食欲魔人日記 02年12月 第1週
12/1 (日)
OMELET SHOPPE(Abingdon)にて、「Ollie's Supreme Omelet」 (昼御飯)
バージニア州Staunton 「DAYS INN」にて
 焼きたてワッフル
 オレンジジュース・牛乳

「ホームメイドのあつあつワッフルが朝食に無料で食べられますよー」という案内に惹かれて泊まってしまった昨夜の宿。1泊39ドルという安さだけあって、バスルームに置かれたシャンプーは小袋入りのものが1つきりだったりした。
「これで朝御飯、ワッフルがなかったら暴れるよね」
「とりあえず暴れるよね」
と、ちょっとどきどきしながらロビー棟に無料朝食を食べに行く。色々なモーテルを泊まってきているけれど、ワッフルが喰えるというのはここが初めてだ。

テーブルと椅子が並んだロビー隣接の喫茶コーナーには、よくある朝食ワゴンが出ている。コーヒーサーバーにジュースサーバー、ダイヤルをひねるとコーンフレークがダバダバ出てくるシリアルケースにローファットミルク。隅っこにベーグルが用意されており、そして確かにワッフルマシンがそこにあった。"あつあつワッフル"というのは間違いじゃなかった。何しろ自分で焼くのだから、出来立てのが食べられるのは当然だ。
電気式のワッフルマシンの脇には、紙コップに入ったワッフル生地が並べられていた。紙皿と共に袋入りのメープルシロップとプラスチック製のフォークとナイフもたっぷり用意されている。説明書きを見ながら、初めて自分でワッフルを焼いてみた。めちゃめちゃ簡単だ。

マシンにスプレー容器に入った油を吹きつけ、生地を流して蓋をする。ピピピピとタイマーが鳴ったらガチョンと180度回転させ、そうすると2分のタイマーが動き出す。再びタイマーがピピピピと鳴ったら、蓋を開けて取り出せばOK。急いで取り出し、アツアツのところをはふはふ言いながら囓った。
焼きたてワッフルは、モーテルの朝食の中ではとびきり美味しく感じられるものだった。この寒い季節、あったかいものが食べられるというのがとにかく嬉しい。
「俺、焼きたてのワッフル食べるのは初めてかもー」
と異様に喜んでいただんなは、あやうくもう1枚焼いて食べるところだった。

バージニア州Abingdon 「OMELET SHOPPE」にて
 Ollie's Supreme Omelet
 アップルジュース

バージニア州からテネシー州の我が家へ、今日も一日ドライブ。
だんなはすっかり長距離ドライブに慣れたらしい。慣れたどころか、"楽しくてしかたがない"というところまで来てしまったのだと、言っている。
「だってさー、日本じゃ"一日800kmを車で移動"とかって普通できないよ?面白いじゃん」
などと言いながら今日もアクセルをぐぐぐぐぐっと踏み込むのであった。でもバージニア州はスピード違反に厳しいらしい。実際、道すがら何度も警察の車が張っているのを目撃したし、捕まっている車も見た。用心しながら、それでも微妙に飛ばしながら我が家を目指す。車の旅はなかなか楽しくて、飛行機が大嫌いであるだんなは一層
「車運転し続ける方が、飛行機乗るより消耗しなくていいかもしんない……」
などということを感じてしまうらしかった。今度はニューオーリンズかフロリダあたりまで車で行くことになるのかもしれない。

昼御飯は、高速道路上に"次の出口ではこんなお店がありますよー"と出ている看板を眺めつつ、適当に決めて行ってみることに。小さな町を通過する前、「OMELET SHOPPE」なるオムレツ専門店らしき看板があるのを見て
「そういえば卵料理、全然食べていないねぇ」
「オムレツは、軽そうで良い感じだねぇ」
と、そこを目指すことにした。

チェーン店かと思いきや、地元のここだけでやっている家族経営の小さなダイナーだった。店頭には「クレジットカードもパーソナルチェックも使えません」と手書きの張り紙が出ており、シンプルなボックス席とカウンターがあるすぐ奥が厨房になっている。その厨房では推定体重0.1トンくらいの体型のおばちゃんがオムレツパンをふるっているのであった。何だかとってもいい感じ。

メニューには自慢のオムレツの他、ハンバーガーやステーキ類も並んでいる。が、ここは当然オムレツを食べるでしょう、と10種類くらいあるオムレツメニューの中から「Ollie's Supreme Omelet」なるこの店のスペシャルメニューを注文してみた。説明書きには
「Sausage, ham,onion,bell pepper, loaded with cheese & topped with chili or spanish sauce」
と書いてあって、いかにも具沢山な様子だ。

息子の分のも含めて、オムレツを3種類注文。推定体重約0.1トンのおばちゃん、猛烈な勢いで動き始めた。お兄ちゃんがパンにバターを塗りまくってトーストし、コンロには脇にいくつも重ねられているオムレツパンが並び始める。じゃがいもの焼ける良い匂いもしはじめ、十数分経ったところで私たちのテーブルに一斉に料理が並べられた。

これは、"オムレツ"と言って良いものなのかどうか。卵料理かどうかすら怪しく思える、なんとも具沢山な食べ応えのある料理が私の前にやってきた。ふわふわのオムレツの中には、とろけたチーズがたっぷりとくるまれていた。更にたっぷりの刻んだハムやソーセージ、玉ねぎやピーマンなどもざくざく出てくる。もう、具だけで卵の2倍量(しかも卵は3〜4個使ってるんじゃないかというボリューム)ある感じ。そして上からかかったスパニッシュソースは、ソースというより"スパニッシュ煮物"と言った方が良いんじゃないかというシロモノだった。ピリッと辛さのある、トマトがベースの玉ねぎやピーマン入りの赤いソースがどっぷりと卵の上にかかっている。トマトはやや生っぽさがあって、ほんのり甘くてほんのり酸っぱく、それにしても大量だ。

そして、6ドルちょっとのこの料理、オムレツだけじゃ終わらなかった。別皿にはじゃがいも2個分はありそうな量のハッシュドポテトがこんがりと焼かれて盛られている。好みで玉ねぎやチーズ、マッシュルームなどを加えてくれるとのことで、私は玉ねぎを混ぜてもらった。バターの香りがほんわり漂う、ところどころカリカリと火が通ったハッシュドポテトだ。で、そのたっぷりのハッシュドポテトの脇には2枚の食パンのバタートーストまで添えられているのであった。ジャムもしっかりパン1枚につき1個、ミニ容器入りのものがついてきた。

「いかにも南部に戻ってきたって気がするよー」
と笑いながら、巨大オムレツと格闘する。どこつついても、卵以外の何かが中から出てきて、とにかく具沢山なオムレツだった。じわっと辛さが広がるスパニッシュソースが案外とぽいぽい食べ進められる原動力になっちゃったりして、それでもやっとの思いで平らげたオムレツだった。

息子はシンプルなチーズ入りのオムレツをしっかり平らげ(さすがにハッシュドポテトとトーストまでは手が出せず、ドギーバッグに入れて車に持ち帰った)、だんなはチーズと薄切り牛肉入りの"チーズステーキオムレツ"を幸せそうにすっかり綺麗に平らげた。

実は、この店に入る直前、右折しようとウィンカーを出して減速したところで後ろからピックアップトラックに衝突された我が家の車(幸い目立つ傷もついておらず、そのまま何事もなく運転して帰ることができた)。
色々動揺しまくっていたのだけど、美味しいものを食べてなんとなく心も落ち着いたのだった。

Nashville 「SHINTOMI」にて
 白子入り冷茶碗蒸し
 うな重
 キリンビール

午後6時半、途中渋滞にひっかかりながらも無事に我が家に到着した。
1時間ほど荷物の片づけなどした後、
「なんか和風のものがちょっと恋しいかも……」
と何も食材が入っていない冷蔵庫に絶望しながら、近所の日本料理屋に行くことに。

店頭に「今日のおすすめ」と張り紙がしてあった中から「白子入り冷茶碗蒸し」を注文し、そしてメインディッシュはうな重。
白子が底に沈んだ茶碗蒸しはキリリと冷やされ、海老や銀杏も入っていた。上には甘辛く煮付けた椎茸も乗っている。更にちょっと酸味をつけた醤油味のあんが上に張られ、もみじおろしと刻み葱が添えられていた。なかなか凝っていて、しかもなかなか旨かった。
そして、うな重。同じ値段で、日本だったら3倍くらいの鰻が乗っているよなぁと感じてしまいつつ、1/2尾分ほどが乗った鰻を囓る。ちゃんと鰻は鰻の味だったし、甘めのタレもちゃんと鰻のタレの味。しかしながら、鰻本体も鰻のタレもこの地では貴重品なものだから、鰻本体も鰻のタレもちょっと控えめな量なのだった。御飯ばかりが余ってしまって、ちょっと悲しい。

明日は我が家で御飯を炊いて豚汁でも作ろう。そしてちょっと粗食に戻ろうじゃないか、とちょっとだけ決意してみたりして。

12/2 (月)
Johnny Rockets(Nashville)にて、オリジナルバーガー (昼御飯)
「DEAN&DELUCA」のマーブルパウンドケーキ
牛乳

長旅も終わり、今日は目が覚めるまでとことん寝るぞと思っていた……ら、6時半に目が覚めた。どうも、まだまだまだまだドーパミン大噴射状態であるらしい。そんなにハイテンションを持続しなくてもいいじゃないか、と自分の身体に愚痴垂れてみつつ、一人起きて仕事などしてみた。

8時半に息子が起きて、10時にやっとだんなも起床。長距離運転も終了し、だんなは良い感じに身体の力が抜けた模様。私も10時頃まで眠るつもりだったんだけどなぁー。

気がつけば、冷蔵庫の中には何も入っていない。牛乳も飲み干して出発したし、コーンフレークすら空にして旅行に出てしまったのだった。食べ物はないか、と台所を捜索したところ、ニューヨークで買ってきた「DEAN&DELUCA」のマーブルパウンドケーキを発見。
「おー、食べ物があったぞー」
「ケーキだけど、気にしないぞー」
「……だが、飲み物がないぞー」
と、私が洗濯に行っている間にだんなが息子と近所のスーパーで牛乳を買ってきてくれた。買い物に行ったならパンでもコーンフレークでも買ってくれば良さそうなものだけど、そこはパウンドケーキを食べることを貫き通すのが人のあるべき姿だと思う。いや、一度"これを食べよう"と思うと、なかなか覆らないものだし。

バターどっさり、ほんのり洋酒の風味が効いたパウンドケーキは適度な甘さでしっとりとしていた。ココア生地は甘さ控えめ、食べ応えはあるけれどいくらでも食べられそうな危険な味だった。

Nashville 「Johnny Rockets」にて
 Original Shakes & Malts (Vanilla) $3.69
 The Original Hamburger $4.49

12月に入り、町中がクリスマス。日本にいる家族に何かプレゼントでも贈ろうと、ニューヨークであれこれお買物してきた。が、
「やはり、おばーちゃんなどには、いかにもカントリーなものを送りたい」
「私の母は、カントリープリプリ系が好きだしなぁ」
と、"いかにもテネシー"なノリのプレゼントはないものかと、近郊にある大型モール「OPRY MILLS」に行ってみた。スモーキーマウンテンに本店があるらしい、いかにもなカントリー調土産物屋を発見し、めでたくプレゼント購入。

昼御飯は、モール内の「Johnny Rockets」なるハンバーガー屋さんで。確か六本木にもあるお店で、若かりーし頃、夜遊びついでに何度かここで夕飯を食べたことがある。山のようなフライドポテトと、テーブルに置かれた巨大ケチャップが印象的な店だった。アメリカに来る直前、だんなが一人この店に来ようとして"再オープンの目処たたず休店中"だったのだとか。
「あの時の屈辱を、今はらすのだー!」
と何の屈辱なんだか不明なままにこの店に乗り込んだ。

赤茶色の髪の長い給仕のおねぇさん、頭にはサンタ帽をかぶっている。天井には一面にクリスマス電飾がキラキラと輝いちゃって、あちらこちらにクリスマスツリーが。ハンバーガー屋も全体的にクリスマスだ。
オニオンリングとフライドポテトの盛り合わせを頼み、「やっぱりここはシェークを飲むでしょー」と、バニラシェークを1つ注文。
やってきたシェークは、器が2つあった。口が少し広がったガラスのコップになみなみとシェークが入りホイップクリームが絞られていて、更に金属のコップ(これに材料を入れてガーッとミキサーにかけるのねー、みたいな)にまだ半分くらいそのシェークが入っている。
「えっと、これは……」
「ほら、紅茶を頼むと"お代わりお湯"がついてくるじゃない。つまりはそういう……」
「シェークのお代わりかよ!」
と盛り上がりつつ、そのお代わりつきシェークを家族全員で飲みまくる。シェークの注文を1つにしておいて、本当に良かったと思っていると、ハンバーガーもやってきた。

厚切りトマトに刻みレタス、玉ねぎもたっぷりと挟まり、肉は表面がカリッと香ばしく焼けている。とびきりの味ではないけど、普通に美味しいハンバーガーだった。揚げたてのオニオンリングやフライドポテトにはピクルス入りのマヨネーズのようなソースもついてきて、ケチャップつけたりソースつけたりしながらぽいぽい食べる。しかし……シェークが多い。

ハンバーガーをもりもり食べていると、店内のBGMが突然大音量になった。妙にボリュームが大きいなぁ、と思っていると、カウンターから店員さんがわさわさとテーブルの脇に出始め、店内をくるくる回りながら音楽に合わせて踊り始めた。ある時間毎の定番のショーなのか、はたまた"ジュークボックスで、ある音楽が選択されると踊らなければいけない"という規定でもあるのか、ともかく数分間、店員さんが踊りまくる。店のお客も、窓の外を歩くお客も「なんじゃいなー」という顔で眺めてしまうのであった。髭のおっさんも、恰幅の良いおばちゃんも、キュートなおねぇちゃんもニコニコしながら踊っている。

更にその数分後、
「このスタッフが、今日お誕生日なんでーす!」
と、サンタ帽のおねぇちゃんが、"いや、私、いいって……"と尻込みしている金髪の可愛いおねぇちゃんを厨房から引っぱり出してきて、
「いいですかー?12の3でハッピーバースデーと言ってくださいねー」
と店内に叫んだ後、せーのでハッピーバースデーを店内全部で唱和&拍手。金髪のおねぇちゃんには、お店から特大チョコレートサンデーがプレゼントされた模様で、"いや、だから私、いらないって……"と苦笑いするおねぇちゃんはカウンターでそのサンデーを一人もりもりと食べることになるのだった。
何だか妙に楽しい店だ。

だんな特製
 豚肉のにんにく焼き サラダ添え
 豚汁
 羽釜御飯
冷茶

夕方になり、その頃になってどっと疲れが出てきた。
「豚汁、作りましょう」
「生姜焼きでもやりましょう」
「じゃあ、御飯は気合いを入れて"あきたこまち"を炊きましょう」
などと夕飯直前まで燃えていたのに、夕方6時半に鎮火。布団にのめりこんだら動けなくなり、そのまま寝てしまった。意識の彼方で、だんなが米を研いだり大根を刻んだりしている音が聞こえてきて、"だんな、すまぬー……動けぬー"と謝ったり感謝したりしているうちに、爆睡。目が覚めたのは午後9時だった。家全体に豚汁の良い匂いが漂っている。

「おー、やっと起きたかー。もう起きないかなぁと思って、豚のにんにく焼きでも作ろうと思っていたところだったよ」
と、だんな。すみませんすみません、とりあえずお茶でもいれます、とパタパタ動いて遅めの夕御飯となった。

アメリカに来て初めて炊いた、秘蔵の"あきたこまち"。先日、日本にいる母が2kgばかり他の荷物と共に送ってくれたお米だった。んもう、あからさまに美味しい。アメリカの米では「国宝」なるブランドがそこそこ美味しいとは思うけど、それでも日本の米の味は身震いするほど旨かった。こってり味をつけたにんにく風味の醤油と味醂味の豚肉炒めが、これまた御飯と良く似合う。豚汁も、私が作るのとさほど変わらない味がして、全体的に日本の味が満喫できた夕御飯だった。私はお茶しか入れてませんが……明日は、明日こそ何かするぞ、おー!ということで。

12/3 (火)
KIEN GIANG(Nashville)にて、「Pho Nam Gan Sach」 (昼御飯)
2日目の豚汁
卵御飯
牛乳

今日は朝早くから、だんなは大学の授業に出席しに行った。私と息子は布団の中から「行ってらっしゃ〜い」とお見送り。まだ私も息子も半ば寝ぼけていた状態だったので、1時間ほどしてから2人で朝御飯を食べた。
「豚汁と、御飯でいいかなー?」
と準備し始めたところ、背後から息子が
「おかーさんおかーさん、卵のごはんが、おいしいと思うなー」
と何やらアドバイスしてくる。
「卵のごはんが、食べたいなー」
と囁いてくる。そういえば、最近、卵御飯食べていないわねぇ、とアドバイスに従って卵御飯にすることにした。

サルモネラ菌が含まれているかもしれないアメリカの卵を使っての卵御飯は、常に気分はロシアンルーレット状態。いつ当たるか当たるかと思いながら、それでも誘惑に負けてついつい食べてしまう。それでも生のものを生のまま食べるのは恐怖なので、"1分ゆで卵"を実行してから卵御飯にするようにはしている我が家。サルモネラ菌は70℃1分の加熱で死滅し、多くは殻と白身の間に含まれているため、"生卵を1分だけ熱湯に漬ける"ことでサルモネラ菌の恐怖から逃れられる……というのが一応の根拠だ。料理本でもシーザーズサラダの作り方などで、こうしているのを見たことがある。……けど、なんとなく気休めという気もしないではない。

そんな母の密かな苦労も知らずに、息子は
「やっぱり卵ごはんはおいしいねぇ〜」
とニコニコしながら食べているのであった。ちゃんと豚汁も喰え、息子。

Nashville 「KIEN GIANG」にて
 Cha Gio
 Goi Cuon
 Pho Nam Gan Sach

「Miss Saigon」なるベトナム料理屋のフォーが旨いので一緒に行こう、と、だんなが研究所の人々に誘いをかけたらしい。
「で、Iさんと、あとA先生とMさんが一緒い行くことになったんだけど……おゆきさんも来る?」
と、昼前にメールで連絡が入ったのだった。ベトナム料理!?いくいくー、と、私と息子も一緒についていくことに。

研究所から車で20分ばかり。ダウンタウンからちょっと離れた郊外にちょっとしたショッピングモールがあり、その一角がベトナム人街のようになっている。「Miss Saigon」の他にもベトナム料理屋があるし、食材屋もある。
大型店が撤退し、あとは寂れるだけとなった風情のモールに車を入れると、「Miss Saigon」は火曜定休でお休みだった。あららららー、と、そのまますぐ脇にある「KIEN GIANG」なるもう1軒のベトナム料理屋に行ってみることに。人によっては「Miss Saigon」より美味しい、と言われている店なので一度来てみようと思っていた店だった。

生春巻「Goi Cuon」を人数分注文し、息子用に揚げ春巻「Cha Gio」を。皆揃って麺料理を注文し、私は 「Rice Noodle soup with well - done Flank. Beef Tendon and Bible Tripe」
と説明のあった「Pho Nam Gan Sach」なるものを。
品名は、全てベトナム語で書かれており、英語の説明がちょっとばかりあるだけのメニューだった。ベトナム料理の料理名もちょっと勉強してみようかしらん。さっぱりわからない。

これでもかと具を詰め込んだ生春巻がやってきた。中には春雨がたっぷり巻かれ、豚肉や海老、タイバジルなどもみっしりと詰まっている。海鮮醤にピーナッツを散らしたような甘辛いタレが添えられてきて、浸しながらもりもり食べる。上品さは全くない、食べ応えのあるどっしりした生春巻だ。息子の前には、やはり春雨がたっぷり入った揚げ春巻きがやってきて、それにはスィートチリソースが添えられてきていた。

そして薄切り牛肉や内臓肉がどっさり入ったフォーがやってきた。麺の上には一見麺と同じように見えるヒラヒラしたトリッパがんばーっと散らされ、薄切り牛肉もたっぷりと。刻み葱や玉ねぎが乗り、更に別皿に生のモヤシやライム、タイバジルなどが山になって添えられてきた。それらを適当に麺に放り込みつつ、しばし皆、無言でツルツルと麺を啜る。目の前ではA先生が私よりも器用に箸を使って麺を食べている。隆々とした体型の、トレンチコートがこよなく似合うロマンスグレーのA先生と汁ビーフンなんて、なんだか凄く違和感だ。

化学調味料の味も漂ってはいたけれど、ほんのり甘いスープはそれでもどこか懐かしい味がした。

だんな特製 カルボナーラリングイネ
グリーンサラダ
ビール

午後はWAL☆MARTにお買物。どこもかしこもクリスマスになりつつあり、なんとなく私もそわそわそわそわしてしまい、クリスマスツリーを買いに行ったのだった。クリスマスツリーは、根本から切られた生木ものもある。それを支える生木用ホルダーなんかも売られていて、「やっぱり生木よねぇ……」と生木コーナーをうろうろ。でも、結局は持ち帰るのにあまりに大変そうだったので組立式の普通のツリーを買ってきた。17ドル弱で、高さ180cmくらいはあろうかというツリーだ。ツリー用のライトは100個ついてるやつが2ドル弱。あれこれ買いたくなる気持ちをぐっとこらえて、最低限のものだけ買ってきた。油断すると玄関前などまであれこれ飾り立ててしまいたくなってしまう。

夕方からツリーを飾り、更に「おゆきさん、髪、切ってよー。もう、鬱陶しくて」というだんなの髪をショリショリとカット。アメリカ人の美容師さんは日本人の髪に今ひとつ馴染みがないようで、周囲の男性陣はなかなか大変なことになっている。Iさんなんて、一時期"おぼっちゃまくん"のような前髪になってしまっていた。なのでアメリカ滞在中はなんとなく私が切ってあげることになっているのだった。

あれこれやって少々疲れ果て、んぼーっとしていたところ、切った髪の毛流しついでに入浴してさっぱりしただんながカルボナーラを作ってくれた。生クリームちょいと多めの、こってりカルボナーラだ。ついでにサラダ野菜も出し、夕飯はパスタとサラダで軽めに終えた。
ベーコン多め、チーズ多めのカルボナーラはちょっとばかり塩辛かったけど、それがまたビールに似合っちゃって危険な味。

12/4 (水)
朝食に中華粥♪ (朝御飯)
だんな特製中華粥 ピータン入り
中国茶(龍井)

ニューヨークのチャイナタウンで、待望の干し貝柱を1ポンド買ってきた。
「これで中華粥ができるね」
とわくわくして帰ってきたのだけど、昨夜からだんながパタパタと仕込みをしてくれた。
米をしばらく水に浸した後、少量の胡麻油と共に干し貝柱を加え、炊いていくだけ。今回は豚肉まで入っている。

「お粥と言ったらピータンピータン♪香菜香菜♪」
と私は自分用のピータンと香菜を山盛り準備し(だんなはそのどちらもあんまり好きではない)、チャイナタウンで買ってきた油条をハサミで大ぶりにざくざくと切る。椀の表面を覆い尽くすほどあれこれトッピングしたら、いただきます。

朝食に中華粥というのは、やはり良い。冷凍ワッフルや冷凍パンケーキを食べるよりもしみじみと活力が沸いてくる感じ。
「ま、お腹が膨れるわりに腹持ちは悪いんだけどね」
「昼には超空腹になっちゃうんだけどね」
と言いながら、しっかり椀に2杯の粥を平らげた。で、2時間後には微妙に空腹……。

「DEAN&DELUCA」のマーブルパウンドケーキ
抹茶ミルク

今週の金曜日には「おでんの会」を留学生仲間うちで企画している。その材料仕入れの相談も兼ねて、H夫人と打ち合わせがてら、「うちに遊びにおいでー」と誘ってみた。

朝食の粥以来、何も口に入れてなかったのですっかり空腹。上品に薄切りにするつもりが心持ち厚切りにしてしまいながら、ニューヨーク土産のパウンドケーキを切って出した。日本から持ってきていた「L'EPICIER」のインスタント抹茶ミルクを温かい牛乳に溶いて出し、パウンドケーキに抹茶ミルクという組み合わせはどうよと我ながら思いつつ、「んふふふふ〜」と笑いながらしばらくおしゃべり。

牛肉のたたき4ポンド
 にんじん・大根・セロリ・パプリカ・アルファルファ
 にんにく生姜だれ
 ライム醤油だれ
 わさび醤油だれ
 おろし醤油
 グレービーソース
パンプキンスープ
羽釜御飯
ビール(アサヒスーパードライ)

中国茶(龍井)
サンザシ・ドライマンゴー

昨日WAL☆MARTに行ったところ、4ポンド強の塊牛肉が6ドルちょっとで売られていた。
「ん〜〜〜〜牛のたたきをやりたいなぁ……」
「でも、ちょっと大きすぎだなぁ……」
「助っ人、呼ぼうか」
と、急遽Iさん・Mさんを我が家に呼んで"牛のたたき夕食会"に。
サンクスギビング前に、「サンクスギビング週間の休業に伴い、当レストランでは早めのサンクスギビングディナーをご用意させていただきます」なんてふざけた招待状を出したものだから、
「ねーねー、レストランはいつ再オープンするの?」
なんて2人にせっつかれていたりした。

ダッチオーブンをカンカンに熱して塩胡椒とおろしにんにくをこれでもかとすりこんだ塊肉を全面こんがりと焼きつける。あとは蓋をして40分くらい蒸し焼きに。火を通している間、肉で巻いて食べられるように野菜類を細切りに準備し、各種タレの仕込みもする。大根おろしと醤油。たっぷりのおろしにんにくに生姜を加えて醤油・煮切り味醂・煮切り酒を加えたもの。わさびを醤油で溶いたもの。ライム果汁に醤油・煮切り味醂・煮切り酒を加えたもの。そして鍋にたまった肉汁で作ったグレービーソース。いつもながら"牛のたたき"だか"ローストビーフ"だかよくわからない料理だけど、適度に焼けた肉をざくざくと薄く薄くスライスしていく。1人1ポンドあれば余裕で足りるかと思ったけれど、切っていたら不安になってきた。
御飯は4合準備したし、冷蔵庫に残っていた南瓜でスープも作った。あとはひたすら肉を喰いましょう、という状態に整え、クリスマス飾りを整えた我が家に出迎える。

平皿にこれでもかと切って乗せた牛肉は、恐ろしいスピードで減っていく。ビールがなくなっていなかったけれど慌ててスープも出し、"たんと飲め!"とすすめ、御飯も早めによそって配った。それでも肉がなくなっていく。よ、4ポンドあったんですが……。
肉の中心部は美しく薔薇色で、今日もなかなかの火の通り具合だった。
Mさんは
「にんにくダレが……いいっすねぇ……」
と、にんにくダレに御執心、Iさんはわさび醤油が気に入った様子だ。だんなはライム醤油がお好みで、私は……どれもそれぞれ旨いと思う。

そして4ポンドの肉は綺麗さっぱりなくなった。
食後に中国茶を出したついでにドライマンゴーとサンザシを小皿に出したら、それもバリバリ食べられていく。
「この……サンザシ、ですか?面白い味だなぁ……」
としげしげ眺めていたMさん、最初は美味しくなさそうにもそもそ囓っていたはずなのに
「なんで丸いんだろ……平たいんだろ……」
とポリポリポリポリ食べ始めた。止まらなくなったらしい。

彼らを呼ぶ度、毎回彼らの胃袋の容量を侮っていたと思い知らされる(今日なんて、Iさんが食べた御飯は4膳だ!)。おでんは一体何人分用意すれば良いんだろう。

12/5 (木)
久しぶりに、鮭御飯 (夕御飯)
コーンフレーク with 牛乳

今日は8時50分の予約で病院に行くことになっている。突然右目が見えなくなったのは、ちょうど1ヶ月前の事。3日間のステロイド点滴に続いて10日間の経口ステロイド服用もサンクスギビング前日に飲み終え、その経過診断だった。

7時半に目覚ましが鳴ったものの、「ねむ〜い」「さむ〜い」「布団からでられな〜い」とごにょごにょしているうちに8時近くに。慌てて家族でコーンフレークをかっこんで出かけることになってしまった。ここ数日はテネシー州も冷え込んできて、車のドアを開けようとしたら氷でバリバリに凍っていることに気がつく。昨夜のうちに雪が降ったようで、ボンネットにはうっすらと白い結晶がこびりついていた。いよいよ冬本番なのかもしれない。

Nashville 「Cuisine of India」にて
 ランチカレーブッフェ $5.95

1時間ほどで診察も終わり、10時過ぎにだんなが所属する研究所に出向いて「ほぼ完治だそうです!」と御報告。スタッフMさんにもA先生にも多大な心配をかけてしまったけれど、多分もう大丈夫……だと思いたい。来月半ばには神経科の医師に一応診察してもらうことにもなっていて、一応それで全てが終わる……はずだ(弱気だなぁ)。
主治医のR先生(←"天空の城ラピュタ"のムスカ似)は、顔を見て一瞬本人とはわからないほど、顔つきが変わっていた。顔が丸っこくなり、どうもお太りになられたよう。
「R先生、太ったよね」
「わかった!サンクスギビング太りだ!」
「ターキーの食べ過ぎかぁ!」
と、今日付き添ってくれただんなと2人、密かに盛り上がる私たちだった。

なんだか無性にカレーが恋しくて、「昼御飯はカレーが食べたいなー、インドカレーインドカレーインドカレー」と呟いていたところ、大学近くのカレーブッフェに行くことに。カレー大好きのIさん曰く、「周囲に何軒もあるインド料理屋の中でここが一番マシな味」なお店だ。ランチブッフェは6ドル(しかも息子はタダ )という、なかなかに良心的な値段のお店だ。ただし、料理はいつも一緒。

サフランライスと、保温され続けてちょっとペショついたナンがある。カレーは豆とチキンとベジタブルの3種類。ほうれん草の煮込み"サグ"や、野菜の煮物、サラダなども揃っていて、玉ねぎを団子にして揚げたフライとタンドリーチキンがあるのがちょっと嬉しい。デザートにはライスプディング。

表面が真っ赤っかの骨つきタンドリーチキンをわしわし囓りつつ、チキンカレーをナンにどっぷりつけつつ食べる。全体的にクローブの香りが強めのカレー類は好みな加減のスパイシーさで辛すぎることもなく、安心して食べられる味。大学に勤務する人々に人気なようで、お客はほとんどアメリカ人だ。
カレーの味が混ざらないように皿の中央一直線に堤防のようにサフランライスを盛りつけ、左右にカレーを盛りつけたりしつつ、全ての料理をひととおり食べた。……チキンカレーが一番美味しいなぁ。

豚肉とキャベツの治部煮風
冷や奴
鮭御飯
豆腐と油揚げの味噌汁
ビール

魚が食べたいが、近所のスーパーマーケット"Harris Teeter"で安売りしているのは鮭だけだったということで(平目あたりが恋しいけど、1ポンド9ドル以上するんだなぁ……)、本日は久しぶりの鮭御飯。
「鮭御飯と……豆腐の味噌汁だな。冷や奴もつけよう……」
と考えていると、
「残った豚肉を〜、治部煮のようにして添えてみませんか〜」
と、だんなにリクエストされた。そのだんなは、明日の"おでんの会"に備えて2本分の大根の下茹でにとりかかっている。大量のだしもとっているところで、台所は全体的に鰹だしの匂いで充満していた。

脂たっぷりの鮭は茹でてしまうことにして、中まで火が通ったらボウルにほぐす。炒り胡麻と共に御飯に混ぜ込み、風味づけに胡麻油をちろっと垂らしてかき混ぜたらできあがり。"治部煮"はとろみのある甘辛い醤油と味醂味のだし汁で里芋やお麩や人参、鴨肉なんかを炊いたもの……だったような気がするけど、味はおおむねそんな感じで、でも薄切り豚肉と余りものだったキャベツを煮込んでしまう。最後にとろみをつけたところだけが"治部煮"っぽいけど、見た目はただの"豚肉とキャベツの煮物"になった。いいの、治部煮"風"なの、と自分に言い訳しながらテーブルへ。

鮭御飯も冷や奴も久しぶりで、和風一色の食卓に一番喜んでいたのは私でもだんなでもなく、実は息子だったらしい。
「ぼくはねぇ、鮭のごはんが大好きなんだぁ〜」
と鮭御飯をおかわりし、続いて味噌汁もおかわりし、煮物も豆腐も喜んでかつかつと食べている。どうも外食、特に旅行中の外食は息子にとっては微妙にストレスなようで、どの店に連れていってもちょっとばかり不安そうな顔になって
「ぼくねぇ、ポテトとコーラでいいなぁ……」
などと言っていた息子だ。そこでパスタとか点心とか多少馴染みのある味が出てくればまだ誤魔化しがきくものの、オイスターバーなどに入ってしまった日にはクラムチャウダーを啜るのが精々で(まぁ、生牡蠣は抵抗あるよなぁ……と、子供の頃生牡蠣が大嫌いだった私は思う)、ニューヨーク旅行中の息子はちょっとばかり可哀相だった。ポテト注文しても半量くらいはドギーバッグに入れて持ち帰ることになるし、コーラ注文しても3口くらいしか飲まなかったりしている(そして結局私かだんなが脇から飲んじゃう)のだから、本人が言うほどポテトもコーラもそれほど好きではないのかもしれない。

「もしかしてさぁ……ポテトとコーラより鮭御飯と味噌汁が好きだったりする?」
と、鮭御飯と無言で格闘している息子に聞いてみると
「ぼくはねぇ、鮭のごはんと、おみそしると、両方とても好きなんだよ〜」
と返された。そ、そうだったのか。そんなに味噌汁が好きだったか。母は知らんかったぞ。
マクドナルドでポテトを買うように、そのへんで鮭御飯おむすびなんかが買えたりすると良いんだけど、もしかして家族で一番アメリカに順応していないのが息子なのかもしれない。

12/6 (金)
だんな特製 ポルチーニ入りアーリオオーリオペペロンチーノ (昼御飯)
中華粥
鮭御飯おにぎり
豆腐と油揚げの味噌汁
プーアル茶

昨夜作った鮭御飯、
「おにぎりにしておけば、いつか誰かが食べるわねぇ〜」
と6個のおにぎりにしておいた……ら、夕食後1時間後にして
「あ〜!おにぎりだぁ。……たべても、いーい?」
と聞いてくる息子がいたりするのである。……君は確か、茶碗(しかも子供茶碗などないので、小ぶりの大人用茶碗を使用中)に2膳の鮭御飯を食べたのではなかったか。

だめだよだめだよ明日にしなよと昨夜のおにぎり摂取は阻止し、そういうわけでおにぎり朝御飯。更に茶碗杯弱の中華粥も残っていたのでそれもテーブルに出した。粥とおにぎりと味噌汁と中国茶が並び、なんとなく脈絡のない光景になってしまったけど、気にしない。冷えた御飯はなんとなくむなしさが漂うけど、おにぎりにするとなんで冷たくても美味しいんだろうねぇ。

だんな特製 ポルチーニ入りアーリオオーリオペペロンチーノ
アイスカフェオレ

ニューヨーク旅行のとき、「DEAN&DELUCA」で山盛りの生のポルチーニ(←イタリア料理で使われる、キノコ)を見てしまった。
「うわー、初めてみたかも」
と感激して8本ほど買ってきた。国産松茸ほどは高くないけど、輸入もの松茸くらいの値段はして、けっこう勇気が必要な買い物だった。乾燥ポルチーニは買ったことがあるけど、生のものを手にするのは初めてだ。

で、買ってきたは良いけど、悩んでいるのである。
「やっぱり……パスタかなぁ」
「肉と一緒にスキレット焼きにしても香りが楽しめていいかも……」
と、使い慣れない食材を前に困惑していたところ、だんながさっさと
「これはやっぱりアーリオオーリオのパスタにするでしょう!」
と決めてくれた。昼御飯は、だんなが作るポルチーニのパスタ。

「あっはっは、"アーリオオーリオ"じゃなくて"ア〜〜〜〜〜〜リオオーリオ"って感じになりましたー」
と、台所から強烈なにんにく臭をふりまきながら、だんながそう言った。"そんなににんにくを効かせなくても"という量のそれをフライパンに投入したらしい。良いんじゃないでしょうか、私はにんにくが大好きでございます、とだんなに返し、台所はそのまま強烈なにんにく臭で占拠され続ける。
ほどなく、独特なポルチーニの香りも強烈に漂い始めた。他のどんなキノコとも違う、ポルチーニ独特の香りだ。にんにくとキノコの匂いで酔っぱらいそうになりながら、最後に茹でたパスタと絡めて完成。刻んだ万能葱が仕上げにざっと和えられた。

匂いだけかいでいるとどうなることやら、と思ったパスタは、かつてなく美味しいものだった。厚切りにしたポルチーニの匂いがスパゲティ全体にぷわぷわと漂い、ガツンと効いたにんにくも良い感じ。静かに辛さを感じる唐辛子も良い具合に効いていた。使ったポルチーニは、買ってきた量の半量くらい。
「おおおー、やっぱりポルチーニってすごいねぇ」
「あとは……肉と一緒に焼くとかしてみようか」
「いや、やっぱりパスタだね、もう一回これを作るのだ」
だんな、自分で作ったこのパスタがよっぽど気に入った様子だ。

寸胴鍋おでん
御飯
ビール・日本酒

今日はHさん宅で大人7人子供2人の「おでん会」。
おでんのタネ購入はHさんにお任せして、我が家は昨夜からだしを取り、大根と卵を仕込んでいた。午後3時過ぎに寸胴鍋に入ったそれらをHさん宅に持ち込んで、いよいよ煮込みに入る。

"おでんのタネセット"(多分これ、2人前用)が7パック。更にウィンナーやごぼう巻き、タコ団子といった追加物品がいくつもあって、寸胴鍋はすぐに口切りいっぱいになってしまった。最後に入れる予定のハンペンや餅巾着はまだ入っていないというのに、寸胴鍋がパンパンだ。
「と、とりあえず、煮てみましょうか」
と、蓋をするのも大変な状態の鍋を火にかけてちょっと目を離した隙に、具がだしを吸って膨れ始め、寸胴鍋の蓋がずももももと持ち上がっている。
「ひいぃぃぃ、鍋がっ鍋が大変なことにっ!」
とゲラゲラ笑いながら慌てて具を他の鍋に移してみたりして、Hさん宅台所の様相は"おでんの仕込み"とはちょっと違った方向を向きつつあった。
とにかく大食らいの人が何人もいるので、調理というより"工作"とか"工事"とか、そんな感じ。

午後6時、独身3人衆がやってきた。手には一升瓶の日本酒とたっぷりのビール。
メニューは「おでんと御飯だけ」という今日は、とことんおでんだけをたらふく食べようという趣向で、各自寸胴鍋で好みの具をすくって食べることに。それでも
「卵は1人1個ないし2個ですよー」
「かまぼこは貴重品なので1人1個ですー」
「ただし、餅巾着とハンペンはいーっぱいありますー」
と、あれこれ注意事項を宣言してみたり。

大鍋にたっぷり作ったおでんは、かつてない迫力だった。底に沈んだ大根や卵は掘り返しても掘り返してもなかなか出現してこない。
「大根〜、どこだぁ〜」
「卵、卵、卵はないのぉ〜?」
「あ、卵だったら右奥の下で見かけたよ」
なんて言いながら皆して何回も何回も居間と寸胴鍋を往復して食べる。私は3杯ほどですっかり満腹になってしまったけれど、日本酒を飲みながらIさん・Mさんあたりはえんえんと食べていた。

さすがに15人分以上はあったと思われるおでんのタネ、大人7人では食べきれなかった。が、不思議なほどに余る量も少なくて、仕込みの段階での"膨れ具合"を目の当たりにしていた私やHさんは、その残る量の少なさにびっくりだ。
独身男性陣はタッパーに入れておでんの残りを持ち帰り、我が家とHさん宅もそれぞれ鍋に入れて残りを持ち帰ってきた。煮詰まって煮崩れてかきまわされて、"おでん"というより"かつておでんだった、何か"という物体に成り果てていたけど、明日続きを食べることにしよう。
大人数料理はやっぱり楽しい。

12/7 (土)
自家製鶏照り焼きピザ (夕御飯)
おでんの残り
御飯

二日酔い……というわけではないと思うけど(多分)、今日は皆して寝まくった。私がヨロヨロと一人起き出したのが10時、だんなと息子が起きてきたのは11時だ。
「なんかねぇ、眠かったんだよねぇ」
「そうそう、起きられなかったんだよねぇ」
と、何だか久しぶりの堕落しきった朝だった。11時まで寝てたりすると、何だか半日損した気分だ。

朝御飯(というよりもはや昼御飯)は簡単に、冷凍御飯をチンしたうえに昨夜の「おでん会」のおでんの残り。崩れた卵のかけらとか崩れた大根のかけらとか、その他の崩れたもので鍋のものはなかなかに悲惨な光景になっていて、細かく崩れたそれらをよけつつ、原型を留めた具を拾いつつ食べる。ガンモは大量にあるし、溶けかけたハンペンもちょっとあるし、あとは"ごぼう巻き"とか、お麩の類とか。人気商品の卵や大根はすっかりなくなっていて、そんな中でも幸いだったのは、作りすぎた"餅巾着"が煮込まれないまま残っていたのを持ち帰ってきていたこと。おでんを温め、硬いままの餅が入った巾着に10分ほど火を通し、はふはふ言いながら食べた。好物が1つでもあると、残りおでんもかなり美味しい。

「Williams-Sonoma」のパネトーネ
ココア

サンクスギビングデーが明けてから年末までの期間、アメリカは一大セール期間になる。買い物にでも行くかねー、と言っていたところだったけど、タイミング良く「クリスマスに発売されるWilliams-Sonomaのパネトーネが美味しいですよー」というメールをいただき、じゃあそれを買いに行ってみましょう、と近所のショッピングモールにお出かけしてみた。

この時期の週末ということで、モールはかつてない大混雑。車を止める場所にも苦労するなんて滅多にないことで、やっとの思いでモールに入ってみるとどこもかしこもクリスマスキラキラだった。雑貨屋はクリスマスものばかりがディスプレイされ、割引札があちらこちらに立っている。
Williams-Sonoma」は大好きな店だ。使いやすそうなキッチンツールや美味しそうな調味料類にはいつもクラクラさせられるけど、クラクラするほど値段も高い。今日も美味しそうな9ドルのシナモンパウダーを前に「こ、これが1000円以上するのか……」と煩悶した挙げ句、「品質は違うだろうけどWAL☆MARTで買ったら5分の1以下よね」と結論づけて購入を見送った。安売店の3倍くらいの値段だったら購入する気も沸いてくるかもしれないけど、5倍以上となると、さすがに手は出しにくい。そしてこの店は、その"5倍以上"がごろごろしている店なのだった。

で、噂のパネトーネは26ドル。帽子箱くらいの巨大な丸い缶に納められているそれを、
「うーん、噂どおり高い……けど、パネトーネは大好きなんだなぁ……」
と1分ほど考えた挙げ句、買ってみることにした。パネトーネとは、イタリアの伝統菓子(伝統パン?)で、クリスマスの季節に作られるものだ。卵たっぷりのふわふわの生地の中にドライフルーツが入り、食感はパンだけど味はケーキ、という感じのもの。"パネトーネ菌"という、発酵の素になるものが防腐・保湿に富んでいるらしく、それゆえに常温で何十日間もカビをはやさずに常温保存可能だということだ。缶の裏には「2003年の5月までに食べてね」と書いてある。別に真空パックにもなっていないのに、である。

帰宅してから
「なんか、今日の俺はダルダルだぁ……」
と昼寝してしまっただんなは抜きで、私と息子でパネトーネを開けて食べた。
ふわんふわんの生地は適度に甘く、中にはレーズンと甘く煮た栗がたっぷりと。フルーツケーキは好きだけど過剰なベリーやオレンジピールはちょっと苦手な私には、シンプルな味のパネトーネはとてもとても美味しく感じられた。大人の頭の大きさくらいある巨大なケーキ、食べるのにはしばらくかかりそうなので案外お得な買い物かもしれない。(今日食べたのはたったの32分の1くらい)

自家製 鶏照り焼きピザ
自家製 鶏照り焼きピザ・改
ビール(アサヒスーパードライ)

本当に、今日のだんなはやる気がないらしかった。脳天からエクトプラズムが放出されまくっているような感じ。
「やる気がないから〜、夕飯は〜近所の中華屋でも行くかぁ〜」
「そーだねぇ〜」
とか言っていた。私も微妙にやる気がなかった。
が、御飯炊いたりサラダ作ったり炒め物したりするのは面倒だと思いつつ、ピザだったら焼いてもいいかなぁという気力があったりして。なんとなくピザが恋しく、明日の昼にでも焼くかと材料だけは買ってきていた。

で、帰宅途中の車の中で息子に聞いてみた。
「夕御飯、お店でチャーハン食べるのと、おかーさんが作るピザ食べるのと、どっちがいいですかー?」
「ピザがいいなぁ〜。ピザがいいと思うなぁ〜」
と、息子即答。そうかそうかピザがいいか、と夕方からせっせとピザ生地作って焼いてみることにした。

強力粉をボウルに入れ、耐熱容器に水を入れ、風呂の温度くらいにチンした後にドライイーストと塩とオリーブ油を投入してかき混ぜる。それを強力粉のボウルに入れた後は、ひとまとめになるようにせっせとこねまくり、温かい場所で1時間ほど発酵させたら生地のできあがり。よく考えたら我が家にはパン焼き機があるのだからそれで生地作りはできるのだけど、今日もなんとなく自分でこねこねしてしまった。工作やってるようでなかなか楽しい。

具は和風に、日本のピザ屋にありがちな鶏照り焼きを。
塩胡椒して焼いた鶏肉に醤油と味醂に片栗粉を加えたタレを仕上げにジャーッと絡め、スライスして下焼きしたピザ生地に乗せる。刻んだ青葱をこれでもかとふりかけ、フェタチーズを散らしてみた。フェタチーズは、カッテージチーズに似た外見の(板状に圧縮されているタイプのもある)、羊乳のチーズ。アメリカでは人気があるらしく、スーパーのチーズ売場ではお馴染みのチーズで、レストランでも"チキンとフェタチーズのサラダ"なんてものをよく見かける。。ただし、羊乳版は何かと高価なので、牛乳でそれっぽく作られているものが多数のよう。我が家が買ってきたのも、確認してみたら牛乳版だった。

そしてオーブンで4分。焼けるのをじわりじわり待っている間に皿とビールの準備をする。焼けたらすぐにカットしてテーブルに。オーブンからテーブルまでの距離2mは、自分の家でピザを焼くならではの環境だ。
「どんな店で食べるよりアツアツだよね〜」
とニヤニヤしながらかぶりついた。
1枚目は照り焼きのタレが少々少なめで、オーブンの温度もまだちょっと低かったらしい。美味しいけれど、まだまだ向上の余地がある、という感じだった。で、1枚目を食べつつ2枚目の準備も始める。

「そうだ!ニンニク散らさなきゃダメじゃん」
「もっとタレをかけてさ……」
と、今度は1枚目より大量の肉を散らしタレを散らしニンニクも散らし、まんべんなく葱とフェタチーズを散らし、オーブンの温度は心持ち高めで、と改良して焼いてみた。
焼き上がったのはこんがり焼けたパリパリの、にんにくの香りも香ばしい最高の出来のものだった。肉はたっぷりだし、醤油と味醂のタレも適度に染み込み、葱もたっぷり。きっちり和風のピザだった。
スーパーには冷凍ピザ生地もあるし、具が乗ってるやつも呆れるほど大量の種類が売られている。しかも安い。毎回冷凍コーナーを通るたびに「微妙に気になる……」と思っていたのだけど、自分ちで焼く悦びを味わっちゃったらしばらく冷凍ものは買えそうにないような気がする。

12/8 (日)
ポルチーニとほうれん草の自家製ピザ (夕御飯)
卵サンド
アッサムミルクティー

9時過ぎ、家族揃って起床……したものの、一度起動したはずの息子の動きがどうもヘンだ。
いつもだったら「カリカリ(←コーンフレーク)食べよー!」だの「おにぎりがいいなぁ!」だのと、目が覚めるなり"充電完了"の文字を瞳に浮かび上がらせて爆走し始める息子なのに、今日は静かに再び布団に戻ってしまった。熱はないけど、どうも具合が悪いらしい。

心配な息子はとりあえず寝かせておき、買い置きしていたパン(←牛のたたきを作った時、翌日にサンドイッチにしようと思って買ってきて……牛のたたきはその食事で食べきってしまったのだった)を使って卵サンド。ゆで卵を刻んでマヨネーズで和えただけのやつをパンにたっぷり挟んで食べる。これ以上なくシンプルなものだけど、不思議とこういうものは近所のスーパーマーケットやコンビニでは見かけることがない。甘ったるいコールスローが混ぜられていたり、セロリがたっぷり入っていたり、さもなきゃそもそもサンドイッチなんて売られてなかったり。ごくごく普通の卵サンドやツナサンドが恋しかったら自分で作るのがどうやら一番らしいのだ。

「Williams-Sonoma」のパネトーネ
カフェオレ

「……牛乳でも飲む?」
と言っても"いらなーい"と返され、
「ヨーグルトでも食べる?」
と言っても"……いらなーい"と返される。息子は本気で具合が悪いようで、トイレに起きたりする以外はひたすらおとなしく横になっていた。最近いきなり寒くなってきたからなぁ。風邪かなぁ。

そんな息子をよそに豪華な昼食を摂るのも申し訳なく(というわけじゃないんだけど)、昼過ぎには昨日買ってきた"Williams-Sonoma"のパネトーネをざくざく切ってだんなと食べた。私もドライフルーツが過剰な量入っているケーキやパンは苦手だけど、だんなは更にその"過剰"のガイドラインが低い位置に設定されているようだ。私が美味しいと思うフルーツケーキでも、彼はちょっとイヤらしい。その点、このパネトーネときたら具はレーズンと栗だけということもあり、だんなの心も鷲掴みにした模様。今日は1/8切れほどを盛大にざくざく切って皿に盛り、まだまだふわふわの食感のそれを大口開けてかぶりついた。

ん〜、旨いわ。1個800円だったら4日に一度くらい買ってもいいのに。

ポルチーニとほうれん草の自家製ピザ
ほうれん草と玉ねぎのサラダ
ビール(コロナ)

昨日作った自家製ピザ生地を冷蔵庫に保存しておいたので、本日も引き続きピザを焼く。
そもそもピザを焼こうと思ったのはそろそろフヤフヤに柔らかくなってきていたトマトが冷蔵庫に入っていたためで、昨日焼いた"鶏照り焼き"ピザでは何の解決にもなっていないのだった。よく見たら、トマト、カビはえかけてるし……(あああ、トマトすまん……)。

トマトを刻む。3本ばかり残っていたポルチーニ茸も刻む。モッツァレラチーズを刻み、バジルの葉をちぎり、ついでににんにく切ったりほうれん草刻んだり玉ねぎ刻んだりしているうちに自分がどんなピザを作るつもりで準備を始めたのかわからなくなってきた。
「ま、いいや、全部乗せちゃえ〜♪」
と、名前のつけようもないような具の組合せになった。
下焼きしたピザ生地の上にトマトを散らし、ポルチーニを散らし、にんにくを散らし、まんべんなくチーズを乗せる。3分ほど焼いてチーズが溶けたら一度取り出し、バジルとほうれん草をぶわっと乗せたら更に1分。トマトソースも敷いてないし、オリーブ油もかけてない。脂分といったらモッツァレラチーズしかなく、具沢山な割にはさっぱりとしたピザになった。……しかし、具沢山だなぁ。

にんにくが今日もガツンと効いたピザは、ポルチーニの香りが周囲中にぽわぽわと漂う豪華なものだった。濃厚なキノコの匂いでトマトやチーズの印象がすっかり薄らいでしまうほどキノコキノコしたピザになった。
「ん〜〜〜!ポルチーニ、匂う〜!」
「なんて贅沢なピザなんだ!」
とだんなと盛り上がってピザをつついていたところ、息子がいつのまにか起きあがって「何か飲みたいな〜」と椅子によじ登りはじめた。
「ぴざ?おかーさん、ピザ焼いたの?」
と、「ちーずだ、ちーず」と焼きたてのピザをつつきまわしている。朝から寝っぱなしだった息子がまさかピザを食べるとは言わないだろう、と思いつつも
「ピザ食べる?」
と聞いたら頷き、チーズとトマトが乗っている端の部分をバリバリ食べはじめた。何だか、いつのまにか元気になっている。

2枚焼いたピザ、2枚目には1枚目の具に加えて刻み玉ねぎも散らしてみた。にんにくの量も一層増え、ますます濃厚な味に。
息子は2枚目のピザも横からバリバリ囓った後、
「もうね、大丈夫だと思うよ〜」
と家中をジョギングし始めた。そんなことなら、朝のうちからピザを食べさせておけば……(←違います)。