない。で、「なんでこんなにでかいカップなんだよ……」と呻きながらグレープフルーツジュースをずるずると啜る私。ああ、不味い。

食後はグッズショップをひやかしたり、先ほど買ってきた絵葉書を日本の母に送るべく、あれこれ書いてみたり。メモ帳に刺していたお気に入りのボールペンを紛失してしまったのでここで1本新しく購入し、息子には地球儀になっている柔らかいボールを。
そんなこんなしているうちにツアーの時間がやってきて、鞄の中身を調べられ金属探知器を通されてから胸に"CNN Studio Tour Press Pass 2003"のシールを貼り、いよいよ中へ。長い長い長い長いエスカレーターで一気に8階まで連れていかれた。

軽いムービーを見せられた後は、今度は小さなスタジオへ。ここで"カメラに目線を合わせつつ原稿が読める秘密兵器(←プロンプター、というらしい)"の紹介や、天気予報放映の仕組みなどを実際にカメラなどを動かしつつ説明された。
「次にCNNを見るときは、天気予報者の手の動きに注目してくださいね。ポイントを指さす、ということはしてないはずですよ、手でおおまかに"このあたり"ってやってるはずで。ポイントを指さすのは難しいんです。誰しもがキャスターになった直後にはやりたがるんですが、"こりゃダメだ"とそのうちやらなくなってしまうんですねぇ」
なんて事をガイドさんは言っていた。それから後は写真撮影も禁止され、いよいよスタジオへ。ニュースを実際に流すスタジオ、Headline Newsの作成現場、Web版作成の担当部署、そんなところがガラスを隔てて見学できるようになっている。この時間はたまたまニュースの生放送中で、画面に映るキャスターその人がガラスの向こう、後ろ姿でカメラに向かっているのが見える。途中CMになったらしく、原稿でぱたぱた顔を扇いだりスタッフ同士が談笑してたりするのもよく見えた。面白い。

テレビ局見学ということで、ノリは"NHK放送センター"のそれと同じような感じかなと思っていたのだけれど、子供向けの面白楽しい展示物というもの(この木箱を傾けると雨の音がしますよー、とか、片栗粉揉むと雪の音がしますよー、なんていう類のもの)は全くなかった。このスタジオツアー、6歳未満の子供は参加禁止なのである。実は未だ6歳に満たなかった(あと1ヶ月で5歳だった)息子だったのだけど、「……んー、まぁ、6歳に見えなくも……ないかな」と無理矢理参加してしまったのだった。

8階から1階まで階段を降りつつ1時間弱のツアーは、なかなか充実していて面白かった。出口はしっかりと土産物売り場の中に作られていて、「なんか、どこ行っても最後は土産物屋なのね」と笑ってしまいながらCNNを後にする。移動のほとんどは地下鉄を使っていたにも関わらず、疲れてきてしまったので夕飯まではホテルでごろごろごろ。

Downtown 「CNN Center」にて
大人 Studio Tour
子供 Studio Tour
TBS Frost Pen
CNN Stress Globe
2×$8.00
$5.00
$2.99
$3.95

イカじゃないよイクラだよ〜「Hanwoori」

本日の夕飯のテーマは「焼肉」。
ここしばらく、「カルビ食べてぇ〜」「牛タン、懐かしいぃ〜」と思っていたのだけど、アトランタにはけっこう美味しい焼き肉屋があるとの噂を聞いた。ホテルからは10マイル以上も離れた、郊外と言って良いところにその店はあるらしい。詳細なマップもなく、
「多分、この出口を右に出て、ちょっと行けばあると思うんだけど……」
と助手席にて不安半分でナビしていたところ、高速道路を抜けた途端に派手な看板がいくつも見えた。"Hanwoori"という店名の下には、ご丁寧に平仮名で"はんうり"と非常に怪しい字体で記されている。

間違いようがない看板 巨大パジョン。旨かった…… 「ああっ!あれだぁ!」
「間違いようがねぇ〜」
「迷いようもねぇ〜」
と大笑いしながら車を駐車場に入れる。
広い店内は、アジア系の人々でかなり混み合っていた。8人以上が座れそうな大テーブルが多く、個室では宴会なども開かれているようでざわざわと賑わっている。

アメリカにありがちな、和韓混合のお店だった。メニューにはうどんや蕎麦、天ぷらや寿司まであり、その他に焼肉メニューや韓国風の麺もの御飯ものが多く載っている。寿司メニューを覗きこんだ息子が
「たまごといくらのおすし、食べたいなぁ〜」
とリクエストしてきたので彼にはそれを注文。私たちは念願の牛タンやカルビなどを計3皿注文してみた。
テーブル担当のおばちゃんは、英語よりも日本語が通じてしまうほど日本語が堪能……というより、英語に不堪能な人。動作が全体的に大雑把で声の大きい、いかにもな韓国人おばちゃんだ。
「タマゴとイクラね。アイ、わかったヨ」
と注文をにこやかに聞いて去った後、数分後に戻ってきて
「タマゴ、ナイ」。

じゃあイクラを2つにして、マグロ1つ追加してくれる?と寿司オーダー用の注文用紙のイクラとマグロの欄の横に個数を書いて渡すと、これまたにこやかにオッケーオッケーと言い置いて去った後、イカ2つとマグロ1つを持ってきた。
「イカじゃないよー、イクラだよ。ほら、ここ、ここね、ここの"Salmon Roe"ってところに1個って書いたよ」
と、英語と日本語がごちゃごちゃになりながらも伝えると、
「ん?イクラ?イクラね、はい。で……コレ、持ってきたのは、イクラじゃない?違うの?イカ?え?」
といまひとつ要領を得ないおばちゃん。数十秒ほど押し問答した挙げ句、おばちゃんは「イクラね、イクラ、イクラ……」と呟きつつ去っていった。ほどなくして、やっと息子の前にやってきたイクラの握り。オーダーを通すだけで何だか大変だった。

牛タンは、かなり薄めではあるけど、量はこれでもかとたっぷり。骨付きカルビは分厚く大きく、シモフリではなく適度に赤身ないかにもなアメリカ牛だ。揉みダレの味も好みの甘辛さで良い感じ。ただ、ここは韓国式の焼肉屋なので、おばちゃんが勝手にどかどかと焼いていってくれちゃうのだった。最初に牛タンを半皿分ほどドババーッと鉄板の上に盛りつけてしまい、
「あ、あ、そんなに重ねて焼いちゃダメ……」
と私たちが青ざめる前でぐっちゃぐっちゃと広げていく。カルビも鉄板に敷き詰めるようにどばばばーっと何枚も並べ、立ち去って数分後に戻ってくると無言でハサミでジョキジョキ切ったりひっくり返したり。1枚1枚好みの加減に焼いて、という日本の焼肉とは異なり、思った以上にワイルドな焼肉の夕べとなってしまったのだった。
テーブルの上には各種キムチにナムル類、ポテトサラダまで並んでいて、サンチュも頼めば無料でどんどん持ってきてもらえる。ビールを飲むのも忘れてしまいつつ肉を頬張りキムチをつつき、最初は「最後にビビンバか冷麺でも食べたいよね」と言っていたにも関わらず、御飯1膳もらっただけで充分すぎるほど満腹になってしまった。


Chamblee 「Hanwoori」にて
パジョン
牛タン
骨付きカルビ
寿司(イクラ)
寿司(マグロ)
ビール(OB Lager)
$15.95
$16.95
2×$16.95
2×$4.50
$4.25
2×$4.00

高速道路をかっとばして帰ってきた後は、デザートにとホテル正面のハーゲンダッツでクッキー&クリームを買ってから部屋へ。
明日は車に乗って、郊外へお出かけだ。