食欲魔人日記 03年02月 第4週
2/24 (月)
初めての豆乳鍋 (夕御飯)
だんな特製 刻み玉ねぎとチーズ入りホットドッグ
カフェオレ

週の始めの月曜日、のっけから寝坊してぼへぼへと起きると、だんながちょうど朝食の準備をし始めたところだった。
「おゆきさんも、ホットドッグ食べますか〜?何個食べますか〜?」
などと言いながら玉ねぎをダカダカダカと刻んでいる。今日は玉ねぎ入りホットドッグらしかった。

食べる、食べるよ、1個でいいよと言って週に2回の洗濯の準備などしていると、とろんととろけたチーズがかかったホットドッグがテーブルに出てきた。今日のホットドッグは玉ねぎ&チーズがテーマだったようだ。
粗みじんにされた玉ねぎはオーブンでほんのり火が通って、辛くて甘くていい感じ。これでもかとケチャップを絞って食べる。ハンバーガーにケチャップ、ホットドッグにケチャップ、フライドポテトにもケチャップ、とアメリカ人が好きそうな料理にはケチャップが欠かせない。ミートソーススパゲティやピザまでもケチャップの風味が漂ってしまうのがアメリカンフードの恐ろしさだ。
「ホントにみんな、ケチャップ大好きだよねぇ〜」
とか言いながら絞っている我が家のケチャップは1.3kg入りの特大ボトル。全然アメリカ人を笑えない。

豆乳鍋
 (鶏肉・ほうれん草・人参・長ねぎ・椎茸・油揚げ・豆腐)
羽釜御飯
うどん
ビール(Coors)
冷茶

ここ数日はほんのり寒い。もう2月も終わりだし、鍋シーズンも終盤戦ということで今日は初めての"豆乳鍋"に挑戦してみた。日本の豆腐や豆乳より美味しいかどうかはともかくとして、ヘルシーフードとして豆乳や豆腐はアメリカで人気があるらしく、各種商品が売られている。しかも安い。オーガニックスーパーで豆乳を買ってきて、「で、"豆乳鍋"ってどうやって食べるのよ〜?」と調べつつ作ってみた。

まずは、試行錯誤しつつ"引きあげ湯葉"から。鍋に豆乳を満たして熱し、沸騰して泡が出まくる前に弱火に落とし、表面に膜が張るのをじっと待つ。「表面を冷やせば早く膜になるらしいから」と、うちわで表面をぱたぱたあおいでみたりして、なんとか湯葉らしき薄い膜が表面にできた。買ってくる生湯葉のようなちゃんとしたものではなく、膜のような泡のようなといった感じのやけに儚い外見の膜だったけど、味はちゃんと湯葉。わさび醤油をつけつつ食べてみた。

そして具を入れて本腰入れて食べ始める。煮詰まった豆乳はだし汁で伸ばしつつ、用意したのは鶏肉とほうれん草(本当はもっとクセのない水菜あたりが良いらしい……)、人参、長ねぎ、椎茸、油揚げ、豆腐。材料をぽんぽん放り込んで火が通ったらポン酢か胡麻だれをつけて食べる。薬味は刻み葱と胡麻を用意してみた。鶏肉やほうれん草は特に大豆臭くなるということはなく、味は"まろやかめな寄せ鍋"という感じ。そのうち上のほうにおぼろ豆腐ともアクともつかない白くふわふわしたものが出現し始めたけれど、
「これ、美味しいかも……」
と食べてみていただんなは
「……う、ほんのりアク風味……」
とほんのり悲しそうな顔をしていた。豆乳鍋、なかなか難しい。

最後は御飯を入れて卵を落として雑炊にするのが一般的らしい。が、息子の「おうどん、食べたいなー」のリクエストによりうどんを投入してしまった私たちは、白い御飯をかっこみつつうどんも食べるという展開になった。胡麻だれを垂らしても、軽くポン酢をふりかけてもそれぞれなかなか旨い。
山のように湯葉が食べたいなぁという野望はあまり叶えられなかったけど、面白かったし旨かった。実は豆乳を買ったのもこれが初めて。

2/25 (火)
寒い日の夜は豚汁
チーズトースト
牛乳

朝8時半過ぎ、まだぼけぼけしている時に電話がかかってきた。
電話の主はIさん。昨夜留学生仲間3人でメンフィスまでバスケットボール観戦に行っていたのだけど、今朝になって帰路につく途中、車がスリップして中央分離帯かどこかに転落してしまったのだとか。
「いや、転落と言っても誰も怪我してないし、ただ車を持ち上げなきゃいけないだけだから〜……あ、でも今日の授業に間に合わなくなっちゃったから先生にそう言っておいて……」
だそうで。
スリップ?なんで?と外を見ると、昨夜のうちに雪が降っていたらしく、あたり一面真っ白だった。あいやー、どうりでなんか寒いと思ったよ。

雪のこともあっていつもより早く出ていっただんなを見送り、私と息子で遅めの朝御飯。
ホットドッグ用のパンが余っていたのでエメンタールチーズをスライスして挟んでオーブンへ。表面がうっすらカビはじめてしまったチーズを「カビはえるまでほっといてすまん、チーズ」と思いつつカビのところは削って喰ってしまうことに。チーズは白カビやら青カビやらついているものが多いけれど、喰えるカビと喰えないカビはどこがどう違うというのだろう。カビはえエメンタールチーズも放っておけばカマンベールに……(なりません)。

自家製チーズケーキ(中身のみ)
紅茶

昼はさらさらっとヨーグルトか何かでごまかそうかな……と思っていたところ、息子が
「ちーずけーきが、あるんじゃなーい?」
とか言いながら冷蔵庫からチーズケーキを出してきた。先週末に私が焼いたチーズケーキだ。チーズを1.3kgも使って作ったチーズケーキの具(フィリング)は、高さ2インチ直径9インチの型に合うような分量らしかった。が、入手できた型は直径は9インチだけど高さが1.5インチほどのもの。まぁ1.5cm程度の高さの差はなんとかなるでしょう、と思いつつ作ってみたらなんともならなかった。ごく少量残ってしまったチーズケーキの具を前に途方に暮れ、結局小さな耐熱皿にグラハムクラッカーの土台は抜きにして流し入れ、巨大ケーキと一緒に焼いておいてみたのだった。砕いたクラッカーの台がないと、なんとなくケーキのようなケーキじゃないような微妙な食物になる。

「そうだよねぇ、これがまだ残ってたんだった」
と言いつつ、息子と二人でつつきまわす。チーズケーキってものは作りたてより2〜3日経った方が、どうも美味しい感じ。でもそろそろ食べきらなきゃこっちにもカビがはえてきてしまいそうだ。

まぐろの刺身
骨付き豚肉の塩胡椒焼き
冷や奴
わかさぎの佃煮
焼き海苔
豚汁
羽釜御飯
ビール(Abita Turbo Dog)
冷茶

今朝電話があった"車スリップ転落組3人"は、無事に昼過ぎに大学に帰ってきたらしい。AAAに連絡したものの、雪の朝ということで「そっちに行くまでには5時間くらいかかるわねぇ」と言われていて途方に暮れていたところ、たまたま自分たちのそばをクレーン車が通りかかってくれて75ドルでひっぱりあげてくれたのだとか。で、思いの外早く帰ってくることはできたものの、皆して落ち込んでいたのだとか。
「だからさ、豚汁でもふるまってあげようよ。なんかかわいそうだし」
と、観戦に誘われたけど"平日にメンフィス往復はいやん"と断っていただんなが昼過ぎに連絡してきた。

本日のメインディッシュ(メインディッシュ?)は豚汁に決定。じゃあ秘蔵のあきたこまちを炊こうね、と日本から母が送ってくれたあきたこまち(超秘蔵品)を炊くことに。あとは、まぐろの刺身と冷や奴、冷蔵庫の残り物処分キャンペーンということで豚肉のかたまり肉の塩胡椒焼き。他にも御飯に似合うような小さなおかずを並べ、"とにかく豚汁と御飯がメインだから"という感じの食卓にした。

鍋を持ってやってきたMさんに豚汁をお裾分けした後、我が家は我が家で夕御飯。あきたこまちは、さすがに大食らい2人組にはあげることはできないのだった。なにしろ秘蔵だから。
豚バラ肉をスライスしてたっぷりのごぼうと大根とにんじんと共に煮込んだ豚汁は、しっかりと懐かしき日本の味だ。しっとりもちもちとした炊きたてのあきたこまちは、やっぱりサイコーに美味しかった。アメリカの米のあれが旨いこれが旨いとあれこれ買ってみても、正直なところ日本のお米が一番美味しい。

「はぁ〜、豚汁、旨いよ」
「御飯もおいしいよ〜」
「もうね、豚汁だけで豚汁が食べられるというか」
「御飯をおかずに御飯を食べられるというか」
と、ちょっと豪華なおかずもそっちのけにして"佃煮→御飯→豚汁→焼き海苔と御飯→豚汁"というローテーションに陥ってしまう。3合炊いた御飯は、おにぎり2個分を残して綺麗に消え去ってしまったのだった。
美味しすぎる御飯というのも、それはそれでマズイかもしれない。

2/26 (水)
Koreana(Nashville)にて、ユッケビビンバ (昼御飯)
おにぎり
2日目の豚汁

昨夜の豚汁は、ダッチオーブンに口切りいっぱいに作ったはずだった。半量ほどは"車スリップ組"にお見舞いとしてお裾分けし、残り半量を家族ではふはふと啜ったところ、今朝になって残っているのはたったの1.5人分ほど。
「……2人分もないじゃん」
「……うすめるか」
「……水分、少ないしね」
と、今朝になって水少々を足して飲むという有様に。

それでも、2日目の豚汁はごっつぅ旨かった。肉の脂がほどよくこなれて、大根が茶色に染まった翌朝の豚汁がやっぱり一番美味しい。薄切りにした長ねぎをぶわっと散らして飲むのが定番だ。あと、胡麻油を数滴垂らしてみたり、七味唐辛子をふってみたりもする。
昨夜炊いたあきたこまちの残りをおにぎりにしておいたので、それを囓りながら豚汁。

後になって聞いたところ、ダッチオーブン半杯分の豚汁は、独身男2人組によってただちに消失したのだそうだ。

Nashville 「Koreana」にて
 ユッケビビンバ

授業が終わっただんなから
「カルビタンでも食べに行く?」
と誘われた。だったらいつも同じところばかり行かないでたまには別の場所をと、馴染みの「Cafe Korea」ではなく、本日は「Koreana」へ。我が家からだとダウンタウンを挟んで反対側に位置する、ちょっとばかり遠いところにその店はある。渡米数ヶ月後に一度焼肉を食べに来たお店だけれど、久しぶりに行ってみることに。

アメリカではありがちな、焼肉屋と寿司バーが一緒になっている怪しい店だ。最初は「なんで寿司屋と和食屋と焼肉屋が全て同じ店に……?」と不審感に満ち満ちていた私だったが、あまりにこういう店だらけなので最近はその違和感も薄れつつある。でも、焼肉の匂いする店で寿司カウンターがあるのはいかがなものか。焼き餃子と天ぷらと鍋焼きうどんとユッケと牛タンとカルビクッパが1つのメニューに並んでいるのもいかがなものか。

やっぱりヘンな感じよね、と言いつつメニューを眺め、魚介ビビンバだの石焼きビビンバだのと数種類あるビビンバメニューの中からユッケビビンバを。注文が済むとテーブルにはキムチ3種にほうれん草のナムル、茹でアスパラのコチュジャンがけの5つの小皿が並べられた。つついているうちに、洗面器大の巨大なボウルに入ったユッケビビンバが。ワカメとレタス、椎茸といったちょっと変わった材料も使われた数種類のナムルの上に生の牛肉が松の実に和えられてこんもりと盛られている。中央には生卵の黄身。この器にはこれらの具だけが盛られ、別のステンレス碗にご飯だけが詰められてやってきた。そしてもう1つの茶碗には、なぜか味噌汁。

黄身を崩しつつ、小皿に盛られてきたコチュジャンも加えつつ、わっしわっしとご飯と共に全体を混ぜこんでいく。肉はあまり細かくなく、細切りという感じ。だんなが注文したカルビタンと交換しながら、巨大容器入りビビンバをせっせと食べた。

こちらも巨大な器に入ったカルビタン、具沢山で豪華だけれど、味はいつも行く「Cafe Korea」の方が旨いねぇという結論に。ビビンバの味も悪くはないのだけれど、この店は微妙に値段が高いのだった。ビビンバとカルビタンと、息子用にとってあげた焼き餃子とドリンク3つで35ドルくらい。
「カフェコリアだったら25ドルくらいだもんねぇ……」
とついつい比べてしまいながら店を後にしたのだった。

「Copper Kettle」のトンカツ
雲白肉
豚スープ
羽釜ご飯
ビール(Abita Amber)

自家製チーズケーキ
カフェオレ

昼食後、家族でだんなの研究室にふらりと立ち寄ったところ、留学生仲間のIさんが
「これ、おすそわけ」
とドギーバッグを差し出してきた。中身は南部料理屋さんの、"本日のメインディッシュ"。
「トンカツなんだよ、これ。もうね、完璧にトンカツそのものなんだよ」
と渡されたそれは、確かにトンカツだった。ハーブ入りのパン粉で豚肉を揚げ、本来はドミグラスソースっぽいソースがかけられるものらしい。
「でもね、"ソースいらないから!いらないの!"って言って、塩ふって食べた〜。トンカツだったよ」
だそうである。幸せそうだ。で、ありがとう、貰っておくけど……なんでこれ、くれるの?とだんなが尋ねたところ、「これ、再現して喰わせてくれ」とのことだ。自炊しない(できない?)近所の独身2人組のために、麻婆豆腐だの焼きそばだのを作りに"出張料理人"として最近パタパタしているだんなに、新たなリクエストを、ということらしい。

かくして夕御飯のメインディッシュはトンカツもどき。日本人らしく、温めたトンカツにはとんかつソースをかけて食べる。更に豚バラ肉処分キャンペーンということで雲白肉も作成。塊肉を茹でてから薄く薄くスライスして盛りつけ、にんにくと葱がたっぷり入った豆板醤とラー油の辛さが効いたピリ辛のタレをかけて食べる。豚を茹でたゆで汁でスープも作り、ご飯を炊き、そして食卓の上は豚肉だらけ。

トンカツは、確かにトンカツだった。パン粉の具合もほんのり懐かしさが漂ってくる。ほのかにハーブの香りがしないでもないけど、ソースをつけて噛みしめた柔らかい肉はトンカツとして上等の部類に入るものだった。白いご飯と一緒にかっこめば、まさにトンカツだ。

明日から、4泊5日のアトランタ旅行。冷蔵庫内の肉類はなんとか処理しきったけれど、
「あいやー、ケーキが残っているよ」
「ヨーグルトもあるじゃん」
「牛乳は飲み干せるかなぁ」
と、食後もバタバタとケーキ切ってみたりコーヒーいれてみたりで一向に落ち着かない。しかも、このタイミングで仕事が2方向からどばばっと来たりして……(ああ、日付が変わるー、終わらないー)。

2/27 (木)
Big River(Chattanooga)にて、地ビールサンプラー (夕御飯)
だんな特製 ホットドッグ
アイスカフェオレ

今日は朝からランドリー通い。パジャマだのなんだのを洗濯して旅行に持っていくために、息子もたたき起こして洗濯機を回しまくる。
朝御飯はだんながホットドッグを作ってくれた。
「何詰めようかなー……いや、ソーセージは詰めるんだけどね……」
などと台所方面からごにょごにょと独り言が聞こえてくる。そのうち
「キャベツはめんどいから玉ねぎでいーやー……」
と結論が出されたもよう。

刻み玉ねぎを詰め、炒めたソーセージを挟み、チーズを乗せてオーブンで焼いたホットドッグが本日の仕様。私的には"カレー風味バター炒めキャベツ挟み"が至高ではあるのだけど、玉ねぎ詰めもなかなか旨い。チーズを抜いて刻みピクルスを詰めたのも美味しいと思う。どんなものを作るにしても、最後にはケチャップをにょろにょろにょ〜とたっぷりかけるので最終的には同じような味になっちゃったりするのだけど、そこは気にしない。

スーパーの握り寿司
 まぐろ・鮭・海老
 カリフォルニアロール
 クランキーシュリンプロール
抹茶入り玄米茶

大学は来週1週間、春期休暇。休暇が終わったら中間試験が待っているらしい。それでもこの休暇にあちこち出かける人は多いらしく、今日は先生が「休みはどこに行くの?僕はね、日本に行くんだよ〜」などと皆に言っていたのだそうだ。だんなは金曜日には授業がないので今日の授業が終われば休みに入る。

午前中で授業が終わった彼は、すっとんで帰ってきた。用意が良いことに
「これつまんでから出かけましょ〜」
と、手にはスーパーマーケット"Harris Teeter"で買ってきたと思われる握り寿司を持って。私は私で洗濯も終え、荷物の準備も万端だ。

日本のスーパーで買うより格段に貧相な内容の寿司が1パック7ドルほどもしてしまうのだから、こればかりは少し切なくなってしまう。ご飯も激しく違う感じ。かろうじて寿司飯の味にはなっているけれど、醤油をつけるとポロポロと1粒ずつが離れて崩れていく。アボガドが入った巻物には相変わらず今ひとつ慣れないけれど、海老天巻き(とは名ばかりの海老と天かすが巻かれているもの)はけっこういける。適度な油っけが良い感じで、"天むす"を思い出してしまったり。

さささっと昼食を済ませた後は、小雨降る中I-24を東に東にと130マイルほど。途中Lodge社のアウトレットショップなどに寄り道しつつ、テネシー州内のチャタヌーガ(Chattanooga)という町に今日は宿泊。1泊39ドルのモーテルにチェックインして、しばしだらだら。

Chattanooga 「Big River Grill」にて
 Filet Medallions w/Soup $22.49
 Top Sirloin w/Soup $17.49
 Caesar Salad $2.99
 Kid's Cheese Pizza $3.95
 Sampler 2×$4.50
 Ginger Ale $1.99
……を、一家で

チャタヌーガに宿泊したのは、この町にある、とあるレストラン目当て。以前、留学生仲間が連れだってラフティングをしにこの町に来た時、同行した大学のスタッフが連れていってくれた店がめちゃめちゃ美味しかったそうなのである。その時子供がいる女性陣は留守番部隊だったため、
「スープがなかなか美味しくて」
「何しろラムのグリルが美味しくて」
なんて話を「ずるいずるいずるい、いいなぁ〜」と聞いていたのだった。今回アトランタに行くことになり、だったら宿泊費が高いアトランタで4泊するより手前のこの町で1泊してしまうついでにあのレストランにも行こうじゃないか!ということに。

……が、目的の「Riverboat Barge & Grill」は、水没していた。
川沿いにあるというこのレストラン、「川に浮かんでいるんだよ」と聞いてはいたけど、岸から突き出すようにテラスでも出ている店なのかと思っていた。が、実際は川岸近くに浮いている大きなボートそのものが店であり調理場であり、客は桟橋を通って店に入るようになっていて、その桟橋はここ数日続きまくっている雨で水位が上昇していて水没。客席に人気はなく、受付カウンターらしきところに人影は見えたものの営業している様子ではなかった。そもそも店に近づけない。

「あじゃー」
「せっかく来たのにー」
「ここが目当てでチャタヌーガに宿泊したのにー」
と多大なショックを受けつつ、夕飯は地ビール屋さんの「Big River」に。この町には昨年の夏に留学生仲間たちと遊びに来たことがあるのだけど、その時に昼御飯を食べた店だった。料理もそこそこ美味しかったし、あのときは飲まなかったけれど地ビール屋であったことが気になっていた店だ。
「はぁ〜い、ようこそ。この店は初めて?違うの?ビールだったらサンプラーがあるわよ。オススメよ」
と店員さんに言われ、そりゃいいや、と私もだんなもサンプラーを注文。メニューはピザやパスタの他はハンバーガーやステーキなどのいかにもなアメリカ飯。ここぞとばかりに(←やけ食い)ステーキを食べることにする。私はフィレメダリオン(ひれ肉ステーキ)、だんなはサーロインステーキ。それぞれスープをつけてもらい、サラダも1つ追加注文。

そしてやってきたのは、かなりのボリュームの地ビールサンプラーだった。1つのグラスには4oz(120cc弱)ほどが入っているだろうか。色の薄い順からSouthern Flyer Light Lager ・ Imperial 375 Pale Ale ・ Vienna Lager ・ House Brand I.P.A. ・ Irish Red Ale ・ "Award Winning" Sweet Magnolia American Brown Ale ・ "Award Winning" Iron Horse Stout と、7種類。真っ黒なものから薄い薄い琥珀色のものまで、見た目も鮮やかだ。しかし……5種類程度かと思ったら7種類。しかも量はけっこう多い。1杯がたっぷり3口分ほどはある。

大きなジョッキに入ったビールならそれほど酔わない感があるけど、少しずつ他種類がやってきたサンプラーは危険だった。1杯1杯飲み干すうちに、おそろしく酔いがまわってくる。しかも、飲む順番は"薄い色から濃い色へ"が原則だそうで、味も濃くなれば心なしかアルコール分も強くなってきているような気がしなくもない。Light Lagerはバドワイザーよりも薄く感じるほどの軽い軽いビールだったけれど、I.P.A.、Red Aleと確実に風味が強くなっていく。私の好みは「Vienna Lager」と「Irish Red Ale」。こってりした強すぎる苦みもなく軽くもなく、程良い味の色も綺麗なビールだった。

そして目の前には巨大な巨大なステーキ皿。直径40cmほどの更に、どっかりとマッシュルームと炒めたスナップえんどうが盛られ、その手前にはこれでもかと大量のマッシュドポテト。皿と野菜が大層なボリュームなので、肉が小さく見えてしまうけれど、その肉だって300gはありそうだ。だんなの皿にはスナップえんどうと肉、そして握りこぶしよりも巨大なじゃがいもが1個、ごろりと横たわっていた。旨そうだけど、このとき既にかなり酔っぱらっていた私たち。サンプラーは酔っぱらう。かなり回る。頭の中がぐらんぐらんになりながら食べた肉は、それでもしっかり旨かった。ローストガーリック風味のドミグラスソースがかかっている。でも、肉を平らげた頃にはその味も忘れてしまいそうなほど酔っぱらっていた私。とほほほほ。

期せずして存分に"やけ酒"が満喫できてしまい、よろよろとホテルに帰還。明日はいよいよアトランタ。

2/28 (金)
Hong Kong Harbour Restaurant(Atlanta)にて、飲茶色々 (昼御飯)
この日の詳細は、旅行記にもより詳しくございます
Chattanooga 「Day's Inn」にてモーテル朝飯
 バタートースト 2枚
 牛乳・オレンジジュース

モーテルの朝。昨夜宿泊した「Day's Inn」は朝食がついているということで、8時に起きてフロント横のカフェコーナーに向かってみた。並んでいるのは、パンとシリアルとジュースとコーヒーという、いかにもな光景。パン類は食パンとマフィンとビスケットとペストリーが2種類ほど用意されていて、電子レンジとトースターもある。今ひとつ食指が動かなかったけれど、
「ありがちな光景だけど……」
「まぁ、食べますか〜」
と、食パンをトーストしてもそもそと食べる。

ここからアトランタまでは100マイルちょっと。9時過ぎに出発していざいざと南下する。

Atlanta 「Hong Kong Harbour Restaurant」にて
 春巻
 蝦餃 ×2
 蟹肉焼賣
 豆鼓排骨
 咸水角
 蘿蔔餅
 叉焼飽
 カスタード饅
 馬拉[米羔]
 咸魚炒飯
 中国茶
を、家族で食べて$31.43

昼前に到着したアトランタは、これでもかというほど暖かい。テネシーとさほど離れていないはずなのに、カラッと晴れ上がって気温は13℃はありそうな感じ。ここ数日じめじめと雨ばかり降って気温も低かった我が町とは全く違う空気だった。

11時すぎに町に入ったけれど、朝食が軽めだった私たちはすっかり空腹が極まってしまっていて
「町に入る前にさ……どっかでお昼ご飯を食べない?」
「あー……出発前にチェックした飲茶屋さんが途中にあったねぇ」
「飲茶、いいねぇ〜」
と、アトランタに到着早々飲茶に行くということに。我が町には、中華料理店はあるけれど飲茶ができるところはない。この町には数軒ほど飲茶がウリの中華料理店があって、すごく気になっていたのだった。目指してみたのはHong Kong Harbour Restaurantというお店。

11時半の開店直後に店に入り、メニューとは別紙の飲茶のオーダーシートに欲しいものの個数を書いておばちゃんに渡す。最初
「これはフライドダンプリングでね……」
と英語で説明しようとしていた中国人のおばちゃんだったけど、
「フライドダンプリングって……"ハムスイコッ"(咸水角)のこと?」
と聞いてみた途端に品名を全部中国語で言うようになった。
「これ、パイクー、こっち、マーライコー、チャーシューパオ」
などと言ってくれて、「ああ、飲茶だよ」「飲茶メニューだよ、久しぶり」と妙に嬉しくなってしまう私たち。

調子に乗って点心をこれでもかと、更に咸魚炒飯(←咸魚(ハムユイ)という魚の塩漬け入りの炒飯)も注文し、ほどなくテーブルは食べ物で溢れかえってしまった。魚の塩気がガツンと効いた炒飯には鶏肉もたっぷり入り、パラッとしていて良い感じ。海老蒸し餃子はちょっと蒸しすぎな感じで皮が蒸籠にぴったりくっついてしまっていたり、饅頭系の皮が妙に酒臭かったりもしたけれど、充分美味しく食べられる味のものばかりだった。特に豆鼓蒸しの骨つき豚肉が、なんとも懐かしさを感じる味。テラテラとした甘辛いタレで蒸されたモチモチした食感の肉がサイコーだった。1つ1つの点心が微妙に巨大で、子供の握り拳ほどの大きさがある揚げ餅餃子(咸水角)は3つ全部は食べきれず、饅頭系も食べきれず、結局ドギーバッグをもらって包んでホテルに持っていくことになった。

アトランタ来ていきなり飲茶というのも何だか妙だけど、実のところ、ものすごく癒されてしまった私たち。

Atlanta 「Pittypat's Porch」にて
 Rhett's Chicken Breast $19.95
 Beef Tenderloin $22.95
 Scarletts Passion $8.50
 Beer (Michelob) $3.95
 Iced Tea $2.00
 Coke $2.00
 Caffe $2.00
で、20%サービスチャージ込みで計$80.46(高っ)

午後、宿泊ホテルに車を止めた後はさっそくアトランタ見物。この地にはコカコーラの本社があるということで"コカコーラ博物館(World of Coca-Cola)"に行ってみたり、かつての鉄道高架下がショッピングエリアになっている"Underground Atlanta"を歩いたり。オリンピック記念公園まで行ってホテルに戻った頃にはすっかり疲れ果てていた。昨夜いまひとつ眠れなかった私は昼寝に突入してしまい、目覚めたら午後7時。夕飯は、地下鉄に乗って「Pittypat's Porch」なる店に行ってみることにした。日本のガイドブックにもアメリカのガイドブックにも紹介されている"アトランタと言ったらここ"的な店であるらしい。いかにもな南部料理の店ということで、気になって行ってみたのだった。店名は"風と共に去りぬ"の登場人物からきているらしい。

平日の夜8時前という時間、店はなかなかの混雑で、団体客が食事を終えたばかりなのか店の前にたむろしていた。1階はウェイティングバーで、地階がレストラン。何かのお祝いなのか、大人数のグループが時折拍手などしながら中央のテーブルでわいわいと食事している。壁にはかまどを模した窪みがあり、鉄の鍋や釜などの古めかしい調理器具などが飾られている。更に"風と共に去りぬ"のポスターなども。

並ぶメニューは南部風フライドチキンや牛肉、豚肉のグリルなど。メインディッシュを注文すると、サラダバーのサラダやパンがついてくる。前菜はとても食べられそうになかったので、メインディッシュだけを注文した。私は"Rhett's Chicken Breast"という鶏肉料理、だんなはご飯の上に牛肉のグリルと野菜炒めを乗せたものらしい"Beef Tenderloin 〜(以下失念)"とかいう料理。食前酒に、ちょっと変わった名前のカクテルが並ぶ中、その名も"スカーレットの情熱"という凄い名前のものを頼んでみた。中身はフローズンストロベリーダイキリで、くびれのある背の高いグラスにたっぷりとそれを満たされてやってきた。シャリシャリと口当たりは良いけれど、アルコールはかなり強めに入っている。
「スカーレットの情熱はイチゴ味らしいよ」
などと言いながらずびずびずーとダイキリを啜り、サラダバーからサラダをたっぷり盛りつけてきて食べる。さつまいも(ヤム)のサラダに、魚介のサラダ、マカロニと鶏肉をグレービーソースベースのソースで和えたもの、米と豆のサラダに各種フルーツ。サラダも南部料理の匂いが漂ってくるものばかりだ。甘さがちょっと強めでハーブや干し葡萄が多めに入っているものが多い。

そして、巨大な鶏肉が2枚、皿に盛られてやってきた。皿の底にはワイルドライスが敷かれ、上に野菜の炒め煮と共に鶏肉が盛られている。カレーベースのほの甘いソースが絡まっていて、上からはローストアーモンドがたっぷりと。
話には聞いたことがあったけれど、"ワイルドライス"を食べるのは初めてだった。ライスと名がついてはいるけれど、実際は穀物ではなく水生植物の種なのだとか。プチプチモチモチした食感だけれど、穀物と期待して食べると"な、なんか違う……"という感じ。
「あれだね、"とんぶり"みたいだよね」
「ああー、ちょっと似てるかも」
と言いつつ、黒々としたそれを食べてみたけど、なかなか難しい味わいだった。面白いけど、しょっちゅう食べたいものじゃない、というか。

優しい味のカレーソースの肉も、野菜も、コーンブレッドやビスケット、マフィンなどが山盛りやってきたパンもなかなか美味しかった。美味しかったけれど、伝票を見てびっくり。
料理の合計は63ドル。それだけでも「うへぇ」と思ってしまったほど高いのに、"20% Service Charge"なるものがしっかり加算されて、税金等々合わせると合計は80ドル。20%もサービス料取られるほどのサービスは受けていないような気がするし、大体料理のボリュームとか内容を考えると40ドルくらいが妥当な値段のような気がするというか。
「美味しかったけど、高い〜」
「観光客向けの店なのかなぁ」
「けっこう地元の人も来ているみたいだけどね」
「ここは"もういいや……"って感じだね」
と、少しだけしおしおした気分でホテルに帰ったのだった。