食欲魔人日記 02年10月 第4週
10/21 (月)
Ken's(Nashville)にてサーモンスキンロール (昼御飯)
2日目のカレー
バタートースト
カフェオレ

昨日、15人分くらい作った(ルーを15人皿分溶かした)ポークカレー。何がどうしてそうなっちゃったんだか、残りは5人分くらいだろうか。今朝はカレーを小皿に盛り、バタートースト傍らにシチュー代わりに食べることにした。

パンは、旅行に出発する前日に購入し、サンドイッチにして持っていったやつの残りの食パン。もう10日近く前に買ったもの……なんだけど、カビも生えていないし、まだ柔らかくて食べられそうで、"食べられそう"というのがまた逆に恐怖だよなぁと思いつつ食べちゃうことにする。一体どんな防腐剤が入ってるんだろう。

2日目の朝のカレーは、そう、歌になっちゃうほど、旨い。

先日、「名古屋が大好きなせりあさん夫妻に」と、とあるURLを教えていただいた。
そこには、イカした名古屋ソングのflashがあり、同じサイトに山本正之氏の「涙のカレーライス」のflashもあった。山本正之氏と言えば、タイムボカンシリーズなのである。私の年代前後の生まれの人ならば、幼少期の文化形成時に「どっこかっらきったのっか、ごっくろっうさっんでっす♪タ〜イム、ボカ〜ン♪」だの「キラッキラッキラッキラ♪スタースター♪」なんて歌を聞いたことがあるはずだ。あのシリーズの作詞作曲から歌まで手がけていたのが山本正之氏。好きじゃありませんでしたかヤッターマン(と誰に問うてますか私は)。

名古屋ソングも良かったし、カレーソングも素晴らしかった。旅行前にそんなもの見てしまったものだから、我が家は雄大なアメリカ西部の風景を見ながら
「名古屋はええて〜♪メルサが〜あるがね〜♪」
とか
「カレーライスが〜♪この世にある限り〜♪」
などという大変に怪しいソングを車中で合唱しながら旅行していたのである。

とにかく、2日目の朝のカレーは歌になっちゃうほど旨かったのである。
(ちなみにそのflashは、Googleにて「涙のカレーライス flash」で検索すればすぐにヒットしますですよ)

Nashville 「Ken's Sushi Restaurant」にて
 Chirashi $11.25
 Salmon Skin Roll $3.50

息子が旅行前にかかり、だんなが旅行中にかかったのはどうやら風邪で、しかも消化器系にくるやつらしかった。だんなは今も腹が下っているらしい……と言っているうちに、私まで雲行きが怪しくなってきた。昨夜から、どうも腹具合が宜しくない。今日の午前中は、真面目にお腹が痛かった。私は家族の中で一番頑強な胃腸を保持しているはずなんだけど。ぐぬぬ。

そんな昼飯時、大学に行っているだんなから
「御飯どうする?一緒に食べる?」
とお誘いが。
体調を一番に考えるなら、「腹下しの時には絶食する」が得策なはずなのである。間違っても消化に悪いもの食べてる場合じゃないのである。でも私はすごーくちらし寿司が恋しかった。昨日から食べたかったのに日本食屋がやってなくて断念したのだ。体調は二の次なのだった。
「ケンちゃん、行きたいです」
と即答し、「Ken's Sushi Restaurant」に行くことになった。

ちらし寿司、11ドル25セント。安いとはいえないけど、具がたっぷりで御飯もたっぷりで非常に良い感じのちらし寿司である。今日も大ぶりに切ったマグロにサーモンにハマチにサバ、海老や蟹やみる貝、玉子までついてきた。全て2切れずつ入っているのが嬉しいところだ。

そして、つまみに「Salmon Skin Roll」も。旅行中、ラスベガスにいた時に、「ラスベガスのお寿司屋さんに鮭の皮を炙ったやつのお寿司があって、美味しくて……」とメールをいただき、旨そうだなぁと思っていた。この店の寿司メニューを見たら、まさにそのサーモンスキン寿司がしっかり載っていて思わず注文。

アメリカらしく、海苔が内側になっている海苔巻き。中身は炙ったサーモンの皮とゴボウとキュウリ。カリカリに焼けた鮭の皮が、妙に郷愁をくすぐってくれた。皮にはほのかに身もついていて、脂が乗ってて旨い。

このお店、アメリカに来て1週間目くらいの時に最初に来たのだ。そのときは「なんて巨大なちらし寿司なんだろう」と思ったし、だんなはだんなで注文した定食を食べきるのが大変そうだった。
今日もそういえば、私はちらし寿司でだんなは定食。前回と同じものを食べている。で、追加注文でサーモンスキンロールとか注文してもりもり食べているのだった。全部普通に食べきれる。さすがに満腹にはなったけど、「なんて巨大なんだ」とは思わなくなっていた私たち。

……日本に帰ったら、今度は「なんて小さいちらし寿司なんだ」と愕然とするようになるのかしら。怖いわぁ。

2日目のカレーライス
ほうれん草のサラダ
アイスカフェオレ

ちょっと遅めの昼御飯はさすがに腹持ちが良く、夕飯は簡単に"2日目のカレーライス"。ある意味、ごちそうだ。

かのカレーライスの歌には「そして冷凍して2週間後にまた3杯」なんて歌詞が出てくるけれど、"冷凍"なんてことはできない我が家である。3日ぐらいかかっても、途中でほんの少しげんなりしてきちゃったりしながら鍋を空にするまで毎日食べるのがカレーの神髄だ。今回は大量に作ったものの、胃袋が異次元に通じちゃってるような某さんが昨夜やってきたので、2日で喰いきることができた。きっとその某さん、我が家からタッパーに入れて持ち帰っていったカレーを今晩自分ちで食べているに違いない。

カレーには、福神漬けが欠かせない。アメリカにおけるカレー作成においてもっともコストがかかるのがカレールーおよび福神漬けなのだった。カレールーは1箱3ドル以上するし(安売りなんて絶対されないし)、福神漬けも小さな袋がやっぱり3ドル前後。アジア食材店に行くと、ゴールデンカレー、バーモントカレーといったなじみ深い日本のカレールーと共に、韓国語のパッケージのカレールーも置いてある。
英語学校でだんなが友人になった韓国人曰く、
「日本のカレーって美味しいよねぇ!韓国にもルーは売ってるけどね、あれは日本のをマネしてるのさ。ホント、日本のカレーは美味しいよ」
なのだそうだ。日本人はあの"日本カレー"に誇りを持って良いのかもしれない。

10/22 (火)
肉あんかけ豆腐 (夕御飯)
だんな特製 ごはんですよおにぎり

目が覚めると、一足先に目を覚ましただんながネットサーフィンしているところだった。
「おゆきさんもメール見る?」
と端末を譲ってもらい、そのままうきゃうきゃと私もネットサーフィンしはじめてしまう。気が付いたら1時間以上経過していた。

漠然と「お腹がすいたかも……」と思っていたところ、台所方面から「ほぉわちゃっ、ほわちゃっ」と奇声が聞こえてくる。ブルース・リーでも乗り移ったのかと一瞬思ったが、どうもおにぎりを握っている様子。そのうち、平皿におにぎり3個乗せただんなが帰ってきた。ブルース・リー憑依現象は終了したらしい。

「3個できたんだけど、おひとつどうぞ」
と"ごはんですよ"おにぎりを1つ分けてもらった。ここ数ヶ月、我が家及びその周辺では"ごはんですよ"おにぎりがブームなのである。1瓶3ドル以上する"ごはんですよ"はけっこう貴重品。ちなみにタラコは貴重品どころか希少品だ。牛焼き肉おにぎりあたりになると、割と簡単に作れるかもしれない(あ、でも焼き肉のタレは貴重品だ)。

だんなのおにぎり、手のひらが大きいものだから1個1個のサイズがかなり巨大で食べ応えがある。ありがたいことです、ともぐもぐやっていたら
「ちゃんと日記には"だんな特製"って書きなさいね」
と指示された。明記してなくても、我が家におけるおにぎりは90%以上がだんな特製。

焦げチョコクッキー
牛乳

おにぎり1個じゃ、さすがに午後にお腹がすいた。シリアル1皿の息子も同様に
「ねーねー、おなかがすいたよ」
とのこと。だんなは大学から帰ってきてお昼寝中。
今ひとつしっかり食事という感じじゃなかったので、数日前に買ってきたばかりの"カットして焼くだけ"のクッキーを試してみることになった。

スーパーマーケットの乳製品売場、バターやマーガリンの真横くらいの棚に、大抵そういうクッキーやビスケットの冷蔵生地が売られている。丸い缶に入っているのとか、平たいものだとか。ちょっと興味があったので、安売りしていたNetsle社の「Chocolate CHUNK Cookie」なるものを買ってきてみた。板チョコのように筋がついた平たい生地がクッキー20個分入っていて、350度(←華氏)のオーブンで12分から15分ほど焼け、とある。

こりゃ簡単だわー、と余熱したオーブンに放り込んで13分焼いてみた。
12分で、焦げた。
ヤバめの匂いがオーブンから漂ってきたので慌てて開けてみると、底と周囲がきつね色も焦げ茶色も通り越して黒色に。オーブンが悪いのか、説明書が悪いのか、私が悪いのか、とにかく簡単クッキー1回目は見事に大失敗になった。自分で生地から作るクッキーだったら、失敗してなるものかと頑張っちゃうからあんまりこういうことにはならなかったりする。

「おかーさーん、こげちゃったねぇ」
「ごめんよぉ……どうする?食べる?」
一応、中央付近は旨そうな色ではある。
「ポイポイしたら、だめだよー。いっしょに、食べよ?」
優しい息子だ。じゃあ、試しに食べてみようね、と牛乳飲みながら囓ってみた。要するに"カントリーマァム"系のクッキーなんだけど、まぁまぁそこそこ、美味しい。角切りのチョコがたっぷりだ。
結局、10個分焼いたクッキーのほとんどを食べてしまった。

数時間後、昼寝から起きてきただんなが寝ぼけ顔で言った。
「なんかね、パンが食べたくてパンを焼く夢を見たんだよ。そしたら、そのパンが焦げちゃってさぁ……」
焦げクッキーは、だんなの夢にまで影響をおよぼしちゃったらしい。重ね重ね、家族にすまん。

肉あんかけ豆腐
マグロの胡麻たたき
ほうれん草の味噌汁
羽釜御飯
つぼ漬け
ビール(ハイネケン)
韓国梨
緑茶

ポークカレーに引き続き、「和食が恋しいね週間」ということでマグロを買ってきた。今日の夕御飯は、とことん和風の味にしよう、とあれこれ作る。

3合の米を炊き、ほうれん草の味噌汁を作る。かつおと昆布でしっかりだしを取った、ほうれん草山盛りの味噌汁。
マグロは、先日"ウィリアムズ・ソノマ"の通販カタログで見かけた料理を参考にしてみた。マグロの塊肉に胡麻をたっぷりまぶして、スキレットで全面を軽く焼き付けてタタキのようにする。スライスしたら、わさび醤油をつけて食べる。
豆腐も食べよう、と、でも冷や奴じゃ面白みがないので肉あんかけに。
小鍋に醤油と味醂と砂糖と水を大体同量くらいずつ熱し、牛ひき肉を入れて煮る。アクを取ったら薄切り玉ねぎも放り込み、肉じゃが的な味付けにしてこってり煮たら、片栗粉でとろみをつけて豆腐の上からかけるだけ。温かい豆腐に温かいあんも美味しいけど、冷たいままの豆腐に温かいあんをかけるのもかなり美味しくて、私は後者の方が好き。

懐かしい味だらけの夕御飯、とどめに"つぼ漬け"も出したら、涙ちょちょぎれそうなほど嬉しい食卓になった。やっぱりこういう味に飢えていたんだなぁと思い知った。
「やっぱり、白い御飯って、美味しいよねぇ……」
「だから、僕は結婚前からそう言い続けているじゃないですか」
「私は毎食パンでも大丈夫だと、自分では思っていたんだけどねぇ……」
と、自分が日本人であることを再認識しながら御飯3膳喰った。だんなも3膳。息子は「まぐろ、まぐろ」「おとうふ、おとうふ」「おみそのスープ、おいしいねー!」とこれまた大騒ぎしながら食べていた。人生4年の息子も、やっぱり日本人なんだなぁ。

デザートは、韓国の梨。
アジアンマーケットに「Japanese Pear」と「Korean Pear」の2種類が売られていて、かなり迷ったのだけど外見が"豊水・幸水"系に似ていた「Korean Pear」を1つだけ買ってきてみた。Japanese〜は、小ぶりでちょっと固そうで、長十郎タイプ。みずみずしい梨が懐かしかった。でも、1個2ドル50セントくらいしたその梨、超高級フルーツだ。

ちょっと甘さは少なかったものの、シャクシャクした歯触りの梨は期待通りのものだった。洋梨も悪くないけど、このシャクシャク感はこういう梨ならではのもので、今日の食事の締めくくりにぴったりだ。

10/23 (水)
Blackstone Brewery(Nashville)にて「Stepherd's Pie」(夕御飯)
だんな特製手打ちうどん (釜玉)

私は「和食恋しやホームシック」は完治した模様(ついでに腹下しも完治した模様)。もう心は
「やっぱりパンケーキよねぇ」
「ステーキも美味しいわよねぇ」
と周囲の旨いものに気もそぞろなのだった。……が、だんなはまだちょっとリハビリが必要なようだ。
「うどん、うどん打とう、うんうん、うどんうどん」
と昨夜遅くになってからおもむろに粉を計量し塩を計量し水を計量し、うどんを打ち始めた。煮干しを水に沈め、
「明日の朝、だしを取ろうね。朝御飯、"あつあつ"で良ければ食べられるよー」
なんて言いながら。それを聞くと、うどんが恋しくなっちゃうのは人として仕方のないことだと思う。

で、今朝。私より早起きしただんなは、せっせとだし作りに取り組んでいた。更に、昨日のうちに"踏み"までやっていたうどん種を伸ばして切って、まるで厨房は"朝のうどん屋さん"の風景になってしまっている。いりこだしの匂いはぷんぷんするし。

できたてのうどんと、できたてのだしで、今朝は「釜玉」。
茹でたての麺をどんぶりに取り、溶き卵と絡め、醤油(かだし)をぶっかけて食べる。それが「釜玉」。
私もだんなも、好みは"ひやひや"一辺倒なのである。冷水でギュッと締めたうどんにキンキンに冷たいだしをかけて食べるのが一番好き。だんなが作った手打ちうどんを温かいまま食べるのは、今回が初めてだった。

旨い旨い。"ひやひや"も良いけど、"釜玉"はまた違った方向にやっぱり美味しいのであった。いつも「ちょっと固いんだよね」と言っていたうどんの歯ごたえも、温かいままだとぷるんぷるんでかなり良い感じだ。温かいだしも、ほわほわと香りが飛んでこれまた良かった。寒くなってきたこの季節、温かいうどんはじわじわと身体をあっためてくれる。
だんなの腕も上がってきたのか、今回のうどんはかなり良い出来具合だった。
私たちの周囲には、現在2人のうどん愛好者がいる。高松の大学を出た(だから昼食は毎食うどんだったらしい)Iさんと、A先生。A先生、鷲鼻碧眼の、がっしりと背の高いいかにもなアングロサクソン系容貌なのであるけれども、うどんが大好きなのだそうだ。

「銀座の"さか田"って店、讃岐うどんの名店ですよ。美味しいですよ」
と、2月に1度ほど東京に用事があって頻繁に渡日する先生に教えたところ、
「あ〜、○○日はやっていますか?……あ〜、お休みですか……」
と、毎回行く機会を狙うようになってしまった(先生、"用事"というのは首相官邸行くことだったりする人なのに……腰の軽いお人よ……)。大柄なアメリカ人が一人"さか田"にやってきて、おもむろに
「ぶっかけくださーい」
と注文していたら、それはきっとA先生であるはずだ。

Nashville 「Blackstone Restaurant & Brewery」にて
 Wings $5.95
 Stepherd's Pie $8.95
 Steak and Biscuits $9.50
 Kid's PB&J $2.00
 ビール(Harvest Ale) $3.60
 ビール(Chaser Pale) $3.60
 ビール(Nut Brown Ale) $3.60
 ビール(Red Springs Ale) $1.30
 コカコーラ $1.25

 NY Cheese Cake $3.95
 Hot Tea $1.25
 Coffee $1.25

アメリカ生活を送るにあたって、こと食生活に関して「本当に色々教えていただきました」と深々と頭を下げたいWebサイトがある。「The Kolis Inn」だ。
渡米直後に「このサイト、便利よー」と教えていただき、食材辞典などには本当にお世話になった。どうやら豚バラ肉は入手しがたいものである、と知ったのもこのサイトのおかげだ。また、コラム類が超面白い。だんなは毎日バックナンバーを読みあさって笑いころげている。

で、なんとここのウェブマスターのコリスケさんも私のサイトに遊びに来てくださっていたことが判明し、おもむろに文通を始めたのが数週間前のこと。最初に貰ったメールで「テネシーの地ビールもすごく美味しいですよ。ナッシュビルならばBlackstone Restaurant & Breweryが良いと聞いています。」と教えてもらい、ずーっと行く機会をうかがっていたのであった。

調べてみると、我が家からめちゃめちゃ近いのである。車で10分くらいだろうか。
和食リハビリも終焉を迎えたことだし、今日行ってみることにした。
地ビール屋なのに(当然客は地ビールを求めてくるはずなのに)広々とした駐車場があるのもすごいけど、そこにみっしり車が止まっているのもすごい。車に乗らなきゃどうしようもない土地だから(ダウンタウンというわけじゃないからタクシーも呼ばなきゃこないようなところだし、バスも今ひとつないし)、しょうがないといえばしょうがないけど、私たちも車で行っちゃう。

店頭に巨大なビールのタンクがいくつも置かれた、いかにもな風情の地ビール屋さんだった。料理のメニューも、豊富とは言えないけれど「パブのおすすめ!」なんていう旨そうなものがいくつもあったり、いかにもビールに合いそうなつまみがあったり。
まずは「Harvest Ale」という季節のビールと「Shaser Pale」なるものを私とだんな各々注文し、「Buffalo style hot wings served with blue cheese dressing and celery stices.」なる「Wings」を前菜に取った。

やってきた私の「Harvest Ale」は濃厚な焦げ茶色のこってり味、飲み応えのあるビールだった。「今年もこのビールの季節がやってきました!」なんて説明に書いてあって、いつもこの時期に作っているものであるらしい。だんなのものは薄い琥珀色の軽い飲み口、軽いけれどちゃんとコクもどっしりとある好みの味のものだった。1枚紙に刷られたビールの案内には、「World Beer Cup」や「American Beer Festival」といった品評会でシルバーメダル受賞、ゴールドメダル受賞、などということがあれこれ書かれていた。

ピリ辛の、タバスコ風味のソースが表面にまぶされた表面カリカリの鶏手羽肉がずらりと皿に並べられてやってきた。鶏と交互にセロリスティックが並べられ、皿の中央にはブルーチーズベースのさらりとしたソースも。ピリリと辛く香ばしいチキンウィングス、めちゃめちゃビールによく似合う。一緒に頼んだサラダにはハニー&ジャックダニエルのドレッシング。ほのかにアルコール臭漂う、ほの甘いドレッシングがレタスやにんじん、アルファルファがベースのサラダにかかっている。うん、ここは料理も美味しいぞ。子供用のメニューもしっかりあるし、"大人しか入っちゃだめよ〜ん"なんて雰囲気はない。

ぐいぐい焦げ茶色のビールを飲み干し、次に「Nut Brown Ale」を注文。ドライバーのだんなはちょっと控えめに「Red Springs Ale」を5オンス入りのサンプラーで注文していた。
そうそう、ビールメニューには「Sampler (5oz glass)all Six」なんてものもある。5オンス入りのその"サンプラー"というグラスに、6種類のビールが入れられてくるのだ。聞き酒みたいな感じで、これも面白そう。

メインディッシュは、私が「A traditional Scottish dish of beef, carrots, peas and corn topped with whipped potatoes & cheddar cheese.」なる「Stepherd's Pie」 。だんなが「Our homemade ale biscuits wrapped around thender chunks of tenderloin, served with fries & cole sraw」なる「Steak and Biscuits」。
巨大な巨大なグラタン皿の一番下には、ビーフシチューが。その上に細かくカットされたにんじんやグリンピースやコーン(要するにミックスベジタブル)が散らされ、更に分厚いマッシュポテトの層がある。一番上にはとろけたチーズがこんがりと。その皿だけでもごっつぅ食べ応えがありそうなのに、脇にはパンとバターも添えられていた。チキンとサラダとビールで胃袋が充実しつつあった中、食べ応えありまくりのメインディッシュとなった。

だんなの皿が、"ステーキを薄焼きパンでくるみました"みたいな、比較的軽めのものだったため、手伝ってもらいながらわしわしと食べる。ふわふわのマッシュポテトにこってり味のビーフシチューが良い組み合わせ。チーズがかかってるとこなんか、これまたビールが旨くなる。

さんざん食べて食べて、最後には調子に乗ってチーズケーキまで食べちゃう。小ぶりのケーキはストロベリーソースがかかっていて、ナッツ類が少々チーズ生地の中に入っていた。いかにもな手作りの味で、このケーキの味にも惚れてしまった。
ビールは旨いし、料理も旨いし、大満足。
「だんなー、大丈夫かー」
「うん、混まない道をゆっくり行こう」
とよたよたと車を走らせながら、無事になんとか家まで帰ってきた。
今度は仲間を連れて大勢で飲みに来よう。
ちなみに、"Beer To Go"(お持ち帰りビール)もできます。

10/24 (木)
Pancake Pantry(Nashville)にて、ジョージアピーチパンケーキ (昼御飯)
だんな特製手打ちうどん (釜かけ)
アイスティー

だんなが昨日打ったうどん、なかなか良い出来だったので、だんなは"うどん大好き"A先生にお裾分けしたらしい。2人分くらいタッパーに詰めて、だしもつけて、ゆで時間などのメモを添えて渡したのだそうだ。
そして、昨夜午後8時過ぎに電話。A先生からだった。
「大変美味しかったでーす」
との喜びの電話だった。先生、これはもう"さか田"や"すみた"、いや、香川に行くしかありません。アメリカ南部の小さな街で、妙にうどんが盛り上がっている今日この頃だった。

で、我が家は今朝もうどん。今朝は茹でたてのうどんに熱いだしをかけて食べる"釜かけ"。葱をたっぷり散らして啜ると、なんかもう色々と癒されちゃう味だった。やっぱり鰹節とか昆布とかいりこなしでは日本人、生きていけないわぁなどと思ってしまう。その割に昼はしっかりパンケーキ食べに行ったりするんだけど。

Nashville 「Pancake Pantry」にて
 Clam Chowder
 Georgia Peach Pancakes
 アイスティー

やっとだんなの大学の授業なども一段落し、旅行も終わり、
「そろそろ本腰あげて免許取りに行かなきゃ?」
ということに。そう、私の運転免許取得修行はここ数週間頓挫しているのであった。アメリカでゼロから免許を取ろうってのは、なかなかどうして大変だ。教習所なんてものはないから、公道がわたくしの練習場、ということになる。
「景気づけに、"P"で美味しいもの食べてから行きましょー」
と、パンケーキ喰いに行くことになったのだった。

今日は「Georgia Peach Pancakes」にチャレンジ。3つの巨大なロール状パンケーキにホイップクリームが添えられる、甘いタイプのパンケーキだ。その私の選択に合わせてか、だんなはオムレツに3枚パンケーキが添えられる「Bacon & Mashrooms Omelet」を。1人が甘いもの、1人が甘くないものを注文すると、なんとなく交換しながら楽に喰いきることができるのであった。 "本日のスープ"からは、お気に入りのクラムチャウダーを。パンケーキが来るまでの間、最初にやってきたスープを家族で回し飲みしながら待つ。ごろごろと野菜が入り、トロンとした濃厚なスープは、いつ喰ってもやっぱり美味しい。山ほどのクラッカーが添えられてくるのがまた息子の心を掴んで離さないようだ。

今日のパンケーキもまた、壮観だった。柔らかな桜桃のコンポートが、ざく、ざく、ざく、と1.5個分ほども使われているだろうか。ロール状になったパンケーキの内側や、上側にたっぷりと散らされている。コンポートはただ甘ったるいだけじゃなく、ほのかな酸味もあるので案外パクパクと食べられる。本来は上に粉砂糖が散らされるはずだけど、どうも忘れられていたみたい。その代わりに、というわけじゃないんだろうけど、今日のホイップクリームの盛りもまた豪勢だった。久しぶりに生クリーム系パンケーキ食べたけど、やっぱりすごい。ニヤニヤしちゃう。

さすがに2ロールほど食べ進めると口が疲れてくるけれど、そういう時にだんなのベーコン&マッシュルームオムレツが良い口直しになる。だんなはだんなで、「お、甘くて美味し……」と私のに手を伸ばしてくるし、私は私で「ベーコン、うま〜」と相手の皿からちょこちょこ口直しをもらって食べるのだった。今日も完食。美味しうございました。

食後は、ちょっと足を伸ばして「Natchez Trace Parkway」まで。今に残している昔の街道なので、車の数は極端に少ないし風光明媚だし、カーブや起伏もそこそこあるから練習にももってこいだし、ということでここで運転の練習をすることにした。こういう所を走る車なら、後ろから「さっさと行けよ」なんて煽ったりも、あんまりしない。
Parkwayの入り口までだんなの運転で連れてってもらい、30分ほど行ってから折り返し、最後は自分の家まで私の運転で帰ってきた。アクセルを踏み込むのもやっと怖くなくなってきたし、多少は上達したように思う。来週くらいには免許、取りに行けるかしらん。

白いラグーのミートソーススパゲッティ
ビール(コロナ)

ハロウィン間近で、スーパーマーケットにはカボチャが溢れている。食べるため……というよりは飾るためのカボチャで、カボチャのそばには「カービングキット」なる彫刻刀みたいなやつのセットも売られている。せっかくハロウィン本場にいることだし、色々遊んでみることにした。1個2ドルほどの大人の頭ほどの大きさのカボチャを買ってきて、いざいざカービング。へたの周辺を蓋になるように包丁でくりぬき、まずはスプーンで中の種やワタをほじくりだす。しかるのちに、カボチャに好みの図面を書いて、削るべし削るべし削るべし。素材がカボチャなのでまぁまぁ削りやすく、三角の目に三角の鼻、歯が並ぶニカッと笑った顔、のジャック・オ・ランタンができた。調子に乗って、同じカボチャの裏側には3匹のコウモリなんかも彫ってみたり。けっこうハマる。

私がせっせとカボチャと格闘して怪しいオブジェを創作している間、だんなは
「なんかおなかが空いてきた……」
「ひき肉で、パスタ作ろう……」
「でも、ミートソースはちょっとイヤなんだな……」
なんて言いながら台所で動きはじめた。ひき肉のパスタ、ただし普通のミートソースの味じゃないやつ、ということで、出来上がったのは「白いラグーのミートソース」。玉ねぎとにんじんとセロリのみじん切りを軽く炒めて一度除け、その同じフライパンで牛ひき肉を入れたら白ワインをふってフランベし、先の野菜を戻し、パスタの茹で汁を少々加えて軽く煮込むだけの赤くないミートソースだ。味つけは塩と胡椒だけ。数年前、何かの本に載っていて面白がって作ってみてから、けっこう簡単で、肉っけたっぷりな割にさっぱりしているこのミートソースが好きでたまーに作っているのであった。本当はタイムやバジルなんかも入れるらしい。

食卓の上には、いびつな顔のジャック・オ・ランタン。ハロウィンまで、あと1週間。

10/25 (金)
だんな特製ステーキ丼 (夕御飯)
ジャンボクロワッサン
ジャンボスクランブルエッグ ベーコン入り
カフェオレ

「ジャンボクロワッサン」なるものがスーパーマーケットで売られているけれど(3個パックで2ドルくらいだろうか)、本当に巨大なクロワッサンだ。朝食には1人1個で充分すぎるほどの大きさがある。息子はいつも1個のクロワッサンが食べきれないほど。オーブンでちょっとあっためるとサクサクして旨いので、けっこう頻繁に買っている我が家だった。今朝は、少々久しぶりな気がするジャンボクロワッサン。

ジャンボクロワッサンに負けないサイズをと、ジャンボスクランブルエッグを作って添えた。6枚ほどのベーコンをざくざく切ってカリカリに炒めたところに5個分の卵液を流してざかざかっとかき混ぜる。2〜3個の卵でスクランブルエッグを作って家族でつつくといつも何となく物足りない分量になってしまうので、今日は気合い入れて卵を5個も使ってしまった。クロワッサンに負けないたっぷり量のスクランブルエッグができて、満足な私。

Nashville 「Alpha Bakery」にて
 エッグ&ターキーサンド
 アイスティー

トイザラスだのDIYショップだのWAL☆MARTだの、色々なところに買い物の用事があったので昼過ぎにちょっと足を伸ばして近郊の「Bellevue」(ベルビュー)なる街に行くことに。ここには愛しい愛しいパン屋さん「Alpha Bakery」がある。
「ベルビュー行ったら、ロールケーキ買って帰らなきゃねぇ〜」
「まず最初にパン屋さん、行こうかしらねえぇぇぇ」
と、"用事のついでにパン屋に行く"のか"パン屋に行くために用事を作った"のかわからなくなりながら車を走らせる。

相変わらず人気のあるパン屋さんで、金曜の午後、今日もお客さんは続々と来ていた。日本で修行した台湾人夫妻が経営しているお店だけれど、日本人のみならず近郊のアメリカ人もここのパンが大好きらしい。デニッシュブレッドや大ぶりのレーズンパンがどんどん売れていく。ケーキも人気があるようだ。
ショーケースには8ドルの大きなパンプキンパイのホールが売られていて、「おいしそー、おいしそー、おいしそー」と思いつつ、今日もロールケーキを買ってしまった。デニッシュブレッドに、明日の朝食用の菓子パン類も。

ちょうど昼過ぎて"やや空腹"といった腹具合だったので、ここでサンドイッチをつまんでいくことにした。小さなカフェコーナーが設えてあって、ケーキやサンドイッチを店内で食べていくこともできる。コーヒーや紅茶も用意されている。
私は冷蔵ケースからエッグ&ターキーサンドを手に取り、だんなは冷蔵ケースに札だけがあったエッグサンドを「これ、作れる?」と聞いて作ってもらっていた。売り物のロールパンを1個手に取り、厨房へひっこむ店員さん。ほどなく、卵ペーストがたっぷり挟まれたロールパンが紙皿に乗せられて出てきた。卵ペーストの上には、更に輪切りのゆで卵も数切れ飾られている。

私のは、ターキーのハムとチーズが挟まれたサンドイッチ。レーズンやハラペーニョが混ぜられた歯ごたえのあるパンが使われている。更にもうひとつのサンドイッチ、食パンには卵ペーストがどっさりと挟まっている。その2個のサンドが1セットなのだった。パンの美味しいサンドイッチは、全体的に美味しい。具も大切だけど、パンがカスカスだとサンドイッチは味気なくなってしまう。美味しいパン屋さんのサンドイッチは、やぱり美味しくて嬉しくなった。

ここ、息子を連れて行くと、いつもポケモンのクッキー型で作ったクッキーを1枚くれる。クリーム色の、素朴な素朴な味わいのクッキーで、息子もすっかりこの店に餌付けされてしまっているのであった。

だんな特製ステーキ丼
油揚げとわかめの味噌汁
アイスティー

昨日の夜、急にA先生から
「明日のコンサートのチケットが2枚ありまーす。行きますか?」
お声がかかった。確か1ヶ月前にもこういうことがあって、私とH夫人の二人が行かせてもらったのだ。今回はHさん宅で息子を見ていてもらい、私とだんなの2人で行きましょう、ということになった。

開演は8時。早めに夕飯を食べてしまってHさん宅に息子を置いて出かけよう、と
「簡単に食べられるもの、簡単に食べられるもの」
「……丼もの、かな」
「でも卵は朝にいっぱい食べちゃったし、親子丼という感じでもないし」
「きじ焼き丼、とか、ステーキ丼、とか」
「それ!ステーキ丼!決まり!」
と買い物での車中でステーキ丼となることが決定した。WAL☆MARTでステーキ用のサーロイン肉3枚パックを購入。たったの3ドルちょっとしかしなくって、つくづく魚介の購入がアホらしく感じられてしまうほどの牛肉の安さだ。ていうか、こないだ日本食材屋で買った「ミツカンごましゃぶ」の小瓶が1つ4ドル弱。ごましゃぶの小瓶よりも安いステーキ肉なのだった。日本に帰ったらきっと、ごましゃぶの安さに涙して牛肉の高さに涙することになるのだろう。

昼頃からちょっと風邪気味だった私(昨夜毛布にくるまって、どうも寒いな寒いなと思いつつ寝ていたのだ)、買い物から帰ってきたらいよいよ風邪っぽくなってきてしまい、「でもコンサート行くもんね、大丈夫だもんね」と言いつつごろごろごろ。見かねただんなが
「ステーキ丼は僕が作るからしばらく寝てなさいね」
と一人でステーキ丼作成にとりかかってくれた。いつのまにか油揚げの味噌汁までコンロにかかっていて(しかもそれはちゃんとだしの味がするもので)、私は感動。味噌汁を器に入れるときに、ちゃんと刻み葱まで散らしていたりして、もしかしたら私より芸が細かいかもしれないだんなの料理なのだった。

ステーキ丼は、ちょっとウェルダン気味。しっかり中まで火が入ってしまった牛肉に若干ショックな様子の我が夫。醤油とバターをたっぷり落としたタレが上からかけられ、白髪葱が添えられたステーキ丼は、それでもすごく美味しかった。どんぶりは我が家にないので(ラーメンどんぶりならあるけど)、カレー皿に盛りつけ、早めの夕御飯にとわしわし食べる。
今晩、これから行くコンサートはモーツァルトのピアノ協奏曲。楽しみだ〜。

……コンサートから帰ってきた。
備忘録代わりに、今日聞いてきた曲。
Kurek : Concertino for Celesta and Orchestra (Fairy Dreams)
Carter : Piano Concerto
Mozart : Concerto for 2 Pianos in E-flat Major (Allegro; Andante; Rondo(Allegro))
Bach : Concerto for 3 Pianos in C Major (Allegro; Adagio; Allegro)
Stravinsky : Les Noces

1曲目は「チェレスタ」なる、鉄琴のような音の鍵盤楽器(←「金平糖の精の踊り」で使われているのが有名)が出てきての曲。「チェレスタ」に続いて、ピアノ1台、ピアノ2台、ピアノ3台、と続々と舞台にピアノが増えていく。最後のストラヴィンスキーの曲はピアノ4台。ピアノコンチェルトがテーマのコンサートのようだったけど、「なにもこんなにピアノ出さなくても……」と笑ってしまうほどピアノが登場したコンサートだった。
しかもアンコールつき。ピアニストが多数出演してるしせっかくの機会だから、というわけか、最後の最後にグランドピアノ6台にアップライトピアノが2台の合計8台のピアノで合奏。ピアノだけで「星条旗よ永遠なれ」が演奏されて、観客におおいにウケていた。

10/26 (土)
だんな特製 鶏と野菜のダッチオーブン煮込み (夕御飯)
「Alpha Bakery」の
 クリームコロネ
 カレーパン
カフェオレ

昨夜、「なんか風邪気味っぽいかも」と思いつつ、風邪薬とキョーレオピン(←日本から持ってきた。疲れに効きます)とビタミンCのタブレットをがっちょりキメてコンサートに行ってきた。……けど、悪化してしまったらしい。昨日から感じていた、筋肉痛と当初思っていた(一昨日、緊張しまくって運転の練習をしていて、そのせいかと)足の痛みは、どうも筋肉痛というより風邪特有の関節痛のようで、全体的に不調だ。

「……でも、昨日買ってきたパンは食べるのよ」
と言ってだんなに笑われながら、昨日パン屋さんで買ってきた菓子パンを囓る。
日本のパン屋さんで買えるような、そのままの味のカスタードクリームがたっぷり入ったクリームコロネや、もっさりしたカレールーが詰まったカレーパンはこのあたりじゃ貴重品だ。研究所のスタッフMさんが
「あそこ行くとねー、カレーパン大量に買ってきて冷凍しちゃうの。幸せなのよ〜」
と言っているのもすごく頷ける。カレーパンはどこにでもあるように見えて、あれは日本独特の食べ物なのだなぁと、日本を出て改めて気付かされたのだった。

だんな特製 ごはんですよおにぎり
いなり寿司
オレンジーナ

ただ足が痛くて、だるいだけだったから「風邪じゃなくて、もしかしたらすごい難病だったり!」と密かに脅えていた私。が、昼過ぎになって寒気はするわ熱も出てくるわ、でいかにも風邪っぽくなってきた。
「……ぬぅ……どうもね、風邪かな、という感じです」
「だから俺は昨日から"それは風邪だ"と、そう申し上げていたじゃないですか」
と、病気の時も漫才を欠かさない夫婦である。とにかく寝てなさい、おとなしくしてなさい、と言われて今日はおとなしくベッドの上でごろごろごろごろしていた。

「オレンジーナなんかは、飲める?飲みたい?」
と、だんなは息子を連れてスーパーマーケットに食材仕入れに行ってくれ、ついでにオーガニックストアの寿司バーでいなり寿司パックも買ってきてくれた。そうそう、こういうものなら食べられるのよー、と、傍らに微炭酸のオレンジジュースのオレンジーナ、傍らにいなり寿司、という今ひとつ妙な組み合わせをテーブルに並べてお昼御飯。だんなが自分用に作っていたおにぎりも、1個しっかりいただいてしまった。

遅めの昼御飯食べて、またベッドでうとうと。
ずっと居間の方から
「おかあさんね、やっと眠れたみたいだからおとなしくしてようね」
「は〜い」
だの、
「おとーさん、おとーさん、かつおぶし、作ってるの?」
「……作ってるんじゃなくて、削ってるの」
「食べても、いーい?」
「いいけど……なんで君は鰹節そのまま食べるのが好きかなぁ」
だの、
色々と"父と子の心温まる会話"がごにょごにょと聞こえてきた。台所の洗い籠は洗われて綺麗になってるし、鰹節は大量に削られているし、そのうち御飯の準備をする音なんかも聞こえてきて、布団の中でけっこう幸せな気分を味わえた。風邪もけっこう楽しいかもしれない。

だんな特製 鶏と野菜のダッチオーブン煮込み
羽釜御飯
冷茶

「Alpha Bakery」のモカロールケーキ
アイスカフェオレ

3時頃からずーっとうとうと寝ていて、目覚めると午後7時半。
「おかーさん、おはよー」
「……おはよーございます……(ぼけぼけ)」
「……お、起きた?起きてすぐに夕飯じゃ無理でしょ。ちょっと遅くしようか?」
「いや、食べる……食べられるよ、うん、だいじょぶ」
とぼけぼけのまま返答しているうちに、食卓に料理が並んだ。

「なんかね、鶏を白菜と炊いたみたいな、鍋料理みたいなものが食べたいです」
と昼過ぎに"何が食べたい?"との問いに答えてみたところ、だんなは鶏と野菜をダッチオーブンで煮込んだものを作ってくれた。ちょっと鰹だしの味。醤油と酒と塩の味。弱っている時には懐かしい、日本の味だ。しかも具は白菜や大根。
「最初ね、鍋底に白菜と大根並べて、んで鶏肉入れたんだよね。そしたらなんか、鍋の中の食材、白いのばっかで色気がなくてさー。思わずほうれん草と人参も入れちゃったよ」
だそうである。

「病人はスープいっぱい飲んでおきなさいね」
と、皿には肉と野菜とひたひたのスープ。やさしい味の、いかにも病人向けっぽい味の煮込み料理に、最後は御飯を入れて雑炊風にして食べた。

弱っている時には特に「だんなは優しいなぁ」としみじみ感動してしまう。こういう時には「これからは"やーい、怖い顔"なんて苛めないようにしよう」と密かに決意するんだけど、大抵そういう決意は体力が戻ると共にどっかに消えてなくなっちゃうのだった。

10/27 (日)
だんな特製 づけ丼 (夕御飯)
「Alpha Bakery」のデニッシュブレッド
アイスカフェオレ

一昨日あたりからの不調が相変わらず続き、どころか更に悪い方に進行しちゃったような日曜日。
せっかくの週末なのに、今日もだんなの"おさんどん"が決定した。

朝御飯は適当に、一昨日買ってきたデニッシュブレッド。頼んでスライスしてもらった一斤売りのそれを、
「何枚食べますかー?」
「わたし、2枚〜」
「ぼくも、にまい〜」
「……俺も2枚だな」
と、家族3人揃って2枚ずつ元気に食べた。どうも体調不良でも食欲は落ちない私。

握り寿司パック
緑茶

日本の母に、「冬服送ってー。ついでに"鮎家のこぶ巻き"送ってー、あーいうのが恋しいの……」とリクエストしたところ、本日巨大な段ボール箱が届いた。コートにセーター、息子の冬服などの間には、これでもかと常温保存できる食材が詰められていた。3kgほどのあきたこまちに、切り餅パック。リクエストのこぶ巻きは、"そんなに買ってくれたのか"と苦笑いしちゃうほど何種類も入っていて、更に隙間に押し込むように、こしあんだの煎餅だの松茸御飯の素だのが入っていた。だんなは米を抱えてありがたさに泣きそうになっている。身体が弱っているこのタイミングでこの嬉しい荷物は私もしみじみ嬉しかった。家族で
「配給だー」
「救援物資だー」
「さすがに、これだけは他の人にはお裾分けできないー」
「……こっそり、食べよう」
と盛り上がる。

昼御飯は、息子と買い物に出かけてくれただんなが買ってきてくれた握り寿司。マグロの握りが3つと、カジキマグロの握りが3つ入って7ドルくらいする。味はそこそこ良いけれど、日本のスーパーで売られているものを想像すると「高いな〜」と普段は手を伸ばさないシロモノだ。これだったら食べられるかな、と選んで買ってきてくれたらしい。ありがたいことだありがたいことだ。

だんな特製 づけ丼
だんな特製 茶碗蒸し
だんな特製 もやしの鶏スープ

具合が悪くても"これ食べたいあれ食べたい"って言ってくれるから君はラクでいいよ、とだんなが言ってくれるので、不調の時にはここぞと甘えて食べたいものをリクエストしまくる私。今日のリクエストはさすがにちょっと難しかったようだった。
「……あのね、あのね、食べたいものがあるんだー」
「ん?なに?言ってごらん」
「ちゃわんむし」
「……茶碗蒸し?」
「そう。ちゃわんむし」
「ん〜、そっかー。む〜」
だんな、唸りながら台所に消えてしまった。無理もない。我が家には蒸し器がない。蒸し台になるようなものも、ない。深さのある密閉鍋といえば、ダッチオーブンだ。

レシピについては、ちゃんとパソコン内のデータベースに茶碗蒸しレシピがごろごろ入っているから問題ないはずで、布団の中から「大丈夫かなぁ」と半ば心配しながら台所の気配を探りつつうとうと寝る。
「具になるようなもの……鶏肉くらいしかないなぁ」
「ぐぉー、だしを取りすぎちゃった」
などという声が、息子の"おとーさん、だいじょうぶー?"という合いの手と共に聞こえてくる。なんだか楽しい。

そして夕飯は、マグロのづけ丼に、昨夜の鶏スープにもやしを入れた野菜のスープ、そして茶碗蒸し。
スープボウルに固められた茶碗蒸しはたっぷりで、ほんのちょっとだけスが入っていた。私もよくやっちゃうくらいの、ささやかなスの入り具合ではある。でも
「見た目悪いから、これは撮っちゃだめー、ホームページに載せちゃだめー」
と言われてしまった。彼の中では"ちょっと失敗茶碗蒸し"だったらしい。

ちゃんとだしの味がする、醤油の香りがふわふわ漂う茶碗蒸しは、しっかり完璧に茶碗蒸しだった。入れた鶏肉に脂が多かったため、ほんの少し油っこいアメリカンな茶碗蒸し。それでもそこらの日本食屋で注文するより遙かにまともな茶碗蒸しだった。しかも巨大だ。嬉しい。

どうやって蒸したのかと鍋を見ると、ダッチオーブンの下に1つだけスープボウルが逆さに沈められていた。それを台にして茶碗蒸し1個だけを蒸してくれたらしい。あれこれ工夫したけど、2個以上はどうやっても並べられなかったのだそうだ。ますます希少感が高まっちゃった茶碗蒸しだった。