食欲魔人日記 02年07月 第3週
7/15 (月)
銚子丸(千葉)にて、煮穴子 (昼御飯)
ぶっかけうどん(ひやひや)

麦茶

3日連続、うどんの朝御飯。
「だってさ、アメリカに行ったらそうそうこの味は……」
などとだんなは言っているけど、私は知っている。先行して送ったただ2つの荷物のうち、1つは大学時代やっていたアーチェリーの道具一式で(そしてケースに収まる弓の隙間にお茶とかふりかけをぎゅうぎゅう詰めた記憶が)、もう1つは「うどん打ち」の道具が詰まった大箱なのだ。こね鉢と、長い長い麺棒と、うどん用包丁などなど、更にサバ節も鰹節もいりこも大袋で大量に詰まっていたその箱、箱に封をしても、猫が寄ってきそうな匂いが周囲に漂っていた。大学の研究室宛に送っていたけど、先生、変な顔するんじゃないだろうか。

ともあれ、向こうで日本人仲間相手に何度もうどんをふるまうことになるのだろうかと思いつつ、日本のうどん朝食を堪能しちゃおうの会3日目。今日は冷たいうどんに冷たいだし。刻み葱に揚げ玉をたっぷりと。
最初は、今シーズン最初の桃を、
「ぼくはー、うどんいらないの。ももを、たべるの」
と言い張っていた息子も、「やっぱり、おうどん、おうどんたべる」と騒いでうどんを啜ることになった。
桃よりも魅惑的だったのかもしれない冷やしうどん。恐るべし。

千葉 「銚子丸」にて
 たたきサーモン
 あぶりトロ
 イクラ
 煮穴子
 しめサバ
 こはだ
 あじ
 かに味噌
 生湯葉にぎり
 ねぎとろ手巻き
 ビール、ランチ味噌汁×2

渡米を前に、いつも使っている包丁を研いでもらったり、ついでにいくつか買い物もしなきゃいけないしと、午前中、千葉駅方面に向かってみた。
「なんかさ、なんかさ、千葉駅前にも"銚子丸"があるっぽいかもよー」
とだんなが調べてくれたので、
「寿司だ寿司だ」
「ファイナル寿司だ」
と、お昼は寿司屋に決定。寿司屋に到着した頃に、研いでもらうはずの包丁をまるまる忘れていたことに気が付いて、結局外出は「寿司喰ってちょっと買い物して帰るだけ」になったのであった。馬鹿だアホウだ粗忽者だ。私たちはいつもどっか抜けている。そのくせ、寿司屋に行くことは忘れてなかったりするのた。とほほほほ……。

三越デパートそば、線路沿いの小さな建物に入る千葉駅前店は、6月にオープンしたばかりの新しめの店らしい。いつも行く店と、メニューも違うし内装も違う。私とだんなが大好きな「うずらねぎとろ」がメニューになくて、
「う、うずらねぎとろ、できますかっ?」
と上擦った声で訊ねてしまったところ、笑顔で「できますよー」と返されてしまった。書いてはいないけど、手巻き仕立ての巻物も作ってくれるし、平日昼間はあら汁が無料で出てくるし、けっこうサービスがいいのはいつもの店と変わらなかった。いい感じだ。

くるくる回ってやってくる皿から息子は好物の品を
「たまごとー、いくらとー、あ、あ、メロン〜〜!」
と楽しそうに1つ1つ取っては平らげていっていた。玉子2皿にイクラ2皿、ジュースとメロンが1皿ずつ。

私とだんなは、メニューを見ながらぽいぽい注文していく。回ってくるものも時折つまみながら、
「あぶりトロくださーい」
「かに味噌くださーい」
と好みのものを告げていく。ついでに「生湯葉にぎり」なんて変わったものも目の前を通過しようとしていたので取ってみたり。

ここの穴子は、すっごく巨大なのである。ぺろーんと1尾分ほどの穴子がテラテラとタレにまみれ、キュウリと葱が添えられてご飯がオマケのようにくるまれている。毎回、「どう喰えと……?」と悩むのだけど、まず両断した穴子の片方でキュウリと葱をくるんで食べ、残り半分をご飯と共に食べ、という感じにしている。1皿食べると妙に腹一杯になるのが少し問題だ。

そして多分、日本最後の寿司になるであろう食事を、昼だというのにこれでもかと腹一杯食べてしまったのだった。

お祭り縁日にて
 ビール
 ソースせんべい(チョコ味)
 わたあめ
 ドネルサンド

 串揚げ・揚げウィンナー・アメリカンドッグ
 焼き鳥(正肉・皮・レバー)
 中華総菜(焼きそば・焼き餃子・酢豚・中華蒸しパン)

今日は近所の神社のお祭り。毎年7月14日が前夜祭で15日が本祭と、曜日には全く関係なしに催されている。今日月曜日に本祭という割には、夕方にはすでに凄い人が通りに溢れていた。皆でほてほてと、我が家から歩いてお参りに行って帰ることにする。

我が家近くのバス通りが、そこが起点の通行止めになり、そこから神社までが縁日になる。更に海岸まで伸びていく通りも、ものすごい長さの縁日になるらしい。「千葉最大の祭り」などと情報誌に紹介されるだけあって(その割には祭りそのものはお神輿もなく地味なものだ)、その露店の数はすさまじいものがある。

境内に近づくにつれて人が多くなる道を、
「あー、あそこのビールは?」
「……いや、高い……」
「あ、あそこは酒屋さんだよ!」
「うむ、あそこは安い!」
などとビールの安い店を見つけ、缶ビール片手にぷらぷらと歩く。金魚すくいもカメすくいも、スーパーボールすくいも、ヨーヨー釣りも、くじ引きものとかわたあめ屋さんも、一見昔と変わりない様子。でも値段は1回300円とか500円とか、ずいぶん懐の痛いものになっていた。

しかも、スーパーボールすくいの
「もなか 100円」
「おたま 300円」
ってなんだよ!おたまですくって、どーすんだよ!
……で、見ると、息子がさっそく「おたま、おたまですくうー」と騒いでいるのであった。おたまで1回、好きなところをすくって300円。5個ほどすくえたそれは、全てお土産になる。テクニックも何もなく、ただすくうだけ。そんなのが楽しいのか息子よ……と見ると、幼児にはそのくらいの難易度で丁度良かったらしく、5個のスーパーボールを袋に入れてもらった息子はえらく楽しそうだった。

暑さでゲレゲレになりつつ、それでも神社まで行って参拝して帰ってきた。帰り際には、地元のお店が軒先に並べているような、お肉屋さんのフライとか中華料理屋さんの総菜とか、そんなものをあれこれ買って帰ってきたり。
去年食べて美味しかった「ドネルサンド」は今年も登場していて、今年も買ってきてしまった。

中近東あたりの料理らしい「ドネルサンド」。スパイスを揉みこんだ牛肉が筒状に固められていてぐるぐると回っており、脇にあるバーナーでグリルされている。注文すると、ピタパンにその牛肉をこそいで詰め、刻みキャベツを詰め、刻みトマトを詰め、ケチャップとマヨネーズを混ぜたような色のソースをばしゃばしゃとかけてくれる。去年は、いかにもな外見の外国人のオヤジが作っていたのだけど、今年は金髪のテキヤの兄ちゃんが2人で「むずかしーなオイ」とか言いながら作っていた。前は、野菜は最初からソースで揉みこまれていたけど、今年はなんだか手抜きな感じ。
それでも、ちょっとばかり異国の味のする「やわらかタコス」みたいなそれは妙に美味しかった。全然お祭りの味という感じじゃないけど。

7/16 (火)
厚揚げのおかかねぎ挟み (夕御飯)
ミスタードーナツの
 ジャーマンポテトデニッシュ
 ベリーベリーチョコファッション
アイスカフェオレ

いよいよ、出立前日。数日前から台風が迫ってきていたのを、
「早く通り過ぎろ〜16日中に通り過ぎろ〜ちょえぇぇぇぇぇぇ」
と呪いをかけていたらしい我が夫。その甲斐あったのかなかったのかわからないけど、とりあえず台風は今日、関東を通過するらしい。でも、今日は今日で銀行行かなきゃとか携帯電話の解約に行かなきゃとか、いろいろやらなきゃいけないことはあるんだけど……。

とりあえず私は荷造りを担当し、だんなは「雨が強くならないうちに行ってくる」と小雨のなか出かけていった。数時間後、大雨と共に帰ってきただんな。手には駅前のミスタードーナツの箱が、若干風雨でしわしわになった状態でぶらさがっていて、ありがたくこれで朝御飯とすることにした。

「ベリーベリーチョコファッションと、もうひとつはしょっぱいものがいいなぁ……」
とリクエストしたそれは、リクエスト通りのベリーベリーチョコファッションと、ジャーマンポテトデニッシュ。ミスドのデニッシュは、想像するのも恐ろしいほどのバターが含有されているようで、その歯ごたえはサクサクパリパリとしてかなり好みな食感。ツナやじゃがいものトッピングも好みなものが多い。
「……明日からこういうものばっかり簡単に食べられるような気がしないでもないけど……」
と思いながらドーナッツ。向こうでも美味しいドーナツに会えるといいなぁ(そして薄いコーヒーをガバガバ飲むのよ)。

「キムチでやせる」の焼きそば 鶏肉入り

麦茶

冷蔵庫片づけ運動実施中。私がスーツケースにこれでもかとぎゅうぎゅう衣類を詰めている間、だんなは冷蔵庫前で
「これはポイポイかなぁ……」
「ああっ、これも食べなきゃ……」
とあれこれ引っぱり出している。冷凍庫からは、先日買った「キムチでやせる」の焼きそばが2玉発掘され、残りものの鶏肉と一緒にこれを食べることとした。

にんにくの風味たっぷりのこってり味の、ソース味じゃない焼きそばの味。豚肉がこのうえなく似合うとは思うけど、今日の鶏肉も悪くなかった。かつぶし山盛りかけて、それがシワシワとよれていくのを見ながらがふがふと食べる。
焼き肉の最後あたりに食べるのがサイコーに美味しそうな焼きそばだ。今日もやっぱり旨かった。

「おうどんたべる。おうどんが、いいの〜」
と、私たちが焼きそばを食べている脇でうどんを食べていた息子。
「ねぇねぇ、アメリカってどうやって行くの?」
と聞いてみた。2週間ほど前に同じ問いをしてみたところ、
「あめりか?あめりかはねー、快速にのって、みどりの電車(=山手線のこと)にのって、いくんだよー」
と言っていた。彼の中でアメリカは、恵比寿と同じような場所にあるらしかった。

何度か教えてみたところ、アメリカは飛行機に乗って行く場所だということは理解したらしい。
「ひこうき?ひこうきにのるんだ?」
「そうそう、明日ね。乗るよ」
「そっかー!……ピカチューの、ひこうきにのる?」
「……い、いや、アメリカ行きのポケモンジェットは、多分ないと思うんだなー……(そもそも明日は航空会社が違うし)」
……息子には、まだまだ伝えることがいっぱいあるようだった。

茹で茶豆
ざる豆腐
厚揚げのおかかねぎ挟み
焼き鳥(手羽・皮・正肉)(近所の総菜)
炊き合わせ(デパ地下のお総菜)
切り干し大根のふくめ煮(デパ地下のお総菜)
「柿安」の天むす
ビール、抹茶入り玄米茶

昼過ぎ、だんなは携帯電話の解約に千葉まで行ってくれた。
「夕飯、なんか買ってこようか?」
とおっしゃるので(食事の支度はできなくもないけど、愛用の包丁はもう全部荷物の中だ)、
「……ん〜、和風のもの……あ、"天むす"とか」
と伝えたら、だんなの顔に「天むす!いいねぇ、天むす!」と天むすの文字が踊りまくり、そのままうきうきと台風が過ぎて雲にも晴れ間が出てきた天気の中、出かけていった。

で、6種の天むすを2個ずつ12個、更に別の総菜屋で上品な炊き合わせのパックとか切り干し大根の小さなパック、更に、まだ出来立てで温かいというザル豆腐と、同じ店の柔らかな厚揚げ。そして、
「ほうれん草の胡麻あえ売ってて、いいなーと思ったんだけどこれが高くてさ。だからほうれん草本体を買ってきたよ。あとね、290円だった茶豆!安いよねぇ〜」
と"主婦的ナイス目利き!"てな感じの判断力で枝豆とほうれん草も買ってきた。帰るなり、せっせとほうれん草を茹で、胡麻和えじゃなくてナムルを作り始める我が夫。あれこれ並べると、まんま「居酒屋のテーブル」みたいな品揃えになった。

和皿に盛りつけた炊き合わせと切り干し大根。一昨日あたりの残りものの焼き鳥。茹でたてのまだ温かい枝豆。ざる豆腐はスプーンですくって、だし醤油ぶっかけて食べる。厚揚げには切り目を入れて、かつおぶしと刻み葱を合わせて醤油で和えたものを詰めて、こんがり網焼きした。

天むすは、ノーマル天むすと、帆立の天むすと、赤飯天むすと、唐揚げむすび。更に牛そぼろと鮭のおむすびの6種類が2個ずつパックになっていた。1つ1つが小さいから3〜4個軽く食べられる感じ。衣の油が染みたご飯はちょっと甘くてしみじみ美味しかった。だんな4個・私3個・息子3個・母1個、力いっぱいたべた。残り1個は、明日の朝御飯のうどんのお供にすることになりそうだ。

7/17 (水)
Calypso(Nashville)にて「Half chicken curry sauce」 (夕御飯)
冷凍うどん ひやひや
 (胡麻&おかかぶっかけ)
麦茶

いよいよ今日は渡米の日。出発は昼頃なので、のんびり起きてのんびり朝御飯。

朝御飯は、これが最後と冷凍うどんを食べることに。先日だんなが丹誠込めてとってくれただしがまだ残っていたので、冷凍うどんを茹でて水で締め、そこに冷やしただしをばしゃばしゃぶっかけて食べる。葱も使い切ってしまっていたので、胡麻とおかかをぶっかけただけの簡単うどん。
アメリカで、美味しいうどんは喰えるだろうか……(いや、打つつもりだけど)。

「HIROTA」のシュークリーム
アイスカフェオレ

午前11時。お義母さんも見送りに来てくれて、「最後にこれ食べていきなさいよー」と「HIROTA」のシュークリームを渡してくれた。出発までまだ15分くらいあるし、荷造りも万全だしと、最後に我が一家と私の母とだんなのお母さんと円になってシュークリームを食べる。カスタードと生クリームが半々につまったやつと、生クリームだけのやつ。ふわふわの小さめのシュークリームはやっぱり美味しかった。

ここで、パラパラと雨が。昼過ぎからは雨と聞いていたけど「しまったっ、もう降り出したっ!」と慌てて準備して急ぎ家を出ることに。何しろ荷物は巨大段ボール2箱(とスーツケースとボストンバック)だったりして、濡れてしまうと現地につく前に破れてしまいそうなのだ。調理器具満載の、重量30kg(←1個が)の段ボールの底が破ける状況は、あまり目にしたくないと思う。
「ゴミ袋っゴミ袋でコーティングしてっ!」
「もう1枚っもう1枚を前面に貼って!」
「このバッグはお母さんが持ってあげるから、ほら、行きなさい!」
と、しめやかに営まれるはずだった親との別れは、ほとんど「ホームレスの引越」のようになってしまいながら最寄り駅へと向かった私たちだった。ゴミ袋にまみれた渡米1歩目。とほほほほー。

成田空港ビル内「ラ・フィエスタ」にて
 炭火焼き鳥丼
 アイスティー

空港到着午後12時半。離陸まで3時間。
「最後に何か食べていく〜?」
との案件に、私が強硬に
「うなぎ!うなぎうなぎうなぎ!」
と主張していたのだけど、息子に
「ぼくはぁ〜、チャーハンが、食べたいなぁ〜。ほんとにほんとに食べたいなぁ〜」
と言われてしまい、あえなく「チャーハンが食べられるお店に」という目的地になってしまった。

探し歩いたところは、屋台風の各種カウンターが並ぶセルフサービスのお店。ラーメン屋や寿司屋、中華屋やピザやが並んでいるそこで、息子は冷やし中華とミニチャーハンのセットを前にしてもりもりと食べていた。私は悩んだ挙げ句、丼もの屋さんで「炭火焼き鳥丼」を注文。それなりに炭火っぽい煙臭さがしなくもない、甘ったるいタレの丼だった。中央には温泉玉子。錦糸卵とレタスが何故か飾られている。「照焼き」というよりは「テリヤキ」という味の、かなりジャンクな味がした。

デルタ航空機内食
 鶏団子の照焼と帆立入り葉野菜のサラダ
 茶蕎麦
 鶏胸肉のロースト オレンジと黒胡椒のソース
 さやいんげんとにんじんのロースト、コンキリエ
 パン、栗のショートケーキ
 ジンジャーエール、白ワイン、紅茶
 

目的地、ナッシュビル(テネシー州)と東京は14時間の時差がある。アトランタで飛行機を乗り継いで、かかる時間は14時間。だから、日本時間で午後3時半に出た飛行機は、現地に午後3時過ぎに到着するのだった。その間の機上の時間は昼なのだろうか夜なのだろうか、寝ておけばいいのか寝ちゃダメなのか、よくわからない。そういうわけで、今日は食事が何回も何回もあるのだった。なんか得した気分が漂う。(でも、帰国の時は逆に何食もすっとばすことになるのね……)。

「安いから」という理由でH.I.S.で航空券を手配してもらって、決まった会社はデルタだった。乗務員さんたちは年季の入った(体格もすばらしい)おばちゃんたちと恰幅の良いおじちゃんたちで、乗客も当然アメリカンばっか、という感じ。
私の前の席の白髪のおばちゃんは、体重0.15tはありそうな見事な体格で、椅子に座った途端に、リクライニングにしてもいないのに自重で席がぐぐっと後ろに倒れてきた。ゆさゆさとおばちゃんがお尻を動かす度にその席は不安定にぐらぐら揺れる。このままじゃ、いつ席のバネとかがぶっこわれて後ろにおばちゃんが転がってこないとも限らないという感じで、かなりスリリングな空の旅となってしまった。

夕食(?)は、牛肉のバーベキューと鶏肉のローストと魚介の和風カレーから選択で。甘辛い鶏団子と帆立の入ったサラダ、なんかいつも飛行機の上はこれを喰ってるような気がする「茶そば」、カスカスの味気のないパンとバター。大人用のプレートは変わり映えのしないものだったけど、息子用のチャイルドミールはそれはそれは美味しそうだった(ていうか美味しかった)。

温かい皿の上にはポテトとドミグラスソースをかけたハンバーグ。銀紙に丸いパン(ちゃんと横にスライスしてあって、バターが塗られている)がくるまれていて、別添のケチャップ。畳むとバッグになるプラスチックのケースには、牛乳とクッキーのセット、パイナップルといちごが詰まっていた。
「……自分でハンバーガーにして、喰えと」
「いっいかにもアメリカチックな……」
「しかも旨そうだし」
と、息子をよそに燃える私とだんな。シェーキーズのみたいな、皮つきのごろごろしたじゃがいもも、牛肉100%っぽいハンバーグも、大人用の食事よりもずっと美味しかった。いいなぁ、チャイルドミール……。

デルタ航空機内食
 カスタードデニッシュ
 バナナケーキ
 オレンジジュース
 ブルーベリーヨーグルト(タカナシ製)

アトランタまで12時間。さすがにきつい。
目の前のおばちゃんが動く度に、怪しく座席が振動する。椅子を倒しているわけじゃないのに、椅子、傾いてるし……。

前回の食事から3時間ほどで「軽食」。
小さなトレイにデニッシュとケーキとジュースとヨーグルト。子供が好きそうなメニューで、案の定、息子が
「これ、ぼくの?たべていいの?」
と次々と食べ物に手を出してトレイを空にしていた。直前まで周囲は寝ている人ばっかりで、「あまり食べないものなのかなぁ?」と眺めていたのだけど、皆ちゃんと続々と起き出してもりもり食べている。パワフルだわぁ。(夫もそのパワフルな人の一員だった)

デルタ航空機内食
 メカジキの照焼 with ご飯
 アーティチョークとオレンジのサラダ
 フルーツ盛り合わせ(オレンジ・キウイ・りんご)
 パン、バター
 ミルクチョコレート
 アイスティー

日本時間深夜3時、アトランタ時間前日の午後2時、機内での最後の食事(どうやらランチらしい)。
メカジキの照焼とご飯か、鶏肉を乗せた焼きそばか、という和食と中華の選択になっていた。やけに酸っぱい怪しい味のアーティチョークのサラダつき。照焼を頼んでみたら、にんじんやさやえんどうなどの添え物の野菜にまでトロリとしたあん状のタレがどっぷりかかっていて、ちょっと笑えた。"ニセ和食"てな感じ。

Nashville 「Calypso cafe」にて
 Half chicken with two sides (Curry sauce) $6.04
 ビール(クアーズ)

アトランタ時間午後3時半過ぎ、無事にアトランタ到着。これからローカル線に乗り換えて、テネシー州の州都、ナッシュビルへ向かうのが最終目的だ。乗り換え時間は2時間あったはずなのに、入国審査の行列待ちで1時間半ほどが消費され、アトランタを少しも満喫することなく小さな飛行機に滑り込むようにぎりぎりで乗り込み、無事にナッシュビルへ到着したのが午後5時半。もう、かなりグニャグニャに疲れていた。

だんながお世話になる研究室には、日本人のMさんというスタッフがいて(米国人のだんなさんを持ち、もう20数年米国暮らしをしている人)、その方がとりあえずのホテルの手配から何からしてくれていた。空港にまで迎えにきてもらい、明日からの予定を色々聞きがてらホテル近辺の美味しいお店情報もうかがった。
「ホテルのすぐ隣にはステーキ屋さんがあります。味は……まぁまぁ」
「まぁまぁ、ですか(笑)」
「その隣の"カリプソ"というお店は……ランチ向けかもしれないけど、あそこは美味しいです。チキンのカレーがけがいけるわよ」
「は、"カリプソ"ですか……(記憶記憶)」
「あとはね、その向かいのドラッグストアにジュースとかお菓子とか、そういったものは何でもあるから」

こぢんまりとしたカントリー調のホテルに荷物を置き、そのまま歩いてドラッグストアに買い物に行く。
「キャー、ドクターペッパーのペットボトルがあるぅ〜」
「しかもダイエットドクターペッパーがあるぅ〜」
「スタバの瓶入りドリンクが安いぃぃぃ〜」
ときゃあきゃあ騒ぎながら買い物し、そのまま「ステーキか」「かりぷそか」と悩みながら夕飯を食べに行った。

件の「かりぷそ」は「Calypso cafe」というお店。テイクアウトもできるようで、午後7時半を過ぎて店は混雑していた。
「Chicken」メニューは、バーベキューとカレーがけの2種類から選べるらしい。「CURRY」のところには「a mild sauce with a touch of apples」と説明書きがあり、更に「Quater dark with two sides」だの「Half chicken with two sides」だのといろいろ種類らあるらしい。ハーフ鶏にサイドディッシュ2つつけて$6くらい。720円くらいだ。そのサイドディッシュは豆の煮込みとかサラダとか、マフィンとかスープとか果物とか、いろいろ。

私はハーフチキンに豆とコーンのサラダとポテトチップスをつけてもらい、だんなはall darkのハーフチキンにクラブサラダとフレッシュフルーツをつけてもらった。ポテトチップスと書いてあるから、フライドポテトのことかと合点してしまったけれど、鶏肉に添えてあるのは、小さな袋入りのポテトチップスそのまんま。旨そうな鶏肉にポテトチップが添えてあるというのもちょっとシュールな光景だった。(あまりにシュールだったので、メロンが添えられただんなの皿を写してしまったほど)。

そしてこの鶏肉、めちゃめちゃ旨かったのだった。
「ハーフなんて、いきなり大量の注文だったかなぁ」
「ここはアメリカ新参者らしくクォーターとしておくべきだったのでは」
と戦々恐々としながら待っていたけど、半羽の鶏はさすがにボリュームもあったけど思ったよりも大きくなく、もりもりと食べられた。上にはリンゴの甘さたっぷりのマイルドなカレーのソース。サラダも、メキシコっぽい酸味のきいた甘酸っぱいドレッシングで和えられた、食べたことのない味のものだった。色々な豆とコーンを混ぜたサラダってのも、案外と美味しいものだった。しかも、サイドディッシュのくせに、サラダの分量はこれでもかとたっぷりだ。

骨つき肉をしゃくしゃくナイフでこそげとりながら、
「うまー!」
「アメリカ、うまー!」
「めちゃめちゃうまー!」(でも、南部料理じゃないと思うけど、これ……)
と初手からちょっと幸せなアメリカの夜だった。

チップの渡し方とか、まだ全然わかってなくて、まずメニューを読むことすらおぼつかなかったりもするけど(英語の料理説明の、その意味を理解するのに時間がかかる……)、なんとかなりそうだ。多分。きっと。
明日は、家さがし〜。

7/18 (木)
Merchant's Grill(Nashville)にて、ビーフサンドイッチ (夕御飯)
ホテル「Hampton Inn&Suites」にて無料朝飯
 バナナとクルミのカップケーキ
 スコーン
 ゆで卵
 リンゴジュース、カフェオレ

朝4時。一家全員、目が覚めた。時差ボケだ〜。
何より息子のギアはいきなりトップに入ってしまい、まだ眠い私とだんなの間で
「おとーさんと、おかーさんと、"すきすきぎゅー"ってしてくださーい」
「……しませーん……」
「おかーさんは、ぼくと、きゅーりを切りますかー?」
「……きりませーん……」
「おとーさんは、ぼくと、とうもろこしをゆでますかー?」
「……ゆでませーん……」
もう、テンション上がっちゃって言うことが意味不明の我が息子。

午前4時から、そうして一家全員眠れなくなってしまい、「宿泊者の皆様に無料サービス」というホテルのサービスの朝御飯を摂りに、6時を過ぎたころロビーに向かった。
部屋もロビーもカントリー調のこのホテル、レセプションの隣に暖炉つきのソファーコーナーがあり、一角にセルフサービスのパンやジュースが並んでいる。ジュースが3種類に、紅茶やコーヒー、シリアルに、甘いパンと甘くないパン各種にポーリッジ、チーズやヨーグルト。そして山盛りのゆで卵。

リンゴジュースを飲みながら食べたバナナとクルミのカップケーキは「これが朝飯でホントにいいのか」と思いたくなるくらい甘くてバターたっぷりだった。美味しい。妙に塩気の強いスコーンにバター塗って食べ、ゆで卵を囓る。息子は
「カリカリたべるよー」(←シリアルのことらしい)
「あ!バナナ!バナナもたべるよー」
と絶好調だ。長旅の疲れは、私よりもだんなよりも感じさせない。ゆで卵喰うしシリアルお代わりするし、もう絶好調。

全ての皿とカップが使い捨てのものになっている朝食コーナーには、ちゃんと厚紙製のカップホルダーなんかも用意されていて、部屋へ持って帰って食べられるようになっている。私はシリアルコーナーの牛乳をカップに入れてレンジでチンしてコーヒーを入れ、好みの濃度のカフェオレを作って部屋に持って帰った。朝食終わって午前6時半。目はらんらん。ど、どうしましょう……。

Nashville 「Cuisine of India」にて
 ランチブッフェ $5.90也
 マンゴーラッシー

だんなと同じくこの留学プログラムでこの地にやってきた人に、Iさんという人がいる。この方、奇遇にもだんなと同学年の同高校出身者なのだった。今日はIさん、サポートのMさんと一緒にアメリカ在住中に必要となる諸々の手続きをしに行った。

「Social Security Number(社会保障番号)」の取得と、銀行口座の開設。そして家の確保。本当は、家を決めてからじゃないと、「じゃ、アンタの居住地ってどこなのよ?」とツッコミを入れられるらしいので色々と準備が必要らしいけど、そのへんはベテラン在米スタッフのMさんにお任せ。
「大学の推薦書があれば銀行は案外OKが通るかもしれないし……」
「ソーシャルセキュリティもね、多分大丈夫……」
「とりあえず、下の道路で行って運転に慣れて、帰りはハイウェイに乗ってみる?」
などとてきぱきとフォローしてもらいながら、今日は一日外回り。

「SSN(Social Security Number)は処理を受付ました。でも届けるのは郵送で、2週間後くらいね」
と言われ、
「住むとこもSSNもないの?まぁ口座は開設してあげるけど住所とか決まったらもう一度来てね」
と言われ、なんとか色々の手続き終了。こういうとき、英語での面倒な折衝を全部やってくれるMさんの存在はすっっっごくありがたい。ありがとうMさん。

昼御飯は、Iさんと4人で大学近くの「Cusine of India」なるインド料理屋さんに入ってみた。ランチタイムには$5.90(チップを入れると900円くらい)でバイキングをやっている。サフランライスにナン、チキンカレーと豆のカレーが2種、ほうれん草の煮込みやタンドリーチキン、オニオンフライなどなど。デザートにライスプディングなども揃っている。
ヨーグルトそのまんま、みたいな、シェークよりも吸い込みにくくしかも甘いマンゴーラッシーをずるずると心肺筋肉を使いまくって吸い込みつつ、何度かお代わりしながらカレーを堪能。昨日はキューバ料理で今日はカレー。アメリカなのか何なのかよくわからない食生活をしている。スパイスたっぷりなのに何故か全然辛くないカレーは、クローブの香りが効いていてなかなか美味しかった。ナンはちょっとどっしり重めでいまひとつだけど、インド米を使ったサフランライスも、真っ赤なタンドリーチキンもしっかりインド料理だ。玉ねぎをたくさん刻んで丸めて揚げたようなオニオンフライや、添えものの野菜の甘酢和えみたいなのとかタマリンドペーストやミントソースなども色々並んでいた。

最後に米をコンデンスミルク入りの牛乳で煮込んだような粥状のライスプディングを平らげ、しばらく大学のセンターで色々と打ち合わせしてからホテルへ。
住むところはどうやらIさんと同じアパートになりそうだ。大学へ自転車も可能、車なら5分という距離のそのアパート群は1棟が1階4部屋2階4部屋という構成で、木立の中にぽつぽつと並んでいるという構成になっている。広くはないけど、古い建物らしく他と比べてかなり安い。幸い、2部屋ばかり空いているらしい。
「でもね、前に住んでいた方が鍵を返してくるのが今日なんですって。で、明日クリーニングして、その後24時間乾燥が必要で……」
とちょっといろいろめんどくさい。もう数日、ホテル住まいが続きそうなのだった。

Nashville 「Merchant's Grill」にて
 ココナッツチキンのサラダ
 ビーフサンドイッチ
 ジンジャーエール

超時差ボケという感じの私たち(主に私と息子)。午後4時頃(日本時間だと午前6時)になると、まるで徹夜明けの頭のようにボーッとしてくる。ここで寝ちゃいけない、寝たらまた治らない……と思いつつ、なのに息子と一緒にお昼寝。
目覚めてから「ドライブがてら……」とあてもなく夕食地を探しがてら車に乗ってうろうろしてみた。

日本は右ハンドルだけど、アメリカでは当然左ハンドル。前任の人から引き継いだ車を運転し始めてからだんなは
「うぉー、感覚が違うー」
「うぉー、つい逆走しそうにー!」(←やめてくれ……)
と今日ずっと緊張しまくっていたけど、ついにこの時、本日二度目の「路肩乗り上げ」をやってしまい、その衝撃で右前輪がパンクしてしまった。街で一番の繁華街に出てきて、ちょっと折り返そうと裏通りに入ったところで突如車がベコンベコンに。そのまま「く、車屋さんに向かおうか……」とべこべこのまま走り出そうとしたところ、道路の向こう側からおっちゃんが「ストーップ!ストーップ!」と言って走り寄ってきた。おっちゃんの言葉は若干南部訛も入っているようで、ほっとんどわからない。わからないけど、どうやら
「俺が直してやるよ。スペアタイヤとジャッキはどこだ?とにかくノープロブレムだ」
と言っているようだ。長い栗色の髪を後ろで束ねた髭面の恰幅の良いおっちゃん。ジーンズは油焼けしているような色のかすれ具合で、どうも機械関係の仕事に携わっている様子。

「ま、とにかくノープロブレムだよ」
と言いながら(多分)、彼は10分足らずでパンクしたタイヤを交換してくれた。こういうこと、ドライバーとしては普通にできなきゃいけないのかもしれないけど、日本でもろくに運転したことがなかっただんなも、免許すら持っていない私も、全く頭が真っ白になっていた。もう、おっちゃんには感謝感謝だ。私の中ではアルバートおじさんよりもカッコよく見えた。

こちらの人たちは、基本的に親切だ。さっきも「手伝いましょうかー?」とわらわら人が寄ってきて、
「駐車するスペース、俺たちここ空けるから使いなよ」
とか、
「人手は足りてるかい?」
とか、もう頭真っ白になっている私たちには有り難い言葉だらけだ。その言おうとしている意味は把握できるけど、お礼とか状況説明とか、そういうことが英語でほとんど伝えられない自分が悔しい。英語、がんばらなきゃ……(南部訛の聞きとりも……)。

そうこうしていて、すっかり時間は8時を過ぎてしまった。ナッシュビルという街は、カントリー・ミュージックの聖地であるらしい。音楽関係の諸々の由来がある場所は店も多く、お好きな人にはたまらないところなのだとか。繁華街の目抜き通りに面した店は、この時間ほとんどがライブハウスになっていた。古めかしい煉瓦造りの店の奥には、やけに近代的なビルもニョキニョキ生えている。ギリシャ風の教会建築も多く存在していてちょっと不思議な光景だ。

ぷらぷらしながら「子供もいるし、音楽やってる店は、まだヤバイかなー」と、「Merchant's Grill」なるお店に突入。4人がけの向かい合わせのベンチ席とか、高い天井からぶら下がるオレンジ色のライトとか、茶褐色の空間がいかにも「昔っからやってるんです」みたいな雰囲気の店だ。
空腹なので、ついつい「ココナッツチキンのサラダ」と「ビーフサンドイッチ」を注文、だんなは「本日のスープ」と「チーズハンバーガー」を。きっとたっぷりの量が来るんだろうなと覚悟はしていたけど、「残したらドギーバッグ(←テイクアウト用の袋とかプラケース。どこの店にもたいていある)に入れてもらって持って帰って食べましょう」と、軽く見ていた。軽く見すぎていた。

まず、サラダ。レタス山盛りドーン!刻みトマトと刻みチーズをうりゃー!一口大の、ココナッツまぶし揚げ鶏がひとつかみ分ほど、ちょえー!そしてハニーマスタードベースのドレッシングが別添で、たっぷりと。もうこれだけで、少食のおねぇさんなら腹一杯です、という感じの量だ。我が家で最も大きいサイズの皿に盛りつけたようなそのサラダ、別に大味ということもなく、表面がカリッと揚がった鳥肉は噛みごたえと味があってかなりいけるし、ほんのり甘いドレッシングもチーズやトマトによく似合っていた。だんなのスープは、これまたたっぷりの、トマトのスープ。スパイスの香りが効いている。

で、これでもかとフライドポテトが盛りつけられてやってきた、サンドイッチ。長さ25cmほどのコッペパン型のパンを両断して、その間にはパンの厚さの3倍くらいのボリュームがある薄切り牛肉のソテーがこれでもかこれでもかとぎゅうぎゅう詰まっている。サンドイッチのくせに、その肉の量は300gくらい入ってますか?くらいな程。とろけたチーズがはさまっていて、ホースラディッシュ味のクリームと、肉汁と醤油がベースになったようなソースが器に入れられてついてきた。山盛りポテトには当然ケチャップ。見ると、だんなのチーズハンバーガーも、「マクドナルドの当社比3倍」くらいの円周がある。中のハンバーグも両手に入るかな?くらいの大きさ。トマトやレタスもたっぷりと。

「……いや、でかいだろーなとは思っていたけど……」
「こんなにでかいとは……」
と、息子用にフライドポテトを別注文したことを全力で後悔しつつ(多少のポテトは食べたかったので別注文したけど、私たちの皿のポテトも強大なら、息子のポテトは超強大という感じで……)、「ま、食べられるだけ食べよう。あとは持って帰って朝御飯だ」と取り組みはじめた。

肉汁たっぷりの牛肉はほのかにスパイスが効いていて、ホースラディッシュ味のクリームと、ソースと、両方シャバシャバとつけて食べると、とても良い感じ。……でも、サンドイッチ喰ってるというよりは「焼き肉のパン添え」喰ってる気分が頭から離れない。これは、肉だ。肉料理だ。サンドイッチじゃなく。

それでも、どれもこれも美味しかった。ポテトも、生のジャガイモを皮付きのまま太めのスティックにガーッと切ってガーッと揚げて揚げたて持ってきました、というホクホクポクポクしたアツアツのもの。とりあえず、今まで食べた中で一番美味しいフライドポテトがここにあった。全米にはあちこちにこういうポテトが転がっているのかもしれないけど、この太さとか揚がり具合とか、このゴージャスな盛りつけとかは私たちには初めてだった。

ゆっくり食事して、午後9時半に店を出た。当然、ポテトは(私のビーフサンドイッチも半分……)食べきれなかった。
「ド、ドギーバッグ、ください……」
と申し出たら、
「デザートいかがですか?」
とウェイトレスさんに微笑まれた。
い、いや、喰えません……さすがに……。

7/19 (金)
夕飯は軽めにタコス (夕御飯)
昨夜のテイクアウトものの残り
 ビーフサンドイッチ
 山盛りポテト
ゆで卵
グレープフルーツジュース
ミルクティー

今朝は、だんなも私も午前5時半起床。時差ボケは治ったような……治ってないような。朝早くすっきり目覚めるのは、1日を有意義に過ごすという意味では良いかもしれないけど、夕方まで持たないのがつらいところだ。息子は8時まで見事に熟睡してくれて、最初に時差ボケから脱出したのは息子ということになりそうだ。

ホテルのテーブルには、昨夜レストランから持ち帰ってきた巨大なビーフサンドイッチと大量のフライドポテト(どのくらい大量かというと、日本で買う冷凍ポテトを揚げたもの1.5袋分くらい)がプラスチック容器に入って置かれている。
「これを、喰いましょー!」
とロビーから毎朝のサービスであるコーヒー紅茶やジュース類、少しのパンとゆで卵などを部屋に持ってきて、あれこれ飲みながら、朝からヘビィなサンドイッチを囓る。昨日も"でっかいなー"と思ったサンドイッチは、今朝もやっぱりでかかった。温かいうちは溶けていたチーズが固まって、端から垂れかけたまま固まっている。ロビーの電子レンジでチンしてきて、食べると、充分美味しかった。だんなが「まいうー」とか言いながらそれを囓ってなかなか離さない。

「まいう?」
「まいう?……まいうー!」
と、夫婦してホテルの部屋でパパイヤ鈴木とホンジャマカ石塚ごっこ。翌朝でも旨いサンドイッチ。すばらしい。
一度は決めかけた住みかだけど、今朝になって「もしかしたら、ちょっと高くてもすっごく良いところもあるんじゃないか」と思い直し、『Apartment Finder』(スーパーなどに置かれている無料情報誌)などをめくりつつ
「ここが職場に近いぞ」
「こっちのプールはでっかいぞ!」(こっちのアパートには大体プールがついている。ていうか、一戸建てに普通にプールがついている……)
などとリサーチ開始。特にこれという好みはないけど、自分たちにしっくりくる家が見つかるといいなぁ。

大学オフィスにてA教授のお誕生日会
 アメリカンロール(ターキー巻き・ローストビーフ巻き、などなど)
 ポテトチップス・アメリカンチェリー
 バタークリームコーティングのチョコレートケーキ
 ワイン、レモネード

今日は午前中ずっと部屋探し。
「このへんがお勧めのエリアよ。治安も良いし、通学まですぐだし」
と言われたエリアをぐるぐる回って「ここ、"FOR RENT"と書いてある!」というマンションを見て歩く。結局は、だんなと親しいIさんと同じマンション(というか団地というか……)に空きがあり、めちゃめちゃ安かったのでここに住むことに決定した。1ベッドルーム1バスの部屋が1月$525。周囲には$700だの$1200だのの部屋がごろごろしているので、ものすごく格安だ。広いというほど広くはないけど角部屋ですぐそばには住民が使える小型のプールもあり、木もいっぱいで良い感じ。明日は1日、お引っ越しだ。

だんなが1年お世話になるA先生は今年61歳。今日は先生の誕生日。
「12時からオフィスで小さなお誕生日会をするので、皆さんで来て下さいね」
とスタッフのMさんからお誘いいただいていて、昼は急ぎオフィスに向かうことになった。

A教授は、なんでもものすごくエライ人なのであるらしい。子供が好きで面倒見がよくユーモアもあり、「どのくらいエライ人なのか」を全く知らない私や息子にとっては「アメリカ人の優しいおっちゃん」という感じではある。
「ハーイ、ノゾムさーん、今日もお元気ですかー?」
と流暢な日本語でオフィスに来る私たちを出迎え、すごく立派な執務室で息子を膝に乗せて電話したりしているのであった。まだまだ「おっさん、おっさん」とツッコミを入れるには恐れ多い人だ。

で、今年集まる留学生たちが家族も込みで集まって、総勢10数人の小さなパーティーを開いた。オフィスのロビーにテーブル出して、ケータリングサービスの料理を並べて紙皿と紙コップに、ワイン。
タコスの皮状のものにあれこれの具を巻いたものが各種類、たっぷりと皿に並べられている。ポテトチップに、美味しそうなアメリカンチェリー。ロールの中身は鴨だったりチキンだったりビーフだったり、それが大量のレタスやトマトやアボガドやきのこなどと共に巻かれていて、そのロールの大きさときたら直径10cmはありそうな感じ。一見野菜たっぷりでいくらでも食べられそうだけど、私もだんなも2ロール食べて腹一杯、というヘビィなシロモノだった。でも美味しい。

ロゼワインで乾杯して、白ワインを飲みつつ1/2ガロンの巨大パックのレモネードも飲みつつ、チキンやローストビーフの巻かれたロールサンドをたっぷり食べて、そして最後にケーキが登場。

薄黄色のクリームでコーティングされたケーキは、いかにも「バタークリームでございます」という外見。「Happy Birthday」と描かれたそのクリームの色は、目の覚めるような青色だった。周囲にも、その"まっつぁお"な色のクリームが綺麗にデコレーションされている。スプレーチョコが彩りよく散らされていて、いかにも甘そうだった。

歌を歌って、その四角いケーキをざくざく切って、皆で食べる。
甘い。
容赦なく甘い。
ものごっつぅ、甘い。

中身はふわふわのチョコレートケーキで、これは苦さ強めの甘さ控えめな良い感じなもの。でも、その周囲のバタークリームときたら、「砂糖を溶けるだけ溶かしました」みたいな頭の痛くなる甘さの上、「生クリームというよりバターそのものです」というくらい油っこい味。青い部分は、一度舐めたら唇も舌も美しく青色に染まってしまうものだった。皆で青い唇に変色させつつ、「甘〜い」「こ、これがアメリカのケーキかっ……!」を苦笑しながらいただいた。甘党の私も1切れがやっとだったし、甘いものが苦手な男性たちはせっせとクリームを除去して食べていた。子供たちは、口の回りを青く染めながら喜んで食べている。

アメリカのケーキの洗礼もうけて、最後には残ったアメリカンチェリーを持ってホテルの部屋へ。
その後、だんなは一人、昨日パンクした車の修理工場やら、新居の電気申し込みや電話申し込みに一人奔走してくれた。私は息子と一緒に昼寝。すまん、だんな……。(でも、明日新居ですぐ使えるようにお掃除道具一式とかトイレットペーパーとかは買ってきたのよ)

「タコベル」の
 タコスいろいろ
アメリカンチェリー
ビール

夕方疲れ切って、親子全員で爆睡。目が覚めると7時を回っていた。午後はほとんど動かずにいたようなものだったので、全然腹も減らない。
「ちょっと軽めにしておこうよ」
と、だんながテイクアウトものを探しに一人車に乗って出かけて行った。私と息子は2人で近所のドラッグストアにビールを求めに行く。

「日本人は童顔だから、アルコール購入の際はすぐにIDを求められるよ」
と言われたからちゃんとパスポートを持っていったのに、余裕で顔パスでビールが買えたことに軽いショックを覚えつつ、数分後、ホテルの部屋に
「結局タコスにしたよー」
と「タコベル」の袋を持っただんなが帰ってきた。アメリカのタコスファーストフード一大チェーンが「タコベル」らしい。どこにでもあってそこそこ美味しいらしいので、いつか食べに行こうと思っていた店だった。「言葉が全然通じなくて」と疲れた顔でだんなが買ってきたのは、ソフトシェルのステーキとチキン。ハードシェルのごくごく普通のもの。レタスやトマト、チェダーチーズが美しく詰められたそれは、日本の我が家で食べるものとそう違わない味がして、
「おお、タコスはやっぱりこんな味なのか」
と妙に感動した。
いつかは行こうと思っているメキシコ。お腹いっぱい美味しいタコスを食べたいぞ。

夜、息子に聞いてみた。
「今日、何が美味しかった?」

大学のパーティーの余りを持ち帰ってきたアメリカンチェリーを頬張りながら息子曰く、
「さくらんのだんご(←さくらんぼの事らしい)とねー、ケーキ!」。
即答だった。チェリーはともかく、あのケーキが息子の心にはかなりヒットしたらしい。
母はちょっと行き先不安だったりした。(だって、あのケーキの味になれたら微細な甘さの美味しさなんか感じなくなっちゃいそうでちょっとだけ怖い)

7/20 (土)
Golden Dragon(Nashville)にて、初めてのアメリカ寿司……(夕御飯)
ホテルの朝食サービスの
 オレンジジュース
 カフェオレ
 バナナとくるみのカップケーキ
 はちみつがけトースト
 ゆで卵
 いちごのヨーグルト

朝5時。ふっと目が覚めてしまって「ん〜?」と周囲を見渡すと、真横の息子がキラキラと目を輝かせて起きていた。両目に「充電完了」という文字が見える。
「あっ……目が合ったらヤバイ」
と慌ててもう一度寝たフリをしようとしたのだけど、時すでに遅かったようで、にこにこと
「おかーさん、おはよー」
とにじり寄ってくる。朝一番の恐怖体験、という感じ。私はまだまだ寝たいのにー。
必死で目を閉じ続けているのに、息子は「こいつは起きている」と確信したらしく人の鼻の頭を猛烈に連打したあと、
「せんがんしまーす」
と頬をぐりぐりなで始めた。……やめてください、洗顔しないでください……。

まだ寝ているだんなを起こしてしまうのも悪いので、6時を過ぎてから仕方なしに息子と一緒に起きてホテルの朝食を摂りに行った。オレンジジュースを一気のみして、あとはパンと卵とカフェオレ。
ジュースやコーヒー紅茶が宿泊客に無料でサービスされる小さな朝食コーナーは、この数日間、とても有り難かった。部屋に持ち帰って飲み食いできるのも嬉しかった。……でも、牛乳がローファットかスキムミルクしかないのがちょっと不満。「2%」なんて表示のついている牛乳じゃなく、ちゃんとした3.6牛乳が飲みたい。見ると、ヨーグルトも無脂肪のものだったりして、どうもアメリカ人は乳脂肪分を忌避したがっているように感じられるのだった。

そ、そんな牛乳一杯とかヨーグルト1個とかの乳脂肪分を気にする前に、ベーグルにバターと蜂蜜両方かけて、クソ甘くしたコーヒーと一緒に、ついでにシュガーコーティングされたドーナツを囓る(←見事な体格のおっちゃんがそういう朝食だった……)、とかそういうことを止めればいいのに……と思わなくもない。アメリカ人の感じる"健康"の基準、未だちょっとわからず。

Nashville 「American Cafe」にて
 Stuffed Shrimps
 ジンジャーエール

今日はいよいよお引っ越し。日本から持ってきた2つの巨大段ボールとスーツケースの荷物を車に詰め込み、昨日買っておいたお掃除セットを手にして、いざいざ1年間の仮住まいとなるマンションへ向かう。

「こういうところでは"お隣さんにご挨拶"とかしなくて良いのだろうか」
と思っていたところ、そのお隣さんが外に出てきた隙に息子が笑顔で交流している。向かいの棟の美人のおねぇさんにも近寄っていって「こんにちはー」とか言っているし。
で、この機に乗じて私たちも出ていって、ご挨拶。隣の隣に住んでいる男性も出てきて、奥さんも連れてきてくれた。アメリカ人のジョディーさんと、オーストラリア人のパメラさん。
「あなたは和食、作れる?私、"カツドン"好きなのよー」
とかおっしゃっていた。これから楽しく交流できると良いと思う。日本人の友達よりせっかくならこっちの友達を作って帰りたいし。

ダブルベッドとかダイニングセットとか、小さな棚とか、最低限のものは引き継がれてきているけど、ベッドリネンも消耗品も何もまだ揃っていないのである。適当に片づけたところで
「シャンプーも洗剤も買って来なきゃ」
「バスタオルも何もないや……」
と、「まずは買い物だな」という結論に落ち着いた。

まず向かってみたところは「Green Hills」モールというところ。ウィリアムソノマのキッチンツール屋とか、Gapとか、諸々の専門店が詰まっているところだ。「生活必需品」はなく、そのくせ魅惑的なものがあれこれとあって、キッチンツールショップに、はまる。
「うぉっ、パスタメーカーのオプションがいっぱいあるっしかも安いっ」
「これっ、このカフェオレボウルは丼ものに使えそうだっ」
などと大変に盛り上がり、ついでに隣接したデパートで安売りしていたバスタオルやらベッドリネンやらを購入して、車のトランクがいっぱいになるほどの買い物になった。

昼御飯は、モール内の「American Cafe」なるところで。店頭に置かれていたメニューのスパゲッティに引き寄せられてしまったためだ。だんなはにんにく風味のクリームソースフェットチーネのチキン乗せ(追加料金を払うと具のトッピングをしてくれるらしい)、私は「Stuffed Shrimps」なる名前の、海老に魚介のミンチをくっつけたものが添えられたピラフを注文してみた。

今のところ、アメリカに来て「これは全く口に合わない」というものとは巡り会っていない私たち。このお昼ご飯も予想に反して(?)なかなかけっこう美味しかった。蟹やら貝やらの味がするピラフの上には香ばしいゴロリとした詰め物された海老。全体的ににんにくの風味が漂い、そして脇には山盛りのイタリアンパセリと、茎ごと茹でられた巨大な巨大なブロッコリーが半株分、どさっと乗っている。緑黄色野菜は何だか久しぶりな気がして、これがまた嬉しかった。「茎も食べるんだよなぁ。食べられるんだもんなぁ」と思ってブロッコリー完食を目指したけど、これは筋だらけでちょっと生っぽくて断念したけれど。

すっかり満腹になってよろよろしながら家に帰り、今度は
「生活必需品じゃー」
と「TARGET」なる大型雑貨屋に向かう。時間はもう4時。今日中に買い物は終わるのだろうか……。

Nashville 「Gorden Dragon」にて
 ディナーブッフェ(ズワイガニ食べ放題)
 コロナビール

初めて行った大型マーケット「TARGET」は、日本で行った「カルフール」とか「コストコ」とかと良く似た、1階だけの売場にどえぇぇぇぇと服から雑貨からおもちゃまで売っている店だった。大人一人が余裕で入れそうな巨大なカート2つ分に山のような買い物をする。鶏の丸焼きを作る専用の電動のグリルとか、1ガロン(=約3.8リットル)入ってる巨大なファブリーズだとか、15ロール入ってお買い得!なキッチンペーパーとか、私がもってきた基準と5倍くらい違うようなブツをいろいろ買ってきた。もう一生かかっても使い切れないように見えるキッチンペーパーがバスルームの収納コーナーに詰められることになった。ちょっと壮観。

「TARGET」で買い物を終えると、もう既に8時になろうとしていた。隣接した専門店街には「弁慶」という名の日本料理屋&食材屋があり、ちょっと覗いてみたものの店は満席。食材屋にはカルピスとかふりかけとかカレールーとか、数ヶ月したら郷愁をそそられるであろうブツがたっぷり売られていて、思わず私たちも郷愁にかられて麦茶パックとか買ってみた。英語のラベルが貼られた日本メーカーの味醂や酢も売っている。これで和食は余裕で作れそうだ。

そして夕飯は「弁慶」は諦めて、向かいの「Golden Dragon」なる中華料理店に行ってみることに。単品料理もやっているけど昼夜共にブッフェもやっていて、$15ほどのブッフェではズワイガニが食べ放題、らしい。しかも「Today's Special!」と書かれたコーナーには「SUSHI」と書いてある。「こっちの中華と寿司とはどんなもんぞや?」と興味津々、ブッフェ料理。

値段は高めだけど、料理の種類はものすごかった。味の程は…………だったけど。
ズワイガニは、塩水で茹でただけ、みたいなやつだった。ちょっと中身もカスカス。だけど食べる部分によっては中身も詰まっているし、どっちみち食べ放題なのでバリバリやらせていただくことに。
そして、「何が詰まってるんだろう」と不安になってしまうような「SUSHI」。話には聞いていたけど、「海苔の黒いのがアメリカンには嫌われるから」という理由らしく、海苔巻きの海苔は内側になり、外側にご飯が露出している。巻かれているのは蟹とかアボガドとか、キュウリっぽいものだとか。一応寿司酢の味がするような気もするけど、どうも寿司を食べている気分がしない。郷愁に駆られて食べてしまったら、ますます郷愁が募っちゃいそうな味だった。

回鍋肉は、醤油と味噌の味がするそこそこのものだった。細長い米のチャーハンもそこそこ香ばしくて良い感じ。焼きそばとか、八宝菜とか、なんとなく中華っぽいものが並んでいる。
でも、焼き餃子だけは「あなた絶対、なんか餃子を勘違いしている」と調理人に訴えたくなるようなものだった。皮は「これは肉まんじゃないんだから」というくらい分厚くモチモチしたもので、皮の重量20g、中身5g、そんな感じのもの。分厚い皮の、水餃子にするようなものも中華にはあるけれど、それにしては皮はパンのようだし、なんかちょっと違うような気がした。

デザートにはセルフサービスでにょろにょろできるソフトクリームを。
今日は渡米後、一番疲れた一日だった……そしてまだ部屋は全然少しも片づかない……。

7/21 (日)
初めての自炊はTボーンステーキ (夕御飯)
「SUBWAY」にて
 ターキーブレストハムサンド
 ミニッツメイド

昨日は昼寝する暇もなく動き回り、夜、布団に入ったらすぐに全員が落ちた。今朝は今朝で、全員8時前まで爆睡し、そうしてどうやら時差ボケは去った模様。眠いのに何故か5時に目が覚めてしまう生活からやっと解放された。

今朝も起きるなり部屋の片づけをし、気が付いたら10時過ぎ。
「腹へったー」
「でも、パンも何も買ってない〜」
「……生鮮食料品を買いに行こう」
「行ったついでにその周辺で飯屋を探そう」
と、DIYショップと雑貨屋(そこに近年食料品部門もオープンしたらしい)から成るモールへ高速道路かっとばして行ってみた。

モール内に「SUBWAY」があったので、朝飯はそこで。確か日本では4インチと6インチというサイズがあったと思うけど、ここでは最小が6インチ。次はその倍のサイズになっている。セットのドリンクは、巨大な紙コップを渡され、それをセルフコーナーで好みのドリンクをじゃばじゃばと注ぐようになっている。このコップがこれまたでかい。

「アメリカのソフトドリンクは全部巨大だよ」
と聞いていたけど、ほんとうにそうだったのかとここ数日実感しっぱなしだ。気温も湿度も日本とそう変わらないように思うこの土地だけど、やっぱり乾燥しているのか、やたらと喉が乾く。脂肪分と塩分過多の食事内容の所為のような気もしないではないけど、そうして乾いた喉に炭酸飲料を入れると、これがいくらでも飲めちゃうのだった。日本のLサイズドリンクよりも量があるんじゃないかというミニッツメイドがSUBWAYのサンドと共に一瞬で消えてしまう。ああ、おそろしい。

生野菜に飢えていた気分だったので、これでもかと野菜が挟まるサンドはちょっと幸せだった。

マーケットで買ってきた
 チキンウィング
 蟹サラダ
レモネード

おそろしく天井が高いDIYショップで天井まで積み上がる商品に圧倒されつつ、シャワーヘッド(家についているのが気にくわないので自分で工事する)とか、組立家具を購入し、続いて雑貨屋&食材屋で1ガロンのジュースや数百種類はある冷凍食品の山に感動しつつお買物。魚介がほとんどまったく売場になかった(魚は冷凍の切り身が1種類、あとは海老と蟹ばかり……)のが残念だったけど、旨そうな野菜も果物もたっぷりで、満喫したお買物ができた。

不思議だったのは、バターや生クリームの種類がほとんどないこと。おいてある量もすごく少ない。アイスクリームの種類もマーガリンの種類も呆れるほどあるくせに、どういうわけかバターや生クリーム(冷凍されたホイップクリームはある)の類は棚にほとんど並んでいない。思い起こすとホテルで出てきた牛乳はノンファットか低脂肪かのどっちかで、どうもこの国の人々は乳脂肪分を極端に忌避している感じ。「普通の牛乳」すらあまり見あたらず、脂肪分が調整されているかビタミンが入っているか、でなきゃ「Butter Milk」(バターミルク……なんなんだそれは、一体)などと書いてある怪しいものばかりで、ごく普通の牛乳を探すのにちょっと苦労するほどなのだった。乳製品をこよなく愛する私たちには、これはかなり悲しいことだ。
そんな、乳脂肪分の摂取を気にする前に、肉ばっか喰って炭酸飲料飲むの止めろよアメリカン……と内心思ってしまったり。

お総菜コーナーには揚げたての鶏手羽肉なんか売られていたりして、家で軽くつまもうと、それを買って帰宅した。何しろ朝御飯は朝11時近く、夜には「今日はステーキ!」と巨大肉を購入してしまったものだから、昼飯といってもおやつみたいなものしか食べようが無かったりしたのであった。

カリカリの衣がついた揚げ鶏を囓りつつ、同じ売場で売られていた蟹のサラダもつつく。甘ったるいマヨネーズの味ばかりがする蟹のサラダはいかにもな大味で、笑っちゃうようなものだったけど、チキンはすごく美味しかった。

Tボーンステーキ
マッシュポテト・バターにんじん・茹でとうもろこし
キャンベルのマッシュルームクリームスープ
ご飯
ビール(コロナ)

部屋の片づけも佳境に入り、午後6時。やっと全てのものが綺麗に片づいた。
家具は全然揃ってないけど(ダイニングテーブルセットなどを譲り受けることになっているけど、現在の置き場所から我が家まではトラックか何かがなきゃ持ってこられそうにない)、とりあえず散らかっているものは何もない状態になって一安心。野菜や肉も買ってきたことだし、昨日に日本食材屋でカリフォルニア米も買ってきてあったりして、今日はアメリカに来て初めての自炊。

この家の調理器はガスじゃなく電気。電磁調理器みたいなご立派なやつじゃなく、蚊取り線香みたいな形の電熱線が渦を巻いていて真っ赤になるタイプの古いやつだ。想像していたよりは高熱になるけど、弱火や中火なんかの微細な調節はかなり難しい。ていうか無理。「米は吹きこぼれるまで強火で、あとはすぐに弱火にしましょう」なんて絶対無理、という感じだった。でも、頑張る。

日本から持ってきたスキレット(鉄製のすごく重い鍋)をガンガン温め、1切れで700gくらいあったTボーン肉をガーッと焼く。火の加減がわからずに苦心しながらなんとか茹でとうもろこしとマッシュポテトと茹でにんじんのバター和えを作り、現在我が家で一番巨大な大皿にあたる皿に全てを盛りつけた。肉が皿からはみだしそうだ。
そして、今日買ってきて冷蔵庫で冷やしておいたコロナビールにライムの櫛切りを押し込み、家族で乾杯。

スープは、
「アメリカ人らしさを演出……」
などと言いつつキャンベルの缶詰。同量の水でのばして温めるだけのマッシュルーム味のクリームスープだ。
その横でだんなは、
「でも日本人の誇りを忘れずに……」
と言いつつ米を研いでいた。ステーキとスープと、そしてご飯という「やっぱり日本人なのね」という食卓に。

肉、めっちゃめちゃ美味しかった。アメリカに来てから
「きょ、今日こそはステーキ屋に行くのよ」
と言いつつ、疲れていたりお腹がすいていなかったりで全然ステーキ屋に行けていなかったのだ。初めてのステーキが自炊でというのも我が家らしかったかもしれないけど、柔らかくも硬くもない適度な食感の肉は肉汁たっぷりで食べ応えがあって、しみじみ「肉喰ってます」という気分にさせてくれた。野菜にもちゃんと火が通っていて、なんとか成功。更にカルフォルニア米はちょっとばかり物足りない味ではあったけど、ちゃんと「ご飯」に炊けてくれた。電熱調理器の上で日本から持って行った羽釜(そう、こんなものまで持っていったのだ……)は頑張ってくれた。沸騰するまでにちょっと時間はかかったけど、遜色なくちゃんと炊きあがった。これなら炊き込み御飯とかも作れそうだ。

マーケットの売場で、パンコーナーに圧倒されつつ(だって36枚入りだの30個入りだのというパンの袋が様々なメーカー別に50mほどある1つの売場を占領しているのだ)買ってきたイングリッシュマフィンと、肉コーナーでカットしてもらったボローニャソーセージが明日の朝御飯。卵も買ってきた。……でも、トーストしようにも、オーブンは巨大すぎる電気オーブンしかないんだなぁ。これで焼くのかなぁ。どきどき。