食欲魔人日記 02年10月 第3週
10/14 (月)
ろくな料理の写真がなかったので、
グランドキャニオンで見かけたリスの画像なぞ
(別に捕獲して喰ったわけではございませぬ)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Grand Canyon 「Yavapai Loadge」併設カフェテリアにて
 フレンチトースト
 ベーコン
 ホットチョコレート

今日は朝5時半に起床。
せっかくグランドキャニオン内の宿に泊まっているのだからと、夜明けを見に近くのポイントまで行ってみることにしたのだった。空はまだ真っ暗な星空、身震いするほどの寒さのなか、じわりじわりと夜が明けていくのを岩に座りながら待ってみた。
昨夜はすっかり暗くなってからグランドキャニオンに来たので、その場所からの光景やら何やらは全く知らないままで来たのだけど、明るくなってくるにつれて足の下がぞわぞわしてきた。……めっちゃめちゃ高い。めっちゃめちゃ怖い。頑丈そうな柵はあるけど、柵の下はすぐに垂直の崖が数千メートル下まで続いているような感じだ。私は高所恐怖症ではないはずだけど、膝が笑ってくるような感じ。

「……きれいね」
「すごいね」
「いろんな意味で、すごいね」
とちょっとばかり顔をこわばらせながら初めてのグランドキャニオンを満喫した。

朝御飯は、昨夜に続きロッジ併設のカフェテリアへ。セルフサービスのカウンターからフレンチトーストにベーコンをつけてもらったのを貰い、すっかり凍えた身体にホットチョコレートを流し込んだ。
どういうわけか、フレンチトーストはほのかにカレー粉みたいな味がした。メープルシロップをつけながら卵液を染み込ませて焼いた食パンを囓り、ベーコンをつまむ。やっぱりあんまり美味しいとはいえなかった。悲しい。

Grand Canyon 「Desert View」にて
 ハムチーズサンド
 ゆで卵
 紅茶

午前中はグランドキャニオン内をあれこれ散策。崖っぷちを歩く2kmほどのトレイルも泣きそうになりながら歩いてみた。あと2歩足を右に出せばもれなくあの世に到達できます、というような道には柵も何もついていない。息子の手をしっかと握って
「絶対暴れないでね〜」
「ちゃんと内側を歩いてくれよ〜」
とおっかなびっくりのトレイルだった。

午後からは、一路「モニュメントバレー」に向かうことに。途中、レストランどころかファーストフード店もないかもしれないと懸念して、グランドキャニオン内のスーパーマーケットでサンドイッチでも買って行こうということになった……が、ろくに種類もないサンドイッチはどれも高価だ。あれこれ考えた結果、ハムとチーズとパンをそれぞれ買って自分だちでサンドイッチにして食べることにした。これなら同じ値段で倍くらいの食材が入手できることになる。有り難いことにゆで卵も売られていて、それも一緒に袋に入れ、いざいざとキャニオンを出発した。

東側の公園出口間近、公園の中央から40分ほど進んだところには「Desert View」なるポイントがあり、そこにはピクニックエリアやトイレ、ついでにカフェテリアも併設されていた。時間もほどよかったので、そこで昼飯を食べてしまうことに。熱い紅茶も買えたし、ゆで卵用の塩なども手に入った。眼下遙かに広がる渓谷を眺めながら、グランドキャニオン最後の食事。
自分でハムとチーズを挟んで食べる御飯も、ピクニック気分でなかなか良いものだった。

Arizona Kayenta 「Holiday Inn」内レストランにて
 Navajo Mutton Stew
 Orange'n Cream ソーダ

夕刻「モニュメントバレー」に到達し、その近隣の宿に泊まりたかったものの満室だったために20マイルほど離れたモーテルに泊まることに。今日から3日間、宿はどこにも決めておらず、
「ハンプトン・イン、発見〜!」
「いや、あそこはヒルトン系だからきっと高い。やめよう」
などと言いながら初めての土地をうろうろしながらモーテルを決定。このあたりはネイティブアメリカンの居住エリアで、モーテルなのに妙に味わい深い内装の宿だった。レストランもついている。

6時過ぎにチェックインし、すっかり疲れていたので早々に夕御飯に。
この土地名物のマトンのシチューがメニューにあったので、「これだぁ!」と注文した。この地はアルコールの販売は禁止されているということで、飲み物はソーダ。

トマトが入った羊肉のスープは、ボルシチに似た味がした。じゃがいもとにんじんとセロリ、角切りの肉がたっぷり入り、懐かしささえ漂う素朴な味がする。シンプルな味のシチューがしみじみ美味しくて、ボウルいっぱいのそれをぺろりと食べる。ボウルの横には、つけあわせとしてか、山のようなナンのようなパンが添えられていた。ナンというより、「ピザ生地を油を揚げたもの」とでもいう感じだろうか。パリパリとした香ばしい食感のものが、ピザ1切れみたいな形に切られて8枚(全部つなげるとちょうど直径20cmくらいの円形になる)盛られている。すばらしいボリュームだ。

「これをつけて食べてくださいね」
と蜂蜜までやってきて、ちょこちょことその蜂蜜を"揚げピザ"に添えつつ、シチューの傍らにパリパリ食べた。
初日はブッフェに暗闇ディナー、翌日はブッフェ、ファーストフード、カフェテラス、そして翌日、カフェテラス、ピクニック弁当、と続いていた今回の旅行。初めてちゃんと席についてちゃんとしたものを(暗闇の中ではなしに)食べたような気がする。しみじみ美味しかった。
(デジカメでちゃんとシチューを撮影したのに、何の呪いかすっかりそこだけ消えていてショックな私)

10/15 (火)
国立公園「アーチーズ」で、ランチボックスお昼御飯
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Arizona Kayenta 「Holiday Inn」内レストランにて
 ブレックファーストブッフェ

12日と13日は国立公園内のロッジに宿泊し、部屋に電話がない環境を味わってしまった。
昨夜の宿には部屋に電話はあったものの、あまりに僻地すぎて近隣のアクセスポイントが何もない状態に。今日もまた似たような感じになってしまい、
「こうなったらテネシーの無料大学アクセスポイントに長距離電話をかけてやる」
と決意した私。

アリゾナ州の北の小さな町、"Kayanta"に宿泊していた私たち。今朝も、ネイティブアメリカンな雰囲気漂うホテル併設レストランでちゃちゃちゃっと朝御飯にした。7ドルほどの朝食ブッフェはベーコンやソーセージ、コンビーフポテトをはじめワッフルやパンケーキ、フルーツポンチやサラダ類が適当な種類で揃えられていた。だんなと息子が
「今日の朝御飯は軽くしよーねー」
「ねー」
と、シリアルだけを注文して食べている横で、私はわしわしとベーコンやマフィンを囓る。
プレーンヨーグルトのトッピングとしてレーズンやプラムなどと一緒に黒砂糖が置かれていて、囓ったマフィンも同じく黒砂糖の味がした。ネイティブアメリカンで身近な食材なのだろうか。
「パワーが足りぬのよ」
などと言いつつ、ヨーグルトに黒砂糖たっぷりかけて食べてしまった。うまい。

国立公園「アーチーズ」にて
 「Holiday Inn」のランチボックス昼食

アリゾナから、今日は「Four Corners」へ。アメリカで唯一ここだけ、4つの州(アリゾナとニューメキシコとコロラドとユタ)が交わっている場所なのだとか。ただモニュメントがあるだけと知ってはいたけど、そこに立ち寄りつつ北の国立公園「アーチーズ」を目指した。

ここ数日間、"50マイル移動しなきゃガススタンドもコンビニもありません"みたいなところばかりを走っているのである。お腹がすいたな、と思いつつ何マイルも走らなきゃいけない苦難を学んでいたので、今日は泊まっていた宿の「ランチボックスサービス」を利用してみた。前夜に予約しておけば、1人分7ドルくらいでランチボックスを準備してくれる。宿を発つときに大きな紙の手提げ箱をもらい、車に積み込んでなんとなく安心気分で出発したのだった。

タイミング良く、ちょうど正午に「アーチーズ」到着。"バランスロック"だの"デリケートアーチ"だのが名物(名物?)の、奇岩山盛りの面白い公園だ。
公園入り口でマップをもらい、「ピクニックエリアはないか〜」と速攻探して、"バランスロック"近くにその地図マークがあることを発見。いそいそと車を走らせて、公園に到着するなりピクニックとなったのだった。
今にも崩れそうに見える、微妙な大岩を先端に掲げたようになっている奇岩がよく見えるところにベンチが並んでいた。今日は雲ひとつない青空で、ランチボックスを木製テーブルの上に広げた。

サンドイッチが2つ。ハムかターキーかローストビーフのうちから選べるようになっていて、2人前を適当にミックスして詰めてもらった。小さなポテトチップの袋が1つと、チョコが入ったシリアルバー、オレンジが1個、オレンジジュースが1個一緒に入っている。
「ポテトチップが入ってるよー」
と笑いながら、野菜たっぷりのサンドイッチをのんびり囓った。
ハムやターキーの他は、レタスとトマト。うっすらとパンにはバターが塗られていて、マヨネーズも添えられている感じ。たっぷりの肉類がなんとも有り難かったし、美味しかった。ファーストフードのものより何倍も美味しい。
周囲は同じくお弁当持参のグループや家族が三々五々バランスロックを見ながら食事していた。

Utah Richfield 「JB's」にて
 サーモンソテー
 アイスティー

2マイル弱のトレイルを歩き、他にもなんだかんだと国立公園を歩き回った後、午後3時半に次の拠点へ向かう。そこから150マイル近く西に移動し、ユタ州の「Richfield」という町に到着。その頃には全員揃ってグデグデに疲れてしまっていて、そのまま「Quality Inn」なるモーテルに宿泊することになった。

私はもとより、ずっと運転手をしてくれているだんながもうすっかりヘロヘロ状態。
そのまま食事どころを探す余裕もなく、宿のすぐ脇にあるファミレスチックなお店に入っていって軽く夕食を摂ることにした。私はサーモンのグリル、だんなはアルフレッドソースのスパゲティ。

もうすっかり魚(揚げものとかじゃなくて、シンプルなグリルが特に)が懐かしくなっていた私は、"レモン絞ってタルタルソース添えて食べる"というその鮭の塩焼きがそれはそれは有り難い存在に思えた。実際、けっこう美味しかったし。添え物に、ソテーしたコーンとピラフ、サラダがついてくる。

ぺろっと鮭をたいらげた私を前に、だんなはそれほど量もないパスタ(と添え物はガーリックトーストとサラダ)を前にして
「……いかん、初めて"疲れすぎて食欲がない"という状態になってしまった……」
と苦悶の表情を浮かべている。実際、1/4ほどを息子に分けた挙げ句に3口分をほど残してしまっている。
計算してみたら、10/12から今まで2000マイルちょっとを車で走った計算になる。
「稚内から鹿児島を往復したような感じかしら、いや、もっとかな」
と笑っていた。あぎゃー。

10/16 (水)
ブライスキャニオン内ロッジで食べた、「ブライスビーフシチュー」 (昼御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Utah Richfield 「JB's」にて
 ブレックファーストブッフェ

息子が出発直前に発熱したことで始まった今回の旅行。その風邪が今頃になってだんなに感染してしまったのか、はたまた過労のためなのか、昨夜の夜中になってだんなが発熱してしまった。
ふんふん唸っている声を聞いて私の目も覚め、けっこうな熱の高さにびっくり。水でタオルを絞ったりしても今ひとつ効果がなさそうで、こうなったらと工夫して氷嚢を作ることにした。
アイスペールの容器にセットされていたビニール袋にたっぷり氷を詰めてきて、髪留め用のゴムで口を縛る。それだけじゃ破れそうだったので、更にヘアーキャップをかぶせてまたゴムで留める。立派な氷嚢になった。
「……フロアスタンド、ベッドの横につけて、上から電話線か何かで額の上にぶらさげてあげようか?」
と半ば本気で提案してみたけど、
「……そこまでしなくていいよ」
と笑われた。

夜が明ける頃には、少しは回復したらしい。
「昨夜は127ダメーくらいでしたが、今は55ダメーというところです」
とよくわらかない指標で体調の報告をされた。ともかくなんとなく大丈夫だということらしい。

宿泊した「Quality Inn」では無料で朝食券がもらえ、隣接の「JB's」なるファミレスでブッフェバイキングが食べられるようになっていた。フルーツくらいしか食べる気がしないというだんなと、昨日あたりからすっかり体調全快で食欲満載の息子と共に3人で向かう。
パンケーキにワッフル、マフィン、スクランブルエッグにベーコンにソーセージにコンビーフポテトにローストポテトに……とありがちな朝食ブッフェ。グレープフルーツやメロンなどがあるのがそれでも嬉しかった。

温かい飲み物は無料、ジュースや牛乳などは有料、というこで紅茶をもらう。ミルクティーにしたかったので、シリアルのコーナーからこっそり牛乳をカップに入れてきて紅茶と混ぜ、牛乳たっぷりミルクティーにして飲んだ。

午前9時半、出発。新しく氷嚢を作って運転席のだんなにあてがいながら移動、という何だか凄まじいことになった。もうちょっと平穏な旅ができるといいのにねぇ、と苦笑しつつ。

Utah ブライスキャニオン国立公園内ロッジにて
 ブライス・ビーフシチュー
 アイスティー

ユタ州の小さな町、Richfieldから南下して「ブライスキャニオン国立公園」へ。ニョキニョキと生えた怪しい奇岩群を標高2700mほどの高さから眺め歩いた。幸いなことに、車の移動だけでかなり見学できる国立公園なので、体調不良のだんなもそれほど負担にならなかった様子。

公園にいる間にお昼になってしまい、すっかり空腹になってしまって公園内に唯一あるロッジ内のレストランで食事することにした。これが、いかにも山小屋風な素敵な外見と内装、ちょっと凝った風の美味しそうなメニューというものに反して、なんとも憤懣やるかたない食事になってしまうとは。

レストランの前には、6人ほどが席に案内されるのを待っていた。が、レストランの中はガラガラだ。従業員が少ないのか、席はガラガラなのに少しずつ少しずつ案内されていく。やっと私たちの番がやってきたと思ったら、今度は注文を取りにきやしない。やっと注文を取ったと思ったら、今度は料理が出てこない。私たちだけじゃなく、周囲の客、皆がそんな感じだった。

最初に頼んだソフトドリンクは、料理が来ても出てこない。「ドリンクは?」と指摘すると「ちゃんと聞いてるわ」と、溜息つきながら5分後に持ってくるような感じだ。レストラン全体も悪かったが、担当した人もまた最悪に悪かった、という感じ。私やその周囲のテーブルを担当していたおばちゃんは、一度厨房の奥に消えると10分くらい戻ってこなかったりして、
「もしかして、あのおばちゃんが全員の料理を作っていたりしてね」
なんて言いながら待っていたのだった。ビーフシチューって、30分も待たなければ出てこない料理なのだろうか。メニューの数はそう多くなく、だんなの頼んだハンバーガーも息子用のホットドッグも、普通の店なら15分と待たせないところだろう。

私の頼んだものは「ブライス・ビーフシチュー」。
角切りにされた歯ごたえのある牛肉がごろごろと、焦げ茶色のとろんとしたスープの中に埋まっている。ざくざくと4等分ほどに切られた皮つきの大きなじゃがいもと、いんげん、角切りにんじんとコーンが入っていた。皿の周囲に散らされているのは紫キャベツのみじん切り。見かけは綺麗だけど、もう少し早く来てくれればもっと嬉しかった。
こってり濃厚な味のスープと共に来たのは、コーンブレッド。ポロポロと崩れる黄色いパンにはたっぷりバターがなすりつけられていて、「ハラペーニョジャム」なる、甘いのにピリリと辛い不思議な味の"とうがらしジャム"が一緒にやってきていた。これもこの地方の料理だろうか。

シチューはすこぶる美味しくて、たっぷり食べられたけれど、いかんせんサービスその他が最悪だった。
「……チップどうする?」
「屈辱の1セントにしてしまえ。でもって、レシートに"EVERYTHING TOO LATE !! "と書いてやるのだ」
などと言っていた最終段階、件のウェイトレスさんが
「ごめんなさいねぇ。アイスクリームを子供さんにサービスするわよ?」
とバニラアイスクリームを持ってきた。たっぷり2スクープのアイスクリームに息子は大喜びだったし、横に座る私たちもちゃっかり何口かずつ分けてもらってなんとなく幸せな気分に。
……最後にそんなに愛想よくするなら、最初からちゃんとすればいいのに、ねぇ。

Nevada Mesquite 「Budget Inn」の部屋にて
 ケンタのチキン
 ビール(コロナ)

ブライスキャニオン国立公園を出て、更に南西方向にある「ザイオン国立公園」に。この公園は奥に行くにはマイカーではなくシャトルバスを利用しなければならないため、車で行ける範囲だけを通り抜けるように数十分堪能した。
明日からいよいよラスベガス。近隣の町のモーテルに宿泊しようと、プロバイダーのアクセスポイントのあるユタ州セントジョージアに狙いを定めて夕方移動した。
が、困ったことにセントジョージアの宿はどこもいっぱい。今日か明日か、何やら国際的なイベントがこの町で開かれているようで、どの宿に聞いても
「Sorry, sold out.」
だの
「We don't have any.」
だのと言われまくり。この町の滞在をあきらめ、夕日が沈むのを西に西にと追いかけながらネバダ州まで移動した。

Mesquiteなるラスベガス手前の町で、やっと小綺麗なモーテルを見つけて駆け込むと、1泊50ドル弱とのこと。即決でここに宿を決め、数日間たまった洗濯物をランドリーで綺麗にした。

夕飯は、とにかくビールが恋しい私たち。旅行初日に暗闇の宿でネバダの地ビールを飲んでからというもの、その翌日はカフェテリアの夕食で、その翌日はナバホ居留地なのでアルコールの販売禁止の地で、その翌日もレストランにアルコールはなし。
「汗かいたー」
「疲れたー」
「喉乾いたー」
「ビール飲みてぇ〜!」
が4段論法で展開されているのが常の私たちに、ビールがない状況は正直しんどかった。

で、ディスカントリカーショップに駆け込んでコロナの大瓶を購入し、ケンタッキーフライドチキンで数ピースのチキンを買ってきて部屋で飲むことに。
日本のものとそう変わらぬ味がする(でも鶏肉そのものの味がやっぱり何だか違うなぁという感じではある)、でも巨大な胸肉のフライを囓りながらビールを飲んだ。

「うめー!とにかく、うめー!」
と紙コップに入れたビールを喉に流し込む我が夫は何やら健康そのもので、
「……で、身体の具合はどう?」
と聞くと、
「……そうね、14ダメーというところかな」
と、数値激減の解答がよこされた。
どうやら"ラスベガスでギャンブル三昧"にあわせて、体調をきっちり合わせてきたようだ。
そんなにギャンブルしたいのか、と呆れつつ、やっと明日はラスベガス。

10/17 (木)
Las Vegas 「Hotel Luxor」内にて、親子丼 (昼御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
チョコファッションドーナッツ
バナナ
牛乳

ラスベガス近郊の小さな町の宿ですごした一夜。昨日は洗濯をしようと予定していた日だったけれど残念ながら宿の中にコインランドリーはなく、遙か1.5マイル先にあるコインランドリーに洗濯物を抱えて往復したりした。洗濯機回して30分後に乾燥機を回しに戻り、更に1時間後に回収に向かう。けっこう大変なのだった。

1泊50ドルのお安いホテルなので、朝食サービスなどもなし。ロビーにはコーヒーサーバーと熱湯だけが用意されていて、コーヒーと紅茶だけは飲めるようになっていた。朝食は、息子の
「チョコパン、たべたいなー」
の一言で、近所のマーケットに買い物に行ってみることに。
幸い24時間営業のスーパーマーケットがホテルのすぐ脇にあり、チョコパンはなかったもののチョコドーナツは買うことができた。あとはバナナと牛乳と。ホテルの部屋に持ち帰り、皆で牛乳やコーヒー傍らにドーナツとバナナを食べた。

今日から2日はいよいよギャンブルの町、ラスベガス。

Las Vegas 「Hotel Luxor」内「浜田」にて
 親子丼 $8.50
 浜田サラダ $4.00
 ビール(クアーズ) $4.00

今日から2日間の宿は「Luxor」(ルクソー)。
ラスベガスの宿は、ニューヨーク風だの中世ヨーロッパ風だのパリ風だのアラビア風だのと妙に趣向を懲らしたテーマパーク風のものが多く、「Luxor」はエジプトがモチーフ。ホテル全体がピラミッド型をしているという、なんとも面妖なホテルなのだった。当然部屋の内部もどこかエジプトチックなのだとか。
「面白い面白い、ここがいい!」
と騒いで予約をしたのは私だった。

午前11時頃、ホテルに到着。チェックインはまだ早いので荷物を預けてちょっとぷらぷら。ロビー階には広大なカジノエリアがあり、ああ、ここはラスベガスなんだよなぁとしみじみ思わせる。

昼御飯は中華にしよう、とホテル内のアジア料理屋を覗いてみたものの、この店のオープンは夕方から。ならば、と日本食屋「浜田」に行ってみることにした。
正直、日本食に飢えていた私たち。御飯もパンもどっちも好き、という私ですら少々"白い御飯"が恋しくなっていたのだから、元々"白米大好き"なだんなが辛くないはずがないのであった。
「もうね、パンと芋ばっかでしょ。麺料理もグデグデの不味いスパゲッティ以外ないでしょ。ぼかぁもう、正直言ってつらかったね……」
と今になって弱音を吐きまくる我が夫だった。

だんなはランチ定食、私は親子丼とサラダを。息子は寿司メニューから玉子の握りを2カン。昼間っからここぞとばかりビールを飲みつつ、久しぶりの白い御飯を堪能した。
ちょっと甘めの味付けだったけれど、親子丼はしっかりと親子丼だった。たっぷりの御飯の上に玉ねぎがたっぷり乗り、大量の卵で絡めた鶏肉がどっさりと。これでもかと大量の親子丼は残すのがもったいないほど美味しく思えた。私も相当日本食が恋しくなっていたクチだったらしい。目の前のだんなは涙ぐんでいる。

玉子の握りを美味しそうに一気に平らげた息子。彼も、多少はいつもと違う食生活にストレスを感じていたらしかった。何しろものすごい喰いっぷりだったので。

Las Vegas 「Hotel Luxor」内「PAPYRUS」にて
 Sauteed Shrimp
 Fried Bean Curd
 Pork Fried Rice
 ビール(クアーズ)

チェックインからしばらくして、「国立公園はともかく、ラスベガスは幼児連れは制限が多いわぁ」と溜息をつくに至った。

カジノは21歳以下プレイ禁止。膝の上に息子を乗せてスロットをやるくらいは許されるのかと思ったところ、しかめ面の従業員にダメダメ、と止められた。ホテル内のライドものIMAXシアターも息子の年齢じゃダメ。近隣のホテルのあちこちにあるジェットコースターも当然幼児は乗ることができない。私の興味を引くものは、大概ダメダメだらけなのだった。ショッピングは、あまり興味がないし。

100枚の5セント玉に5ドル札を両替してしまった後、「子供いるからプレイはだめよ」とスロットの前で止められてしまい、仕方ないのでまた札に両替してもらおうとしたところ、
「子供いるんでしょ?サービスはできないわね」
と両替すら断られた。そのキャッシャーの言い方がまたひっじょーにムカつく言い方だったものだから(鼻をツンとあげて、ンフフンといった感じで言われた。ムカ)、怒りがこみ上げる。しかも12時半にチェックインして部屋に入ってみると掃除がまだ途中。ますますムカムカ。
そのまま"私はギャンブルしないから、勝手に一人で行ってらっしゃい"とだんなを送り出し、しばし私は息子と2人部屋でぷらぷらしていたり外をぷらぷらしていたりしていた。

30分後くらいに帰ってきただんなは
「10ドルが75ドルになりました!!!」
と威勢良く帰ってきたものの、更にその2時間後には
「5〜60ドル、スりました……」
とシオシオになって帰ってきた。ギャンブルとはなかなか難しいものだ(やっぱり私はやらない、と思った)。

夕方になってから、各ホテルでやっている無料のショー(火山噴火ショーとか、海賊ショーとか、怪しげなものがあれこれと)を見学に。すっかり
「ラスベガスって都会だなやー」
「ほんにのぅ、じーさんや」
「圧倒されるのー、ばーさんや」
とおのぼりさん気分丸出しの私たち。ここ数日巡ってきた国立公園周辺もそりゃ田舎だったけど、テネシーも十二分に田舎だったんだなぁとしみじみ見せつけられてしまった。いやー、なんかもう、すごい。

8時近くになってから、遅めの夕食にと目指したのが、昼間は開店していなかったアジア料理屋(その実、どうも中華料理屋と思われる)の「パピルス」。
「もう、毎食ビール飲んじゃうんだもんね」
とばかりにビールを注文し、あとはシンプルな味の、シーフードものなどばかりが恋しくて、海老のソテーとチャーシュー入り炒飯を注文。更に、
「この"Fried Bean Curd"ってのは、厚揚げのことじゃないかと……」
「おお!厚揚げ!注文しよう!」
と盛り上がって厚揚げも。

出てきた料理は、"アメリカに来て、今まで食べた中でこれが一番まともな中華料理でした"と断言できるほどに美味しいものばかりだった。ガーリック風味のシンプルな海老炒めは、青梗菜やベビーコーン、袋茸などがたっぷりと。適度な塩加減に適度な火の通り具合。プリプリの海老が涙出そうなほど美味しく感じられてしまった。更に"Fried Bean Curd"は確かに厚揚げで、しかも豆腐を揚げてくれた、その揚げたてのものがテーブルにごろごろとやってきた。醤油ベースの辛さのあるタレがやってきて、それを垂らしながら食べる。テネシーのスーパーで買って我が家で食した厚揚げときたら、"高野豆腐を戻しかけて失敗したのを無理矢理悪い油で揚げました"みたいな味がして、かなりトホホな味だったのである。久しぶりに、まともに美味しい厚揚げが食べられた。ポークフライドライスと書かれた炒飯は、しっかりチャーシューが使われていて、火の通り具合もパラッと完璧。

「な、なんか、めっちゃめちゃ美味しいんですけど……」
「涙でてきそうなんですけど……」
「日本から来た人は"えー?普通の中華よ、これ"なんて思うのかなぁ」
「私たちの味覚、もしかして相当アメリカナイズされてきてたりして?」
なんて泣き笑いしながらぺろっと3品の料理を速攻平らげた。

昼の親子丼といい、やっぱり馴染みに馴染んだ料理はしみじみ美味しいものなのね、と思い知った一日だった。

10/18 (金)
Las Vegas 「Hotel Luxor」内「PAPYRUS」にて、帆立と野菜の炒め (夕御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Las Vegas 「Hotel Excolibur」内レストランにて
 朝食ブッフェ

7時半、目が覚めた。だんなと息子は寝かせておいてあげよう、とこっそり洗面所に行って戻ってきたら、息子がニコニコしながらベッドに座り込み、何やら目を輝かせていた。
「おはよー」
「……お、起きたの?もっと寝てていいよ?」
「もう、おきたの。もう、大丈夫」
ごにょごにょ2人で話していたら、だんなも起きた。

8時半過ぎて、ラスベガス名物ブッフェ(本来の発音は"バッフェ""バフェ""バフェィ"あたりが正しいらしい)料理を食べましょうかね、と外に出る。隣のホテル、「エクスカリバー」の朝食ブッフェが比較的安いらしかったので、そこに行ってみることにした。
カジノに興じる合間にちょこちょこっと好みのものを好みなだけ素早く食べられるブッフェは、朝食から夕食まで、どこのホテルでも最低1ヶ所のレストランで供されていて、あそこではローストビーフがあるだとか、ここでは和食ブッフェをやっているだとか、各レストラン趣向をこらしているらしい。朝食にそうそうヘビィなものを食べられるはずもなく、安いとこでいいや、と「エクスカリバー」に行ったのだった。

聖剣の名を掲げるホテルだからして、中世ヨーロッパがテーマのホテルが「エクスカリバー」。おもちゃのお城のような外見をしており、中身は中身で剣と魔法とドラゴンと、という世界になっている。でも、どこかチャチさが漂う雰囲気は、「エクスカリバー」というよりも「エクスカリパー」とでもした方が良いのでは、という感じ。2時間もいるとファンタジーがお腹いっぱいになってしまいそうだ(そういう私は自分のホテルでエジプトがお腹いっぱい状態)。

ブッフェレストランは長蛇の列。
会計を済ませ、皿を持ち、いきなり最初にヨーグルトとフルーツが並んでいるのに面くらいながらゆっくり進む列に並んだまま料理を取っていく。全部の種類を取っていてはとてもじゃないけど皿に乗り切らないので、好きなものだけを少しずつ。パイナップルを盛り、プルーンを添え、スクランブルエッグとベーコンとハッシュポテト。パンとアップルソース添えパンケーキ。牛乳とアップルジュース。
種類はそこそこ豊富だったけれど、特に目新しいものもない、ごくごく普通のブッフェ料理だった。
客は続々と訪れていて、料理の追加がバケツのような容器でやってくる。ザザザーッと大量のフルーツポンチがブッフェワゴンにあけられる様は、「餌やり場」そのものだ。

我が家も他人の事を言えないのだけれど、朝からアメリカ人、良く喰っている。厚切りハムを何枚も取っているし、フルーツポンチは山のように皿に盛っているし、なんでフレンチトーストを5枚も重ねて食べているんだ、そこのおっちゃん。

味も全体的に「普通」としか言いようのないもので、デザートコーナーに甘そうなチョコケーキやフルーツケーキが並んでいたのをミニエクレアとゼリーだけを試してみたり。

マクドナルドの
 ビッグマック
 フライドポテト
 ジンジャーエール

朝食後すぐ、だんなはカジノコーナーに出かけていった。数十分後に戻ってきて、
「35ドル、あっさり溶けました……」
とスロットですりまくったと報告された。なかなかギャンブルとは難しいものだ。

その後、歩ける距離のところにあった「m&m's WORLD」とその横にあったコカコーラショップに遊びに行ってみた。1つのビル丸ごと、m&m'sのグッズだらけという笑えるところだ。テーブルや椅子、ベッドカバーから小物類まで、ノリはディズニーショップの中身が全部m&m'sになったような感じ。青と赤と緑と黄とオレンジの鮮やかな配色だらけのグッズに目がチカチカしてしまいながら、ホテルに戻る。

朝食がブッフェだったので今ひとつ昼には空腹にならず、ホテル内のマクドナルドでテイクアウトしてきて部屋で食べることに。
ピラミッドの内部の部屋なので窓が斜めに傾いているという面白い部屋の中で家族みんなでマクドの昼御飯。
ホテルの部屋でマクドナルドというのも何だかなぁと思いつつ、でもエレベータで2階に降りればすぐそこにマクドナルドのショップがあるのだった。

Las Vegas 「Hotel Luxor」内「PAPYRUS」にて
 鶏肉とコーンのスープ
 帆立と野菜の炒め
 回鍋肉
 五目炒飯
 ココナッツアイス
 ビール(クアーズ)

「かばちゃん、溶けました……」
と呆然とした顔で、昼食後に出かけていっただんなが数時間後に部屋に戻ってきた。ブラックジャックに挑戦して、見事に100ドルちょっと負けてきたらしい。
「最初はね、40ドル、勝ってたの。途中でディーラーが変わったの。そしたらどんどん負けがこんできて……」
だそうだ。ギャンブルって、やはり難しい。

その後私も一緒に外に出てウィンドウショッピングしたり、このホテルオリジナルのIMAXシアターに行ってみたり。

1つのホテルに1000も2000も部屋があるラスベガスは、レセプションからカジノエリア、自分の部屋まで行くだけなのにいちいち歩かされる。隣のホテルに行くためのモノレールまであったりする。ちょっと外に出るつもりでも2時間以上の外出になっちゃったりして、なかなか遊び歩くのも楽じゃない町だ。

そんなこんなで夕御飯。
「美味しい中華料理、私たちには貴重ですしね」
「外に出るのも、なんだかめんどくさくなっちゃいましたしね」
と、昨日行った中華料理屋に今日も行ってしまうことに。案内係のおっちゃんに「お、また来たね」という顔をされ、昨日中国茶を頼んだおばちゃんは、今日は頼みもしてないうちに中国茶を持ってきてくれた。
今日は五目チャーハンと回鍋肉、さっぱりした魚介が食べたい、と、メニューにはなかった帆立の塩炒めを作ってくれないか、と聞いてみる。
「問題ないわ、勿論OKよ」
と嬉しい返事をもらい、あとはコーンスープも。

スープの旨味がちゃんとある鶏肉とコーンのスープが最初にやってきて、それを啜っているうちに他の料理がずらりとテーブルに並んだ。
回鍋肉はバラ肉ではなく、チャーシューを使ったものだった。味付けは甜麪醤の味がちゃんとする、ビリリと強烈に辛いもの。キャベツと椎茸、パプリカが入っている。こってり強い味で、一緒にやってきた白い御飯にしみじみと良く似合う。青梗菜やベビーコーン、袋茸などの野菜と一緒に炒められた帆立貝は直径が5cmくらいあるんじゃないかというくらいの巨大なもので、ブリブリした食感が非常に良い感じ。昨日の海老炒めと同じく、さっぱりとした塩炒めだ。海老と牛肉とチャーシューが入る五目炒飯は、息子もがつがつ食べていた。息子は1人分のスープも平らげた。息子も米の飯やら中華料理やらにここのところ、かなり飢えていたようだった。

6時半という少々早めの夕食だったので、途中ですっかり満腹に。デザートにココナッツソルベは頼んだものの、炒飯などは食べきれなくて部屋に持って帰って数時間後に続きを食べた。
明日はやっと帰宅の日。帰ったらカレーや豚汁を作って御飯をどっさり炊いて食べよう。

10/19 (土)
Las Vegas 「Hotel Luxor」内「Pyramid Cafe」にて、エッグスベネィクト朝食 (朝御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Las Vegas 「Hotel Luxor」内「Pyramid Cafe」にて
 Eggs Benedicts Breakfast Set
 紅茶

今日はいよいよ帰宅の日。
「ギャンブルはやらないぞ、スロットだってやらないぞ」
とラスベガスに入ってから決意していた私だけど、どうも今日は「ちょっと少しスロットをやってみないか?」という天の啓示が聞こえたような気がするようなしないような。出発前に少しだけやってみようかなと思いつつ、午前8時半頃に皆で朝食にでかけた。

正直、ブッフェは"もういいや"という感じではある。いかに名物料理などを揃えていたとしても、行列に並んだりするのが面倒くさくてしょうがない。宿泊ホテルのカジノフロアにある24時間営業のカフェでも朝食は摂れるようだったので、ここに行ってしまうことにした。

私は"Eggs Benedictsなんちゃらセット"を。エジプトがモチーフのホテルなので、メニューの名前も"ファラオのなんとか"とか"クフ王のなんとか"みたいなものが多い。その料理の説明を見ると"どこがエジプトなんだ!?"とつっこみたくなるものも多い。

私の頼んだものは、巨大な目玉を模したようなブツだった。皿には半割りにしたイングリッシュマフィンが2つ横に並べられ、その上にはそれぞれグリルした厚切りのハム、更にその上にはポーチドエッグが1個ずつ。そしてパンの表面を覆ってしまうほどたっぷりのチーズとクリームをベースにしたちょっと酸っぱいソースがだばだばだ〜とかかっている。
紅茶はポットごとやってきて(でもティーバッグ)、ハチミツと櫛形切りのレモンがついてきた。
息子はシリアルとチョコレートミルク、だんなは卵料理とソーセージとトーストのセットに、コーヒー。

ブッフェ料理で出てくるよりもいくらかマシな料理が、ブッフェ料理よりもいくらか高い金額で出てきたのであった。それでものんびり座って食べられる分、やっぱりこっちがいいなぁと感じてしまう。

食後は、30ドルの現金を握りしめた私がカジノコーナーで"メルセデスベンツが当たります"なる25セントスロットを1時間ほど。最初に投入した20ドルがあっというまに80ドルになり「いいぞいいぞ」と思っていたら、その後じわじわと減少して結局30ドルが綺麗になくなって終了してしまった。プラス60ドルで終わったかもしれないギャンブルが、マイナス30ドルで終了。結局我が家の初カジノ挑戦はボロ負けで終了したのだった。ラスベガス、恐ろしき地よ。

Las Vegas 空港内にて
 昨日の夕食のドギーバッグ(炒飯・回鍋肉丼)
 アイスティー

午後1時の飛行機に乗り、アリゾナ州フェニックス乗り換えでテネシーの我が家に帰る。
昼御飯は搭乗前に空港ロビーで。幸い、昨夜の夕飯が食べきれなくて部屋に持って帰ってきていた回鍋肉の御飯ぶっかけ(つまり回鍋肉丼)と五目炒飯が手元にあった。ドギーバッグを持ってきてくれたレストランのおばちゃんは、袋に箸とフォークも入れてくれていた。ありがたいありがたい。

ファーストフード屋でアイスティーをもらってきて、発泡スチロールの2つの箱をがさがさ言わせて周囲に中華料理の匂いをふりまきながら、空港ロビーでがつがつ食べる。冷めても相変わらず炒飯も回鍋肉もシアワセに美味しかった。
ラスベガスの美味しい記憶は「美味しい中華を食べてきた」一色になってしまっていそうな感じ。

台湾のカップラーメン「牛肉麺」
御飯
ビール(ハイネケン)

午後9時少し前、雨のナッシュビルに無事到着。「おりゃぁ、東京が大好きなんだなぁ」というおっちゃんが運転するタクシーに乗り、無事に家に帰ってきた。
飛行機内でスナック菓子が出たものの、さすがに空腹。だんながガサガサと「あれがあったはず……」と言いつつ棚を漁り、アジア食材屋で買ってきた怪しげな台湾のカップ麺を取りだした。
「ラーメンライス!」
とか言いながら湯を沸かし、冷凍御飯を温め始めている。
「俺はもう、ラスベガスの日本食屋でラーメン注文しちゃおうかと思うほどラーメンが恋しくて恋しくて……」
などと言いながら、ラーメンライスをテーブルに準備してくれた。私はその間、旅行荷物の片づけなどしていたり(←各々の得意分野の分業がこのように行われている)。

なんともいえずジャンクな味わいの"牛肉麺"および"排骨鶏麺"は、どこにも牛肉や鶏肉の気配が感じられないラーメンだったけれど、基本は懐かしめの醤油味。インスタントラーメンらしいインスタントラーメンだ。ラーメンのスープをおかずのように御飯をかっこむ。アメリカ国内からアメリカの我が家に帰ってきただけなのに、「やっぱり我が家はいいなぁ」なんて思っちゃうのだった。明日はカレーを作るぞ。

10/20 (日)
カレーが煮えました♪ (夕御飯)
スパゲッティミートソース
サンペレグリノ

7泊8日の旅行を終え、
「やっぱり我が家はええのぅ〜」
とばかり、寝まくっていた今朝。私は8時に起きたけど、だんなが起きてきたのは11時。さすがに、最後の数日はラスベガス滞在でのんびりしていたとはいえ、長距離ドライブでお疲れだったらしい(その割に本人は"あと1日くらい旅程が楽だったらもう一度行ってもいいかなー"などと言っている。……どうやら、彼は彼でとても楽しかったらしい。我が夫ながら、タフなお人だ)。

私たちは、そう簡単に旅先で「うー、日本食食べたい〜〜〜〜!」とはならない方だと思っていたけれど、さすがに今回は少々きつかった。もともとアメリカ暮らしでごくごく微量にホームシック入っていたところ、連日のアメリカ飯(特にグランドキャニオンでの2食連続カフェテリアがものすごくダメージだった、と後に思った)がかなりダメージを与えてくれて、
「やっぱり旅の食事って大切よね」
ということを改めて実感した旅行となった。今日も今日で
「ちらし寿司が懐かしい〜!」
「カツ丼も懐かしい〜!」
と、ちらし寿司が旨い大学近くの"ケンちゃん"(←"KEN's Sushi Restaurant"を最近このように言っている私たち)に行こうと計画した。……が、日曜の昼は営業していない。

こうなったら、と町中のあちらこちらの日本食屋を検索して調べてみたが、日曜は営業していないか、日曜の営業は夕方5時過ぎからか、そんなんばっか。日曜の和食ランチ計画は見事に崩れ去った。

などとしているうちに昼12時。もう空腹でいてもたってもいられなくなり、しかしながら帰宅したばかりの冷蔵庫には卵も牛乳も肉もないというありさまで、しょうがないのでスパゲティを茹で、冷蔵庫に残っていた瓶詰めミートソースをぶちまける。……が、ぶちまけるほど、そのミートソースも瓶に残っていない。
「ベーコンはあるよ」
「炒めちゃおう、炒めて、乗せちゃおう」
と、ソースを温めパスタを茹でている間に、ざく切りにしたベーコンをじくじく炒める。ソースと一緒にベーコンも麺の上に乗せたらできあがり。やはりソースはいまいち少なくて、ベーコンがメインだかソースがメインだかわからなくなった。いや、メインは麺だから良いのか。

ジャンクな味わいの瓶詰めだけど、ちゃんとアルデンテで、ちゃんと茹でたての麺で食べると、ちゃんと美味しい。飲み物も水とビールくらいしかないので、買い置きのイタリアの発泡水サンペレグリノを飲んだ。のんびり。

ポークカレー
ほうれん草のサラダ
コーンスープ
ビール(コロナ)

夕食は、待望のカレー。やっぱりここはポークカレー!と、アジア食材屋に行って豚バラ肉を買ってきた(※豚バラ肉はそのへんのスーパーじゃ手に入らない←アメリカ人にとって豚バラは"ベーコンの素"だから)。

ダッチオーブンでカレーを作ると、そりゃもう旨いらしい。ダッチオーブンを買った直後、「ダッチオーブン買ったんだよ」とクック&ダインのYさん(日本ダッチオーブン協会 公式インストラクター)報告したところ、それはそれは旨そうなカレーの作り方を教わった。簡単なポイントだけだったので、適当に解釈しつつ残りは自己流で。

  1. 豚バラ肉を塊のままじっくり蒸し焼きにして余分な脂を落とす。
  2. 3cm角ほどに豚バラ肉をカットし、塩胡椒とカレー粉をまぶして表面に焼き色をつける(ここまで教え通り、以下"カレーに入れる"だけだったので、以下自己流解釈)
  3. 2の鍋にカットしたにんじん、玉ねぎを投入、ざっと炒める。
  4. ひたひたに水を入れ、ダッチオーブンの蓋をがっちり閉めて弱火で1時間ほど加熱(途中でアクをすくう)
  5. じゃがいもを投入し、蓋&加熱を続行、15分後くらいにルーを溶かし、あとは食べるまで火を消しておき、食べる時に再度加熱。

……という感じ。
アジア食材屋で買ってくるバラ肉は、中国人用だからかなのか、東坡肉にするような皮つきのバラ肉だ。日本の肉屋じゃあまりお目にかかれない皮つきバラ肉、表面がブリンブリンとコラーゲンな歯触りで素晴らしい。1kgほどの塊肉には骨がついていて、マーケットでカットしてもらったけど骨も一緒に持ち帰ってきた。良いスープが出ますように、と骨も一緒に煮込んじゃう。

かくして、"スペアリブ入りカレー"のようになったポークカレー。昨日、ニューヨーク旅行から帰ってきたMさんを呼んで(お馴染みのIさんはまだ1週間、旅先から帰ってこない)4人で食べた。
彼は大食らいだ。我が家の4合炊きの羽釜では彼の胃袋をまかないきれないだろう、と
「米炊いて持ってきて」
とお願いした。6時半、彼は小さな炊飯器に3合、めいっぱい炊いた御飯を持って、炊飯器と共に我が家にやってきた。ダッチオーブン口きりいっぱいのカレーを見て
「うおっ……すごいっすねー」
とニコニコしている。

互いの旅の報告などしあいながらビールで乾杯。コーンたっぷりのクリームスープと、和風胡麻ドレッシングつきのほうれん草のサラダもテーブルに出した。
が、Mさん、サラダにもスープにも目もくれず、カレーを喰う、喰う、喰う。会話がすっかり少なくなるほど、一心不乱に、喰う。"持ってきたの、俺の御飯だもんね"という感じにお代わりして、喰う。
我が家の小ぶりのカレー皿に、まず超大盛りの御飯、溢れるほどのカレー。それを1杯。更にやっぱり超大盛りの御飯に溢れるほどのカレー。それを1杯。最後に"ちょっと大盛り"の御飯にたっぷりのカレー。ぺろりと1杯。
しばらく我が家の食卓にはMさんの"はふはふはふ……ごっくん……はふはふはふ"という音が響きわたっていた。彼に負けじと、私もだんなもひたすらカレー。Mさん……そんなにカレーが恋しかったのか?

「いやー、美味しかったです」
カレー3杯で一息ついたMさん、今度はサラダとスープに向かい始めた。スープ2杯、サラダ3〜4杯。
「どうもわたし、"三角喰い"ってやつが苦手なんですよね……」
なんて言いながら、カレー3杯山盛り喰ったその口でスープもサラダも食べまくる。Mさん持参の3合の御飯、我が家で準備した2合の御飯、すっかり無くなるとはいかなかったけど、かなりの減少をみて食事は終了した。
元ラガーマンのMさん、ラガーマン特有の立派な肩から二の腕にかけての筋肉である。彼が来ると、"お客様へのもてなし"というよりは"体育会系サークルの合宿の食卓"という雰囲気になる。それが楽しくて、私も15人分くらいのカレー作って待ってたりするんだけど。

今日のカレーは、かつてなく上出来だった。時間があまりなくて2時間ちょっとの時間で作ったカレーだったけど、肉はプリプリと柔らかく脂っこくもなく、肉や骨から出たスープが良い味つけになってくれた。肉にふったカレー粉だとか、どかどか入れて溶けた玉ねぎなんかもかなり良い具合に。

残ったカレーはまだ7人分くらいはありそうだった。我が家で食べてもまだ2回分くらいあるし、とタッパーに入れてMさんにおすそわけ。
「いやー、いつもすみません。御馳走さまです。いやー、嬉しいなぁ」
と来た時と同じくニコニコしながら、Mさんは炊飯器ぶらさげて帰っていった。
Mさんは来春結婚。奥さんは毎日何人分の食事を作ることになるのだろう。ちょっと心配(ちょっとわくわく)。