食欲魔人日記 03年03月 第4週
3/24 (月)
Cafe Korea(Nashville)にて、ビビンバ (昼御飯)
エッグサンド
カフェオレ

「そーだよなー……朝御飯のこと、なぁ〜んにも考えてなかったんだよなぁ」
と冷蔵庫の前でちょっと途方にくれる旅行帰りの翌朝。朝、食べるものがないというのは何だかすごく切ないことだ。"食べるものが他に何もなくてシリアルを食べる"という状況と、"色々選択肢はあるけれどシリアルを食べる"という状況は似ているようですごく違う。後者は満足度がそれなりに高いけれど、前者は食べているうちに何だか切なくなってきてしまうのだった。

……だからコーンフレークという気分じゃないのよね、とコーンフレーク置き場を見上げていたら、旅行前から冷蔵庫の上に買い置きっぱなしだったドッグパンと目が合った。カビてはいない。大丈夫そうだ。でもホットドッグという気分じゃないし、かといってバター塗ってそのまま食べるのもイヤだし、とちょっと考えてからエッグサンドにすることに。卵4個を茹で、刻んでマヨネーズで和えてちょっとだけ塩ふって、それを3本のドッグパンに挟む。大人も子供も1人1本のドッグパンのエッグサンドが今日の朝御飯となった。15分ばかりの手間はかかるけれど、圧倒的にシアワセな朝御飯だ。

Nashville 「Cafe Korea」にて
 ビビンバ
 アイスティー

午前中は、山のような洗濯物を片づけたり、旅行中の写真の整理をしたり。今回の旅行は調子に乗ってふざけて撮った写真が大量にあって、合計200枚以上の写真を眺めて楽しむ。デジタルカメラだからこそ撮れちゃったような(普通のカメラじゃフィルムがもったいなさすぎでシャッター押せないような)くだらない写真の満載ぶりに苦笑いしながら消したり明度調整とかしてみたり。

11時半を過ぎて、1時間ほど前に大学の研究室に出かけて行っただんなから
「皆でカフェコリアに行こうと思うけど、どうするー?」
と連絡が入った。私も好きだが、皆(主にIさんとMさん)あの店が大好きらしい。何だかしょっちゅうあの店に行ってるなぁと思いつつも喜んでついていく私。

焼肉メニューはない、ご夫婦で経営しているらしい韓国料理の小さなお店がCafe Korea。ケダモノくさい濃厚なカルビタンが絶品だけど、IさんとMさんにとってはお店の奥さんの存在価値も大きいらしい。長い髪を後ろで1本に束ねた奥さんは、ちょっと儚げな印象がある物静かな美人だ。大きな声を出したりはせず、いつも静かにそそそっと動いている。IさんとMさんは、この奥さんにちょっとばかり夢中のようだ。

店に入り、ドリンクを注文する。いつもあったかいお茶を貰っていたのだけど、そろそろ暑くなってきたしと
「アイスティー、ありますか?」
と聞いてみた。アイスティー、ないのよ、ごめんなさい、と申し訳なさそうに微笑んだ奥さんは、でも少ししたら奥からちょっとばかり薄い色のアイスティーを持ってきた。熱いお茶に氷を入れて冷やして持ってきてくれたらしい。麦茶のようなほうじ茶のような、ちょっと不思議な味のするお茶はアイスになっても美味しかった。

で、いつもはカルビタンを頼むところだけど、やっぱり暑い。もう半袖で歩いてもあまり違和感がないほどの気温がここしばらく続いている。ついこの間まで冬だったはずなのに、春も過ぎ去ってしまったような気候だ。カルビタンを頼んだ日には、体中汗まみれになってしまいそうだった。
注文してみたのは、この店では初めてのビビンバ。やってきたのは、黄身が生の状態に焼かれた卵が上に乗る、野菜たっぷりのビビンバだった。レタスにキュウリにもやしにほうれん草、人参のナムルが彩り良く乗せられ、ほんのりスパイシーな薄切り牛肉の炒めも乗っている。コチュジャンは別の小皿に盛られてやってきて、ビビンバそのままをかき混ぜて食べる分には少しも辛さはない。適当にコチュジャンを混ぜつつ全体をわっしわっしとかき混ぜて、かっこんだ。

冷たいナムルがたっぷり乗るビビンバは、胡麻油が香るさっぱり味。いつも小皿で出てくる豆もやしのナムルやほうれん草のナムルが美味しいなぁと思っていたけれど、ビビンバになってもやっぱり美味しかった。
奥さんは今日も美人だし。

だんな特製 回鍋肉
羽釜御飯
ビール(San Miguel)
アイスティー

授業が終わって帰ってくるだんなに
「夕飯の材料、適当に買ってきてー。まかすー」
と伝えたところ、回鍋肉の材料を買って帰ってきた。そういえば冷凍庫に塊の豚バラ肉があったんだっけ、と思いだしている間に、その豚バラはだんなの手により早速茹でられていた。茹でた塊肉を薄切りにし、ざっと湯通ししたキャベツと共に甜麪醤ベースのタレで炒めていく。
「……味つけの配合って、なんなんだっけ?」
と聞いてきただんなに
「3、2、1。1、1。1、1。少々、少々」
と覚えているまま伝えたら
「わかんないよ」
と即座にツッコまれた。
いや、だからね、大さじ3のスープと、大さじ2の醤油。甜麪醤と砂糖と酒が大さじ1ずつで、オイスターソースと胡麻油が小さじ1ずつ。あとは塩胡椒が共に少々……って、そりゃわからんわなー。

この配合は、周富徳さんの料理本に載っていたものだ。本格を目指そうと豆鼓を入れてみたり、豆板醤を多めに入れてみたりと試行錯誤していたのだけど、周さんのこの調味料の配合で作ってからは、なんとなくこれが我が家の味になった。辛味は豆板醤で適当に調整する。豆板醤と刻み生姜と刻みにんにくを軽く炒め、茹でてから薄切りにしたバラ肉を加え、湯通しした野菜を加え、最後にその合わせ調味料をドビャーッとまわし入れてざっと煽って水溶き片栗粉でまとめればできあがり。酒の友というよりは御飯のおかずな味の回鍋肉だ。

今日の夕飯は、回鍋肉と御飯のみ。ビールを傍らに回鍋肉をつつき、御飯に移行してから更につつきまわす。最後には御飯の上にぶっかけて"回鍋肉丼"みたいにしちゃったり。テラテラ光る味噌だれがまとわりついたキャベツも豚も、箸が止まらなくなる危険な味だった。うまうまー。

3/25 (火)
だんな特製、"不本意な、にら玉" (夕御飯)
ホットケーキ
カフェオレ

先日の旅行中から微量に風邪気味だった私。痛みによし熱によし風邪によしの万能薬"TYLENOL"(タイレノール)をずっと飲み続けているのだけど、飲んでいる間の昼間はともかく、朝起きた時の喉の痛みがつらいつらい。
「今日もゲレゲレですがー」
と起きて行ったところ、先に起きていただんなが
「じゃ、ホットケーキ焼いてあげるから」
と台所に立ってくれた。食料庫にしまいっぱなしだったホットケーキミックスを食べなきゃねぇ、と昨日あたりから言っていたのだ。

今日になってわかったことだけれど、だんなはこれまでホットケーキを焼いたことがなかったらしい。
「弱火で焼くんだよね?」
と言いながら、スキレットで強引に一度に2枚ずつ焼き始めた。
「丸くならないよ……」
と言っている。そりゃ2枚を同時に焼こうとしたら丸くならないさ……と苦笑いしていると、
「いや、1枚焼こうとしても広がらない」
と、泣きそうな顔になっている。見ると、生地が今ひとつ固いらしい。何だかお好み焼きの生地のような粘度になっている。ちゃんと計量して作ったんだけどなぁ……とぼやきながら焼いてくれたホットケーキはどれも丸くなくて楕円というかひょうたん型というか涙型というか、面白い形になっていた。でも、焦げているわけじゃないし、美味しそうだ。

ホイップバターを乗せつつ、少量のシロップ垂らしながら温かいホットケーキを食べる。
自分の家で焼くホットケーキはついつい"バターとシロップ"というありきたりな組み合わせで食べてしまうのだけど、たまにはホイップクリームとフルーツコンポートを添えて……なんてお店のものみたいにして食べてみたい。あ、そういえば久しく「Pancake Pantry」に行ってない。

鶏肉の味噌うどん
鶏肉の味噌おじや
アイスティー

息子と2人の昼御飯。ここ数日食べたかった味噌うどんを食べることにした。お湯沸かして、作り置きしてある豚味噌鍋用の味噌を溶き、冷凍うどん放り込めばできあがり、という非常に手軽な料理だ。冷凍庫から鶏肉が発掘できたので、これを刻んで放り込む。あとは葱を刻んで最後に添えればできあがり。

息子と2人で1玉で充分ね、と思って作ったのに、想定外に息子が食べる食べる食べる。
1/3玉分ほどずつを碗によそって「いただきます」と食べ始めたところで
「おかーさん、おかわりは、ある?」
と息子が上目遣いに聞いてくる。本当は私が食べようと思っていた鍋の残りを
「あるよー。いいよ、あげるよ」
と、猫舌な息子用に別の碗に盛りつけておいてやると
「……もっと、おかわりある?」

そうかそうか、私もうどんが恋しかったけど君もうどんが恋しかったんだねぇ、としょうがなしに私の分のうどんもちょっとだけ息子の碗に。これじゃ私が幼児用の食事のようだわという切ない分量になってしまったので、鍋に残っていたスープにご飯をぶちこんでおじやにして啜ることにした。同じ味噌味のうどんとおじやを立て続けに食べるなんて、何だか変な気分だ。

息子はぺろっと完食した。
「ぼくは、ポテトとコーラが好きだなぁ」
なんて言う割には、やっぱり彼は白いご飯とかうどんが好きらしい。あからさまに良く食べる。

昨年10月に行ったグランドキャニオン近辺の国立公園旅行で、過酷な食生活(特に子供用のメニューときたらチキンナゲットとフライドポテトのセットとかチーズサンドとか、そんなんばっか)が5日ほど続いた挙げ句にぽつりと
「ぼく、チョコのパンが食べたいなぁ……」
と悲しそうに呟いたことを思い出して、「やっぱり次の長期旅行は炊飯器持参だな、うん」と思いを新たにしたのだった。

だんな特製 にら玉(不本意バージョン)
「鮎家」の鮎山椒
鮭フレーク
大根の味噌汁
羽釜ご飯
Hard Lemonade
アイスティー

今日の予定はニラ餃子だったらしい。が、今日のランチにだんなは韓国料理屋で大量に食べ過ぎてきたらしく、
「ご、ごめん、なんかニラ餃子って感じじゃなくなっちゃった……」
とよろよろと夕方帰ってきた。

ニラは、研究所のスタッフMさんがお裾分けしてくれたものだそうだ。なんでも何年か前に自宅の庭先に"ニラが食べたいわぁ"と種を蒔いたのが、未だにこの季節になるとその"ニラの種を撒いたところ"からにょきにょきとニラが生えてきちゃうのだとか。ニラはそのへんのスーパーではお目にかかれない貴重品だ。アジア食材屋にもいつもあるというわけでなく、日本食材屋の入荷も週に1度ほどだ。ありがたい食材なのだった。

いただいたニラ餃子はたっぷり2束弱もあり、今日はそれの一部を使って"にら玉"作成。だんなが
「俺の実家ではたまに食卓に出てきたんだよ」
と作ってくれた。だし汁に醤油と味醂を入れてめんつゆのような味に整え、それをフライパンに入れて熱し、ニラを軽く煮てから溶き卵を回し入れる。
私の実家では、多分食卓に上ったことはなかったと思う。私が以前ニラが苦手だったという理由で母があまり購入せず、ニラ料理といったらせいぜいお吸い物にちょっと入るくらいだったような気がする(今はニラ、大好き)。だから、にら玉の作り方も知らないし、にら玉というのがどういう食べ物なのかもよくわからない。社食の付け合わせか何かで食べたことあったかなぁ?という程度。あまり外食してもお目にかかれない料理だし。
「……ふーん、そうやって作るんだぁ」
と見ていたところ、
「……いや、味は知ってるけど作り方は知らないよ?てきとー」
と、おそろしい返事が返ってきた。だんなのそういうところ、私は真似できないなといつも思う。

できあがったのは写真のような物体で、食べてみると"ああ、なるほど"という味がした。何だか覚えのある味だ。でもだんなは不服そうに
「違うんだ、なんか違うんだなぁ。おかんが作ったのは、澄んだだしの中にふわふわっと卵が浮かんでいるような感じで……こんなぐじゃぐじゃじゃないんだなぁ」
などとおっしゃる。調べてみると、今回のだんなの作り方も存在していないわけじゃないらしいけど、
"卵を炒めてニラを加え、調味料を最後に加える"とか
"卵を先に炒めて別皿に除けておき、ニラを調味料で炒め煮してから最後に卵を加える"などといったバージョンも存在していた。多分卵を先に炒めるのがお義母さんの作り方なのだろう。

卵料理だけじゃ少し物足りなく、私は秘蔵の「鮎家」の真空パックを開けてご飯のおかずに。以前日本食が恋しくなったときに日本の母に
「鮎家の昆布巻きみたいなのが食べたいの〜」
と訴えたら山のように送られてきたものの1つだ。体長15cmほどの鮎が山椒風味で甘辛く炊かれた柔らかい煮物で、幸せに懐かしい味がした。頭から立て続けに2匹ばりばりと食べちゃう。

そして明日こそニラ餃子。

3/26 (水)
ぶりぶりニラ餃子 (夕御飯)
だんな特製 角煮大根
ユンさん特製 コーンプディング
カフェオレ

昨日、だんなと仲の良い韓国人留学生のユンさんが、「ご家族とどうぞ♪」とコーンプディングをお裾分けしてくれた。控えめな性格の、Iさんあたりに言わせると"彼女こそ今は希有な大和撫子だ"てな感じの可愛らしい女の子だ。勉強熱心な彼女は日本語を学びたいのだということで、週に一度我が夫とIさんに日本語を習っている。男連中が彼女は可愛い可愛いと大騒ぎしているので、妻としては複雑な気持ちなのである(まぁでも、本当に可愛い)。そういうのは私に隠れてこっそり食べてくれてもかまわないとも思うのだけど、だんなは馬鹿正直に「ユンにもらったー」と一口も食べずに持ち帰って「食べてもいい?」と何故か私に承諾を求めるのであった。
「また女に食べ物を!しかも手作り品を!」
と騒いだりしつつ、それでも先頭きって食べる私。

朝食は、そのコーンプディングと、昨日から煮込んでいた角煮大根の味見という、なんともいえない妙な組み合わせのものになってしまった。カフェオレを準備すると、全体的に角煮大根が浮きまくった存在に。
コーンプディングは、コーン入りのしっとりめパウンドケーキという感じのものだった。キャセロール型で焼いて作ったもののようで、コーンの粒がたっぷりと入っていてほんのりと甘い。このテのもののアメリカンな食べ物は大抵甘さが強すぎるものが多いけれど、これは程良い甘さだった。デザートとして食べるというよりも、やっぱり朝食としてパンの代わりに食べて丁度良いという味だ。
「……おいしい」
と素直に呟くと、
「おいしいの"しい"はジェラシーの"シー"ですかぁ?」
とだんなが茶々を入れてきた。うるさい、黙れ。

Nashville 「Copper Kettle」にて
 ツナサラダサンドウィッチ
 南部風チキンスープ
 フルーツ
 レモンとナッツのパイ
 アイスティー

今日は水曜、トンカツの日。最近周囲の人々がハマッている南部料理屋さんの水曜日のおかずが"Fried Pork Chop"すなわちトンカツなのである。
「というわけで、いつものメンバーと行くことになったんだけど?」
と大学に行っただんなから連絡を受け、私と息子もついていくことになった。一緒に向かったのは留学生仲間のIさんとMさん、本当にいつもの組み合わせだ。

店に入ると、そこにはなんとボスのA先生とスタッフのMさんがきている。食べているのは当然トンカツだ。A先生は先々週初めてこの店に来てから、トンカツ以外の日にもやってくるようになっちゃったらしい。今日はトンカツということで、ますます嬉々としてMさんを連れてやってきたようなのだ。
この先に来ていたA先生、
「この料理はジャパンでは"トンカツ"と言ってね、"とんかつソース"をかけて食べているんだよ」
とお店の人に伝え、ブルドッグとんかつソースを持参してお店の人に渡したらしい。私たちがカウンターに並んで料理を注文し終わると、レジのおねぇさんに
「はい、これ、あなた達用のソースよ」
と後ろの棚に置かれていたとんかつソースが手渡されてしまった。
「ほんっとうにあなた達、フライドポークチョップが好きよねぇ」
と、完全に覚えられてしまっている。IさんとMさんは、ほぼ毎週水曜日にこの店に出現し続けているらしい。そりゃ覚えられるよ。

私の腹具合、今日は今ひとつトンカツという感じではなかったので、注文したのは本日のサンドイッチ"ツナサンド"。単品でも注文できるし、サイドディッシュやスープもつけることができる。本日のスープが"南部風チキンスープ"ということだったのでそれもつけてもらい、ついでにサイドディッシュからフルーツ盛り合わせもつけてもらった。しまいにはデザートカウンターで美味しそうなパイまで手にしてしまって、結局トンカツ食べるよりボリュームがありそうな昼食セットに。

サワードゥのパン(うっすら酸っぱくてもちもちしている)にはパンの厚さの3倍くらいはありそうなツナサラダが挟まっている。野菜はトマトとサラダ野菜。レタスではなく、ルッコラやマーシュなどの風味の強い緑の葉の野菜がたっぷり詰まっている。ガンボスープに似たスパイスの香りが強いスープには、鶏肉の他、黒い豆や白い豆、野菜がくたくたに煮えて大量に入っていた。フルーツはオレンジ色のメロンと緑のメロン、リンゴとイチゴがざくざくと混ざったもので、彩りも綺麗。
サンドイッチはたっぷりと大きなものが2切れもやってきて、「しまった、サンドイッチの大きさを想定していなかった……」と少々後悔しながらせっせと食べた。周囲の3人の男共が今日も巨大なトンカツに取り組む中、サンドイッチをなんとか完食。ナッツのパイだと思ってもらってきたパイは、ほんのりレモンの風味がしてピーナッツバターが入っているようなねっとり感があった。それでも甘さはけっこう軽めで、食べやすい。

そしてまたお店の奥の棚にとんかつソースは仕舞われて、私たちは店を後にしたのだった。南部料理主体のこの店が、数名の日本人のおかげで微妙な変化が加わってしまった気分が……。

ニラ餃子
角切りキュウリ with マヨネーズ
大根の味噌汁
羽釜ご飯
ビール(Abita Ambar)
アイスティー

夕飯は、ここ数日の懸案だったニラ餃子。ニラとにんにくをこれでもかと入れた餃子が今日のメインディッシュだ。夕方に日本食材屋に買い出しに行ったついでに日本の馴染みの形状のキュウリも買ってきた。スティックにしてただただマヨネーズでもつけて食べたいよねと、キュウリはざくざく切って小皿に盛りつける。アメリカのスーパーマーケットでもキューカンバーはあるけれど、普通に売られているそれは「ヘチマですか?」というサイズで皮は固く種も大きく、何だかとても違うのだ。ピクルス用の小さなものもあって、そちらの方が日本のキュウリに近いけれど、それでもやっぱり違う風味。あの日本のキュウリのパキッシャクシャクッとした歯触りや、ほんのり漂う苦みはあの和キュウリならではのものだ。というわけで、キュウリ。

餃子は、いつも入れる白菜は少なめにし、代わりにニラたっぷり、ついでににんにくもたっぷり。皮はアジア食材店で以前買ってきた韓国産の冷凍ものがあったのでそれを使用したのだけど、ちょっと灰色がかっていて若干クセのある味だった。包んでいると、妙にぴよーんと伸びてくる皮で、サイズも微妙に大きい。
「な、なんかさ、皮のサイズに合わせて包んでいるとブリブリの巨大餃子になるんですけど……」
と言いつつせっせと餃子作成。
「いや、いいんだよ。僕が作ってるのもブリブリだし」
と、バットにブリブリ餃子が並べられていく。丸っこくてとにかくブリブリと巨大な餃子がずらりと作られた。個数は40個ちょっと。

餃子焼きはだんなの担当。数ヶ月前、留学生仲間のHさんが「今ひとつ上手に焼けなくて……」と言うのでだんなが指南に行ったことがある。それ以前からもだんなの餃子焼きの腕前はけっこうなものだと思っていたけれど、その"弟子"Hさんが最近になって
「もう、弟子は師匠を超えましたよ、ふっふっふ……」
と言い出したことが影響しているのか、対抗心が燃えだしたのか何なのかますます餃子焼きの腕が上昇中だ。スキレットにくっつかずに、こんがりふくふくに焼き上がる。Hさん、家でもう十何回も餃子に挑戦して腕を磨いているのだそうで、お互いに「俺が上だ」と信じて疑わない様子。近々餃子焼き対決をしようとまで盛り上がっているのだった。"Hさんのも、だんなのも美味しいよね"じゃダメらしいのだった。優劣はっきりつけなきゃ気が済まないらしい。妻たちはちょっと呆れて眺めているのであった。

Hさんの挑発効果か、今日の餃子も素晴らしい焼け具合だった。こんがり適度な焼き色がつき、中はふくふくとジューシーに。噛みきると中から肉汁がだばだばだばっと垂れてくるような餃子で、ビールもご飯も素晴らしく進んでしまった。キュウリも旨い。

3/27 (木)
純和食な宴会 (夕御飯)
納豆御飯
インスタント味噌汁
鮎山椒
アイスティー

「冷凍フィッシュバーガーでも食べようかなぁ」
という、我が夫。
「なんか、私は"ご飯"って気分なのよねぇ」
と、私。
「ぼくはねー、ぼくはねー、いちごのカリカリが好きなんだなぁ」
と、息子。
三者三様、協調性も何もない今日の朝食だ。

私は冷凍ご飯をチンして、数日前に買ってきた納豆(冷凍ものが売られている)を添える。ついでに数日前に真空パックを開けた鮎家の鮎山椒の残りを1尾。豆腐とワカメのインスタント味噌汁を準備すると、私だけが純和風な朝食になった。だんなはフィッシュバーガーにピクルスを乗せ、マヨネーズをこてこてつけて食べているし、息子はフローズンストロベリーで赤く染まった牛乳を美味しそうに飲んでいる。もう、全員バラッバラ。

とんこつラーメン 角煮乗せ
アイスティー

毎週木曜日は、だんなは大学でお昼ご飯を食べて帰ってくることになっている。お菓子でも軽くつまもうか、そういえばコーンプディングが余ってたなぁ……と考えていたら、だんなが「とんこつラーメンが食べたくてー」とふらりと帰ってきた。
アトランタの日本食材屋で買ってきた冷蔵のインスタントとんこつラーメン。購入後丸3日、車に積み込んだクーラーボックスで冷やしつつ持ち帰ってきたのだ。

今日は、角煮を乗せて"ターローメン(太肉麺)"。
「ふーん、角煮乗せたラーメンのこと、ターローメンって言うんだ?」
この存在を初めて知った私。そうそう、新宿の桂花でよく食べたんだよ、この店の名物でさー、とだんなは言う。よく考えてみればとんこつラーメンも角煮もどちらも豚なのだから、相性は悪くなさそうだ。

麺の上にぶわっと万能葱を散らし、角煮とメンマと海苔を添える。所詮はインスタント麺の味ではあったけれど、角煮が適度なアクセントになってくれて、何だかしみじみ美味しかった。3玉あったラーメンは、息子も一緒になって綺麗に完食。息子の分もきっちり1人前の分量があったはずなのに、
「おとーさん、ちょっと貰っていいかなー?」
「だめ!ぼくが食べるの!」
と、ちっこい体でラーメンを死守して1玉ほとんどぺろりと平らげてしまった。みんな、ラーメン好きねー。

Iさん・Mさん来たりて和食宴会
 牛肉のごぼう巻き
 レッドスナッパーの煮付け
 だんな特製 角煮大根
 彩ひじき
 「鮎家」の昆布巻
 きゅうりの磯和え
 豆腐と油揚げとわかめの味噌汁
 羽釜ご飯
 ビール(Red Hook)
 Hard Lemonade
 アイスティー

ここしばらく、留学生仲間のIさんが
「また、君ん家のレストランに招待してよー。旨いもの食わせてよー」
と、だんなにモーションをかけているらしい。そういえば、しばらく我が家で宴会していなかった。あと数日で、よくつるんでいるMさんが結婚するということもあり(フィアンセが3月で仕事を辞め、ハワイで挙式した後この町にやってくる)、"独身"2人組を呼べるのはこれが最後だね、と宴会することになった。

「和風にしようか。Mさんはしばらくハワイだし、Iさんも週末旅行するんだよね?」
と和食の提案をしたところ、
「魚の煮付けが食べたい」
「ごぼうを牛肉で巻いたようなやつが食べたい」
と、具体的なリクエストがあれこれ出されてしまった。もうこうなったら色々作っちゃうぞ、と昨日買い出しを済ませ、今日は午後からせっせと仕込み。

ひじきや切り干し大根も懐かしかろう、と作ったのは「彩ひじき」。『サラダなら、まかせなさい!』(別冊家庭画報 世界文化社 2000.06)に載っていたレシピで、元々はデパートのお総菜屋さんR1/Fで売られていたサラダだ。料理人が月代わりで3種類の新作サラダを作る年間イベントの一環で出てきたサラダだったのだけど、このサラダ(というか煮物)がそれはそれは気に入ってしまって、結局レシピが載る本を買ってしまったのだった。材料はひじきと切り干し大根、人参、じゃがいも、蓮根、大豆、ブロッコリー、そしてベーコン。醤油と砂糖で甘辛く煮付ける、なんてことのない味つけなのだけれど、ベーコンやじゃがいもが加わってどこか洋風な味もする。ちょっと手間はかかるけど、食べる人は大概「旨い!」と言ってくれるので、こういう時にはこれを作りたくなってしまう。

鯛の仲間であるレッドスナッパーは頭も一緒にざくざくと切り、日本酒多めの煮汁で煮付ける。生姜たっぷり。きゅうりは揉み海苔と一緒に甘酢で和えて、あとは味噌汁とご飯、酒の肴にと実家から送ってもらった鮎家の昆布巻も1本供出した。
あとは牛肉のごぼう巻き。スティック状にしたごぼうと人参をさっと茹でておき、牛肉の薄切り肉でくるくると巻いていく。巻き終わりを下にしてこんがり焼き付けてからころころ転がして全体に焼き色をつけていき、最後に醤油や味醂の甘辛味でコテッと煮含めてできあがり。テーブルはかつてなく凄いことになった。想定通り、見事に和食だらけだ。

Mさんは日本酒を、Iさんは赤ワインを持ってきた。しかもビールやアルコール入りレモネードまであり、食卓は居酒屋のような光景に。結婚間近のMさんに
「で、出会いは7年前だったんだよね?」
「初めてのデートは?」
「ご両親へは、いつ挨拶を?」
と、まるで記者会見のような会話の内容になってしまいつつ、皆よく飲み食いした。魚もひじきも人気だったけど、何故か一番喜ばれたのは牛肉のごぼう巻き。ビールを冷蔵庫から出そうとちょっと立ち上がった隙に一気に10切れくらい減っていたりして、気がつくと皿はすっからかんだった。喜んで食べてもらえるのは良いことだ。

全員よく飲みよく食い、Mさんは日本酒でかなり酔っぱらっていた。私は私でビールとハリケーンカクテルとハードレモネードのチャンポンで良い感じにふらふら。次回からの宴会はMさんの奥さんも一緒だね、なんて言いながら夜10時過ぎにお開きになった。

3/28 (金)
にらとにんにくの和えそば (夕御飯)
ユンさんのコーンプディング
カフェオレ

今日は、珍しく日本からかかってきた電話で朝7時に起こされた。メールや何やらで簡単にやりとりできているから、今の世の中、あまり時差や距離を感じることはないけれど、電話となるとやっぱり時差の存在が大変だ。こちらでの夕方に電話しようとすると向こうは明け方だし、向こうの夕食後の時間帯に電話をしようとすると早起きしなければならない。丸12時間差の方が、それはそれで楽なのになぁ……と思いつつ、15時間の時差を久しぶりに実感することになった。

息子もなんとなく早起きしてきて、今日はちょっと早めの朝御飯。一昨日食べたユンさんの手作りコーンプディングがまだ半分残っていたので、それをオーブンで軽く温めて食べる。コーンプディングなるもの、本当はこうやって朝食の主食として食べるものではなく、ローストチキンなどの添え物として出されるマッシュポテトやにんじんのグラッセなどと同列の料理であるらしい。でも、ほんのり甘くてもちもちしていて、けっこうお腹も膨れるのだ。良い感じ。

フィッシュスティック乗せヨコイのスパゲッティ
牛乳

「久しぶりにヨコイが食べたいなぁ」
と、今日は名古屋のあんかけスパゲッティ、ヨコイのスパ。日本からわざわざ持ってきたレトルトソースも、どうやら帰国と同時に無くなるような勢いだ。数ヶ月に一度やってくるこの味への飢えをごまかしごまかし、そろそろ懐かしいねとここ数日話題に上がっていた。

今回のトッピングは目玉焼きとソーセージ、そして冷凍食品のミニフィッシュフライ。スーパーマーケットの冷凍コーナーで、スティック型の小さなフィッシュフライを見つけ、
「これは……」
「このサイズは……」
「ヨコイに似合いそうですね」
と、買ってきたのだ。ヨコイのソースにはジャンクさが漂うものが妙に似合う。真っ赤なソーセージとかチキンナゲットとか、ちょっと脂身の多い豚肉を使ってのポークピカタとか。フィッシュフライもぴったりだ。

麺とセットで持ってきた専用麺(スパゲティだけど、その太さが尋常じゃなく太い)を茹で、アルデンテをすっかり通り過ぎるまで茹でた後、水にさらしてキュッと締める。締めた麺をたっぷりのバターで炒めて皿に盛りつけ、麺の上にフィッシュフライやソーセージを美しく並べて、てっぺんには半熟の目玉焼きを。ソースは麺の上からではなく、周囲に丸く、敷くように垂らす。ああー、ヨコイだ、美しいね、これだこれだと静かに感動しながらの昼御飯。

ケチャップにあらずミートソースにあらず、いわゆる"あんかけ"の味にあらず、かといって八丁味噌の味でもなく。名古屋が産んだ不思議なソースは、名古屋界隈の喫茶店や洋食屋、漫画喫茶ですらメジャーであるらしいのに、関東にも関西にも存在しない謎に満ちた存在だ。トロンとした強いとろみは"あんかけ"だけど、味は胡椒が効いたトマトベースの煮込みソース。初めて食べた時は、はっきり言って「なんじゃこりゃ」と思ったのだけど、二度三度と食べているうちに病みつきになった。名古屋の食べ物は、妙に病みつきになるものが多いけれど、私とだんなはそれらの食べ物の中に"名古屋液"なる怪しい成分が含まれているのではないかと密かに疑っている。イタスパとか、ひつまぶしとか。あんかけスパは、その名古屋液含有率がとびきり高かった。ちなみに、"ヨコイ"はそのあんかけスパ元祖の店だ。

久しぶりのヨコイは、やっぱりしみじみ旨かった。赤いソースに浸したソーセージが、これまた旨い。太い麺も旨い。
ちょっと前に名古屋友達に教えてもらった日経記事によると、カレーの「CoCo壱」があんかけスパ専門店を展開しようとしているらしい。そうすると、東京でもあんかけスパが食べられる日がくるのかも!と、ちょっとわくわく。

にらとにんにくの和えそば
Hard Lemonade

「銀座WEST」のクッキー
アイスティー

何だか麺続き(しかも一品料理続き)だけど、夕飯はニラ料理ということで、大好物の"にらとにんにくの和えそば"。研究室のスタッフMさんからお裾分けしてもらった、"庭に生えてきた"ニラは、さすがに新鮮そのもので数日経ったところで少しもしなびたりしない。アジア食材屋でちょこちょこと売られていたりするニラはものの3日ででろでろに溶解してしまうことを考えると、シャキシャキのニラの存在はたまらなく嬉しいものだ。にら玉で、にら餃子で、とにらものを食べてきたけれど、今日はそのシメとして和えそば。私も大好きだけど、いっかにも男の人が好きそうなレシピだ。麺料理特集の本か何かで見て以来、気に入って時々作っている。

ニラはこれでもかこれでもかと細かく刻む。長ねぎも適当な量、やはりこれでもかと細かく刻む。
麺を茹でたら水気を切り、温かいうちに塩と胡椒と胡麻油をざっとふりかけて混ぜ合わせ(調味料は基本的にこれだけなので、比較的しっかりめに)、皿に盛りつける。その間にフライパンに薄切りにんにくとサラダ油を入れて熱してにんにくを焦げすぎない程度にカリカリに揚げておく。
麺の上にニラと葱を盛りつけ、最後にアツアツの油をにんにくごとニラの上からジャーッと回しかけたら、できあがり。適当に混ぜつつ一気に食べる。

「ニラとにんにくだもんねぇ……」
「匂いが強いのばっかだもんねぇ」
「……男の人、こういうの好きそうよね。"私の得意料理なの♪"ってふるまってみたりして」
「いや……でもね、こういうの、彼女に作られたら、多分引く……」
確かに、可愛い女の子が"私の得意料理なのぉ♪"なんてこれ作ったら、ちょっとその人への印象が変わっちゃうかもしれない。

さらさらっとした食事の後は、甘いもの。友人Sちゃんが、先日日本から「年末に遊びに行った時の写真を送ったよー。おまけと一緒に」と小包を送ってくれた。小さな箱の中には、写真とそしてたっぷりのお菓子類。くずきりや期間限定ミックスベリーの"たけのこの里"、何より嬉しかったのが、大好物の"銀座WEST"の焼き菓子類。チョコクッキーやリーフパイ、苺ジャムを乗せたクッキーやジンジャークッキーが入っていて、
「Sちゃん……写真の重量の100倍以上のお菓子が入ってるよ……」
と笑ってしまいながらも
「ぼくぼく、チョコのおかし〜!」
「俺はリーフパイだ!」
「ダメだったら!基本的には私のものなんだってば!ひざまづいて"分けてくださいお願いします"と言いなさい!」
と箱を開けるなり始まる争奪戦。今日は1個ずつポリポリと食べた。大切に大切に、とりあえず1日1個目処ということで。やっぱり日本のお菓子は美味しいよ。

3/29 (土)
山盛りベニエ♪ (朝御飯)
ベニエ
チコリコーヒーのカフェオレ

朝から揚げものだなんてすごく面倒だわカロリーも気になるわだけど、朝に食べるのがなんとも美味しい揚げドーナツ"ベニエ"が今日の朝御飯。6カップ分ほどの粉が入っている「Cafe Du Monde」のベニエミックスは、説明によると1カップが1ダース分に相当するので1箱で6ダースほどもできることになる。想像するだけでちょっと幸せ。

これまで2回ほどこれで作ってみたのだけど、しかしながらどうも説明書き通りにするとお店で食べるものより小さく薄くなってしまうような感じだ。1.5カップ分の粉で作るのが、適度に厚く適度に大きく、ニューオーリンズのお店で食べたようなものになる。粉に水を加えて混ぜこねてから麺棒で軽くのして長方形に切り、それを揚げるだけなのだけど、薄くしすぎると"ドーナツ"というより"煎餅"になってしまう。生地には甘さがないので、揚げあがりにドッバーッと粉砂糖をふりかけて食べる。お供はやはりこの店の名物、チコリコーヒーを使ったカフェオレを。

1.5カップの粉で作った約1ダースのベニエを、アツアツのまま速攻食べた。ベニエは相変わらずとてもとても美味しい。粉砂糖も、やっぱり最低このくらいはかけなくちゃ。

Nashville 「Cheeseburger Charley's」にて
 サーモンバーガー
 フレンチフライ
 アイスティー

そろそろ"イースター"なるものが迫ってきていて、町のあちこちはパステルカラーやウサギグッズが飾られまくるようになった。確か私はパステルカラーは苦手だったはずなのだけど、色鮮やかな食器やカードがショーケースに飾られていたりするのを見ると妙に心が浮き立ってしまう。ハロウィンの時もクリスマスの時もそこまでは手を出さなかったのに、今回に限っては
「うわー、花形のクッキー型、買っちゃおうかなぁ」
「クッキーデコレーションキット、すっごく綺麗なんだよなぁ」
と、調理器具カタログなどを眺めてみたり、卵の色づけキットを買ってみたり。これまでの人生では全く関わりのなかったイベントなので、興味津々だからという話もある。

で、今日は近所のショッピングモール内にイースターグッズを眺めに行った。
Williams-Sonoma」でデイジー型のクッキー型クッキーのデコレーティングキットトリュフエッグ(うずらの卵大のチョコレート菓子)、更に『EASTER』というレシピブックまで買ってしまう。店内ではイースター用らしい、レモン風味のパンケーキの試食販売をやっていて良い香りが漂っていた。売られているボウルもゴムべらも鍋も、フードプロセッサーに至るまでパステルカラーのものが並び、春ものが並ぶブティックにも負けないほどの華やかさだ。

ついでに、生活雑貨を扱う「Potterybarn」も覗く。メキシカンっぽい色合いの新しい柄のベッドカバーやクッションが飾られ、屋外のテラスなんかで使うのによさそうなワインクーラーなどが並んでいる。そこら中のものを買いまくりたい欲望に駆られつつ、冬もの処分の特売品コーナーで木製のサラダボウルと、花台と思われる木製の台を2個買ってきた。もうすぐイースターシーズンのバーゲン週間の到来でもあるなぁ……と思いを馳せつつ、ちょっと欲しいと思っていた食器などは断念。

久しぶりに来たショッピングモール"Green Hills"、以前はここに美味しいハンバーガー屋があったんだけどねぇ……と話していたところ、モール内の以前とは別の場所にその店がオープンしていることが今日、わかった。ファーストフードチックだった前店と異なり、今度はちゃんとドアつき壁つきの1つの店舗として道路に面した広い店になっている。ボックスシートの数も圧倒的に増え、土曜の午後という今はお客さんでいっぱいだった。
「あった、あったよ」
「なくなってなかったよ……」
「なんか、幸せだー」
と、ちょっと久しぶりな"チーズバーガー チャーリーズ"での昼御飯。たまには変わったメニューに挑戦してみようと、サーモンバーガーを注文してみた。バターが塗られてグリルされたバンズの上には、パンと同じくらいの円形にカットされた分厚いサーモンが香ばしく焼かれて横たわっている。パンとサーモンだけが手元にやってきて、それを持って野菜コーナーに行き調味料と野菜を自分でトッピングするのだ。
今日は多めのレタスと玉ねぎ、そしてスプラウトだけをトッピング。バーガーの脇につまんで食べる用にとピクルスとマッシュルームを添え、バーガーにはケチャップではなくマヨネーズをにょろにょろとかけ、その上からパンで蓋をする。肉汁たっぷりのケチャップ味ハンバーガーも勿論美味しいけれど、一風変わったサーモンバーガーもなかなかの美味しさだった。フィレオフィッシュほど油っこくもないし。

サーロインステーキ
ジャーマンポテト
にんじんとツナのサラダ
彩ひじき(一昨日の残り)
コーンスープ
羽釜ご飯
ビール(Abita Ambar)

ここ数日は和食だ魚だとちょっとアメリカ飯から遠ざかっていたところ、今度は無性にステーキが恋しくなった。買い物外出の最後に立ち寄ったオーガニックスーパーでは、本日ステーキ用サーロインが安売り中。「あれと、あれ、ちょうだい」と好みの肉を指さして分厚い肉を2枚買ってきた。厚さ3cmほどもある、がっちょり巨大な肉が2枚で8ドルほどだったように思う。肉に合わせて、じゃがいもと玉ねぎをベーコンと共に炒めて塩胡椒したジャーマンポテトと、にんじんはグラッセではなくさっぱりとサラダに。息子の好物のコーンスープに、ご飯、一昨日の夜の残りのひじき煮。だんながタイマーを睨みながら
「……あと、3分……いや、更にあと1分かな」
などと言いつつ焼いてくれた肉は、素晴らしく良い具合なレアだった。肉汁が真っ赤ということもなく中心が冷たいということもなく、でも肉の断面は美しく赤い。

「やっぱり、"牛肉を食うぞー"ってのはこれですよね」
「焼肉とは、ちょっと違うんですよね」
「ステーキなんだよねぇ……」
などと言いつつ、眼前の肉の塊にうっとりしながらナイフとフォークをせわしなく動かす。アメリカに来てから購入したスキレットと最近すっかり仲良しになったらしいだんなは、このスキレットを使ってのステーキの焼きにはかなり成功が続くようになった。肉の厚さがその都度違っても、けっこう上手く焼いている。先日は、留学生仲間のMさんの家に行き、MさんとIさん2人の分のステーキを焼いてきてあげたのだそうだ。ご飯の準備だけしてもらっておいて、冷凍ポテトをオーブンで温め、肉を焼き、「ほら、喰えー」と皿に盛りつけ、そして帰ってきた。

美味しかった美味しかったと彼らは大喜びしたそうで、後になってIさんに聞いたところによると、
「ステーキって、家で焼いて作れるもんなんだね……びっくりしたよ」
と、ちょっと笑えるコメントをいただいた。ステーキは外で食べるものだと、そんな思いをずっと抱いていたのだそうだ。

そういえば、私が子供の頃に父や母がステーキを焼いてくれたかなぁと思い起こすと……あんまりなかったような気もする。肉が高かったということもさることながら、母が焼くとウェルダン以上のこんがり焼きになってしまって父が呆れ、父が焼くと超レアな"これはユッケですか?"みたいなものになって母がそれじゃ食べられないと嘆き……みたいな事になってしまって、ほんの1〜2度食卓にステーキがあがった後は、誰もステーキを家で食べたいと言い出さなくなってしまったような記憶が少しばかり残っている。
我が家は夫婦揃って"肉はやっぱりレアでしょー、せいぜいミディアムレアぐらい"という嗜好なので、そのへんは全然全く問題ないのであった。

3/30 (日)
昨日買ってきた、イースター用の卵型チョコレート菓子
(妙にリアルで可愛いのでなかなか食べられない……)
テーブルパン
ジャーマンポテト(昨夜の残り)
コーンスープ(昨夜の残り)
牛乳

だんながうどんを啜る音で目が覚めた。
「え?え?いま、何時?」
と、時計を見ると10時半を過ぎている。あちゃー、こんな時間まで寝こけてしまいましたかー。で、私が起きてくるのを待ってられなくなった息子とだんなが先に朝御飯を食べていた、と、そういうことですかー。あちゃー。

「ぼくはね、カリカリを食べたんだよ」
と息子に報告され、とりあえずメールチェックをする私の頭も頭の中もぼさぼさという感じ。そういえば昨夜も何やかんやと一人夜中まで遊んでいて、寝たのが午前2時過ぎだったのだ。最近ちょっとダメ人間な私……。

数十分後、一人さみしく朝御飯。台所にあった昨夜のジャーマンポテトとスープに目が合い、じゃあパンだよなぁとかなり昔に冷凍庫に突っ込まれたままだったテーブルパンを取り出してオーブンで焼いてみた。……まずー。
確かこのパンを買ったのって秋口くらいだったっけ、あんまり大量に袋に入っていたから食べきれずに冷凍し続けたんだよなぁ、と記憶を掘り起こしつつもそもそ齧ったけれど、かなり濃厚な冷凍臭さが染みこんでしまっていた。冷凍庫特有の、なんともいえない匂いが温めたパン本来の匂いをすっかり駆逐してくれている。臭い。まずい。食べてらんない。しかも一人。

涙目になってぽそぽそパンを齧っていたら、息子が横に座って相手をしてくれた。
「なに食べてるのー?」
「パン、食べてるの……」
「ふーん。おいしそうねー?」
「……食べる?あげるよ?なんなら全部」
「うん、食べるー」
そして5秒後、「やっぱりいらなーい」とパンを置いて走り去ってしまう息子だった。かくなる上は外の小鳥さんやリスさんにでも……。

納豆ご飯
彩ひじき(残りものー)
アイスティー

朝からだるいだるいと言っていただんな、どうやら風邪らしい。
「腹具合がめちゃめちゃで……トイレに座ると、"じゃーっ"なんです……」
と、朝食を食べた後はベッドに籠もりきり。やっとの思いでうどんは食べたけど昼御飯も夜御飯も全然ムリかも……という具合の悪さらしい。ここ1週間ばかりひいていた私の風邪が伝染ったのだとしたら申し訳ないことだ。でも、私の風邪は喉と鼻にきているだけで胃腸はいたって元気。今、私が手放せないのは便器じゃなくてティッシュの箱だ。

遅めの朝御飯だったので昼御飯はどうでもいいやと思っていたところ、息子から「おなかすいちゃったなぁ……」と午後1時過ぎに催促を受けた。お菓子の箱をじーっと見上げて「これでもいいよ?」などと言っているので、そんなのダメだよちゃんと食おうよと冷凍御飯をチン。幸い数日前に作った彩ひじきがまだ残っていたのでこれを添え、納豆も出した。私も茶わん半分くらいの御飯をよそい、納豆を息子と半分こ。納豆は良い。納豆は旨い。周囲にねばねばが伝播しまくってしまうのがやっかいだけど、これも懐かしき日本の味なのよね、と最近日本食材屋で頻繁に納豆を買ってくるようになってしまった。うまいわうまいわ、と食べていたところ、横から
「……なっとう、もうないの?」
と息子の声。「なくなっちゃった……」と呟く目線の先を見ると、茶碗からは納豆だけが綺麗に消え失せていた。ちゃんと御飯と一緒に食べなきゃいかんでしょー、と私の分からちょっとだけ分けてやりつつ、親子並んで納豆喰い。

親子丼
彩ひじき(まだ残ってる……)
にんじんとツナのサラダ(昨夜の残り)
ジャーマンポテト(昨夜の残り)
冷茶

本当は鶏肉とバジルのタイ風おかずでも作ろうという予定だったけれど、だんなの調子がゲレゲレなのでエスニック料理は却下。
「親子丼みたいなものなら食べられる?」
と聞くと、「玉子丼みたいなのでいい……」という返事だったので、じゃあ君は鶏抜き親子丼を食べればよろしかろう、と鶏肉を醤油と味醂で煮始める。ちょっと大きな鍋に全員分の"鶏と卵の煮物"を作り、御飯にぶっかけて食べようというちょっと乱暴な親子丼にすることにした。幸い残り物があれこれあるので、親子丼を作るだけで食卓はそこそこ華やいだものに。ジャーマンポテトあたりが今ひとつ不似合いだけど気にしないことにする。

醤油と味醂を同量にしたのだけど、今ひとつ今日は甘さが薄めな感じ。ちょっと大人っぽい味になってしまった親子丼は、しかも調味料がちょっと多めだったからか卵がどす黒くなってしまったのだった。毎回毎回"今度は薄口醤油を使おう"と思うのだけど、次に作る時にはまた忘れて普通の醤油を使っちゃうんだなぁ。

3/31 (月)
鶏肉とバジルのタイ風炒め飯 (夕御飯)
バナナ入りコーンパフ

昨日は夜更かししたわけでもないのに、
「おとーさん、おなかすいたよー。イチゴのカリカリ食べたいなぁ」
「はいはい」
などという会話で目が覚めた。……9時だ。あらまぁ。

最近の息子は、毎日のようにフローズンストロベリー入りコーンフレークを食べたがっている。適当に甘いし、イチゴ入りで色も綺麗だし、色々息子のツボに入っているのだろう。でも、毎日ってのはあんまりよろしくないような気がする。
で、今日は、甘くない"コーンパフ"というシリアル。直径5mm程度のぷわぷわとした球形のシリアルで、箱にはイチゴのイラストがついていたのでてっきりこれもフローズンストロベリー入りだと思って買ってきたところ、大ハズレしたものだ。イチゴは入っておらず、ひたすらぷわぷわした球ばかり。それそのものの味も今ひとつ物足りなく、どうしたもんだかなぁと困っていたシリアルだ。

だんなの風邪(というか腹下し)は未だ絶好調らしく、
「……うーん、バナナくらいは食べられるかな……ていうか、食べたいかなぁ」
と、顔色悪く唸っている。で、1本のバナナの半分はだんなに、残りはスライスして私と息子でシリアルに放り込んで食べた。
バナナ入れても、やっぱり今ひとつ物足りない味のシリアルではあったけど……軽めの朝御飯ということで。

卵御飯
アイスティー

"華厳の滝"状態の胃腸を抱えつつ、ふらふらと一旦大学に行っただんなは、昼前に戻ってきた。
「何か食べたいなぁ……」
と台所で活動し始めたけど、一体何を食べたいのか本人にもピンと来るモノがないらしい。カップラーメンなんて止めとけー、とか、冷凍食品もちょっと違うんじゃないか、とか、ちょこちょこ協議した結果、"卵御飯"ということに。

サルモネラ菌汚染が心配されるアメリカの卵を使っての卵御飯なんて、華厳胃腸でなくてもちょっと危険な香りが漂う食品だ。我が家はとりあえずは"1分ゆで卵でサルモネラ菌は防げると仮定する"という前提で半生卵を食べている。今のところは問題ないけど、毎回ロシアンルーレット気分が味わえていることはあまり変化していない。このまま帰国までサルモネラ菌とは遭遇しないまま終わるといいなぁ。

というわけで、熱湯の中に生卵を1分つけ、それを使っての卵御飯。白身はうっすら白身がかっているけれど、黄身はほどよく生なので全く問題なく卵御飯は楽しめる。醤油をちーっと垂らした溶き卵を御飯にぶっかけ、風味づけに鰹節をひとつまみトッピング。

鶏肉とバジルのタイ風炒め飯
韓国風牛肉のスープ
ビール(San Miguel)

ここ数日、
「ナンプラー味のものが食べたい。バジルたっぷり入っているやつがいい」
とタイ風の飯に飢えていた私。だんなの腹具合は"華厳の滝"クラスから"白糸の滝"クラスほどにまで良くなったらしい。何より、本人が
「そろそろガツンと食べて力づくで胃腸をねじ伏せる!」
という気分になったようなので、予定していたタイ風のぶっかけ飯を決行することにした。

にんにく薄切りを炒め、そこに一口大にした鶏肉を投入。適当に炒めたらパプリカと赤唐辛子を加えて炒め、そして調味。鶏ガラスープとナンプラー、酒、砂糖を適当に「こ、こんな感じ?」と食べたことのあるタイ料理の炒め物の味を想像しながら加えてみる。……なんか、物足りない。物足りないけど、手元にタイっぽい調味料はナンプラーくらいしかない。下手にコリアンダーだのクミンだのの粉末加えたら別の方向にいっちゃいそうだし、と、味つけはスープとナンプラーと酒と砂糖に留めておいた。最後にバジルの葉をうりゃーっと放り込んでざっとかき混ぜたらできあがり。汁ごと御飯にぶっかけて、ついでに目玉焼きを添える。

シチューというよりは澄んだスープが飲みたいなぁ、と呟いただんなのために、スープは牛肉とワカメの入った胡麻風味スープ。組み合わせとして、親子丼にカルビタンを一緒に出したような面妖なものになった気もするけど、それほど似合わなくもないので今日の献立はこれできまり。

鶏肉のタイ風炒めは、思ったよりもちゃんとタイっぽい味になってくれた。そうそう、こんな味のが食べたかったのよー、とにんにく風味のスープをじゃばじゃば御飯にかけつつ食べた。鶏肉を海老に代えて同じように作っても、きっと美味しいだろうなぁ。