食欲魔人日記 02年10月 第1週
10/1 (火)
清蒸鮮魚 (夕御飯)
フローズンストロベリー入りコーンフレーク with 牛乳

朝8時からの授業に出るために、朝7時からだんなは起きて台所でパタパタしていた。レンジがチーンという音と、湯を沸かしている音と、何かを啜っている音。レンジは加熱が足りなかったらしく、何度か再度ピピピとボタンを押して加熱し直していた。……うーん、冷凍御飯1パックの加熱時間という感じじゃないけど。

そこまで布団の中で観察しながら、でも起きなかった(起きられなかった)私。だんなが大学に向かってから数十分してやっと起きだし、名探偵よろしく台所に残るものを眺めて推理。
「この、海苔のついた器……スプーン……そうか、だんなの朝食は"お茶漬け"だ!」
「違います、のりたまふりかけの、御飯です」(後にだんな語る)。
「お茶漬けと仮定して……しかし加熱時間は御飯1膳分のそれとは考えられない。……そうか、昼御飯用におむすびを握って行ったんだな!」
「はい、おにぎり3つ作っていきました」(後にだんな語る)。
推理とかしてないで、一緒に御飯食べて弁当も作ってやれよ妻、という気がしないでもない。ごめんねーだんなー。

しばしして起き出した息子と一緒に朝御飯。
「イチゴのカリカリなんか、いーんじゃない?」
と今日もフローズンストロベリー入りコーンフレークをリクエストされて、二人でばくばく食べる。フローズンストロベリーは牛乳に浸して数分、柔らかくなったところがけっこう旨いのよね。でも、それだとフレークはすっかりふやけて美味しくないのね。難しいところだ。

テーブルパン
牛乳

今日は朝から小雨。冷房が必要なくなり、半袖で適度に快適という今日の気候。徐々に秋っぽくなってきたような気がするけれど、まだまだ温かい(暑い)アメリカ南部地方なのだった。本当に冬はやってくるのだろうか。

昼御飯に、冷凍してあったテーブルパン(ロールパンみたいなやつ)を取りだして、オーブンで温めつつ解凍。ジャムだのピーナッツバターだのをつけて甘くして食べるのも何だかなぁ、という感じなのでおかず代わりに冷凍パスタをチンしてみた。面白がって4つも5つも色々な種類を買ってきたやつが(スーパーで"3個で5ドル!"なんてセールをしょっちゅうやっているのだな)冷凍庫の奥に突っ込まれている。肉団子スパゲッティ、ミートローフとマッシュポテトのセット、トマトソースの魚介パスタ、などなど。えいやっと取りだしてみたのがチキンを乗せたクリームソースンの幅広パスタ。"アルフレッドソース"というのはアメリカでは非常にメジャーなパスタソースの名前のようで、スーパーのパスタソースコーナーでもレストランでも頻繁に見かける名称だ。生クリームたっぷりという感じの濃厚なソースだ。

5分チンしたらプラスチックトレイにかぶさるビニールを破いて食べるだけ。息子と2人で分けるにはちょっと物足りなさがあるくたくたに太いパスタを適当につつきながらパンを囓った。1食2ドル以下だと思うと、「ああ、ジャンク、とってもジャンク、すこぶるジャンク」と苦笑いしながらもついつい美味しく食べてしまう。

Tilapiaの「清蒸鮮魚」
豚肉とキャベツの中華風炒め
大根と油揚げの味噌汁
羽釜御飯
ビール(コロナ)

「Alpha Bakery」のバニラ味ロールケーキ
アイスカフェオレ

こう、毎日肉料理ばかり食べているとさすがに魚が恋しくなる。で、オーガニック食材チェーン「WILD OATS」で美味しそうな白身魚を買ってきた。このあたりにしては珍しく、冷凍ものじゃないらしい。値札には「Tilapia」と書いてあった。
「ティラピア?……ピラニアの仲間?」
などと思いつつ、まぁともかく旨そうなので買ってきた。家に帰って調べると、アフリカ原産のカワスズメ科の淡水魚、なのだそうだ。日本名では"イズミダイ"(泉鯛)という名前で地方によっては養殖もされている魚だとか。ピラニアと名前は似ているけど全く違う種類だということだ。
この地域では、メジャーな淡水魚であるキャットフィッシュ(=ナマズ)よりも、ちょっと扱いにくい魚という位置づけのようだ。

ともかく、味も何もわからんので中華料理の「清蒸鮮魚」なるものにしてみることに。皿に青葱を敷き、切り身のその魚を乗せてから紹興酒をぶっかけて15分ほど蒸していく。仮住まいの我が家には蒸し器などというものは存在していないので、ダッチオーブンの底に小皿を沈めて台にして魚を乗せた皿を乗せてみた。うむ、良い感じ。

蒸しあがった魚の下にはスープがたっぷり出ているので、それを別鍋に入れて熱して塩胡椒と醤油と紹興酒で濃いめの味に調味。それを魚の上からぶっかけて、更に煙が出るほど熱した胡麻油を大さじ1ほど、ジャーッと音高く全体にかける。葱と針生姜を添えたら完成。

「魚料理だけじゃ、ちょっと物足りないですかねぇ?」
魚の準備をしながらだんなに聞いてみると、
「では私が何か作りましょう」
と、一緒に台所に立ってくれた。

だんなは「豚肉をちょっと炒めるかなー」と冷蔵庫を覗きつつ、
「今、野菜何があるの?」
とのこと。
「古いキャベツと、すごく古いキャベツがあります」
と、素直に答えてみた。ずっと調理しようしようと思っていて冷蔵庫に放置していたキャベツが1/3個分ほど、更にそれを人様に喰わせるわけにいかないので先日餃子パーティーをした時に新たに1個買ってきた残りの1/2個分ほどが揃って冷蔵庫に入っていた。だんなにすごくイヤな顔をされた。わ、私だって気になっていたんだってば。

かくして、魚料理ともうひとつ、豚肉とキャベツの中華炒めがテーブルに並ぶことになった。オイスターソースベースの炒め物は、中華鍋がなくても電気コンロとスキレットでシャキシャキと良い感じに。

淡水魚であるティラピアは、やっぱりちょっとだけ泥臭さが感じられた。でも淡白な身はふわふわと柔らかくて食べやすい。一応中華料理っぽい味になったし、とりあえずは満足。この臭みがちょっと倦厭されている魚のようで、主にはバターソテーなどにするらしい。この魚と仲良くなるにはまだちょっと経験が必要そうなのだった。
……ピラニアも、1回くらいなら食べてみたいかも。

10/2 (水)
だんな特製カツ丼 (夕御飯)
「Alpha Bakery」の
 チョコクロワッサン
 プレーンマフィン
牛乳

昨日、「WAL☆MARTに行く"ついで"にAlpha Bakeryも行きましょう〜」と、お気に入りパン屋さんに行ってきたのだ。両店の距離は10km以上離れているような気がするけど、気にしない。

台湾人夫妻がやっているこのお店、子供を連れていくとポケモンの型で焼いたクッキーを1枚おまけにくれる。素朴な素朴な味の手作りクッキーで、いつもほんのり嬉しくなる(そして息子に頼んで私も1口囓らせてもらう)。
お気に入りのロールケーキ1本と、今朝食べるためのパンを買ってきた。チョコクロワッサンは2ドルちょっと、プレーンマフィンは1ドル弱。菓子パンはどれも日本の価格と変わらないほど高価だけど、ボリュームもある。

柔らかいミルクチョコがたっぷり詰まったチョコクロワッサンは、表面にもチョココーティングが施されている。甘すぎずこってりしすぎず、非常に良い感じ。両手で持たなきゃいけないような巨大なチョコクロワッサンを食べ、柔らかくポソポソとしたプレーンマフィンを半分ほど囓ったら満腹になってしまった。

だんなを大学に見送ったところで食事をそこで中断し、数時間後に残ったマフィンを再び囓る。もう朝御飯だか昼御飯だかわからなくなったけど、とりあえず夕方まで腹持ち充分。

だんな特製 カツ丼
味噌汁代わりの小うどん(ひやひや)
ビール(コロナ)
スイカ

夕方。さる事情で私は不機嫌だった。だんなに対してプリプリ怒っていた(喧嘩というわけじゃなく)。
「んもぅ〜、んもうぅぅぅぅぅ〜」
とプリプリしていたところ、
「おゆきさんが、怖いよぅ〜」
と泣きそうな顔をする我が夫。

「僕は、どうすれば良いでしょう?」
としおらしく聞いてきたので
「とりあえず美味しいカツ丼を作りなさい」
と命じてみた。

先日カツ丼を食べに行ってカツ丼がメニューになく、串カツ喰って帰ってきた……ということがあった。なんとなくカツへの郷愁は癒されたけど、カツ丼への飢えはやっぱり今ひとつ収まらなかったので、昨日カツ丼つくろうよと豚肉を買ってきたのだ。
カツとカツ丼はおおいに違う。何しろ私は妊娠時に
「トンカツは油っこいけどカツ丼は油っこくないから食べられるよ」
とよくわからない理由でカツ丼を食べまくっていた。しかも「カツ丼は、別腹」。もう何でもありである。カツ丼サイコー。

約束通り、だんなはカツ丼を一人で作ってくれた。
「割り下って、どんな分量なんだっけ?」
「ん〜、まずは……だしを取るか」
と奮闘し、バットをずらりと並べて厚切り豚肉を揚げてくれた。

でかかった、でかかった。
だんなは、丼にする直前に揚げたカツをさくさく切っていて「こりゃ、でっかいなぁ」と思ったそうである。
私は、どんぶり代わりにカレー皿に盛られたカツ丼を見て、「こりゃ、すごいわぁ」と思った。カツの大きさが、普通に想像するカツ丼の倍くらいある。盛っているのもどんぶりじゃなくてちょっと深さのある洋皿だったりするので、もはや「カツ丼」というよりは「Katsu-Don」とでも言いたくなってくる。そして、味噌汁代わりに、だしを多めにした小うどんを、少々(昨日だんながうどんを打っていたのだった)。

鰹だしをとって、しっかり作ったカツ丼は不味いはずがなかった。いや、美味しかった。すんごく、美味しかった。
「そうそう、これこれ、こういうカツ丼!」
「ちゃんとカツ丼だー!」
「かつどん?おいしいねー!」
と家族中大騒ぎだった。さすがにハーフサイズの大きさでも息子には多すぎたようで、小さなサラダボウル1杯分のカツ丼が後に残った。
これは私が明日のお昼御飯にでも美味しくいただくことにしよう。

10/3 (木)
吉野家(もどき)牛丼 (夕御飯)
教会にて
 バターケーキ
 チョコレートケーキ
 バナナ
 コーヒー

毎週木曜日の午前中は、教会主催の外国人相手のカルチャースクール。息子の風邪が理由で2週間休んだ後の、久しぶりの教会だった。ばたばた準備して何も食べずに出かけていった。

教会地下の広い集会場には、いつもワゴンにスナックが用意されている。コーヒーや紅茶、湯が用意されて顆粒のココアの素なんかもあったりする。紙コップにドリンクを入れ、紙皿に何種類かのスナックを取ってから前半の英会話練習に臨むのが常なのだった。
今日のワゴンの上もまた、笑っちゃうほどアメリカチックだった。シャトー型に成形されたにんじんや、小房に分けられたブロッコリー、それらはその形で袋に入れられてスーパーで売られているのだけど、茹でて皿にゴテッと盛りつけ、中央にハーブ入りのディップをどかんと置いている。その隣にはリンゴ。リンゴの山の中央には、何故かピーナッツバターの容器が。そしてバターケーキやチョコレートケーキ、シリアルなどなど。

カッテージチーズみたいな味のする軽い食感のバターケーキに、ピーナッツバター風味のもっちりしたチョコレートケーキ。薄いコーヒーにミルクをだばだば入れて飲みつつ講習。

ミニカツ丼(昨夜の残り)

12時、家に帰ってきた。息子も教会の保育所(講習の間は無料で預かってくれる)で散々遊んで御機嫌だ。
昼御飯は、昨夜の残りのカツ丼。小どんぶり一杯分くらいしかないそれを、息子と二人で半分こして食べた。

「半分くらいでいいかな?」
と息子の皿に取り分けようとすると、
「いや、違うの。もっと、もっと食べるの」
と言われてしまった。おぬし、カツ丼が好きか。好きなのか。
「うん、ぼく、カツ丼大好きだなー」
……あららぁ。

かくして、息子6、私4くらいの分担に分けてのミニカツ丼。私の取り分、大口開けての3口分くらいになってしまったけど、軽めの昼御飯としてはこんなもんだろう。
しっとりとしたカツも、だしを含みまくった御飯も、柔らかい卵もすっかり馴染んじゃって、これはこれで美味しい。

吉野家(もどき)牛丼
コールスローサラダ
きんぴらごぼう
豆腐と油揚げの味噌汁
ビール(コロナ)

だんな特製手打ちうどん(ひやひや)

すいか
アイスティー

「君の家の御飯、そろそろ食べたいよ食べたいよ」
ここ数日、Iさんが悶えているそうなのである。
だから、今日は牛丼作って呼ぶことにした。Iさんと、同じ住宅内に住むMさんも一緒に招待。

牛丼を作るにあたって、Iさんとだんなが恋しくて恋しくて煩悶している「吉野家」の味を目指してやってみることにした。同じ味ができるとは全く思ってないけれど、"3割くらいそんな味"程度にだったら近づけるかな、と頑張ってみた。

公式サイト内の「吉野家なるほど大辞典」を参考に。白ワインが入っているのは知っていたけど、かなりの量が入るらしい、と理解した。更にあれこれネットサーフィンなどした結果、
・ 白ワインがたっぷりと
・ 醤油は味付けの基本ではなく、隠し味に毛の生えたレベル
・ 生姜とにんにくが入る。スパイス類がけっこう入る
・ 味醂や日本酒はあまり使われていない、らしい
などということをするとその味に近づくような感じである、という半端な情報が揃った。

水と白ワインを同量くらいにして煮立たせる。あの牛丼のタレっぽい味になるまで薄口醤油を投入。更に砂糖もけっこうたっぷり投入。ワインの酸味が強いように思えたので更に砂糖と醤油を投入。更に「あ、やっぱり鰹だしも入った方が良いのでは」ということで、昨夜カツ丼用にとだんなが作った割り下も混ぜちゃう。もうこれで、次に同じものを作ろうとしても絶対無理、という配合になってしまった。結局、薄口醤油以外にも濃口醤油も混ぜてしまったりなんだりと、自分でも何をどうしているのかわからなくなった。

調味料の味が大体固まったところで牛肉投入。先日電動スライサーを購入したものの、柔らかく断面積が小さな肉のスライスはいまいちうまくいかないということが判明してしまったので、1.5ポンドほどの肉を全て手でしこしこ薄切りしたのだった。牛肉入れてアクを取りつつ煮込み、次は玉ねぎ。
「やっぱり玉ねぎのシャキシャキ感が少し残るくらいがいいかしらねー」
「いやいや、くたくた玉ねぎとシャキシャキ玉ねぎの混合が好ましいから時間差で投入でしょう」
などとだんなと言い合いながらの玉ねぎ投入だった。

できあがったものは、「なんとなく吉野家風に味わえなくもない」くらいの、"ニセ吉野家"というか"エセ吉野家"というか"全然違う吉野家"というか、味は悪くないけど吉野家というのとも違うわね、という煮物になった。まぁ……不味くはないから、いいか。

米は我が家で炊ける限界の4合プラス、Iさん宅から炊飯器まで借りて計6合炊きあげた。肉は800g以上もあっただろうか、大鍋にたっぷりの牛丼の具ができた。つまみにと、きんぴらごぼうとコールスローサラダ。更に中鍋にたっぷり10人分ほどの豆腐と油揚げの味噌汁。もう、「どんとこーい」という感じ。どんな大食らいでも、来客2人はしのげるはずの量だった。こんな大量の牛丼の具を煮たのは初めてだ。

7時にビールを持ってやってきた2人、食べた食べた食べた。呆れるほど食べた。
ろくなどんぶりが無いから、大きなラーメン用どんぶりにたっぷりの牛丼である。大食い選手権じゃないんだから、という外見の巨大牛丼がテーブルに並んび、それを来客2人と家族3人、合計5人がテーブルを囲んで無言で食べる食べる食べる。そこ、そこの2人、なんでラーメンどんぶり牛丼かっこんでお代わりしているんだ。6合炊いた米が大人4人で何でほとんど空になるんだ。味噌汁は何故残らないんだ。私は超常現象を見た気分だった。

しかも。しかも、
「うどん食べるぅ〜?」
と言ってだんなはうどんを茹でているのである。それを皆して啜っているのである(私も含めて)。
「良く喰う客人は、本当によく食べる」
を改めて感じた恐怖の一夜なのだった。

10/4 (金)
地元高校の"スパゲッティー サパー" (夕御飯)
「Alpha Bakery」の
 バニラロールケーキ
アイスティー

朝からロールケーキを食べるのはいかがなものか……と思いつつ、そろそろ喰わないと固くなっちゃうだろうロールケーキが冷蔵庫に入っていたので朝っぱらから喰っちゃうことにしたのだった。何回食べても何本食べても飽きぬケーキがとりあえず近隣(10マイルほど)で手に入るということは多分幸せなことだ。アメリカ飯好き好き!な私であってもスーパーの極彩色ケーキを買う気には今ひとつなれない。

夏の間は日本食材屋で入手した麦茶パックでせっせと麦茶を作っていた。さすがに涼しくなってきたので麦茶作成をストップしたところ、冷蔵庫にある甘くない飲み物ときたら水かビールかという感じ。市販のアイスティーは歯が抜けるほど甘ったるかった。
で、最近になってアイスコーヒーとアイスティーもせっせと作るようになった我が家。日本にいるのとあまり代わらない冷蔵庫の飲み物事情なのだった(あ、でもフルーツジュースは安いのでガンガン買っちゃうんだわー)。

Nashville 「Chinatown Restaurant」にて
 Luncheon Specialties 「Cashw Chicken」 $5.15

「チャーハンがちょっと恋しいですね」
「確かに」
ということで、今日のお昼は大学あけただんなと一緒に近所の中華料理店へ。一品料理でチャーハンとスープを頼んでそれで良いですかね、とメニューを眺めたところ、ランチセットの案内が目に入った。おかず一品選ぶと、チャーハンと春巻き、3種の中から選択で1種のスープがついてくる。おおむね5ドル前後と、けっこうお得なのだった。

私は酢豚が大好きなのである。が、アメリカに来てそのテの"甘酸っぱいタレ絡め"ものは大変危険なものであると何回かの経験を通して学んできた。
市販のタレを使っているようなものに出くわすと、これがもうちゃぶ台ひっくり返して吼えたくなるほど不味いのだ。赤くギラギラと怪しい色に輝き、もう何が何だかわからないようなねっとりした甘味がついている。酢からくる酸味というより、クエン酸でも溶かしてるんじゃないかというとんがった酸味。酢豚が大好きなだけに、このタレは悲しかった。

で、「Sweet Sour Pork」などというそれっぽい名前のおかずがあったにも関わらず私は「Cashw Chicken」を注文。カシューナッツとチキンの炒めだったら塩味ベースだろうし、それほどハズレはないように思われた。
小椀に卵スープと小皿に春巻がやってくる。そして丸い平皿にどかんとおかずが盛られ、隅に椀をかぶせたような丸い形でチャーハンが。チャーハンの量がやや少なめだったのが残念だったけど、5ドルにしてはそこそこたっぷりの料理だった。

チキンとカシューナッツの炒めは、私の期待どおりにシンプルな塩味ベースの炒め物。ほんのりオイスターソースっぽい味が漂う。そしてセロリとクワイがたっぷりと。全体的にシャキシャキカリカリとした歯ごたえが楽しいおかずだった。御飯が進んでなかなか旨い。
そして、だんなが頼んだ「Sweet Sour Pork」は、イヤな予感が的中した真っ赤なギラギラソースものだった。揚げた肉も野菜も旨そうだ。実際旨い。でも、素材に絡まるタレはあのコッテリギトギト系甘さのいただけないものだった。
もしかして、ここに住んでいる限り美味しい酢豚は喰えないのかしらん。
ラスベガスやニューヨークに旅行に行った時に旨い中華をたらふく食べようと誓った私だった。

A先生の息子さんの高校にて
 スパゲッティ サパー

「チケットがいっぱいあるので、もしも良かったら来てください」
と、数日前、A先生が留学生仲間にチケットを配っていた。
A先生のご長男が通う高校で、本日フットボールの試合があるそうなのである。ご長男(ジョン君。美形なんだ、これが)で、その試合の前に"スパゲッティ サパー"が供されるのだとか。体育館を使っての大がかりなものらしい。
「食事だけでも全く問題ありませんし、来られるならどうぞ、という軽いものなので」
ということで、食事目当てに行ってしまう私たちだった。ジョン君がスタメンだというフットボールの試合にも興味津々だけど、何しろ明日はピクニックの予定なので弁当の仕込みがあるのだ。

午後5時に到着した体育館は大変なことになっていた。父兄たちがボランティアで集まってやるようなものかと半ば思っていたけど、全然違う。

広い広いフロアの入り口付近にはいくつもの島に別れて夕食を供する長テーブルが置かれ、おそろいのエプロンをつけた人が何十人も中で動いている。その奥には更に広大なテーブルと椅子の数々。ざっと500人くらいが一斉に食事できるような状態になっていた。高校のシンボルカラーである白とえんじの配色で風船が各テーブルに飾られたり旗が置かれたりと大変華やかだ。私たちからすると、"これは高校のイベントじゃない"、という感じ。とにかく大がかりで本格的なのだった。

そしてメニューは1種類のみ。
凹凸のついたワンウェイ容器に麺をどかーっと入れてもらい、ソースをだばだばーとかけてもらい、そのまま流れ作業でサラダが盛られ、パンが添えられ、最後にはしっかりチョコレートケーキもついてくる。トマトソースの横にチョコケーキがどかんと乗せられ、皿の上は大変なことになった。ドリンクは水か紅茶かレモネード。

「おっきいパーティーなんですねぇ」
と会場で出会えたA先生に言ったところ
「あっはっは、大きいでしょー」
と返された。こういう形の会は、アメリカでは珍しくないことらしい。バックにチェーン飲食店がつき、夕食を供し、そのチケットは1人5ドル。学生たちの家族のみならず、私たちのような謎な繋がり(学生のお父さんの仕事仲間)の人間や御近所さんもやってくる。けっこうな収益になるそうだ。だから、寄付の意味もあってA先生はチケットを大量買いして周囲に配って歩いていたりしているようだ。

さて、ワンプレートの夕御飯。……苦笑いするほど、アメリカ爆発の味だった。
麺は「アルデンテ?それはどこの国の言語ですか?」というほど、絶妙のくたくたな茹で方だった。もう、膨れちゃってぶちぶち切れちゃう。それでも気にせず、スパゲティをメインディッシュにしちゃうところがすごい。
トマトソースはやたらと酸味ばかりが強く(某社の瓶詰めソースの方がよっぽどまし)、山盛りサラダの野菜は美味しかったけどドレッシングはやっぱり酸っぱくて、口が*の字になってしまう。ヌガーのようにネバネバするチョコレートケーキはやたらとヘビィで、皿の上は悪い意味での"アメリカ飯"が凝縮されているのだった。旨い飯もいっぱいいっぱいあるアメリカだけど、こういうところもやっぱりアメリカなのだった。もう本当に笑っちゃうような味だ。

周囲はおばあちゃんあり、お子さまあり、学生たちもあり、とそりゃもう賑やかなのだった。そしてホストは学生たち。白いシャツにピッとえんじ色のネクタイ締めた男子高校生たちが
「飲み物のお代わりはいかがですか?」
「このお皿、下げても良いですか?」
なんて言いながらちゃっちゃと動いているのであった。なんかちょっと感動。
「この高校はネ、理念の第一が"紳士たれ"なんですよ。学業は、二の次」
とA先生が笑っていた。

そして、目の前にはスタイル抜群の金髪チアガールおねぇちゃん達もうじゃうじゃ通る。
「すっげー」
「高校生の体型じゃないよねぇ」
「ムチムチしてますねぇ」
味覚の保養は今ひとつだったけど、目の保養はばっちりな私たちだった。

10/5 (土)
今日はピクニック♪ (昼御飯)
お弁当を作りつつ、つまむ
アイスティー

今朝は6時半起きで弁当作成。だんなは6合強の御飯を炊いてせっせと20個のおむすびを作成し、私は山のようなミニハンバーグや卵焼きを作った。

日本から持ってきた息子用の絵本『ぐりとぐら』をさんざん読んで覚えてしまい、そのフレーズを
「ぼくらの名前は せりあとかばば」
「この世で一番好きなのは」
「お料理すること 食べること」
「せりかば、せりかば」
などと言いながら台所をばたばたと動く。

「そうとも、弁当づくりのせりあとかばば」
「ケチじゃないよ せりあとかばば ご馳走するから待っていて」
そりゃもう、大変な量のお弁当ができたのだった。

朝御飯は
「わ、私にもおむすびをひとつ〜」
とか、
「ミニハンバーグ、つまんじゃえー」
とか、作ったものを脇からぽいぽいつまんで済ませてしまった。今日はみんなでピクニック。

我が家のお弁当
 おむすび(ごはんですよ入り・鮭胡麻まぶし)
 ミニハンバーグ
 茄子の揚げ煮
 葱入り卵焼き
 タコさんウィンナー
 ハムチーズ巻き
ビール・麦茶・オレンジジュース、などなど

本日は、留学生仲間総勢10人で「Natchez Trace ピクニック」。
ミシシッピ州Natcez(ナチェス)から、テネシー州Nashvilleまでの450マイルほどの道は、古く先住民の時代から物の輸送や人々の移動に使われていたらしい。現在はすっかり舗装されて車で移動できる「Parkway」なるものになっている。

中山道と旧中山道のように(?)、「Old Natchez Trace」という古い道もあり、それは現在の道路と絡まりあいながらトレッキング用の道が作られている。新道は片側1車線だけの、草原や森の中を突っ走る風光明媚な素敵な道なのだそうだ。そこここにキャンプエリアやピクニックエリアが整備されていて、もうこれはピクニックに行くしかないという感じ。
で、声をかけたら留学生仲間が全員参加ということになったのだった。
全員が弁当を持ち寄るのは大変と、既婚組が"家族分×1.5"量くらいのお弁当を作ることにし、独身組がドリンクや皿、フォークなどのその他の準備を担当。9時集合で、車4台連なって50マイルほど離れたピクニックエリアに行くことになった。

午前10時半到着。我が家もそうだったけど、皆さん空腹だったようで
「とりあえず、飯!」
という展開に。しっかりビールまで用意されていて、そのまま立食パーティーのようになってしまった。
駐車場から数十メートルの草原を下って林の中へ。そこにはテーブルとベンチのセットが5組ほど置かれて鉄製の小さなバーベキュー台なんかもある。ベンチの脇10mほど先には膝くらいまでの深さの小さな小川。人気は他に全くなく、なんとも良い感じの空間だった。3つ並んだテーブルは昨夜の雨でちょっと濡れていたのでレジャーシートをテーブルクロス代わりにして、各自持参したお弁当をずらりと並べる。

私が作ったのは、ミニハンバーグと茄子の揚げ煮、葱入り卵焼きにタコさんウィンナー、ハムとチーズのロール巻き。
「お弁当といったら、これでしょー」
と、昨日のうちに赤いウィンナー(←タコ化するためだけにわざわざ探してきた私……)に切込入れておいたり葱を刻んだりしておいてみた。胡麻油で香ばしく焼いた卵焼きと、山盛りのミニハンバーグ。しっかりミニ容器にとんかつソースも詰めて持っていった。茄子の揚げ煮は巨大な米ナスで作ったらちょっとばかりモニャモニャとした食感になってしまって和ナスで作るのとちょっと違った風情になった。和ナスの方がグニャグニャにならずに美味しくできるような感じ。
そして、だんながたっぷりのおむすびを。鮭と胡麻をたっぷり混ぜ込んだ鮭おむすびを11個に、昨日日本食材屋で探して買ってきた"ごはんですよ"を詰めた海苔佃煮むすびを9個。

家にフライヤーがあるH夫人は、おむすびの他にたっぷりの揚げ物を持ってきてくれた。鶏の唐揚げにトンカツ、海老フライ。Y夫人はサンドウィッチと焼きそば、鶏の照り焼きと卵焼きとほうれん草の胡麻和え。全家族、たっぷりの料理を作ってきたのでテーブルの上は大変なことになった。一同、懐かしい"日本のお弁当"な光景に大歓声で乾杯。

昨日台風が通り過ぎ(昨日の午前中はすごい雨風だった)、今日はすっかり良い天気。木漏れ日の中では若干の肌寒さも感じられたけど、青空の下で大勢でわいわいやりながら食べるお弁当はめちゃめちゃ美味しかった。ビールも旨かった。日本の味に飢えていた面々には"ごはんですよ"おむすびがめちゃめちゃ人気で、まずそれが無くなってしまったことに笑いつつ、全員すっかり満腹になるまでひたすら1時間ほどは食事に専念。

その後は、ピクニックエリアの近くを通るトレッキングコースを行く者あり、テニスを始めちゃう者あり、おしゃべりに興じる者あり、といかにもな遠足レジャーを堪能。子供たちは全員揃って川に入っていって頭からずぶ濡れになるほど遊んでいた。メダカサイズの魚がたくさん泳ぐ川には体長20cmほどの魚もいたりして、4時間ばかりさんざん遊び飲み食いしたのだった。何歳になってもピクニックは楽しい。

お弁当の残り
 唐揚げ・鶏の照り焼き・トンカツ・海老フライ
 茄子の揚げ煮
卵御飯
アイスティー

帰宅は午後4時半。早起きがたたったのか、私はそこで力尽きて爆睡。目が覚めたら7時だった。

さすがに食べきれなかったお弁当は、各自適当に分け合って持ち帰ってきた。我が家もちゃっかり他のお宅のおかずをちょっとだけ貰ってきたのだ。あとは、タッパーに詰めきれなかった茄子の揚げ煮の残りもある。
ちゃちゃちゃっと卵御飯にして、おかずを温めてつまみつつ食べる。もう一日中お弁当ものばかり食べていた今日なのだった。

10/6 (日)
ヨコイのスパゲッティー (昼御飯)
ヨコイのスパゲッティー
アイスティー

本日は、午後2時から観劇なのである。Nashvilleには年に4〜5度ブロードウェイミュージカルがやってくるらしいけど、9月末から数週間上演されることになっているのは「オペラ座の怪人」。
「怪人だ怪人だ」
「メリケンの怪人は面白そうだねぇ」
ということで、チケットを取ってみたのだった。

他のミュージカルはそれほど見たことがないくせに(ミス・サイゴンもウェストサイドストーリーも筋すら知らない)、オペラ座の怪人だけは学生の頃からちょこちょこと見続けている。日本で観て、数ヶ月後にイギリスで観て、更に結婚してからだんなと一緒に日本で観て、そして今回。日本語版のCDなぞも聞いているうちに、北島マヤよろしく"一人オペラ座の怪人"ができるくらいに覚えてしまった。が、一人じゃハモれない。
チケットは一番良い席でも75ドルと、なかなかお買い得な価格だった。

で、遅めの朝御飯を食べて昼御飯も兼ねちゃうことに。
今日は満を持してのヨコイのスパゲッティー。

日本を経つとき、「これだけは絶ってはいけない」というものは持ってきた。美味しい中国茶とか、美味しい薄口醤油とか、美味しい胡麻油とか。その中の一つがヨコイのレトルトソースと太い太いスパゲッティだ(ヨコイって?という方はこちらをどうぞ)。
名古屋独自のあんかけソーススパゲッティは、ソースも麺も名古屋文化圏以外では東京においてすら入手は困難だ。ましてアメリカでヨコイが売られているはずはない、かといって再現もほぼ不可能だ、ということで麺もソースもアメリカに持ってきた。
「2ヶ月に一度禁断症状が出たとして、5食分くらいあれば良いかしらね」
とか言いながら。

昨日のお弁当用に買ってきた赤いウィンナーは、幸いヨコイと好相性。更には「こうある事を予想して」と、だんなが冷凍ナゲットも入手しておいてくれたのでウィンナー&ナゲットという組み合わせの具になった。こういうちょっとチープでジャンクな具がヨコイのソースには笑ってしまうほど良く似合う。
スパゲティとは思えないほど太い太い乾麺を茹で、一度水にさらしてからたっぷりのバターで香ばしく炒める。アルデンテがまるで無視された工程でできあがった麺は、シコシコキュッキュとしているけどアルデンテ的な芯があるわけでなく、どちらかというと"うどん"に近い感すらある。上に炒めたウィンナーと温めたナゲットを乗せ、半熟に焼いた目玉焼きも。そして赤いピリ辛ソースを皿の円周に沿わせるようにたっぷりと回しかける。
おお、まごうかたなき、立派なヨコイのスパゲティだ。

ジャンクな具に似合う、少々のジャンク感漂うソースは相変わらずの旨さだった。トマト味ともミートソース味ともケチャップ味ともつかない相変わらずの不思議な味。"とろみがある"というよりは、やっぱり"あんかけ"スパなのだった。
名古屋食文化に慣れ親しんだ人にとっては、この地の生活はもしかしたら辛いものかもしれない。
「ヨコイないしね」
「味噌ソースなんかもないよね」
「きしめんなんか、まず見かけないしね」
「あ、でも、八丁味噌はあるよ」
「鰻も売ってるから"ひつまぶし"はできそうかも」
あーだこーだと言っている間に、私たちが名古屋食が恋しくなっているのであった。ああ、ひつまぶし。

だんな特製麻婆豆腐定食
 (麻婆豆腐・中華風コーンスープ・羽釜御飯・つぼ漬け)
ビール(コロナ)

息子をHさん宅に預かってもらい、だんなと二人で怪人観劇。
面白かった、面白かった。"ファザコン気味の歌姫クリスティーヌを巡って、幼馴染みのやさ男ラウルとオペラ座の地下に潜むオラオラ系怪人が恋人争奪戦を繰り広げる"が主題のこのミュージカルにおいて(←有偏見)、これまでは今ひとつラウルに魅力が感じられていなかったのである。いつもいつも
「もー、なんであんなヒヨヒヨした幼馴染みなんて放っておいて怪人の愛に全力で応えないかなー、クリスティーヌってばー」
という印象があったのだけど、今回のラウルにはかなりクラクラきた。かなりの上玉だった。あれならクリスティーヌもメロメロになっちゃっても仕方がない、という感じだった。
客席はほぼ満席、カーテンコールにはお客が全員立ち上がって口笛吹いて歓声挙げての盛況っぷりだった。

で、上機嫌で帰宅。息子は息子でHさん宅の娘さんと遊びまくったようで、
「あのね、砂あそび、したんだよ」
「アイスクリーム、食べたんだよ」
とすごく御機嫌だった。木曜日にはその娘さんが我が家にやって来る。Hさん夫妻がファントムを見に行くのだ。

夕御飯は、冷蔵庫を覗いてひき肉の残りやら何やらを見ただんなが
「こ、これは麻婆豆腐でしょう!」
と宣言して全面的に作ってくれてしまった。
「肉肉した麻婆豆腐が食べたくてさー」
などと言いながら、御飯を炊き、中華風卵スープまで作っていた。宣言通り、豆腐より肉が多いんじゃないかという麻婆豆腐は、辛さはほとんどなくてちょっと甘めで生姜たっぷり長ねぎたっぷり。汁気もたっぷりでトロンとした良い感じのとろみがついていて、御飯にかけて喰ったらこの上なく旨そうだった。事実、旨かった。

こちらで売られている豆腐、ものによっては「高野豆腐と普通の豆腐を何か混同していませんか?」という程に固かったりするものもあるけれど、美味しい豆腐は日本のものより美味しいくらい。本来の作り方で作っていて手抜きの仕方を知らないからなのか、大豆の味が濃厚でふわふわとした上質なものもけっこう売っていたりする。ざくざくと豆腐が混ざる麻婆豆腐は、日本で作るそれとほとんど変わらない味がした。ビール片手にかつかつ食べて、更に御飯にぶっかけて丼にして食べちゃう。

「……さて、おゆきさん。今日の"麻婆豆腐定食"、星いくついただけるでしょうか」
"プロジェクトX"ごっこが好きな夫の、今日のごっこは"チューボーですよ"ごっこだったらしい。
「えっとー。星、2.75」
「……星は半分単位です」
「じゃあ、星2つ半」
「いただきました!星、2つ半です!ジャジャン!」
パチパチパチパチ。家族全員で拍手。何をやってるんだか。

「で、星半分マイナスの理由はどこにありましたかね?」
我が夫、顔が心なしか堺巨匠になっている。
「麻婆豆腐、もっと辛い方が好き。あと、スープに塩気がちと足らなかったですね」
「そ、そうでしたか……」
だんな的には星3つの自信作だったらしい。そうそう、実際の"チューボーですよ"も、自信作って案外星3ついかなかったりするものね。うひひ。