食欲魔人日記 02年08月 第1週
8/1 (木)
Calypso(Nashville)の、テイクアウトWhole Chicken(夕御飯)
クロワッサン with ホイップバター
オレンジジュース

本日、だんなは免許取得のために朝6時半起きでテストセンターに向かっていった。1日のうちに筆記試験と実技試験と両方やっちゃうためには、できるだけ早く会場に着いていなきゃいけないらしい。国際免許も当然日本で取ってきているだんなだけど、州法では「住むんだったら1ヶ月以内にこっちの免許も取ってね」ということになっているらしい。いってらっしゃーい。

ベッドの中から寝ぼけ眼でだんなを見送り、9時過ぎに起きた息子と一緒にのんびり朝御飯。ここんところ、いくらなんでも暴飲暴食(主に暴食)が続いていたので、今日一日くらいは節制しましょう、と密かに誓う。

で、朝御飯は小ぶりサイズのクロワッサン。マーケットで「ウマソー!」と言って買ってきたホイップバター(空気を若干含んでふわふわしたバター)をついついつけちゃう。ダメじゃん。

サルモネラ菌対策済 卵御飯
豆腐とわかめの味噌汁
麦茶

今日もまた、脳味噌溶けそうなほどの強烈な気温。洗濯場へ2回往復する(洗濯物を入れに行き、回収しに行く)のがやっとで、もう外出する気も失せた。洗濯物を抱えて戻ってきたところで、外にいる私たちを見かけたのか、お隣のアメリカ人女性Jさんが、「私の母の畑で取れたものなんだけど」と山のような野菜をお裾分けしに来てくれた。新ジャガに、とうもろこし5本、巨大なピーマンに、大人の握り拳よりもでかそうな巨大トマト。トマトはJさん宅前の鉢植えからの収穫物らしい。いつも前を通る度に「鉢植えなのに、なんでこんなに巨大トマトが……?」と不思議に思いながら通っていたのだった。

たどたどしい英語を駆使して隣人とコミュニケーション。先方も、私の英語のたどたどしさを充分すぎるほどわかってくれていて、その内容はほとんど中学1年生で習う文法と単語、というレベル。
「コーンはお好き?」
「私、大好きです。息子は、愛しちゃってるくらい、好き」(ということをなんとか伝えようと試みる)
「そう。たくさんどうぞ」
「えっとー、今度は、日本の食べ物をお裾分けしますね」(ということをなんとか伝えようと試みる)
な、何をお裾分けしてみようかなぁ……マンゴプリンでも作るかなぁ……。

息子と2人のお昼御飯。
「何が食べたい?」
と聞いたら「パンケーキパントリー!」と即答された。無視する。
「外には出ないでー、うちで食べるなら、何が食べたい?」
ともう一度聞く。今度は「たまごごはん!」という返答が。た、卵御飯、っすか……。

何度も書いたような気がするけど、こっちの卵はサルモネラ菌汚染が割と深刻らしい。生卵を喰うにはすごく勇気がいるらしい。といって、「ゆで卵は完熟に」「目玉焼きも固く固く」なんていうほどでもなく、外食での目玉焼きでも黄身が半熟は普通にある。この日記を読んでくださっている方からのお話だと、「70℃以上で1分加熱」が目安らしく、生っぽい状態で使いたい場合は熱湯に卵を放り込んで1分加熱すれば、OKなのだとか。白身はうっすら濁るけど、それさえ気にしなければ安全度は増す、とか。

で、気分は半ばロシアンルーレット気分で、「あたりませんように、あたりませんように」と祈りつつ熱湯に卵を殻ごと1分放り込む。その間に御飯を温めておき、小さな器に卵を割って醤油垂らしてかき混ぜて即座に御飯にぶっかけて、喰うべし喰うべし喰うべし。幸い一昨日あたりの味噌汁も残っていたので、かなり和の味の昼御飯になった。息子も満足らしい。

1分茹でた卵は、確かに白身がうっすら白く固まっていた。けど、それは卵御飯にするとあの白身のニロニロ感が薄れて、逆に良い感じかもしれない。
ところで、こっちの卵の殻の感触が微妙に日本のものと異なるような気がするけど、気のせいだろうか。日本のはカシックシャクシャッとすぐにモロモロになる感じがあるけど、こちらのは殻がなんとなく粘つく感じ。弱い、というのとも違い、殻を割ろうとすると「めきょ、めきょめきょめきょ……」と、えらく弾力のある割れ方をしていくのだった。日本のが薄いガラスなら、こっちはちょっと濡れたウェハースという感じ。カルシウムの量なんかが違うのかしらん?安いのは嬉しいことだけど。

Nashville 「Calypso Cafe」からテイクアウト
 Family Special (one whole chicken with six servings of side items)
Tropical Lime pie
ビール(コロナ)

夕方に帰ってきた我が夫、無事に筆記も実地も一発で通ったらしい。写真入りの運転免許証を嬉しそうに見せびらかされた。こ、今度は私が……とりあえず筆記を受けにいかなくては。

1日家に籠もってこんなコーナーこんなページを作っていたら、私までなんだか疲れてしまい、夕飯を作る気力が全体的になくなっちゃったり。
「やる気ないなぁ……」
とぼけーっとした途端に、アメリカに来て最初に食べた「Calypso」のカレーソースぶっかけチキンの味が口の中に広がった。ああ、あれ食べたい。また食べたいぞ。だんなにその申し出をしてみたところ、「おお!そりゃいい!」と車飛ばして買ってきてくれた。
前回行ったときに、ちゃっかり「TO GO」と大きく書かれたテイクアウト用のメニューまで貰ってきて取っておいてあるのである。いつでも家で選んで買いに行ける体勢が整っているのであった。

後でわかったことだけど、このお店、「Nashville Scene」なるタウン誌で「読者が選ぶ2001年度No.1テイクアウト屋さん」に選ばれていた店なのだった。前回食べた時も、店で食べるよりも持ち帰る人の方が多いんじゃないかと思っていたけど、人気の店なのだった。

テイクアウト用メニューを見ると、「Family Special」なんてメニューが。鶏1羽分(1人用は1/4羽とか1/2羽とかになっている)に、選べるサイドディッシュが6個ついてきて、$12.81。1人分メニューを2つ買うよりちょっとお得だ。
十数種類あるサイドディッシュメニューから、「St.Lucian Rice」「Boija Muffins」「Bean & Corn Salad」「Native Cole Slaw」「Fresh Fruit」「Tortilla Chips」を選択。ついでに
「おねがーい、ケーキを食べてみたい、食べてみたい」
と泣きついて、1ピースの「Tropical Lime Pie」も買ってきてもらった。ちなみにパイはホール買いも可能らしい。

数十分待って、だんなは巨大な紙袋を抱えて帰ってきた。さすが「ナンバーワンテイクアウト」に選ばれただけあって、テイクアウト体勢は万全のようだ。鶏肉1羽はアルミホイルに二重にくるまれ、紙袋に。サイドディッシュ類は区分けされている発泡スチロールの大きなケースに収まり、トルティーヤは無造作に紙袋に。小さなケースにはライムパイが収まっていた。素晴らしい。

「鶏1羽って……」
「ホントに1羽なのね……」
「ほぐされてないのね……」
と驚きながら、ナイフでギコギコと削ぎ落としては食べていく。プラスチック容器にカレーソースが収まっていて、それをバシャバシャかけながら。
すりおろしリンゴがたっぷり入った甘くスパイシーなカレーソースはやっぱり癖になる美味しさだ。リンゴそのものはとても生っぽい風味がするのが良い感じ。煮込んだカレーとリンゴを最後に合わせました、みたいな味がする。それがまた鶏肉と合う合う。

ファミリーパックだからなのか違うのか、サイドディッシュ類も心なしか山盛りだった。黒い穀物も一緒に炊かれたパラパラとした食感の長い米だとか、ココナッツ風味のとうもろこしのマフィン。豆盛り沢山にコーンを併せた酸味の効いたサラダに、ほんのり甘いコールスロー。「本日のフレッシュフルーツ」は前回と同じ緑とオレンジ色のメロンで、他の店と違って野菜もたっぷり取れるのがこれまた嬉しいところなのだった。し、しかし……食べ切れぬ。「御飯でもチンして」と最初は思っていたけど、これだけで全くもって食べ切れぬ。これだけセットになってて、しかもマフィンは2個ついてきていたりするのだ。息子が果敢にもトルティーヤとライスとメロンの専任となってくれたけど、それでもサラダはちょっと残った。カレーソースもちょっと残った。捨てるにはあまりに勿体ない美味なので、冷蔵庫に保存。カレーソースはサラダあたりに使えそうだ。

そしてしっかりデザートも食べちゃう。
バターたっぷりの味の、クラッカーを砕いて敷き詰めた厚めの台の上にはライム味のふわふわとした冷たいムース。持ち帰る間にちょっと溶けかかり、急いで冷蔵庫に閉まったものの食べる時にもまだちょっと崩れていたけど、味は期待以上に良いものだった。甘すぎることもなく、酸味は爽やかでライムの香りがぷんぷんしてくる。手作りらしい台の塩気とかバター加減とかもけっこう好み。ただ、上に飾りとして絞られていたホイップクリームだけは「乳脂肪、入ってませんね?ゼロですね?」みたいな、ひっじょーに味気ないものだったのだけが残念だ。生クリームが大好きで、ショートケーキの上の生クリームから食べはじめる息子が、
「これ、おいしくないねー」
と舐めるのを拒否したほどのクリームだった。そのくせクリーム以外の部分は私と奪い合うように食べていた。息子……あのコテコテの甘さのバタークリームさえ「おいしー!」と言っていたのに、植物性油脂のホイップクリームはダメとは……母としては何と言ってよいものやら……。

8/2 (金)
American Cafe(Nashville)にて、Chicken Parmesan Pasta Pie (昼御飯)
昨夜の残りの
 コーンマフィン、サラダなどなど
 オレンジジュース

今週から来週にかけて、日本からの留学生がまだ何人かやってくるそうで、空港への出迎えだの車がない間の送迎役だのでバタバタしている我が夫。今日もちょっと早めに起きて、出かけて行った。妻と息子はヒマヒマ。

こちらのテイクアウト飯は種類も豊富だしけっこう旨いし安いしで言うことないけど、いかんせん量が多い。昨夜食べた鶏1羽&山盛りサイドディッシュも、鶏だけは食べきったけどサラダやマフィンは大量に残っていた。
「……トルティーヤ、食べますか〜?」
「あ!パリパリ!たべる、たべるよ」
「……コーンのサラダは、どうですか〜?」
「うん、たべる、たべるよ」
と、息子の好物が揃っているのを良いことに、昨夜の残りでだましだましの朝御飯。コーンのマフィンは冷蔵庫保存しておいたらちょっとパサついてしまったけど、電子レンジであっためてバターつけつつ囓っちゃう。

もともと「朝御飯はパン派」な自分だったけど、こうもパンっぽいものが続くとそろそろさすがに「鯵の干物と納豆と御飯と味噌汁」みたいな朝食がじんわりと恋しくなってくる。
「ダイエットしてるから甘いもの食べちゃダメ」と自分に言い聞かせている時に限ってシュークリームやチョコレートが恋しくなる気分と、それはほとんど同じだ。今晩は御飯を炊くことにしよう。うむ。

Nashville 「American Cafe」にて
 Chicken Parmesan Pasta Pie Combo
 レモネード

午前中は息子とプール。家の近所で何度か見かけたことのある真っ白な猫が今日はプールサイドにいて、「あら、あんたたちまた来たの?」みたいな顔をして寄ってきた。デッキチェアに横になるとその椅子の真下に来て寝ころんでいたりして、可愛い奴だ。息子が乱暴に撫でても逃げもしないほど人に慣れている。今度は鰹節といりこでも持ってきてやろうかと密かに思った。

足下には猫がいて、木々に囲まれたプールには蝶々なんかもいっぱい飛んできて、静かでのどかで良い感じ。「ああ、優雅ね、すてきよ、よくってよよくってよ」と思いつつダラダラしていたら口を開けて寝ていたりして、木の上から大きなカナブンが降ってきていたりして、しかもそいつがプールでおぼれていたりして、息子は息子で高笑いしながら遠くからビーチボールをバンバン投げてきてそれが私の腹にヒットしていたりして、……少しは優雅にくつろぎたい。

で、昼は帰ってきただんなと一緒に「パスタが食べたいような気分が……」と言いつつ車を走らせて最寄りのショッピングモール内にある「American Cafe」に向かう。一度入ったことがあって、けっこう大雑把な味だったけどそこそこのパスタとそこそこのピラフが食べられたお店だ。壁一面に額に入った古いポスターなんかが飾られていて、赤っぽい電球に照らされた店内は、何だかディズニーランドのウェスタンランドあたりの飲食店のようでけっこう楽しい。平日だというのに駐車場はかなり詰まっていて、この店もかなりの混雑だった。

私は、ランチコンボの名に魅せられて、「Chicken Parmesan Pasta Pie」を注文。平日昼間は単品料金でハウスサラダかシーザーサラダがついてくるらしい。山盛りのサラダを期待してシーザーサラダをつけてもらう。
「Pasta Pie」とはなんぞや?……と思っていたところ、オーブン焼きにされたペンネ料理がやってきた。深皿の最下層にはトマトソースに和えられたチキン(どうやら一度揚げてからソースに絡めた模様)、その上にペンネ山盛り、更にモッツァレラチーズやマッシュルームを散らし、一番上にはパルメザンチーズとたっぷりのイタリアンパセリ。パイのように層状に積み上げてオーブン焼きしたから「Pasta Pie」なのだろうか。ちょっと謎。

前回、だんなが注文したクリームソースのフェットチーネはなかなかの味だったけど、これは今ひとつだった。トマトソースがこってりこってり、揚げ鶏の油を含んで非常に重い口当たり。オーブン焼きされちゃったパスタは水分が抜けてパサパサしていて、チーズも今ひとつの風味。味に変化があるようでそのじつ全然変化がなく、「と、トマトソースが重い……」と思いながらせっせと食べた。

こういうのを食べている時、ソフトドリンクお代わり自由というこちらの店の仕組み(慣習?)は非常に有り難い。グラスの2/3ほどがなくなると、「お代わりいるかーい?」と聞いてきたり、あるいは無言で、新しいグラスになみなみと同じものを持ってきてくれるのだ。アメリカに来た当初は「なんなんだこのコップの大きさは」と思っていたけど(マクドナルドのLサイズドリンクくらいの大きさのカップが普通に出てくる)、それを2杯飲み干せるようになりつつある自分がちょっと怖い。
今日も「砂糖摂取量をちょっと考えてみましょうキャンペーン」ということで甘くないアイスティーを注文しようと思いつつ、ついついレモネードなぞ飲んでしまった。ダイエットジンジャーエールがあればそれが一番なんだけど、ほとんどの店はそんなもん置いてなかったりして。ダイエットコークはあんまり好きじゃないし。……困った。(水でも飲むか……)

目玉焼き乗せ焼き豚丼
サラダの残りや昼の残りポテトなどなど
ビール(コロナ)
緑茶

せっかく夏休み中ということで、8月中にどっか行きましょう、ということに。
午後にも出かけていっただんなが帰ってきたのが6時。それからそういう話になって、
「飛行機の予約だ〜!」
「しまったっ!どこも、もう高い!」
「めげるな〜、さがせぇ〜!」
とオンラインでフライトの予約して、ついでにマイレージの会員になって、更にレンタカーの手続きもして……とやっていたらすっかり8時を過ぎていた。2週間後の旅行のことより、まずは自分たちの夕飯の心配をしなきゃいけない。

冷蔵庫に薄切り豚肉を突っ込んでおいたのがあって、それを使って丼飯でも作ることに。
丼もので、豚肉で、今所持している調味料を使ってなんとか作れるもの……と手製のレシピデータベース(←これは旨そう!と思ったレシピをまとめて放り込んであるデータベース)を検索してケンタロウさんのものを発見。残りものの葱処理もできて、完璧な料理だった。すばらしい。

青葱をざくざく切って(本当は万能葱を使うべきと思いつつ、こちらで手に入るのはわけぎみたいなもの)、オイスターソースと胡麻油でざっと和えておき、それを御飯の上に敷く。 豚肉は塩胡椒で炒め、火が通ったら醤油と味醂と刻み生姜と刻みにんにくを放り込んで味をつけ、それを葱の上に汁ごと盛りつける。最後は目玉焼き乗せ、胡麻でもふれば完成。本当は味付けに日本酒を使うらしいけど、日本酒(というかビール以外のアルコール)は我が家にはまだないのであった。そう、それに葱には本当は豆板醤も加えるのであった。これも豆板醤がないので無視。かなり適当だ。

どんぶり1つ作るのにバタバタしてしまい、味噌汁もスープもなし。昨日の残りのサラダと、今日の昼の残りをテイクアウトしてきた息子用のフライドポテト。香ばしい葱に、懐かしい味のする豚肉はちゃんと日本の味がして、それに触発されたのか食後は緑茶。「茶だ、茶。日本茶が飲みてぇ……」とだんなが紅茶ポットになみなみと日本茶をいれてくれた。こちらに来てから買った紅茶ポット、1リットルほど入るんじゃないかというくらい巨大なのだった。日本の風情が感じられぬポットに、それでも「大きいことは良いことだ、うんうん」という印象を持ちつつある私。……そろそろアメリカが身体に浸透してきたのかもしれない。

8/3 (土)
CHAO PRAYA(Nashville)の「COMBINATION2」 (朝兼昼御飯)
この世のものとは思えないほど不味かった……。
Nashville ショッピングモール「100 Oaks」内「CHAO PRAYA」にて
 COMBINATION2
 スィートアイスティー

家の近所には八百屋さんとか肉屋さん、あるいは洋服屋に金物屋といった専門店というものはほとんど全く存在しておらず(ダウンタウンなどに行ったらあるいはあるのかもしれないけれど)、買い物というと食料品だけを目当てにするならスーパーマーケットに行くか、あるいはショッピングモールに行くかという感じのこのあたりなのである。

だから、車を20分ほども走らせれば、ショッピングモールはウヨウヨと存在しているのであった。「Green Hills」はちょっと高級感が溢れていて新しい感じ。「WAL☆MART」はモールではないけど何でも揃っているしDIYショップも並んでいるし食べ物屋もあれこれ隣接してくっついている。どちらも活気に溢れているけど、だんなが「このモールのこの店で万年筆を買ってきて」と頼まれものをしたのだというお店が入っている「100 Oaks」(ハンドレッド・オークス)は競争に破れて衰退しまくっているモールらしい。でも、このモール内のとある店がどうやらご指名のようで、では今日そこに行ってみますか、と朝飯も喰わずに車に乗ってでかけてみた。

「いっくら衰退してるって言っても、飲食店のひとつもあるでしょー」とタカをくくって向かってしまったけれど、想像以上にそこはうらさびしいモールだった。1階と2階があって、1階にはとりあえずコンピューターショップやリネン専門店、衣料品店などが詰まっている。2階はそのほとんどのテナントが撤退していて、シャッターが降りたままとか、ガラス窓に向こうに真っ暗なホールが広がっていたりだとか、店があるはずのところが壁になっていたりだとか、空気までなんだか冷たいんじゃないかというような衰退っぷりだった。昔はお店があっただろう空間がエアロビクスの教室になっていたりボクシングジムになっていたりする。客層はほとんどが黒人及びヒスパニック系。はっきり言って、あまり長居しない方が良いんじゃないかというような空気だった。

ともあれ、朝御飯に何も食べていなかったので、フードコートを見つけて覗いてみる。周辺にファーストフードの店が並び、中央に椅子とテーブルが集まっているという、よくある形のフードコートだ。クッキー屋さんに怪しげなイタリアンの店、「Real Nashville Food」などと看板を掲げた非常に怪しい匂いの店とか、アイスクリーム屋さんとか。一番マシに見えたのが、「CHAO PRAYA」なるチャイニーズの店だった。
チャーハンか焼きそばを選び、カウンターに並ぶおかずを1品選ぶ「COMBINATION1」と、2品選ぶ「COMBINATION2」などがある。私もだんなも「2」を選び、八宝菜チックなものとか酢豚チックなものとか春巻きチックなものとかが並ぶカウンターを覗きこんで、適当に注文。私は「SESAMI CHICKEN」なるものと「EGG ROLL」なるものをチャーハンにつけてもらった。

……これが、アメリカに来て初めて思った「本気で美味しくないと思った食べ物」だったとは。

ジャンクな味ということは充分承知した上で食べたものだった。なのに、なんとか7割ほどを食べたところで少しもフォークが動かせなくなってしまった。ミックスベジタブルと卵しか具が入っていないんじゃないかというチャーハンはポソポソパラパラで味気なく塩気も足りず、でもそれは我慢して食べられる程度の味ではあった。が、「EGG ROLL」はお好み焼きの具(キャベツと小麦粉を水で練ったような)を春巻きの皮で包んで揚げたようなもので、それには酢豚の調味料のような甘酸っぱい怪しいタレがついてきている。このタレがまた、イチゴジャムをビネガーで伸ばしたような怪しい甘さ。

そして問題は「SESAMI CHICKEN」。一見、揚げ鶏に胡麻がまぶされているだけのような外見だったので「これなら食べられるかな?」と選んでみたものの、その鶏にはコッテリネットリキラキラと赤いタレが絡まっていた。この甘酸っぱいタレが、その「イチゴジャム&ビネガー」みたいな味そのもので、ひたっすら甘く、それがネトネトキラキラと怪しい光を放っている。だんなの選択した焼きそばに、串に刺さった塩味の焼き鳥は、それだけはかなり良い感じ。でも、もう1つのおかず「FRIED WANGTANG」なる揚げワンタンは、その中身がクリームチーズという恐ろしいものだった。肉の味を期待して囓ると甘酸っぱいクリームチーズ。なんかもう、全体的に悪い方へ悪い方へ期待を裏切ってくれて、しかもスィートアイスティーときたら歯が抜けるんじゃないかと思うほど甘くって(あちこちでアイスティーは飲んできたけど、こんなに甘いアイスティーは初めてだった……)、だんなの砂糖抜きアイスティーを分けてもらって薄めてやっと飲めるくらいだった。

「ご、ごめんなさいごめんなさいもう食べられません……」
と半ば涙目になりながら残り3割の御飯とさよならした。「おなかいっぱいで食べられない」はあったけど、「マズくってもう食べられない」はアメリカに来て初めてだったし、日本でだってそうそうないことだ。かなり悔しい。ジャンクなものも、コンビニ御飯も冷凍ものもけっこう美味しいと思えてしまう自分はけっこう悪食傾向が強いと思っていたけど、ここまでマズイここの御飯って……。

「アメリカに来てね、"はじめてマズイもの食べたー!"って思ったよ」
とだんなに告げると、
「そりゃさ、おゆきさん、日本に海外から来た人がイトー○ーカドーとかサ○ィのフードコートに行ってそこのピザとか食べて"マズイ!"って言ってるようなもんじゃない?」
と言って笑っていた。た、確かに。

フードコートすら2〜3店が撤退した後があって、壁際にはタコベルの看板だけが残っていた。……タ、タコベルあったらもうちょっとマシな食事にありつけたかもしれないのに。ここには居られないのか。やっぱ、ダメか。タコベル。

鮭の混ぜ御飯
鶏肉と大根、にんじんの吸い物
ほうれん草のおひたし
サラダ
ビール(コロナ)

生ライチ
緑茶

悲惨な朝昼兼用食事をしてしまったので(油も悪かったのか、夕方になってもお腹が空かなかった……私の空腹を返してちょうだい、と思う)、夜はまっとうな御飯を食べたいと、車で20分ほどの距離になるアジア食材専門店に行ってみた。魚介や内臓肉系も売られているらしい、一大マーケットであるそうな。

日本というよりは中国と韓国の色が強いマーケットではあったけど、空心菜はあるし白菜もあるし、大好物の香菜もあるし、丸のままの海水魚や貝類、トリッパから鶏の頭から豚足まで売られていて、かなり充実していた。牛スジは見かけなかったけど、ここだったら頼めば出してくれそうだ。豆板醤や片栗粉を買うことができ、さっきの食事の屈辱をはらそうと生ライチなども見つけて買ってきてみた。美味しそうなマンゴーも。

夕食は「美味しいもの与えないと私の胃袋がかわいそう」と言わんばかりに欲望のままに混ぜ御飯。アラスカサーモンの切り身を買ってきて焼き、身をほぐしてから胡麻と海苔と一緒に醤油と酒で御飯を和える。残っていたサラダ用のほうれん草はおひたしにしてしまい、これまた残りものの鶏肉は鰹だしで吸い物にすることにした。
鰹だしに塩と薄口醤油を垂らし、鶏肉をごぼうや舞茸と一緒に軽く煮ると良い感じの吸い物になるのである。舞茸やごぼうはないので、大根と人参で代用してみたけど、なんだかやたらと鶏の味が強くて、せっかくとった鰹だしの味がほとんど全くしない。鶏肉に火を通す間にだしの上には鶏の油がキラキラと層を作り始めて、「鶏の吸い物」というよりは「焼き鳥屋で出てくる鶏スープ」というノリに。なんかいつもと全く違うものになる。アメリカの鶏肉、おそるべし。

それでも美味しそうな和風夕食になりそうだったので、御近所さんかつ一人暮らしのIさんを誘ってあげることにした。ちなみに明日はカレー(日本のルーを使ったこてこての日本カレー)を予定していて、
「今日の鮭御飯と明日のカレー、どっちか食べに来る?」
と誘ったところ、めちゃめちゃ苦悶したあげく今日来ることになった。ならば、と野菜不足だろうIさんのためにサラダも作る。ピーマンとトマトたっぷり。

鰹ぶしと醤油をかけたお浸しを食べてめちゃめちゃ感動していたらしいIさん。3合炊いた御飯(それに300g弱の鮭を混ぜたわけだけど)も大人3人と子供1人で綺麗にたいらげた。息子もお代わりして食べていたところをみると、久しぶりの鮭はかなり美味しかったようだ。吸い物もおおむね好評だったけど、
「このスープ、焼鳥屋のスープみたいだね」
とズバリ言われて、「いや、でも、鰹と昆布が……鰹と昆布を……」とショックを隠しきれない私。ちゃんとしっかりだし取ったのに。こ、今度は鶏肉に負けない鰹だしを取らなければ。

そして、デザートに生ライチ。
この地でも生ライチが食べられるとは思っていなくて、アジアマーケットで発見して「ライチだライチだ!」と喜んで買ってきたもの。色鮮やかな紅色のライチは、でも甘いかどうかわからなかったので「と、とりあえず12個くらい……」と消極的な量を買ってきてみた。「ライチ!俺大好き!」とIさんも一緒に食べたそれは、こってり甘くて良い感じに熟していた。渋さもなくて、非常に良い感じ。しかもけっこう安かった気がするので、今度は袋いっぱい買ってくることにしよう。
夕飯もライチも美味しかったので、午前中の悪夢な食事の印象はちょっと薄れた夜だった。

8/4 (日)
Frank & Stein(Lebanon)にて、「DELI DOG」 (昼御飯)
自家製チーズバーガー
カフェオレ

フレンチトーストよりもハンバーガーが簡単に作れてしまう材料が揃っているマーケットに行くと、ついついそんな材料を買ってきてしまう。先日、
「明日食べるパンを買ってきてね」
とだんなにお願いしたところ、ハンバーガー用のバンズを買ってきてくれて、「こここ、これはハンバーガーが食べたいという夫の意志表示??」としばらく悩んでしまった。
で、結局、昨日家族でマーケットに行ったときに
「ハンバーガーやりましょうか」
「やりましょう!」
と材料を揃えてきてしまったのだった。ちょっと手抜きにハンバーガー型に整形された冷蔵タイプのパティ(ビーフ100%)を購入し、薄切りチーズも準備した。昨夜のグリーンサラダの残りがあったので、これも挟んでしまうことに。

起きぬけ早々、ハンバーグを焼いて家中煙だらけにする私たち。この家のコンロの上の換気扇、立派なものがついていたから当初はすごく嬉しかったけど、これが全然外に排気するもんじゃないということに気が付いて愕然とした。鍋の上の煙は確かに上に吸い込まれるけど、それがそのまますぐ上の穴からもくもくと排出されていく。気がつくと家中の天井の上部30cmほどが白い煙に覆われていたりするのだった。放っておくと家中煙だらけだ。肉や魚を焼くときに、これはかなり厳しい状況なのだった。でも焼くけど。

オーブンでバターを塗ったパンを温め、こんがり焼けたハンバーグにはチーズを乗せて少々蒸らす。パンの間にハンバーグとサラダを挟み、ケチャップをこれでもかとふりまくる。そうして作った自家製ハンバーガーは思った以上に美味しかった。ビーフ100%パティの味も悪くなかった。
「あーあ、とうとう家でハンバーガー作っちまったよ……」
「いや、でも、牛乳や卵揃えてフレンチトースト作るより簡単だし」
と笑い合った私たち。

REBANON 「PRIME OUTLETS LEBANON」内「Frank & Stein」にて
 DELI DOG
 スプライト

Nashvilleから高速道路で40分ほど、「REBANON」という町に大きなアウトレットモールがあるらしい。再来週に北の方の国立公園に行くというのに(なんでも明け方には気温が1桁になるらしい)、実は長袖の服などほとんど持ってきていないものだから、「服!服!安い服!あと、ドラムバッグ!」と物欲に飢えてアウトレットを熱烈希望していた今日この頃だった。

12時前に無事「PRIME OUTLETS REBANON」なる巨大モールに到着。店数50ほどあるだろうか。服から靴からおもちゃから調理器具まで、色々な店が詰まっていて、おおいに萌える。服は結局「GAP」が一番安くて、それでもフリースなんかは全然高くて、
「UNIQLOきてくれ……アメリカに進出してくれ……」
「フリース、日本から輸入しちゃおうか……」
などと思いつつ買い物する羽目に。代わりに調理器具は軒並み安価で、このテネシー州に本社がある鋳鉄調理器具メーカー「LODGE」のスキレットやダッチオーブンはやたらと安く、またアメリカの調理器具メーカー「Cuisinart」のフードプロセッサー(うどんやパスタの生地作りにも使える)は定価$380くらいのが$199.99で売られていた。ただ、フードプロセッサーは何か協定でもあるのかどうか、どんなに安売りしているマーケットに行ってもウィリアムズ・ソノマの店に行っても全部同じ値段、$199.99だったのがちょっと不思議。とうとう今日、「えーい、どこも同じ値段じゃないか!」とぶち切れて買ってきてしまったのだった。$100くらいで売ってるとこが後で出てきたら、ちょっと悲しい。

半分ほど歩いて午後1時半、小腹が空いたのでフードコートで軽く食事を済ませることに。
カウンターのそばでソーセージがくるんくるんとグリルされていたホットドッグ屋さんが一番美味しそうだったのでそこを試すことに。チリソースがけやら野菜乗せやら何やら、やたらと種類のあるホットドッグ屋で、私は「DELI DOG」なるものを注文。セットにするとポテトとジュースがついてくる。

出されたのはホットドッグの上に問答無用でマスタードがにょろにょろと絞られ、それに炒め玉ねぎとマッシュルーム、グリーンピースを散らしてホワイトソースみたいな味の薄い色のチーズをかけたものだった。全てをトッピングした後で、巨大な蒸し器のようなものに一瞬ホットドッグを入れ、チーズをとろんとさせてくれる。

思えばこの地に来てホットドッグは初めてだった。実は「屋台で食べるホットドッグ」に密かな憧れを抱いてアメリカにやってきたのだけど、用事があるときだけ車で目的地に移動するような日々じゃホットドッグ屋とは出会えないのである。そんなわけで、初めてのお店ホットドッグ。野菜たっぷりでちょっと淡白な味わいのホットドッグは、見た目以上に美味しかった。炒めた玉ねぎの甘さとかマッシュルームの香りなんかが良い感じに漂ってくる。

食事後は、再びお買物しまくり。何度も持ち歩けなくなるほどの買い物をして、何度も荷物を車に入れに戻ったりした。どうにも固めで眠りにくかった枕も買い換えてみたりして、トランクをいっぱいにして帰宅。物欲は充分に満たされたのであった。んふー。

ポークカレー
酢油キャベツ
ビール(コロナ)

今日は先日来の予定どおり(「そろそろカレーが食べたいなぁ」という人がいたのであった。私も勿論食べたかった)、カレーライス。マーケットで豚バラ肉を買ってこようとしたら見慣れた豚バラ肉の塊なんてものは売られておらず、しょーがないから「Baby Pig Lib」とか書かれた子豚のリブを600gばかり買い込んできたのであった。あばら骨がうわーっとついた肉だ。骨は包丁じゃいかんともしがたいので、骨と骨の間をさくさく切って分けていき、骨ごと煮込むことに。

「カレーが食べたい」と言った時のカレーは、カレー粉を使うんでもクミンやターメリックを駆使するものでもなくて、やはり箱入りのカレールーを使うやつじゃなきゃいかんのである。あの小麦粉が入ってるような、ねっとりもっさりした食感のカレーじゃなきゃダメなんである。
そう思う日本人がこの地にも多く住んでいるらしく、アジア食材屋はおろか、大型マーケットにもしっかりと馴染みのカレールーは売られているのが恐ろしい。ただし銘柄は「ゴールデンカレー」ただ1つ。レトルトパックのものになるともうちょっと種類はあるけれど、ルーとなると「ゴールデンカレー」の甘口・中辛・辛口だけがこの近郊で売られているルーの全てらしかった。贅沢は言ってられないので、このカレーの中辛を買ってきてみた。

肉に塩胡椒をすりこんで炒め、野菜を放り込んで炒め、水を入れてしばらく煮込む。LODGE社の「コンボクッカー」という、深さのあるスキレットのようなもので作ったところ、その重い重い蓋が良い感じに圧力鍋のようになって、1時間ほどで肉はほろりと柔らかくなった。最後にルーを溶かして完成。仕上げにバターを入れたりすることもあったけど、煮込みの途中で豚からの脂がスープの表面に層を作りつつあるのを見てバターはやめた。そんなことしなくてもコクありまくりのカレーになりそうだ。

つけ合わせは、残りキャベツで酢油キャベツ。キャベツとにんじんと玉ねぎを適当に刻んで塩をして軽く揉み、水が出てきたところで酢とサラダ油、砂糖を少々放り込んでかき混ぜ、あとは軽く重石をして数十分置いておくだけでできるコールスロー。日本橋「たいめいけん」の名物料理だけど、その作り方を本で見てから我が家でもしょっちゅう作るようになり、……でも、どーしても店の味にはならなかったりするのだった。それでもカレーのつけ合わせには案外と似合う。

実は、ここ数日夏バテでもしているのかあまり食が進まなかった我が息子。今朝のハンバーガーも、昼のポテトや彼用に注文したソフトプレッツェルも、ほとんど固形物は取らずに飲み物ばかり飲んでいた。昨日もそんな感じ。
「何食べたい?」
と聞くと、これまでは
「ポテトとコーラ!」
と即答していた息子が、
「たまごごはんが食べたいなー、かつおぶしとー、おしょうゆとー」
なんて言い出していたので、"ああ、とうとうアメリカ飯に飽きはじめたか"と思っていた。昨夜の鮭御飯は呆れるほど食べていたので、もしやと思ったところ、今日のカレーもドカ食い。ゴールデンカレーの中辛は、「こくまろ」あたりに比べるとちょっと辛さが強かったけど、それでもめげずにお代わりして食べていた。ま、家の御飯を食べずにマクドナルドのポテトばっかり喰われたりするよりは余程嬉しいし安心でもある。

カレーの中から骨つき肉をつまんでしゃぶるように食べるカレーライスも悪くなかった。肉の味もしっかりとして、ルーの味は懐かしい味そのものだ。
なんか……今度カレールーを大量買いだめしてしまいそうな予感が……。