食欲魔人日記 02年09月 第4週
9/23 (月)
「Alpha Bakery」のチョコロールケーキ (夕御飯)
「Alpha Bakery」のメロンパン
アイスカフェオレ

一昨日買ってきたメロンパンで朝御飯。
たいてい、菓子パンを朝御飯に食べる時は一人2個が原則だった我が家。でも、お気に入りのパン屋さん「Alpha Bakery」の菓子パンは、日本のそれと比べてすこぶる巨大なのだった。2個食べると、昼になっても腹が減らない。

今回買ってきたメロンパンは、表面にグラニュー糖がコーティングしてある、昔なつかしタイプのメロンパン。メロンの味のしないメロンパンだ。
何だか最近は妙なブームで、"表面にヒビが入った、その様子がメロンの表皮のようだからメロンパン"がメロンパンの名の由来だったはずなのに、メロン味のメロンパンが大人気になってしまって今ひとつ不満だった私。クリームが入っているタイプもあるけど、それも今ひとつ心は揺らがなかった。シンプルきわまりない、ちょっとモソッとした生地の、クリームなしのメロンパンが一番好きだ。表面がちょっと硬くサクサクとしていて砂糖がたっぷりまぶされているやつ。

アメリカの片田舎で、そんな昔っぽいメロンパンが食べられるとは思ってもみなかったけど、この店のクリームパンはちゃんと懐かしい街角のパン屋さんの味がした。台湾人のご主人は日本で菓子パン技術を学んでこの地に店を開いたのだとか。この地に住む日本人はもちろん、タウン誌でベストパン屋さんに選ばれてしまうほど街の人に愛されている。

片手では溢れてしまうほどのごっついメロンパンと、アイスカフェオレ。
今日は親子3人、全員メロンパンなのだった。

Nashville 「Charley's」にて
 6oz チーズバーガー
 アイスティー

「お昼御飯、食べなかったんだよー」
とだんなが2時半に帰宅した時、私も息子もそういえば昼食を摂っていなかった。
「ハンバーガーっすか?」
「かるーく、ハンバーガーっすか?」
と、6オンスのハンバーガーが果たして「かるーく」なのかどうかはわからないけれど、何度か行ってるハンバーガー屋さん「Charley's」に行くことにした。この近郊だけに3店の店を構えるファーストフードチックなハンバーガー屋さんだ。店があるのは、大学の近くと、我が家近くのモールの中と、ナッシュビル動物園の中。いつもは大学近くの店に行っていたけれど、今日はショッピングモールの中の店に行ってみることになった。

普通にハンバーガーセットを頼むと700円くらいしてしまう、決して安いとはいえない店だ。でも、何かとクーポンを配布していて、更に近所のスーパーの会員カードを見せればクーポンと同じ効果があったりして、基本的には4割引きほどで食べることが可能だ。割引の基本は、「コンボセットを1つ買うと、コンボと同じ種類のハンバーガーが無料でついてくる」というもの。1人で行ってもありがたみはさほど無いけれど、友達や家族で行くと威力を発揮する。

で、クーポンを渡しつつ注文。
「6オンスチーズバーガーをコンボでね。んで、これがクーポンね。そいでもって、ポテトを1つとスモールドリンク2つを追加してくれる?」

この時に限ったことじゃないけど、はっきり言ってアメリカ人には頭のネジを10本くらいどっかに置いてきたんじゃないかというような人が多い。日本人にも、ときたまピザ屋の配達の兄ちゃんあたりで「この人、昆虫並にバカなんじゃないだろうか」と思いたくなるような人と遭遇する事があるけれど、遭遇率はアメリカの方が高いような感じが。
この時の兄ちゃんは、アホだった。

「……え?何を追加だって?ポテトが2つ、追加なわけか?」
「違う、ポテトの追加は1つ。ジュースが2つ。トータルで、バーガーが2個とポテトが2個とドリンクが3つになるの。」
「え?ジュースは3つ?」
「……息子が一緒にいるんだよぅ」
「んー、オッケーオッケー……おおー、クーポンの入力の仕方がわかんないぞ。てんちょお〜(と奥に声をかける)」
で、しのごのやって手元に来たバーガーセット。値段は妙に安かった。
兄ちゃん、何をどうしてしまったのか、コンボ+バーガー(これが無料になる)+ポテト+ジュース2つの注文に対して、コンボの料金をまるまる引いていた。バーガー1個の値段は計上されていたけど、結果として2ドル以上も安くなってしまっていた。おーい、大丈夫かー。

セルフサービスで野菜類をどかどか挟めるこのお店、今日はできるだけ分厚いトマトを挟んでみた。レタスと玉ねぎもたっぷり入れたら、また具の厚さがパンの厚さの2倍くらいに。ぎゅうぎゅうと上から押さえつけて一気に食べた。

自家製ビビンバ
お茶

「Alpha Bakery」のチョコロールケーキ

遅い昼食後、だんなの運転で運転免許試験センターへ行ってきた。何が何でもさっさと免許を取りたいと、免許センターの周りの道路を予行練習さながらぐるぐる練習してみようというあざとい計画だ。私の運転技術はまだまだまだまだ頼りない。
「じゃあ、本番みたいに言うからね。……あそこの角を左折。」
「ひ、ひだり!?ひだり、ひだり……あれれれーあららららー(角をそのまま通過)」
「はい、失格、おしまい」
もう、全然ダメだった。

自宅周りの、もうなんとなく覚えている道路だったらさほどでもないけれど、初めての道路はもう全然ダメだということがわかった。テストセンターの周りを3周ほどぐるぐるとまわり、ついでにとスーパーに寄って帰ってきた頃には、もうプスプスと耳から煙が出ていた私。
「ぷしゅうぅぅぅぅぅぅぅ」
と呆けてソファに座り込み、夕食の準備どころではなくなってしまった。ああ、いつになったら免許取りに行けるんだか。

不抜けた気分のままで、冷凍御飯をチンして、冷蔵庫に残るナムルを食べてしまわなきゃということでビビンバ。ほうれん草やもやしのナムルを1つずつ器に鼻突っ込んで嗅ぎまくり、「これ、おっけー」「これ、ギリギリヤバそうだけど多分おっけー」と傷んでいないか確認しながらテーブルに出していく。ナムルの賞味期限はせいぜい2日というところだ。大根なんかもかなり足は早い。

ちゃちゃちゃっと準備が出来て食べた割には、野菜もたっぷり取れるしお腹も満たされるし、ビビンバは有り難い。
そしてデザートは「Alpha Bakery」に行ったら買わなきゃいけないロールケーキの、今回はチョコレート味。生地もチョコレート色、クリームもチョコレート色。きめの細かいシフォン風の生地にミルクの味が濃厚なふわふわのクリームがたっぷりと巻かれていて、チョコレートバージョンも涙ちょちょぎれるほど美味しかった。バニラも基本の味として捨て難いし、大人の味のモカも悪くない。チョコレート好きとしてはチョコレートも外せない。
「私はやっぱりバニラかなぁ」
「いや、俺はやっぱりモカだ」
「ぼくはねー、ロールケーキ、すきだなぁ」
三者三様、要するにどれ喰っても美味しいのだ。

9/24 (火)
自家製スコーン&クロテッドクリーム (昼御飯)
干し葡萄入りコーンフレーク with 牛乳

今日の朝は軽めにコーンフレーク。同じメーカーのものだけど、フローズンストロベリー入りフレークはフレークそのものもけっこう甘めで、干し葡萄入りの方は甘さ控えめ。葡萄がざらざら入って良い感じではあるけど、「糖分が足りぬ〜」と思っちゃったり。だんなにも息子にも、ちょっとだけ不評のコーンフレークなのだった。たかがコーンフレークだけど、時々おっそろしく不味いのもあったりするので、コーンフレーク業界も侮れぬ。

自家製スコーン
 クロテッドクリーム(デボンクリーム)・イチゴジャム
アールグレイティー

今日は仕事もあったし、昨日はヘロヘロに疲れていてこの日記も書いてなかったしで、昼にやりたい事がいっぱいあった。あったんだけど、陽気な郵便配達員がお待ちかねの荷物を持って午前中、やってきてしまったのだった。
「Hi ! こんにちは、USPSです!お届けの荷物です!サインをどうぞ、ハハハハハ!」
……無駄に陽気だ。アメリカに来るまで"そんなアメコミみたいなアメリカ人なんているわけないじゃん"と思っていたけど佃煮にするほど存在しているのであった。寝不足の日なんかにこういう方に遭遇すると、楽しいけれどどっと疲れてしまう。アメリカ人、恐るべし。

で、届いた荷物は「The Sims」(日本名:シムピープル)なるゲームソフトなのだった。つい先日「Deluxe Edition」なるものがこちらで発売されたばかりで、日本にいる時から密かに欲しかった私はこれは良い機会と英語版を購入。シムシティの人間版、というか……(←ちょっと違います)。
自分でキャラクターを作り、家を作る。キャラクターや家具などは世界中のサイトでオリジナルものが多数配布されていて、正規のデータに無い和風の家を建てたり、漫画やアニメのキャラクターを動かすことも可能らしい。とりあえず、バイオハザードのキャラクターをダウンロードしたりして数日前から喜んでいる私だった。
ともかく、しばらく遊べそう。

待ちに待ったソフトが届いた所為で、それからずっとサルになる。
昼御飯だけは、今日作ろうと決めていたスコーンを真面目に作ることに。冷蔵庫には数日前に買ったデボンクリームが入ったままなので、これはちゃんとスコーンを作らねばならぬのだ。

薄力粉とベーキングパウダーと砂糖と塩を合わせてフードプロセッサーにかけて空気を含ませ、バターを落として更に混ぜていく。ムガーッと膨れたスコーンを作る秘訣は、バターを溶かさないうちに粉に細かく混ぜ込んでいくことらしい。バターが砂のように細かくなり粉と混ざったら牛乳を混ぜて軽くまとめて伸ばして型で抜いて焼くだけ。手元にあるのはメモになったレシピだけだから出典が曖昧だけど、林望さんのイギリスエッセイ本に乗っていた作り方のはずだ。天板に型抜きしたスコーンをみっちり並べ、オーブンで15分ほど。案外ちゃんとしたスコーンになった。ちゃんとムガーッと膨れてくれて(膨れてくれないのもあったけど)、見た目はかなりスコーンっぽい。

息子と一緒に、2個3個とクリームとジャムをこってりつけまくって食べた。スコーンには熱い紅茶が一番よねと、アールグレイティー。黄色味濃厚なクリームは、「スコーン食べたい、クロテッドクリーム舐めたい」という欲望をすっきり解消してくれた。ちょっと不揃いな自家製スコーンも充分美味しい。簡単だったし。

ミートソーススパゲッティ (缶詰もん)
ビール

午後はずっとサルサルお猿。
「おかーさん、何してるの?」
「おうち、建ててるのー」
「おかーさん、ここ、トイレ?」
「そうそう、トイレ作ってるのー」
と、息子を横にしてずっとゲーム。ダウンロードしたアイテム使って、超和風の家を建ててみた。芸者キャラに"おゆき"という名前をつけて住まわせたところ、和風のソファーに「気に入らないわー」とジェスチャーされた。料理スキルが0のおゆきさん、料理を作らせれば「アウチッ!」と盛大に指を切っている(見た目は芸者だけど、中身はアメリカ人という感じ)。がんばれ芸者おゆきさん。

だんなが帰ってもせかせかとゲーム猿になりつづけ、そろそろ夕飯の支度を……と思ったところに息子が空腹の限界になってしまった。昼にスコーンだけじゃ、さすがに持たなかったらしく、「おなかすいたよ、すいたよ」と大騒ぎ。もう御飯炊いている猶予もないかなということで、瓶詰めミートソースのスパゲティでこれ以上なく簡単に済ませてしまうことにした。
冷静になってみれば、ゲームのおゆきさんよりもダメなもの喰ってるような私たち。
ご、ごめん……。

9/25 (水)
だんな特製 ソース焼きそば (夕御飯)
自家製スコーン
 with デボンクリーム・ストロベリージャム
ココア

昨日のお昼に焼いて食べたスコーンを、だんなにも食べさせてみた。私はクッキーをはじめとするサクサク系の焼き菓子は大好きなのだけれど、だんなは今ひとつ苦手らしい。
「ああいうのって、口の中がモガモガするじゃん。モサモサした歯ごたえとかね、ちょっと苦手……」
とのこと。
独身時代に、それを半ば知りつつ山のようなクッキーを焼いて渡したことがあったけど(←ほとんど嫌がらせのような行為……)、半年くらいかかって食べて結局食べきれなかったという話を聞いた。それはそれとして、クロテッドクリームは好きらしい。

スコーンは軽くオーブンで温めて、クロテッドクリームとジャムを瓶ごとテーブルにどかんと出す。お供はココア。
先日、NY在住の友人が「これ、最近お気に入りのココアなのー♪」と荷物と一緒に送ってくれた、えらく巨大な缶入りココアだ。息子の顔くらいの大きさがある円筒形の缶には"12oz"と内容量が記されていた。「DEAN&DELUCA BENSDORP COCOA」と、シンプルなココア色のラベルに書かれている。

日本の缶のつもりで思い切りよく蓋を開けたら、開けたところにココアの粉がもうみっしりと詰まっていて、ちょっとびびった。日本で買うバンホーテンのココアなんかは、缶を開けたところにもう一段階銀紙の蓋がついていたりしているから、ついついそのつもりで開けてしまったのだった。あやうくココアを顔からかぶるところだ。用心用心。

こういうパッケージの違いは、単に日本の過剰包装傾向にあるのかと思っていたけど、湿度の違いというのも大きな要因かもなぁと、最近思い始めている。パスタの包装は、日本ではプラスチック製の袋が普通だけど、こちらでは紙製の箱が普通だし。そういうパッケージであっても、海苔などがパリッパリに乾燥し続けてしまうのが肌ではあまり感じてないけれど気候の差として実感する。

砂糖どばどば入れて飲むココアは、ここ数日の肌寒さもあってとても美味しかった。ココアと砂糖をマグカップに入れて熱湯少々入れて練り練り。ペースト状になったところでたっぷりの牛乳を注ぎ、よーくかき混ぜてから啜る。うまー。

豚にんにくおじや

先週の木曜日にも発熱した息子、先週のは前哨戦だったと言わんばかりに、今日は高熱を出した。
朝御飯時にふらふらと起きてきてジュース一杯飲んだだけでまた朝寝。そのときは熱に気がつかずに「良く寝るなぁ」くらいにしか思っていなかったけれど、次に起きてきた時には顔が真っ赤になってすっかり息が荒くなってしまっていた。アメリカに来て最悪の体調だ。

先週は食欲もあったけれど、今日はもうダメ。
「ジュース、飲める?」
「いらなーい……」
「ヨーグルトもあるよ?」
「いらなーい……」
「せめて水くらい飲みなよー」
「いらないってからー!……」
もう全然ダメ。

うとうとしては気持ち悪さに半べそかいてしまう息子に、一口くらいは食べられるかなぁと、"風邪のときはこれ!"の豚にんにくおじやを作った。保存しておいた塩豚(残った豚塊肉に塩をよーく揉みこんでからキッチンペーパーできっちり包んでラップで巻いておく)の処理も兼ねて、ざくざくとたっぷり切った塩豚と、これでもかと大量のにんにくを御飯と一緒に炊いていく。味付けは塩と醤油だけ。あとは胡麻油少々。
私やだんなは、よっぽどの事態でなければ風邪のときにはこれをもりもり食べられる。スタミナもつくしあったかいので、「これ食べてとっとと寝てなさい」というのが風邪の治療法になってしまっている。

が、息子にはさすがにヘビィだったようで、2口ほど食べて
「……いらなーい……」
とそのまま寝てしまったのだった。

豚の塩気がほどよく御飯にも染みて、旨味たっぷりのおじやはかなり自信作。
仕方ないので一人でもりもり食べてしまった。風邪でなくてもこれ、美味しいし。

だんな特製 ソース焼きそば
ビール (コロナ)

「息子が高熱ですー」
との私からの連絡に、「なんてこった!」とあれこれ買い物してきてくれただんな。バナナと葡萄、風邪薬はさくらんぼ味のシロップと葡萄味のシロップの2種類。食欲はないけど泣く元気も話す元気もあるので、まだ病院沙汰ではないかなというところだ。

熱で不機嫌きわまりなかった息子を6時間ほど診ていたので、だんな帰宅後に力尽きて私は昼寝。その間、だんなは息子の看病とうどん打ちにいそしんでいたようだ。目がさめると、旨そうなうどんが打ち上がっていた。
うどんは、明日。今日は息子も食事どころではないしと、簡単にインスタントソース焼きそばにすることに。乾麺をフライパンで茹でつつ水分を飛ばし、具と炒めあわせて粉ソースで調味する、という簡単なものだ。これにも、昼に使った塩豚の残りを投入。キャベツと豚肉だけの簡単な焼きそばになった。ちゃんと焼きそばの袋には青海苔も入っていて、それが妙に嬉しかった。

「やっぱり家族が病気になった時のために"桃缶"買っておくべきだったかなぁ」
と思いつつ、だんなと二人で夕御飯。ちょっとばかりインスタント臭い麺だったけど、サッポロ一番の焼きそば(←そのへんのマーケットで買った)はちゃんと日本の味がした。
「すごい高かったんだよ、これ」
とだんなが言うので、
「ほー、いくら?(1袋150円くらいしたのかしら)」
と尋ねると、
「他のラーメン、10セントくらいで買えるじゃん。これ、50セントくらいしたんだよー、いやー、高かったぁ」
とのこと。
60円くらいの焼きそばに、高い高いというようじゃ、だんなもすっかりアメリカ人……。

9/26 (木)
鶏手羽のクリーム煮込み (夕御飯)
だんな特製 手打ちうどん(ひやひや)

息子が昨日から発熱していて、昨夜は大変だった。数時間おきに
「おとーさん、なにか飲みたい……」
「おかーさん、トイレ行きたい……」
と息もたえだえに懇願するし、不安なのか必死にしがみついてくる。しかし、飲み物の希望はだんなで、トイレの希望は私に言ってくるのは何故だろう。息子なりに「一人だけに声かけちゃ悪いから」とか思っているんだろうか。謎。

何も食べられない、何も飲みたくない、という珍しいほど具合の悪い息子を心配しつつ、朝御飯は昨日の夕方に打っていた、だんな特製手打ちうどん。日本にいるときより格段にうどん打ちの頻度が高いのは、それだけ日本の味が恋しいということなのかしらん。

いりこの風味たっぷりのだしに、氷水でキリリと冷やした冷たいうどん。今回は強力粉を全く混ぜずに薄力粉100%で打ってみたらしいけど……これまでよりは改善されていたけどやっぱりちょっと硬かった。しかもポソポソと切れやすくなってしまっている。
「水の量が悪いのかなぁ」
「単に麺が太いだけだったりして」
と、これまでの傾向と対策を議論しつつ白い麺を啜りまくった。断面はピシッと四角形、艶も色も良いうどんだけど、まだまだ美味への道は遠そうだ。

豚にんにくおじや(昨日の残り)

リコッタチーズのムース
アイスティー

だんなは大学へ。私は半べそが止まらない息子の面倒をみながらのんびりゲームなぞしていた。熱も下がってきつつあるし、まぁ大丈夫だろう、とやっと寝てくれた息子を眺める。そして3時間後、奴は復活を遂げていた。起きるなり目がキラキラしている。

「おかーさん、なんかぼくね、なおったっぽいかもよー」
数時間前まで涙目でヒーヒー言っていた奴の台詞とは思えない。熱は微熱程度にまで下がっていたし、何よりろくに歩けなかったのに家中をぺたぺた歩き回っている(さすがに走る体力はないらしい)。
「な、なにか食べますか?(ジュースすら飲めなかったのに、もう食べられるのか?と思いつつ)」
「バナナ、食べるぅ〜」
「はい、バナナね。あと、他に食べたいのある?(さすがにないだろう、と以下略)」
「あとね、いちごのパリパリ〜。牛乳、いーっぱいかけてね」
「……マジ?」
「まじよ、まじ」
マジマジ、と頷く息子の目は本気だった。……回復早いわ。さすが子供。

結局、バナナ1本とフローズンストロベリー入りコーンフレークをどえらい早さで食べ尽くした息子。もう昼時というには遅かったけど、私も横で昨日の昼の残りのおじやを食べた。なんか私の方が病人みたいな食事じゃないか。

デザートに、リコッタチーズのムース。材料はかなり前に揃えて買って置いたのに、ずっと作るのを忘れていたものを、昨晩にやっと作ったやつだ。生クリームに砂糖を加えて泡立てて、サワークリームとリコッタチーズと共に混ぜるだけの簡単きわまりないデザートだ。A先生からいただいたハチミツをかけて喰ったらさぞ旨いだろうと思いつつ、甘さ控えめに作った。ハチミツたっぷり、とろ〜んとかけて、松の実を砕いたものをちょっと散らして食べる。

材料全てが乳脂肪分で構成されているような濃厚なデザートを、病み上がりの息子食べる食べる食べる。1日何も食べられなかった栄養補給をしているのかという感じ。

鶏手羽のクリーム煮込み
オニオンスープ(キャンベル缶詰)
羽釜御飯
ビール(Red Hook Blonde Ale)

息子に移されたか、
「な、なんか俺まで頭痛い……」
と言い出してしまった我が夫。夕飯食べたらすぐに寝る、というので冷蔵庫内の残り生クリームの処理も兼ねてあったかい煮込み料理にすることにした。買い置きの手羽肉を取り出して、まずはスキレットでこんがり焼き付ける。

別鍋に刻み玉ねぎを入れてバターで炒め、マッシュルームもたっぷり入れる。そこに全面に焼き色をつけた手羽肉を投入し、白ワインを加えてさっと飛ばしてから牛乳で煮込んでいく。仕上げに生クリームを入れたら沸騰させない程度に温めて完成。買ってきた鶏肉は手羽元で、これでもかとブリブリ肉がついていた。

息子もだんなもそれほどの食欲はなさそうだし、と、キャンベルのオニオンスープの缶詰開けて御飯を炊いて、それだけで夕御飯。生クリームたっぷりの煮込みは、不思議と学校給食のクリームシチューみたいな味がした。玉ねぎとマッシュルームだけの具というのも、それはそれで悪くない。

今日は一日、台風のための嵐。テネシー州を通過せんと北上し続けている台風は、今日の午前中にニューオーリンズ付近を通過したらしい。明日の午前中にテネシーに近づくのだとテレビやWebサイトが騒いでいる。ん〜〜〜、楽しみ……。

9/27 (金)
リコッタチーズのムース 蜂蜜がけ (夕御飯)
だんな特製手打ちうどん(ひやひや)
おにぎり

水曜日から大熱出していた息子の風邪はすっかり昨日のうちに治り、それがどうもだんなに移ってしまったらしい。
「だるーい」
とか言いながら昨日は夜8時に寝てしまい、今日もまだちょっと具合が悪そう。

それでも、うどんなら食べられるよね、ということで手打ちうどんの残りを食す。相変わらず、だしだけは超美味しい。甘さがほとんどなく、いりこの風味がどっしりと濃厚。鰹節もたっぷり入っているから"日本の味"がそこに凝縮されているような感じ。ちと硬めで、ちと太めのうどんの味はまだまだ精進努力が必要な様相ではあるけど、だんだん理想に一歩一歩近づいている風でもある。がんばれ、だんなー。

そして、うどんは残り少なかったのでおにぎりも。"のりたま"のふりかけを最後に軽くトッピングした、香川のうどん屋でガラス扉ケースに入っているようなかわいいおにぎりを、「オプションだしね、必須だしね」とか言いつつ囓る。
来週末には留学生仲間たちとピクニック。当然おにぎり持っていこうね、と言っている我が家は鮭だのおかかだの、更には日本食材屋でたらこも仕入れて来ようかなどと盛り上がっているのだった。

「TACO.CO」の
 ハードシェルタコス
 ビーフファヒータ
 トルティーヤチップ&チーズディップ
サンペレグリノ

ふらふらしながら、午前1コマだけの授業に出て帰ってきただんな。土曜日の小学生みたいな時間帯に帰ってきただんなは、「昼御飯だよー」とタコス屋の紙袋をぶら下げて帰ってきた。白い紙袋、1つには下から上までみっしりとトルティーヤチップが詰まり、上に押し込むようにしてプラスチックケース入りのチーズディップがごろりと入っている。もう1つの袋には、7つものアルミホイルでくるまれた塊が。
「1人3個は食べられるかなー、と思ってね……で、残り1個は息子用の皮だけのファヒータ」
とのこと。いつも1人2個でどこか物足りなかったので喜んで食べ始めたのだった……が。

朝御飯を食べたのが2時間前ほどの事だったということもあり、3個のタコス及びファヒータはさすがに量が多かった。1個に1ドル追加して、全てにトマトとチーズとオニオン&ピーマンと、レタスを詰めてもらったのだそうだ(1つトッピングを増やすごとに25セント追加料金がかかるのだ)。すごく大雑把にくるまれたアルミホイルの中はごちゃごちゃと大変なことになっていて、もう一度丁寧にくるみなおしてから囓っていく。ピリッとスパイスが効いた少し辛めのひき肉がたっぷり詰まったタコスに、細長くカットされた切り身の牛肉が包まれたファヒータ。ポークとチキンもあって、それもだんなと分け合いつつ食べた。牛に比べるとかなり淡白な味わいの豚と鶏肉のファヒータも、それはそれで悪くない。

そしてテーブルの上には山のようなトルティーヤチップ。なんでこんなに、と思うほど大量のチップが紙袋には入っていて、これだけで一食分になってしまいそうだ。あつあつのチェダーチーズのディップをつけつつ食べる。ほのかに塩気があるチップはパリパリと香ばしく、それだけでも旨いのにチーズのディップつけたら止まらないようになってしまった。

海苔茶漬け
リコッタチーズのムース 蜂蜜がけ

かなり充実した量の昼御飯を食べ、不調のだんなはそれから昼寝。
5時頃に起きてきた時には
「……うーん、お腹が減らない……」
と苦笑いしていた。ただでさえ不調で食欲がちょっと減少気味のところにタコス2つも3つも食べたもんだから、夕飯どころじゃなくなっちゃったらしい。

「どっちみち肉や魚の買い置きがないから、アラビアータかプッタネスカのパスタというあたりになっちゃいそうだけど……?」
「……うーん……」
「じゃあ、更に簡単に"卵丼"とか」
「……うーん……」
「じゃあね、じゃあね、お茶漬けなんかはどうかなぁ」
「……それだっ!」
と、いつもはかなり早く決まる献立決定にしばし議論が必要とされた。より軽く、より軽くと連想していって、最終的にお茶漬けに。

お世話になっているA先生は何かと日本だの台湾だの韓国だのを訪問しまくる人なのだけど、前回日本に行った時に山のようなお土産を買ってきてくれた。何故か息子には
「これはー、ノゾさんにオミヤゲでーす」
とご指名でポッキーくれちゃったり。大人たちには豆煎餅とか、お茶漬け海苔とか。そのときにいただいた山本山の高級お茶漬けの素があったので、それを試すことにした。1つは柴漬け茶漬けで、もひとつは"海苔たっぷり茶漬け"。

お茶漬けと言ったら永谷園のものばかり食べていたような気がするけど、山本山のもかなり美味しかった。
刻み海苔がたっぷり、胡麻もたっぷり、そして乾燥三つ葉がちゃんと三つ葉の風味がして、これまたたっぷり。私がどうも苦手な永谷園の茶漬けに入っている"カリカリ"(←細長い煎餅)はこれには入っていなくて、それもまた嬉しかった。
「なんでー?カリカリ、美味しいじゃん」
などとだんなは言うけど、ふやけていってヒヨヒヨの口当たりになってくるのがどうにも苦手なのだ。だからアレが入っているとまず最初に全部食べようとしてしまう私。

久しぶりの茶漬けということも相まって、なんだかしみじみ美味しかった。私もこれで腹が膨れたということは、よっぽど昼御飯が重かったんだろう。

デザートに、まだまだ残っているリコッタチーズのムース
A先生宅で採れた蜂蜜をどっさりかけて食べて、なんだかA先生さまさまという感じの夕飯だった。

9/28 (土)
鮭の塩焼き&おろし醤油 (夕御飯)
ボローニャ&チーズサンド
スコーン with デボンクリーム
鶏肉のクリーム煮(一昨日の残り)
オニオンスープ(一昨日の残り)
カフェオレ

昨日の夕飯はさらっとお茶漬けだったので、今朝は空腹で空腹で目が覚めた。
一昨日の晩の残りやら何やらを総動員し、更にボローニャソーセージのサンドイッチも作っての豪華朝御飯。

昨日一日不調だっただんなは、今日も若干まだ不調。それでも一緒に台所に立ってパンを出したりハムを切ったりしてくれた。ドッグパンにチーズを挟んでオーブンに放りこみ、スキレットでボローニャソーセージを両面こんがり焼き、それをオーブンから出したパンに挟んで食べる。挟んだチーズは薄切りのチェダーチーズ。日本ではそれほどではないけど、アメリカではこれ以上なくメジャーなチーズがチェダーだ。最初はちょっとその独特なクセが鼻についていたけれど、最近は馴染み深い味になってしまった。

ドッグパンのサンドを食べ、更に残っていた自家製スコーンの残りも囓り、鶏肉の煮込みやスープを飲み干したらすっかり満腹に。

で、今日はちょこっとWAL☆MARTにお買物。そろそろ長袖も欲しくなってきたし、と5ドルのトレーナーだのスウェットだの、10ドルのセーターだのを買い込んできた。だんなは"100万ドル持っていたら、こんなシャツなんか着てないぜ!"といった文章が英語でかいてある半袖シャツなどを籠に入れたりして。それを着てラスベガスに行くつもりだろうか。

15種類ほどの服を買い込み、米だの海苔だの肉だのを巨大なカートにいっぱい買い込み、200ドル。後ろに並んだおばあちゃんに「隨分また服を買ったものねぇ」と笑われながら会計を済ませてきた。これでしばらく衣類には困らなさそう。

鮭の塩焼き おろし醤油
厚揚げの葱おかか和え
ジャンボマッシュルームのバター醤油炒め
わかめと油揚げの味噌汁
羽釜御飯
ビール(コロナ)

不調な時には和食が懐かしかろう、と、更に私も魚が恋しかったので今日は和風な夕御飯。WAL☆MARTは肉は素晴らしく安いものがあったりするけど、魚の品揃えはいまいちだ。"活ロブスター"(←水槽に入っている)なんてのも売ってる割には、そして魚介コーナーには4種類ほどの海老やらザリガニやら売っている割には、魚はほんの2〜3種類だ。鮭も白身の魚もカッチンカッチンに凍ったままのものが冷蔵ケースにざらざらと詰まっていて、全然お買物が楽しくない。
で、我が家最寄りのスーパーで鮭を買ってきた。Harris Teeterはいつも生で食べられるマグロがあるし、鮭も当然あるし、そのほか2〜3種類の魚が大抵ケースに入っている。凍っているものじゃないから(多分冷凍ものをお店で解凍しているんだろうけど、それでも)、お買物もなんとなく楽しい。

400gほどの鮭の切り身は、なんとウロコがついたままだった。
「なんでウロコがついたままなんだよ!」
と悪態をつきつつ、「剥がしちゃえ〜」とスキレットに放り込んだ鮭から皮を剥がし始める我が夫。本当のところ、私は魚の皮(鮭でも何でも)が大好きなんだけど、切り身の魚からウロコだけを取り去るのはなんだか大変そうなので(身にもウロコがついちゃいそうだし、そうしたら水洗いでもするのかなぁ、とか)剥がされるのを静観しているのであった。

厚切りの鮭はこんがり焼けた。どうも外見は"鮭の塩焼き"というよりは"サーモンのソテー"といった感じだけど、気にせず大根おろしを横に盛る。醤油を垂らせば、見た目は立派な和食だ。
更に、"厚揚げのようなもの"を発見して買ってきたので、これも炙って食べることに。葱を刻んでおかかと和え、醤油をたらしたやつを添えて絡めつつ食べる。怪しい"厚揚げのようなもの"は、確かに厚揚げと同じ作り方で作られているようだったけど、それはそれは硬い物体だった。厚揚げの歯ごたえというよりは"戻しかけの高野豆腐"という感じ。みっちりとした噛みしめ感さえ気にしなければ、これまた立派に和食だった。

更に更に、"しめじのバター焼きでも添えたい感じ"と、しめじは無かったのでジャンボマッシュルームを買ってきた。見た目は椎茸に似ていて、ただし大きさは直径15cmほどと、かなり巨大だ。裏っかわのヒダヒダのところが真っ黒な色のキノコで、炒めたら焦げてるわけじゃないのに全体が真っ黒になってきた。とりあえずたっぷりのバターで炒め、醤油を最後にひとたらし。味はちゃんと"バター醤油炒めのマッシュルーム"だけど、外見は"キノコ炒め大失敗"という感じ。これまた、外見さえ気にしなければ立派に和食だ。

御飯と味噌汁だけは一応体裁が整って、あとは何だか和食もどきな食卓となった。それでも全体的に醤油味で、懐かしい味だらけではある。
「こ、これ、お義父さんは食べられるかなぁ」
と、真っ黒な見た目のキノコを囓りながら私が言う。
だんなのお父さんは、和食以外はほとんど受けつけない人だ。ぎりぎりの許容範囲内が韓国料理なのだそうだけど、それだって「キムチと焼き肉とビビンバは大丈夫」という程度。仕事で海外に行かなければならなくなった時などは"苦行"になってしまうらしい。
「いやー、ダメだね。きっとこの鮭ですらダメなんじゃないかなぁ」
と、戻しかけの高野豆腐みたいな厚揚げを囓りながらだんなが答えた。
このくらいの和食もどきでそこそこ郷愁が癒されちゃった私たちは、けっこう単純なのかもしれない。

9/29 (日)
牛肉のたたき (夕御飯)
ホットケーキ(冷凍もの)
ベーコンエッグ
アイスカフェオレ

「ワッフルとかホットケーキが冷凍庫に入ってるけど何を食べたいですかー?」
と、朝9時に起きるなり家族会議。今日は息子に聞いてみた。
「どっちが良いですかー?」
「んとねー、僕はねー、ホットケーキが食べたいなぁ」
ということで、息子のリクエストによりホットケーキ。3枚が1パックになっている手のひらサイズのホットケーキを温めて1人2枚。それだけじゃ物足りないと、薄切りベーコンをぎっしりたっぷりスキレットで焼いてカリカリベーコンにしたところに卵を割り落として目玉焼きも作った。何だか某パンケーキ屋さんの料理みたいな光景に。

アメリカのベーコンは、「脂肪分控えめ」だの「塩分控えめ」だのと書かれて売られているものも多いけど、どれを買ってもそこそこ美味しい。日本の安売りベーコンの中にはやけにパサついていて炒めてもちっとも脂が溶け出てこないものもあったりするけど、その点、アメリカのベーコンはちょっとばかり生っぽささえ感じられる柔らかいもので脂もたっぷり。それゆえに割と早く傷んでしまうし高カロリーな感じではある。焼き付けると良い感じにカリカリベーコンになるのでついついこれでもかと食べてしまう。

「WILD OATS」の
 いなり寿司
 マンゴーコラーダスムージー

牛乳の消費が激しいので、「ガロン売り牛乳を買いにいきましょー」と、近隣では唯一"Whole Milk"(低脂肪化などしていない成分無調整の牛乳)の1ガロンボトルを売っているWILD OATSなるオーガニックチェーンマーケットにお買物に行った。夕食はこれでもかと牛肉のたたきを作って食べる予定だったので、昼食にごくごく軽くそこのテイクアウト寿司バーで売られているいなり寿司をつまんでみた。

オーガニック=健康的=ジャパニーズフードは健康
という図式が成り立ってでもいるのか、アジア系食材は豊富だし、魚の種類も豊富だし(でも高い……)、それゆえに寿司の品揃えもかなり豊富だ。魚介は高いので寿司も高いけど、いなり寿司は4ドル弱のお得価格(他の寿司類は6〜7ドルくらい)。店内にカフェテリアも併設されていて、テイクアウトものを購入したらその場でコーヒーなどと共に食べていくことができる。

名前で選んだ「マンゴーコラーダスムージー」は、その名のとおりマンゴーとココナッツの風味たっぷりのスムージー。注文すると奥のカウンターで材料をミキサーに放り込んで作ってくれて、4ドル弱。プラスチックのコップに入れられたそれにはラベルが貼ってあって、材料はマンゴーとココナッツとパインとバナナと牛乳、だそうだ。これ一杯でヘビィなおやつ、というくらいに飲み応えがあった。
いなり寿司の味も、いたってまとも。油揚げは、よくスーパーで見かける「いなり寿司用味つけ油揚げの缶詰」(←気になるけど恐ろしくて買ったことがない)のような気がしないでもないけど、御飯もかなり日本米チックで嬉しかった。隅っこにガリが入っているのも泣かせる。でも、その対角に詰め込まれていたワサビは余計じゃないかなと思わなくもない。

牛肉のたたき
 千切り大根・千切りにんじん・スプラウト
 にんにく生姜だれ・ライム醤油だれ・わさび醤油だれ
大根の味噌汁
御飯
ビール(コロナ)

先日から
「ダッチオーブン、すてき〜」
「LODGE社、イカす〜」
などと騒いでいたところ、Web日記書き友達のDちゃんがダッチオーブン及びスキレットの購入に走ってしまった。ここ数日、彼の日記ではダッチオーブンへの愛が花盛り。
「祭りですね」
「Dちゃんとこ、ダッチオーブン祭りになっていますね」
とニヤニヤしながらだんなと眺めていたけれど、あれが旨いこれが旨いと書かれて、しっかり触発されていた私たち。
「ならば、我が家は牛のたたきを作りましょ〜」
と、もも肉の2.52ポンド(1kg強)の塊を買ってきた。これで6ドルちょっと。魚1切れよりも安いのだ。アメリカ人を構成している物質の5割くらいは牛肉で構成されているのかも、と思ってしまってもしょうがないくらい、牛肉は安い。

タイミング良く、というか、タイミング悪く、というか、今日の午前中には留学生仲間が貸してくれた「プロジェクトX」のビデオを見ていたのである。息子は童謡はろくに歌えないくせに「風の中のスーバル〜♪」は歌えてしまうほど、我が家はプロジェクトXが大好きだった。6本分録画されていたビデオの中、「これ、君が好きそうだから」と教えてくれたのが「料理人たち 炎の東京オリンピック」。元帝国ホテル総料理長、村上信夫氏の話だ。
「塩のひとふりが、味を決める」
などというナレーションに盛り上がる私たち。そのままの勢いで牛のたたきを作り始めてしまった。

「"駄目だ。このダッチオーブンには、まだ、余熱が足りない"……だんなが言った」
「"諦めるな。いつか、道は、開ける"……せりあは、呟いた」
「そして、旨いたたきへの長い挑戦が始まった」
……そんなこと言ってないでさっさと焼けという感じ。

冷蔵庫から数時間前から出しておいた巨大な肉に、これでもかと塩と胡椒とすりおろしにんにくを揉み込む。そしたら(プロジェクトXごっこを交えつつ)カンカンに熱したダッチオーブンに放り込んで全面をこんがりと焼き付け、あとは蓋をして弱火で上下を返しながら20分ほど蒸し焼きにしていく。
「"まだか、まだ、焼けないのか"……焦りの声が、沸いた」
「"まだだ。じっと、耐えるんだ"……せりあは、動じなかった」
傾向として、だんなは"焼きすぎが怖いから生っぽいくらいで火を止めろ"派で、私は"でも生じゃ困るからちゃんと焼こうよ"派なのである。そろそろ火を止めろ、いや、まだだ、とプロジェクトXごっこをする私たちで狭い台所はいつにない熱気だった。

だんなが肉の面倒をみてくれている間に、私はタレの準備。
実は、牛のたたきなんて作るのは初めてなのだ。日本じゃ塊肉なんて恐れ多くてあまり買えなかったし、ダッチオーブンもまだ所有していなかったし。よくわからないので、旨そうだと思えるタレを3種類作ってみた。

にんにく生姜だれ
煮切り酒と煮切り味醂にたっぷりのおろしにんにくと、適当な量のおろし生姜を混ぜ、醤油で伸ばす。

ライム醤油だれ
煮切り酒と煮切り味醂に醤油を加え、ライムをこれでもかと絞る(ポン酢がなかったから……)。

わさび醤油だれ
醤油に練りわさびを溶かす。以上。

更には、ダッチオーブンに溜まった肉汁がもったいない、と、だんなが小麦粉を溶いてグレービーソースも作ってくれた。もう、"たたき"なのか"ローストビーフ"なのかわからなくなってきたが、気にしない。
更には野菜も食べなきゃね、と細切り大根やにんじん、かいわれ大根代わりにアルファルファのスプラウトも買ってきて皿にたっぷり盛りつける。

肉は、"1分ばかり加熱が多かっただろうか"とも思えたけど、上々の焼き上がりだった。塊肉の中央部分は見事な薔薇色。生っぽくもなく、加熱しすぎという程でもなく、ざくざく薄切りにしてたっぷり盛りつけた。

まぁ、ともかく、旨かった旨かった旨かった。
最終的に4種類になったタレが全部違う風味で目先が良い感じに変わったこともあり、スプラウトを巻いてはライム醤油で食べ、大根とにんじんに刻み葱を散らしてにんにく醤油で食べ、大ぶりの切り身をグレービーソースにじゃぶんと浸して食べ、大変な勢いで食べまくった。肉は適度に柔らかく適度に歯ごたえもあり、肉汁たっぷり。
「明日にはローストビーフっぽく食べようか」
なんて言っていたのに、1.2kg近くあったはずなのに、残りはサンドイッチにするくらいしかない、というくらいに食べ尽くしてしまった。

私も食べたけど、病み上がり(で、どうも腹も下っていたらしい……)なだんなの勢いは凄かった。肉と一緒に御飯も止まらなくなってしまったらしく、茶碗に3膳の御飯を平らげていた。
「"だんな、それは、ちょっと、食べ過ぎではないのか"……せりあは、唸った」

9/30 (月)
新富(Nashville)にて、串カツ定食 (夕御飯)
干し葡萄入りコーンフレーク with 牛乳

1kgもの肉を家族で食い尽くした日の翌朝。さすがに胃というか身体全体というかが重かった。しかもこれでもかとすりおろしにんにくも使っていたから、身体中の毛穴がにんにく臭いという感じ。存在自体が迷惑なものかもしれない、今日の私だった。

「うう、にんにく臭いよー」
他人のにんにく臭さも気になるけど、自分が臭いのもけっこうイヤなものだ。
「歯ぁ磨いてきなさい。いや、牛乳飲みなさい」
とだんなに助言をいただきつつ、ならばと朝御飯はコーンフレーク。

ああ、胃が重い。

牛のたたきサンド
牛乳

昨日は妙な日だった。
お隣のアメリカ人女性Jさんが「これね、お裾分け」と巨大なスイカを丸々1個分けてくれ、更にはそのお隣のオーストラリア人Pさんが「これ、息子さんにドウゾー」と小さなシャボン玉セットをくれた。交流しないときは1週間くらい顔も見ない御近所さんが、昨日に限って我が家を訪問してきていた。私たちは真面目に
「今日は子供の日か?」
「人に物をあげる日か?」
とカレンダーを見てしまったけれど、どうも普通の週末だったようである。

冷蔵庫の下の方にごろりと詰めたスイカは、しかし何しろ巨大だった。日本のスイカはまん丸だが、アメリカのスイカは楕円である。米俵型、という感じ。長い辺は35cmほどあって、直径は25cmほどだろうか。冷蔵庫の余白がぐんと少なくなってしまうスイカの存在だった。
「というわけなので、お裾分けさせてください」
とHさん宅に電話。スイカのお裾分けを理由にして午前中はHさん宅で遊ばせてもらった。

昼過ぎに自宅に戻り、しばししてから昼御飯。
昨日の残った牛肉のたたきを手のひらサイズの小さなパンに挟んで食べた。温めたパンを両断してバターを軽く塗り、牛肉を数枚重ねてからアルファルファをその上にたっぷり詰め込み、グレービーソースにしようか醤油だれにしようか悩んでからにんにく生姜だれをアルファルファの上から1さじかける。見た目は豪華ローストビーフサンド、というところだけど、タレの味は醤油なので牛のたたきサンド、というところだ。

「ぼくはねー、おにく、いらないのよ。バターだけでいいのよ」
という息子にはバターだけを挟んだパンを渡し、肉っけのある軽めの昼食を楽しんだ。塊肉を調理したのって、なんでこんなに旨いんだろうねぇ。

Nashville 「新富」にて
 串カツ定食
 生ビール

スイカ

数日前から、カツが懐かしくてたまらなかった私。特にトンカツ。更にカツ丼。
冷蔵庫には昨日買ってきた旨そうな魚が入っていたにも関わらず、カツ丼への渇望はとうとう抑えられないものになってしまった。
「ダメだ〜。カツ丼食べたいカツ丼食べたい超食べたい!」
とじたばたしてみたところ、「お、俺も食べたいです」と、だんなが同意。日本食屋に行けば大抵どこでもあるだろう、と自宅近くの「新富」に行ってみることにした。

……が、カツ丼は無かった。チキンカツはある。トンカツもある。串カツまである。海老フライだってある。そしてお茶漬けや蕎麦・うどんはあるのに丼ものはメニューに載っていないのであった。
ちょっと悲しくなりながら生ビールを注文。せめてソースカツ丼風味を堪能しようと、串カツも注文。だんなの注文したチキンカツは定食メニューとして、御飯と味噌汁とサラダがついてくる。串カツは一品料理なのだった。
「串カツって、メインディッシュにできないの?」
と聞くと、
「1オーダーで2つしかないから、ちょっと足りないかもしれないよ。おかずとして食べるなら2オーダーにして御飯と味噌汁つけたらどうだろう?」
と店員さんに返された。うむ、串カツ2オーダー、4本行ってみよう。

千切りキャベツ少々にサニーレタスが添えられ、上に大きな串カツが4本、ごろりごろりとやってきた。カラシとレモン、そして小皿にたっぷりのとんかつソースがついてくる。4本のでかい串は、さすがにボリュームがあった。
だんなのチキンカツと交換しつつ、一口大のが肉・玉ねぎ・肉・玉ねぎ・肉と串に刺さったカツをぽいぽい食べていく。サクッと揚がった衣に、カツへの郷愁はだいぶ癒された。何よりもとんかつソースの味に癒されていたかもしれない私。

店は、驚くほどアメリカ人でいっぱいだった。器用に箸を使いながら、みなさん寿司や餃子を食べていらっしゃる。隣のテーブルの女性4人組は、枝豆をつまみながら水を飲み、おしゃべりに興じていた。枝豆に、水。激しく違和感だ。