食欲魔人日記 05年04月 第1週
4月1日 金曜日
中華定食屋さんで、炒め物やけ食い。そして火傷。
「アンデルセン」の
 くるみデニッシュ
牛乳 with ミルメーク(ココア味)
今日から4月。昨日日付が代わる頃に帰ってきたというのに、だんなは早起きしてジムに出かけていった。がんばりやさん。

私も7時ちょっと前には起きて、洗濯機まわしてゴミをまとめて捨てに行ってから軽く掃除の後、お仕事開始。今日は「月初め合わせ」の仕事がいくつか重なっていたので「うりゃあぁぁぁぁ」とモニター見つめてマウスカチカチカチカチやっていたら、起きてきた息子が世にも悲しそうな顔で
「おかあさん……あさごはんは?」
と聞いてきた。おお、もう9時半だ。

朝御飯は、昨日買ってきた「アンデルセン」のパン。息子はいちごのデニッシュ、私はくるみのデニッシュ。
「ミルメーク飲もうか。……私ココアね」
「ぼくも、ココアー」
「やーい、息子、真似っこじゃん」
「ちがうよ、おかあさんが真似っこなんだよ」
軽口たたきながらも、息子はミルメークをコップに入れてくれるし牛乳注いでくれるしかき混ぜ用のスプーンもちゃんと用意してくれるし、何かとお手伝いをしてくれる。

くるみがトッピングされ、デニッシュの中に詰められたクリームも刻んだくるみがざくざく入ったくるみのデニッシュ。表面に甘いシロップのコーティングがされていて、しっかりどっしり甘いデニッシュらしいデニッシュだった。
んで、お仕事続行〜。午後には息子の音楽教室もあるし。

2日目のほうれん草カレー
チキンクリームスープ
アイスティー
さらさらっと済ませた昼御飯は、昨夜のカレーと昨夜のスープ。しっとりと味が馴染んだ2日目のカレーは、でも昼間に見てもほんのり怪しい色彩(ほうれん草と生クリームが入ってるカレーだからね……)。スープもちょうど2杯分ほど残っていたのでそれも温めてテーブルに出した。

「……お昼御飯食べたら、ピアノ練習しなきゃね、昨日やろうって言って結局できなかったし」
「こんどは、"たのしいおどり"れんしゅうするんだよね」
「そうそう」
そんな事話しながら、熱い御飯に熱く温めたカレーかけちゃって「……あ、御飯冷たいままでも良かったんじゃん」と思いつつハフハフしながらカレーを食べる。私も息子も猫舌だから食べるのに時間かかっちゃってのんびりしたランチタイムになってしまった。

午後は息子のピアノの練習に付き添いつつ、ついでに私も久しぶりにピアノに触って「オペラ座の怪人」の曲などを1時間くらい。昔々の大昔はもうちょっとましにあれこれ弾けていたはずなのだけれどすっかり指もなまっちゃって、息子にやらせる前にまず私がちゃんと弾けるようになりたいところだなと思い知った。昔から「いつか弾けるようになりたい」と思っている曲が3つあって、「ラプソディ・イン・ブルー」(ガーシュウィン)も「メフィストワルツ」(リスト)も「グラナダの夕べ」(ドビュッシー)もどれもめちゃめちゃ難しい。この10年くらい、その憧れの曲に近づくどころか遠ざかる一方で、最近『のだめカンタービレ』にハマッたばかりということもあって、私はピアノが触りたくてちょっとうずうず。……ハノンからやりなおそうかな……。

稲毛 「太閤園」にて
 なす野菜炒め定食
 餃子
音楽教室に行ってあれこれお買い物して、帰宅すると6時。
「だんなは、今日は帰ってこられるのかな?遅いのかな?」
と、確認のメールを投げつつ、お米を3合研いで夕食の準備をぼちぼちしながら待っていた。今日の夕飯予定はちらし寿司。ちらし寿司の素で作る、あのちょっと甘い味つけのちらし寿司が恋しくて恋しくて、「すし太郎」買って海老やマグロやでんぶも揃えた。

「おとうさん、おそいね」
「んー……メールの返事も来ないね」
じりじりと待っていたら、
「今日は飲み会だよ。言ってなかった?」
というメールが。全然聞いてマセーン!

だんなが帰ってくる時には、帰宅時間にぴたっと合わせて熱い料理は熱く出せるように、冷たいのはちゃんと冷たい状態になるように料理を準備することにしている。お米もちゃんと蒸らし時間が終わる頃にだんなの帰宅が合うように炊いているので、だからお約束として「帰る時には電話ちょうだいね。いらない時は早めに連絡してね」ということになっている。今日はなんにも言われてなかったから、ちゃんと色々用意したのにームキー。仕事が大変というならそれはしょうがないねと思えるけれど、「飲み会」だなんて激しく納得いかない。

「あー、もう、料理やめやめ。お腹空いたし外に食べに行っちゃおう」
「……ちょうしまるとか?」
「……それはこないだ行ったばっかじゃん……他のとこ……」
「じゃあね、たいこうえんとか?」
「うん、太閤園はいいね、そこ行こう」
「ぼくね、ラーメン!」
「チャーハンじゃなくて?」
「ラーメン!」

ぷんぷんしながら、息子と2人家を出る。
「おとうさん、帰ってくるといいのにねー」
「飲み会なんだってさー」
「おとうさん、のみかい、いっぱいあるよねぇー」
「うん、多いよね飲み会」
「おしごとしてるとー、きっと、のどがかわいちゃうんだね」
「……う、うん、そうなのかもね……」

息子のその言葉にすっかり毒気を抜かれてしまい、まぁいっかーという気分でお気に入りの中華定食屋さん「太閤園(たいこうえん)」に。白髪のおっちゃん一人で鍋をふるっている小さなお店で、昼も夜も大盛況。大行列になることはないけれど、常に席の8割以上が埋まっているお店だ。この店にくるのはランチタイムが圧倒的に多いのだけれど、夜にも続々と、「餃子3皿、持ち帰りでー」なんてお客さんとか、仕事帰りのサラリーマンなんかが続々とやってくる。幸い、4人テーブルの1つが2人分空いていたので(この店は相席あたりまえ)、そこに息子と並んで座った。息子はラーメン、私はいつもの「なす野菜」、そして餃子も1皿。

いつも通りの、醤油と酒ベースの甘じょっぱい油テラテラ炒め物の定食を、舌火傷しながらいただいてきた。よーく知ってる味の調味料だけを使っているようでいて、再現しようと思ってもできそうにない絶妙な味の炒め物で、味の魅力のひとつが「大量に使われた油」。キャベツも白菜も人参も茄子も肉も、全ての食材の表面厚さ0.5mmくらいにまとわりついているんじゃないかという油の膜は不思議にベトつかず、調味料と一体になって口の中に入ってくる。胃にもたれることはないけれど当然ながら腹持ちは抜群。大盛りチャーハンなんか頼んだ日にはその後6時間は満腹状態が続いてしまう。

で、「親子2人で餃子1皿は余計だったかな」と思ったけれどそれは不要な心配で、
「ぎょうざ、6個なんだね。じゃあ、ぼくが3個で、おかあさんが3個だよ」
と言った息子は、その言葉通り餃子を3個食べ、1人前の醤油ラーメンを全て1人で平らげた。「……多くない?だいじょぶ?」とメンマ1かけもらおうとしたら「なんでぼくのラーメンとるの?」と睨まれた。麺もチャーシューもメンマも葱も全て完食、どんぶりの中には少しのスープが残っただけで、息子は今日もよく食べた。

4月2日 土曜日
ひさーしぶりの、ちらし寿司
「ミスタードーナツ」にて
 六実デリサンド(ツナマヨベジ)
 ゴールデンチョコレート
 アイスチョコラテ
「奥ちゃん奥ちゃん、朝御飯にナイスアイディーア」
昨夜はべろんべろんになって午前1時半に帰ってきただんな、午前9時過ぎに起きてひとっ風呂浴びた後、私と息子をミスタードーナツにいざなうのであった。
「ほら、今、600円食べると復刻マグカップもらえるからさ」
あれだけ昨夜お酒飲んできたというのに、翌朝に甘いドーナツ食べようというその心意気、誠にあっぱれ。私と息子に異論のあるはずもなく、にょろ〜と着替えてにょろ〜とお出かけした。

私は新発売の「六実デリサンド」のツナマヨベジと、好物のゴールデンチョコレート(オールドファッションタイプのチョコ生地ドーナツの表面にバタークランチ)。「六実デリサンド」は「生地にクルミ・ひまわりの種・ライ麦・ハト麦・発芽玄米・小麦ふすまの6種類の自然の実りを練り込んだサンドタイプのドーナツ」なのだそうで、ドーナツというよりお総菜パンのよう。

もちっとした塩気のあるドーナツに刻みパプリカや玉ねぎが入ったツナペーストが美味しかった。ミスドのおかず系パイ類、昔はもっと美味しかった気がするのだけれど最近は何だかいまいちな気がしていたので、こういう「しょっぱい系」メニューが増えるのはとても嬉しい。他には「きんぴらごぼう」「ベーコンポテト」なんかもあるそうで、それもそのうち食べたいわ。

……で、親子で合計1200円ちょっとお買い物をして、「……あ、それならマグカップ2個もらえたんじゃん」と気付いたのはお会計を済ませてから。周囲の親子連れなんかはトレイ2つ持って別々にお会計してマグカップ複数貰っている人も少なくなくて、みんなあのマグカップ欲しいのねぇと驚いちゃったのだった。ころりとした可愛いラインの、分厚く重いロゴ入りのマグカップは「そうそう、確か昔のマグはこんなだったよ」というもので、すごくキュート。

……ところで、あのミスドのマークって何なんだろう。
コック帽かぶった髭のおっちゃんの正面顔(片目が隠れている状態)?それとも右向きの横顔?んで、2つ重なる「ω」のライン、一つはもしかして口のライン?長年見ているマークだけれど、わたくしさっぱりわかりません……。

キムやせ焼きそば
冷凍餃子(海老蒸し餃子)
冷茶
今日は、「曾孫が小学校に入学しますよー」の挨拶も兼ねて、だんなのおばあちゃんの家に遊びに行く予定だった。……が、今日になって
「ごめんなさい!ちょっと都合が悪くなっちゃって……」
と、連絡があり、おばあちゃん家詣では「じゃあ入学式の写真持って行きますね」と延期に。一応空けていた今日一日、予定がスポーンと抜けちゃって、ミスド後に近所をぷらぷらお買い物して帰ってきた。

スーパーで安売りしていたコロナビールを買い、
「昨日は飲み会の事伝えてなくてごめんねごめんね」
と、だんなが"おわびケーキ"を買ってくれた。不二家のロールケーキがいいなぁ……と思っていたのだけれど、ロールケーキは売り切れだったので今日はレアチーズケーキを。そして家に帰ってだらだらだら。

昼御飯は、だんなが"キムやせ焼きそば"を作ってくれた。
「……焼きそば焼きそば……いや、ペコリーノロマーノ、余ってたっけ?"貧乏人のスパゲッティ"しようか?」
「んー……ペコリーノはないけどパルミジャーノとかはあるよ……でも焼きそばがいいなぁ〜」
「そっか。……シンプルな塩とオイスターソースのでいいよね?」
「……キムやせの味のがいいなぁ〜」
「わがままなやつめー」
わがままなやつめー言いながら、でもちゃんとあの味噌とも醤油ともつかないピリ辛味の焼きそばを作ってくれた。残りものの豚肉と、ざくざく刻んだキャベツがたっぷり。先日届いた冷凍海老蒸し餃子(←モニター品)も蒸して、1人5個。

時折買っては冷凍保存しているこの焼きそば、「焼きそば」と言うには独特すぎる味で(なにしろ醤油味でもソース味でもないもんだから……)、麺の太さもやたらとあるし、しかも中毒性がある危険な食べ物。冷凍庫の中のストックが減ってくるとオロオロしちゃうのだった。……キムチもチャンジャもないし、そろそろまた買わなきゃ……。

ちらし寿司
豆腐としめじの吸い物
酒蒸しあさり
大根ときゅうりとツナのサラダ
焼き五目厚揚げ
ビール(モルツ)
日本酒(桃川 にごり原酒)
抹茶入り玄米茶

「不二家」のレアチーズケーキ
カフェオレ

夕食は、昨日作らなかったちらし寿司を。昆布だしで3合の米を炊き、「すし太郎」使って簡単に具入り寿司飯を作り、上にはぶつ切りまぐろと茹で海老、いくら、でんぶ、絹さや、錦糸卵、刻み海苔をこれでもか〜っとトッピングして仰々しく派手派手に飾りつけた。
「きゃ〜!きれい!きれいだねぇ!」
息子の心も鷲掴み。魚屋に売っていなかったでんぶ、必死で探してスーパーで買ってきた甲斐があるというものだ。

別に今日も昨日も何かのイベントの日というわけじゃないのだけれど、
「4月になったし、もうすぐ息子の入学式だし」というのと、
「そういや3月の雛祭りの時とかもなんにもこういうのしなかったし」というのがあって、
なんとなーくちらし寿司気分が高まっていたのだった。たっぷり3合のちらし寿司を飯台に作って、満足な私。

ちらし寿司に合わせて、椀ものは豆腐としめじの吸い物、そして生姜やにんにくは加えずに作った優しい味のあさりの酒蒸し、細切りにした大根ときゅうりとツナとマヨネーズで和えたサラダ、そして昨日豆腐屋さんで豆腐と味噌買ったら「これ、おまけするわねー」といただいてきてしまった五目厚揚げは三角に切って両面こんがりと焼いて。

「ちらし寿司ならー……にごり酒かな?」
「だなー……でも、ビールも飲むじゃ」
「うむー」
早めに風呂済ませて、ビール1杯飲んでから、だんなが青森で買ってきてくれたにごり酒をくっぴくっぴと。これが、とろーんまろーんとした口当たりのかなり濃厚な風味のお酒で、どーんと腰の据わった辛さもある重量感のある味わい。すごく好みで、ちらし寿司小皿に何回もお代わりしながらくっぴくっぴと飲んでいたらあっさりと酔っぱらいに。

「あれだね、ちらし寿司は嬉しいよね。この、でんぶといくらを共に口に運べる快楽!ちらし寿司だからこそ!」
「……別に、普通に手巻き寿司するときにもでんぶ買ってくりゃいいじゃん」
「ダメなんだよ〜、でんぶは、ちらし寿司の時に買うんだよぉ〜」
「……酔ってるだろ、おゆきさん」
「全然酔ってないよ〜」
私は必死に、「ちらし寿司の上にでんぶが乗る幸せ」をだんなに伝えたのだけれど、いかんせん酔っぱらいだったのであまり伝わらなかった模様。

食後のレアチーズケーキも大変おいしうございました〜(←酔っぱらっていてもケーキ別腹)。

4月3日 日曜日
これでもかー!と、肉!(そしてにんにく!)
冷蔵ピザトースト
カフェオレ
「これ、食べちゃわなきゃいかんと思ってたんだー」
朝御飯は、冷蔵庫の中で場所をとりまくっていた冷蔵ピザトースト。ソースが塗られてチーズが乗ってサラミやベーコンもトッピングされた、よくある出来合いのピザトーストだ。なんてことないものなのだけれど、息子がしばらく前から
「これ、食べてみたいなー、美味しそうだなー」
とものすごく執着していて、先日5個入りパックを買ってきてみたのだった。息子と私で1個ずつ食べ、残りちょうど3個だったので今朝の朝御飯に。

ちゃんと全体がアツアツになるようにしっかり焼いて、その間にコーヒーも用意して、
「あー、天気いいから布団干そう」
「花に水もやろう」
バタバタしながら皿を出してカップを出して。出来合いのピザトーストはソースがパンの中までしっかりと染み込みまくっちゃって、口当たりも風味もやっぱり今ひとつだったのだけれど、息子は「おいしかったー」と満足気。今度はドーンと厚切りにしたパン使ってチーズたっぷり乗せて自家製ピザトーストを作ろうね。

ほうれん草カレーのスパゲティ チーズたっぷり
苺カルピス
朝食後、久しぶりに私はジムへ。新曲に切り替わったばかりのボディパンプに参加して、滝のように汗流しながらがんばってきた。運動し終わって、軽くプールで流してから風呂場で限りなく水に近い温度のシャワー浴びたのだけれど、温かい季節になってきたから運動後しばらくは顔や体から湯気が出て止まらなくなるような感じ。

「今から帰るよーお腹空いたよー」
ジムを出たところでへろんへろんになりながら電話したら、
「おっけー、今、もうスパゲティの準備始めてるとこだよー」
愛に溢れただんなの返事が返ってきた。家に帰ったら、ちょうどスパゲティが茹であがりつつあるところ。ああ、素晴らしい。だんなが時々「おっかさん」に見える瞬間だ。

残っていたほうれん草カレー、毎日ちゃんと火を通していたのだけれどそろそろ食べなきゃねということで、ほうれん草カレーをトッピングしたスパゲティ。生クリームやチーズが入ったカレーなのでスパゲティにも良く似合いそうだねと言っていたのだけれど、これがほんとにお似合いだった。
「おー、麺がバターの香りして、カレーに合うね」
「うん。すっげぇ量のバター入ってるから」
「……すっげぇ量なんだ?」
「おう」
何やら、すっげぇ量のバターを麺に絡めたらしいのだけれど、でもそれでコクが出ちゃってやたらと美味しいパスタ料理になっていた。上からざくざくたっぷりと粉チーズかけたのだけれど、それがまた似合っちゃって危険な美味しさ。

墨田区立花 「Mr.デンジャー」にて
 2000円セット ×2
 ポタージュスープ(ボウル) \300
 生ビール(中) 2×\270
 シャーベット 2×\100
あれだけ食べて家族でたったの5000円でした。びっくりー……。
「おゆきさん……ステーキ食べに行く?ミスターデンジャーってとこ」
「……ステーキ?」
「ほら、ここ。450gステーキがセットでなんと2000円!」
「うぉー!すげー!」

なんかさ、"肉"を口一杯に頬張りたい気分なんだよね、あらあなたもそうなの私もなのよ……と、夕方ベッドにごろんごろんと寝そべって本読みながら語り合った結果、「ミスターデンジャー」なるお店に行くことになった。総武線亀戸駅から東武亀戸線に乗り換えて2駅、「東あずま駅」という駅から歩いて3分ほどの距離にあるらしい。プロレスラー松永光弘さんのステーキハウスなのだそうだ。

どんどこ電車に乗って、乗り換えて、小さな駅で降りて暗い道を歩いて数分、「ミスターデンジャー」の黄色い看板が見えた。混雑しない早めのうちに行こうかねと6時過ぎに到着するくらいのタイミングで出かけたのだけれど、店の中は既にほぼ満席。唯一空いていたテーブル席(他にカウンターと奥にけっこうな広さのお座敷がある)に座ることができた。店を出る頃には、入店を待つ人が8人くらい待っている状態。

ステーキとハンバーグがメインで、どれもかなりお安いのだけれど、なんといってもお値打ちなのが「2000円セット」。ステーキ450gとサラダとスープと御飯がセットで2000円。じゃあこれを2つにして、息子には御飯とスープを別にとってやろうかねー……と相談していると、
「あ、お子様には小さなお茶碗の御飯と、あとアイスクリーム無料でさしあげております」
とのこと。結局、スープを1つ追加するだけで、家族全員腹一杯喰えちゃったのだった。しかも中ジョッキの生ビールはたったの270円!すばらしい〜。

ビールかーっと飲みながら、胡麻ドレッシングのかかった刻みキャベツのサラダとコーンスープをいただきながら待つこと数分、鉄板の上でジュージュー言いまくる肉塊がやってきた。一口サイズ……というか"二口サイズ"くらいに切られた肉がこれでもかと積み上がり、中央には巨大なバターの塊。隅にはコーンと人参、そしてうずらの卵1個が添えられている。

「にんにく絡めますか?」
と最初に聞かれたのだけど、夫婦してうんうんと頷いちゃったところ、肉1個1個に大量のおろしにんにくがまぶされた状態で焼かれたのがやってきたのだった。周囲に漂う強烈なにんにく臭。……すっごーい、と、だんなと顔を見合わせて笑ってしまいながら、卓上に置かれた各種ソース(甘だれ、辛だれ、しそ醤油、味噌、醤油……)を適当に小皿に出しつつ、肉に絡めて食べていく。大量のにんにくの他は、特に塩胡椒の味もしない肉なので、
「……あ、シンプルに醤油だけってのも旨いよ」
「いや、この味噌がなかなか……」
と、あれこれ味を変えながらもぐもぐもぐ。

外見どおりの"壮絶な"ステーキだったのだけれど、これが実に美味しかった。肉はどうしてこんなに?と不思議に思うほど柔らかく(比喩じゃなく、箸で切れる柔らかさ)、「ミディアムレアで」とお願いした焼き加減もとても好みな具合。ひたすら叩いて繊維を切ったような、ほろほろした口当たりの肉は、いくらでも食べられちゃう危険な存在だった。実際、私もだんなも450gを綺麗に完食(いや、私は息子にちょっと分けてあげたんだっけ)。この分量で、この旨さで2000円。素晴らしい食事だった。

厨房ではひたすら鉄板でジュージュー肉を焼き続けているわけだけれど、カウンターの奥に立つ、こちらに背中を向けて立つおっちゃん、どう見ても周囲のスタッフより腕が太い。背中もごついし、腕は常人の2倍くらいある……と思ったら、松永光弘その人だった。
「……え?本人って……え?……松永さんて、引退してるの?」
「うんにゃ、現役プロレスラーだよ、ばりばり」
「……え?で、肉焼いてるの?」
「らしいねぇ」
「すっごいねぇ……」

この手の、"業界の人が経営するお店"ってのは、本人はまず店にいないというのが当たり前だと思っていた。本人がいて、どころか本人自ら肉焼いてる(しかも旨い!)というのにびっくりで、それ以上に御立派な二の腕にびっくりで、カウンターの隙間から覗ける生プロレスラーの生腕や生背中にうっとりする私。いいねぇ、あの腕でバコーンとラリアートとかされてみたいねぇ。

デザートのシャーベット、業務用みたいなプラスチックカップ入りのがそのままごろんと出てくる大雑把なものだったけれど、でもたったの100円。サービスでやってきた息子のバニラアイスが羨ましかったので、私とだんなもそれぞれゆずシャーベットとかライチシャーベットを追加注文していただいた。

「ふいー……さすがにお腹一杯……」
「おゆきさん、誕生日イブイブディナーはいかがでした?」
「うん……満足……」
そう、これは私の誕生日イブイブディナー。「ああもう、こういうお店大好き!」てな感じのかなりツボなお店で、ちょっと不便な場所だけれどまた絶対行こうねと誓い合って帰宅したのだった。

唯一の欠点は……にんにくの風味が強烈過ぎちゃって、帰りの電車は私たち明らかに「臭い人」で、
「うわー……自分が臭い……かなりイヤ……」
「口で息しちゃダメよ!鼻呼吸で!会話も控えて!」
てな感じで、かなり肩身の狭い思いをして帰らなきゃいけなかったこと。……次回は「にんにく抜きで」かな……(いや、でもあのにんにく感がたまらなく旨いんだよ……「少なめに」ってお願いするのかな……)。