食欲魔人日記 02年08月 第3週
8/12 (月)
鶏肉とブロッコリーのクリームソースパスタ (夕御飯)
おかかおむすび
麦茶

昨夜から、我が家は重大な危機に直面していた。
冷蔵庫が挙動不審になってきているのだ。

昨日の昼頃、アイスクリームがでろでろに溶けているのが発覚、角氷も表面が溶けているところだった。ドアの閉め忘れかと一晩置いてみたところ、今朝の氷皿はますますピンチだ。溶けた水が氷皿の底に目に見えるほどに溜まりつつあり、勿論冷凍食品郡も非常にヤバイことになっている。食い道楽な我が家にとって、これは米がなくなるよりも切迫したピンチだ。季節を考えるとコンロが使えないこと並につらいことだ。

こちらの家は、マンションなどを借りるともれなく冷蔵庫もついてきているので、古いマンションに入るともれなく冷蔵庫も古いのだった。始終ブーーーーンという低周波音を出している冷蔵庫も、年代ものという感じ。
「冷蔵庫がヘンになった!」
と管理人室に行って訴えたところ、すぐさまメンテナンスのおっちゃんがやってきてくれた(この住宅、古くて安いくせに管理人のおばちゃんの他、メンテナンス担当のおっちゃんが2人もいていつもすぐに対応してくれる。すばらしい……)。

なんでもコンプレッサーがぶっ壊れたようなので新しいのを入れてくれるとのこと。ただ、新しい冷蔵庫は作りつけの棚の下、今置いてあるところには収まらない高さがあるので、棚も上に持ち上げる工事をしなきゃいけない……そんな事を言っている。大変なことになってしまった。新しい冷蔵庫が来るのは嬉しいけれど。

そんなこんなでバタバタしつつ、朝御飯は冷凍ものを少しでも消費しようと冷凍御飯をチンしておむすびに。中にはおかかと胡麻を醤油でまぶしたものをぎゅうぎゅう詰めて、1人分2個のおむすびをせっせと握ってテーブルに。

おむすび素晴らしい、おむすびこそ日本の味、と密かにおむすびを賛美している私。
話によると、この地域を発端として「Natchez Trace」(ナチェストレイス)という古い道路が伸びているらしい。ノリは日本の東海道という感じで、森に囲まれた素敵なドライブルートなのだそうだ。途中では小川も併走するように流れるこの道路、途中にはピクニックエリアなども用意されているらしい。
「ピクニックだピクニックだ!」
「遠足だ遠足だ!」
「おやつは3ドルまでですよ」
などと私たちは先日から萌えている。当然お弁当はおむすびなのだ。できれば日本食材屋で沢庵も買ってきて、あとは鶏の唐揚げと卵焼きなのだ。サンドイッチでも美味しいけど、やっぱり遠足にはおむすびなのだ。

大学内 University Club President Roomにて
 A教授主催昼食会

本日は、A教授からのお誘いで昼食会。大学内のレストランの「プレジデントルーム」なんてとこでやるというので、思わず多少のお洒落をして緊張して赴いた。留学生メンバーにその家族、A教授とスタッフのMさんに加え、A教授ゆかりの人たちも数人やってきて18人の大宴会となった。中にはまたもや「どエライ」人もいるようで、これまた微量に緊張した。

でもさばけたA教授は相変わらずさばけていて
「○○さんはこの席で、××さんはこの席で……あとはアメリカンスタイル。どうぞフリーシートです」
とどエライ人だけ席をふったら後は適当な席割りとなり、御飯も「アメリカンスタイル」ということでビュッフェ形式なのだった。「プレジデントルーム」というだけあって、重厚な趣の部屋なんである。赤ワイン色の絨毯に古めかしい椅子が並び、さぞフレンチのコース料理なんか出てきたら似合うんだろうなという部屋なんである。でも料理はビュッフェ。まだまだ"アメリカンスタイル"がわかっていない私なのだった。

日本語と英語がちゃんぽんになった会食を楽しみつつ、せっせとサラダ持ってきたりスープ持ってきたり。
ビュッフェコーナーにはツナサラダ、カッテージチーズのサラダ、コールスローサラダなどのサラダ類、パンが5種類ほど、スープはコンソメとポテトスープの2種類、あとはメインディッシュに豚肉のローストと白身魚のトマトソースがけオーブン焼きの2種類。つけ合わせにいんげんとにんじん、茹でただけのようなパスタも肉と魚に並んで置かれている。あとは別ワゴンにデザートがたっぷり。

シンプルな味(というと聞こえはいいけど、悪く言うと大雑把な味)の料理が多くて「味は……ふつう……かな」というものが多い中、豚肉のローストは最高に美味しかった。やっぱりこの国、肉は旨い。とにかく旨い。油っこくないのにパサつかず、噛みごたえはあるけど肉汁たっぷりだ。
デザートにはアップルパイやピーチパイ、ラズベリータルトなどがあって、私が取った乳白色の色のものはココナッツを上に散らしたカスタードタルトだった。甘いは甘いけど美味しく思える甘さの素朴なケーキ。ぷるぷるのカスタード生地の上にホワイトチョコのようにココナッツフレークが散らされていた。
お子さまには、何故かチョコレートパフェのサービスまであったりして。

鶏肉とブロッコリーのクリームソースパスタ
ビール(コロナ)

昼食後、保育園の仮申し込みに教会付属の保育園を訪ねてみたりして、帰宅は夕方。「もしかして冷蔵庫、治っているかしら?」の期待も虚しく、着々と冷凍庫内のものは融解していっている。非常にヤバイ。冷蔵庫に入れている麦茶も今ひとつ冷たくないし。

かくして、「せめてビールは冷たいのを飲みたい」と瓶ビールを冷凍庫で冷やしてみたりしながら、とにかく生鮮品を食べてしまおうという夕御飯。残っていた鶏肉は残っていた生クリーム及び「Half&Half」(牛乳と生クリームがミックスされたもの。マンゴプリン作成に使っていた)と共にパスタ料理にすることにして、塊豚肉に塩を揉んでいたやつは速攻茹でておくことにした。卵や牛乳はまぁ6時間くらい常温に置いていても大丈夫だろう。多分。

しっかり塩胡椒した鶏肉をフライパンで炒め、そこに生クリーム類をだばだばだ〜と注いで少々煮詰めていく。パスタを茹でている鍋にはブロッコリーもぶちこんで一緒に茹でてしまい、最後にそれをソースと絡めてできあがり。簡単だけどそこそこ美味しいパスタになった。しかし……だんな、1ポンドのスパゲティの袋を全部茹でるのは、やっぱりちょっと多かったんじゃないなかなー、と妻は思う。1ポンドつったら450gである。料理の本に出てくる「パスタ1人前」は80gである。親子3人で450gはやっぱりすごい量じゃなかったかなと思うんである。

8/13 (火)
Alpha Bakery(Bellevue)のロールケーキがうみゃ〜♪
自家製パンで厚切りバタートースト
ベーコンエッグ
牛乳

昨日のうちにパン焼き機をセットしておいて、アメリカに来て初めてパンを焼いてみた。一昨日からどんどん役立たずになってきている冷蔵庫は、ついに冷凍庫の氷が全て溶けるに至って非常にヤバイ状態に。今日の午前9時半から10時の間に冷蔵庫を届けにくると言われていたのでいそいそと冷蔵庫の中身を全て出して準備していたけど、時間通りに来るなんてことはなく、10時半を過ぎても届く気配は全くなかった。これがアメリカなのね……。

で、11時頃になっても未だ冷蔵庫は届かず、しびれを切らして朝御飯。焼いたパンをスライスしてバタートーストに。ベーコンエッグを作り、冷蔵庫から出していたのですっかりぬるくなってしまった牛乳を飲む。冷凍食品類はクーラーボックスに入れてはいるけど、果たして無事に冷凍庫に生還できるのだろうか。

Bellevue 「Alpha Bakery」にて
ショートケーキ・チョコエクレア
アイスティー

昼12時を過ぎて、やっと冷蔵庫がやってきた。新品の冷蔵庫は冷凍室も大きくて良い感じ。使いやすそうだ。
新しい冷蔵庫はちと大きめなので既設のつり下げ棚の下には収まらず、すぐさま住宅に常駐しているメンテナンス担当のおっちゃんらが2人揃ってやってきて棚の改造工事に取りかかってくれた。ドリル使いまくって棚を外してもう一度上部につけなおし、ズレた部分の壁にペンキも塗って万事綺麗に整えてくれた。全てが終わったのは2時半過ぎ。腐敗した食べ物もなく終了したようで、めでたしめでたしだ。冷蔵庫取り替えなんて、下手すると3〜4日はかかるんじゃないかと思っていたので一安心だ。巨大かつ綺麗になった冷蔵庫が嬉しい。

もう夕方も近かったけど、「では、Nashville在住の日本人が賛美するというパン屋さんに行ってみるか」と高速道路を伝って20分ほどのドライブ。なんでも「ロールケーキがうみゃ〜」らしい(←歴々の留学生が後生の残すコピーガイド本にそうあった)。経営は日本人ではなく台湾人だけど、日本で修行してパン屋を開いたのだそうだ。
「昔ながらの味がするメロンパンがあるのよ〜」
と、スタッフMさんもお気に入り。

「Alpha Bakery」は、Nashville近郊のBellevue(ベルビュー)という町のモール街の一角にあった。ケーキ屋さん然としたショーケースの中にはカスタードクリーム入りのコロネにメロンパン、カレーパンにツイストドーナツ。ショートケーキもあるし、噂のロールケーキもある。クッキーからサンドウィッチまで売っている、どこか懐かしさも漂うような品揃えだった。中国茶と一緒に、何故か小豆なんかも売っている。カウンターの奥には招き猫とダルマが。もうぐちゃぐちゃに中国と日本が混ざり合っているような店だった。

うきうきと菓子パンをいくつか買いこみ、当然ロールケーキも1本買いこみ、そして冷蔵ケースのケーキに魅せられて思わずケーキを食べていくことにしてしまった。紅茶やコーヒー、ジュースも買えるようになっていて、店頭に小さなカフェコーナーが作られている。「ここで食べるよー」と言うと、紙皿にケーキを乗せてくれるのだった。

久しぶりの、バタークリームでもなく低脂肪生クリームでもない生クリームのケーキ。イチゴはほんのり酸味が強かったけど、スポンジの味も生クリームの味もちゃんとショートケーキのそれだった。表面にチョココーティングがしてあるエクレアも、中のカスタードクリームが甘すぎず淡白すぎず、良い感じ。明日の朝御飯に食べるパンも楽しみだ。

塩豚の雲白肉風
サラダ
だんな特製 海老ピラフ
コーンスープ

「Alpha Bakery」のロールケーキ
カフェオレ

なんだか魚介類が猛烈に食べたくなってきて、
「マグロか?」
「ナマズのフライとか?」
とだんなと議論した挙げ句、「海老ピラフを作ろう!」ということに。スーパーで2ポンド分の剥き海老を買ってきて、ピラフに使った残りは冷凍してしまうことにした。

海老ピラフ制作はだんなが担当。バターで海老と玉ねぎとにんじんとピーマンを炒め、米も加えて炒めてコンソメを加え炊いていく。何だか米よりも海老が多いんじゃないかというような当初の光景だったけど、米が炊けてみたら良い具合に海老が混ざったゴージャスな海老ピラフになっていた。2合の米で作ったはずなのに、4合ほどもある。

そして冷蔵庫不調対策にと、昨夜茹でてしまった塩揉み豚肉を薄切りにしてみる。塩味がほどよく染み込んで、ハムのようになっていてすごく旨い。にんにくベースの甘辛い醤油だれを作って雲白肉風に食べることにする。あとはコーンスープと袋入りカット野菜を買ってきて盛りつけただけの簡単サラダ。

洋食器のサラダボウルにこんもり海老ピラフを盛りつけ、一家揃ってお代わりして食べまくった。3合分ほどの海老ピラフが一気になくなった感じ。買ってきたクリームコーンの缶詰も甘さが強めで美味しくて、コーンスープもたっぷり作ったものが息子と私が飲みまくって飲み干してしまったのだった。

で、デザートにロールケーキ。
「Chiffon Cake Rolls」という名で売られているそれはチョコレートとモカとバニラとタロ芋の4種類があって、1切れ$1.65、1本$8.5だ。クリーム色の生地に真っ白なクリームが巻かれているバニラは私好みのシンプル極まりないもので、それもまた嬉しい。
昼間に食べたショートケーキも悪くなかったけど、スポンジのふわふわさとか軽い食感のクリームとか、漂ってくる卵と牛乳の風味とか、さすがに歴代留学生が「うみゃー!」と絶賛するだけあってロールケーキはめちゃめちゃに美味しかった。海老ピラフをたらふく食べてしまった後だからとちょっと少なめにスライスしたけど、一気に1本喰えちゃいそうなほど好みな味だった。
生クリームのケーキにここ数日飢えていたけど、一気に欲求不満解消。そして明日の朝は「クリームパン」予定。

8/14 (水)
茹で塩豚の玉ねぎソース (夕御飯)
「Alpha Bakery」の
 クリームパン
 チョココロネ
牛乳

明日、運転免許の筆記試験を受けに行く予定なのである。日本で運転免許を取得していない私は、この筆記試験に通れば「助手席に免許保持者がいれば運転してよし」の資格を得ることができる。週末の大学内の駐車場などでえっさほいさ練習して、その後実技試験を受けに行くのだ。だから今日は、真面目に家で勉強している予定だった。

が、起き抜けに洗濯もの抱えてランドリーを往復したところ、久方ぶりに今日はめちゃめちゃ暑い。ここ数日はやけに涼しく、木によっては何やら落葉を始めたものもあって「このままじゃ夏が終わる!」と焦っていたところ、今日はこれでもかと真夏っぽい日だった。
「提言、提言があります!」
「はい、なんでしょうおゆきさん?」
「今日は暑いです!ウォーターパークに行くことを提言致します!」
「……よ、よろしいんじゃないでしょうか……」
と、だんなに申し立てして急遽今日は遊びに行くことに。この地域には2つばかりウォーターパークがあって、「7つの大型スライダー」があるらしい1つがとても気になっていた私だった。息子を起こして速攻朝御飯。

昨日買ってきた、とても日本チックな菓子パンを皆で食べまくる。だんなはカレーパンとウィンナーロール、私はチョココロネとクリームパン。どれも、もうちょっと甘くても良いんじゃないかというほどの控えめな甘さで、こちらのスーパーなどに売られているごてごてに甘そうなパンとは一線を画している。カスタードクリームは、ちょっとばかり火の通しすぎなのかもそもそと硬めではあったけど、パンのそのいかにも菓子パンチックなふわふわさとか甘さとかは懐かしさが漂うものだった。

研究室スタッフMさんは、ここに買い物に来る度に大量買いしてくるらしい。カレーパンなどは冷凍してしまって、食べるときにオーブンで温めなおすとこれまた旨いとか。デニッシュパンが旨いとか、ティラミスがお勧めだとか、「Alpha Bakery」と語り出すと止まらなくなるMさんだった。

Nashville 「NASHVILLE SHORES」内フードコートにて
 チーズバーガーコンボ(ポテトチップ・ドリンクつき)

午前10時半。10時にオープンのウォーターパーク「NASHVILLE SHORES」を目指して高速道路を突っ走る。平日ということもあってそれほど駐車場も混雑しておらず、無事に到着して遊びまくる私たち。

しかしこの国(それともこの地域だけ?)、物価は日本より安いくせにレジャー施設は呆れるほど暴利だ。このパークの入場料は親子で5000円ほど、更に駐車場に4ドル、レンタルロッカーに4ドルと何かとお金を奪われる。園内のジュースは1本2ドルだ。タオルレンタルもなく、どころか更衣室もなく(皆さん水着をワンピースなどの下に着用して入園してきていた。私たちも一応そうしてきて、本当に良かった……で、帰りは車の中かトイレで着替えているらしい)、プール施設は充実しているけどその他は全くどうでも良いような造りになっているのだった。ともかく、気にせず遊ぶ。

「7つの大型スライダー」は、3種が2つずつにプラス1種、という「なんかちょっと詐欺っぽい……」と思わなくもないものだったけど、けっこう楽しめるものだった。1人用から2人用、3人用まである巨大浮き輪に腰掛けて、チューブ状のスライダーをつるつると滑っていく。1つだけ絶叫形の「Tsunami」なんて名前のスライダーがあって、U字型の急勾配の坂を滑り降りて何度もつるつると往復する……なんてものもあった。息子は一度チューブ型のを滑っただけで
「もう、こわいからいいの、ちいさなプールであそぶから、いいの」
と深さ30cmのプールでひたすらシャバシャバと遊んでいる。私とだんなは交互に息子の相手をしながら、全種類滑ってたっぷり遊んできた。

途中雨にも降られたけど概ね良い天気で、肩も顔も真っ赤になるほど日焼けした。
昼御飯は「……高い」「……美味しくなさそう……」と思いつつもフードコートでハンバーガーを食べる。チーズバーガーと、袋入りのポテトチップス、でっかいカップに注がれたコカコーラで$5.75。湖に面したこのパーク、湖側ではジェットスキーのレースなんかもやっていて、その実況放送がプール側にまで響きわたってきていた。日本人(どころかアジア人)は私たちだけ、という感じ。ちょっとパサつくハンバーガーを囓り、息子はかき氷もどきを食べて御機嫌だった。
……つかれたー。

茹で塩豚の玉ねぎソース with ブロッコリー&イエローズッキーニ
御飯
ビール(Natural Ice、San Miguel)

「Alpha Bakery」のロールケーキ
アイスカフェオレ

さんざん遊んで帰ってきて午後4時前。1時間ほど泥のように昼寝して、「日焼けしたなー」「日焼けというより……火傷みたいな」とだらだらしながらだらだらと夕御飯の準備をした。まだ残っている茹で豚を今日もスライスして皿に盛る。今日のタレは「玉ねぎソース」。薄切り玉ねぎを炒めて、シナシナになったところで醤油と味醂と酒と砂糖と炒り胡麻を放り込む。アツアツのそれを肉の上からぶっかけた。あとは、その玉ねぎソースに合うだろう、と茹でただけのブロッコリーとイエローズッキーニ。大皿に肉も野菜も盛りつけて、あとはビール飲みつつわしわし食べた。

玉ねぎのタレ、やっぱり野菜にも似合っていた。「なんか物足りないからマヨネーズを」とマヨネーズも出してみると、これがまた玉ねぎタレによく似合う。ズッキーニを玉ねぎタレにたっぷり絡めてからマヨネーズをちょいとつけて食べたりすると、御飯のおかずというよりもビールの肴という味ですこぶる美味しかった。
1本のズッキーニと1本のブロッコリー、300gくらいはあっただろう茹で豚肉をせっせと食べまくり、ビールも飲みまくり、疲れていたこともあってすっかりだんなも私もへろへろになってしまった。
……風呂上がりに日焼け用キューカンバージェルでも塗りまくって今日は早々に寝ることにしよう。ぐー。

8/15 (木)
Pancake Pantry(Nashville)にて「Potato Pancakes」 (昼御飯)
Nashville 「Pancake Pantry」にて
 Potato Pancakes
 コーンチャウダー
 アイスティー

今日は朝6時半起きで、運転免許センターへ。8時半から受付開始のセンターに行き、筆記試験を受けてくるのだ。コンピューターが出題する30問の三択問題の8割以上を正解すれば、仮免許が交付される。そうすれば助手席にだんな(免許保持者)が乗っていれば私は車の運転が許可されちゃうのであった。恐ろしい制度だ。

7時20分頃に会場について行列に並び、無事に2時間後、仮免許を取得するに至った。朝何も食べずに出発し、「どうせ待ち時間長いんだからその間にだんなに買ってきてもらおう」と思っていたところ思いのほか早い順番で試験を受けることができ、9時半にはセンターを出ることができた。めでたしめでたしだ。

で、腹ぺこのまま帰宅の途へ。
「腹が減ったよ腹が減ったよー」
「僕も減ったよー」
「脳味噌が"糖が足りん"と訴えています。ワッフルみたいなの食べたいよー」
「……"P"っすか?」
「……Pですか?」
と腹ぺこ抱えて目指したのは、我が家最寄りのパンケーキ屋さん「Pancake Pantry」だった。

今日は、ずっと気になっていた「Potato Pancakes」を注文。甘くないアイスティーに、日替わり4種のスープの中からコーンチャウダーを家族皆でつつきまわして飲むことに。

パンケーキと同じくらいに私たちはここのスープが気に入っている。クリーム味のスープは今のところ何を飲んでも美味しいし、トマト味のもなかなかだ。メニューの常連、ベジタブルスープなんかもきっと旨いだろうなと思いつつ、いつもついつい初めて見るメニューを注文してしまうのだった。コーンチャウダーは初めてだ。

粒コーンがごろごろと入り、にんじんやじゃがいももどっさりと。まんま、「クラムチャウダー」から貝を抜いてコーンを入れたような、そんな感じ。具沢山でとろんとしたスープは、コーンの甘さが強いのに胡椒がこれでもかときいていて妙に辛かった。それもまたよし。

じゃがいも入りのパンケーキというよりは、すりおろしじゃがいもに繋ぎの生地を入れて焼きましたという感じの、とても芋芋芋芋したパンケーキがやってきた。形からして、重い生地を広げたようにちょっと不格好。ホイップバターとサワークリームがついてきて、アップルソースもしくはベーコンが添えられる。ここはやっぱりアップルソースを添えねばならない、甘党として。

くるみのパンケーキ、「Pecan Pancakes」を注文しただんなの元には、メープルシロップに浸ったくるみのソースがたっぷりと添えられていて、これまた迫力のある皿が置かれている。お互いに一口二口と分け合ってみたけど、だんな曰く、
「これはポテトパンケーキじゃなくて、芋そのものだよー」
と笑っていた。じゃあ、スィートポテトパンケーキを注文したら、やっぱりそれはスィートポテトパンケーキじゃなくてさつまいもそのものになっちゃうんだろうか。ちょっと怖い。

じゃがいも風味たっぷりなパンケーキは全部で4枚。甘さ控えめの、すりおろしりんごそのものみたいなアップルソースが良く似合っていた。塩気のあるホイップバターも美味しいけど、酸味の強いサワークリームもリンゴとじゃがいもにぴったりだ。

帰り際、レジに「Pancake Pantryキーホルダー」が売られているのを見て、思わず1つ買ってしまった。先日やっと家の鍵をコピーして、やっと私も鍵を持ち歩くようになった(外出は全てだんなと一緒だから、鍵を持つ必要がなかったのだ)。
「もうね、コテコテの土産物みたいなキーホルダーどっかで買ってつけるんだー」
と私は主張して、先日ダウンタウンのこれでもかというコテコテの土産物屋さんで「Music City Nashville」なんてコテコテな文字つきのギター型爪切りつきキーホルダーを買ってしまった。でも、「Pancake Pantryキーホルダー」の方が断然ステキ。今日から私はPancake Pantryの回し者だ(今までも充分回し者だったと思うけど)。

「ROCK CORNISH」のガーリック焼き
グリーンサラダ
マヨネーズきゅうり
クラムチャウダー
御飯

「一日二食だなんて、相撲取りの食事だよなぁ……」
と思いつつも、1食1食のボリュームが多いからこれで丁度良いと思う日々が続いている。案の定、今日も午前10時半頃に食べたパンケーキで夜までお腹が空かなかった。

先日の冷蔵庫ぶっ壊れ騒動で、冷凍していたのに溶けちゃったものがある。数週間前に冷凍コーナーで安売りしていて買ってきた、「ROCK CORNISH」なる鳥肉だった。鶏だか鳩だか何だかよくわからないけど、大人の手のひらに乗るくらいの小さなそれを「オーブン焼きしたら旨そう……」と2つ買ってきていたのだった。この度一度溶けてしまったので、冷凍庫に戻すのも何だしと調理しちゃうことに。

鳩か野禽かとわくわくしていたけど、それは小さな雌鶏だった。首を落とされて内臓を抜かれている鶏は、でも手羽も腿もしっかりついていて、なんだかちょっと生々しい。塩胡椒をこれでもかとすり込み、肉にぷすぷす包丁を刺してにんにくの塊をぐりぐりと何カ所も押し込んだ。バットに鶏を乗せ、周囲に添え物のじゃがいもを散らしてオーブンへ。御飯が炊ける間の30分をかけてじくじくと焼いていく。

で、1缶55セントという値段で買ってきたキャンベルのクラムチャウダーの缶詰をあけて、あとはMさんにお裾分けしてもらったキュウリ。スーパーで見かけるキュウリは「キュウリというよりも瓜」という、ズッキーニか冬瓜かという感じに巨大なボディをしているものが多いけど、Mさんが「ファーマーズマーケット」(ダウンタウンにある市場。いろいろあるらしい……)で買ってきたというそれは、日本のキュウリよりも小ぶりなほどのものだった。
「塩揉みすると美味しいわよ」
と言われていたそれを、「いや、別に塩で揉まなくても刻んで味噌かマヨネーズつければ……」と思いつつ刻んで味見したところ、これが、すんごく苦い。アクの塊のような渋い味が舌の根にズキズキと染みてくる。ゴーヤじゃないんだから、という感じの凄い苦さだ。
「うわー、アクが強い……」
「こりゃ、塩もみしなきゃ、確かに……」
と塩ふってごーろごーろとまな板の上で転がして染みてきた水分を捨て、そしてマヨネーズをかけて食べた。それでもやっぱり苦い。こんなキュウリは初めてだ。なんだか野生に生えたキュウリという感じ。軟弱じゃなくて良いかもしれない。

苦いキュウリを囓りつつ、そして1人1羽の丸鶏を食べる。おろしにんにくを揉むよりは……と塊のにんにくをぎゅうぎゅう押し込んでみたけど、どこもかしこもにんにく風味が漂っていてすごく良い。小ぶりの鶏をバラしながら食べるのは解剖でもやっているみたいで残虐な気分だわぁと思いつつバリバリ食べた。かつては生きていたものを食べてるんだなぁという気分がもりもりと沸いてくるけど、食欲ももりもりと沸いてきちゃう私だ。

8/16 (金)
Charley's(Nashville)にて、「6oz Cheese Burger」 (昼御飯)
バタートースト
目玉焼き & 炒めソーセージ
カフェオレ

明日から4泊5日の旅行予定。冷蔵庫内クリーン作戦に先日から着手していた私は、ベーコンも牛乳も使い切っていた。今日は残りもののソーセージを炒めて目玉焼きを添え、バタートースト。だんながコーヒーをいれてくれたところで「しまった、牛乳使い切ってたんだっけ……」と気がついた。

カフェオレが好きなんである。ブラックコーヒーが飲めなくはないけど、やっぱりカフェオレの方が好きなんである。で、冷蔵庫にエバミルクが残っていたのでそれをいつもの牛乳よりはかなり控えめにだばだば注ぎ、ちと物足りないので砂糖を入れて飲んだ。加糖練乳のコンデンスミルクはコーヒーに溶かすとこってり甘くなってたまらなく美味しいけど、無糖練乳のエバミルクは、コクは出るけど甘さは全くない。コーヒーにだばだば入れて飲んだおかげでエバミルクの残りも綺麗になくなった。めでたし。

Nashville 「Charley's」にて
 6oz Cheese Burger
 フライドポテト
 レモネード

昼過ぎ、無性にハンバーガーが食べたくなって、
「ハンバーガー、ハンバーガー」
と呪文を唱えていたところ、だんなが同調してくれた。で、研究室スタッフMさんに「旨いハンバーガー屋さんってどこですかー?」と聞いてみて、教えてもらってところに行ってみる。

大学近く、SUBWAYやスターバックスと一緒に並んでビルの中に入っている「Charley's」というのがそのお店。店構えはまんまファーストフードだけど、なかなかどうして本格的なハンバーガー屋さんだった。チェーン店ではないらしく、この土地の無料タウン誌「Nashville Scene」の2001年度Meatless Burger部門でナンバー1だったらしい。"肉なしバーガー"を扱うお店がこの周囲でどれだけあるのかは疑問だけど、読者投票で順位が決定される「Nashville Scene」のこのコンテストは皆が気にするところらしい。どの店でも「この年の○○部門にノミネート!」「この年の○○部門で優勝!」と、そういうプレートが目立つところに高々と掲げられている。ちなみに愛してやまない「Pancake Pantry」は朝食部門で毎年ノミネートされ、優勝した年も何回もある。

で、「Charley's」。
4ozハンバーガーだの、6ozチーズバーガーだの、あとはハンバーグなしのブラックビーンズバーガーとかベジタブルバーガーとか、最近はサーモンバーガーなども登場したらしい。ドリンクのカップだけ先に貰ってセルフカウンターでだばだばだ〜と勝手に注いでしばし待つと、紙皿にパラフィン紙を敷いた上に入れられたバーガーが出てくる。パンの上にでっかいハンバーグと、上にはチェダーチーズ。野菜やケチャップは全く乗っていない。
で、ドリンクのセルフカウンターの脇にはケチャップやマスタードのディスペンサーがあるので、これで自分でニョロニョロするらしい。早速ニョロニョロする。

中央にはこれまたカウンターがあり、そこには「サラダバー」としか見えないような山盛りの野菜が積まれている。メニューにサラダもあったことから、それを注文した人用のものかと思っていたけど、どうやらバーガーに勝手に添えて食べて良いらしい。後から来たにいちゃんは、紙皿の脇に山のようにピクルスを盛りつけて去っていった。
野菜はレタスにサニーレタス、厚切りトマトに玉ねぎ、ピクルスは4種類ほど辛そうなものもある。更にマッシュルームなんかも。野菜はどれも大ぶりで、玉ねぎとレタスとトマトはやっぱり外せないでしょ、ピクルスも当然……と積んでいったら大変なことになってしまった。重力崩壊を起こしそうな皿を抱えて、そろりそろりと席につく。

厚さ10cmほどになってしまったバーガーをがぶがぶ食べた。200g強もあるハンバーグも巨大なら野菜も巨大なもので、しかもケチャップをこれでもかとかけてきたから大変なことになってしまった。顔の下半分が真っ赤になってしまう。でも、焼きたてのハンバーグは旨いしパンもふわふわで良い感じだし野菜も新鮮だしですっごく美味しかった。このボリュームでハンバーガーが$4.39。マクドナルドでバリューセット喰ってるよりも確実に幸せな気分になれる。ハンバーガーで腹一杯になれるということを改めて思い知った。こうなっちゃうと「御馳走」だ。

皮ごとのフライドポテトも表面カリカリ中ほくほくでこれまた良い感じだった。ケチャップつけたり、モルトビネガー浸したりしながらがつがつ食べる。

今度はサーモンバーガーも食べてみようかなぁ。次回はピクルス山盛り横に添えて食べてみたい。

鉄火丼
ごぼうと人参の吸い物
ビール(バドワイザー)

明日から旅行で5日間、外食だらけの日々になる。ひたすらアメリカ飯を食べる5日間だ。国立公園内の飯どころはどんな感じなのか、想像もつかない(飲食店・ロッジなど全て業者に委託しているそうなのでそれほど悲観しなくても良さそうだけど)。確実に、和食は食べられないだろうなと思う。好きこのんで和食を探して歩く気もしないし。

で、「残った海老で釜飯をしよう」「豆腐の吸い物でも作ろう」と色々言った挙げ句、マグロを買ってきて鉄火丼にすることに。近所のスーパーには、わざわさ「SASHIMI Quality」と記されたマグロが売られていて、ステーキみたいな形に切られたそれがごろごろと売られている。真っ赤な赤身は、けっこう美味しい。大きな1切れを買ってきて、刺身のようにスライスした。

せっかくだからと、酢飯も作ることに。炊けた御飯に酢と砂糖と塩を合わせた寿司酢をぶっかけてかきまぜる。丼代わりのサラダボウルに盛りつけて、海苔を敷き、マグロを並べて「TAMARI Soy Sauce」をぶっかける。本当にたまり醤油なのかどうかは謎だけど、ちょっと甘味のある醤油はそこそこ美味しい。ついでに胡麻などかけてみたりして、わしわしと食べた。寿司酢はちょっと甘めになっちゃったけど、ちゃんとお寿司っぽい味がする。

お供に、本当は豆腐を使おうと思ったけど豆腐が巨大すぎて諦めた吸い物を。具はごぼうと人参だ。
この近隣、この季節でも大根は普通に買える。ごぼうは見あたらないので諦めていたけど、今日最寄りのスーパーを覗いたら「Horseradish Root」などという名で、どっから見てもごぼうである物体が売られていた。長さ20cmほどに切りそろえられて並べられているそれは、野菜売場に並んでいたけど今ひとつメジャーな食材じゃないらしい。レジのおねぇさんは「なぁに、これ?」と聞いてきた挙げ句、「まぁいいわ」とレジを通さずに袋につっこんだ。たかだか数十円の買い物だけど、店員自ら万引き(?)してどーすんだろう。

「Horseradish Root」はめでたくしっかり「ごぼう」だった。あの泥臭い匂いも間違いなくごぼうだ。ささがきにしてだしに入れたら、しっかり馴染みの吸い物の味になった。鶏肉と豆腐と舞茸とごぼうが入った吸い物は、母の郷里の秋田では正月の雑煮にもなるなじみ深い料理だ。「これは、アメリカでは食べられないだろうなぁ」と半ば諦めて来たけど、これで舞茸以外の全ての食材は手に入ることになった。舞茸は……さすがに無いかなぁ。(舞茸まで揃ったら、きりたんぽ鍋もできちゃうかも)

明日からの鋭気を養うべく、しっかり和風の夕御飯を楽しんだ。でもビールはバドワイザー。

8/17 (土)
Brookhaven 「El Sambrero」にてメキシコ飯 (夕御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
ワッフル with ホイップバター&ケーキシロップ
だんな特製 プレーンオムレツ
カフェオレ

今日からいよいよ4泊5日の家族旅行。空港までは留学生仲間Mさんが送ってくれることになっていて、出発は午前9時というところ。

昨日スーパーで見惚れてついつい買ってきてしまった冷凍もののワッフルをオーブンで温め、私が荷造りしている間にだんながプレーンオムレツを作ってくれた。冷凍コーナーに何種類も何種類も各メーカーのものが並んでいたワッフルだけど、買ってきたのはそのスーパーオリジナルブランドのもの。カリッと焼けたワッフルはすこぶる美味しかった。また買ってしまいそうだ。

Tennessee州Memphis空港内「Piza Hat」にて
 バーバリアンホットドッグ コンボ

Tennessee州Nashville空港から同州のMemphis空港へ飛び、乗り継いでWyoming州Jackson空港へ。そこからアメリカ北部の国立公園を散策……そういう旅行計画だった。飛行機のチケットは無論取った。空港からのレンタカーも飛行機のチケットと共に5日間借りる申し込みを済ませた。それとは別に、インターネットで公園内のロッジなども日程分抑えていた。何ら問題はない……はずだった。

昼御飯は、乗り継ぎの1時間の隙に空港内の「Piza Hat」で軽く済ませる。
ピザしかないもんだと思っていたけど、メニューにはサンドウィッチだのホットドッグなども数種類ずつ並んでいて、ポテトチップス1袋にドリンクがつくコンボセットを注文。ザワークラウトに刻み玉ねぎなどがトッピングされた「バーバリアンホットドッグ」なるものは、マスタードがどっぷりかかっていてその辛さがけっこう良い感じ。

Mississippi州Brookhaven 「El Sambrero」にて
 スタッフさんお勧めメキシコ飯(ステーキファヒータのセット)
 ビール(コロナ)

午後2時。私たちはミシシッピ州に着いていた。私たちは確か北部のワイオミング州を目指していたはずだった。だが、身体にまとわりつく空気は10℃台どころか軽く30℃を越えていた。めちゃめちゃアメリカ南部の気候なのだった。

気がついたのは、Memphis空港を飛びたってから40分ほど、「もうすぐ着陸態勢ですよー」というアナウンスが流れた直後だった。それまでだんなも私も全く気付いていなかった。数分前から私は
「やっぱりヘンだ、やっぱりヘンだ」
と機内の航空路線のマップを睨んでいた。
「……絶対時差があるはずなのに、なんで離発着スケジュールは行きと帰りにかかる時間が同じと書かれているんだろう?」
「なんでマップじゃNashville→Memphisと、Memphis→Jacksonは5倍どころじゃなく距離が違うのにどちらも1時間しかかからないんだろう?」
「そもそも、日本がすっぽり余裕で収まるアメリカで、南部から北まで行くのに飛行時間2時間しかかからないってことがあるのかなぁ?」
離発着時間の書かれたメモを見て、マップを見て、首を捻っていた私の目に、すごくイヤな地名が見えてしまった。

「Memphis」の真下、ちょうどNashvilleからMemphisまでの距離と同じくらいの場所、そこに「Jackson」と書いてあったのだった。Mississippi州のJackson、それもまた空港の名前だった。気流が乱れて飛行機が揺れる中、私の心はそれ以上に揺れまくっていた。ていうか泣きそうだった。

「だだだだだ、だんな、だんな……いま、わたし、すっごくヤバい事に気がついちゃった……」
「なぁに?おゆきさん」
「あのね……私たち、ミシシッピ州に向かってる……」
「……え"……?」
そして飛行機は、かつてなく陰鬱な空気に包まれた私とだんなを乗せたまま、無事にMissisiippi州のJacksonに到着した。

ミスは私たちにある。インターネットでフライトチケットを予約したのは私とだんなだ。航空会社の手落ちは何ひとつなく、そうして後から考えれば全てが「ワイオミング州になんかいかないよーん」と指し示しているチケットを見ても何ら気がつきもしないのであった。アホウだ。馬鹿だ。大うつけ者だ。
Jackson空港はTennessee州にもある。それには気をつけていたけど、そんなにJackson空港がごろごろしているなんて、想像していなかった。ちゃんと州の名前を確認せずにさくさく予約をしてしまった。

そして長袖ばかりを持ってきた私たちは、南部の蒸し暑い気候の中で途方にくれつつ、
「今から何としても北部に行くか」
「いや、しかしそれではあまりに旅費が……」
と家族会議。飛行機とレンタカーは南部、4泊分の宿の予約は北部、という涙が出そうな状況に、出た結論は
「もう北部は諦めて南部でたっぷり遊んじゃいましょう」
ということになった。
幸いJacksonから車で3時間ばかり進むと「食い倒れの都」として名高いLouisiana州New Orieansに出ることができる。

取ってしまった宿のキャンセルをせねばと思いつつ、とりあえずは今日の宿を探しつつNew Orieansに向けて南下。私やだんなはともかく、息子の服は長袖ばかり持ってきたので、服も調達しなきゃいけない。高速道路をずんずん進み、「Brookhaven」という小さな町のモーテルに宿を取ることにした。急いで宿のキャンセルをし始めたが、どうやら4泊中3泊分は払ったデポジット金が全額帰ってくるようで一安心だ。これで心おきなく南部で遊べる。気持ちはスカッと切り替えて、満喫せねばつまらない。

幸い、宿からすぐのところにお馴染みの「WAL☆MART」というマーケットもあり、特売していた1着$1の子供服とか$3の短パンとか、あれこれ買うことができ、それから夕御飯。
「チェーン店じゃなくてねー、そいでもって美味しそうなところがいいなぁ」
「無茶言うな。探せ探せがんばって探せぇ〜」
と車を街道沿いに走らせて、見つけたのが「El Sambrero」というメキシコ料理屋さんだった。よく考えたら、メキシコ料理専門店に入るのは初めてだ。日本で学生の頃、一度だけタコスメインのメキシコ料理屋に行ったことがあるけど、そんなもんだから料理名などは全然知らない。知っているのは「Taco」と「Fajita」だけ。案の定、メニューを見てもさっぱり何がなんだかわからない。

「君たちはエスパニョールかい?」と聞いてきた店員さんに「違うよー、日本人だよー」と答えて「……マジ?」と驚かれつつ(そんなにアジア人が珍しいのだろうか、ここは……)、
「何が美味しいの?何がおすすめ?」
と聞きまくって勧められたものを頼んでみた。テーブルの上には、店に入ると同時に出てきたトルティーヤチップスとサルサ。生のトマトがどっさりといった感じのサルサには緑色のハーブらしきかけらがたっぷり入っていて、舐めると香菜の香りがぶわぶわと漂ってきた。話には聞いていたけど、メキシコ料理に香菜(コリアンダー)は普通に使われているらしい。自家製らしい、温かいトルティーヤチップスは香ばしくパリパリで、ほの辛いサルサもかなりいける。
「美味しい……かな?」「……うーん、フィフティフィフティというところか」などと言いつつ選んだお店だけど、アタリだったようだった。出てきたもの、全てが美味しかった。どういう料理かはやっぱり今ひとつわからない。

各々の前には、楕円の皿に盛られた定食のようなもの。パラパラとした炒飯っぽい炒め飯に、豆のペーストのような茶色い物体、上にはチーズがとろけてかかっている。刻みレタスに添えられているのはサワークリーム、そしてアボガドと思われる緑色のディップと、香菜風味たっぷりのトマトとのマリネも添えられる。その同じような皿が私とだんなの元に来て、だんなのにはそれにタコスが1つついてきた。私には、アツアツの鉄板の上に野菜と海老と肉を炒めたものと共に柔らかいFajitaの皮が3枚別にやってきて、それをだんなと適当に分けつつ食べる。

これまで、タコスやファヒータというものは、肉は火が通っていてもレタスはトマトは生のものを詰めているものばかり食べていた。この、鉄板の上に盛られた火の通った玉ねぎやピーマン、トマトを海老や肉と一緒に包んで食べるというのも、初体験でしみじみ美味しかった。この炒めものがまた、日本の定食屋さんの生姜焼きの味にも似ているような、懐かしい味すらただよってくる。白い御飯とわしわし食べたらさぞ旨いだろうなという味で、それがモチモチとしたFajitaの皮に似合うのだ。「これも詰めちゃえ〜」と刻みレタスやご飯も一緒に巻いたら、これまた美味しかった。
店には高速道路から降りてきた客というよりは近隣の住民といった感じの客が次々訪れていて、繁盛しているようだった。良い店を見つけて入ることができて、ラッキーだ。つい数十分前までは「夕飯は、最悪タコベルかなぁ……」とまで思い詰めていたのに、思いもかけずメキシコ飯をたらふく食べることができてとても満足。
今度はちゃんと予習して、メキシコ料理のなんたるかを覚えてから来ることにしよう。

しかし今日は、かつてなく香ばしい失態に苦笑いするしかない一日だった。だんな曰く、
「仙台に牛タン食べに行ったのに間違えて九州の川内(←これも"せんだい")に行っちゃったよー……って感じ?」
とのこと。いや、私としてはハワイに行くつもりで常磐ハワイアンセンターに行っちゃったみたいな、感じだろうか。だって、NashvilleからこっちのJacksonってめちゃめちゃ近くなんだもの〜。

8/18 (日)
Acme OYSTER HOUSE(New Orleans)にて、1ダース生牡蠣を喰らふ (夕御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Mississippi州Brookhaven 「Comfort Inn」サービス朝食
 くるみのマフィン
 シュガードーナツ
 牛乳

恥ずかしくも笑える諸般の事情により、本当だったらはるか北の地にいるはずだった私たちは南部特有の蒸し暑い空気の中、朝御飯を食べている(諸般の事情は昨日の日記に……あまり情けないので二度も書く気が致しませぬ)。
昨日も道程の1/3ほどを進んできて、残りあと150マイルほどをかっとばせば食の町「New Orleans」に辿り着くのがせめてもの幸いだった。食欲魔人の神様は、「国立公園に行ってないで旨いもの喰ってこいや」と言っているのに違いない。神様の言うとおり、せいぜい美味しいものを探し回って食べてこようと思う。

朝御飯は、ホテルのサービス、無料朝食。ロビーの奥のカウンターには、宿泊客用にデニッシュやドーナツ、コーンフレークがコーヒー紅茶、ジュース類と共に用意されている。紙皿に適当にそれらを持ってきて、部屋に持ち帰ったりその場のカフェコーナーで食べたり好き勝手する。中には巨大なトラベルマグを持ってきてなみなみとコーヒーを詰めている人も。

袋詰めの食パンには、すぐ近くにある巨大スーパー「WAL☆MART」のマークがしっかり入っていて、思わず笑ってしまった。そういえばマフィンもドーナツも、そこで見たことがあるような気が激しくする。
とりあえず腹を軽く満たし、いざいざNew Orleansへ。

New Orleans 「RIVER'S EDGE」にて
 Seafood Jambalaya
 Creole Pizza
 オニオンリング
 スプライト

日本から日本語のガイドブックを持たずに来た私たちは、この国に来てからlonely planet社の「USA」ガイドブックを買ってみた。文字ばかりのそのガイドブックはそこそこ役に立つけど、高速道路の降り口の番号などはほどんどわからない。幸いなことに高速道路を時速100マイル(えーと、160km……)でかっとばす中、ミシシッピ州からルイジアナ州に突入した直後に高速道路に面してトラベラーズインフォメーションセンターが設置されているのを発見して、そこに立ち寄る。RPGの基本アイテムであるところの「マップ」を調達することができたし、宿の案内も色々と置いてあって情報収集もできた。この地方、蒸し暑い夏はローシーズンなので、軒並み宿は価格が下がっている。トイレは綺麗だし、コーヒーは飲めるし、便利なセンターに感謝。

「マップも調達できたり、宿の目星もついたので再びゴー!」
と、ひたすらまっすぐ一直線の道路を一気に走る。周囲はずっと針葉樹林の森で、それが突然広葉樹のぽつぽつとある草原に変化し、気が付くとミシシッピ川がすぐ横にあった。それから先は50マイルほどもずっと湿地帯。「本当にこの先に町があるのか?」と不安になってきたところで町に入った。食の町、ニューオリンズだ。何しろガイドブックにも「Eating is a major activity in New Orleans.」と書かれている。メジャーアクティビティと言われているくらいだから、気合いを入れて食べねばならない。

この地には、フランス文化にイタリア文化、メキシコにキューバと様々な国の文化が流入している。その集大成みたいなものが「Cajun」(ケージャン)料理と「Creole」(クレオール)料理らしい。なんでも植民地時代に奴隷たちが食べていた庶民風料理がCajun料理で、その奴隷を使って生活していたフランス系移民が食べていたのがCreole料理らしい。フランス料理の"ルー"などを使って作られたフランス色濃厚なCreole料理は、正装しなきゃ入れないような格式高い店も多くあるということだ。

町に着いたのが11時過ぎ。宿探しを先決にしようかとも思いつつ、空腹も極まってきたので食事処を探すことにした。
「どうせだったらそのCajun料理を食べたいよねぇ、ジャンバラヤとか」
と言いつつぽてぽて歩き、「New Orleans Cuisine -CAJUN CREOLE-」なるコテコテの看板を下げた店を発見。どうやらここは町の観光中心部のようで値段も観光客相手という感じだったけどとりあえず入ってみることにした。

私はシーフードジャンバラヤ、だんなはクレオールピッツァ、息子のつまみにとオニオンリング。
トマトベースのスパイス入り炊き込み御飯、といった感じのご飯に、これまたトマトこってりの魚介のソースがかかったものがやってきた。楕円の皿、ご飯を中央に盛りつけた両側にはコーンとオクラをバターソテーしたものが盛られている。"オクラ"はこの地の料理には欠かせない野菜だ。名前も"オクラ"そのまんまだけど、料理名の中では"ガンボ"と表現されている。
海老ごろごろソーセージごろごろ玉ねぎたっぷりのトマトソースは、ガツンとにんにくが効いている。ピザソースに似ていてちょっと違う、スパイスは効いているけど辛みの元はチリソース、という味だ。辛いけど旨い。旨いけど辛いでスプライトをお代わり。

そして、茹でほうれん草がたっぷり乗った「クレオールピッツァ」もなかなかすごいものだった。イタリア風の薄焼きパリパリ生地の上にはたっぷりのほうれん草、厚切りのトマト、これまた巨大な厚切りマッシュルーム、そしてチーズ、といった感じに散らされている。しかし、皿が来るなり周囲1メートルが一斉ににんにく臭くなるほどににんにくが使われていた。すんごく旨い。すんごく旨いんだけど、すんごく臭かった。日本のイタリア料理は、本場イタリアの人が顔をそむけるほどにんにくがたっぷりだという。でも、日本で食べたどのにんにく料理よりもこの皿はすごかった。だんなが
「おゆきさん、ホテルの交渉してね。僕きっと臭いから……」
とそれからちょっと無言になってしまうほど臭かった。

ニューオリンズ飯初体験の後は、宿探し。当初は安いチェーン系モーテルでいいやと思っていたけど、この地は魅力的な宿がたくさんあるらしい。クレオールスタイルと呼ばれる様式の建物は、建物の内側に噴水つきの中庭を配している。「そんな宿に泊まりたい泊まりたい!」と主張して、インフォメーションセンターのチラシを眺めて見つけたのが「Hotel Provincial」なるホテルだった。1泊たったの$49だ。モーテルより安い。しかも繁華街に徒歩数分の立地の良さだった。3泊連泊することを決め、中庭に案外広いプールのあるこの宿の滞在を楽しむことになった。部屋の窓からは、道路を走る観光馬車が良く見える。ホテルには珍しく天井に明るいライトがあるし、広くはないけど良いホテルだ。

チェックインして、しばし部屋でごろごろごろ。

New Orleans 「Acme OYSTER HOUSE」にて
 Fresh, Ice Cold OYSTERS on the HALFSHELL (Dozen) $6.49
 Fried Oyster Po-Boy $6.99
 Three Fried Shrimp Sushi $2.99
 Seafood Gumbo $5.99
 ビール(Dixie)×4
 コカコーラ

昨日はインターネット接続することができなくて(電話はできるのにネットワーク接続はどうやってもできないという悲しい事態で……)、今日ホテルにチェックインしてからインターネットに繋ぎまくって必死に情報収集。もともとこの地に来る予定じゃなかったもんだから、どこが楽しそうなのかとかどこが美味しそうなのかとか、とにかく全くわからない。ひととおり情報を得たところで、
「そうだよ、ニューオリンズと言ったら牡蠣じゃないか!」
とオイスター専門店を探して食べに行くことにした。「Acme」という店がなかなか定評があるらしく、てくてく歩いて行くことに。

薄暗い店内はネオンの光がギラギラと輝いている。簡素なテーブルにつき、いきなり
「何飲む?あと、牡蠣はハーフ?ダース?」
と聞かれてしまう。もう、生牡蠣食べるのが前提らしい。いや、もちろん食べるつもりではある。食べねばならぬ。当然のような顔をして1ダース生牡蠣を注文した。

やってきたのは、ころりと丸めの牡蠣。チリソースとレモンが添えられ、殻つきのそれがずらっと並べられている。日本のお店で食べるものほど丁寧に処理しているわけじゃないので、殻を持つと手に泥がつくし、身を啜ると殻のかけらも一緒に口に入ってくる。でも1ダース食べて700円くらいと思うと、そんなことは全然気にならない。
ちょっと辛みのあるトマトソースとレモンが、生牡蠣にすこぶるよく似合う。この土地のビールである「Dixie」(ディキシー)を頼んでみると、これがまた好みの苦さとコクで、もう私たちは牡蠣とビールが止まらなくなってしまった。ひたすら牡蠣喰って、ひたすらビールを飲む。足りなくなるのでビールをまた注文する。そんな感じ。

もう生牡蠣が止まらなくなるところだったけど、だんなにはもうひとつ、「Fried Oyster Po-Boy」を注文するという野望があった。「Po-Boy」は、でっかいサンドイッチのことらしい。食パンじゃなく、フランスパンみたいな長いパンで作るらしい。それに牡蠣フライを挟むのが「Fried Oyster Po-Boy」。それと一緒に名物ガンボスープも注文し、適当に分け合って皆で食べた。

トマトとも何ともつかない、こってり甘辛のスパイス味のガンボスープ(スープというよりもはやペースト、という感じ)の中央には白いご飯がこんもりと盛られている。ノリとしてはクッパ……みたいな。スプーンですくってざくざく食べる。オクラも入っているし、海老や蟹の爪がどっさりと入っているのがなんとも良い感じ。見た目は何か凄いけど、奪い合うようにして平らげた。
そしてそして、親指の先ほどの牡蠣フライがぎっしりと詰まった噂の「Po-Boy」も涙ちょちょぎれるほど美味しかった。厚切りトマトに刻みレタスがたっぷり、マヨネーズがかかっている。そこに皿に添えられたレモンをぎゅーっと絞って食べると、高級なコロッケパンの仲間、という感じに。米だったり牡蠣だったりしかもオクラだったりと、日本人にとっては馴染み深い皿ばかりだった。

なにしろもう、真夏だというのに(やっぱり牡蠣は冬に食べるもの、という感覚があるもんだから)美味しい生牡蠣が喰えたというのが何よりも幸せだった。おかげで超満腹になったし、ビール2本ですっかり酔っぱらった。
「もうね、生牡蠣が超うまうま〜!」
「もうね、ニューオリンズ、サイコー!」
とか言いながら路面電車3駅乗ってホテルに向かう。
……本当は、ニューオリンズは治安があまり良くないところなので、ふりゃふりゃしてちゃいけないのであるらしい。道路1本間違えるだけでヤバイ区画に入ってしまったりするのだとか。実際通り1本違うと雰囲気ががらりと違うところが何カ所もあって、なのに思わず美味しくて幸せで上機嫌のままふらふらと帰ってきてしまった。時刻は7時半。サマータイムだからまだまだ明るくて夜はこれからという感じ。