食欲魔人日記 00年8月 第3週
8/14 (月)
卵御飯
しじみの味噌汁
アイス烏龍茶

息子がまた発熱しているのである。やはり土曜日に雨に濡れたのがマズかったらしい。
悩んでいてもしょうがないので、もう私は休み気分で動き出す。昨日の残りのしじみの味噌汁、生卵ぶっかけ御飯。
「滋養取りなさいよー」
と言いつつ息子にとりあえず喰えるだけ喰わせる。

ああ、今日はいい天気だ。息子と一緒に窓でも開けてお昼寝しよう。

ちらしずし
アイス烏龍茶

息子が喰えそうなもの〜、と台所物色。本当はフルーチェいちご味が目標だったのだけれども、買い置きは底をついていた。確か5箱くらい買ってあったはずなのに。ショックだ。

ならば、昨夜がつがつ食べていたちらしずしならまた食べられるかな、と1合くらいの御飯でちゃっちゃとちらしずしを作る。金糸卵に刻み海苔も準備して、あとは"でんぶ"なんかあったらベストなのにと思いつつ、食卓に並べてみる。
高熱が出始めて赤い顔になった息子は、さすがにちらしずしを食す元気もないらしい。氷入りの牛乳を3杯一気飲みした後は、寝てしまった。
1合弱のちらしずしを一人わしわし食す私。

パプリカのアンチョビマリネ
トマトと茄子のミルフィーユ風
ジャンボハンバーグ 目玉焼き乗せ
アスパラガスのポタージュ
御飯
アサヒスーパードライ、アイスアールグレイティー

「ハンバーグをしましょう!」
と、昨日合挽肉を買ってきた。たっぷりの500gの合挽肉。
刻み玉ねぎをバターで炒め、卵とパン粉と牛乳を合わせて練ったものに肉と玉ねぎ投入。塩胡椒とナツメグも投入。左手でぐいぐいと生地をこねていると、ハンバーグ気分も高まってくる。何だか家族3人分にしてはやたらと大量にあるような気がするけど、構うこたないのである。

生地を冷蔵庫で寝かせている間、他の料理の準備をする。バターで玉ねぎとじゃがいもとアスパラガスを炒め合わせて煮込んでピューレにしたものを牛乳で伸ばしたポタージュ。薄切り茄子とトマトとチーズを交互に重ねて刻みにんにくとバターを落とし、アルミホイルで周囲を囲った付け合わせ、こいつはハンバーグを焼いている間にオーブンでこんがり焼くのだ。冷めてもいい付け合わせに、焼き網でパプリカを黒こげになるまで焼いたマリネ。パプリカは、表面をこんがり焼くと、その薄皮が綺麗にぺろりと剥がれてくれる。アンチョビたっぷりのオリーブ油ソースに絡めておく。

何だかイタリア風のような洋風のような料理が揃いつつある。
"帰るコール"をしてきただんなが帰ってくるのはあと数分後、さぁハンバーグを焼こう。両手で空気を抜きつつぺたぺたと形を作って、いざいざフライパンへ。息子用には小さな小さなころころハンバーグ、私たち用には手のひらより巨大なわらじ型のでっかいハンバーグ。推定200g強のサイズ。

ハンバーグがこんがり焼けゆく間に隣のフライパンにて目玉焼きを作成。ハンバーグが焼けたら上に目玉焼きを乗せ、ハンバーグのフライパンに赤ワインととんかつソースとケチャップを投げ込んでソースを作る。かくして旨そうなアツアツのハンバーグの完成。ビールを冷えたグラスに入れて準備していてくれただんなの待つテーブルにお皿を並べて夕食の始まり。

料理で一番大切なのは味だけど、温度もめちゃめちゃ大切だと私は思う。
炒め物も焼き物も、出来上がってすぐのタイミングでやっぱり食べたいし食べてもらいたい。冷たいものはキンキンに冷たくしておきたいし。
かくして我が家では"後に帰る人が自宅で待ってくれている人に帰宅前に必ず電話を入れるべし"の鉄則が守られている。たとえ夕食時でなくとも、飲み会が終わって帰る前に電話をすれば、茹でたての日本蕎麦がキンキンに冷やされて帰宅直後に出てきてくれたりするのである。これは嬉しい。とても嬉しい。

さて、今日の巨大なハンバーグはすこぶる旨かった。良い具合に煮詰まった赤ワインのソースも良い感じだ。分厚いハンバーグにソースの絡んだ半熟の卵の黄身を一緒に口に入れる。「そうそう、これこれ!」という感じ。
にんにくの効いたチーズたっぷりの茄子のオーブン焼きも、適当に作った割には良い具合になってたし、アスパラガスのポタージュも好評。

8/15 (火)
プレーンオムレツ
ミニハンバーグ(昨日の残り)
パプリカのアンチョビマリネ(昨日の残り)
トマトと卵のイタリアンスープ(レトルトもの)
御飯
アイス烏龍茶

息子の熱下がらず、今日もお休み。
今朝の食卓は残り物レトルト様々含め、何やら豪華だった。

昨日作ったハンバーグとマリネの残り。だんなにプレーンオムレツを作ってもらって(そう、我が家ではオムレツ担当はだんななのだ)一緒にお皿に盛り付ける。少々残っていたポタージュスープは息子にあげて、私とだんなはレトルトのスープを漁る。私は卵入りのトマトスープ、だんなはベーコンビッツ入りのコンソメスープだ。あとは、御飯にお茶。小さなハンバーグを分けあってつつきあう。多少なりとも肉っけのあるものが食卓に並ぶと、やっぱり充実するものだ。

ちらしずしの茶巾絞り
中華風おこげのスープ(レトルト)
緑茶
バニラヨーグルト

息子と2人の昼御飯。
冷蔵庫に残るちらしずしの素を使って1合ほどのちらしずしを作成。これだけじゃ多分食べないだろう息子のために、薄焼き卵を何枚か焼いてお寿司をくるんでみることにする。彼の握り拳より小さな包みを3つほど作って彼の前に並べると、嬉しそうに両手に持ってたいらげてくださった。自分用にと入れた、フリーズドライのおこげスープも奪って半分以上飲みよるし。

私は私で、日曜日から毎日食べているちらしずしに飽きることなく美味しくお食事。高校生の頃は家で度々手巻き寿司もしたものだった。酢飯を用意し、刺身やいくら、イカに納豆、ネギトロなんかを用意して、自分で具を乗せて海苔で巻いて食すのだ。3合くらいあった御飯もぺろりと食べられてしまって、
「手巻き寿司すると、由紀ちゃん食べ過ぎちゃうからダメ」
なんて理由で母は滅多に手巻き寿司をやってくれなくなったのだ。今は我が家に止める人もいない。今度は手巻き寿司かなぁ。うししししし。

パルミジャーノチーズのスパゲティ
キュウリとミニトマト with バジルマヨネーズ
アイスアールグレイティー

だんなは帰りが遅いということで、すっかり熱も下がった息子と二人で早めの夕御飯。
茹でたてのスパゲティにたっぷりのバター絡めて、そこにパルミジャーノ・レッジャーノをガリガリとふりかけてかき混ぜて溶けかかったところに胡椒かけてツルツルと食す、という簡単極まりないパスタ料理に、生野菜にバジルペーストを混ぜたマヨネーズを用意しただけのもの。所用時間15分なり。

同じようなスパゲティは外で食したことはないが、「パルミジャーノのリゾット」ならば食べたことがある。炊きたてのプレーンのリゾットと共に一抱えもありそうな巨大なパルミジャーノ・レッジャーノのチーズの塊がやってきて、チーズのへこんだ部分にリゾットを入れてチャッチャとかき混ぜてから供してくれる、というものだった。リゾットの熱で溶けるチーズを絡め、ついでにスプーンで周囲のチーズを削ってたっぷり入れてくれちゃったりなんかして、たまらなく美味しかった。「家でやりたいなぁ……」としみじみ思った料理だったけど、そんな巨大なパルミジャーノチーズを置くなんてこた、イタリアに住んでいても無理なような気がする。

そのリゾットを思い出しながら作ったスパゲティはチーズたっぷり、独特な芳香と塩気が良い感じに絡んでいた。簡単だけど贅沢なスパゲティだ。

イクスピアリ Piariaの
 ミニマドレーヌ
 バタークッキー
アイスアールグレイティー

午後8時20分、高校時代の友人4人組が我が家にやってくる。
私は息子の世話で同行できなかったのだけど、本日彼女たちは東京ディズニーランドと最近オープンしたショッピングゾーン、イクスピアリに行ってきたのだった。大きなディズニーランドの袋から、息子のお土産にと黄色のふかふかクッションがでてきた。ありがとうありがとう。

床にアイスティーの入ったグラスを適当に置いて、焼き菓子をつまむ。イクスピアリの中で売っていたというその焼き菓子のお店は"Piaria"というまさにそのまんまの名前らしい。親指の先ほどのマドレーヌに袋入りのクッキーをもしゃもしゃ食べながらおしゃべり。
次に皆が揃って会えるのは、多分年末か正月になるのだ(何せ1人はニューヨーク在住……)。

8/16 (水)
台場マクドナルドにて
 フランクバーガー
 ハッシュドポテト
 オレンジドリンク

息子、完治。
でも、ここ連日の激ジョブに疲れ果てたらしいだんなが、
「休むぞ休むぞ今日は休むぞ休んじゃうんだもんね」
と言い出す。で、何故か私も休んでいるんだなぁ……(←不良社員)。

息子は保育園に連れていき、だんなと二人で台場デートに向かう。目標は台場のトイザラスで売ってる息子用の紙オムツだったりするのがちと悲しいけど、ともあれデートだデートだ。

「朝マックが食べたいねぇ」
「んだ、んだ」
と、台場くんだりまで行って何故かマクドナルドに入る私たち。時間は10時も過ぎたばかりで、ろくな飲食店がオープンしていないのも理由だったりするけれど。だけど、オープンしたばかりのシナボンには相変わらずの長蛇の列だ。アクアシティ1階にはもうシナモンと砂糖の甘ったるい匂いが広がっている。

で、ともあれ朝マック。
だんなはフィレオフィッシュのセット、私はフランクバーガーのセット。ハッシュドポテトにドリンクのセット。
初めて食すフランクバーガーなるホットドッグはピクルスたっぷりで悪くなかった。本当はホットケーキを食べたかったんだけど、意味もなく我慢してしまった自分をちょっと後悔。

台場アクアシティ スパイスヘブンにて
 ランチセット
 (サラダ、タンドリーチキン、シシカバブ、野菜カレー、ナン、サフランライス)
 マンゴプリン
 ランチビール

午前11時半のアクアシティは既にぼちぼち混雑し始めている。お盆週間なので家族連れも大層多い。
以前だんなが、
「ラクレットのあるチーズ屋さんがあったよ。"ハイジのトースト"なんてメニューもあってさ〜」
なんて教えてくれたお店がアクアシティ内にあったので、そこを目指して行ってみる……が、退店してる。オープンしてまだ半年くらいしかたってないだろうに、そのお店はすっかり子供のプレイルームとなっている。がーーん。私のハイジトースト。

で、そのプレイルームの向かいにあったインド料理屋のショーケースを覗き込む。ナンとカレーのセット、悪くなさそうだ。なんとマンゴプリンまでメニューにある。いざいざいざ。

ホテルメリディアンパシフィックが見下ろせる窓際の席。テーブルクロスは黒地に赤と黄色の唐辛子模様でこれがなんか可愛らしい。
だんなは「サラダ、2種類のカレー、ナン、ライス」のランチセットを、私は「サラダ、タンドリーチキン、シシカバブ、野菜カレー、ナン、ライス」のランチセットを注文。ついでに生ビールも。

平日昼間のビールは、んもぅ最高に美味しい。先に来たサラダをつまみつつ、ビールを喉に流し込む。至福〜〜〜♪
で、大皿にライスとナン、チキンにシシカバブが乗せられたものがやってくる。小皿にカレー。ランチのライスとナンはお代わりができるらしい、とは店頭に書いてあったけど、今目の前にあるのだけで隨分量がありそうだ。
カレーは基本のルーが同じものらしい。私のは野菜、だんなのは野菜とチキン。チキンはかなり辛目になっている。ナンをちぎってカレーに浸しつつ食す。サフランライスの横にはレーズンらしいチャツネと、玉ねぎのフェンネル風味のマリネが盛られている。辛いチキンカレーには甘いチャツネをちょっと混ぜつつ、御飯とかき混ぜて食す。スパイシーはスパイシーだけど、若干パンチに欠けるインド料理だ。メリハリがない、というか。……そもそも台場というエリアが観光地だから、美味しいものを求めちゃいけないのかもしれないけれど。

「観光地のレストランで美味しいものを求めちゃいけない」
と私はかたくなに思っている。人が来るので客も来る。よっぽど不味いものでも作らなければ、客足が減るなんてことはあんまりない。歓迎されるのは味よりもむしろ早さと安さ、そして知名度。今日も"なめらかプリン"以外は特段美味しいとは思えないPastelのパスタ屋さんには大行列が出来ている。

そんなことをだんなと語らいつつ、それでも目の前の料理は着々と無くなっていく。ちょっと多めのライスとナンに閉口しつつあったころ、だんなが
「ナンのお代わり取ったら、半分喰う?」
とか言っている。いや、喰えません……と思っていたけれど、出てきたのは焼きたてカリカリふわふわのナン。両手で割るとパリパリと音がするものだ。ランチについてきたやつより、全然美味しそうだ。これなら喰えます。喰わせてください。と夫婦で1つのナンをちぎってわしわしと食べる。
横のカップルは、女性が自分の分のナンも食べきれずに残しているところだ。私たちのお皿は自分らの分どころか追加のナンまでわしわしと消化中だというのに。

そしてデザートマンゴプリン。
ちょっと硬めなものではあったけど、こってり濃厚でなかなか美味しいものだった。詳細はこちら

シカゴピザの
 ハットトリックピザ
 カルボナーラスパゲティ
 たらこのスパゲティ
 ハッシュドポテト
 シーザーサラダ
コカコーラ

遊び疲れて、手抜きの夕食。
「あんまり食欲ないしねー」
「おなかすかないしねー」
なんて言ってる割に、この注文する量はいかがなものか。スパゲティ2つにMサイズピザ1つ。サラダにポテト、コカコーラ。

"息子が食べるしね"と取ってみたパスタ料理ではあったけど、
「……うちのタラコスパって、バターの風味豊かで美味しかったのね、って思ったわ……」
「……こっちも、うちのカルボナーラはチーズたっぷりで美味しかったんだな、って思ったよ……」
という感じのものだった。宅配のスパゲティに多くを望んではいけなかったらしい。
3種類のソーセージが乗った胡椒の効いたピザと一緒に、ケチャップをかけたハッシュドポテトを口にする。げふ。何だか胃が疲れております。

8/17 (木)
ざるそば
アイス烏龍茶

御飯なーい。パンもなーい。今日も我が家で何度も繰り返されている
「何食べよっか」
という会話が飛び交う。
「……うどん?」
「……そば?」
「……そば、だな。」
と、本日は日本そば。

液体濃縮つゆ付きの乾麺を茹で、氷水でキリリと冷やしたやつを食卓に。海苔もたっぷり用意したし、刻み葱もある。めんつゆに冷たい麺を浸してちゅるちゅると啜り、簡単な朝御飯。

青山 AcquaPazzaにて
 Cコース \3,200也
前菜の盛り合わせ
温かい前菜
本日のスパゲティ
野菜料理
ドルチェ・コーヒー
   トマトのスプマンテ割り

明後日の土曜日、遅くなってしまっただんなの誕生日祝いという名目で青山アクアパッツァに夕食の予約を入れているのだ。普通のコースでなく、「シェフズ・テーブル」という内容で。
なんでもイタリア本国で流行していると聞いたシェフズテーブルは、本来良い席とはされていない厨房の至近に席を用意して、シェフ自らがそのテーブルの客と接して要望を聞きつつ料理を出す、というものらしい。パスタたっぷりのコースでも前菜系の料理が続く懐石のようなものでも、いかようにもやってくれると聞いていた。そんな楽しいこと、やってみたくないわけがない。

で、明後日の予約は既に入れてあるのだが、その内容を先に打ち合わせておこうということで、私は一人お店にやってきてみた。せっかくだからお昼御飯も食べてしまえ、と思いつつ。

12時過ぎの店内は、なかなか混雑している。
「テラス席にお座りになりますか?」
と小さな一角、1卓しかないテラスコーナーを案内されそうになるが、一人でそれはとても恥ずかしいことだ。
「隅っこで良いです。一人ですし。」
と言ったらば、まさに"シェフズテーブル"の席に案内してくれた。横には冷菜の前菜トレイが並んでいる。……あ、思わず目がそちらに行ってしまう。今日も旨そうなものが並んでいる。じゅるじゅる。

テーブルに着くと、見慣れない赤い発泡酒が出てきた。トマト入りのスプマンテであるという。確かに爽やかなトマトの香りがあるけれど、生のトマトに感じられる青臭さや生臭さのようなものは全くない。清清しくてとても美味しい。スプマンテを舐めつつ、一番安いコースにしようと思っていたのにいつのまにか2番目に高いコースにしている私。"温かい前菜"や"野菜料理"、"ドルチェ"なんて文字列を見てしまうと、ついついそちらも食べたくなってしまうではないか。

まずは冷菜の盛り合わせ。イワシのハンバーグにタルタルソースを乗せたもの、プチトマトに豆とソーセージの具を詰めたファルシー、鶏肉とカブのマリネ、リコッタチーズと生ハムを巻いたクレープのクルミソースがけ、パプリカのマリネ(ペペロナータ)の5種類。どれも細かい仕事がしていてピカピカと光っている。さっそくフォークとナイフを構えて料理に取りかかる。一見甘そうと思ったリコッタチーズとハムのクレープはほどよく塩気があるもので、甘味のあるクルミのソースが良く似合っている。どれもこれも良い感じ。

で、食前酒がなくなった。
「ワイン、少し飲まれます?」
とお店のマネージャーS氏がおっしゃる。
「辛口がお好みでしたよねぇ〜」
とS氏、私の右手奥に置いてある保存庫からワインを漁っている。
「香り豊かなもの、というよりキリリとした風味のものは如何ですか?」
はいー、そういうの超好みですー。って、もう開栓してるワインじゃないんですかい。
「これこれ、シチリアワインなのですが、最近流行ってるものなのだそうです。」
と目の前に置かれたのは、綺麗なブルーの背景にヨットの絵という綺麗なラベル、「TRAIMARI」とだけ文字が書いてある。見たことがないワインだ。

「シチリアで流行してて、なんでも持ち歩くためのホルダーまであるらしいですよ。」
と言いつつコルクを開けてくれる。
「瓶ごと持ち歩いて、ビーチやテニスコートなんかに行くらしい、と聞きました。」
だそうである。
切れ味の良い辛口のワインで、脳天に突き抜けるようなスキッとした香りのワインだった。暑い日に飲むにはとても気持ちよく感じるワインだ。いかにも夏のワイン、という感じがした。

美味しいワインをいただいているところで、次なる前菜。じゃがいもの小さなコロッケの中心には小さなタコが入っている。ちょうどタコ焼きくらいの大きさのコロッケは揚げたてサクサクですこぶる旨い。山盛りボールに盛ってビールで乾杯したくなってしまう。

そしてスパゲティはトマトソースのものを選んだ。
今日のパスタはタチウオのオイルスパ、羊肉のトマトソーススパ、生ハム入りのクリームソーススパであるらしい。羊肉とか、あるいはキジだのウサギだのと聞くとついついそれを頼んでしまう肉食な私。
ホロホロに煮込んだ羊肉がたっぷり入ったソースはパスタにしっかり絡んでいた。ピリリと唐辛子の辛みが効いていて汗が一気に吹き出してきた。汗かきつつ、冷たいワインを胃袋に流し込む。ああ、なんかシアワセになってきたぞ(←酔ってる)。

そして最後に野菜料理。煮込んだナスがキリリと冷やされ、たっぷりのラタトゥイユに似た野菜のソースがかかっている。中央には温泉卵。
「絡めて食べてくださいね。」
とのことで、遠慮せずに温泉卵を崩すことからとりかかる。やわやわと固まっている黄身と一緒に冷たい茄子を持ち上げて、ズッキーニやパプリカの入ったソースと一緒に口に運ぶ。オリーブオイルの良い香りがして、冷たく柔らかい茄子が喉を通ると汗がすーっとひいていく。いやーん、美味しい。すっごく美味しい。ソースの中の野菜には適度に歯ごたえがあるように仕上げられていて、そのシャクシャク感も良い感じだ。

んで、デザート。エスプレッソと一緒に出てきたのは、ティラミスにババにトマトのソルベ。"ババ"とはイタリア版のサバランだ。スポンジのケーキに甘い洋酒のシロップがしっとり染み込んで冷たく冷やされたもの。生クリームが添えられている。トマトのソルベは、トマトのスプマンテと同じく、生臭さの全くない爽やかなものだった。言われなければトマトのソルベとは気が付かないような、フルーツのような感覚がする。トマトのスプマンテで始まった今日のお昼は、トマトのソルベで締めくくられた。堪能いたしやした。

食後、このお店の料理長Kさんがテーブルにやってくる。明後日の夕食の打ち合わせ。
「あのですね。夫がとっっっっってもカスタードプリンが好きなので、デザートに巨大なプリンを出してくれますか?」
とリクエストの1つにそう伝えると、
「いつも、ティラミスと同じように角皿にプリンを作るんですよ。……その半量くらい盛りましょうか?」
と笑いながら言ってくれた。それは……きっとだんなは踊っちゃうくらい嬉しいと思うけど料理が食べられなくなっちゃいます。

Kさんもプリンが好きらしい。にこにこしながら、
「南瓜入りとか紅茶入りとか作りますが、やっぱりバニラ風味のシンプルなやつが一番ですねぇ……」
と言っていた。会話の後、そばにやって来たSさんも
「僕もプリン大好きなんですよ。あの角皿1杯、イケますねぇ……」
と言っていた。

プリンを語る男達は、皆子供のような顔になる。だんなも含めて。
君たち、そんなにプリンが好きか。(いや、私も好きだけどさ……)

茹で枝豆
親子丼
夏野菜の味噌汁
モルツ、麦茶

昼にイタリアンを喰った。明後日また食べることを考えると、もう今日明日の食事にイタリアンは厳禁だ。昨日インド料理を喰ったので、スパイス系も止めておきたい。ならば……和食かなぁ。しかも軽めがいいなぁ、と色々考えて親子丼。

茄子と南瓜とじゃがいも入りの具沢山の味噌汁に、鶏肉たっぷりの親子丼。
我が家には、"親子丼鍋"がある。平たくてうすっぺらい、木の取っ手が真上に伸びた蓋付きの一人分鍋だ。具をこれに作り、すべらせるようにして盛り付けるのだ。その親子丼鍋が、何故か我が家には2つ常備されている。こういう物体で我が家の台所にはモノが溢れているのだった。

鶏肉と卵だけのシンプルな親子丼、卵は当然半熟状態にして御飯に乗せる。
ちょっと"つゆだく"状態になった親子丼だったけど、辛すぎずも甘すぎずもせず、良い具合。

8/18 (金)
焼き蛤
御飯
夏野菜の味噌汁

冷蔵庫の中から、お義母さんから以前貰った焼き蛤の真空パックを発掘。真空パックとはいえ、確か半年以上も前から冷蔵庫に入っていたような。やばい!とお湯で温めてテーブルに乗せることに。
あとは昨日の御飯と味噌汁。

串に刺さった甘辛い焼き蛤は良い御飯のおかずになる。
そう、確かお義母さんも、
「お弁当作るなら、これ便利よー」
と言っていくつかの袋をくださったのであった。
しばらくお弁当作ってないなぁ……(何故って暑いから)。涼しくなったら作るかなぁ……。

パイナップル味ちんすこう
牛乳

昼休み、パンでも買いに行くか、と思っているところで同僚から沖縄土産だと"ちんすこう"をいただく。カラフルな箱には何種類かの味のちんすこうがみっちりと並んでいる。パイナップル味のものを2ついただいて食べたところ、何だかその甘さでもって空腹が収まってしまったのであった。結局昼御飯はちんすこう2個。とほほほほー。

沖縄銘菓"ちんすこう"はラードに砂糖と小麦粉を混ぜ合わせて練ったものだそうだ。
どっしりと甘く、腹持ちがする。ちょっとポソポソとした歯触りと共に、なんだか"らくがん"を思い出してしまう。"らくがん"共々"ちんすこう"はあまり好物とは言い難いお菓子だ。何だか非常食のように、1かけ食べると満腹してしまうのだ。

台場アクアシティ 焼き肉ガルーバにて
 ユッケ
 サンチュ
 タン塩
 ハラミ
 ミックス盛り合わせ(タン・ロース・カルビ)
 にんにくホイル焼き
   石焼きビビンバ
 生ビール、ライチオレンジカクテル

台場アクアシティ 北海道ソフトクリームMOUMOUにて
 チョコミックスソフトクリーム

だんなは早めの帰宅の午後6時半。私は遅めの帰宅の午後6時半。家族全員が6時半に玄関近くで顔を付き合わせることとなり、
「さて、夕飯どうすっかねー」
という話になる。今から御飯炊いたら夕食は1時間後になっちゃうし、正直あんまりやる気がない。

「焼き肉な気分だ。」
「ビビンバな気分だ。」
「よし、焼き肉屋だな。焼き肉屋に行くぞ。ゴーゴー!」
と適当な洋服に着替えて台場方面に行ってみることにする。
DECKS内には何度か行ったことのある「炉や」がある。アクアシティの中にも数軒焼き肉屋があったはずだ。数十分後台場に到着した私達は各店の店頭メニューを眺めて、適当に安いところに入ってみることにする。……が、値段はどこも似たり寄ったりだ。週末前、金曜日の夜ということもあって人も多い。入ったことのないところにしましょう、とアクアシティ内の「ガルーバ」という焼き肉屋に入ってみることにする。

薄暗い店内には、2人がけのテーブルが多い。適度に区切られた空間、窓際にはカウンターが据えられていて、2人ずつが窓に向かって肉を焼けるようになっている。目の前に広がる、どどーんとレインボーブリッジ。しかし……薄暗い。ブラックライトが飾られ、テーブルの上からほのかに降ってくる淡い光は、"ここ、お触りバーですか?"(←今時あるんかい、そんなの)という感じがする。
……焼き肉屋は、明るい方がいいなぁ。肉の焼け具合とか色とか全然わからんし。

気を取り直してま、ビールを注文。タン塩も注文。息子用には「ガルーダ特製オムレツビビンバ」なるものも注文。
"生ビール1杯注文の方に、小グラスビール1つ「呼び水」サービス中"
なんてわけのわからんポップ札が店頭にあったのだが、果たしてすぐに小さなグラスのビールがやってくる。とりあえず一気飲み。ぷはー。薄暗いけど、夜景が良く見えるのは良いことだ。

タン塩登場。レモン汁に、にんにくたっぷりのサラダ油和えのみじん切り葱がやってくる。サッと焼いたタンに、葱油つけつつ食べる。ん、なかなか旨い。にんにくたっぷり加減がけっこういける。
ユッケも大好物。
「やっぱり生肉っすよ、生肉。」
とか言いながら生卵を肉にぐっちょぐっちょと混ぜ合わせて食べる。野生の動物になった気分になるので、私はこのユッケが本当に好物だ。

ハラミも来た。牛の横隔膜である。ちょっと内臓臭くはあるけど霜降りの筋肉、という感じがこれまた好物だったりする。こいつもサッと焼き、タレをつけた後に御飯と一緒にサンチュに巻く。サンチュ味噌をたっぷりつけて、くるくる巻いてがつがつ食べる。ああー、焼き肉よ、焼き肉だわ。

あとは8切れずつくらいのタンとロース、カルビ。サンチュで巻いたりそのまま喰ったり、いつしかビールも空になる。私はカクテルのライチオレンジを所望。ライチ味の口当たりの良いカクテルをくぴーっと飲みながら再び焼き肉に臨む。

息子用の"オムレツビビンバ"は不思議な物体であった。
キムチ入り、コチジャンたっぷり入りのピラフのような御飯の中にナムルが混ぜ込まれ、上には半熟オムレツがかかっている。茶褐色の御飯は、一瞬甘く感じるものの、これが辛い辛い辛い。"これを息子に注文したのは間違いだったかも……"と不安に駆られながら観察していると2歳4ヶ月の息子は長いスプーンを操りつつ、えらい勢いで消化中だ。辛くないのかなぁ、辛いと思うけどなぁ……。

ビールも飲んだ。肉も堪能した。シメはやはりビビンバだろう。私は石焼きビビンバを、だんなはコムタンを注文。カルビの乗ったビビンバは、ライムの風味がするナムルが乗っていたりして少し変わったものだった。スープで炊いたらしいコクのある御飯が悪くない。熱い石鍋に御飯をギュッと押しつけてお焦げを作りつつ、汗をかいて食べていく。見栄えは悪いけど、ビビンバはやはりぐっちょんぐっちょんに全部かき混ぜてから食さなければならない。モヤシのナムルもほうれん草も、肉も卵も渾然一体となるまでわしわしとかき混ぜるのだ。旨い。
だんなのコムタンもかなりイケるものだった。白濁した濃厚なテールスープはにんにくの香りが濃厚で、ホロホロに煮込まれたテールも良い具合だ。

やっぱり夏は焼き肉が旨いなぁ。
このお店も悪くなかったけど、いかんせん暗いのが難だった。たとえ良い肉が出てきたとしても、あんなに暗い店内じゃ良い肉喰った気になれない。注文から料理が来るまでの間が開きすぎるのも気になったし、今後この店に来るのは、ランチにビビンバを食べに来る時だけになるだろうなという感じ。

で、食後。
アクアシティ1階、シナボンの香り溢れる一角で北海道ソフトクリームとか喰ってるのである。
ワッフルコーンに乗ったソフトクリームにチョコスプレーとチョコソースをかけたパフェ風ソフト、350円なり。あまり濃厚でもなく、ごく普通のソフトクリームだったけど焼き肉後の冷たいデザートはとっても美味しいのだ。

ああ、今日も食べてしまった……明日の夜も外食なのに……。

8/19 (土)
有楽町 慶楽にて
 酢豚
 御飯

本日は一日外出。午後2時からの演劇を見て、午後6時半に青山で夕食なのだ。
昼過ぎに、有楽町で母に息子を預けることになっている。じゃあ朝飯も兼ねて早めの昼御飯を有楽町で♪と午前11時半、有楽町にでかけていく。

目指すは「慶楽」。老舗の広東料理店だ。「どっちの料理ショー」なんかでやたらと出てくるこのお店、確か酢豚も美味しいと聞いていた。ずっと気になっていたお店だけど、入るのは初めてだ。

日比谷近くの、JR線路沿いの小さなお店。開店直後なのにもう数組の客が入っている。店員はおばちゃんばかりが5人ほど。きびきびと動いて息子に冷たいお茶なんかを持ってきてくれる。愛想が良く、店内も気取りのないごくごく普通の中華料理店だ。出てきた熱いお茶を飲むと、これがプーアル茶だった。プーアル茶が出てくるなんて、ちょっと嬉しい。飲茶店ならともかく、普通の中華料理店でプーアル茶が飲めるなんて滅多にないことだ。
私は大好物の酢豚に御飯を。息子用に牛肉のあんかけ焼きそば。だんなは炒飯ランチ。

先に来ただんなの炒飯ランチ、すこぶる旨そうだった。
区切りのついた楕円のお皿にはたっぷりの炒飯。揚げ焼売に牛肉の味噌炒めが乗っている。アルミの小さなお皿には、ココナッツのババロアが乗っている。飾り気のない皿だけど、なんだかとっても美味しそう。横から箸を出して揚げ焼売を1つ貰う。揚げたての表面サクサクのお肉たっぷりの焼売。ごろりと大きめでジューシーだ。う、旨い。めっちゃ旨い。チャーシューと腸詰がたっぷり入った感じの炒飯もパラパラと濃厚なのに油っこくない。な、なんか美味しいぞ慶楽。すばらしい。

そして私の酢豚。
銀色の台付きの銀色の平皿。なんだか古めかしい器に酢豚はやってきた。揚げたての豚肉が、表面カラリとあんに絡んでいる。ケチャップの味のしない、尖った酢の味がする酢豚だ。甘さはほとんどない、酢と醤油の味がする酢豚。馴染みのパイナップルすら入っていない。なんだかとても大人の酢豚だ。悪くないけど……ちょっと酸っぱい。本当に"酢"豚、という感じだ。御飯に似合うそれを、がつがつと食べる。カリリとした衣を囓ると、強い酢の匂いと熱い湯気が口から鼻に上がってくる。酢が脳天にガツンと来る酢豚だ。

食事後、無事に母に息子を預け終わった私たちは池袋に向かう。
午後2時開演のサンシャイン劇場、キャラメルボックス「カレッジ・オブ・ザ・ウィンド」を見に行くのだ。

コージーコーナーの
 マンゴープリン
ブラッドオレンジジュース

キャラメルボックスの演劇は今日も楽しかった。劇場を抜け出て午後4時半、サンシャインシティの地下をほてほてと歩いているところで、コージーコーナーのマンゴプリンを発見。これは喰わなければならないでしょう!とプチモンブランと共にその小さなプリンを購入し、近くのファーストフード店でオレンジジュースを注文してベンチに腰掛け一休み。

がさがさと袋からマンゴプリンを取り出しておもむろに写真撮影している私は、相変わらず怪しい人間かもしれない。
甘く濃厚なマンゴプリンを食べながら、真っ赤な酸味の強いブラッドオレンジジュースを一気飲み。さぁ午後6時半には青山でディナーだディナー。

青山AcquaPazzaにて"シェフズテーブル"ディナー
 前菜10品盛り合わせ
 帆立貝とムール貝のオイルパスタ
 比内鶏地鶏のファロット チーズと生ハム入り
 真鯛の中華風 プッタネスカソース
 とってもジューシーな仔牛ロース肉のグリル夏サラダ添え
 デザート1:たっぷりのカスタードプリン
 デザート2:盛り合わせ
 デザート3:バニラジェラートのベリーソースがけ
 デザート4:プチフール
 エスプレッソ
 トマトのスプマンテ
 白ワイン:TRAIMARI (CISILIA)
 赤ワイン:CORCO TONDO (CISILIA)
 デザートワイン(赤):PASSITO (SAGRANTINO di MONTEFALCO)
 デザートワイン(白):LA BIANCARA (GAMBELLARA)

南青山のアクアパッツァにて夕御飯。本日は「シェフズテーブル」なる内容だ。厨房に一番近い席で、料理長に好みを伝えていかようにも対応してもらえるシェフズテーブル、一度試してみたいと思っていた。7月下旬のだんなの誕生日にちゃんとしたお祝いをしていなかったので、今日は"だんなのお誕生日祝い"という名目の食事会。
打ち合わせは一昨日、ぬかりなく済ませている。だんなの好みを聞いてきて、私がお店に伝えたリクエストは、

 ・前菜の盛り合わせが大好物なので、一皿にいっぱい盛って欲しい。
 ・ファロット(スペルト小麦で作ったリゾット)と、気合いの入ったオイルパスタを食べたい。
 ・メインは魚と肉両方。当日の食材でそれはお任せしたい。
 ・デザートは、だんな好物のカスタードプリンを、山盛り。

だった。
リクエストを伝えてからというもの、シェフのKさんは暇さえあれば「……どうしよう」と考えていてくれたらしい。
食前酒にトマト入りのスプマンテをいただいていると、Kさんがテーブルにやってきて今日の料理を説明してくれた。
「前菜に、10種類を大皿に盛り合わせました。これこれと、これこれと……パスタはこれこれ……あと、メインはフランス産の骨付き仔牛が本当に美味しいので、これをグリルしたものをお出しします。あとは、リクエストにいただいたカスタードプリンをたっぷり。あと何種類かご用意してあります。」
聞いていて涎が出てくる。いやーん。旨そーう。
イタリアで修行してきた若き料理人のKさん、彼の料理は本当に旨いと思う。特にだんなは彼の大ファンだ。

かくして最初の皿、たっぷりの前菜。
一抱えもありそうな大きな楕円の皿にはかつて無いほどの前菜が盛り合わされていた。小魚のフリット、赤ピーマンのマリネ、サーモンのサラダ、カレーソースのかかった穴子のフリット、お米のサラダ、ゴルゴンゾーラチーズとはちみつの乗ったクロスティーニ、黒豚のグリルと豆のサラダ、茗荷のピクルス、オイルと塩胡椒しただけの国産のモッツァレラチーズ、魚のグリルのトマトが乗ったもの。10種類、それぞれ2口分くらいずつたっぷり乗っている。柔らかいもの、歯ごたえのあるもの、味や歯触りの違いがあるものがまんべんなく用意されていて、見ているととてもシアワセになっている。いや、食べるともっとシアワセなんだけど。
そのリクエストの発起人、だんなはとても嬉しそうだ。
「これ、全部僕一人で食べていいのねー?」
って感じでフォークとナイフを駆使してがつがつと食べている。

食前酒が終わった後、一昨日グラスで貰ってはまってしまった「TRAIMARI」という白ワインを今日は瓶ごといただいた。
「1ケース買ったんですが、何だかいつのまにかあと1本になってるんですよ……」
と苦笑されながら供されたワインは、青い背景にヨットが浮かんだ綺麗なラベルのもの。キリリと辛くて抜けが良い、夏っぽいワインだ。水のように飲み進む。

続いて、パスタ。
最初は帆立貝と小さなムール貝を使ったオイルパスタだった。
唐辛子のピリリと効いた、磯の香りがただよう小さなパスタ。そしてファロット。米(Riso)を炊いたものがリゾット(Risotto)ならば、スペルト小麦(Farro)を炊いたものはファロット(Farotto)と言う。以前食べさせてもらったこのファロット、もちもちパラパラとした面白い食感の小麦が妙に心地よく美味しくて、すっかりクセになっていたのであった。
「以前は魚介のスープで炊いていたのですが、今日は鶏のスープで煮込んで比内鶏を混ぜ込みました。」
というそれは、好みな感じにケダモノの香りがただよってくるものだった。磯の香りのものも美味しいけど、茶褐色の鶏スープで煮込んだものも悪くない。いや、逆にこっちのほうが美味しいくらい。仕上がりに生ハムとチーズも混ぜ込んだというファロットには、食べる直前にパルミジャーノ・レッジャーノを更に上からガリガリかける。5口分くらいの小さなファロットは、相変わらずモチモチと面白い食感だ。充実した肉の香りに、塩気の効いたチーズの濃厚さが似合っている。
だんな、くねくねしてる。旨いらしい。

パスタ2品の次は、メイン。
「良い鯛が入ったので、今日は中華風にしてみました。」
とのこと。1匹ごろりと転がる魚の上には、たっぷりの香菜が乗っている。上から熱したオイルをスプーンでかけると、ジュジュジュッと小気味よい音がする。ああ、本当に中華料理のようだ。確か「清蒸鮮魚」なんて言う名前で似たようなものを食べたことがある。
目の前で、魚を綺麗に2人分に取り分けて貰い、冷たいプッタネスカソースも添えられる。オリーブや夏野菜の入った冷たいトマトのソースと香菜のたっぷり乗った魚は一見不似合いだけど……恐ろしいほど似合っている。

脂が乗ってムチムチした鯛はふくふくと柔らかくて、甘辛いソースと香菜が良く絡む。その上に、ほの甘いトマトのソースが良い具合に乗るのだ。まんま中華風みたいな料理なのに、意外な組合せだ。
後に、会計の時にスタッフが、
「あれお魚の方に、ソースと合うように一工夫加えてあったんですよ。」
とニコニコと教えてくれた。なんだろう、バルサミコ酢でも加えていたのだろうか。にしてもちょっと不思議な組合せの一皿だ。ソースが美味しくて、ぺろりと全部平らげる。
だんな、ますますくねくねしている。旨いらしい。

して、本日のメインディッシュ。これはメニューにも乗っている「とってもジューシーな仔牛ロース肉のグリル夏サラダ添え」というやつだ。
2人分からしか焼けないというこのお肉、フランスから輸入したものらしい。魚を食べている頃から、厨房の奥ではもくもくと白い煙を出して焼いていた肉だ。
大きな大きな皿に、一口大ほどに切られた大きな肉の固まり。太い骨ももれなく付いてきている。横にはトレビスやルッコラなどのたっぷりの野菜。ただただ塩胡椒して焼いて、最後に上質のオリーブ油をひとたらししたようなシンプルな料理だ。
「この肉が!んもぅ最高に旨いんです!」
スタッフが口を揃えて言っている。期待も高まる。
赤ワイン、「CORCO TONDO」をグラスに1杯、いただいた。

こんがりと焼けた肉は、充分火が通っていて、囓ると中からたっぷりの肉汁が出てきた。脂もあるけど、これが少しもくどくなく、甘くトロリとしている。お、お、お、美味しい〜。めっちゃ旨い、旨いっすよKさん!
程良く歯ごたえのある肉は、隅から隅までたっぷり肉汁が入っていた。どこを囓っても、じゅくじゅくと汁がでてくる。
側に控えていたスタッフが、
「このソースがまた旨いんですよ。」
とお皿から油を含んだ肉汁をスプーンですくってかけてくれる。ああ、何だか口も胃袋も牛肉で満たされていてシアワセです自分。肉喰ってます!という充実感に溢れています。
たっぷりの野菜をもりもり食べながら、肉を囓る。だんな、フィンガーボールを横にしながらシアワセそうに骨の周囲の肉と格闘中だ。太い太い骨の周りには、当然ながら旨い肉がたっぷりついている。あ、美味しそう……。

肉喰った。パスタも堪能した。ワインもたらふく飲んだし、満足じゃ。
でもデザートは別腹。
厨房では、
「では、例のものを!」
とか言っている。

ほどなくKさんが、大きな角皿に固められたたっぷりのプリンを持ってきた。目の前のお皿に、どかんどかんと盛り付けてくれる。
「お代わりも、どうぞ」
とか言ってる横で、だんなが
「あ、3すくい下さい」
とか言っている。スタッフが肩ゆらして笑ってるじゃないか。

だんなには3すくいのカスタードプリン、私には1すくい半くらいのカスタードプリン。そして、蝋燭が3本載った大きなプレートも来た。上にはズッパイングレーゼ、ティラミス、チョコレートケーキにタルト、レモンとマンゴー、トマトの3種類のソルベも乗っている。何だかテーブルの上はドルチェだらけだ。ああ、なんてステキな光景だろう。

蝋燭を前にしたところで、厨房からぞろぞろと料理人含めて全員がテーブルの側にやってきた。何事かと思って固まっていると、全員でイタリア語の"Happy Birthday to You"を歌ってくれた。バタバタしてて半月遅れのお祝いになっちゃったけど、良かったねぇ、だんな。蝋燭ふー、して下さい。さぁさぁ。

して、カスタードプリン。本当に山のようにあるそれを、それはそれはシアワセそうにだんなは食べていた。
苦めのカラメルがたっぷりかかった、スタンダードな好みなタイプのカスタードプリン。卵たっぷり、という感じの黄色くプルプルしたやつだ。かなり美味しい。とても美味しい。
プリン少なめの私は、大皿の各デザートをがつがつ食べる。甘いけど軽めのチョコレートケーキ、甘酸っぱく柔らかなズッパイングレーゼ。マンゴーのソルベは青臭みの全くない、甘くて濃厚なものだった。んん、美味しい♪

「こういうものも紹介していきたいんですよ〜」
と、デザートワインがサービスで出てきた。細長い小瓶の上品そうなラベルの"影干し葡萄"を使ったデザートワイン、という赤いそれは「PASSITO」という名前らしい。ちょっと澱は入っているけれど、こってりと甘く、でもスッと抜ける嫌味のない味がする。デザートワインと言えばフランスのソーテルヌ産のものとか、ドイツの貴腐ワインくらいしか私は知らなかった。イタリア産のデザートワインも、ものすごく美味しいものだ。全体的に、ねちっこくはない、カラリとしたイタリアの気候のような風味のあるワインだ。こういうワイン、とても好みだ。
良く見るとそのワイン、ナンバリングがされている。それって、結構な値がするもんじゃ……。

「赤の方、ちょっと澱があったので……」
とか言いながら、白のデザートワインまで飲ませてもらう。「LA BIANCARA」という名前の白ワインも小瓶に入ったものだ。トロリと濃度があるこってり甘い白ワイン。"甘露"という文字が似合うような、気品のある味がする。いつもこういうの、飲んでみたいとは思っているけど値段が怖くて飲めないのよね。とほほほほ。

「まだお腹、大丈夫そうでしたらもう1品あるんです。」
とのお言葉。勿論大丈夫です、とうんうんと頷くと、今度は足付きグラスに入ったものが出てきた。
バニラのジェラートに、ラズベリーやグランベリー、ブルーベリーなどの色とりどりのベリー系の果物をバターと洋酒でソテーした、アツアツのものがかかっている。ジェラートに熱いエスプレッソをかける"アフォガット"は何度か食べたことがあるけど、ベリーをかけるのは初めてだ。
洋酒の良い香りがするアツアツのベリーは、ふわりとバターの匂いがする。溶けていく冷たいジェラートを絡めて口にすると、熱く冷たいその温度の違いと香りの良さが口中に広がる。あああ、これも美味しいです。ステキです。でも……さすがにこれで満腹になってしまった。

エスプレッソを傾けつつ、たっぷりの料理の後のたっぷりのドルチェを堪能した私たちは、さすがに満腹度10割を越えてしまうほどお腹一杯になってしまった。最後の最後のプチフール、小さなシュークリームにミルフィーユは食べきることができなくて、小さな容器に持ち帰り用に入れていただいた。

2時間半の長丁場のお食事を終えて、息子の待つ実家に戻ったのは午後10時。
実家のソファに座り込んだら、もう立ち上がれなくなってしまった。そのまま急遽実家に泊まることに。
ファロット、美味しうございました。牛肉、美味しうございました。プリン、美味しうございました。
せりあはもう食べられません……。

8/20 (日)
実家にて
 揚げ茄子のおろし醤油和え
 じゃこの佃煮
 漬物
 茄子とじゃがいもの味噌汁
 御飯
 麦茶
 桃

実家で迎えた久しぶりの朝。
「突然泊まるなんて言うから、御飯の準備何もないわよー」
なんて言いながらも、炊きたての御飯に味噌汁、揚げ茄子なんかがテーブルに並んだ。佃煮に漬物。御飯のおかずたっぷりの何だか御馳走だ。

麦茶を飲み、桃を剥いてもらって、なんだかのんびりしてしまう。実家って、いいなぁ。いつも自分で剥かなければいけない桃が、剥かれて出てくるのだ。すばらしい(おいおい)。
午前10時半、辞去してバスに乗り銀座へ〜。

銀座 ハーゲンダッツにて
 マンゴークーラー

銀座のハーゲンダッツでお昼の時間に昼食ならぬおやつを食べる。
久しぶりのハーゲンダッツ。パフェじみたものや「なんちゃらクーラー」なんて新商品がずらりと紹介されている。で、初体験の「マンゴークーラー」。

かき氷にマンゴーシロップ、上に乗るのはマンゴーアイスクリーム。果肉入りの濃厚な香り漂うアイスクリームがどかんと2かけ。椅子に腰掛け、マンゴークーラーにだんなはクッキー&クリーム、アイスコーヒーに息子はオレンジジュースを前にする。
冷たく甘いアイスクリームはこの季節たまらない。かき氷がまたたまらない。上からクーラーの風がピューピュー直撃する下で、マンゴークーラーを平らげた私はすっかり身体の外側も内側も冷えてしまったのだった。

午後0時半、帰宅。
午後2時から昼寝を始めてしまった私が目覚めたのは午後6時過ぎであった。ありゃりゃりゃりゃー……。

広島風お好み焼き
よなよなエール

「お好み焼きをしませんか?」
銀座三越、鮮魚売場に並ぶタコを見ながらそう言った午前11時の私。
「……いいんじゃないの?なら、広島風だな♪」
と答えるだんな。
かくしてモヤシに豚肉、卵を買ってきていたのであった。キャベツは冷蔵庫に残っているし。

我が家には、怪しげな「お好み焼きセット」が保存されていた。
かのオタフク社製のそれは、お好み焼き粉にかつぶし昆布粉、天かすやソースなんかがセットになっている。漫画で詳細な作り方の書かれたリーフレットも入っている。本格風なのか何なのか、いまいち不明なセットである。ともあれ、リーフレットを前に食材の準備。
キャベツを刻み、葱を刻み、そばを準備しもやしを洗う。粉は水と卵で溶いておく。

いざいざ、とだんながヘラを構えてホットプレートの前に立つ。
クレープ状の生地を焼いて、かつぶし粉かけてキャベツを乗せて。もやしと天かすと葱も乗せて、豚肉乗せたらまた生地かける。えいやっとひっくり返して、上からぎゅうぎゅうと押さえつけ、焼きそば敷いて、卵も敷いて。美味しそうだけど、なんだかとても難しそうだ。
狭いホットプレートの上で大きな生地をひっくり返すのはとても大変そうで、額に汗するだんなは
「うりゃ!……あらららら……うぇーん……あちゃー」
と時々泣きそうな顔になっている。がんばれだんな!もう少しだ!

ほどなく、息子用の小さなお好み焼きに、私用の大きなもの、だんな用のもっと大きなものがテーブルに並んだ。何だか外見はすごいけど、それはそれで美味しそうだ。オタフクソースをたっぷりかけて、マヨネーズに青海苔。口の周りをソースでベタベタにしながら広島風お好み焼きに対峙する。
火の通ったキャベツやモヤシは、でもシャキシャキとしていて良い感じだ。豚肉に卵に焼きそば。なんだかとても栄養のありそうな広島風お好み焼き。1枚食べたらすっかり満腹だ。