5月5日(月) コロラドの乾いた台地と風車な光景

牛乳、腐ってた……〜「Au Bon Pain」

ワシントンD.C.滞在の、あっという間の3日間。
今日は再び飛行機に乗り、シカゴ経由でデンバーを目指す。旅程はまだ1/4で、ここからが今回の旅の本番だ。国立公園巡りに備えて、炊飯器やら米やらごはんですよやらが詰まっている荷物をよっこらしょと持ち上げ、Union Stationまで歩いて行く。朝御飯は駅で食べれば良いね、と朝7時半のチェックアウトだった。

月曜の朝ということもあってか、駅構内はビジネスマンらしき人々で混雑しまくっている。何軒かのベーカリー兼コーヒーショップがある中、Au Bon Painという店でパンを食べることにした。美味しそうなデニッシュがいっぱいあるなぁ……と棚を覗き、チョコクロワッサンやレーズンクロワッサンを自分で袋に放り込む。牛乳やコーヒーを手にしたら、レジでお金を払って席につく。牛乳が飲みたかったのだけど、低脂肪の2% Reduced Fat Milkしかなくて(味気なくてあんまり好きじゃない)、仕方なしにそれを私の分と息子の分の2本購入。

巨大なデニッシュは、甘さが強めだったけれどそこそこ美味しかった。チョコクロワッサンはチョコをくるんで更に上からもチップチョコレートが散らされ、それが溶けてコーティングになっていた。だんなが選んだアーモンドクロワッサンは、表面にアーモンドがついているだけかと思ったら中にも甘い甘いアーモンドクリーム満載だったという。
わしわしとパンを齧り、牛乳を一口。……おんやぁ?

なんか牛乳、微妙に変な味がする。賞味期限はまだまだ先なのに、酸味がある。あからさまな腐臭があるわけじゃなく、ただ、飲んだ後に舌にイヤ〜な酸味が残る。が、向かいに座る息子は別のボトルの同じ品を飲んでいるけれど、普通の顔をしてぐびりぐびりと飲んでいる。低脂肪乳を飲むのは久しぶりだったということもあり、
「あれ……?普段から酸味ってついてたっけ。……ないよなぁ、でもなぁ……」
と変な勘ぐりまでしてしまい、不味いなぁと思いつつもボトル半量くらいまで飲んだところで列車に乗り込んだ。食べきれなかったパンは袋に詰め直し、残った牛乳もそのまま持っていった。

店ははるか彼方後方になった列車の中、
「私の牛乳、なんかね、ちょっと酸っぱかったんだぁ……」
と息子の牛乳の方を飲んでみたところ、こちらはごくごく当たり前の牛乳の味。自分の舌の違和感を信じないで「まぁいいか」と飲んでしまった牛乳は、どうもきっぱりはっきり腐っていたようだ。飲んだ量は、軽く200ml以上。おかげでそれからしばらくグルグルピーになってしまった私だった。阿呆だわ……。

Union Station 「Au Bon Pain」にて
Chocolate Croissant
Almond Croissant
Raisin Croissant
2% Reduced Fat Milk
Coffee (Ritazza)
2×$1.59
$1.59
$1.59
2×$1.69
$1.39

そりゃミステリーサークルとか作りたくなるかも

Union Stationから列車でバルチモア空港の最寄り駅に向かい、そこから無料シャトルバスで空港へ。そこからシカゴ経由でデンバーへ。ワシントンD.C.とシカゴ間は1時間の時差があり、更にシカゴからデンバーも1時間の時差がある。今日は1日が26時間だ。

シカゴ空港の1時間半ある乗り換え時間がちょうど昼時だったので、ここで昼御飯。空港飯は高くて不味いものだと知りつつ食べて、やっぱり高くて美味しくなかった。けっこうトホホだ。

食べたものは、メキシカンファーストフード店のジャンボブリトー。中には炒めた鶏肉と米と豆とトマトとレタスとチーズとコーンと……と大変なことになっていた極太のブリトーは、作っている工程も外見もかなり旨そうに見えた。……が、何だか苦い。何だか、炒めていた鉄板についている焦げが全てに吸着したような、妙な苦さが全体的に漂っている。皮も苦けりゃ肉も苦い。米も苦い。コーンまでもが苦い。
息子にと買ってやったチーズケサディーヤ(甘くない、パリパリ生地のチーズピザというかチーズクレープのようなもの)も苦さがあったものの、こちらは比較的食べられる味だったので、そちらもつまませてもらいながらの苦い昼食。
腐った牛乳といい、苦いブリトーといい、今日はちょっとついていないかも……。

Chicago O'hara Int'l Airport内 「Burrito Beach B-Smooth」にて
Baja Chicken Burrito
Cheese Quesadilla
Lemon Tea
$5.25
$2.99
$1.79

そして飛行機はコロラド州の州都、デンバーに向かう。
今日は良い天気ではあるけれど、ワシントンD.C.発の飛行機もシカゴ発の飛行機も、イヤになるくらいぐらんぐらんと良く揺れた。この日、宿に到着してわかったことだけれど、昨日から今日にかけて、おっそろしい数の竜巻がアメリカ中南部あたりで発生していたらしい。私たちの家があるテネシーあたりも竜巻や雷雨で大変なことになっていたようだ。竜巻が起こっているということは当然気流が乱れているということで、私たちが乗る飛行機にもしっかり影響が出ていたらしかった。……ていうか、飛行機が無事に飛んで本当に良かったかも。

モザイク模様のようなデンバー周辺の畑地帯

デンバーが近づくと、眼下に広がるのはひたすらひたすら畑と草原だらけな光景に。南部は森と川ばかりの熱帯雨林のような緑豊かな光景が広がるけれど、こちらの印象は「乾いているなぁ」という感じ。森は少なく、茶色の中にちらちら緑が散らばっているような風景だ。綺麗に四角や丸に区切られた畑と道路のコントラストは上空からもはっきりと見え、まん丸な畑を見てしまうと
「あー、そりゃ宇宙人もミステリーサークルとか作りたくなるわー」
と妙な感想を抱いてしまう。
そう、そういえばコロラド州あたりは"キャトルミューティレーション"の舞台の1つでもあったはずだ。
「そっかー、ミステリーサークルとキャトルミューティレーションの名産地かー」
(↑ミステリーサークルの名産地かどうかは知りません)
と呟いたら、だんなはちょっとイヤな顔をした。

そして北へ

午後2時半過ぎ、デンバーの空港に到着。予約済みのレンタカーの手続きを済ませたら、あとはひたすら北を目指す……いや、その前に、まずは買い出しをしなければならない。
今回の旅行、私たちは炊飯器を持ってきていた。家では羽釜で御飯を炊いていたため、電気炊飯器を留学生仲間Mさんのお宅から借りてきて、代わりに羽釜をMさんちに預けてきた。3合炊きの小さな炊飯器で、比較的持ち運びも楽そうだ。米も持ってきた。ふりかけも、ごはんですよも、鮭フレークの瓶詰めも持ってきた。おかげでワシントンD.C.滞在時は大変な大荷物になっていた。

元はといえば、
「国立公園ってさー、風景は綺麗だけど、なんかこう、御飯があんまり美味しくないんだよね」
「冷凍ものをチンしたようなハンバーガーとかじゃなくてさ、大自然の中でおにぎり食べたら美味しいだろうなぁ」
と言い出したのが始まりだ。「アメリカの大自然の中でおにぎり」から派生して、だったらおにぎりの具もいるよね、とか、麦茶があったら嬉しいよね、とか、モーテルに泊まってろくな夕食がなかったら御飯炊いて夕食にしてもいいじゃない、などとどんどん話が膨らんでしまったのである。御飯が炊けるならあれもこれも、と野望は広がりつつあった。

そういうわけで、まずはデンバーで買い出し。デンバーの日本食材店でインスタント味噌汁や日本茶、カップラーメン、ポッキーやカルピスなどを買い込み、その後郊外の大型スーパーで飲み水兼調理用にと大量にガロンボトル入りの水を購入。1ガロン水のボトルに、水だし麦茶のパックを2個ねじこんでおくと、数時間で美味しい麦茶ができあがる。そうそう、ビールも忘れずに。

最終的に、お米は持っていった量の1/3ほどが余ることになるのだけど、「困ったら御飯を炊けばいい」という保険が常に自分の中にあったことは、旅行中、予想以上に精神の安寧をもたらしてくれた。たとえ道中にハンバーガー屋とファミレスしかなくても、モーテルに行ったら御飯も食べられる、翌日の昼にはおにぎりだって可能だ、と思うとハンバーガーもステーキも美味しく食べられた。

買い込み終了、いよいよ北へ。薄手の長袖で汗ばむほどだったワシントンD.C.の気候に比べて、デンバーはやや涼しめ。それでもセーターなどは不要なほどには充分温かい。とりあえず今日は行けるところまで、ととにかく車をI-25に沿って北に走らせる。

きーもちいー

郊外に出ると、周囲は真っ平らの草原地帯。起伏も多少ないではないけれど、テネシーの豊かな起伏つき道路と比べると限りなく真っ平らだ。青い空の下、一直線に伸びる高速道路。周囲にはちょこちょこと牛や馬の牧場も見えてくる。背の高い木などはほとんどなく、いかにも乾燥しているなぁと思わせる風景だった。大きな川も見あたらず、草原地帯には地下水を汲み上げていると思われる巨大な機械もいくつも見える。国立公園群はまだ先なのに、期せずして"大自然満喫モード"に突入している感がある。
遠くから見るとニョロニョロのような

デンバーを出たのは、既に5時を過ぎてから。デンバーから100マイルほど北上し、コロラド州からワイオミング州に入ったところにあるCheyenneという町に宿を取ることにした。
Cheyenneに近づいたとき、右手の彼方に見えたものは、いくつもいくつも数え切れないほど並ぶ巨大な風車。ふきっさらしの台地の風はやはり強いらしく、全ての風車がゆっくり回っている。
「……あ、風力発電かー」
「すっごい数だねぇ」
と、右手をちらちら見ながら車を走らせると、いつのまにかワイオミング州に入ってしまっていた。風力発電、アメリカ西部ではけっこうメジャーなものらしいけれど、森と川と山が多いテネシーじゃ、そんなのおったてる場所はないので珍しかったりするのだった。
夏時間が施行されているこのシーズン、午後7時をすぎてもまだまだ日は高い。

宿泊したのは、町の郊外に位置していたモーテル、Comfort Inn。1泊$53.10だ。周囲に店らしい店はなんにもなく、ガソリンスタンドの他は、いまいち食指が動きそうにないファミレスとマクドナルドがあるくらい。
「これは、やっぱり御飯を炊きますか?」
「さっそく炊いちゃいますか?」
と、ニヤニヤしながらチェックイン後に米を炊き始める私たち。部屋にあったホテルの案内ファイルの中に中華デリバリーのペーパーが挟まっていたので、おかずをそこから少し持ってきてもらうことにした。10ドル分注文すれば持ってきてくれるそうなので、回鍋肉とスープと春巻を注文。注文した品が届く間に米を炊き、ついでにモーテル内のコインランドリーで3日分の洗濯なぞしつつ、夜9時を回ってのちょっと遅めの夕御飯となった。

デリバリー屋から届いた料理は、そこそこの美味しさ。それでもビリッと辛い回鍋肉が炊きたての白い御飯に似合って美味しかったし、部屋でテレンとした格好してビール飲みつつだらだらと、という状況も嬉しかった。空腹もあいまって、
「ぼくね、はるまき食べるよー」
「あ、スープちょうだい」
「回鍋肉、ここ置くからねー」
とわいわいがつがつとしばらく必死で食べまくる。ほんのりカレーの風味漂う黄色い春巻に、卵と人参、豆腐入りの色鮮やかなスープ。私たち以外にも、部屋で夕食をという人は珍しくないようで、近くの部屋にはピザ屋の兄ちゃんが配達にきていたりした。

3合炊いて残った少しばかりの御飯はおにぎりにして、明日道中でつまもうということに。
間に2泊の宿の予約をしてあるだけの、あまり旅程も定まっていないこれからの8泊9日間の旅。明日はとりあえず石壁に刻まれた大統領の顔でも見に行くことにしよう。