食欲魔人日記 03年05月 第1週
5/1 (木)
La Hacienda Tortilleria(Nashville)にて、Gordita (昼御飯)
菜蓉蛋丼 (昨夜の残り)
牛乳

昨日の夕飯"菜蓉蛋"が残っている。アルミの皿にみっちり3枚入っていたその卵焼きのうち2枚は昨日のうちに平らげていたのだけど、残り1枚をだんなと半分こして朝御飯。息子の朝御飯は、これまた残りもののさーたーあんだぎー。
「ぼくは、このドーナツが好きなー」
と息子にも好評だったさーたーあんだぎー。「また、つくってね?」と語尾にハートマークを散らしながらリクエストされてしまったので、これはまた近いうちに作らなければならなさそうだ。

卵焼きをチンして、タレをチンして、更に残りの御飯もチンして、電子レンジに頼りまくった朝御飯。くわいや人参、さやえんどうや葱などがたっぷり入った"野菜入り卵焼き"といった感じのこれに黄色くトロリとしたタレをかけて御飯の上に乗せて食べる。是非次は"芙蓉蟹"を食べたいところだけど、メニューにはそれは載っていないのだった。"何度も来てくれているお客さん"と認識してくれたみたいなので、蟹持ってったら作ってくれるかしらん……。

Nashville 「La Hacienda Tortilleria」にて
 Tostada de Ceviche
 Gordita
 Horchata

午前中、研究室に出かけていっただんな。
「試験の答案が返ってきました。Aプラスだそうです」
昼が間近になった頃、だんなからメールが入った。
「おお、おめでとう!お祝いしなきゃね。お昼は御馳走だ!だんなの奢りで!」
と愛に溢れたメールを返してあげたら、
「せりあちゃーん、コ・ロ・ス♪」
とこれまた愛に溢れた返事が返ってきた。そういうわけで、お祝い外食。お祝いじゃなくても外食する予定だったのだけど、そのへんは気にしない。

明日からちょっとばかり長い旅行に出かける予定。都市部にいる間はチャイニーズでもイタリアンでも何でもありだろうけれど、国立公園巡りに入ったらファーストフードとファミレスの嵐な食生活になってしまうことだろう。メキシカンはしばらく食べられないかもね、とメキシコ料理屋に行った。最近すっかりお気に入りのメキシコ料理屋さん「La Hacienda Tortilleria」は今日も大混雑。前回テーブルについてくれた給仕のおばちゃんが、
「あら、あんたたちまた来たのー」
という感じな事をスペイン語でぺららららーと言って「飲み物はなに?」とすかさず問いかけてきた。今日はビールだなコロナだなと思っていたのに、つい条件反射のように
「オ……オルチャタ」
と返してしまう。かくして今日もメキシコ名物お米のジュースを飲む私。甘さが強めだけど、妙に懐かしい味も感じられてけっこう旨いんだわー。

今日は軽めに、生牡蠣だのシュリンプカクテルだのは取らずに、セヴィッチェ1つ、ゴルディータ1つ。だんなはファヒータセット、息子にはチーズケサディーヤ。渡米直後はさっぱりわからなかったメキシコ料理も、ちょこちょこ食べていて少しずつ品名を覚えてきた。タコスは割とどこででも食べられるし……と思うと、別のものが食べたくなってしまう。目下のところ、ゴルディータとケサディーヤがお気に入り。

白身魚や海老をトマトや香菜と混ぜてライムで和え、アボガドを添えたセヴィッチェは、前菜料理。このお店のはパリッパリに揚げたパイのような食感のトルティーヤの上に盛られている。前菜という位置づけではあるけれど、全ての料理が一緒にやってきたので、口直しのようにつまみながら食べる。ライム独特の、口が"*"の字になっちゃいそうな渋い酸っぱさがたまらなく心地いい。

そして、メインで食べるのはハンバーガーのような形状のゴルディータ。厚ぼったくモチモチとした食感の、こんがり揚げるように焼かれたトルティーヤ2枚の間に肉とトマトとレタスとチーズが挟まっている。ビーフかチキンかを選択できて、今日はチキンを。
だんなの前には、ファヒータ用の鉄製フライパンにこれでもかと大盛りになった肉野菜炒めがやってきている。アルミホイルに包まれたトルティーヤと、小皿に盛られた豆ペーストと米、野菜類。随分大量の料理が来たもんだねぇ、とだんなの皿を見て笑いながら、私は両手でわしっと厚ぼったいハンバーガーもどきを掴んで齧る。歯ごたえのある厚ぼったい生地にスパイシーな肉と大量の野菜が、タコスやファヒータとはまた違った風味で美味しい。

ユッケ風マグロ丼
ほうれん草のお浸し
ビール(Corona)
冷茶

旅行前の最後の夕食。冷蔵庫の中の生鮮品はほとんど消え失せつつある。卵はもうないし、牛乳も残りわずか。野菜も、ごぼうや人参などの日持ちのしそうなもの以外はほとんど平らげた。あとは、サラダ用に買ってきたほうれん草の残りくらい。日本食はしばらく食べられないかも、と今日はマグロを買ってきた。当初はシンプルに鉄火丼にするつもりだったのだけど、
「おゆきさん、僕はアレがいいな。にんにくと葱入れてほら、ユッケ風みたいな」
とリクエストされて急遽ユッケ風マグロ丼に。

ボウルにぶつ切りにしたマグロを放りこみ、刻み葱とおろしにんにくも放り込み、更にすり胡麻もどばーっと入れ、そこに胡麻油や醤油、豆板醤や酒や塩胡椒、砂糖などをぽいぽいと加えていって、あとはナムルを作る時のようにもっちゃもっちゃと軽く握り混ぜる。あとは炊きたて御飯に盛りつけるだけ。ほうれん草はちょっと鮮度がいまいちだったので、おひたしに。荷造りも終わっていなかったので、1本のビールをだんなと半分こして飲んだ後は冷茶を片手にマグロ丼を食べた。脂っけの少ないアメリカのマグロには、胡麻油ぶっかけて強めに塩して葱とにんにくでガツンと風味づけして……という食べ方がよく似合う。というか、日本のマグロじゃ旨いし高いしもったいないしでなかなかこういう食べ方ができないのだった。今日のマグロは特売されてて、1ポンド4ドル弱。100g100円程度のマグロなので、惜しげなくじゃんじゃん使っちゃう。

5/2 (金)
ワシントンDC名物、木槌で叩いて食べる蟹♪ (夕御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
インスタントクロワッサン (ハムチーズ・プレーン)
牛乳

今日から12日間の大旅行。こんなに長期間家族で旅行するのは初めてだと思う。ドラムバッグは洋服でぱんぱんになってしまった。同じ気候のところだけに滞在するのならここまで大荷物にはならなかったはずだけど、気温20度前後のところから、最低気温氷点下のところまで行く予定なので、コートからマフラーからセーターから、大変なことになっている。ちなみに炊飯器と米も荷物の中に入っていた。
9時43分ナッシュビル発の飛行機で、今日は一路ワシントンDCを目指すことになっている。

朝御飯に食べたのは、「困った時にはこれ!」と重宝されているインスタントクロワッサン。今日は冷蔵庫に残っていたハムとチーズの処理も兼ねて、ぐるんぐるんと盛大に具を巻いたものにした。4個巻いたところでハムが尽きたので残りはプレーンに。
「パソコンよーし、洗面道具もよーし」
と確認している間にパンもほどよく焼け、残り少ない牛乳をコップに注いで皆で飲んで、いざ出発。

駅のホームで
 卵サラダサンド
 ミネラルウォーター

空港に到着してみると、外は雷雨。搭乗口の前の大きな窓ガラスから、あちらこちらにどっかんどっかん雷が落ちてくるのがよく見えた。空港は一瞬電気がふっと暗くなり、予備系統を使っているかのように電灯の明るさがいきなり数段階暗めになった。飛行機出るのかなぁ……と心配していたら、案の定
「雷雨によって滑走路が全面閉鎖になっていまーす。しばらくお待ちくださーい」
とのこと。それでも15分遅れくらいで無事に飛行機は飛び立った。

ワシントンDCに直接向かえる安い航空券はなかったものだから、シカゴ経由でDCを目指す。丁度昼時にシカゴに到着してお昼御飯が恋しかったものの、離陸が遅れた分到着も遅くなってしまい乗り換え時間がほとんどない。しかも同じ航空会社なのに乗り口は遙か彼方だったりして、余計に昼御飯を食べる余裕なく次の便に乗ることになった。飛行機に乗っても、出てくるのはジュースとプレッツェルだけ。ひたすら飢えを感じていた飛行機の旅だった。

ワシントンDC(しかもDC内の空港ではなく、近郊にあるバルチモア空港)に到着したのは午後2時半過ぎ。もう空腹でよれよれなのに、ここから更に電車に乗って町を目指さなければいけないという状況で、私もだんなももうぶっ倒れそうなほどに空腹だった。
「電車の中で食べよう、電車の中で」
と、電車のチケットを購入した脇にあった売店でサンドイッチ類を購入。巨大なクロワッサンに、これでもかと卵サラダが挟まったサンドイッチはなかなか美味しそうな外見だったし、実際美味しかったのだけど、なんと1個6ドル。だんなが買ったハムとチーズのラップサンドも、これまた6ドル。
「たっかーい……」
「ぼったくりだ……」
と嘆きながら、それでもプレッツェルじゃないものが胃袋に入れられてほっと一息。これからはこういう時には何があるかわからないし、鞄の中にスナック菓子でもしのばせておくことにしよう……。

Washington D.C. 「The Dancing Crab」にて
 Oysters on a half shell $16.00/doz
 Hard Shell Crab (Large) 2×$4.00
 Maryland Crab Chowder $2.75
 Beer (Foggy) 3×$4.50
……を家族で

午後5時過ぎ、ワシントンDCのユニオンステーションに到着。そこから歩いて数分のところにホテルを予約してあったので、巨大な荷物を抱えてえっさえっさとチェックイン。もう観光に出かける体力は残っておらず、
「このまま夕飯だー!」
「蟹食べよう、蟹!!」
と、まだまだ日も高いうちから向かったのはThe Dancing Crabという可愛らしい名前の魚介料理屋さんだった。なんでもワシントンDCの名物料理の1つに、"木槌で叩いて食べる蟹"というのがあるそうなのである。一体どこで食べられるものなのか……と探していたら、この店が見つかった。まだ6時を過ぎたばかりで、テラス席に2組ばかりがビールを傾けている程度。西日がカンカンにあたっていたテラス席は暑そうだと、中の席に案内してもらったらお客は誰もいなかった。……も、もしかして"ハズレな店"に来ちゃいましたか……?としばらく焦っていたけれど、そのうちお客が続々とやってきた。私たちが帰る7時過ぎには、店内には4〜5組、テラス席は10組ほどの客がぎっしりと座って蟹と格闘していた。

で、蟹。とにかく蟹。蟹蟹蟹〜!とメニューを見ると、「"Hard Shell Crab"はご注文に応じてその日のマーケットプライスで提供しています!お出しするのに30分かかるのでお早めに!」などという事が書いてある。
「えっとね、この蟹が食べたいんだけどー」
と伝えたら、給仕のおばちゃんが
「今日はラージサイズがあるわよー」
とニコニコ。何個欲しいの?との問いに、ラージサイズだったら1個ずつでいいか……?と蟹の大きさがよくわからずに注文してみたら、思いの外小さなやつがやってきてしまった。あとは、生牡蠣1ダース、メリーランドクラブチャウダー1つ。地ビールだと言われた"Foggy"という名のビールも持ってきてもらい、日暮れ前だというのに早速飲み食い始める私たち。

テーブルの上には、確かに木槌とナイフがやってきている。蟹もやってきたけど、木槌をどうやって使えば良いのかわからない。
「どうするのー?」
とおばちゃんに尋ねてみたら、鮮やかな手さばきで「こうやってね、こう。殻はこうやれば取れるから、ここ食べて」と指導された。蟹のハサミの部分にナイフの刃を当て、刃の反対側を木槌でカコンと叩いてハサミを割れということだ。そして腹にささっとナイフを入れ、甲羅をぱかんと外す。あとは思いのまま足の肉を食べたり足の付け根にしゃぶりついたり。皿の上には顆粒のスパイスが入った小さな容器と、ビネガーが入った小さな容器がやってきている。蟹にも全面的にその顆粒スパイスがまぶしつけられていて、泥で汚れたような外見になっていた。蟹肉そのものは「ちょっと塩気が強いかな?」程度の味だけれど、蟹を持つ手にスパイスがつき、その手で蟹肉をいじくるものだから結局スパイスまみれの蟹肉を食べることになる。ビリッと辛く、ニューオーリンズあたりでよく口にするような感じのとんがった味のスパイスで、辛いけど止まらなくなってしまう味だ。

想像以上に小さな蟹だったので、今ひとつお腹が膨れない。30分待つと思うと追加注文もなんとなくめんどくさくなってしまった。
「あああ、あと6尾くらいは喰えたなぁ……」
「ちゃんと大きさ、聞いておけば良かったねぇ……」
と、すんごく美味しかったのに満腹度合いは今ひとつという状況で店を後に。
「そういえば、途中にチャイナタウンの駅があったねぇ〜」
「あー、明日か明後日行こうと思ってたけど、ちょっと寄ってお弁当あるかどうか見てみようか」
と、急遽夕食第二弾を探しに行くことに決定。

Washington D.C. 「東江海鮮酒家(Chinatown Express Restaurant)」の
 三寶飯(Triple Delight Roasting) $7.40(税込で)

チャイナタウンという名の地下鉄駅で降り、
「いったいどこらへんがチャイナタウンかのー?」
と見上げると、そこに横浜あたりで見たことがあるような感じの色鮮やかな門がどどどーんと立っていた。10分もあれば余裕で一周できてしまいそうな、小さな小さなチャイナタウンだったけれど、美味しそうな店があちらこちらにある。あー、ここも美味しそう、あそこも美味しそう、と眺めて歩いていたら、店頭にチャーシューやテラテラ光るダックがぶらさがった「そう、ここ!」「こんな感じ!」という店が見つかった。店頭で客引きしていたおばちゃんに
「テイクアウトもできる?」
と聞いてみると、できるよできるよさぁどうぞ、と中に通された。調理台では、おっちゃんが円形のまな板の上でガシッガシッとローストダックをぶったぎっているところだ。あああああ、美味しそう〜。
「"叉焼飯"があるよ〜!」
「いや、僕は"油鶏飯"がいいなぁ」
と、手渡されたペラ紙のメニューを見ながら真剣に話し合う。さすがに1人1個は多いような気がしたので弁当1個だけ作ってもらうことにした。注文したのは、「これがいい!」と私とだんなで意見が一致した"三寶飯"。3種類のロースト肉が御飯の上に盛られたやつだ。すぐさまおっちゃんがチャーシューや蒸し鶏、鴨をスライスし始めた。発泡スチロールの容器にたっぷり詰めた御飯の上に肉を並べ、鍋の中からすくったタレをてろーんとかけている。最後に小さな容器に入れられた葱ダレを御飯の隅っこにぎゅぎゅっと詰め込み、手渡された。

ホテルに帰ってちょっと落ち着いてから食べたのだけど、これがもう、涙ちょちょぎれるほど美味しかった。以前香港で食べた焼きもの弁当の味を思い出させてくれる、たまらなく本場くさい味のお弁当だった。赤くテラテラと光るチャーシューは懐かしい味の甘辛味で、ふくふくした骨つき鶏のスライスには刻み葱と刻みにんにくを油に浸したタレが良く似合う。喉に刺さってしまいそうな骨が入っている香ばしい鴨も、燻製臭のようなじわっと鼻の奥に残る香りが良い感じ。アメリカ〜ンな味などひとつもしない、懐かしいものだらけのお弁当だった。ただ、御飯だけは質のいまいちなカルフォルニア米という感じで、モソモソとした食感のイマイチなもの。それでもそれが気にならないほど美味しかった。パックの隅には、塩ゆでされたブロッコリーが3切れ。あとは御飯の表面をたっぷり覆い尽くすほどの大量の肉が重ねるように盛りつけられていた。これが、昼だったら4.95ドルで食べられるというのだからすごくお得かもしれない(夜に買ったので6ドルちょっとに値上げされていたらしい)。

やばい、滞在中に一度はチャイナタウンに行こうねとか言っていたのに、これじゃ毎食チャイナタウンを目指してしまいそうだ、と危険な事を思ってしまいつつ、ワシントンDC初日は食べることだけに明け暮れてしまったのだった。
明日はスミソニアン博物館に入り浸るのよー。

5/3 (土)
東江海鮮酒家(Washington D.C.)にて、排骨飯 (昼御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Washington D.C. 「東江海鮮酒家(Chinatown Express Restaurant)」の
 小龍包
 鼓油鶏 1/2羽
 排骨飯
 牛肉麺
……で、合計32ドル(チップ込)

今日は朝起きて一番、10時に予約してあるWahington Monumentに向かう。町の中心部にそそり立つ巨大な石造りの塔で、当日の朝並べば無料で上れるけれど事前に予約すると1人あたり2.5ドルの手数料が取られる。それでも、毎朝8時だか8時半だかに配布される当日分のチケットはすぐになくなってしまうという話だったので、旅行前にインターネットで手続きを済ませておいた。9時半過ぎに到着すると、「今日の分のチケットはなくなりました」と早々にチケット売り場に書かれている。

エレベーターで上ってしまえば、なんてことのない単なる展望台ではあるけれど、一直線にU.S.CapitalだのWhite Houseだのが見えるのはやはり壮観。今日は何やら朝からConstitution Ave.沿いをパレードが通っていて、塔に上っている時もどんちゃかどんちゃか鼓笛隊の音が聞こえてきそうな光景が広がっていた。……しかし、このあたりは広大な芝生の中にどっかんどっかんと巨大な博物館や美術館群が建ちまくっていて、1つ1つの建物の距離が異様に離れているうえに地下鉄駅もあまりそばにはないという厳しいエリア。この塔の往復だけで「……つ、つかれたかも」とか言っているのに、行きたい博物館は目には見えるけれど距離はえらく遠そうだった。

「朝御飯は食べないで塔に向かって、で、早めの昼御飯をがっちょり食べよう」
という目論見だったので、塔から降りるなり食事に向かう。行った先は、昨夜の夕御飯(第二弾夕御飯)でめちゃくちゃ癒されてしまったチャイナタウンの料理屋さんだ。店頭で、店のおやじさんが手打ち麺を打っているのを昨夜見かけてから、
「手打ち麺!」
「手打ちラーメーン……!」
と、絶対ここで食事しなければと熱く誓っていたのだった。

12時過ぎて、店はかなりの混雑。お客のほとんどは中国人のような感じで、店内を中国語が飛び交っている。昨日店頭で言葉を交わしたおばちゃんが、「あらまたきたの?」という顔をして席に案内してくれた。だんなは手打ちの汁麺を、私は豆鼓味の排骨飯を、そして小龍包、昨夜の焼き物の味が忘れられずにローストチキン1/2羽という、ちょっと大変な注文になってしまった。1/2羽の鶏は多いだろうなぁ……と思っていたら、やっぱり多い。テーブルは食べ物だらけになってしまった。

いかにも手打ちという食感の、ちょっとプツプツと切れがちな柔らかな麺は香菜がたっぷり浮いた薄味のスープの中に沈んでいる。具は薄い味に甘辛く煮た牛肉の薄切りと、青菜。麺もスープも具も優しい味の懐かしい風情の麺料理だ。対して、私の前にやってきたのは黒々としたいかにも味が強そうな丼料理。白い御飯の上には、一度揚げてからタレに漬け込んだと思われる骨つき豚がざくざくと大量に盛られ、葱や青菜も入っている。テラテラと光る黒いタレはこってりと甘口な回鍋肉のタレのような味になっていて、わずかに辛い。旨いけど胃に溜まりまくるヘビィな料理だった。でも、うまー。

そして、小山のようにやってきた鶏。ツヤツヤと輝く皮目が上に並べられ、皿に甘辛醤油系の味のタレがかかっている。ブロッコリーも添えられ、更に小皿に酢漬けのにんにくと刻み葱と刻みにんにくを油に浸したものもやってきた。
「あー……これまたビールに似合いそうな味のものがたくさん……」
「いや、飲んじゃったら、賭けてもいいけど午後歩けなくなるよ……」
こってり味の料理を前にして、ビールが恋しくなっている私たち。それでも午後のことを考えると止めた方がよさそうだ、とテーブルにやってきたジャスミンティーと水だけを飲みながらがつがつと目の前の料理を平らげた。小龍包はスープの詰まり具合とか肉のプリプリ感が今ひとつではあったけれど、他は申し分なく懐かしき中華料理の味。鶏半羽はさすがに多くて食べきれず、小さな紙箱に詰めてもらって持ち帰ることにしたのだった。

Washington D.C. 「Senators Grille」にて
 Monumental Nachos $6.95
 Killebrew Burger $9.25
 Mac & Cheese 無料
 Ice Cream 無料
 Beer (Sanators Ale) 4×$3.75
 Coke 無料

午後はひたすらスミソニアン巡り。最初に向かったのはNational Air and Space Museum(国立航空宇宙博物館)、次にNational Museum of American History Behring Center(国立アメリカ歴史博物館)。ロケット飛行機山盛りの国立宇宙博物館も楽しかったけれど、だんなが一番燃えていたのはアメリカ歴史博物館。ここには、以前ボストン旅行でコンピューター博物館を目指したのに閉館していて見られなかった、初期型コンピューターが展示されている。どこだどこだと探し歩き、"Information Age"というコーナーでやっと発見。初期型マッキントッシュやアップルUなどを目にして、
「おおおー、これが〜、これがマックツー……」
と、やたらと嬉しそうな我が夫。他にも面白そうな展示品てんこもりだったけれど、時間も足りなく足も限界。一体今日は何キロ歩いたんだろうと想像するのもイヤになるほど、ホテルに帰る頃にはヨレヨレになっていた。博物館内もおっそろしく広いけれど、博物館同士がまた距離がある。しかも地下鉄の駅も、これまた微妙に離れている。色々と大変なのだった。

本当はステーキでも食べに……と思っていたのだけど、5時半過ぎて宿に帰ってきた頃には、もう膝や腰が笑っているようになるほど疲れていて、遠出なんて到底無理。悔しいなぁ……と思いつつ、
「ユニオン駅のフードコートにいろいろあるよねぇ」
「……いや、このホテルの1階にもスポーツバーがあるよね」
「もういっそ、エレベーター降りて1階に行ってスポーツバーでビールかっくらって終わりにしようか」
と、やる気ないまま階下に行ってスポーツバーに。

私たちの滞在しているホテルは、なんでもオーナーが「昔、子供連れで旅行していたときに子供向けのサービスが充実しているところがなくて、非常につらい思いをしたので……」とかいう理由で、子供の飲み食い代は全てタダ。一般のお客さんも来るスポーツバーは、メニューにはキッズメニューの金額が載っているものの、「宿泊客だよ」と伝えたらジュースもマカロニ&チーズも、アイスクリームも、全部タダになった。なんだかちょっと嬉しい。

私たちのテーブルの担当は、ものすごく明るく表情豊かな黒人のおばちゃん。
とりあえずビールのつまみに……、とナチョスを注文し、続いて他のものも頼もうとしたら
「だいじょーぶ?ナチョス、すっごく大きいのよ。食べきれないかもよ。ゆっくり食べて、それから次の料理を決めるといいわ」
とまくしたててどかどかと去っていく。息子にコーラをくれる?と言ったらば
「ノンノンノーン、コーラはないのよ。ペ・プ・シならあるわよ、ペプシね、ペプシ。アハハハハ〜!」
とテンションを500倍くらいに増量した返答がある。注文をすると、「オゥケェェイ♪」とにっこり笑って去っていく。なんだかすごいおばちゃんだった。

テーブルには、この地の地ビールらしい、Sanators Aleという褐色のビール。濃い味で後味が軽く、かなり好みな味だった。チーズとトマトとオリーブとハラペーニョをわーっと散らした、確かにすごいボリュームだったナチョスをつまんで1杯飲み干し、更にもう1杯。おばちゃんの忠告どおり、ナチョスをつまんでいたら腹がふくれてきてしまったので、ハンバーガー1皿をだんなと一緒に食べることにした。
「ハンバーガー?1つでいいのね?2人でシェアするのね?オゥケェェイ♪」
と、やっぱり元気にオーダーをとっていったおばちゃん、数分後には2皿にきっちり等分したハンバーガーを持ってきてくれた。巨大な肉と分厚いトマトとレタスとマッシュルームと……と、高さ10cmくらいになっているようなハンバーガーが、見事にまっぷたつになって皿に盛られている。ポテトも半分、ピクルスも半分。見事なまでに"2人分にシェアされた"ハンバーガープレートだった。ここまでは予想していなかったので、思わずだんなと顔を見合わせて笑ってしまう。

ごくごく普通のスポーツバーという感じのお店だったけど、中は常連客らしき人々でも混雑していた。私たちの横のテーブルのおっちゃん3人組はかなりの常連なのか、やってくるなり給仕のおばちゃんにほっぺにチューされて高笑いしている。ありふれた風の料理ではあったけど、ビールも料理も美味しくて、しかもすぐ上には自分たちの部屋があるということで、これはこれで幸せな夕御飯だった。明日、筋肉痛にならなきゃいいけど……(激しく不安だ……)。

5/4 (日)
ワシントンDC国立絵画館内の昼御飯
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Washington D.C. 「金豊海鮮酒家(Kam Fong Seafood Restaurant)」にて
 皮蛋痩肉粥 $5.25
 牛肉粥 $5.25
 油条 $1.50
 蛋撻 $2.50
 芝麻球 $2.50

ワシントンDC3日目。今日もやっぱりスミソニアン博物館とか美術館を回ろうというつもりだったけれど、それらが開くのは午前10時か11時。だったら中華街で朝粥でもかっこんでから行こうということになり、8時半頃にホテルを出て中華街に向かった。一応目当てのお粥専門店があり、粥専門店なら当然朝早くからやっているだろうと予測して行ってみたのだけど、悲しいことに開店していなかった。店頭の営業時間の張り紙を見ると午前11時からと書いてある。しかも閉店は午後1時とか2時などと書いてあり、
「これじゃお昼しか来られないねぇ……」
「無理だ……」
とがっかりしながら他の場所を探すことになった。

日曜日の朝ということもあってか、開いている店は数少ない。パン屋さんらしきところはオープンしていて混雑もしていたのだけれど、パン食べたいという感じでもないし……とさまよっていたら「OPEN」の札がかかった海鮮酒家をみつけた。確かに営業しているようだけど、お客さんは1人もいない。おばちゃんが一人、暇そうに各テーブルに並べる容器に砂糖を詰めている。ハズレな店かしらん……と心配しながらも、「お粥、ありますか?」と、メモ帳に「粥」の漢字を書いて示しつつ聞いてみたところ、あるとのこと。人気の全くない店内に入り、チェック式のオーダーペーパーが渡されると、点心メニューを始め、各種お粥の品名が並んでいた。品名だけなら、かなり美味しそうな品揃え。
「あ、ピータン粥がいいな」
「油条もつけなきゃね」
「チーマーカオもあるから、これはテイクアウトして持っていっておやつに食べない?」
「タンタもあるから、じゃあそれもテイクアウトということで」
とごにょごにょと家族会議をしつつ注文を決めた。私はピータンと豚肉の粥、だんなは牛肉粥、そして細長い揚げパンのようなもの"油条"と、あとはおやつ用に卵タルトと揚げ胡麻団子。

やってきたのはラーメンどんぶりに入れられたような、かなり大量の粥だった。ふわっと米粒が花のように開き、さらりとした良い感じの粥だ。少々水気が多いけれど、具もたっぷりと入っていてなかなか美味しい。塩揉みした豚肉をスライスして茹でたような、かなり塩気の強い豚肉が入っていて、適当にちょんぎったようなざく切りのピータンが沈んでいる。油条は、揚げたてのものらしい。噛むと油がじゅわっと染み出てきてさくさくとした食感がいかにも揚げたてなものだった。
粥が食べたいとやってきて、めでたく粥が食べられたので満足しながら博物館エリアへ。今のご時世、博物館の各入口ではしっかり金属探知器のゲートが用意され、荷物も全部中を調べられたりするのだけど、それでもビニール袋入りのおやつをぷらぷらさせつつ向かってしまうのだった。

Washington D.C. 「National Gallery of Art」内「Cascade Cafe」にて
 ビーフスープ
 サーモンのサラダ
 じゃがいものサラダ
 テーブルブレッド
 サイダー

本日最初に向かったのはNational Museum of Natural History(国立自然史博物館)。子供が喜びそうな恐竜の化石だとか骨格標本だとか虫の展示だとかがてんこ盛りの博物館だ。私の目当ては宝石コーナー。ここには"呪われた宝石"と名高い世界最大のブルーダイヤ、"ホープダイヤモンド"があるということで、いきなり最初にそこに訪れた。あまりに巨大で現実味がなく、「なんかもう、ここまででかいと逆にニセモノくさいかも……」と思ってしまったほどの名物巨大ダイヤを見た後、鉱物コーナーを眺め倒し、あとは恐竜コーナーをざっと見て、次へ。

次に向かったのはNational Gallery of Art(国立絵画館)。だんなと息子は全く興味がなさそうだったので、途中のベンチで待っててもらって一人目当てのコーナーをざざっと眺めてきた。時間もあまりないのだけど、それ以前に全部見ていると体力が足りないので、どこも「ここ!」というところしか見ることができないのがちょっと悔しい。

そうこうしているうちに、早々に足も疲れてきて12時半過ぎにお昼御飯。国立絵画館地下にセルフサービス式のフードコートがあり、おやつをぷらぷらさせながらそこで食べることにした。サラダコーナーに前菜コーナー、グリルコーナー、ブレッドコーナー、サンドイッチコーナーといくつものブースがあり、大量の料理が用意されている。ピザからハンバーガーからグリルチキンまで、アメリカンなメニューが用意されている。それでも温かいスープや野菜たっぷりの前菜類もあるのが嬉しかった。
私は前菜コーナーでサーモンサラダとじゃがいものサラダを盛りつけてもらい、小サイズのビーフスープをもらった。だんなはチキンバーガーとオニオンリング、息子はサラミの乗ったピザ。ドリンク2つ注文して、それで全部で25ドル強。やっぱりこういうところは高いね〜と驚いてしまいつつ、ちょっと腰を据えて休憩しないとホテルにも帰れないほど疲れてしまったので、ゆっくりここで休みつつ昼御飯。

だんなのバーガーとオニオンリングはなかなか悲惨な味だったらしいけれど、私のサラダはちょっと油っこかったけれどまともな味だった。野菜よりサーモンが多いんじゃないかという、グリーン野菜とほぐした茹で鮭のマリネは、酸味が少なく淡い味。じゃがいもは皮つきのまま茹でられ、炒めたピーマンや玉ねぎと一緒にビネガーとオイルで和えられていた。丸麦入りのとろりとした牛肉のスープもまぁまぁ自然な味。著名な建築家がデザインしたという、新館の地下に位置するこのカフェテリアからは、階段状の斜面を滑り落ちてくる滝がよく見えた。本館は天井高く重厚な雰囲気だけど、新館はうってかわってモダンな雰囲気。どうせだったら隅から隅まで回りたかったけれど、もうこの時点で"今日の分の体力は2/3消費しました"的な状況になっていたので、次の目的地に行くことにした。

Washington D.C. 「Capitol City」にて
 Senate Caesar Salad (s) $3.00
 Eastern Shore Crab Dip $8.00
 Crab Cake Sandwich $11.00
 Kidddie Pasta $3.00
 Beer (Pale Rider Ale) $4.50
 Beer (Amber Waves Ale) $4.00
 Beer (Capitol Kolsch) $4.00
 Beer (Prohibition Porter) $4.00
 Ice Cream $1.00
 

今日、最後に向かったのはNational Zoological Park(国立動物園)。なんでも、パンダがいるらしい。更にはカバもいるらしい。
「ぱんだ!ぱんだ見たいなー」という息子と、「カバ!カバがいるなら見なければならぬ!」と鼻息荒いだんなが嬉しそうに動物園を目指し始めた。地下鉄に数駅乗り、降りてから10分ほど歩けばそこが動物園。入園無料なのに、パンダあり象ありキリンありチーターありライオンありと、かなり充実した動物園だ。早速パンダ舎に向かうと、2頭のパンダのうち1頭が屋外で食事中。顔をこちらに向けて私たちの立つ柵からほど近いところに座り込み、もしゃもしゃと竹を食べまくっていた。今まで上野動物園などでパンダを見たことがあったけれど、いつもゴロゴロダラダラと寝そべっているばかりで今ひとつ活動的な様を見たことがなかったので、"伸び上がるパンダ"とか"笹を一心不乱に食べるパンダ"が見られてかなり幸せ。プレーリードッグがいたり、カバは水の中を歩き回った挙げ句口をかぱーっと開け、そのままのっしのっしと水から陸に上がってみたりと、かなり楽しい動物園だった。そしてもう、体力はカラータイマーが点滅しているような状態に。今日もまた、昨日と同じくヨレヨレになってホテルに帰ってきた。

夕食に当初行こうと言っていたのは、ターミナルのユニオン駅地下フードコート。昨日のうちに、そのだだっぴろいフードコートを見ていたので「美味しそうなスープ屋さんがあるよ」「クラブサンドとかも食べられそう」と、安く旨いものが食べられるのではと期待してホテルからてこてこ歩いて行ってみたのだけれど、午後7時を過ぎてほとんどの店は店じまいをしているところだった。8時頃までは開いているだろう、という期待虚しくフードコートで食べることは中止を余儀なくされ、仕方なしに向かったのは道中にあった地ビール屋さん。とりあえず美味しいビールが飲めればいいや、と入ったところは案外と料理も美味しかった。4種類あったビールをだんなと2種類ずつ飲み、つまみに蟹のディップとトーストのセット、シーザーサラダを。疲れた身体にビールが心地よく、がぶがぶ飲んでいるうちに空腹も癒されてしまい、メインディッシュはクラブケーキサンドイッチをだんなと半分こすることに。

ほうれん草とアーティチョークのマヨネーズベースのディップに蟹肉がたっぷり散らされピリ辛のスパイスをかけたものもビールに似合っていたし、レモンの風味が強いタルタルソースを添えて食べるクラブケーキのサンドイッチも、"つなぎと野菜の隙間に蟹肉"というよりは"蟹肉の隙間につなぎと野菜"といった蟹蟹蟹蟹したものでかなり美味しかった。やっぱり港町の名物は蟹とか牡蠣なのかしらねぇ、などと言いつつ、蟹ものをたっぷり平らげ、最後には子供用の1ドルアイスクリーム(その割に量はたっぷり)を家族皆でつつきまわして食事は終了。もう、酔いだか疲れだかわからない状態でふらつく足を叱咤しながらヨロンヨロンになってホテルに帰った。

ひたすら博物館巡りばかりしていたワシントンD.C.。明日にはここを発ってデンバーに向かう予定。レンタカーでひたすら走る旅になるので、これからはファーストフードとファミレスとの戦いになりそうな予感〜。