食欲魔人日記 03年04月 第5週
4/28 (月)
Copper Kettle(Nashville)にて、南部風フライドチキン (昼御飯)
自家製"ミルクリッチブレッド"
牛乳

朝7時半過ぎ、だんなは
「テスト受けてきまーす」
と大学に出かけていった。昨夜作ったときには「朝早く行って研究室で食べるよ」と言っていた、私が作ったおにぎりは、朝起きて十数分後に腹が減ったと綺麗に平らげて行ってしまった。このテストが終わったら、とりあえずアメリカでの"勉強"は終わり。このあと5月下旬に開催される会議開催の手伝いをしたら、あとは帰国だ。いよいよ帰国感が高まってくる。

そろそろ食料処理も本腰を入れて始めなければということで、まずは強力粉の消費目的でパンを焼いてみた。昨夜のうちにパン焼き機に放り込んだ材料は、強力粉にドライイーストに水に牛乳、マーガリンに塩にたっぷりのコンデンスミルク。パン焼き機付属のレシピブックによると、それで"ミルクリッチパン"ができる……ということだったけれど、焼き上がったのはなんてことない普通のパンだった。しかも焼き上がってからそのまま数時間パン焼き機に突っ込んだまま放置してしまったものだから、保温モードのせいでちょっとばかり香ばしすぎるできあがりに。

まだほこほこと温かいパンを厚くスライスし、バターを軽くつけながら息子と食べる。焼きたてのパンは粉の香りがぷんぷん漂ってきて、格別な味わい。今日も危うく半斤くらい一気食いしてしまいそうな欲求に駆られつつも厚切り1枚で朝食を終わらせた。

Nashville 「Copper Kettle」にて
 Southern Fried Chicken
 w/Cream Corn
 w/Salad of Penne
 w/Fruits Cocktail

予定では夕方まで帰ってこないはずだっただんなが、
「テスト終わった打ち上げにカッパーケトル行くけど一緒に行くかーい?」
と連絡してきた。行きます行きます喜んで、と家まで迎えに来て貰い、留学生仲間のIさんと共にMeat&3屋さんCopper Kettleに。ここのところ、水曜日の"トンカツ(Fried Pork Chop)デー"にしか行っていなかったので、普通の日に行くのは久しぶりだ。今日のおかずは南部風フライドチキンとプルドポーク(ほぐした豚肉)だ。カウンターで、

「私はチキンで、あと、ペンネのサラダとコーンと、フルーツと〜」
と伝えて巨大な皿にこんもりと盛りつけてもらう。店のおばちゃんは、ペンネサラダをどっかどっかと大量に盛りつけてくれちゃって、最後に頼んだフルーツは皿に乗りきらず別皿になってしまった。私はチキン、だんなはポーク。適当に分けて食べよう、と席につく。

"南部風フライドチキン"は、日本でもお馴染みのケンタッキーフライドチキンに似たようなもの(ケンタッキー州もアメリカ南部の地域だし)。カリッとしたしっかりめの固い衣にしっかりとした塩気とほのかなスパイス臭が漂い、肉にも塩気が適度に染みこんでいるというタイプのものが多い。なんでも下味をつける時に牛乳やバターミルクに浸して臭みを取るのが基本なのだとか。南部料理を出す店ならば大抵置いてあるフライドチキンだけれど、ところによってはやたらとブロイラー臭い脂っこすぎる肉が出てきてしまったりする。この店のフライドチキンはブロイラー臭さのない、ふくふくした美味しい鶏肉だ。たまらなく美味しい。しかし、巨大だ。

1人2切れがフライドチキンの基本量らしいのだけど、私の皿には大きな胸肉と手羽が盛られていた。手羽はともかく、胸肉はそれ1つで腹一杯になりそうなボリュームだ。しかも山盛りのペンネ。コーンにフルーツにパンに……と、十数分でこの皿を平らげることに敗北を決意した。
「だんなー……1切れ食べる?」
と手羽の部分を食べてもらい、それでようよう完食。この店、とっても美味しいんだけど、いかんせん量が多い……。

だんな特製アーリオ・オーリオ・スパゲッティ
湯引きレタスのピリ辛だれ
ビール(Longboard Lager)

「Pepper Patch」のTipsy Cake
カフェオレ

ボリュームたっぷりな昼御飯を食べてしまったので、夜は軽く軽くアーリオオーリオスパゲッティと、数日前に買ったまま食べていなかったレタス消費にと、湯引きしてピリ辛だれで食べることに。肉っけのないさっぱりさっぱり夕飯になった。だんながパスタを茹で、にんにくを炒めてくれている間に私はレタスの準備。レタスの芯を軽くくりぬき、それを丸ごと沸騰した湯にどぼんと漬け、ぐだぐだになってしまわないうちに引き上げる。柔らかくなったレタスは案外と大量に食べられるもので、これをどかんと皿に盛りつけたら豆板醤と醤油を基本に適当に合わせた調味料を垂らしつつ、つつく。そして、パセリをたっぷりと混ぜ込んで風味づけされたスパゲッティ。かなり簡単な夕飯な割にはそれでも満腹になってしまった。

そして、デザートにはテネシー名物(ナッシュビル名物と言ってもいいのかな?)のTipsy Cake。数日前に、テネシー発祥のチェーンレストランCracker Barrelで買ってきた。Pepper Patchというメーカーから出ているそれ、本社は我が町近郊の町Franklinにあるらしい。"Tipsy Cake"、"Tipsy Fudge Cage"の2種類があり、後者はチョコレート味だ。

酔っぱらい・千鳥足の、といった意味を持つ"Tipsy"なケーキというわけで、これはテネシー名物ジャック・ダニエルの風味がたっぷりと漂う大人な味のケーキ。なんでも1ポンドのケーキに1/2カップほどのジャック・ダニエルが入っているらしい。赤い缶を開けた途端に、もわんと洋酒臭さが漂ってくる。
メーカーのホームページによると、1984年にナッシュビルで開かれた全米知事会議に出席した人々への贈り物に何か良いものはないかと、テネシー州知事夫人がこの店のオーナーにこの町独自のユニークなお菓子の贈り物はないものかと依頼したのが始まりらしい。その会議で皆にふるまわれた後、この"Tipsy Cake"はニューヨークで開かれたSpecialty Food Trade Showで特別賞を受賞したということだ。バターと新鮮な卵、砕いたピーカンナッツにレーズンを使って黄金色に焼き上げ、焼き上がったケーキをPremium Jack Daniel's Tennessee Whiskeyに浸してできあがり!……だそうだ。

「……20年近く前からあるケーキなんだねぇ」
などと言いつつ、そのしっとりどっしりしたケーキを一口大に切っていく。洋酒臭ぷんぷんに漂うナッツ・レーズン入りパウンドケーキなので、あまり厚切りしたやつをがぶりと食べるという感じではなさそう。小さめの一口大に切ったやつをコーヒー紅茶と一緒にちびちび食べるのが似合いそうだ。
思ったよりはツンとくるウィスキーの尖った風味は感じられないケーキだった。どっしりもっちりとしていて甘さはけっこう強め。洋酒がとびきりきいたフルーツケーキがあったりするけど、それと似たような感じだ。案外とまろやかで、息子も気にせず食べている。3口ほど食べた息子を「……酔っぱらっちゃうかな?」と観察していたけど、どうやら大丈夫そうだった。

「ほら、アレだ。クリスマスケーキとしてヨーロッパあたりで作られてるケーキの仲間みたいな感じ」
「いっかにも日持ちしそうだよねぇ」
と、ちょこちょこ食べながらカフェオレを啜った。けっこう旨いかもー。

4/29 (火)
天茶♪
"ラピュタ"トースト
アイスカフェオレ

先日、TARGETで若干の安売りになっていたので英語版「天空の城ラピュタ」DVDを買ってきた。基本は英語吹き替え音声だけど、日本語音声もちゃんと入っている。英語字幕つきが選べたり、更には仏語も入っていたりとなかなか大変なことになっているDVDだった。昨日の夕方、いそいそと一家で見ている私たち。

宮崎駿アニメは、危険だ。何が危険って、出てくる食べ物がやたらと美味しそうに見えるのだ。古くは「アルプスの少女ハイジ」のチーズ乗せパン、おばあさんの白パンから、「カリオストロの城」でルパンと次元が取り合いするミートボールスパゲッティ、「となりのトトロ」に出てくるキュウリやトマト。カリオストロ伯爵が食べている半熟ゆで卵にまで「はふーん、美味しそ〜……」とか思っている私は多分に阿呆だと思う。
「……で、ラピュタはパンなわけですよ」
「ああ、洞窟の中でシータとパズーが2人で食べるパンね」
「目玉焼きとか乗ってるわけですよ」
などと言い合いながら、変な場面に妙に力を入れつつ鑑賞している私たちだった。

で、翌朝の今日。昨日焼いたミルクリッチパンがまだまだ半斤ほど残っている。厚切りにしてバターを乗せオーブンに放りこんだあと、それだけじゃ物足りないなと目玉焼きを作り始めた。背後でだんなが
「ラピュタを見たからだな、それをパンに乗せる気だな」
とニヤニヤしながら騒ぎ出す。いや、単に蛋白質が足りないなー、と思っただけで……と思いつつ、
「わかったよ。パンに乗せりゃいいんでしょ。でもそれだったらアレだよ、1個の卵を2人で半分こしなきゃいけないんだよ。あの卵はどうみても完熟だよ。黄身をカチカチに焼かなきゃだよ」
「そう、そして卵は一口で食わなければならないわけだ!」
だんなは朝食に一体ナニを求めているんだろ……と途中脱力してしまいながら、結局トーストの上に1人1個の目玉焼きを乗せるに至った。黄身は半熟。私の好みは半熟。洞窟で食べようと空から降ってきた女と半分こしようと、黄身は断固半熟であらねばならぬ。

「ただのトーストなのにねぇ」
「目玉焼き乗せただけなのにねぇ」
「ま……確かに美味しいんだけど」
「あの映画のはホントにめちゃめちゃ旨そうなんだよなぁ〜」
と、妙な盛り上がりを見せた今日の朝御飯だった。

だんな特製 ヨコイのスパゲッティ フィッシュフライ乗せ
アイスダージリンティー

今日の午後は、「この町にある自動車工場の無料見学に出かけてみよう〜」ということになっている。この町の近郊には、日産の工場と、サターンの工場の2つがある。予約して、息子も連れて行ってみることにしたのはサターンだ。

午前中、ちらりと研究室に顔を出しに行っただんなが帰ってきたのは12時過ぎ。出発は1時過ぎの予定だ。あまり時間もなく、
「ちゃちゃちゃっとスパゲティを食べよう!」
「あー、ヨコイのソースがまだあるなー」
などと言いながらじゃかじゃかと準備する。麺を茹でて水で締めてバターで炒めて皿に盛りつけて、そして湯に突っ込んで温めていたレトルトパックのソースをかける。具は、冷凍のスティックフィッシュフライをオーブンで温めて、それだけ。私は背後でダージリンティーの準備をして、氷をみっちり詰めたグラスにだばだばだ〜と熱いお茶を注いでアイスティーに。

アメリカにやってくるときに5箱ほど持ってきたヨコイのソース(1箱4人前)は、ちびちび使っていたこともあって残りは2箱。名古屋名物あんかけスパは、今日もじんわりとしたピリ辛感。懐かしい日本の味に、「そうそうこれこれ〜」と悶えながら麺を啜る。ジャンクな風情の冷凍フライが、これまた似合うんだわー。

ミニかき揚げ丼
天茶
冷や奴
ビール(Corona)

サターンの自動車工場見学は、なかなか楽しかった。1つの町が丸ごと工場、みたいな果てが見えないほどの森が続く敷地の中、だだっぴろい工場の建物がいくつも建っている。その中の1つに連れていかれ、6人乗りのカートが5つ連結した乗り物に乗って一周ぐるりと自動車ができるさまを見物してきた。おっそろしく巨大な工場だった。くまなく巡っている天井のレールにぶらさがってゆっくり動きつつ、最初は外装だけだった自動車が着々とできあがっていくのを初めて見た息子は、文字通り開いた口がふさがらない様子だった。私も面白かったけれど、息子が予想以上に喜んでいた模様。サターン、日本でも一瞬はやりまくっていた記憶があるんだけど、2001年に日本市場からは撤退したということだ。見学ツアー受付付近にあった小さな展示コーナーには日本のオーナーズクラブの人々の写真や寄せ書きが飾られていた。

ここ毎日、雷雨の予報が出ていたりするのに何なのだけど、明日は近郊の川あり湖ありの公園にピクニックに行く予定。10月上旬に行ったピクニックが余程楽しかったらしいIさんが、
「もう機会もないし、4月の下旬あたりにもう一度行こう!」
と音頭をとり、9人ほどで遊びに行くことになった。やっぱり市販のもの買っていくよりは手製のお弁当がいいわよね、と、今日は夕方からピクニック用のお弁当作成。今回は揚げ物が多くて面倒だったこともあり、今日のうちから作っておくことにした。鶏の唐揚げに揚げウィンナー、初めて作ってみた沖縄の揚げドーナツ、"さーたーあんだぎー"。あとはおにぎりとポテトサラダと、明日の朝作る予定の卵焼き。小川があるというし明日の予報は猛暑だというしで、息子の水着も持っていかなくちゃだわ。

かくして、夕方5時過ぎから台所はしっちゃかめっちゃか。どうせ色々揚げ物をするんだから夕飯も揚げものにしちゃえ、と
「天丼はどうでしょう?かき揚げ丼とか」
と私の提案。それに対して
「かき揚げ丼!じゃあ、だしとって"天茶"もやらなきゃ!」
と返したのはだんなだった。ああ、かき揚げ茶漬けは美味しいだろうねぇ、と、夕飯は天丼と天茶の両方を準備することに。

息子の誕生日祝いの時も大変だったけれど、今日もなかなか大変だった。
「ん〜、とりあえず私は弁当の仕込みするわ」
「じゃあ、僕はまず米を研いでだしを取ろう。……で、海老の下準備だな、ん」
と、狭い台所で4つのコンロを使いまくって1つ1つ片づけていく。手が空いた側がちゃちゃっと洗い物をし、揚げ物の具合を見てサポートしたり。さぁ揚げ物しましょと油の準備をしているとすかさずバットに新聞紙入れたものが
「はい、揚げたもの入れるやつ」
と差し出されたりして、今日も夫婦の呼吸はばっちりだ。

かくして今日の夕飯は、私がほとんど手をつけることなく完成してしまった。弁当の仕込みが終わった後の揚げ鍋でだんなはかき揚げを作り始め、その間に私は炊けたご飯をおひつに移したり作り終えた弁当用料理を脇に寄せたり。
海老と帆立と葱とにんじんのかき揚げを、甘さ強めの割り下にとぷんと漬け、軽くよそったご飯に盛りつける。最初はそれで天丼。続いて、同じ具のかき揚げもう1つをご飯の上に乗せ、今度は塩味を強めに調味した鰹だしをかけ、"天茶"。わさびを添えて、さらさらと食べる。
天丼も美味しかったけれど、天茶が危険なほどに美味しかった。何品も続けて揚げ物をしていたせいで、さすがに油が汚れて天ぷらをするには不向きな状態になっていたけど、ちょっと焦げがついてしまったもののかき揚げはカラッと綺麗に揚がっていた。さっぱりしただしに天ぷらの油がやわやわと溶けて甘くなり、わさびがピリッと効いている。

「うまー!!!」
「ヤバー!!!」
「ていうか、ビールも美味しいよ」
「汗まみれで料理しまくってたからね」
と、互いの検討を称えつつ、鼻の頭に汗びっしりかいたままはふはふと茶漬けを啜った。
私、密かに「世界一美味しい茶漬けは"うな茶"(←ひつまぶしの最終段階)ではないだろうか」と思っていたのだけど、天茶もまた危険な存在だということを思い知った。ダメだよ、こんな美味しいもの世の中にあっちゃ……(何言ってんだか)。

4/30 (水)
今日はピクニック〜
ピクニックピクニック♪
 鮭おにぎり・ごはんですよおにぎり
 鶏の唐揚げ・揚げウィンナ
 ポテトサラダ
 葱入り卵焼き
 さーたーあんだぎー
 ビール、麦茶、スプライト
その他、まだまだいろいろ

今日は朝からピクニック。留学生仲間皆で、総勢13人でピクニックしたのは昨年の10月上旬のことだ。あのときは寒くならないうちにと出かけたのだけど、今度は暑くなりすぎないうちにということで最後のピクニックに出かけることになった。今回の参加は9人。子供2人に女性3人、男性4人という組み合わせ。

出かけたのはMontgomery Bell State Resort Parkという州立公園。国が管理する国立公園はそこでしか見られない光景や珍しい自然造形があったりするけれど、州立公園は市民の憩いの場のようになっているところが多い。やたらと広い森や湖があるエリア内にキャンプ場やピクニックエリアがあったりする。ホテルが備えられているところもあるというけれど、この公園もまたすばらしく巨大なものだった。公園内には3つの湖があり、数多くのキャンプ場があり、ゴルフコースまで備えている。ダウンタウンから車で30分ちょっとの近郊なのに、公園付近はひたすら鬱蒼とした森のようになっていた。やっぱりここは田舎町なのね(……というか、アメリカ全体が巨大な田舎みたいなものよね)と思いながら、午前10時に公園到着。

下見したIさんが「ここにしよう!」と選んでくれたエリアはテーブルやベンチが備えられ、歩いてすぐのところにトイレもあり、しかも子供用の遊具施設もあり、更に真横に小川が流れているという絶好のポイントだった。全員朝食抜きでやってきていたので、到着する頃にはすっかり空腹。それでも子供達は
「おみずー!」
「ぶらんこー!」
と早速全力で遊び始めてしまった。数メートル先で遊ぶ子供たちを眺めつつ、大人たちはいそいそと宴会準備。

事前に詳細な打ち合わせをしたわけではないのに、テーブルに並べられたのはほとんど重なることのないピクニック料理の数々だった。
ちらし寿司のおにぎりに、ミートボール、チーズとトマトのサラダ、マフィン。コロッケサンドにツナサンド、卵サンド、きのこの炒め物などなど。

鶏唐揚げはもとより、好評だったのが沖縄の揚げドーナツ、さーたーあんだぎー。Web日記書きの友人が先日日記に記していた、さーたーあんだぎーの作り方、
「うひー、うまそー」
と、その作り方をダウンロードし、いつか作ろうと待ちかまえていたのだった。卵と砂糖、ホットケーキミックスと薄力粉を使うだけの簡単な揚げドーナツで、アメリカで手に入る食材でらくらく作成可能らしい。日本にいた頃に、スーパーの特設コーナーで売られていたのを買ったことがあるのだけど、冷めても美味しいドーナツだった。崩れにくそうだし、外見も可愛らしいしピクニックにはもってこいだと思ったのだけど、本当にもってこいだった様子。
「……あ、素朴な味で美味しいかも」
「なんだか止まらなくなっちゃいますね」
と、1個1個さーたーあんだぎーは減っていった。案外と甘さは控えめで、ドーナツよりもみっしりと詰まった生地。数個食べるとお腹がいっぱいになってきてしまうのだけど、いつのまにか手がまたそこにのびてしまう。喰ってばっかいちゃいかんと、立ち上がって川に遊びに行った。

食べて食べて飲んで飲んで、お腹一杯になったらひたすら遊んで、またテーブルに戻ってきて食べる。数日前の予報では心配な内容だった空模様も、見事な晴天。気温も高く、川遊びにはもってこいの気候だった。男性陣は草地でフリスビー遊びを始め、女性陣はおしゃべりしたり子供の面倒をみつつ川遊びしたり。深いところでも大人の膝くらいまでの深さしかない小川には、体調20cmほどの小魚もたくさん泳いでいた。ザリガニもいるし、ヤゴのような虫もいる。最初からずぶ濡れになることを予想して水着を着ていった息子は、頭の先から水浴びしたようになるまで遊び狂い、3時に公園を後にするまで、各々筋肉痛になりそうなほど遊んでいた。そのころには、おかずも随分減っていた。

そして4時前によろよろと帰宅。何歳になってもピクニックは楽しいねぇ。

Nashville 「China Dragon」の
 鍋貼餃 (Fried Dumplings)
 本樓撈面 (House Special Lo Mein)
 菜蓉蛋 (Vegetable Egg Foo Young)
ビール(Abita Ambar)

もう、帰ってきたらヨレヨレ。せっかく昨日治ったばかりの筋肉痛が再発してしまいそうなほど疲れていた。息子は車に乗った数分後に爆睡し始め、だんなも帰宅後よろよろと寝室に倒れ込む。
「な……なんで、こんなに必死に遊んでいますか僕たち……」
と苦笑いしながらしばらくよれよれしていた。

夕御飯はやる気なく食材もなく、だんながチャイニーズテイクアウトの店「China Dragon」にひとっぱしりしてくれた。ここ2週間で3回もこの店のものを食べているので、ついに店のおばちゃんに
「良く来るねぇ。美味しいかい?」
と聞かれるようになったらしい。とにかく量が多いこの店の料理なので、今日は小サイズの焼きそばに、卵とじ野菜、焼き餃子と、名前だけなら比較的軽めの注文にしてみた……が、やっぱり大量だった。

片手に乗るくらいの小さな紙箱に入れられている焼きそばは、それでもみっちみちに詰められていて軽く2人前くらいはある。しかも今日はぎゅうぎゅう詰めた上に蓋もしまらなくなったらしく、ホッチキスで口が留められているという有様だった。……そこまで必死に詰めなくてもいいのに……。
てっきり卵焼き1枚が入ってくるのかと思った菜蓉蛋は、巨大なアルミの深皿に3枚も入っている。焼きそばと同じサイズの容器にご飯がみっちみちに詰まり、更にカップ1杯ほどの大量の黄色いタレもついてきた。もうこれだけで3人前はありそう。そして餃子は6個。小さなプラスチック容器に甘辛いタレが入って添えられていた。これで12ドル45セント。

「ああ……疲れているけど」
「中華料理は食べられるもんだね」
と、すっかり日焼けした顔を見合わせて焼きそばや卵焼きをつつく。菜蓉蛋の黄色いタレは卵とも豆ともつかない細かな固形物が入り、ドロリととろみの強いもの。ほのかに甘く、ほのかに酸っぱい。薄めればコーンスープにでもなりそうなそれ、だんなは一目見たときに「……酢味噌?」と感じていたらしい。醤油と酢の甘酢のタレとは違っていたけど、これはこれでご飯にかけるとなかなか美味しい。

餃子と焼きそばは綺麗に平らげ、さすがに3枚もあった卵焼きは食べきれず、蓋をして台所に置いておく。これはきっと明日の朝御飯になるのだ。