食欲魔人日記 03年05月 第3週
5/12 (月)
Sushi Den (Denver)にて、デラックスプラッター。久しぶりのすーしー♪ (夕御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
モーテルの部屋にて
 えび天うどん(カップ麺)
 麦茶

「今日はねー、私、留学仲間と一緒に中華料理屋に行く夢を見ちゃったよ。海老チリ食べたんだぁ……」
「僕も夢見たよ。国際会議の席に、香川からうどん職人呼んでアメリカ人にうどんをふるまっちゃう夢」
「……溜まってるのかしらねー?」
「いろいろとね……」
朝からお互いの夢の話を披露している月曜の朝7時過ぎ。

今回の旅行中、最もショボい宿に宿泊してしまった本日、部屋にはコーヒーメーカーもティッシュペーパーもなかった。ロビーに行っても、パンも牛乳もない。コーヒーだけがあるらしい。周囲にはあまりレストランなどがありそうな気配もなく、「朝食どうすべぇ」と一瞬悩みはしたものの、すぐに
「そうか、カップ麺食べればいいんだ」
「もしもの時に買ってきたのがあったもんね。今がまさにその"もしもの時"だ!」
ということになった。国立公園巡りを開始する直前に、デンバーの日本食材屋で仕入れてきたものの中には、カップうどんが2種類にカップ焼きそば2種類がある。
「ぼくはね、この、"きつね"ー」
「私はマルタイのえび天うどんでいいや」
「じゃあ僕はオタフク焼きそばにしよう」
と、思い思いの品を手にとって、湯を沸かす。がんばれ炊飯器。米を炊く以外の用途で、君が今熱く期待されている。コーヒーメーカーがないどころかロビーにお湯もないモーテルなんて初めてだ。

15分くらいでぐつぐつと沸騰した炊飯器の中の湯でカップ麺を作り、「あ、この焼きそば美味しい」だの「ああ、マルタイのうどんって、けっこう美味しいんだなぁ」だのと互いに交換して味見などしつつ熱い麺を啜った。スーパーで売られているようなデニッシュと薄く不味いコーヒーしかないようなモーテルの朝食よりは、よっぽど癒される味がする。ジャンクな風味バリバリだけれど、懐かしい風味漂うだしの味や甘い油揚げ、うっすらマヨネーズ味のソース焼きそばの味に涙ちょちょぎれそうになりながら朝食をたいらげた。

Estes Park 「Grilling Co. River Rock」にて
 私:
 Buffalo Burger $7.95
 w/ Cheese $0.75
 Lemonade $1.75
 だんな:
 River Rock Burger $6.95
 w/ Cheese $0.75
 Iced Tea $1.25
 息子:
 Grizzley Cheese $3.95
 Clke $1.75

ワイオミングとコロラドの州境に近い町で一泊した今日、目指すのはデンバー。途中、Rocky Mountain National Park(ロッキーマウンテン国立公園)があるので、立ち寄ることにした。
この国立公園には、舗装道路では世界最高地点である場所を通る横断道路があるらしい。どうもその道が開通するのは5月下旬か6月になってからという話だったので横断することは無理だろうと思いつつ、とりあえず行けるとこまで行ってみようと巨大な雪山が連なる公園を目指してみた。

国立公園にたどり着くまでが長い長い山道で、公園内に入ってからは更に長い長い山道。やはりその目当ての道路は冬季閉鎖中で貫通はしていなかったけれど、途中の展望台までは行けるようになっていた。行けるところまで行ってみようと思った旅行客は私たちだけではないらしく、"Road Closed"の看板の手前に多くの車が止まっている。標高はおそらく3000m前後の場所で、すぐ近くにそびえる連峰とどこまでも眼下に広がる山と草原を見渡すことができた。人慣れしているリスが、触れそうなほど近くまでやってきて食べ物をちょうだいとねだってくる。野生動物に餌をやるのは禁止されているのだけど、多分相当色々もらってるんだろうなーというリスの仕草だ。

雪山風景を満喫した後は、麓の町Estes Parkで昼御飯。なかなかこの季節、しかもお昼に営業しているようなところは少なくて、最近できたらしいショッピングエリアの中にあった小綺麗なグリル屋をやっと見つけてそこに入ることにした。ランチメニューには、サラダやスープの他、サンドイッチメニューが並んでいる。「Buffalo Burger」の文字を見つけ、
「バッファローの肉!食べたい食べたいこれ食べたい!」
と、バッファロー肉のハンバーガーを食べてみることにした。だんなは1/2ポンドサイズの肉が挟まったジャンボハンバーガー(こっちは普通の牛肉)、息子はチーズサンドイッチ。

バッファローのハンバーグは、だんなの1/2ポンドハンバーグよりも若干薄めなもの。いかにも乳臭く肉汁たっぷりなだんなのハンバーグに比べると、かなり固めな肉だった。乳臭さがあんまりなく、ケダモノ臭さが漂っている。
「ああー、いかにも"肉!"って感じだね」
「好みな味だ」
と互いのバーガーを交換しながらわしわし食べる。75セントでチーズが追加できたので、私もだんなもチーズつきに。コールスローやフライドポテトなどから選べるサイドディッシュはサラダにしてもらい、野菜をつまみつつ肉たっぷりのハンバーガーを齧る。サラダとは別にレタスに玉ねぎにトマトもたっぷりついてきて、自分で肉とパンの間に挟んでケチャップやマスタードをかけて食べる仕組みだ。適当に選んで入った店にしては、どれも上々の味だった。何より、この旅行中に一度は食べたいと密かに思っていたバッファロー肉が食べられたのが嬉しい。

食後はひたすらデンバーに向かって南下。これまたどこまでも続いていく高原の光景は、「アルプスの少女ハイジ」あたりにいかにも出てきそう。
「あれだね、ハイジが量産できそうな風景だね」
「量産かよ!じゃあそのうち赤いハイジが作られて」
「そう。性能3倍。3倍長いブランコに乗れる」
と、大自然を目の当たりにした感動が薄れるような事を今日もほざきつつ夕方、デンバーに到着したのだった。

Denver 「Sushi Den」にて
 私:
 Anago $4.75
 Deluxe Platter $20.00
 Beer (Sapporo Large) $5.50
 Coconut Creme $5.95
 だんな:
 Anago $4.75
 Shrimp Tempura Appetizer $6.50
 Chirashi Sushi $18.00
 Beer (kirin Large) $5.50
 息子:
 Tamago 2×$3.50
 Anago $4.75

ビジターセンターで手に入れたクーポンブックを見ながら決めた、デンバー中心街からちょっと離れたところにある宿Home Stay Suitesは、この旅行の中で一番のすんばらしいホテルだった。あまりに素晴らしくて今日と明日の2泊ともここで過ごすことにする。
部屋には全室キッチン設備が整っており、ライティングデスクもある。昨夜の宿より安いのに、シャワーだけじゃなくてちゃんとバスタブもある。壁も天井も薄くない。隣の物音が聞こえない。無料朝食もきっちりついているらしい(内容には期待できないかも、と思いつつ)。何しろ、冷蔵庫つきコンロつき電子レンジつき食器つき包丁つき鍋つきのキッチンがありがたい。
「麦茶、冷やしちゃえー」
「カルピスも冷やしちゃえ〜」
と、早速冷蔵庫にあれこれ放りこむ。チェーン店かな聞いたことない名前だねと不安半分でチェックインしたのだけど、なんとも嬉しい宿なのだった。1泊$37.95。嬉しいことだ。

ダウンタウンをちょっとぷらぷらした後、今日の夕飯はお寿司を食べに行くことにした。ブリだの豆腐だの中華料理だのうどんだの、さすがに10日くらい旅行していると馴染みの味が恋しくなって夢にも出てくるようになる。私たち夫婦は魚食より肉食の気が強い自覚はあるけれど、それにしたってそろそろ魚が恋しかった。なので、寿司。
調べてみると、「Sushi Den」なる店が人気らしい。アメリカ人にもかなり人気があるらしいけれど、日本人にも定評があるようだ。宿からは少し距離があったけれど高速道路に乗って向かってみた。

目当ての場所にたどり着いたのにしばらくどの店かわからなかったほど、寿司屋っぽくない外見と内装の店だった。コンクリート打ちっぱなしみたいな壁に、店のロゴが地味に彫られている。天井の高い店内は、お台場あたりにありそうな感じのやたらとモダンさが漂う空気。寿司屋っぽくないお洒落なカウンターの奥では、しかし確かに寿司職人のような姿のおっちゃんらがきびきびと動いているのだった。
「ふゅーじょん、って感じ?」
「ぬーべるきゅいじーぬ、って感じ?」
とびっくりしながら席につく。日本メーカーのビールを注文し、ちらし寿司と握りのセットを注文することに。更に息子の分も合わせて握り寿司の追加注文と、だんなのリクエストで海老天と野菜天のセットも。

やってきた料理は、よくある"エセ日本料理"とは全然違う、ちゃんとした味のものばかりだった。サクサクの衣の天ぷらは海老と茄子と南瓜とさつまいも、赤ピーマンとブロッコリーと玉ねぎ。つけだしの味も甘すぎず、化学調味料臭さもない。久しぶりに飲む日本の味のビールを飲みながらの天ぷらに続いて、大量にやってきたメインディッシュ。
だんなのちらし寿司も、イクラが乗っていたりサバが乗っていたりのかなり具だくさんで豪華なものだったけれど、私のデラックス盛り合わせ寿司もかなり嬉しい内容だった。握りの海老、サーモン、ハマチ、マグロに、カルフォルニアロール。手巻きのハマチとネギトロに、刺身でマグロとハマチとタコ。実のところ、アボガド入りのアメリカの手巻き寿司はあんまり好みじゃなかったのだけれど、ここのカルフォルニアロールは素直に美味しかった。蟹肉とキュウリとアボガドが綺麗に巻かれ、表面には辛くない程度にトビコがぱらっと飾られている。シコシコとしたタコも、すごく久しぶりな味がして美味しかった。

「う……しまった……」
「握りもちらし寿司も、すっごく量が多いね」
「天ぷらが多かったかなぁ……でも食べたかったんだよなぁ……。ていうか、ビールが多かったか」
「ラージで、って言ったら大瓶が来ちゃったからねぇ」
苦笑いしながらせっせと目の前の食べ物を平らげていったけれど、数個のカルフォルニアロールと、息子の分の玉子と穴子の握り寿司がちょっと残ってしまった。これは持ち帰り用に包んでもらって、しっかりとデザートは食べる。メニューには、ストロベリーショートケーキとかティラミスといった、「……寿司屋なのに?」みたいな品名が並んでいたけれど、美味しいショートケーキなんてあまり食べられるものではないから頼みたくてうずうずしてしまう。結局、ココナッツクレームブリュレを注文した。

そしてやってきたのは、直径20cmくらいはありそうな大きく薄いココットケースに入ったクレームブリュレ。中はひんやりと冷たいけれど、表面はたった今カラメリゼしたようなパリパリのカラメル層が温かいままやってきた。苺と葡萄とオレンジとキウイも飾られ、デザート1つにこれまたボリュームがすばらしいものになっていた。こってり濃厚なクリームはふわんふわんでとろんとろんで、甘さもあるけれどそれほど強いものじゃない。口に入れた途端に口中にもわわわわんと広がるココナッツの香りがステキだった。ビールを飲み干した後にもらって飲んでいた緑茶には全然似合わなかったのだけれど、それはそれとしてペロリと完食。「美味しいカスタードプリン」とか「美味しいクレームブリュレ」にはなかなかこれまで会えなかったので、幸せなデザートだった。
旅行も残すところ1日。明後日の朝早くには飛行機に乗って我が家に戻らなければいけない。
明日はのんびりデンバー観光だ。

5/13 (火)
デンバーのイタ飯屋さんで食べたアラッビアータ (昼御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
ホテルの無料朝食
 イングリッシュマフィンのトースト
 牛乳、アップルジュース

今日こそのんびり寝ていようと思ったのに、何をどうしちゃったのか6時過ぎに目覚めてしまった。仕方なく、一人でネットサーフィンしてみたりメールの整理をしてみたり。いっそのこともう一寝入りしようかと思っていたら、だんなと息子がほぼ同時に起きてきた。

フルキッチン設備つきの幸せな宿の無料朝食はどんなもんだろうね、とちょっとだけ楽しみに階下に行ってみたところ、普通のモーテルのそれと何ら変わりない朝食セットが置かれていた。ミニドーナツにデニッシュ、食パンとベーグルとイングリッシュマフィン、と、パンの種類だけは豊富。あとはシリアル、牛乳、ジュース類、コーヒー紅茶。今ひとつ食べたいものもなかったけれど、イングリッシュマフィンをトーストしてバター塗って齧った。

Denver 「Maggiano's」にて
 私:
 本日のスープ(アスパラガスとローストガーリックのクリームスープ) (cup) $1.95
 海老のアラビアータのエンジェルヘアーパスタ (small) $10.95
 アイスティ $2.00
 だんな:
 本日のスープ(アスパラガスとローストガーリックのクリームスープ) (cup) $1.95
 ミートボールスパゲッティ $9.50
 アイスティ $2.00
 息子:
 クラムソースのリングイネ (small) $8.95
 牛乳 $1.75

今日は一日デンバー観光。朝食後、早々に向かってみたのは全米にフィラデルフィアとこの町の2箇所にある貨幣専門の造幣局、United States Mint。更にワシントンD.C.には紙幣印刷専門の造幣局がある。ワシントンD.C.に訪れた時、だんなは造幣局に行くのを楽しみにしていたのだけど、滞在が週末の土日だったということで見学ツアーはちょうど休みだったのだった。今度こそ!とデンバーで造幣局に訪れてみれば、時勢柄、数週間前に予約を入れなければ見学できないことになっていた。学生のグループならOKとか、軍人や退役軍人のグループはOKとか、議員の紹介があればOKとか、色々ややこしい。
「ガイドブックには見学ツアーがあるって書いてあったからねぇ……」
「油断していたよ……」
と、実はかなりショックを受けていたらしい我が夫。しょうがなく、造幣局のそばにあるColorado State Capitol(コロラド州議事堂)を眺めに行った。重厚などでかい建物で、中央頂上のドームは金色をしている。中央の吹き抜けホールが美しい、教会か何かですかここは的な建物だった。

で、本当は午後に行く予定だったビール工場見学に行くことに。この町にはCoors の本社があるそうで、町の郊外の工場では無料見学ツアーも開かれているらしい。10時25分に到着すると、駐車場の受付にいたおばちゃん曰く
「ちょうどいいわぁ!あと5分で次のツアーよ」。
慌てて車を止め、すぐにやってきたシャトルバスに乗って工場に向かった。途中、工場の周囲の町もぐるりと一周して町の観光案内までおまけについてくる。

「はい、貴方たちは"Blue Moon"のツアーね」
と、一緒のバスに乗った15人ほどの人々に"Blue Moon"という名のビールのラベル紙が配られた。受付ホールで身分証を見せて年齢の確認がされると、手の甲にCoorsのロゴスタンプが押される。女性用の小さなバッグは良いけれどリュックサックやカメラケースは持ち込んではいけないという細々した制約があった。数分後に
「はーい、ブルームーンツアーの皆さん、出発でーす」
と声がかかり、ぞろぞろとエレベータに乗り移動する。

巨大なタンクがあったり箱詰め工程があったりと、特に目新しい展示内容ではなかったけれど、工場内に常に漂いまくっているホップの匂いに酔っぱらいそうになって何やら良い気分に。途中、Coors OriginalとCoors Lightの試飲コーナーがあり、更に最後にグラス3杯まで飲める無料試飲コーナーがあった。ツアー中に説明された、"ビールとほぼ同じ工程で作っているけれど、ホップは使わず、色を出さない特殊なフィルターを通している"という感じの飲み物、Zimaを試しに飲んでみる。普通のZimaの他、シトラス風味をつけたZima Citrusもあるそうで、私は後者を。レモネードのようでちょっと違う、透明なのに微かにビールに似たもやんとした苦みが漂う、微妙な味の飲み物だった。慣れれば美味しいのかもしれないけれど、「な、なんかビールみたいな味もする」と思いはじめると妙な違和感が漂う。
2杯目には、ホワイトエールの"Blue Moon"。胡椒のような、カレー粉のような、妙にスパイス臭が漂うビールだなぁと思っていたところ、風味づけにコリアンダーとオレンジピールが入っているということだ。後口は割合とまろやかなのに、口に入る直前にピリピリとした刺激がある。琥珀色を薄めたような淡い見た目よりも濃い味で、けっこう好み。
そんなこんなで、昼食前の空腹時にアルコールをけっこう飲んでしまい、ふにゃふにゃになってダウンタウンへ帰還した。

昼御飯はパスタが食べたいねと、事前にチェックしていたMaggiano'sという店に。広いテラス席はほぼ満席という客の入りで、薄暗い店内もかなりの混雑。スープ飲んでパスタ食べて、余裕があったらデザートも食べるということでいいかな?と注文した料理は、
「た、確か"スープとパスタで軽めの昼食"だったはずなのに……」
「どーして"スープとパスタで重めの昼食"になっちゃったんだろ……」
と苦笑いすることになってしまった。

"本日のスープ"は、アスパラガスとローストガーリックのクリームスープだそうで、説明を聞いた直後に
「それそれ!」
「そのスープ!」
と、私もだんなもカップサイズのそのスープを飲むことに。上にはボウルサイズもあることだし、しかも2ドル以下という価格でもあるし、さぞやさっぱりした量の可愛らしいスープが来るのだろうと思っていた。が、目の前にあるのはボウルだ。ミニ丼くらいは作れそうな、見事なボウルサイズだった。慌てて給仕のおねぇさんに
「これ……本当にカップサイズ?」
と聞いてしまう私たち。おねぇさんはにこやかに
「そうよー、カップサイズよ。ボウルはね、もっとすっっっごく大きいのよ」
と言い置いて去っていった。……でかい、でかいよ。いきなりスープが巨大だよ。

ちょっとばかり塩気は強かったけれど、炒めたにんにくの香りがぷんぷん漂う濃厚なスープは、かなり美味しかった。細かくミキサーにかけられたアスパラガスがたっぷりと混ざり、更に形を残した茹でアスパラがざくざくと沈んでいる。このスープ……ボウルサイズが来た日にはそれだけで一食終わってしまうよねという濃厚さと量だった。

そしてスパゲティ。スモールサイズとレギュラーサイズがあったので、迷わずスモールサイズにした。私は海老入りのアラビアータ、息子はクラムのクリームパスタ、だんなは何を血迷ったかレギュラーサイズのミートボールスパゲティ。大きいよ、絶対大きいよ、とひそひそ話していたら、案の定巨大なパスタがやってきた。……なんでスモールサイズなのに、余裕で食べきれないほどの分量が盛られているんだよぅ。

私と息子のパスタ皿は、大盛りラーメンも盛れるんじゃないかという深さと直径がある。だんなの皿は、皿というより洗面器。その中には、"日本のイタリア料理店で注文するパスタの、およそ3倍量が盛られています"といった感じの量の麺が盛られている。ソースもたっぷり。だんなの皿の中央、ミートソースにまみれて、ミートボールは1個きり乗せられていたのだけど、そのミートボールも一般に言う"ミートボール"ではない物体だった。
「……これさ、このミートボールさ」
「ん〜?」
「ファミレスでハンバーグを注文したときに、こういうサイズのハンバーグが来るよねぇ」
ミートボールをつついて、だんなは笑っている。困っているというよりも嬉しそうに見える。

大変な量のパスタ、量には困ってしまったけれど味は申し分ないものだった。じんわり辛いトマトソースは酸味は淡く、甘さもある。赤いソースにまみれるように、大量の巨大な海老がブリブリと転がっていた。エンジェルヘアーパスタみたいな細い細い麺じゃなくてもうちっと太めのものを使った方が、この海老のインパクトからすると似合うように思うのだけど、何故かメニューにはこのアラビアータ以外にもエンジェルヘアーパスタ料理が多く並んでいる。息子のクラムクリームパスタは、クリームパスタというよりはボンゴレという感じのもの。だんなのミートボールも味見させてもらったけれど、素直で素朴な味だった。
「ああー、ちゃんとイタリアンだね」
「幸せだぁ」
と、平らげる頃にはこれ以上なく満腹状態に。せっかくメニューにはクレームブリュレだのニューヨークチーズケーキだのプロフィットロールだのといういかにも美味しそうなデザートが並んでいたけれど、とてもじゃないけどそれどころじゃなくなってしまったのだった。

Aurora 「Restaurant Seoul」にて
 牛タン $15.95
 プルコギ $11.95
 ビビン冷麺 $8.95
 Beer (OB) 2×$3.00

昼飯はちょっとヘビィだった。たまらなく満腹になってしまった。元々、午後にどこかに行こうという予定もなかったので、そのままホテルに帰ってきてしまい、部屋でだらだらだら。結局、何をすることもなく夕飯時になってしまった。
一応、予定では「バッファローのステーキを食べてみよう」ということで、チェックしていたお店があったのだけれど、とてもステーキが食べられるような腹具合じゃない。夕方になっても一向に空腹感を得られない事態になってしまい、

「日本のラーメン屋さんの"大島ラーメン"があるらしいけど……どうする?」
「……いや、ラーメンって感じじゃないしなぁ」
「飲茶!飲茶はどうだ!」
「おー、それはいいね。飲茶」
「……あ、ごめん。火曜定休だってさ……ああ、そしたら焼肉は?」
「焼肉かぁ……」
「タンとカルビの2皿くらいに押さえてさ、最後に冷麺をみんなで1つ注文して啜って終わり。それなら軽いかも」
「……んー……そうだねぇ……」

白熱する家族会議。あーでもないこーでもないと数十分議論した挙げ句、焼肉屋に行くことになった。一番最初にデンバーに立ち寄った時に韓国人が経営しているパン屋さんで買い物をしたのだけど、その近くにKorean BBQという看板を掲げていた店があったことを思い出した。一応、インターネットで検索もしてみたけれど、デンバーにはそれほど多くの韓国式焼肉屋はなさそうだ。結局、あの時に見た看板を目指して行ってみることになった。

各テーブルにコンロがついた、かなりまともな焼肉屋さん。焼肉1皿の注文につき、もれなく御飯とテールスープがついてくるらしい。当然、サンチュやナムル、キムチに味噌の類もずらりとテーブルに並べられ、韓国のビール"OB Beer"を飲みながら肉を焼く。他の韓国式の焼肉店と変わらず、大雑把なおばちゃんが焼き網の上にどかどかと肉を積み上げてくれた。毎度のことながら、
「あ、あ、あ……重ねないで〜」
「そんなに積まないで〜」
と思ってしまう。もう、タンもプルコギも極めてぐちゃぐちゃになりながら、じわじわと肉は焼けていった。

白菜ときゅうりのキムチの他は、テーブルに並ぶものは比較的甘口のものばかり。茹でたじゃがいもが甘辛いタレに漬け込まれたものや、はんぺんのようなものがこれまた甘辛いタレに漬け込まれているもの、そしてほうれん草ともやしとブロッコリーのナムル、大根の甘酢漬け。山のようにやってきたサニーレタスに御飯を一口分ほど乗せ、味噌をちょっとなすりつけたら焼けたての肉を巻いて食べる。日本で食べる焼肉のタレの風味とごく微妙に違うものの、懐かしさ溢れまくりの味だった。腹が減らないのなんのと言っていた割には、全員揃って良く食べる。

シメはビビン冷麺。コチュジャンであえられたような辛い麺の上には茹でた牛肉ときゅうりと梨とゆで卵。持ってくるなり、おばちゃんがハサミで全体をジョキジョキと細かく切り、「はいどうぞ」とばかりにずいっと押し出された。第一印象は甘く感じるけれど、飲み込んだ後からドカーンと辛さが口に広がる冷麺で、辛いものにあまり耐性がない私とだんなは大変なことになってしまった。
「……う……からーい」
「美味しいけど、カーラーイー」
「水っ水っ水っ」
1つのどんぶりを、ハヒハヒ言いながら回し喰いする私たち。これだけ色々喰えたんなら、バッファローのステーキも余裕だったんじゃないかなとひそかに思いながらホテルに帰るのだった。

12泊に及んだ最後の大旅行も今晩で終わり。明日は午前8時過ぎの飛行機で懐かしい我が家に帰る予定。

5/14 (水)
帰ってきて早々、Ken's Sushi Restaurantで天ざる (夕御飯)
ホテルの部屋で
 海老のアラビアータスパゲティ(昨日の残り)
 クラムクリームスパゲティ(昨日の残り)
 牛乳

いよいよ長い旅行も終わり。今日は午前8時半の飛行機に乗り、シカゴで乗り換え、午後2時過ぎにはテネシーに到着だ。
キッチン付きの快適な宿だった最後の朝、冷蔵庫の中には昨日のお昼に食べたイタ飯屋さんから持ち帰ったスパゲティが残っている。階下の無料朝食コーナーに行っても、昨日の朝と同じく食べられるものはたかが知れているので、スパゲティを温めてありがたく食べることにした。キッチンには、しっかり鍋や皿、カトラリーに至るまで置かれているので、陶器の皿にスパゲティを盛りつけた後、レンジでチン。ライティングテーブルに椅子2つを並べ、1人はベッドに腰掛けての朝御飯。残りものながら、かなりまともな味の朝御飯で嬉しかった。しかし、午前6時起き。眠い〜。

シカゴ空港マクドナルドの
 ダブルチーズバーガー
 ポテト
 オレンジソーダ

コンピュータートラブルか何かで十数分ほどデンバーからの離陸が遅れたものの、12時前には乗り換え地のシカゴに到着。きっちり1時間後に乗り換え便の離陸ということで、あまり時間もなく、急ぎ足で到着したHコンコースの果てから次の出発ポイントのKコンコースの果てまで移動する。今回の旅行、3回もシカゴで乗り換える事になったのだけど、どの乗り換えも"Aコンコースの果てからBコンコースの果てまで移動"というものばかりで、非常にしんどかった。最後くらいは"Kの12からKの15へ"みたいな楽なものになるかと思ったら、やっぱり果てから果てまで歩く羽目に。ううう、飛行場ってなんでこんなに巨大なんだろう(飛行機が巨大だからね……)。

で、時間もなく、昼御飯は通路の途中にあったマクドナルドで買ったハンバーガーとポテトとジュース。んがーっとバーガー食べて、んがーっとポテト齧っていたら、数分もしないうちに搭乗口のゲートが開いてしまった。ジュースとポテトを機内に持ち込み、引き続きぽりぽりやりながら離陸。

Nashville 「Ken's Sushi Restaurant」にて
 海老天巻き
 天ざるうどん
 お茶

今川焼き
抹茶入り玄米茶

午後2時10分頃、無事にナッシュビル空港に到着。留学生仲間のMさんが迎えに来てくれた車に乗り込み、大量の荷物を抱えて我が家に帰ってきた。今晩はどこかに食べに行こうかね、なんて言いつつ帰ってきてみれば、12日間動かしてなかった車のエンジンがかからない。Mさんの車と繋げてあれこれ試してみてもダメで、どうもセルモーターがワヤになっちゃったんじゃないかということ。
「……帰宅早々車が使えないとは……」
「ていうか、食材も何もないし……どうしましょ」
車はとりあえず馴染みのメカニックのところに預け、今日のところはMさんに料理屋に連れてってもらうことになった。向かったのは、久しぶりのKen's Sushi Restaurant。我が家では通称「ケンちゃん」。

海老と天かす入りの巻物をつまみに注文し、各々ざるそばや天丼を注文。私は冷たいうどんが恋しくて、天ざるうどん。ちょっとだしは濃いめの味で甘口だけれど、普通に美味しい冷やしうどんだ。海老天が2つついてくる。
雑談しながら料理をつついていると、店員さんが
「これね、ケンちゃんが皆さんにどうぞ、って。今川焼きです。レンジでチンしてね」
とジップロックに入れられた茶色い物体を持ってきてくれた。我が家用に、3個が1包みになったものと、Mさん用に1個が1包みになったもの。
「今川焼きだぁ!」
「大判焼きとも言うね、あと回転焼きとも」
「あとね、"十勝大名"とも言うんじゃなかったっけ」
と盛り上がりつつ、ありがたくいただいて帰ることにした。あああ、今川焼きなんてとても久しぶり。そもそもあんこが久しぶり。ありがとうケンさん。

新婚ほやほやのMさん、現在奥方は日本に一時帰国中ということで、ちょっと寂しそうだった。夕食後はそのまま我が家に流れ、お茶入れて今川焼きをありがたくいただいた。いつもつるんでいる仲間のIさんも、現在ニューヨーク方面に旅行中。あと2週間もすると帰国する人も出てくるし、我が家もその後すぐ帰国。もうなかなか皆と顔を合わせる機会もなくなってきちゃうのねぇ……と早くもしんみりしつつあるのであった。

5/15 (木)
家御飯は、親子丼から (夕御飯)
ミニ 緑のたぬき
ミニ 赤いきつね
麦茶

やっぱり疲れていたんだなぁと思う。私と息子が起きたのは9時45分、だんなが起きたのは10時30分。「枕が変わると眠れない」なんて神経質な性質ではないけれど、それでも隣の部屋の物音がやけに響く宿だったり、空調の音が妙にうるさい宿だったりと、ゆっくり眠れる宿があったようでなかったようで微妙な旅行中の夜だったりした。やっぱり我が家が一番ね、とおきまりの言葉を言ってみる。

「え?10時過ぎ?え?……え?……やばっ!」
と、だんなは起きるなりそそくさと着替えて研究所にすっとんでいった。現在我が家の車はトラブル中。歩いて行ってくる!とだんなは家を飛び出して行った。

私と息子はもうしばらくぼへーっとテレビ見てみたりメールチェックしてみたりした後、遅めの朝御飯。というよりもはや昼御飯。
「なにが食べたいですかー?……といってもね、何もないんだけどね。牛乳も今はないんだけどね」
と息子に聞いてみたところ、
「おかーさんおかーさん、あれなんか、いいんじゃない?」
と提言された。彼の右手の人差し指及び目線の先は、台所の棚の上にあるカップ麺を指しているようだ。ああ、そうですかあれですか、あれはいいね、お湯しか使わないから作れるね、と棚の上からがさがさと買い置きカップ麺を取り出した。ミニサイズの「赤いきつね」と「緑のたぬき」。
「ぼくはね、ぼくはね、これをたべまーす」
と、赤いきつねをすかさず取られてしまった。……あっ、私もきつねの方が好きなのに。ずるいぞ息子。息子だからってそんな我が侭は許されないぞ。

「おかーさんも、きつねの方がいいなぁ?」
「ぼくが、あかいのが、いいのー」
「いや、ダメ。半分こだ」
「はんぶんこー?」
「そうそう、半分こ、半分こ」
そう、これは愛情。息子がジャイアンにならないように、小さなうちから思いやりの心をですね……とか言ってみても、多分だんなあたりからは
「いーじゃない、食べたいって言ってんだから赤いきつねは息子にやりなさいよ」
などと言われてしまいそうだ。

で、結局息子と私で赤いきつねと緑のたぬきを半分こ。甘い揚げが浮いたカップ麺ならではのひらひらうどんが妙に美味しかった。

親子丼
いんげんのお浸し
グリーンサラダ
大根の味噌汁
ビール (Abita Ambar)

無事に我が家の車は夕方に復活した。かさむと思ってビビッていた修理費は100ドルほどでおさまったらしい。
では牛乳を買いに行きましょう、食材も全然ないしね、と早々に向かったのはオーガニックスーパーWild Oats。なんだか無性に親子丼が食べたかったので、鶏肉と卵も買ってきた。牛乳は2ガロン。美味しそうな野菜もみつくろい、大きな紙袋に一杯の荷物を持って帰ってきた。

旅行していると、最後に食べたくなるのは味醂味のものだ。醤油味だったら、中華料理店でもなんとなく癒されるものは食べられるし、寿司などはスーパーでも買えたりする。味醂の風味で煮込んだようなものは、なかなか食べられない。そして飢える。
いつもは普通の醤油を使って作る親子丼、今日は薄口醤油を使ってみた。味醂が懐かしくはあったのだけど、あまり味醂味が濃くてもくどいだけなので心もち控えめに。卵は半熟が望ましいけれど、なにぶんアメリカンの卵なのでここはきっちり火を通しておく。さやいんげんはさっと茹でて、おかか醤油にマヨネーズも添えて。グリーンミックスのサラダ野菜に胡麻味ドレッシングをつけて、最後はいりこのだしをとって大根のお味噌汁。

そういえば、料理をするのは久しぶりだ。あー、包丁持つのも久しぶりだー、と妙な感慨がある。
久しぶりに羽釜で炊いたご飯は、炊飯器で炊いていたものより圧倒的に美味しかった。炊飯器で炊いたカリフォルニア米より、羽釜で炊いたカリフォルニア米が圧倒的に美味しいと思うのだから、これが"羽釜で炊いた日本の美味しい米"になったらどうなっちゃうんだろう、と考えてみたり。1年前はあたりまえのように食べていたお米だけど、あと数週間したらまた新たな気持ちで口にすることになるのねぇと感慨深いものがある。
帰国まで、あとおよそ3週間。そう思うと、日本食とか作ってないでハンバーガーとかステーキとかパンケーキを喰っておけよと自分につっこんでおきたくなる。

5/16 (金)
だんな特製 天津丼♪(でも指が痛い……)
カップ麺 「ごんぶと」(だんなと半分こ)
麦茶

今日は金曜日。明日明後日の週末が終わると、だんなは最後の大仕事。今日も準備だなんだと忙しいらしく、起きるなり早々に着替えて出かける準備をしていた。
7時半過ぎに起きた私は、朝から一人お仕事していた。旅行中にも急ぎのものはちょこちょこやっていたのだけど、「帰ってきました」と言うなり、某所からどばーっとファックスとメールが……。山盛りのワインリストが……。あうー。

ぺけぺけとパソコンのキーを叩く私に、起き抜けのだんなが
「ごんぶと食べて行こうと思うんだけどー、おゆきさんも半分食べる?」
と湯を沸かし始めた。生麺カップうどんは、確かアトランタに旅行した留学生仲間に先日買ってきてもらったものだ。最近、妙にインスタント麺が恋しくなっている私たちは、ジャンクな味のこの手のものを食べては
「うまー」
「サイコー」
と涙にむせんでいる。ああ……インスタントな味だわー。美味しいわー。

「"一杯のかけそば"だと、多少は風情というか切なさ感があるけどさ」
「んー(ずるずる)」
「"一杯のカップうどん"になると、これがもう情緒もへったくれもないよね」
「そうねー(ずるずる)……ビンボくさいだけかもね」
「ま、いいんだけどね(ずるずる)」
と、発泡スチロール容器をあっちにやったりこっちにやったりしながら適当にだんなと半分こして食べた。

……日本帰ったら、まず香川かな……(香川かよ!)。

シェルマカロニの アルフレッドソース グリルチキン乗せ
牛乳

だんなのいない昼御飯。昨日、生クリームを買ってきたこともあって、アルフレッドソースを自分で作ってみようかなと思い立った。参考にしたのはWilliams-Sonomaのサイト内のレシピ。そうかそうか、生クリームとバターとチーズでね……と材料を用意し、残りもののシェルマカロニを茹で始め、そうだ、焼いた鶏肉もあれば美味しいよねと骨つきもも肉をおろし始めた。

あー、ここのところが、この骨から肉を外すところが難しいのよね、と思いつつ急いで肉解体作業をしていたところ、

スパーンと左手中指のお肉を削いでしまいました……。

「ぎゃ!自分の手、さばいてどーすんだよ!あー、もう、あーもう」
と、その場で左手を高くあげ、右手でギュッと指の付け根をおさえる。あああ〜じくじく血が出てくるよぅ。でも肉焼きたいし、パスタも茹だってしまうし。
急いで息子を呼び、

「輪ゴム!輪ゴム1つ持ってきて!」
「はい!」
「その後、ティッシュ1枚!」
「はい!」
「そいでもって、洗面所からバンドエイド持ってきて!」
「ば……ばんど?えーど?」
「えっとね……そう、ばんそうこうだばんそうこう。それならわかるね?急げ〜」
「ばんそうこ!はい!」

と、いっそいで止血。止血しながら肉さばきを続行し、塩胡椒してすぐに焼く。茹で上がったパスタは右手でザルを出し、シンクに置いたそれに右手で鍋持って湯をあける。パスタを茹でた鍋にバターと生クリームとチーズを放り込み、チーズを溶かしつつ軽く煮詰めたらパスタを戻し入れ、ざっとからめてできあがり。もうパソコンに表示しているレシピを見に戻る余裕もなく、ひどく適当に作ってしまった。……な、なんかスープパスタみたいになっちゃったけど……気にしない気にしない。

だばだば出ていた血も、食べ終わる頃には案外少なくなっていた。常に左腕を高く掲げて飯を食ったり作業したりするのはちと大変だったけど、指が全然動かなかったとかいうことはなくて一安心。うー……それにしても、午後にもまだまだ仕事が残ってるというのに、キーボード打ちにくいったら……。

だんな特製 天津丼
大根の味噌汁
ビール(Foster)

「指、削いじゃった」
とだんなにメールを出したら、夕方、「だいじょーぶー?」と泣きそうな顔でだんなが帰ってきた。ごめんね、夕飯の準備はとても無理だやー、と言うと、
「いやいや、今日は天津丼のつもりだったしね、大丈夫大丈夫」
と一人台所に立って夕飯の準備をしてくれた。

殻つきの蟹は、近所のスーパーで安売りになっていたもの。たっぷり2尾分くらいある蟹の足の半量を使い、身をほぐして葱や卵と一緒に丸く焼いていく。甘酢のタレをかけ、グリンピースを散らしたらできあがり。だんなの作る蟹玉は、私が作るそれより圧倒的に上手く、そして旨い。こんがり焼き目がついているのに、中はふわふわなのだ。

今日の蟹玉も、かなり絶品の出来だった。蟹入りの卵というより、卵とじの蟹、というくらい蟹肉たっぷり。口に入れると、ふわんと蟹の味が口の中に充満してシアワセだった。魚介の味って、やっぱり肉では代え難いものがある。指は痛いけど、美味しい天津丼が食べられたのでよしとしよう……。

5/17 (土)
Grand China (Bellevue)にて、五目炒飯 (昼御飯)
Bellevue 「Grand China」にて
 酥炸豆腐
 鍋貼餃子
 五目炒飯

真夜中から、外は雷雨。雷のドンガラガッシャンいう音で眠れなくなり、なんとなく寝不足だったこの夜。

私が目覚めたのは10時前。息子も元気に起きてきて、だんなは最後に「おばよ"〜」と寝ぼけた声で起きてきた。まだ、心の中は昨夜の一件でもやもやしている。
「こういうときは、美味しいものを食べるに限るよね」
「パラッパラの炒飯なんかが恋しいなぁ……」
「そうそう、そういえばカレーパン分も不足していたのだ」
と、買い物ついでに食事に行くことに。高速道路で20分ほど行ったところにある近郊の町ベルビューに向かった。ここには愛して止まないパン屋さん「Alpha Bakery」と、愛して止まない中華料理屋さん「Grand China」がある。

Grand China、毎日ランチブッフェを供しているお店なので、昼にアラカルトメニューを頼む客は稀らしい。でも、ブッフェは明らかにアメリカ人好みなエセ中華なものしかないのに比べ、メニューから頼むと至極まっとうな味の美味しい炒飯や餃子や炒めものが食べられる。今日もアラカルトメニューを頼むと、
「ゴメンナサイ。シェフ、今日いないの」
と、店員さん。これは作れる?じゃあこれは?と色々尋ね、酥炸豆腐と焼き餃子、五目炒飯を注文することにした。「酥炸豆腐」、私たちは「さくさくとうふ」なんて適当に読んでいたのだけど、なんて読むのだろう。確か酥はパイという意味で、炸は炒めるって感じの意味だったはずだ。豆腐にサクサクの衣をつけて焼いたものよね、ということはわかる。

餃子は出てくるまでに20分かかるとのことで、できるものから持ってきてよ、と頼んだ。ほどなくして並んだのは、そのサクサクドーフと五目炒飯。小皿に入ったたれが出てきて、どうやら豆腐につけて食べるもののようだ。
天ぷらの衣をうすーくつけたような豆腐は、確かに表面がサクサクとしていて香ばしかった。揚げたてで、アッツアツだ。タレは甜麪醤をメインにしたものでそれをスープで伸ばして油を垂らしたような感じ。刻み葱がたっぷり浮いていて、味は回鍋肉の合わせ調味料のそれに似ている。豆腐にしゃばしゃばかけると、甘辛味のサクサク食感豆腐になって、期待以上に美味しかった。
牛肉とチャーシュー、鶏肉と海老が入った炒飯は、見事な「五目」。ちょっと米を盛大に炒めすぎたせいなのか、ちょっと御飯の粒が割れちゃったりもしていたけど、今日も充分に美味しい炒飯が食べられた。

豆腐はなくなり、炒飯も半分以上がなくなったところで、最後に焼き餃子。自家製のものと思われる皮は厚めでむっちむちとしていて、その中に同じくむっちむちとした肉あんが詰まっている。ラーメン屋の餃子とも飲茶屋の蒸し餃子とも全く違う、ぶりぶりムチムチの食べ応えのある丸っこい餃子だ。底面にこんがり焦げ目がつけられていて、そこはカリッと香ばしい。餃子好きな息子が、2皿注文したうちの1皿を抱えて離さない。

「……で、君は何個食べたいの?」
「んとねー、よんこ」
「4個ってね、頼んだ分量のきっちり1/3だよ……」
「よんこ、よんこ食べられるんだよ。たべるよ?」
「はいはい、じゃあ4個ちゃんと食べなよね」
と、諦め顔で彼の皿の前に4個の餃子を並べたところ、本当に4個ぺろりと喰いきった。豆腐も家族3人で3等分して食べたし、息子は更に炒飯も割ときっちり食べていた。
ああもう、息子の分というのをちゃんとカウントしなきゃいけない時期なんだねぇ……としみじみ思う。

で、昼食後はすぐそばにある「Alpha Bakery」で明日の朝用のパンのお買い物。
昼御飯を食べたGrand ChinaもAlpha Bakeryも、店長さんはチェンさんという人だ。血縁というわけでなく、たまたま同じ名前の中国人。Grand Chinaのチェンさんは身体がころころと丸いので、Alpha BakeryのチェンさんはGrand Chinaのチェンさんを「ファット・チェン」と呼んでいるとか。
そうそう、同じチェンさんなんだよねぇ〜、なんて言いながらベーカリーのドアを開けると、カウンターの奥にはまさにそのファット・チェンさんが立っていた。パン焼き釜のそばでニコニコして、店員さんと談笑している。
「チェンさん、お店にいないと思ったらここか!」
「ここにいたのか!」
と、思わず笑ってしまう私たち。この店に来て、「ちょっと店に戻って炒飯作ってよー」と言えば良かったのね。

だんな特製
 アンガスビーフステーキ
 ほうれん草のバターソテー
 ハッシュドポテト
 フィッシュフライ
 クリームチキンスープ(缶詰)
 羽釜御飯

今日はWAL☆MARTでお買い物。ざっくりやっちゃった左手中指の傷がまだまだ痛くて、キーボードは打てるけどキーボードしか打てない、という感じ。力入れるとぱっくりいきそうなので、じゃがいも握ったりすることも無理そうだ。パスタなら……茹でられるかな。
「まぁま、いいからいいから。だんなちゃん、料理人モードになってるから」
と、だんなはてきぱきと食材を選んでいく。お、アンガスビーフが安いねステーキにしようか、とか、添え物はほうれん草でも炒めようかねー、そうそうハッシュドポテトも好きなんだなぁ、なんてカートに食材を放り込む。月曜から数日間は、だんなは家に帰るのもままならないほど忙しいと聞いているので、その間に料理できそうな、賞味期限がまだまだ先の肉類とか野菜類も買い込んだ。クロワッサンの素もいっぱい買った。ピザも作れる材料を揃えた。

カレーにしよう、と牛塊肉も買ってきたのだけど、今日のところはアンガスビーフのステーキに。添え物は、バターで炒めたほうれん草に、冷凍もののハッシュドポテト、更についでに冷凍もののフィッシュフライも少しだけ一緒にオーブンに放り込む。買い置き缶詰処分大会の一環としてクリームチキンの濃縮缶スープをあけ、あとは羽釜で炊いたご飯。私は米を水につけ、肉を冷蔵庫から出し、スープをお玉でかき混ぜた以外の事はほとんど何もやらなかった。自分に何かがあったときには、料理のできるだんなで良かったなぁとしみじみ思う。基本的に私はものぐさなので、息子と私、息子とだんな、といった組み合わせでの2人きりの時の食事になると、私よりもだんなの方がちゃんとした料理を作っていたりする。私が友人と外食して帰ってきたりすると、「あ、グラタン作ってみたんだけどー」「親子丼作ったんだけどさ、これがもう完璧でさ」なんて報告されて、なんだそれはズルいじゃないか、と一人やるせない怒りを感じてみたりすることも。怒ってる場合ではない。感謝せねばいかん。

今日のステーキは、ちょっとばかり火が通りすぎていた。ウェルダンというほどではないけど、ミディアム・ウェルダンみたいな感じ。ぎりぎり中の部分がほのかに赤いかなー、という、ミディアムを少しばかり通り過ぎちゃった焼き加減だった。塩胡椒の強さは完璧。表面がこんがりと焼けていて、醤油とバターで最後に調味し、いかにも美味しそうな外見。実際美味しいし。
「ありゃりゃりゃりゃー……。焼き過ぎちゃうことって、最近なかったんだけどなぁ」
と、だんなはちょっとしょんぼり。ここ何回かのステーキ焼きがことごとく成功していたので、ショックだったようだ。んー、でも、肉が硬くなっちゃってるわけではないし。レアっぽくはないけどちゃんと美味しい。黒毛牛であるアンガスビーフは肉汁や脂の味が格段に美味しいような気がする。普通の牛肉より値段は高めだけど、2枚で10ドルくらいなのだから安いと思う。1人分350gほどもある大きなステーキだ。

5/18 (日)
鶏入り炊き込みご飯、お焦げつき (夕御飯)
「Alpha Bakery」の
 フレンチホーン
 あんパン
カフェオレ

久しぶりに、菓子パンな朝御飯。そういえば、日本にいる時は週に1度か2度はこういうものを食べていたような気がする。そうか、今はもしかして健康的な朝御飯を食べているってことなのかしらぁ?……と我が身を振り返ってみれば、クロワッサン焼いてもりもり食べてるし、冷凍ワッフルとかもりもり食べてるし、更にはベニエなんて揚げてるし、菓子パン以上に不健康かもしれないものを食べているアメリカ生活なのだった。ダメじゃん……。

それでも、あんパンなんて随分久しぶりだ。ぽてっと丸っこい生地に粒あんがくるまり、生地の中心にはぽちっと窪みがつけられていて芥子の実が散らされている。細かいところまでちゃんと日本のあんパンを再現したあんパンで、その美味しさもあって涙ちょちょぎれそうになる。もっさりした固めのカスタードクリームがみっちり詰まったコロネとあんパンを齧る私の横で、息子がツイストチョコを両手で抱えながら、
「おかーさんの、それ、あんこのパンなの?あと、クリームのパンなの?」
と、語尾に「おいしそうだねぇ……食べたいなぁ……」という思いを滲ませながら見上げてくる。一口ずつ分けてやりながら、
「だからね息子。パン屋に入るなり"ぼくはチョコのパンがいいなぁ!"って宣言するのやめてさ、ちゃんとケース見て"これがいい"って吟味しなよ。チョコ以外のパンも美味しいでしょーが」
とお説教。美味しいからっていつも同じもん喰ってると視野が狭くなるぞー(っと、自分にも言い聞かせてみる)。

Nashville 「China Dragon」の
 本樓撈面 (House Special Lo Mein)
 蛋花湯(Egg Drop Soup)
麦茶

今日、特に仕事の用事はないはずなのに、
「ちょっと研究室行ってくる……」
とだんなが昼過ぎ、出ていった。数時間後に一旦「おひるごはん〜」と戻ってきた彼の手にはテイクアウト専門中華料理屋の袋。毎回毎回微量に多く頼みすぎて、残したり翌日に持ち越したりと大変なことになっているお店なので、今日は焼きそばの大サイズ1つとスープが1つ。たった1つの焼きそばで、家族全員がそこそこ満腹になれちゃうほどの危険な量だ。

いつもと変わらず、肉が入り海老が入り野菜が入り……という焼きそばは、今日はちょっと味が濃いめ。最後に溶いた片栗粉がちゃんと混ざっていないかのように、微妙な粉っぽさが舌に残る。なんか、ちょっと、いつもより美味しくない。昨日の昼御飯と同じで「シェフ不在」だったのかしらねぇ、と苦笑いしながらずるずる食べる。

蟹 レモン添え
鶏肉とごぼう、人参の炊き込みご飯
さやいんげんの味噌汁
グリーンサラダ
ビール(Corona)
麦茶

昼食後もだんなは研究所。
「ちょっと仲間と話して帰るからー」
と夕方6時頃にメールで連絡があってから、えんえんと帰ってこない。おゆきさん、まだ指痛いんだから僕が日曜も料理作るよ、なんて言っていたのに、ぜーんぜん帰ってこない。まぁいいかとご飯を炊く準備をして、氷を製氷皿に割っていたら、いきなり冷蔵庫の音が消えた。いつもブオォォォとうるさいくらいなのに、いきなり何も言わなくなる。あれ?いつもはずっと音がしてるんだけどなー、とペンペン叩いてみたりゆすってみたり蹴りを入れたりしたのだけど、何も言わない。気のせいかと十数分放置しておいてから確認したら、氷などがじんわり溶けだしてきてしまった。ちょっと待ってよだんな帰ってきてないのに、ていうか冷蔵庫の中に生もの満載なのにどうするのよもー、と泣きたくなりながら巨大な電気コンロを動かし、冷蔵庫を引きずり出し、一度冷蔵庫の電源を抜いてからもう一度差した。……お、音が戻った。やれやれ。

一昨日指ちょんぱした元凶となった骨つきもも肉の最後の残り1切れを何とかしなくちゃと炊き込みご飯にすることに。時間があったらちゃんとだしとって、具を下煮して……などとやりたかったけど、もう時計の針は8時を過ぎようとしていたので、
羽釜に米入れる→水入れる→大さじ3の水をそこから抜く→大さじ3分の調味料、醤油と酒と味醂を放り込む→具を突っ込む→炊く
という簡単な炊き込みご飯に。あとはもう、サラダがあればいいやと野菜の準備をしていたら、やっとだんなが帰ってきた。

で、だんながいるなら蟹を食べよう、と冷凍庫に入れてあった天津丼の残りの蟹(近所のマーケットの安売り冷凍蟹)を解凍。レモンをざくざく切って添え、キッチンばさみでがちゃがちゃ切りつつレモンをキューッと絞って食べる。ちょっとスカスカな部分もあるけど、しっかりくっきり蟹の味。ふっとい足の部分の肉がそのままそっくりぷるぷると取れると、身の毛のよだつ悦びを感じる。しばし無言で、ビールを飲むことすら忘れてバリバリと食べた。蟹は危険な食物だ。我を忘れてしまう。

ちょーっと薄味にできあがってしまった炊き込みご飯と、いんげんがざくざく入る味噌汁。胡麻味のドレッシングをかけたグリーンサラダ。
薄味の炊き込みご飯って、こんなにボヤけた味になっちゃうのか……とちょっと驚いてしまいながら、味の濃いお焦げの部分をパリパリ食べて味の調節をしながらご飯をかっこんだ。明日はだんな、夜まで仕事だ。夫のいない生活を満喫すべく、カレーを煮ることにしよう。