食欲魔人日記 02年09月 第1週
9/1 (日)
HOOTERS(Nashville)にて「HOOTERS CHICKEN WINGS」 (夕御飯)
デニッシュブレッド
ベーコン入りオムレツ
アイスカフェオレ

日曜日の今日も、こころゆくまでだーらだーらと惰眠をむさぼってみた。
息子が最後に起きてくるのを待ってから、のんびりと朝御飯。

一昨日買ってきた「Alpha Bakery」のデニッシュブレッドに、だんながベーコン山盛り入ったオムレツを作ってくれた。
「……オムレツだったはずなんですが、"オムレツのようなもの"になりましたが」
と苦笑いしながらテーブルに出してくれたのは、「オムレツのような、スクランブルエッグのようなもの」といった感じだったけど、ベーコンたっぷりのふわふわ半熟卵の味はちゃんと旨かったので気にしない。我が家にあるテフロンフライパンはやたらとでっかくて、しかも中央が妙に盛り上がってるのでオムレツなんかは非常に作りにくいのだ……とだんなを擁護してみたり。

デニッシュブレッドは、てっぺんのクロワッサンに似た表皮の部分に杏ジャムが塗られてキラキラと光っている。いかにもバターたっぷりです、といった風情の、空気の層がたっぷりと入った美しい断面のパンだ。そのままざくざく厚切りにして焼いたりせずにかぶりつく。

Nashville 「HOOTERS」にて
 Hooters Chicken Wings 20 Pcs. $10.49
 Curley Fries $1.99
 Hooters Salad $6.59

今日も運転の練習をする私。研究室まで公道を走り、ガラガラの大学内の駐車場で駐車の練習もしてみた。帰りには一瞬反対車線に入って逆走したりと笑えないミスもやってしまいつつ(周囲に車がいなくて本当によかった……いや、車がいたら逆にそんな失敗はしないとは思う)、なんとか帰還。だんなは
「大丈夫だよ、これで免許取れるよ」
なんつってるけど、果たしてそれで本当に良いのか。日本の教習所だったら20時間くらいは車に乗ってからテストだろうに、たかだか5時間そこそこで試験受けに行って良いのか。逆走した私は自分の運転技術とそんなアメリカの制度がつくづく怖くなっちゃうのだった。

夕方には、一昨日からグレートスモーキーマウンテン国立公園(車で我が家から2時間くらいの距離)に行っていた留学生仲間のIさんが「これ、お土産〜」とその公園のマップを持ってやってきた。じゃあ一緒に御飯でも、と皆でダウンタウンで御飯を食べることとなる。

明日の月曜日は勤労感謝の日(Labor Day)なので、この週末は3連休なのである。
「旅行客とかで観光地のダウンタウンなんかは大混雑だったりして……」
と心配していたけど、その予感大的中というか、まさかここまでというか、目当てのパスタとステーキが旨いという噂の店は大行列なのだった。チェーン店であるはずの、別のスパゲティハウスもダメ。
「じゃ、じゃあ一度入ってみたかったし……」
と、空席がまだまだ目立っていた「HOOTERS」に入ってみることにした。なんでも"アメリカ版アンナミラーズ"なのだとか。おねぇちゃんのユニフォームがすんばらしい、チェーン店なのだそうだ。
ロゴマークはフクロウのイラストと文字とか組み合わさっていて、「HOOTERS」の「OO」の部分がちょうど目になっているのである。「Hooter」とは、フクロウのことだ。

Web日記書き仲間のカリフォルニア在住Dちゃんに教えてもらったところによると、
「"Hooter"とはフクロウのことだけど、その目は大きく、しかもそのでかいのが2個並んでいるわけ。だから"Hooters"は隠語で女性のバストを意味していて、それはしかも巨大なバスト……」
なのだとか。ウェイトレスになるには厳しい審査が必要なのだそうだ。

で、天井が高くあちらこちらにテレビのモニターが置かれた店内にはビール会社の広告があちらこちらにぶら下がり、木製の背の高いテーブルにスツールが並び、いかにもな光景。忙しく働くおねぇちゃんたちの姿は、なんと「それはほとんどブルマですね?」と言いたくなるほどのショートパンツに身体にピタッと合ったタンクトップ姿なのだった。生足に短いソックス、スニーカーで給仕している(公式サイトを見ればどんな感じかわかりますです)。

「きょ、巨乳ですね……」
「爆乳ですね……」
「みなさん、すごいですね……」
と喜ぶ私たち(私まで喜んでどーする)。オレンジ色の薄手のショートパンツがまぶしくて、みなさんスタイル抜群なものだから女の私が見てもちょっと楽しかったりするのであった。確かにそこは「HOOTERS」なのだった。別に怪しい店とかそんなんじゃなく、子供も食べにきているごくごく普通のハンバーガーや鶏のフライを出すお店なのだ。
いや、でも、どちらかと言えばアンミラの制服の方が卑猥かもしれない。こっちの制服は何だか健康的肉体美を見せつけられているような感じ(まぁ、どちらも眼福であることには変わりない)。

で、どうやら名物らしき「Hooters Chicken Wings」を注文。20ピースで10ドルちょっとだ。あとはサラダとポテトを注文し、ソフトドリンク片手に皆でつつきまわした。パリッと揚がった鳥肉は手羽先も手羽中も手羽元もごっちゃになっていて、適当にスパイスが効いていてけっこういける。トマトや卵やチーズが美しく層状に散らされたサラダも、リング状の面白い形のポテトもまぁまぁ美味しかった。アンミラと同じく、「この価格はおねぇちゃん見物料も多分に入っているのかしら」という感覚も、しないではない。

壁には店員さんの水着姿の写真なんかも貼ってあったりして、ともかく何だかすごかったと思いつつ店を後にする。入り口付近には店のロゴマーク入りタンクトップやTシャツも売られていて、中には店名そのままがタイトルになった雑誌(ムック本?)らしきものとか、「カレンダー撮影メイキングビデオ」なんてものまで売られていたりするのだった。

9/2 (月)
鶏もも肉のダッチオーブン焼き (夕御飯)
デニッシュブレッドのトースト
ピーニャコラーダ ヨーグルト
アイスコーヒー

今日はアメリカ国民の休日、Labor Day(勤労感謝の日)。
毎年9月の第一月曜日がこの休日なのだそうで、「この日を境に夏のイベントは終わりねー」という目安になっているのだそうだ。町中「Back To School Sale」などという特売がここ1週間ほどあちらこちらで催されていて、いよいよ新学期なのねぇという感じ。

今朝は、冷蔵保存しておいたデニッシュブレッドを厚切りにしてトーストに。バターたっぷりの生地がオーブンの熱でカラッと焼けてサクサクになってすこぶる美味しい。なんとなく卵でもベーコンでもない気分だったので、他のおかずはなし。代わりに賞味期限切れのヨーグルトを発掘していまったのでそれを食べることにした。

スーパーマーケット「Kroger」のオリジナルヨーグルトを食後にもりもり。乳脂肪を敵対視するアメリカだからして、例によって、「Low Fat」なんてパッケージに書かれているそれは私の好物ココナッツ味、というよりパイナップルとココナッツのカクテル「ピーニャコラーダ」味だった。「Low Fat」なんて努力するより、1パックが1/2ポンド(220gくらい……)あるという現実をなんとかした方が良いんじゃないかと頭を痛めつつ、
「半分の量が嬉しいんだけどなぁ……」
「別にこれ、"器に取り分けて食べて下さい"というもんじゃないよねぇ、1人1個普通に食べるんだよねぇ……」
と苦笑いしながら今日も半分だけ食べて冷蔵庫に戻っていただいた。
パイナップルソースがたっぷり入ったココナッツ風味こってりのヨーグルト。そんなに甘いわけじゃないけど濃厚は濃厚なので、100gくらいの量が私としては美味しいかなぁと思っちゃうのだ。

スパゲティミートソース
アイスカフェオレ

「こっちのインスタントスパゲティソースは旨いぞー」
と誰かから聞いたようで、だんなが先日スーパーで嬉々として"瓶詰めミートソース"を買っていた。缶詰とかレトルトパックのソースというのは見慣れていたけど、瓶詰めって一体……と売場を見ると、2メートルほどの高さがある棚にぎっちりとそのソースが安売りされていたのだった。棚はもう、まっかっかだ。

だんなが選んだ「Ragu」社のそのソースは、クラシックイタリアンだの、ソーセージ&ペッパー入りだのホームメイドスタイルだのと何種類も揃っている。だんなはうきうきと「Mama'sなんちゃら」というソーセージ抜きのミートソースを買っていた。でかい。巨大だ。2ポンド(約900g)のミートソースの瓶なんてこれまで見たことがなかったので、思わず笑ってしまう。
「開封後は冷蔵庫に、って書いてあるけど……」
「ど、どこに入れるのよー、その巨大瓶ー」
と、また苦笑い。

さっそく今日の昼御飯に食べてみることにした。5〜6人前はありそうなミートソースの缶詰が3.5ドルくらい、安売りスパゲッティは5人前ほどでちょうど1ドル。1人あたま1ドルで飯が喰えちゃうありがたい食材だった。

鍋に湯を沸かしてその中に蓋を開けた瓶を置き、湯煎でソースをあたためる。茹でたてのスパゲティにソースをたっぷりかけて食べてみた。トマトの酸味がちょっと強めなミートソースは、色も鮮やかなトマト色。レトルトミートソースにありがちなケチャップじみた甘ったるさはほとんどなくて、なかなかどうして美味しかった。KRAFTの、あの緑の缶の粉チーズがまた笑っちゃうほど似合う。

今日は久しぶりに蒸し暑い日で、この夏最後かもしれないしと午後は住宅付設のプールに遊びに行った。そろそろ夏も終わりかのー。

鶏もも肉のダッチオーブン焼き
 棒棒鶏ソース・オイスターソース・塩ライム・おろし醤油
ざく切り生キャベツ
羽釜御飯

お好きな人にはたまらない鉄製調理器具、ダッチオーブン、スキレットのトップメーカー「LODGE」社の本社は、私たちの住むテネシー州にある。だから、というわけじゃないと思うけど、日本では安いものでも3000円くらいしてしまうそれが、1000円程度でゴロゴロと売られている。「灰皿にもフォークレストにもなります」というミニミニスキレット(これで目玉焼きを作りたい……)なんて、たったの300円ちょっとだ。

で、私たち、帰国時の日本への輸送費用なんてまったく考えずに重い重い鉄製鍋を密かに買い求めつつあるのだった。手始めにダッチオーブン。蓋だけでも筋トレができてしまいそうな重い鍋は、その重さもあってまるで圧力鍋のような使い方ができるのだった。

数日前、日本で何かとお世話になった「クック&ダイン」(店長Yさんは日本ダッチオーブン協会の公式インストラクターでいらっしゃる)にメール。
「ダッチオーブン、買いましたよー」
と報告したら、「こうすると美味しい、ああいうのも美味しい」といっぱいいっぱい教えてくれた。今日はそれを参考に、蒸し鶏に挑戦。丸鶏を……とメールにはあったけど、超安売りだった鶏もも肉を使ってやってみることにした。

  1. ダッチオーブンを火にかけて余熱する(中華鍋を熱したときのように煙が出始める)。
  2. そしたら弱火にして、塩も何もしない鶏を放り込む。油もひかない。
  3. きっちり蓋をして、弱火を維持して1時間ほど放置。
  4. 完成。

か、簡単すぎる……。

「これで本当に良いのか」
「鍋にスープが溜まっているというけど、どのくらい溜まるのだろうか」
「ととと、とりあえず胡麻だれとか色々準備しておくわねー」
と沈黙する鍋をよそにぱたぱたと準備してみた。棒棒鶏のレシピで胡麻だれを作り、オイスタソースと醤油を日本酒で軽く伸ばしたものも準備。更には刻みライムと岩塩の組み合わせと、大根おろしと醤油、なんてのも。

御飯も炊けて、いざいざダッチオーブンの蓋、オープン。
「どえぇぇぇぇぇ〜」
「ひやぁぁぁぁぁ〜」
「うわぁぁぁぁ〜」
と、一家3人にしてそこは"どっちの料理ショー"クライマックスみたいな盛り上がりを見せてしまった私たち。鍋にたっぷりの肉はふくふくと蒸し上がり、肉がひたるように2カップ分ほどの肉汁&鶏脂がたっぷりと溜まっていた。ちろっとこの肉汁を舐めてみると、「このスープがまた、焼鳥屋のあの鶏スープを凝縮しまくった旨さなんです!」と教わったとおりの味がする。ちょっと油っこくはあるけど、焼鳥屋のあのスープを煮詰めて煮詰めて煮詰めたような鶏そのものの味がするこってりしたスープがたっぷり溜まっているのだった。

で、添え物に生キャベツをたっぷり準備して、キャベツバリバリ喰いながら骨つき肉をわしわし食べる。胡麻だれも良いしオイスターソースも悪くないけど、ライム&塩がそのまま1羽喰い尽くしたくなるほど旨かった。5本も1つのパックに入っていた鶏肉、全部蒸してしまったのに残りは1本。これでもかと鶏肉を食べてしまった。

そして、危険な危険なスープ。「薄める……?」と相談したものの、「このまま飲んじゃえー」と小さな器に取って塩と胡椒をガリガリ入れて飲んでみた。もうこのスープだけで"どっちの料理ショーの勝負はもらった!"(どんな勝負や)と確信したくなるほど、旨味だらけのコラーゲンたっぷりスープだ。
「こここ、これ、御飯入れて食べたらきっと美味しい……」
と私が言うやいなや、いつのまにかスープ皿に御飯を突っ込んでる我が夫。鶏の肉汁を吸った御飯が旨くて、またそれで何倍も食べちゃう私たちだった。

さすがに濃厚なスープは飲みきれず、肉も余り、「あとは明日続きを食べましょう……」ということに。
「……明日のお昼、息子と一緒に鶏スープ、おじやにして喰っちゃったらどうしますか?」
と冗談半分にだんなに聞いたところ、
「それはね、君、離縁されても文句は言えませんよ」
と真顔で返事が返ってきた。
鶏スープで離縁……それだけは避けなければならない。

9/3 (火)
今晩は、タコス。(夕御飯)
デニッシュブレッドのトースト
葡萄
アイスカフェオレ

今日からいよいよ本格的に新学期。先週にもガイダンスだ何だと色々あったようだけど、出された宿題を抱えて7時半にだんなは出かけて行った。いってらっしゃーい。

私も家で仕事があったので、息子が寝ている間にポチポチと進めてみる。息子が起きてからもポチポチ進めてしまっていて、
「おかーさん、おかーさん、おなか、すいたの。おなかが、すいたのー、すいたよぉー」
と息子に大騒ぎされ、気がついたら10時半。うげ!すまん、そりゃ腹空いたよなぁ私も空いた、と慌てて息子には「ドライストロベリー入りコーンフレーク」を差し出した。私は残りもののデニッシュブレッドをトーストに。慌てていたもんだから卵料理のひとつでもやろうと思っていたのにパンだけになってしまったのだった。物足りないので食後に葡萄をつまんだ。楕円の粒の黄緑色の種なし葡萄。うまー。

ミニオレオ
牛乳

仕事の区切りもめでたくついて、午後3時すぎ。しかしだんなは未だ帰って来そうではなかったので、
「おやつ、食べちゃおっかー?」
「うん!食べる、食べるよー」
と息子と一緒におやつにする。冷蔵庫の上には、私が「旨そう……」と買ってきてしまったキャラメルコーティングのポップコーンとか、いただきもののポテトチップスとかミニオレオが積んである。とりあえず、開封してあるミニオレオを食べることに。

オレオはオレオとしてよりも、アイスクリームの「クッキー&クリーム」の中身としての方が頻繁に食べているような気がする。私の一番好きなアイスクリームはハーゲンダッツのクッキー&クリームだけど、アメリカでもチョコミントと並んで人気のあるフレーバーであるらしい。スーパーのアイスクリームコーナーでは各種メーカー、合計10種類ほどのクッキー&クリームを見ることができる。どこかのファーストフード店では「オレオシェイク」だか「クッキー&クリームシェイク」だか知らないけど、そんな名前のシェイクがあって、カウンターの奥に見えるそのマシンにはでっかくオレオのロゴが入っていてちょっとびっくりしてしまったのだった(いや、だって、シェイクのマシンにビスケットの絵とロゴが入ってるもんだから"あの中身はいったいどのようになっているんだろう、砕けたオレオが詰まってるのか?"と思っちゃったもんで)。

コインほどの大きさの、一口サイズミニオレオを頬張りながら、お供に牛乳。久しぶりにオレオ本体を食べたけど、案外と旨かった。

タコス
刻み葱入り鶏スープ
ビール(コロナ)

「回鍋肉しましょう」と豚肉を買い、「ビビンバもそろそろ作りましょう」と牛肉やもやし、ほうれん草も籠に入れた。でも、今日それらを食べるという気分でもなく、スーパーの売場をうろうろ。我が家の食材ストックを思い出していて、
「タコスにしましょう!」
ということになった。冷蔵庫の中にはソフトシェルとハードシェルの残りが合計15枚ほど詰まっている。

ひき肉を袋入りのスパイスと共に炒め煮し、トマトとレタスを細かく刻む。チーズは「メキシカン」とか書いてある4種のミックスチーズのシュレッドタイプを買ってきた。巨大なボウルにそれぞれ盛りつけて、あとは皮を適当に温めつつ包んで食べる。ハードシェルはレンジで1個15秒くらい、ソフトシェルは電気オーブンで数分温めることに。

昨日の鶏スープの残りは、あまりに濃厚だったのでちょっと薄めてから塩胡椒で調味。残った蒸し鶏をちょっと削って放り込み、刻み葱をこれでもかと放り込んでおいた。御飯が恋しくなりそうなスープだったけど、気にせずタコスと一緒に食べる。

オーブンに1分も放り込めば温まるソフトシェルをついつい3〜4分放置してしまい、インドのパンのようにンプーと膨らませてしまったりしながらばくばく食べる。
「うぬぅ、確かソフトシェルを食べるつもりであったのに、期せずしてハードシェルに」
などと言いながら、かつてソフトシェルだったはずのパリパリの皮にレタスとトマトと肉とチーズとソースを積み上げ、無理矢理巻いて(折り畳んで)食べたりした。

……メキシコ人は、もしかしてこんなに何個も何個も呆れるほどタコスを食べないんじゃないかと思いつつ、「いや、でも、肉用のスパイスは"肉1ポンドに対して1袋入れて炒めよ"って言ってるんだからいっぱい食べていいのよね、うんうん」と自らを正当化。今日も10数枚のタコスの皮が消えてしまった。

9/4 (水)
回鍋肉(もどき) (夕御飯)
タコライス
アイスカフェオレ

タコスの翌日は、タコライス。メインなはずの「タコス」よりも、密かに翌日のタコライスの方が楽しみかもしれない私だった。

冷凍御飯をあっためて、レタスやトマトや炒めひき肉を美しく散らし、タコソースたっぷりかけたら混ぜつつ、食べる。シャリシャリしたレタスやトマトがさっぱりしていて、朝食に食べてもあまり違和感なくもりもりと喰えちゃうのだった。

スーパーには、呆れるほど多種類のタコミート用スパイスミックスだとか、タコソースだとか、タコシェルだとか、更には「タコス用刻みトマトの缶詰」なんてものまで売られている。スパイスミックスもタコソースも、どうやら自作できるらしいけど、ついついよりどりみどりな棚を眺めていると、「お、これ、旨そう」「これもこれもこれも」と買ってきてしまうのだった。スーパーマーケットオリジナルブランドのものまで、そういったメキシカンフードがたっぷり並んでいるのが、ちょっとすごいなと思う。

回鍋肉(もどき)
ズッキーニと葱の豚スープ
羽釜御飯
ビール(バドワイザー)
葡萄

無性に中華料理っぽいものが恋しくて、本日の夜は回鍋肉。
回鍋肉を作るにあたっては、「甜麪醤」、それがなくてもせめて「八丁味噌」あたりの調味料が欠かせない。スープと醤油と甜麪醤とオイスターソースと砂糖と紹興酒を混ぜると、好みのそれっぽい味になる……が、近所のスーパーはおろか、アジア食材店を覗いても「甜麪醤」の文字のついた調味料は発見できなかったりした。

「同じく大豆が材料のもので"HOISIN SAUCE"なんつーのがあるけど……甜麪醤の代わりになるかなぁ?」
と、実は「海鮮醤」だったそれを買ってきてしまい、「ま、ソースの色も似てるしね」とめちゃめちゃな理由をつけつつ海鮮醤で合わせ調味料を作るという暴挙に出た。しかも、「なんか味噌っけが足りないから"だし入り味噌"をちょっと混ぜちゃえ」とますます変な方向に動いてしまい、ちょっとばかり得体の知れないソースができた。かまわず、作る。

アメリカにおいて回鍋肉や角煮を作成しようとするとき、一番の難問は「豚バラ肉」が手に入らないことだ。あの断面の層の輝きも美しい豚バラ肉は、ここらのマーケットじゃ見かけたことがない。ベーコンはあるのだから豚バラ肉という存在はあるはずなのに、どうやらこの国、三枚肉はすべからくベーコンに加工しちまうらしいのだった。悲しい。
で、妥協して「ボンレスリブ」というものを買ってきた。800gくらいある巨大な塊肉をぐらぐらとそのまま1時間近くかけて茹で、スライスしてからキャベツやパプリカと炒めていく。にんにくと生姜もたっぷり、豆板醤も放り込んで、なんとかそれっぽい外見になった。合わせ調味料の味はちと怪しいけど、かまわず食べる。

いざ、御飯。
たっぷりできた回鍋肉、一番の問題は調味料以上に「全部盛ることのできる器が我が家にない」ということに気がついた。
鍋を抱えただんなが、私が出した大皿を見て
「おゆきさん〜、そのお皿じゃ全然盛れない……」
と告げた。
「え"、でも、これが一番大きなたぐいの皿だけど……」
「ラーメンどんぶり!それしかない!」
「……え"〜〜〜……」

貧乏学生じゃないんだから、おかずでも何でもラーメンどんぶりに盛るという事態はできれば避けたかった。大体、なんで前任からの引継物品にラーメンどんぶり(しかも1つだけ)があったのかと想像すると、前任者の食生活にラーメンは必需だったのねぇと目頭が熱くなる。御飯茶碗も味噌汁椀も、あるいは中華系どんぶりや何もかも、買おうと思えば日本食材店で買うことはできる、が、洋食器に比べるとその値段は数倍、下手すると10倍くらい。プラスチック製ならまだしも、陶器のラーメンどんぶりというのはある意味貴重品なのだった。で、その貴重品ラーメンどんぶりに山盛り回鍋肉。めでたく鍋から全て盛りつけることができ、ビールと御飯を傍らにわしわしと食べた。

バラの部位じゃない豚肉は、やっぱりちょっとばかり脂っけが足りない感じ。それでも御飯にそこそこ似合う、「回鍋肉(もどき)」という感じのおかずであった。うん、このへんの中華料理バイキングのおかずよりは美味しいぞ。

9/5 (木)
ビビンバ作ってみました (夕御飯)
ベーコンエッグチーズサンド
アイスカフェオレ

今日から毎週木曜日、近所の教会が主催する「インターナショナルなんちゃら会」に行ってみることになった。留学生仲間のHさんの奥さんと一緒に、子供を連れて行ってみることに。何でも無料で英会話のレッスンとかアメリカ文化のレクチャーとか、色々やってくれるらしい。子供もその間、見ていてくれるらしい。なんとも有り難い制度だ。「キリスト教徒じゃないけど、すまん」と心中恐縮しつつ、お出かけする。

朝御飯は、通学前のだんなと一緒にベーコンエッグサンド。ハンバーガー用のバンズにチーズを乗せてあっためて、そこにベーコン入りのスクランブルエッグをこんもり盛りつけて囓る。だんなはここ数日コーンフレークを食べて通学していたけど、あまりに空腹極まってししまってコーンフレーク朝食は断念した模様。

大学内カフェテリア販売コーナーの
 海老寿司
 メローイエロー

9時から11時過ぎまで、教会で英語漬けになってきた……とは言っても、日本人がその場の半数を占めているような環境だったりした。大勢いるボランティアで世話をしに来てくれている人々(大体が"定年後"といった風情のおばちゃんやおっちゃんだ)と、少数のメキシコ人、中国人、韓国人、台湾人、更に少数のインド人、パキスタン人の参加者たちの他は、ぞろーっと20人以上の日本人。後から研究所スタッフMさんに聞いたところによると、
「あのね、自分たちの車でそういう"場"に行くようになっているところって、やっぱり日本人が多いのよね。送迎バスを出してくれるところなんかになると……今度はメキシコ系やパキスタン系の人たちがどっと増えるんだけど」
とのことだった。

なんとなーく「日本人ばっかですみません」と逆に肩身が狭くなっちゃいつつ、今日はその会の案内と、テーブルについての英会話練習。教会の近くに住むというおっちゃんウィルと、めちゃめちゃキュートなメキシコ人マルガリータさん、私とH夫人の4人が1つのテーブルにつき、
「この教会からあなたの家までの案内をしてみてください」
とか、あとは雑談で互いのニックネームについてとか、メキシコと日本の食文化についてとか簡単に語ってみた。こういうのを機会に色々な国の人と知り合って食べ物の話とかしてみたいのだけどー、とりあえずはもうちょっとなんとか英語で意志疎通ができるようにならなきゃどうしようもない。

昼はHさんとそのまま大学の研究室に行き、午後に授業のあるHさんや我が夫らと共にカフェテリアで一緒に御飯。セルフサービス式のサンドウィッチやサラダバーもあったりしたけど、あまりにすごい人なのでだんなは冷凍コーナーで冷凍スパゲティを物色し、私は冷蔵コーナーにスシがあったのでそれを食べることに。

「Shrimp Sushi」と書かれたそれは、確かに海老の味がした……ようなしてないような。こちらで食べる「Sushi」はけっこういけるものもあるけれど、ここで売られていたのは、かつてなく不味いものだった。海老の味がしないでもないけど、それ以外に入っている黄色い物体とか緑色の物体は理解不能な物体だ。御飯は酢で和えられているわけではなく、しかも質の悪いペショッとしたもの。口に入れると水気を含んだ御飯がぐじゅぐじゅぐじゅと崩れていく。めちゃめちゃ不味い。

しばし無言になって海老寿司をもっちゃらもっちゃら食べていたところ、Iさんが
「あのさあのさ、俺の寿司、"どうしてこんなに旨いの!?"と思うくらい旨いんだけど、まぁ1つ喰ってみてよ」
と別の種類の寿司パックを差し出した。スモークサーモン巻き……らしい。皆で1個ずつ自分の寿司と交換して食べてみた。

「……」
「……こ、これは……」
「レシピを教えて貰いたくなるくらい美味しい、というか……」
「……ていうか、これ以上噛みたくないんだけど……」
「いや、私は飲み込みたくない、っていうか……」

不味い。これ以上なく不味い寿司だった。スモークサーモンらしき切り身と共に挟まるのは、どうやらチーズとアボガドだ。組み合わせとしてはそれほど悪いものじゃないと思うけど、ちょっとクセのあるチーズと、熟していない青臭いアボガドが、ねっちょり御飯と共に口でぐずぐずとほぐれていくと、えもいえぬ気持ち悪さがある。しかもそれに醤油を垂らしたときの不調和といったら、「あんたこれ、アメリカに来て一番不味い食べ物だよ」と太鼓判を押したくなるほどのグレートな味わいだったのだった。

以前食べた、「これ、一番不味い……」という中華デリのファーストフード弁当は、不味かったけど飲み込めた。でもこれ、飲み込めない。飲み込んだらその場で悶死してしまいそう。そこまで不味い寿司だった。
大学売店、おそるべし。

独身留学生仲間を招いて晩飯会
 ビビンバ
 棒棒鶏サラダ
 牛ひき肉とワカメのスープ
 ビール(コロナ)

たまには同じ住宅内に住む独身者を御飯にお誘いしてみようか、と、IさんとMさん2人を夕食に呼んでみた。
メニューは、ビビンバ。ほうれん草もモヤシも、大根も人参も手に入る。ゼンマイは日本食材屋に行けばなくはないけど、これは無視して4種類の野菜でナムルを作ることに。スーパーでカルビのような外見の牛肉スライスがあったので、それも買ってきて塩胡椒で焼いて乗せることになった。

夕方からだんなと2人でせっせと準備。
「僕は、とりあえずモヤシを茹でよう」
「私は野菜をスライスするねー」
と、1品1品作っていかなきゃいけなくて、ちとめんどくさいナムル作りをせっせと2人でやっていく。蒸し鶏の残りがあったのでキュウリと刻んで胡麻だれで和えて棒棒鶏サラダを作り、ひき肉とワカメの韓国風のスープも準備。
やってくる2人はかなりの大食らいなので、
「御飯……さすがに4合あれば足りるよね」
と4合炊いて、その読みは甘かったと数時間後に気付かされた。

「お金とか気にしないでいいから。その代わり、食べに来るときはビールでも持ってきてよ」
というしきたりにしたところ、1ダースのビールを抱えた2人が午後7時にやってきた。2株分のほうれん草のナムル、1ポンド以上のもやしのナムル、4合の飯。大きな鍋にたっぷりのスープ。なくなるとは思わなかった。

御飯の上にナムルを綺麗に並べて、肉を乗せ、上には3分ほど茹でた卵を割り落とす。コチジャンは我が家にまだないので、好みで豆板醤を放り込んだらかき混ぜてかき混ぜて喰うべし喰うべし。
胡麻油は日本から持参したけど、あとはこちらの調味料ばかり。素材もこちらのものだから、微妙に日本で作るビビンバとは別の風味がした。でも、けっこういける。そこらの店で食べるよりは、多分美味しい。

「もうね、卵なんか1ダース買ってもそんなに喰わないから、卵久しぶりだよー」
などと言いながら、招待客2人はそれはそれはよく食べた。山盛り御飯でビビンバ食べて、更にお代わりまでせっせとしている。スープも「こりゃ、明日も飲めるなぁ」と1リットル分くらい作ったと思うのに、気が付いたら空になっていた。Iさんもともかく、Mさんの元ラガーマンだという胃袋を舐めていたようだ。
「な、なんか、学生さんの合宿みたいだね……」
と横から言うと、
「そんなのね、甘い」
「俺達、隨分食べられなくなったよなー」
「そうそう」
と一斉に男共から否定の声が返ってきた。今度は飯6合くらい準備しておくことにしますです、はい。

9/6 (金)
茹で豚肉の葱甘酢ソースかけ (夕御飯)
チーズトースト
アイスカフェオレ

金曜日、だんなの授業は1コマだけ。小学生の土曜日の授業のごとく、昼御飯を食べずに帰ってくるのかと思ったところ、
「今日はねー、英語のクラスの、ランチパーティーがあるらしんで行ってくる」
とのこと。私はやらなきゃいけない仕事があるので、のんびり家で仕事させていただくことにした。

朝御飯は、ハンバーガー用のバンズにチーズを挟んで焼いただけの簡単トースト。
家についている設備である巨大な電気オーブンで焼いていたところ、取り出す時にだんなが手を滑らせて電熱線の上にパンを落としてしまった。一瞬にして燃え上がる炎、くっきり線の形にへこんで焦げたパン。加熱は早いしやたらと高温にまでなるし冷めにくいし、案外とこの電気オーブンは使い勝手が良い。いや、でも一瞬にしてパンが燃えあがるほどとは思わなかった。
「……焼けたよ」
「こげパンだよ」
「……落とした責任で俺が食べるよ。……にがっ」
金曜日、朝から今ひとつ幸先が悪かった。

スパゲティミートソース
アイスカフェオレ

最近、我が息子は「おなかがすいたよー」という意志表示をしきりにするようになった。どうも今頃になって、「御飯の時間になったら御飯は出てくるけど、空腹を訴えればいろいろ貰えるものらしい」ということを覚えたらしい。しかも、「おなかがすいたよー」の後には具体的な食物名まで挙げるようになった。

「おなかがすいたよー。ぶどうなんて、どうかな?」
「おなかがすいたよー、あの、れいぞうこの上の、クッキーが食べたいなぁ」
「ぼくはねー、ほんっとうにラーメンが食べたかったんだよー」(何故か過去形……)
などなど、言われるたびにそのブツを出してあげることもあるし、「んなもの、今は作れないよー」ということもある。

今日の願いは
「おかーさん、おかーさん、おなかがすいたよ。スパゲッティなんて、いいんじゃない?」
というものだった。しかも冷蔵庫に保存してあったミートソース瓶詰めを抱えて居間に現れ、ミートソースが良いとアピールしている。まぁちょうど昼飯時だしだんなもきっと昼食食べてるし(後で聞いた話によると、巨大なテーブルにピザがずらっと並べられて"さぁ、喰え〜"という感じだったらしい)、と、息子と2人でミートソーススパゲティ。たっぷり5〜6人分くらい入っているミートソースの900g瓶詰めはまだ半分くらい残っている。

ちょっとばかりジャンクな味ではあるけど、けっこう美味しい。冷凍スパゲティよりかは何百倍もいける。粉チーズどっさりかけて食べると、喫茶店のスパゲティみたいでこれがまた良いんだなぁ。

茹で豚肉の葱甘酢ソースかけ
クラムチャウダー(缶詰)
羽釜御飯
ビール(バドワイザー)
葡萄

先日回鍋肉をしたあまりの茹で豚肉がまだたっぷり残っている。今ひとつ脂っけの少ない肉だったので、このまままた調味して火を通すよりは薄切りにして食べちゃおう、ということに。
「あの、油淋鶏みたいな葱ソースが嬉しいです」
とだんなが言うのでリクエストにお応えして、まずは葱を刻みまくることから。そこに醤油と胡麻油と砂糖を同量くらいずつ放り込み、ややそれより少なめのバルサミコと米酢を加えて混ぜ合わせる。あとは肉にぶっかけて食べるのみ。中華料理っぽく、キュウリの刻みを添えてみた、けど……。

どうも日本で言うところの「キュウリ」はこちらでは見かけない。ズッキーニのごとく太くてごつい、いかにも「ウリ」という外見のものと、ピクルスにするような太く短めなものがこちらの野菜棚にはいつも並んでいる。どちらも微妙に「キュウリ」という感じなく、しかもあのトゲトゲした表皮のパリッとした感じはどちらにも望めない。なんとなくブニャッというかグニャッというか、独特の弾力がある野菜なのだった。それでもキュウリが食べたかったので、太いほうのを試しに買ってきた。

中にはメロンの種のような平たく白い種が入っていて、もういかにも「ウリ」だ。キュウリというより冬瓜に近い気もする。それでも昨日棒棒鶏サラダに加工したらなんとかそれっぽく食べられたので、今日も輪切りにして肉の下に敷いてみた。やっぱり食感はパリパリとかシャクシャクといかいう感じじゃなく、"ピクルス加工前の物体"という感じで、ちょっとばかり泣けた。うーん、こういう料理にはやっぱりパリパリしたキュウリが恋しいぞ。

お供には、ちょっとおかずには不似合いながら、キャンベルの缶詰クラムチャウダー。牛乳で倍量にのばして温めるのみ。
「本日のわたくしは今ひとつやる気がないので、スープはなしで宜しいでしょうか」
とだんなに訴えたところ、「じゃあ俺が準備しよう」と動いてやってくれたのがクラムチャウダー。キャンベル、何気に便利だ。1缶80セントくらいで安売りされていたりもするので、1回のスープが100円程度で食べられると思えばけっこう安くもあったりして。"加工品はあんまり好きじゃないのよねポリシー"を緩和して、今度ごっそりキャンベル缶買ってこようと密かに決意。

9/7 (土)
教会のバーベキュープレート (夕御飯)
Nashville 「Demos'」にて
 6 oz Sirloin Steak $9.59
 Iced Tea

11時。私は9時前に起きたけど、だんなと息子は寝るわ寝るわで、10時過ぎになってやっと全員が居間に揃った。
「どっか食べに行きますか?」
「"P"ですか?」
「"P"ですよねぇ〜」
と愛しい愛しいパンケーキ屋さんに車を走らせるも、店の前は長蛇の列。この店の人気を侮っていた。週末の昼ともなると、店の前は人で溢れ、壁をぐるりと半周するほどの行列ができあがっている。日本人よりはよっぽど"行列"が嫌いであろうアメリカ人がおとなしく並んで待ってしまうほど、この店は人気なのだった。

仕方がないので、そのまま車をダウンタウン方面に走らせる。そういえば、何回か行きたいと思っていて行けなかった「Steak And Spaghetti House」なるものがあったよねぇ、と開店直後でガラガラだった「Demos'」なるその店に入ってみた。ステーキとスパゲッティがウリの店であるらしい。
「そんな、両方名物と言われても、パスタとステーキ両方は喰えないって……」
とメニューを開くと、"全てのメインディッシュにはチキンスープかサラダ、そしてもれなく自家製パンもついてきます。更にスパゲッティ(メニューの全ての種類から)も無料でついてきます"という一文が。もう、ステーキを頼むと問答無用でパスタもついてくるらしかった。とはいっても、10オンスのハンバーグが7ドルちょっと、ステーキと頼んでも10ドル前後と、妙に安い。この値段でスープだのスパゲティだのがついてくるのだから天晴れだ。

スパゲティのサイズを非常に気にしながらも、とりあえず朝食だし、と6オンスサイズのサーロインステーキを注文。小ぶりのスープカップが出てきて、中には鶏肉と御飯が入った黄色いコンソメスープが入っている。にんにく風味たっぷりの温かいパンも。
「これが無料なんですよ、奥さん」
「嬉しいことですねぇ」
と、鶏の旨味たっぷりの、ちょっと油っこさもあるスープを啜る。中には御飯がたっぷり入っていて、スープというより雑炊だ。息子のチャイルドメニューからのスパゲティ(たったの3ドル)にまでしっかりスープかサラダもついてくるそうで、息子にリクエストされて選んだサラダは、子供用とは思えないほどたっぷりの大きさが。

そして、大皿にごろりとステーキ、その横にはグラタン皿に盛られたスパゲティも添えられたものがやってきた。塩胡椒だけで味付けたステーキは特にソースなどはなく、好みでレモンをしぼって食べるという感じ。柔らかさのない肉は、だからといってスカスカということもなく肉汁たっぷりでけっこう旨い。スパゲティは……"アルデンテ"という言葉をレシピから削除したような茹で具合ではあったけど、生クリームベースのチーズクリームソースがこってり絡んで悪くはない。アメリカじゃ、カルボナーラの卵抜きのようなソースを"Alfredo"と言うらしい。インスタントパスタソースやレストランのメニューのあちらこちらで見かけることができて、私はこれがけっこう好きなのだった。

当初はパンケーキの予定だったのに、昼食兼用とはいえ、朝からステーキとスパゲティをもりもり喰ってしまった私たち。何より恐ろしいのが、それほど超満腹という状態にはならなかったことだ。アメリカ飯を食べてデザートまで到達できる日は近い。

Nashville 「Hillsboro United Methodist Church」にて
 Barbeque Supper and Auction

今日は夕方から、研究室のA先生に「Barbeque Supper and Auction」なる教会主催のイベントに留学生仲間揃って誘っていただいているのである。近隣の人々が持ち寄った品をオークションで販売し、売り上げは教会に寄付するというイベント。オークションに参加する人々はチケットを購入しなければならず、そのチケットにバーベキューディナーがついてくるそうなのである。「チケット代は、心配いりません。ワタシにまかせてくださーい」とA教授が太っ腹な事を言って皆を招待してくれたのだった。

私たちの住むエリアから車で走ること20分くらい、地図を頼りに目指したそこには、教会前の広場に大きな白と赤のストライプのテントが組まれていた。4時半くらいから夕食で、6時半からオークションなのだそうだ。御飯は、まるで給食のよう。発泡スチロール製の容器を受け取り、ずらりと長テーブルが並んだ向こうにはボランティアのおばちゃんたちが鍋を前にずらりと並んでいる。テネシーのピクニック料理としてメジャーなバーベキューや鶏肉のグリル、豆のオーブン焼き、コールスローサラダなどが並び、私たちは容器を差し出して「それ、ちょうだい」「あ、それはちょっとだけちょうだい」などと盛りつけてもらうのだ。最後には紙皿に盛られてラップにくるまれたケーキの数々も10種類ばかり並んでおり、面白い夕飯となった。教会主催ゆえ(?)、アルコールはない。アイスティーやレモネードをもらってきて、テントの下のテーブルで食べた。

バーベキューと言えば、つまりは"焼き肉"のようなものであると、そしてそのスタイルはどこもそう変わらないものであると、私はずっと思っていた。でも、どうやら違うのである。テネシー州における「バーベキュー」というものは、豚の塊肉を焼いた後に、細かく裂いたものなのである。私たちは眼にするときには既に細かく裂かれているため、本当に焼いたのか、それとも茹でたのかオーブン焼きなのか、それすらもわからない。大体、なんで細かく裂かねばならないのだ。謎である。

で、それをトマトソースやコールスローサラダと共にバンズに挟んでハンバーガーのようにして食べるのがこの地方の流儀なのだそうだ。話によると、いわゆる「バーベキュー」というスタイルなのはテキサスのスパイスを揉み込んだ牛肉のものなどらしい。場所によっては豚肉がメジャーだったり羊肉を使ったりとかなり形式は異なるのだそうだ。「丸ごとの焼き豚」が名物のところもあるとかないとか。
ともかく、そういう次第で私の目の前には豚肉の細切りの山盛りが置かれているのであった。バターの味のする身のつまったパンと、あとはサラダ類。名物のピーカンパイも持ってきた。

いかにも"大量に作りましたー"みたいな味のバーベキュー夕食。皆でわいわいやりながらつつくと美味しい。表面にぎっしりクルミが敷かれたパイの下側の生地はこってり甘いチョコレートクリームの層で、「……やられたー」と笑いながら、その甘さに舌が慣れてきている自分に驚いてしまったり。ベークドビーンズなんかもけっこう甘さが強いけど、こちらのデザートの甘さはやっぱり格別だ。男性陣は「こ、これ甘い……」「俺のも甘い……」と涙目になっていた。いや、でも、案外美味しいよ。もぐもぐもぐ(しっかり食べる私と息子……)。

森と草原の中みたいなところにある教会ゆえ蠅と蚊にちょっとばかり悩まされながら、ホタルが飛ぶ中オークションが始まった。売り物は食器や家具、アクセサリーから自家製パンやケーキに及ぶまで。以前から欲しいと思っていたサラダボウルの手頃なやつがあったので、私たちも入札にチャレンジし、7ドル50セントで無事にサラダボウルセットを落札した。「A先生の実家で採れた蜂蜜」なんてものまで出ていたので、それはだんなが気合いを入れてゲット。自家製ピクルス詰め合わせを手に入れた人あり、腹筋鍛錬マシーンをゲットした人あり、なんだかんだで真剣にオークションに参加してしまった私たちだった。早口で「はい、○番さん、いくらいくら、次○セントあがっていくらいくら、いますかー?」的な事をバンバン言われるので、私たちは15ドルと50ドルの区別すら危うくなってくる。16ドルのつもりで入札したら60ドルでした、じゃ洒落にならないのでけっこう必死だった。

最後には、A先生がどかどか入札して落としていたケーキやら紅茶やらピクルスやらを皆に分配してくれて、あれこれお土産抱えての帰宅。バザーとはまた違った面白さがあって貴重な経験をした気分。

9/8 (日)
だんな特製天津丼 (夕御飯)
フルーツパウンドケーキ
アイスカフェオレ

目が覚めると9時過ぎ。今日は私よりも早く起きていただんなが、居間で
「だんなはおなかがすいたよー」
とじたばたしていた。た、確かに昨日の夕飯は「バーベキュー」と銘打ってはいたものの(そして真実バーベキューではあったものの)、満腹を極めるというほどの分量でもなかったし、第一時間も5時頃と早かったため、今朝はひどく空腹になって目が覚めたのだった。息子も同様らしく、
「これ、食べたいなー、ぼくはおなかがすいたなー」
と、起きるなりテーブルの上のパウンドケーキを持ってきてアピールしている。昨日のオークションの商品だった、フルーツ入りのパウンドケーキだ。A先生の奥様が競り落として、「お土産にどうぞ」と留学生仲間にお裾分けしてくれたのだった。

チェリーやブルーベリーなどの洋酒煮がたっぷり入ったフルーツケーキはそれほど甘ったるくもなく大人っぽい味。ちょっとぽそぽそした生地には、ホイップクリームがとてもよく似合いそうだった。一切れずつ家族でつまんで、昼にはハンバーガー食べに行きましょう、ということに。

Nashville 「Charley's」にて
 6oz チーズバーガー コンボ
 (ポテトとドリンクがついて55セント引き!)

免許取得を目指し、練習にと私が運転しながら研究室まで車を走らせてみる。駐車の練習もちょっとばかりしたところで、研究室からほど近いハンバーガー屋でお昼御飯。平日の昼には学生たちでおっそろしく混雑する人気のハンバーガー屋さんだ。

数回来たことがあるが、毎回定価で買い物をしていた私たち。が、我が家に届くダイレクトメールの数々を見ているとちゃんとこの店の割引券がついてきていているし、更にはスーパーマーケット「Harris Teeter」の会員カードを見せると同様の割引がされることをやっと知るに至った私たち。割引内容は、「6オンスチーズバーガーのコンボを買うと、もう1個6オンスチーズバーガーをプレゼント!」というものだ。一人で入店して12オンス分のチーズバーガーを食べることは(多分)ないだろうけど、家族や友人と行ったりする分にはとても有り難い割引だ。そういうわけで、
「チーズバーガーのコンボを1つ、で、このチケットがあって……あとはポテトとドリンク2つつけて」
と注文。いつもは16ドルくらいになってしまう注文が10ドルちょっとで済んでしまってちょっと嬉しい私たちだった。

パンの切り口にはうっすらバター(マーガリンかもしれない)が塗られ、さっとその切り口があぶられて温かくなっている。上にはどっしりと巨大なハンバーグにとろけたチーズ。それだけが渡されて、客はワゴンに満載の野菜から好みのものを盛りつけて、自分でケチャップやマヨネーズ、マスタードやビネガーをどかすかかける。
「今日はマッシュルームな気分〜♪」
と、マッシュルーム山盛りにしたハンバーガーを作ってみたところ、期せずして目の前の我が夫も「今日の僕はマッシュルームハンバーガー♪」とか言っているのであった。我が家にマッシュルームバーガーのブームが一瞬到来したらしい。

マッシュルームの他に、ピクルスもトマトもレタスも積み上げてしまったところ、厚さが大変なことになってしまったハンバーガーをもりもり食べる。ジュースはドリンクコーナーで、これまた好きなだけ。アイスティー(甘いのと甘くないのと2種類ある)の脇には刻みレモンがたっぷり用意されていて、私は甘いのと甘くないの半々ずつ入れたアイスティーにこれでもかとレモン絞って飲むのがお気に入り。

だんな特製 天津丼
あら汁
日本きゅうり with マヨネーズ
ビール(Michael Shea's Irish Amber Lager)

今日の午後は高速道路にのってちょっと先のところにある「Japanese Food」なる日本食材屋に行ってみた。ここんところ肉食ばかりが続いていてさすがに魚ものが恋しくなり、
「マグロ……いや、白身魚をちょっとこう、中華風に……」
「いやいや中華風だったら海老……蟹……そうだ!天津丼にしよう!」
「おおー、天津丼〜♪」
という流れになり、それだったら顆粒の中華鶏がらスープとか筍とか長ねぎがあったら最高だよねぇということになったのである。

我が家からは車で20分ほどの距離にあるモールの一角にあるそのお店は、白髪頭の日本人のおっちゃんがやっている店だ。話によると「そのオヤジが毒舌」なのであるらしい。ちょっと戦々恐々としながらコンビニくらいの広さがあるその店に入ってみた。
「いらっしゃいませ〜♪」
おっちゃんもいるが、お兄ちゃんもいる。そのお兄ちゃん、おっちゃんの息子さんらしいがすこぶる愛想が良い。
筍の水煮もあったし、長ねぎもあった。日本のと同じ品種のキュウリも置かれていて、思わず嬉しくなって買ってきてしまった。おでんの材料はあるし、カトキチの冷凍うどんもあるし、雪見だいふくもあるし、シャービックやフルーチェまである。他の日本食材屋では1〜2種類しか見かけない味噌も何種類もあり、八丁味噌も見つかってすごく御機嫌な私たちだった。想定以上にあれこれ買い物。福神漬けや壺漬けまで買ってしまった。

しかも帰る時には、「息子さんに、どうぞー」と小さな箱入り「アポロ」をくれ、更には
「アラ、あるんですけど使います?冷凍庫にタラのと鮭のが入ってるんで、宜しければ1つお持ちください」
と、無料でアラを分けてくれた。ええ、ええもう喜んで!と鮭のパックを1つ貰ってきた。ただでさえ魚は種類がないし高値だしでなかなか手が出せなかったところ、無料のアラはめっちゃ嬉しい。今日の夜はアラ入り味噌汁決定。

「夫婦のうち、よりその料理を愛している人がその料理を作るべし」
の我が家に掟にのっとり、言い出しっぺのだんなが天津丼を担当(というか、天津丼は常にだんなが担当)。私はあら汁を作り、買ってきたばかりのキュウリを刻む。ちょっと濃いめに味噌を溶いたあら汁には大根と人参も放り込んだ。キュウリはマヨネーズで。

長ねぎと筍と、缶詰の蟹肉をざっと炒めてからたっぷりの溶き卵と和える。あとはサラダ油を多めに敷いた鉄鍋に卵液を流し、ホットケーキの要領でふわふわと焼き上げていく。

今日のだんなは凄かった。我が家の鉄製フライパン"スキレット"は、実はスキレットではなく"チキンフライヤー"という深さがかなりある鍋なのである("チキンフライヤー"という名称はいまいちメジャーじゃないので"スキレット"と代わりに書いていた)。スキレットは欲しくて欲しくて唸っているけど、ここ数週間財政難が続いていて購入を見送っているところなのだった。基本的な使い方は同様なので、その"チキンフライヤー"をスキレット代わりにずっと使っていたところだったのだけど……深さがあるのでスキレットとは重さが違うのだ。スキレットですら3kgを越えるような重量感なのに、チキンフライヤーときたら5kg以上はありそうだ。

本日のだんな、その超重量鍋を中華鍋のように動かしてほいほい卵を裏返して焼いていたのだった。めっちゃめちゃ重そうなのである。黒光りする鍋から浮き上がって180度回転して美しく着地する卵。我が夫の姿は、「料理をしている」というよりは「筋力増強トレーニングをしている」という感じだった。しかもその負荷は腕の限界ぎりぎり、という感じ。
すごいすごい、今日のだんなはスタン・ハンセンのようだった。超重量鍋をふるうその二の腕で、そのうちラリアットとか始めそうで怖い。

グリンピースなどの買いおきはないので、ほんのちょっとだけ見かけが寂しい天津丼になった。が、味はばっちり。日本で食べる以上にこんがり焼けた卵のふわふわさは旨かった。缶詰を使った蟹肉も、ぶりぶりした身がたっぷりでなかなか良い感じ。筍や長ねぎがたっぷり入った豪華な天津丼だった。
「すんばらしー」
「うん、我ながら旨い〜」
「これはね、金が取れるよ、金が取れる天津丼だよ」
と商人のような事を言いながら黄金色の丼を堪能した。鮭のアラたっぷりの味噌汁も、回転寿司屋を思い出させる懐かしい味。しかもテーブルの中央にはシャクシャクとしたみずみずしいキュウリ。苦くないキュウリ。シナシナしてないキュウリ。色々と感動多き今日の食卓だった。