食欲魔人日記 02年01月 第2週
1/7 (月)
今日はやはり七草粥を喰わねばならぬ (朝御飯)
七草粥
アイスウーロン茶

「今日も水です、水でした」
朝から私は夫に向かって何の報告をしているのだろう。というわけで、風邪は隨分軽くなった(水なのに?)。

今日は七草粥の日だ。状況的には粥の朝食というのは嬉しいものだったりする。朝からごにょごにょと布団から抜け出さなかった私の代わりにだんながせっせと土鍋を出して粥の仕込みをしてくれた。
「ちょっと塩気が多かったよー」
と言われたお粥は、確かにちょっとばかり塩辛かったけど、いいのだ、美味しかったのだ。

七草粥の残り
チキンクリームシチューの残り
牛乳

だんなはお仕事、息子も今日から保育園。私も明日は仕事だ。今日はおとなしく「風邪よ治れ」と念じておとなしくしていることにする……と言いつつ、「メタルギアソリッド2」が面白すぎて、ついつい「ああ昔のもやりたい」(1もやったけど、義弟のディスクを借りたのだった)と買ってしまった「メタルギアソリッド インテグラル」を手にテレビの前に陣取ってしまう。風邪をひいた食欲魔人、伝説の傭兵となってVR訓練。地雷踏んで即死、敵4人に囲まれて討ち死に、なんだかものすごくたどたどしい"伝説の傭兵"だ。情けない。でも楽しい。

台所のコンロには昨夜の残りと今朝の残りの鍋が各1個置かれている。シチューとお粥。全体的に消化にはとても良さそうだけど、一緒に食べるとなんだかものすごくバランスが悪いような気がしないでもない。でも気にせず食べる。

全体的にあったかくてとろんとしていてほくほくしていた昼御飯だった。こたつでみかんなぞ食後に食べていると妙に正月気分がよみがえってきたり。

広島産の生牡蠣〜♪
ねぎとろ丼
モルツ、アイスウーロン茶

昨日の昼過ぎ、広島から牡蠣が届いた。だんなの同僚が送ってくれたものらしい。生牡蠣10個に剥き牡蠣1パック、広島菜(白菜の漬け物)が1パック。昨日の段階でまだちょっとふらふらだったにも関わらず
「食べる!食べるよー生牡蠣食べるー今晩食べるー」
とじたばたして、だんなに全力で止められたのだった。一夜明けて、気合い入れて山盛りの生牡蠣。

殻つきの牡蠣を、軍手はめて牡蠣ナイフ持って、ショリショリと開いていく。全部開いたらざく切りレモンを握りしめてこたつに移動。あったかいこたつで冷たいビールに冷たい牡蠣。牡蠣は味覚異常にも効果あるから風邪にも効果あるはずだ、多分(←どこに、そんな根拠が……)。
「海のミルク、サイコー」
「もーもー、サイコー」
と言いながら、ぎゅぎゅぎゅーっと絞ったレモンの味だけで食べる生牡蠣。磯の香りが香ばしくてぬるっとしててツルッとしてて、殻は小ぶりだったけど身はぷりぷりとして良い感じの牡蠣だった。あっというまに10個が消えた。牡蠣はやっぱり生がサイコーだー。

で、あとは手抜きして、冷凍のトロのたたきを解凍してねぎとろ丼。刻み万能葱と、冷蔵庫に残っていた少しのいくらと、おろしたわさびを添えたら手抜きなのにものすごく美味しくなった。
さー、剥き牡蠣は何にしようかなー。

1/8 (火)
だんな特製ミニミニラーメン…… (夕御飯)
なし

腹を下している日に生牡蠣を食べるという行為は、やはり危険なものであったらしい。熱があるのに寒中水泳するようなもんだろうか。せっかく治りかけた腹下し風邪が、また悪化してしまった。私ったら馬鹿馬鹿、大馬鹿だ。でも生牡蠣はとてもとても美味しかったので後悔しないけど。

「うぉー、腹が痛い〜、水っ水っ今日も真水のようっ」
と起床するなりこたつに潜ったまま出られなくなってしまった。腹の痛さときたら、これまでで最高の値を示していたかもしれなかった。最悪だ。15分とあけずにある場所を目指さなければならないので、とてもじゃないけど通勤は無理のようだった。だんなが静かに告げるには、
「おゆきさん……今日は一日、何も食べちゃダメ。ね。これじゃいつまでたっても治らないし」
だそうである。確かにそれは真理かもしれない。これが治らなきゃ旅行に行っても楽しくない。おとなしく、今日は何も食べずにおとなしくしていることにした。この日記をつけはじめてから初めて、「今日は何も食べず」の日になる予定、だった。

だんな特製ミニミニラーメン
アイスウーロン茶

朝に何も食べず、昼も何も食べず、そして、夜。
「冷蔵庫に材料あるしー、今日は味噌ラーメン♪」
とだんなが帰ってきた。ついでに彼も同じような症状だからと病院に行って腹下し用の薬も貰ってきたらしい。

「薬飲む?そのためにちょっとだけ、ラーメン食べる?」
とだんな大、息子小、私は更に極小サイズ、という感じの小さな小さなラーメンを作ってくれた。朝も昼も食べていなかったもんだから、このラーメンが美味しいこと美味しいこと。もやしやひき肉、小松菜なんかと炒めた具がたっぷり乗った味噌ラーメン5口分ほどを心ゆくまで味わった。
明日には良くなるかなぁ、良くならなかったら泣く。

1/9 (水)
空也のもなか♪ (夜のおやつ)
ミートソースのパニーニ
ミルクパン
カフェオレ

私の自慢の胃腸がすっかり役立たずになってから早や5日目。薬服用の甲斐もあってやっとマシになってきた。
今日は、昨日休んでしまった代わりに大学へお仕事に行くことになっている。OB会を控えた今、そこで配るための名簿を作らなければいけないのだ。「データベースで作り直していーですか?」とやりはじめたばかりの500人分の名簿、あと1週間ほどで仕上げなければならないのに、あと数日したら6日間の旅行に行ってしまうときた。大変にスケジュールはせっぱ詰まっている。

朝御飯は、昨日パン屋さんで買ってきたやつ。ミートソースが少量がベーコンと共にくるまれたパニーニと、表面中央にうっすらコンデンスミルクがかけられているようなミルクパン。
「なんか今度は俺の腹が痛い……」
というだんなにものすごく不安を感じつつ、とりあえず出勤。

大学教職員用学食にて、教授にゴチになる
 Bランチ
 (スープ、サラダ、サワラの香草焼き、パン、紅茶)

年明け早々、色々と不幸は重なるものみたいで、今日は財布を家に忘れてくるという香ばしいチョンボをやらかしてしまった。定期券入れは持っていたので、職場に着くまでぜんっぜん気付かなかったのだ。腹下し対策に昼飯抜こうかなーとも思っていたけれど、「食べない」のと「食べることができない」の間には深くて険しい崖があるのである。食べられないとわかると無性に食べたくなってくる。「あああ、どうしましょう」と思っていたところ、
「今日は昼、特に約束などがありませんで……ご一緒しませんか?」
と教授に言われた。え、ゴチですか、ゴチしてくれるっすか、もう行きます行きます地の果てでも焼き肉食べ放題でも。

で、行ったところは教職員専用の学食なのだった。パレスホテルの経営する、学食とは思えないほど綺麗だし、味もそこそこ悪くない。今日はBセットが美味しそうだと思い、教授と一緒にBセット。サワラの香草焼きだ。
甘さの強いポタージュスープは、たぶんさつまいものものだ。カリカリに揚げられた油揚げが入る大根の和風サラダに、温められたパン。切り身の大きめの魚にはうっすら香草がまぶされている。コーヒーか紅茶がついて、1000円ほどの昼食だった。

食い道楽かつ呑み道楽の教授には食べ物とワインの話題をふると、いつまでも楽しそうに話してくれる。
「最近ね……1本を一気に飲むのは止めにしたんです」
「はぁ」
「でね、残ったものを……」
「普通は中の空気を抜く栓をつけたりしますよね」
「いや、最近、わたくしは発見したんですけどね、"凍らせる"。これが、その、悪くないんですね」
「え"、不味くなりませんか?」
「いやぁ、それが美味しいんですよ、冷凍庫にいっぱい貯めちゃったりしてね、これが、」
「貯めるんですか!」
……段々漫才のようになってきた。

焼きうどん
アイスウーロン茶

銀座「空也」のもなか
ほうじ茶

体調は芳しくないのに、大学から名簿用の資料を抱えて帰ってきた。今日の夜と、明日は自宅で作業だ。旅行に行く前までに教授に校正用原稿を送ってあげなければならない。しかもこういうタイミングで
「新店用のロゴ、つくってくれますー?」
なんて、普段はない依頼が寄せられてしまったりして、かなり大変なことになってきてしまった。あと作業できるのは木曜と金曜しかないのにー。とほほ。

で、帰宅してから家事全てをおっぽりなげて仕事を開始。
だんなが7時半頃戻ってきて、焼きうどんを作ってくれた。しかも手みやげまで持って帰ってきてくれた。銀座の「空也」のもなかだ。親指と人差し指ですっぽり持てるような、小ぶりの小判型もなかだ。皮は薄く、中身は上品なねっとりとしたあんこ。皮と餡のバランスが何とも絶妙な、"ああ、老舗の味って感じ"な味。牡蠣をくれた人へのお礼に買ったついでに、我が家用も買ってくれたのだとか。

腹痛でも、下してても、やっぱり空也のもなかは美味しいのだった。いつも2〜3個食べちゃうところだけど、同じ症状で苦しむだんなも私も1個ずつ。明日また食べるんだ。うふ。

1/10 (木)
2日目の「空也」のもなか (夜のおやつ)
なし

「今朝もまだ、"ゲル"状にすらならないんです」
「僕ぁ逆に"コロン"なんです、つらいのに……」
食事日記であることを返上した方が良いんじゃないかという、ビロウな会話で夫婦の朝は始まる。だんなまで腹具合が怪しくなってきた今日、「旅行前に倒れたら元も子もないし」という理由でだんなは本日仕事を休むことになった。

「今日こそ、1日中何も食べずにいようよね」
と夫婦で固く誓いを立てて、息子を保育園に連れていく。私は名簿作りの仕事とロゴ作りの仕事と、つ いでにホームページ作成の仕事も片づけなきゃいけなかったりして、かなりいっぱいいっぱいの今日だ。「DAKARA」なぞちびちび飲みつつ誓いどおり食物を取らない午前中。ここで完治させて、明後日からはタイ料理を心ゆくまで食べねばならぬ。

稲毛 Shibaにて
 サービスターリ(チキン)

「……おなか、すいたね」
「お蕎麦でも茹でようか」
誓いは4時間も保たなかった。「これ食べよう」「あれ食べよう」とストッパーはいないまま話は盛り上がり、
「カレーなら、整腸作用があるかもしんない」
「スパイスの刺激で一気に治るかもしんない」
「なにしろほら、アーユルヴェーダ、だし」
とわけのわからないことを言いながらカレー屋に行ってしまった。いつも並んでいるのに今日はいないから、という理由で「Shiba」に行く。

都内近郊を掲載しているようなカレー本ならば、必ず載ってしまうような名店だ。怪しい喫茶店然とした店は昨年末に小綺麗な喫茶店的内装に変わった。行列はなかったけれど、午後1時半の店はまだまだ満席状態だ。
名物の混ぜカレー「サービスターリ」を注文。私は中辛のチキンを、だんなは甘口の海老を。それらのカレーと共に、野菜のカレー、青菜のカレー、スープがサフランライスと一緒にやってくる。御飯の上に全てのカレー類をぶっかけて容赦なくぐっちゃぐちゃにかき混ぜまくって、それから食べる。最近は、それほどかき混ぜない間にそれら個々の味をちょっと楽しみ、ちびりちびりとかき混ぜていくのが好きになりつつある。

トマトの酸味と肉や野菜の甘味、ビリビリ染みるようなスパイスの強い味。特に鼻の奥にツーンとくるようなクローブの香りが濃厚で、これを食べる度に「そうそうこれこれ」とどこか懐かしくなってしまう。風邪ひいてても、腹下してても、美味しいものは美味しい。

結局、
「……おなか、いたい?」
「……いたく、ないかも」
「治った、かな?」
「治る、かな?」
とおそるおそる帰宅した。「用心のために、夕飯は止めておこうね」と言いながら。

銀座「空也」のもなか
ほうじ茶

仕事は無事にひととおり終了。名簿は印刷して教授に郵送したし、ロゴも何度かの修正の後、オーナーに「オッケー」と言われた。ホームページも更新した。あとは旅行の準備と、体調を調えるだけ……のはずだ、たぶん。

夕飯は食べないけど、もなかは食べる。食べねばならぬ。10個入りのもなか、まだ7個も残っているのだから。
家族みんなで1個ずつ、ついでにだんなと分け合って1/2個ずつ。ねっとりしたあんこと薄い皮は翌日になってもやっぱり美味しかった。子供の手のひらに丁度良いような小さめサイズだから、その気になったら5個くらいは一気食いできそうだ。

購入の最小単位は10個だけど、なんでも桐箱入りの「108個入り」というのもあるらしい。家族3人、1日1個食べて1ヶ月以上かかるすごいシロモノだ。すばらしい。

1/11 (金)
快気祝いはカキフライ♪ (夕御飯)
銀座「空也」のもなか
牛乳

「やりました!"水"じゃなくなりました!腹痛も全快ですっ!」
「……君は、見事に合わせてくるねぇ」
旅行出発前日の今日である。私の体調はどうやら元に戻った模様。もう何を食べても大丈夫、そんな心強い感覚が消化器官からビシビシと伝わってくる。ああ良かった。本当に良かった。初めてのタイ旅行でお粥しか喰えない、なんて事態は何がなんでも避けねばならない。

「……で、君はどうよ」
「……う、うーん……朝と昼は節制、かな、夜のために」
今晩のメニューは決まっている。冷蔵庫に剥き身の牡蠣が入っているのだ。牡蠣鍋でも牡蠣飯でもなく、牡蠣フライ。生牡蠣にレモンを絞って食べる以外には「やっぱり牡蠣フライだよねっ!」が我ら夫婦共通の見解だった。何が何でも牡蠣フライを食べる。今晩食べる。絶対食べる。それを胸に今日の胃袋を調える私とだんなだった。

で、「あまり食べないでおく……」というだんなに合わせて朝御飯はもなかを1つ。冷たい牛乳を片手に小さなもなかを1つ食べる。

あべかわ餅
ほうじ茶

「"あべかわ餅"と"いそべ巻き"の違いはなんじゃろう?」
などと考えながら昼御飯はお餅2個。んぷーと膨らむまで焼いてから醤油に浸して海苔を巻く。私には今ひとつ理解できない文化だけど、母の実家のある秋田では醤油に砂糖を大量に溶かしたやつを浸して食べたりもする。そうそう、"マヨネーズ醤油"なんてのもつけていた。私は普通に醤油だけをつけるのが好きだ。そういえば今日は鏡開きの日。

カキフライ with 自家製タルタルソース
ウィンナーフライ
レタスとパプリカのサラダ
コーンスープ
羽釜御飯
モルツ、アイスウーロン茶

「やりました!俺も復活です、腹痛終了!」
「……君も、見事に合わせてくるねぇ」
かくして、どうやら旅行は無事に行けそうだし、夕飯にはカキフライを食べられそうなのだった。ブラボー。

タルタルソースを作りつつ、早めに帰ってくるだろうだんなを待つ。刻んだゆで卵に玉ねぎとピクルスを混ぜ合わせてマヨネーズで和えただけの簡単なタルタルソース。それでも雑味がなくて、市販のものより美味しいと私は思う。山盛りのタルタルソースを作った後は、冷蔵庫に残る牛乳処理にとコーンスープ作り。冷蔵庫に残っていたレタスをざくざく切ってパプリカと玉ねぎを適当に混ぜ合わせて千切りキャベツ代わりのサラダに。残り物だらけで整えた割には、カキフライのおかげで久しぶりのご馳走な夕飯になった。

広島から送ってもらったいただきものの牡蠣は、ぷりぷりと1個1個が大きくて良い感じだった。さくさくの衣と牡蠣のほろ苦さと卵とマヨネーズのタルタルソースの味がすばらしく似合う。「これが食べたくて風邪を治したのよ」と言いたくなってしまうほど、久しぶりの揚げ物の味は格別だった。

で、ばさばさと荷造り開始。あ、でも「風の谷のナウシカ」なんて放映しているもんだから、眼が、眼がついつい……。

1/12 (土)
本場のトムヤムクン。辛かった…… (夕御飯)
ミスタードーナツの
 シュガーツイスト
牛乳

朝5時半起床。ばたばたと準備して7時前の快速に乗って成田まで。今日から6日間のプーケット旅行だ。

朝御飯は10分で食べられるようにとミスタードーナツを1人1個。私は長めの砂糖まぶしのドーナツを。ああ眠い眠い。ところで家族揃って体調は万全に。密かに密かに、
「これだけ体調を崩すということは守護霊からの"旅行に行くな"のメッセージ?」
と思っていたりしていたんだけど、なんか大丈夫そうだ。無事に帰れますように。

タイ国際航空機内食
 ビーフステーキ じゃがいも・にんじん・いんげん
 日本蕎麦
 巻き寿司
 パンとバター
 ミルクババロアとオレンジゼリー
 ウーロン茶、赤ワイン、紅茶

 サラミとハムとチーズのサンドイッチ
 紅茶

プーケットまで直行便で7時間40分。時間がかかるので食事も二度出る。「学校給食じゃないんだから」的な蕎麦とパンの組み合わせとか、何故巻き寿司にステーキなのかとか、いつもいろいろ言いたい事はあるんだけどそれでもきっちり食べてしまう。

で、息子用のチャイルドミールをフライト予約と同時にお願いしていたはずなのに(しかも旅行代理店とかじゃなくてタイ国際航空のオフィスで予約したのに)、それが通っていなかった。「ちゃんと予約したのにー」と伝えたところ、息子には大人用の食事の他にサンドイッチが出る。パンも1個多く出る。しかもこれでもかと大量のおもちゃ類も貰ってしまった。空き座席が多い所為もあるかもしれないけど、ジュースを持ったスタッフもやたらと目の前を通っていく。プーケットを前にして、既に腹はたぷんたぷんだ。とほほ。

Phuket Laguna Beach Resort「Rim Talay Thai Restaurant」にて
 タイ風前菜盛り合わせ
 トムヤムクン
 白身魚のレモンにんにくソース蒸し with 御飯
 野菜入りタイ風焼きそば
 ドラフト シンハービール

午後3時半、無事にプーケット空港に到着。1時間ほどでホテルの部屋でやっと長袖の服を脱ぐことができた。こちらの気温は27℃。湿気もあるので「水着にならなきゃやってられません」というくらいに蒸し暑い。
「キャー、海!」
「キャー、プール!」
「キャー、ウォータースライダーァァァァ」
などと浮き足だってしまい、到着早々水着に着替えて遊びはじめてしまった。ウォータースライダー、連続3回ほど全力で楽しむ。

だんなは案外と繊細な人で、旅行に行くと初日はどうも体調が調わないことが多い。大抵、初日の夕飯はあまり食べられずに終わってしまうのだ。今回は、全力で遊んでしまったせいもあって、一家揃って食欲旺盛だった。
「やっぱり来たからにはタイ料理でしょー」
とホテル付設のタイ料理レストランに出かけていく。タイ料理屋、私は東京で5年ほど前に入ったきり、だんなに至っては初めてかもしれない。初心者中の初心者なので「まだ屋台は怖すぎるし、外のお店もちょっと不安だし」とホテルのタイ飯にとりあえず挑戦。

座ってすぐに日本語のメニューなど出されてしまったりして苦笑しながら料理を選ぶ。「正式名称は何なんだー」とか言いながら前菜の盛り合わせとか、焼きそばとか。その日の入荷の魚介を好きなように調理しますというので、冷蔵ケースに張り付いて色々見せてもらった挙げ句、鯛に似た外見の白身の魚を蒸してもらうことにした。辛さを表す唐辛子マークはことごとく避け、ただひとつだけ、唐辛子マークが1つのトムヤムクンを。

唐辛子マーク1つ、でもそれは侮れないほど辛かったのだった。本場のトムヤムクンは、やはり強烈に辛かった。いや、東京で食べたのもすんごく辛かった記憶もあるんだけど。
1口食べて「ヒー」とうめき、そのまま2口3口と食べる間に唇が5倍くらいに腫れたんじゃないかというくらいにジンジンし始めた。もう、他の料理の味は全然わからない。何喰ってもトムヤムクンの味がする。酸っぱくてほんのり甘さもあって、でも辛くて、私の大好きなパクチーの香りがそこかしこに漂っちゃって海老はプリプリで、

「おいしー、けど辛いーけど、おいしー、けどけど、辛い〜〜〜〜」
と涙目になって食べていたところ、店員さんが
「辛いデスカァ〜?」
と言いながらミントの香りがする冷たいおしぼりを持ってきてくれた。口と顔を冷やしながら引き続き食べる。うう、辛い。

でも、全体的には「タイ料理って脅えるほどは辛くないのね」とだんなを安心させるに成功したようだ。
前菜の盛り合わせは"さつまあげ"なものが盛り合わされていて、コーン団子とか鶏肉の練り物だとか蟹の爪の詰め物だとかが揚げたてで香ばしく積み上がっていた。スィートチリソースだとか、ハチミツっぽい甘いタレだとかオイスターソースにも似た甘辛ソースをつけて食べる。酸味の強い小型のレモンの薄切りがざくざく入った魚の蒸しものはにんにくの香りがぷんぷんで、上にはやっぱりパクチーが山盛り。タイ米の蒸したのが添えられていて、ざくざくまぶしながら食べる。オイスターソースのタレに似た例のソースの味がする焼きそばは太めで、どこか懐かしい味がした。

「ほら、タイ飯、辛くないじゃん(トムヤムクンは除いて)」
「そ、そうね、案外食べられるかもね(トムヤムクンは除いて)」
辛いものがそれほど得意でない私たちは「おいしかったねー(辛かったけど)」「タイ飯、いいねー(辛かったけど)」と、口の中をハヒハヒさせながら部屋に戻ったのだった。ほんとのタイ飯ならではのタイ飯を食べられる日は来るのだろうか。

1/13 (日)
Phuket Town「Coffe Lovers」にてオリジナルワッフル。旨かった……(おやつ)
Phuket Laguna Beach Resort内「Similan Restaurant」にて
 朝食ブッフェ

プーケット初めての朝。私たちの予約したプランには、朝食はついていない。
「とりあえずこのホテル内のブッフェ朝食に行ってみましょうかー」と出かけていく。お一人様約1500円、安いとは言えないけど充実した料理が並んでいた。シリアルもたっぷり。フルーツもたっぷり。卵担当さんがフライパンを構えて中央に立っている。

「お粥がある〜」
「何故か焼売まである〜」
「でもでも、このバナナケーキが妙に美味しいんだー」
などと、節操なくあちこちのワゴンを周遊して一通り食べてしまう。マンゴージュースにフレッシュオレンジジュース、牛乳に紅茶。カリカリベーコンにマッシュルームとチーズ入りのオムレツ。ハッシュドポテトは悲しいほどに今ひとつの味だったけど、他はどれも大概に美味しい。

バナナのパウンドケーキやハチミツを垂らしたパンケーキを息子と分け合いつつ、チョコデニッシュもつまむ。
タイ料理が並ぶコーナーにはチャーハンに海老の炒め、鶏肉入りのお粥や切り干し大根に良く似た味の炒め物。どれもマイルドな味の食べやすいものばかりだった。最後にはイチゴとパパイヤとパインとすいかとメロンを1皿に山盛り食べる。……ちょっと食べ過ぎた。けっこう美味しいもので、ついつい。

Phuket Laguna Beach Resort内「Loma」にて
 サテミックスプレート
 ジンジャーエール

午前中はホテルのプールとホテル前の海にて全力で遊ぶ。午後にはプーケットの中心街なる「Phuket Town」へお買物に行こうということで、ホテルからの巡回バスの予約をしておいている。
昼はあまり余裕もないのでホテル内のカフェで簡単に。息子に「何が食べたい?」と聞いたところ
「ポテトとコーラ!」
という、なんともアメリカ人的答えが返ってきてしまい、それが食べられるであろう軽食コーナーに向かう。

私は6本セットのサテミックスプレート。豚肉鶏肉牛肉から好みのものを組み合わせてくれ、ジャスミンライスがついてくる。ソースはピーナッツ味の甘いものと、レモングラスの香りの甘酸っぱいものの2種類。カレー風味の下味がこってり染みた甘辛く香ばしい肉に甘かったり甘酸っぱかったりするタレをこてこてとつけて食べる。バリ島で食べたサテの味とは、名前は同じでも隨分と違う。甘さこってり辛さもほんのり、「甘いか辛いか酸っぱいか」というタイならではの味覚のバランスがこれでもかと詰まっているような味だった。

Phuket Town「Coffe Lovers」にて
 オリジナルワッフル
 ヨーグルトシェイク:ライチ味

20分ほど車に揺られて商店街へお買物。マンゴスチン型ココナッツ容器だの3枚で1800円ほどだったTシャツだのの買い物を満喫し、「一休みしたいね」と、「Coffe Lovers」なる怪しい名前の喫茶店に入った。店の内装だのメニューだのはスターバックスに酷似している。普通のコーヒーを注文する横で
「あ!ヨーグルトシェイクとかって書いてあるぅ」
「しかもライチ味があるぅ」
「キャー、ワッフルもあるぅ」
と背後でじたばたと騒ぎ、シェイクとワッフルを注文してもらった。200円ほどのシェイクは日本で言えばLサイズくらいじゃないかという巨大な容器にたっぷりと入り、温かいワッフルにはハチミツと粉砂糖がたっぷりかかってやってきた。

タイの屋台には、ワッフルなんてのもあるらしい。
「屋台のワッフルを見つけたら絶対食べる!」
と言っていたのに今日は見つけることができず、ワッフルに思いを寄せていたりした。で、出てきたワッフルはそば粉のようなどこか懐かしい味がして、ちょっとばかりモチモチとした生地がこれまた何とも良い感じで、洗練されているとは言い難い味だったけど、これがめちゃめちゃ美味しかったのだった。「ん!んまいよ、これ、んまいよ」と家族で争奪しつつ2切れのワッフルを食べ尽くす。

大量のヨーグルトシェイクも、妙にライチ味が濃厚でこれまた美味しかったのだった。ビールは75円くらい、1リットル近く入る牛乳も60円未満、「あー、調味料も安いわー」なんて言いながら、結局食料品関係ばかり買って帰ってきてしまったのだった。お買物大満足。

Phuket Laguna Beach Resort内「Grange Steak & Seafood Grill」にて
 青蟹のコンソメスープ 春巻き添え
 200gサーロインステーキ 赤ワインソース
 グリルドポテト
 シンハービール

私たちの宿泊する「バンタオビーチ」なるエリアは、複数のホテルが人工ラグーンでつながっていて、水上タクシーだの巡回バスだので無料で行き来することができる。各ホテルを利用しても、自分の部屋付けで料金を払える仕組みにもなっている。いかにもな巨大リゾートで、"タイならでは"な気分はいまひとつ味わえないけど、子連れ旅行には有り難い仕様だ。「ひたすらダラダラ」を目的に来ている旅行なので、ホテルグループの思う壺と思いつつあれこれ渡って遊んでみた。

で、夕飯は結局自分のところのホテルに戻ってきてしまった。
「そういえばステーキ屋さんがあったねぇ」
「肉をもりもり食べたいねぇ」
と、ステーキハウスに行くことに。想像以上にシックだった店は何やらきらびやかで、「あ、これってコロニアル調ですかもしかして」という感じがひしひしと伝わってきた。私たちは昨年のバリ島旅行のコロニアル調レストランで酷いめにあっている。これでもかと大量の料理を出されて、かつてなく「全部は食べられない」危機に直面したのだった。なんだか今回もそんな予感がひしひしと感じられる。

「前菜、やめておこうね」
「うん、スープ飲んでメインにしようね」
とひそひそと話し合い、メニューを眺める。メイン料理、肉や魚のリストの下には「添え物」のコーナーが。
「これって、肉や魚には添え物がないってことだよね」
「一緒の皿に添えてくれるんだよね」
と合点して、私はサーロインステーキにグリルドポテトを、だんなはTボーンステーキにマッシュポテトを添えてもらった。

これがこれが、油断はしなかったはずなのに、やっぱり大量にやってきて危うく食べきれなくなるところだった。200gのステーキなぞは楽勝だ。だが、その横に"添えられて"くるはずのじゃがいもが、大人の拳骨サイズ以上のものがごろりと別皿で来るのはどういうことか。マッシュポテトも、大きなスープカップになみなみ入っているのはどういうことか。これってちっとも"添えもの"になっていない。主食かそれ以上の存在だ。パンも山盛り来ているというのに。

甲殻類の濃厚な味がするコンソメスープは美味しかった。添えられた細巻きの春巻もパリパリサクサクで美味しかった。ステーキのレアな焼き具合も完璧で、甘味の強い赤ワインソースも好みだった。でも、やっぱりじゃがいもは巨大で巨大で、何だかテーブルの調和を乱している。胃袋の調和も乱してくれそうだ。
「こ、このじゃがいも、大きいな……ウェンディーズで出されるやつの、推定3倍という感じ?」
「俺のマッシュドポテトも……超山盛りに喰った記憶があるニューヨークグリルでのやつの1.3倍はあるって感じ?」
「多いね……」
「多いぞ……」
と、結構大変な思いをしながら平らげた、午後8時過ぎの遅めの夕御飯だった。
あ、明日はちょっと節制しようかな……(たぶん無理)