食欲魔人日記 02年08月 第2週
8/5 (月)
Golden Coast(Nashville)にて、ランチブッフェ (昼御飯)
卵御飯 おかかぶっかけ
麦茶

数日前、息子と2人で食べた卵御飯は、しみじみと美味しかった。
実は昨日の昼、原因不明の腹下しがあって非常にビビッていた私。「とうとうきたか、きたのかサルモネラ」と、私は一人アウトレットモールで何度もトイレに駆け込んでいたのであった。結局は息子の腹には何もおこらず、私の腹下しも腹痛は併発しないまま数時間で終わり、とりあえず危機は去った模様(で、腹下しは単に炭酸飲料の飲み過ぎかと思われる……)。

そして、一人卵御飯を食べられなかっただんなは、「いいな、いいな、卵御飯食べたいな」とここ数日呟いていたのであった。そういうわけで、今朝は卵御飯。熱湯に卵を入れて1分加熱。白身が白く濁るけど、黄身は生のままの卵に醤油を垂らして御飯にぶっかけてかきまぜてわしわしと食べる。上からおかかなんかもかけちゃったりして。
そうして食べた白い御飯は、さすがに日本の米ほど美味しくはなかったけどやっぱりしみじみ美味しかった。

まだ息子は起きていなかったので、息子にはおにぎりを作っておいてやることに。
「食べ物では何が好き?」
と聞くと、
「おにぎりと、アイスクリーム!」
と答える息子なのである。聞くと、どうやらパンケーキよりもポテトよりもおにぎりが好きらしい。
おかかおむすびを2個、作っておいたところ、30分ほどして「おはよー」と起きてきた息子が、
「あ!おにぎりだ、おにぎりだー」
と発見するなり、起き抜けに2個即喰い。だんなの卵御飯よりも早い食べっぷりだった。

Nashville 「Golden Coast」にてランチブッフェ
 炒飯・焼きそば
 卵のスープ
 焼き豚・鶏の唐揚げ・手羽揚げ
 八宝菜・いんげんのにんにく炒め
 カスタードクリームクッキー添え・アップルパイ
 すいか・メロン
 ソフトクリーム
 アイスティー
などなど。

数日前に1人、昨日に1人、今日に1人と日本からの留学生がやってきて、これで今年のメンバーはどうやら揃ったことになるらしい。「じゃあ、みんなで一緒にランチでも」という研究所スタッフMさんの誘いにより、総員11名で一緒にランチ会をすることになった。目指したのは、「Golden Coast」という、我が一家は初めてのお店。チャイニーズで、平日昼間はランチブッフェをやっている。奥まったコーナーに3つのテーブルを連結させて、なんだか宴会のようなテーブルになった。

やけにとろみの強いスープとか、ちょっと強めの味付けのおかずとか、でもそこそこ美味しい料理が並ぶ。でも、
「な、なんで中華のデザートにアップルパイとカスタードクリームが……?」
というものがちゃっかりあるのが、さすがアメリカなのだった。御飯類は白い御飯に卵炒飯に、海老なども入った五目炒飯。焼きそばに、ちょっと汁気のある平麺。炒め物は魚も肉もたっぷりと、10種類ほどが並んでいる。
「揚げたもの」「冷たいもの」という並べ方をしているので、春巻きの隣に中華ドーナツがあったり、キムチの隣にサラダがあって、スイカがあって、フルーツゼリーが置かれていたりする。「あ、揚げワンタンだ」と思って取ると、その中には甘いクリームチーズが入っていたりして、大変危険だ。

先日ショッピングモール内のファーストフードチャイニーズで食べたものがよっぽど私はこたえたらしく、赤くテラテラと光るタレの絡まったものは何も皿に盛ることができなかった。あの色を見るとあの味が口に蘇る。プチトラウマにでもなっちゃったようで、大変に悲しいことだ。私は酢豚が大好きなのに。

それでも、塩味のシンプルな炒め物もあるこの店のブッフェは充分満足いくくらい美味しかった。帆立の揚げ物とか、いんげんのにんにく炒めあたりはもりもり食べられた。
で、デザートに、やっぱり予想どおりにコテッコテに甘かったアップルパイとクッキー乗せのカスタードクリーム。フルーツはオレンジとかスイカとかメロンがたっぷりと。セルフサービスでにょろにょろとやることができるソフトクリームもあって、ちょっと嬉しいランチだった。

2日目のポークカレー
酢油キャベツ
チコリの一口卵サラダ
ビール(コロナ)、麦茶

今日は息子の保育園探しをしてみたり、「AAA」加入の手続きに行ってみたり。Mさんに教えてもらって、「日本酒も置いているのよー」という、でっかい安売りリカーショップにも行ってみた。このナッシュビルというところは、アメリカ南部にしてはものすごく白人の割合が多いところだ。日本企業の誘致にも熱心で、従って日本人も多数住んでいる。治安も良いと聞いているけど、ただ、町の北東部に向かえば向かうほど怪しいエリアになるのだそうだ。町の東部、やや北よりに位置するそのリカーショップは、ちょっぴり危険な味わいだった。なんかもう、そのへん一体の空気が違う。あまり長居しないで買い物したら帰りましょうね、というところだった。

それでも、カルフォルニアワインを4本とケンタッキーのウィスキーを1本(本当は地元テネシーのジャックダニエルを買いたいところだったけど、なんだかすごく高かったのだ……)、ビールを山ほど買ってきた。「アメリカの地ビールをいっぱい買ってこよう」と言いつつ、コロナ(メキシコ)とサンミゲール(フィリピン)を買ってくるのはどういうことだろう。「いかんいかん、アメリカのも買おう」と、シアトルのビールも慌てて6本籠に入れてみたり。

で、今日は2日目のカレー。美味しく煮込まれた2日目のカレー。話によると、Iさんは明日から2週間、アメリカ北部の国立公園群を一人で巡ってくるらしく、「自炊しない彼の一人旅のことだから……」と心配になって今日の夕食に招待することにした。何しろ、ニューオリンズまで先日一人旅をしてきたらしいけど、高速道路に乗ってる途中で食べられるものといったらファーストフードばっかりで(探せよ!旨いもの、鼻をきかして探せよ!)、ニューオリンズまで行っても今ひとつ何を食べて良いかわからず、どころか「数時間でニューオリンズ、飽きちゃった」とか言って(ガンボスープとか、いろいろあるだろう、食べるもの!)帰ってくるような人なのだ。
日本では自宅に住んでいたので一人暮らしの経験もなく、自炊しようという気力もないIさんだったりするので、密かに周囲はよってたかって心配しているのである。

で、昨日のカレーに、昨日のサラダの残り。それだけじゃ何だかつまらないので、チコリを買ってきてその上に卵サラダを盛りつけて、一口二口で食べられる小さなつまみを作ることに。卵を茹でて刻み、ケッパーとかオリーブもざくざく刻んで混ぜ合わせ、マヨネーズ少量で和えて塩胡椒とチリパウダーで味をつける。それを舟形のチコリの葉1つ1つに盛りつけて、テーブルへ。

「なんか、毎回悪いなぁ……」
とIさんが恐縮しはじめて、とうとう「お皿、洗いますよ!」と我が家の宿泊常連M井さんでも言わないようなことを彼が言い出したので、思わず苦笑。お皿洗ってもらうよりは、と素直に
「あ、それなら今度からビール買ってきてください。ビール6本で2回の食事分、とかそんな感じで」
と提案してしまった。その方が、こちらとしても有り難い。多分材料費だってそんなもんのはずだ。

というわけで、今日からIさんはビール持参。しっかり好みのコロナを買ってきてくれた。
骨付き豚肉の2日目のカレーは、良い感じに野菜も溶けはじめていてトロンとなって、良い感じ。4合炊いた米が、ほんの少しを残してほとんどなくなってしまったのであった。
やっぱりカレーはいいなぁ……。

8/6 (火)
小海老のアーリオオーリオ生パスタ (夕御飯)
スクランブルエッグ&ベーコンサンド
オレンジジュース

爽やかな目覚めの、今日は火曜日。ハンバーガー用のバンズが残っていて、でもハンバーガーをする気分にはなれなかったのでスクランブルエッグなぞ作ってみる。牛乳を垂らしてちょっとゆるめのスクランブルエッグにし、塩と胡椒だけで味つけ。並べたフライパンではベーコンをチリチリ炒めて、ベーコンエッグサンドにすることにした。お供はオレンジジュースと、ルビーオレンジジュースと間違えて買ってきてしまったルビーグレープフルーツジュース。

1/2ガロン(2リットル弱)のジュースは飲んでも飲んでもなくならなくて、ここんところ毎日ちょびちょびと飲んでいる状態。それでも一度買ってしまうとついつい補充してしまい、「甘いものは持ち込むべからず」の我が家の鉄則がオレンジジュースやらチョコレートミルクやらでガラガラと崩れつつあるのだった。だって……安いし……。

マクドナルドにて
 ビッグマック ミディアムセット(ポテトM・ドリンクM)

我が家は築何年か知らないけれど、かなーり古い物件らしい。台所の下水道には生ゴミ処理用のディスポーザーがついていて、じゃがいもの皮などを放り込んでスイッチを入れると、ギャギャギャギャギャと美しく粉砕して流してくれる。くれるのは良いんだけど、もうその設備が錆び付いてしまっていて、シンク真下には盛大な水漏れが。ここにじゃがいもや玉ねぎ、大鍋なんかを突っ込んでいるので、事態はけっこう深刻だった。ギャギャギャギャギャとやらなければ水漏れはおきないけど、ついつい楽なもんだから色々流してギャギャギャギャいわしている今日この頃だった。このままじゃ、じゃがいもがダメになる。

「補修、しましょう」
「DIY屋で水漏れ補修キットを買ってきましょう」
と、今日もお買物に出かける私たち。本当は、ウォーターパークに行きたいなぁとか、ハイキングしたいなぁ、とか、いろいろ野望はあるのである。あるんだけど、家がピシッと整わないと、どうにもすっきりしない。暑すぎてレジャーという気分じゃないというのもある(毎日気温は35℃前後だ)。

ついでにお昼御飯をと、「パンケーキ……?」「いや、インド料理とか……いやいや、昨日もカレー食べてるか」などと家族会議を開いた結果、「満を持してマクドナルドに行きましょう」ということに。別にマクドナルドごときに満を持さなくても、と笑いながら、それでもこの国に来て初めてのマクドナルドがちょっとばかり楽しみな私だった。

日本でも郊外のマクドナルドには子供向けの遊具施設が色々揃っていることは知っていたけど、我が家最寄りのマクドナルドもまた、店の奥に高さ5mほどのチューブ滑り台つきジャングルジムのようなものが設置されていて、平日昼間は暇を持て余すお母さんと幼児たちの憩いの場になっていた。息子も例外ではなく、ナゲットとポテトをちょっと囓ったところで、遊具にすっとんでいった。背格好の似た、同い年くらいの子供を見つけて、早々に一緒になって遊んでいる。栗色のクルクルとした巻き毛の、可愛らしい女の子だった。やるわね、息子……。

で、マクドナルド、話によると「メガマック」なる商品があるとのことで是非これを!と思っていたのだけど、残念ながら期間限定か地域限定か、そんな感じらしい。ビッグマックは「パン・肉・パン・肉・パン」、メガマックは「パン・肉・肉・パン・肉・肉・パン」。そのアホな積み上げっぷりに「さすがアメリカ!」と笑いつつ期待していたけど、残念ながらメニューにその文字はなかったのだった。しょうがないので、ここは基本に戻ろうと、ビッグマック。セットのサイズはミディアムと、ラージと、それに「BIGGER LARGE」だか何だか、えらいサイズの特大ものもある。Sなんてサイズは、かろうじて飲み物にあるくらいだった。私たちの前に注文した女の子がその特大を注文していたけど、「そんな、馬に水やるんじゃないんだから」みたいなサイズのカップを渡されているのであった。持つのも大変そうだ。ポテトもまた、笑っちゃうような特大サイズ。

ミディアムは、なんとか常識の範疇のサイズだった。どうもやっぱり日本よりは大きい。ドリンクは、カウンター脇のディスペンサーにて自分で氷を入れてドリンクを入れて持っていく。お代わりも、みなさん勝手にじゃかじゃかやっている様子。すると、ドリンクのサイズによる値段の違いは一体なんなんだ、と密かに思う。

味はというと、期待どおりに全くのマクドナルドの味なのだった。チーズの味もピクルスの味も、肉の味もパンの味も、ほとんど違いがない。笑っちゃうくらいに同じ味で、ただただドリンクだけはメローイエローだのドクターペッパーだのが揃っていて、そのへんだけがアメリカだった。

そして、マクドナルドの戦略に見事にはまって、嬉しさの限界を越えたように遊びまくっていた息子は
「またこようねー、マクドナルド、こようねー」
とCMじゃないんだから、みたいな台詞を吐きつつ車に戻っていった。マクドナルド、おそるべし。

小海老のアーリオオーリオの生パスタ
サンミゲール

今日は全体的にだらだらだらだらした一日だった。やる気なく研究室から借りてきてしまった漫画を読んでみたり、ネットサーフィンしてみたり。

夜もやる気なく、昼過ぎにマーケットで買ってきた海老と、生パスタを使ってアーリオオーリオをだんなが作ってくれるのを感謝しながらいただいた。だんなが鍋をふるっている間、私は1個1ドルで数日前に買ってきたマンゴーでマンゴプリンを作ってみたり。明日は小さな小さなお客様がやってくる。1歳のお客さんはマンゴプリンを食べてくれるだろうか。

慣れない電気コンロでパスタを茹で、にんにくを炒め、だんなは奮闘してくれたけど、いかんせん安売りしてたのを買ってきたテフロンフライパンが使用3度目ほどにして既に焦げつくようになってしまっていた。
「えーん、くっつく、くっつくよぉ」
「しかも生パスタ、茹でてみたらけっこう多かったよぅ」
と男泣きしながらパスタを炒める我が夫。出来上がったものは、彼にしては不満きわまりない出来だったようだ。でも塩味はちゃんと決まってるし、海老はプリプリで美味しいし、にんにくガツンと効いていて悪くはない。ちょっと油っけが足りないのでオリーブ油をぶっかけながらちるちると食べた。

近所のマーケット、海老は数種類揃っている。ムール貝を中心とした貝類も数種類。海の魚というとマグロくらいしかないけれど、名物のナマズとザリガニは大抵どこでも売っているのであった。あと、どこでも見かけるのはサーモン。日本食材屋でもいかなければ丸のままの魚はまず買えないのが、ちょっとだけ悲しい現状だった。

話によると、ナマズ料理ザリガニ料理といったものは、かつては黒人奴隷たちが食べていたまかない的料理だったらしい。奴隷という制度が消えた後、郷土料理化していったとか。
A教授の家に遊びに行ったときに、離れに納屋とも違うこぢんまりとした建物があって「何だろう?」と言っていたところ、A教授はさらりと「ああ、奴隷小屋だよ」と返してくれたことを思い出す。勿論、今は奴隷などいない。
「お手伝い」というとまだ聞こえはいいけど、「奴隷」という響きにはちょっとドキッとしてしまう。この町は比較的その匂いは薄いようだけど、アメリカ南部はまだまだそういう色が強いようなのだった。

8/7 (水)
Pancake Pantry(Nashville)にて、「Orange-Walnut Pancakes」 (昼御飯)
インスタントラーメン(チェダーチーズ味……)
塩おむすび
麦茶

6時半に目覚ましが鳴り、今日はいつになく早起き。夫婦揃って免許取得に行きたいという留学仲間のH夫妻が、1歳の娘さんSちゃんを預けに来るのだ。早めに免許センターに行った方がいいよ、ということで、7時過ぎにやってくることになっり、やってきたSちゃん。

朝御飯、本当は昨日のうちにパン焼き機をセットしておこうと思いつつ、すっかり忘れてしまっていた。何もないので、とりあえず「カ、カップラーメンでも食べましょうか……」と"MARUCHAN"製のカップヌードルを出してみた。こちらのマーケットで見つけて、「おお!カップラーメン!」とにやにやしながら買ってきたものだ。調子に乗って私が籠に入れたのは"チェダーチーズ"と書いてあって……それは言語に絶するマズさだった。

なんでラーメンがチーズの味してなきゃいけないのか。スパゲッティと混同しているようなそれは、麺は平たく縮れていて、スープは化学調味料バリバリ味のチキンらしきもの。そして麺に絡まるのは、鮮やかなオレンジ色のチェダーチーズ。それが湯でふやけてやわらかくなって、麺もスープもそのちょっとクセのあるチーズの匂いが満載だ。なんともいえない味がする。ああ、私ったら、なんでこんなもの籠に入れちゃったんだろう。

後悔しつつ子供たちに飯を喰わせ(カップラーメンじゃなく、Sちゃんは家から持ってきたおむすびとバナナ、息子もそれが良いというので、握ってやったおむすびと、買い置きのバナナ)、私を不憫に思ってくれたのか、チキンヌードルを食べただんなは私用にもおむすびを握ってくれた。塩おむすびがつくづく美味しい朝御飯だった。

Nashville 「Pancake Pantry」にて
 Orange-Walnut Pancakes
 ポテトスープ
 スィートアイスティー

息子の体重の1/3ほどもないSちゃんとおっかなびっくり遊びつつ、その割にプールにも連れていっちゃったりしつつ、何度か不安がられて泣かれたりしながら、数時間が経過した。一番なついて欲しがっていただんなには結局なつかず、だんなはえらく落ち込んでいる。私にぎゅうとしがみついてくるのを見ると、「おお、小動物がなついたぞ」という悦びがあったりして。む、娘ってのも可愛いなぁ。

で、免許の試験スケジュールの状況によってはこのまま夕方まで預かっているところだったけど、11時頃に早々に夫妻が戻ってきた。だんなさんは筆記が通ったけど実技は明日になり、奥さんはしょっぱなの視力検査で落とされて筆記にも到達できなかったということだ。
「お昼御飯、ご一緒しませんか?」
と奥さんにきらきらした目で誘われて(夫曰く、その瞳に"P"の字が浮かんで見えたのだそうだ)、
「"P"、行きますか?」
と、我が夫。
「P、いいですねぇ」
「やっぱりP、ですか」
と、すっかり「Pancake Pantry愛好者ご一行様」と化した私たちは店に向かったのだった。ランチ時には長蛇の列のこのお店、でも回転は早いのであまり待たずに座ることができた。

今日の選択は、「Orange-Walnut Pancakes」(これまでの制覇記録はこちら)。
日替わりのスープが毎日4種類ほど用意されていて、今日はポテトスープを大皿でもらってだんなと分けて飲むことに。この店、冷房が強すぎるほど効きまくっているので、パンケーキが来るまでに熱いスープが飲めるのがちょっと嬉しかったりする。しかもどのスープも「田舎のおっかさんの味」という感じで、なんとも味わい深かったりして、スープも私たちの間では大人気。今日のスープは、ぐずぐずに煮込まれたじゃがいもがどっさりはいった、モサモサした舌触りのスープだった。胡椒がビリッと効いていて、ハーブも入っている様子。

そしてオレンジパンケーキ。5枚のパンケーキの上にはどばっと粉砂糖が散らされていて、別添のココットケースにオレンジソースが入っている。蜂蜜で煮込んだようなオレンジ味のソースにはローストナッツがたっぷりと。そしてパンケーキ生地にもナッツが入っている様子。そして今日は控えめな量のホイップバター。
どうも担当する人によって「クリームたっぷり」「砂糖たっぷり」という傾向があるようで、今日盛りつけてくれた人は「砂糖多め、クリーム少なめ」の人らしい。Hさんの元にきたアプリコットパンケーキも、砂糖が表面が真っ白になるほどふられていた。

マーマレードのほど苦みのない、さっぱりとしたオレンジ味のソースがかなり良い感じ。塩気のあるパンケーキの中の香ばしいナッツと、これまた塩気のあるホイップバターがソースの甘さをちょっとばかり和らげてくれて、なんとか今日も5枚のパンケーキを完食した。それでも最後5分くらいは、「……ああ、なんでこんなに多いかなぁ、せめて4枚だったらなぁ」などと思ってしまったりして(そしてまた数日後に食べたくなる)。

だんなはベーコンオムレツ添えのパンケーキ3枚セット。息子はチョコレートチップがけのワッフル。Oだんなさんが頼んでいたBLTサンドイッチが実はすっごく美味しそうで、「こここ、今度こそサンドイッチかなぁ」と内心密かに決意してみた私だった。

和風ロコモコ丼
自家製マンゴプリン
ビール(REDHOOK BLONDE ALE)

どうも、夕食にあたって自炊の意欲がもりもりと低下中の今日この頃。電気コンロや役に立たない換気扇などとあまり仲良くなれていないからかもしれない。
今日も7時半頃までごろごろごろごろした挙げ句、微量のやる気を盛り立てて、だんなとちゃちゃちゃっと丼もの作って食べることにした。ケンタロウさんのハワイ料理の本に載っていた「和風ロコモコ丼」とかいうもの。

ハンバーグを焼き(ハンバーガー用に買ってきた成形済パティを使用)、焼き上がったら玉ねぎのすりおろしと醤油と味醂、おろし生姜とおろしにんにくを合わせたタレを投入して煮たて、御飯の上にぶっかけるだけ。あとは半熟のゆで卵など添えたりして、万能葱の刻みをぶっかけると完成。ハンバーグだけど醤油と味醂で和風の味で、そこそこ美味しいものになった。100%ビーフのハンバーグはすごく食い応えがある。

お供のビールは「REDHOOK」という、シアトルのもの。「エールが飲みたいぞー」と、山積みしてあったそれを買ってきてみたら、鼻の奥にぐっとくるような甘さと苦さのあるいかにもなエールの味で、なかなか美味しい。

そして、デザートに1個1ドルのアップルマンゴーを使って作った自家製マンゴプリン。非常にアバウトに、マンゴー2個にゼラチン14g、水600cc、Half&Half400cc、砂糖100gくらいを適当に混ぜて作ってみたものだ。生クリームと牛乳が半々に混ざっているという「Half&Half」は、こういうときこそ出番なのじゃないかと思って買ってきて使ってみたけど、どうもちょっと水っぽさが強い感じ。エバミルクを使ったときほどのコクが出なくて、しかもマンゴーはものすごく繊維たっぷりで今ひとつの口当たり。
「……アップルマンゴー使うなら、ちゃんと漉して使わなきゃ……」
「……やっぱりエバミルクを買ってきて使うかなぁ……」
などと、今後の課題盛り沢山なプリンになった。甘さとか、果肉たっぷりのプリンの味そのものは悪くなかったけど。

そしてそしてそして。大型スーパーで探して買ってきたゼラチンは7g入りのものが30袋ほども入った巨大な箱のもので、$8ほどもしたのがちょっと不満だった私。「水混ぜて固めるだけ」みたいなゼリーやカスタードクリームの素みたいなやつは呆れるほど種類があるのに(30種類くらい、ずらーっと並んでいた)、シンプルなゼラチンそのものというのが全然ない。棚にへばりついて探して数分、やっと一番下にちんまり売られているその巨大箱のもの1種類だけを発見したのだった。
日本でも、ゼリーの素だのケーキミックスだののコーナーは幅をきかせているけど、こちらは多分それ以上だ。ベーキングパウダーだのドライイーストだのの「原材料」みたいなものは、インスタント系の品揃えに比べると極端に少なくて、しかもそのインスタント系のパッケージは妙に旨そうで惹かれちゃったりして、大変危険。

8/8 (木)
Fajitaとテネシー名物バッファローウィング (夕御飯)
Nashville 「the old spaghetti factory」にて
 ミートソース&マッシュルームソース の2色がけパスタ
 (パン・本日のスープつき)
 スィートティー

寝坊して寝坊して、9時半。
「あー……こりゃ……」
「昼御飯も兼ねて、どっか食べに行っちゃうかね」
と、非常にやる気のないまま車に乗り込み、今日はダウンタウン方面に飯を求めに行ってみた。

大学があり、私たちが住むのは町の南部だ。北に5kmほど進むと、そこが町の中心、観光地だ。土産物屋がそこここにあり、観光地風味満載の民芸品が売られている。笑っちゃうようなウェスタングッズ屋さんもあるし、ここを音楽の聖地とあがめる人なら涎が出るらしいライブハウスも多くある……らしい。当然飲食店もいっぱいで、気になる店もいっぱいあるのだった。「メルティング・ポット」とかいう名前のチーズフォンデュ屋なんかもある(←ちょっと気になる)。

「なんでもアメリカ版アンナミラーズがあるらしいぞ(←味はいまひとつだけどおねぇちゃんが凄いらしい)」
「あっちはステーキとパスタが名物らしいぞ(どんなや!?)」
「こっちは普通に安心して食べられるパスタ屋らしい」
などなど、歴々の留学生が作り続けて後生に残しているコピーのガイドを参考にしながら、「では、この"まともなパスタが食べられる"と紹介されているところに!」と「the old spaghetti factory」なるお店に入ってみることに。どうやらカリフォルニアあたりに多数支店があるチェーン店の1つらしい。

年代がかった風情のシャンデリアに古くさいベルベッド張りのソファ、店の真ん中にはいきなり古めかしい電車の車両が1つ、どかかんと置かれていて、その中にも客席が設えられている。薄暗い店内にぽつりぽつりと赤っぽい電灯が輝いて、なんかもう、「インタビュー ウィズ ヴァンパイヤ」に出てきたような光景の店なのだ。いかにも観光客が喜びそう、というか何というか。私は「こんなに薄暗かったら料理の写真撮れないじゃーん」と第一印象に思ってしまったり(ダメじゃん……)。

ミートソーススパゲッティやらミートボール乗せやら、アサリ入りのクリームソースやらのスパゲッティのメニューが並ぶ。肉などのおかず的食べ物もないではないけど、この店は店名通り「スパゲティを喰っていけ!」という店らしい。パスタを選ぶと、もれなく自家製スープかサラダ、そしてパンがついてくる。

私は「マネージャーのお気に入り」なんて名前の品を注文することに。上に並ぶパスタのソースの中から好きなものを2種選べ、と書いてあって、ミートソースとマッシュルームベースのトマトソースをかけてもらうことに。だんなはミートボールスパ、息子は子供用メニューからアサリのクリームソース。

やってきた「本日のスープ」は、ほんのりカレー味の"おじや"状のもの。くたくたにじゃがいもやらにんじんやらと一緒に米が煮込まれていたそれは、どっから見ても味わっても"おじや"そのもの、スープという口当たりじゃない。でもどこもかしこもクタクタのトロトロに煮込まれたスープはじんわりと美味しかった。具を漉してサラサラのものにしようなんて心づもりはないらしく、ここらあたりで飲むスープはどこも具沢山のクタクタ系ばかり。それがまた栄養ありそうで良い感じなのだ。

そしてやってきたスパゲティ。アルデンテなんてどこの宇宙の言語だと言わんばかりに、絶妙の火の通り方をした、柔らかなスパゲティだ。ほんのり甘く、ケチャップじみた味が漂うミートソースに、トマトとにんにくの味以外は今ひとつ風味のないマッシュルームソースが、盛られたパスタの丁度半分ずつを覆っている。繊細さとはちょっと距離がある、大雑把な味。
「ど、どこが、」
「どこが"まともなスパゲッティー"じゃーい!」
と苦笑しながら美味しくいただいた。けっして不味いわけじゃない。喫茶店のナポリタンスパゲティが妙に美味しいのと同じような系統の美味しさがある。息子のアサリのクリームソースの、そのクラムチャウダーみたいなこってり加減はだんなの心を鷲掴みにしちゃったらしいし。

スープも美味しかったし、スパゲティは"まとも"とはほど遠かったけどまぁまぁいけたし、店の内装もなんか面白いし、多分またこのお店に来ちゃうのだ。そして数メートルその坂を上がると「アメリカ版アンナミラーズ」もあったりして。

「San Antonio TACO CO.」の
 ビーフステーキ Fajita
 ポーク Fajita
 バッファローウィング
ビール(コロナ)

一度研究所に行っていただんなが夕方戻ってきて、そのまま息子と昼寝し始めた。気がついたら7時半を回っていて、だんなと息子が起きてきたのは8時を回っていた。うおぅ、夕食の準備もしていないよ。どうしよう。

ここらの名物料理には「バッファローウィング」なるものがあって、それは鶏手羽の唐揚げなのであるらしい。日本にいるときから「名物は手羽かー!名古屋みたいだな!」なんて言っていたのに、未だその名物を口にしていない私たち。
「そういえば、"タココ"にあったよ!」
「そうか、"タココ"にあったか!」
と、夕食は急遽タココのバッファローウィングになった。"タココ"は「TACO CO.」なるお店。大学の近くでイートインもテイクアウトもできる、学生に人気のタコス屋さんだ。5本の値段で6本飲めるバケツ入りのドリンクがあって、昼でも夜でも、ステンレスのバケツに氷ざくざく詰め込んで瓶入りビール6本をどかどかと刺した物体がカウンターから席にどんどん流れていく。木曜の夜、9時前だというのに店はお客でいっぱいだ。続々と買いに来る人もいる中、注文用紙にチェックしてレジに並んで買ってきた。

名物のバッファローウィング、多分こういうものじゃないと思う。
初めて食べたバッファローウィングは、チリソースの辛さと香りが満載の、見事なまでの紅色の物体だった。端にこぼれたタレをちろっと舐めただんなが、
「おゆきさんっ、辛いよ辛いよ、これ、ものすごく辛いよ!」
とぱたぱたしている。ビールも鶏の辛さでどんどん消えていく。もう6本入りのバケツも飲めそうなほど、唇も喉もピリピリと痺れるような辛さの鶏だった。ちょっと酸味も感じられるような辛さが、それでもどうして快感で、10本入りのパックがすっかり綺麗になくなった。さすがに息子には食べさせられない。

そして、タコスに良く似た「Fajita」(ファヒータ)、今日はビーフステーキとポークの2つ。注文用紙に「トマト入れて、レタス入れて」などと丸していくと、1アイテム25セントくらいで追加してくれる。何も丸しなければ単に肉が生地にくるまっているものになるらしい。私はついついチーズだの玉ねぎだの盛大に丸してしまうんだけど。

今日もくるまれたアルミホイルには肉汁がしゃばしゃばと溜まっていて、それをこぼさぬようにしつつ具もなんとか巻き込みつつ、大口あけて食べていく。肉たっぷりで、なかなか喰い応えがあるそれは、ファーストフードのハンバーガーよりちょっと高いかもしれないけどファーストフードのハンバーガーより旨いよなぁと思えちゃうのであった。コロナにも合うし。

8/9 (金)
Logan's Roadhouse(Nashville)にて、12ozサーロインステーキ! (夕御飯)
卵丼 おかかかけ
麦茶

なんとなく朝食にパンより御飯が恋しい今日この頃、今朝は卵丼。日本でだったらヤワヤワプルプルの超半熟にするところ、ちょっと硬めに火を通す。鍋に水少々と醤油と味醂を放り込んでぐつぐつ言わせ、そこに溶き卵を流し込んで数十秒、更に蓋をして数十秒。家族分一気に鍋で作ってしまって、それを御飯の上にじゃかじゃかかけて、かつおぶしふりかけて食べた。

こっちの卵は12個入りで、大体1.2ドルくらい。10個を99円などで買っていた日本を思うと、あまり卵の値段に違いはなさそうで、たまーに12個入り99セントという安売りをやっていたりするのも日本と同じだ。ちょっとばかり殻の強度が貧弱で、同じ1個のパック内なのにやけに新鮮そうなプリプリの黄身のものもあれば、黄身が崩れそうな柔いものもあったりして、なんだか品質はてんでばらばらという感じ。

Nashville 「Logan's Roadhouse」にて
 Logan's Sirloin 12oz
 ビール(Umber Bock)

ちょっと遅めの朝御飯。昼御飯はどーしましょー、とだらだらしている間に午後1時を回り、
「だったらこのまま何も食べずに夕方を迎え、空腹極まったところで肉でも喰いにいきますか!」
ということに。

リブステーキ屋さんとか、未だ行ったことのないステーキとパスタのお店とか、どこに行ってみようかねぇと相談して、結局一度行ったことがある「Logan's」に行くことにした。前回はステーキのボリュームが恐ろしくて9オンス(255g)という軟弱なものを頼んでしまったけれど、今日はいざいざ、と12オンス(340g)に挑戦。このへんからが「普通のステーキのサイズ」になるらしい。9オンスなんて、入門編という感じで1種類しかメニューがないが、12オンスからになるとニューヨークステーキだのリブステーキだの、と種類は色々増えてくる。私は「Logan's Sirloin」なる、店名を掲げたサーロインステーキを、だんなはニューヨークステーキを。

14ドルほどの340gステーキには、もれなくパンとサラダと芋料理がついてくる。サラダはシーザーズサラダかハウスサラダ、じゃがいもはフライドポテトにマッシュポテト、グリルドポテトとこれも色々。ポテトがイヤなら、ピラフとかアップルパイなんかにもしてくれるらしい。

この店名物のピーナッツをぼーりぼーりぼーりぼーりやりながら料理が出てくるのを待つ。「おつまみです」なんてささやかなもんじゃなく、この店のピーナッツは小さなバケツに入れられてテーブルに置かれている。客は殻を床に盛大に落としながらピーナッツを囓る。店から出る客の服はなんとなくピーナッツのくずまみれで、周囲の道路もなんとなくピーナッツで、そんなもんだからスズメなんかの鳥がいつもこのへんに集まってきている。

これでもかと空かせた腹には12オンスステーキがこの上なく美味しかった。「レアでね」と注文したら、見事に真っ赤な切り口のステーキがやってきた。だんなのニューヨークステーキに比べるとちょっと薄めの私の肉は、それでも端と端が皿からはみ出している。肉汁は赤く濁っていない、見事なレアだ。味付けは塩胡椒だけなのが嬉しいし、肉に負けない大きさのじゃがいもにはたっぷりとバターが乗せられていた。ちょっと甘めのパンとか、サービスのサラダの分量には思えないたっぷりめのサラダが相変わらず良い感じだ。こちらの牛肉は日本の「霜降り」みたいなものは全然なくて、どれも比較的赤身だらけのドシッとしたものが多い。適度な歯ごたえがあって、余分な肉汁がだばだばと出てくるということもなく噛むと肉汁がじわっと口の中に広がってくる肉は、かなり美味しいと思う。脂たっぷりというわけでもないけど、パサつくこともなくて良い感じだ。

スープなどの前菜も頼まなかったということもあり、超空腹だったということもあり、今日は楽々と12オンス肉をクリア。芋もサラダもパンも美味しくいただいた。次こそ、気になっている「ニューヨークチーズケーキ」にチャレンジできるだろうか。それとも憧れの16オンス肉か。

8/10 (土)
摩訶不思議な「UFO桃」を食す (夕御飯)
ツナサンド&卵サンド
グレープフルーツジュース
カフェオレ

こちらの食事(特に外食)は一食の分量が半端じゃなく、それに合わせるように我が一家の胃袋も現在巨大化傾向にある。……でも、これで3食喰っていたら、さすがにヤバイ。体重もヤバイし、胃にかかる負担だってきっとヤバイ。で、最近「一日二食」でなんとなく落ち着きつつある我が家だった。単に朝遅くまで寝ているだけだという話もある。

我が夫は、昨日の夜からどうも体調不良だった。食事して7時過ぎに帰ってきてからそのまま寝てしまい、今朝も「なんか、具合わる〜い」とベッドから出てこられない。「なにもたべたくな〜い」と言っているので、
「じゃあ、ツナサンドでも作ろうかね」
と息子と話していると、奥から「ツナサンドきぼう〜」という声がしてくる。「卵サンドも〜」とか言っている。はたしてアレは本当に病人なんだろうか、と訝しく思いつつもリクエスト通りにツナサンドと卵サンド。以前買ってきたフランスパンチックな大きなパンが塊のまま冷凍庫で保存されていたのでそれをスライスし、バター塗ってトーストしてそれでサンドイッチにすることに。

シーチキンには刻み玉ねぎをたっぷり入れて、マヨネーズで和える。卵も茹でて刻んでマヨネーズで。こちらのマヨネーズは、日本のみたいにチューブに入っているものは見かけず、ほとんどガラスの瓶に入っている。どこにでも売ってる青いラベルのマヨネーズ(今確認したら「HELLMANN'S」なるメーカーのものらしい)は酸味少なめでどっしりと固く、これがなかなか使いやすい。水っぽくならないから卵を和えたりするときになかなか重宝する。卵サンドには、「アメリカらしさを演出〜」とベーコンビッツをぶっかけてみたりして、大皿に山盛りのサンドイッチができてしまった。

ビタミンとっとけ、と言わんばかりにグレープフルーツジュースもテーブルに出し、カフェオレがばがば飲みながらサンドイッチをつまむ。あー、レタスやトマト挟んでも美味しかったかなー、と思いつつ。

豚肉と大根の煮込み
ミネストローネスープ
御飯
ビール(バドワイザー)
UFO桃

おおむね日本で見るものと同じような野菜や果物が並ぶ近所のマーケットだけど、私の大好きな「梨」及び「桃」は並んでいない。洋梨はあるけど、「幸水」みたいなみずみずしいタイプのものはない。桃も、やや小ぶりで固そうなものはあるけど(桃というよりプラムみたいだけど、やっぱり桃なのだった)、滴るような果汁たっぷりの桃はどうもみつからない。ただ、「UFO」とラベルのついた奇天烈な形の桃はどこででも見かけることができて、ずっと気になっていたのだった。「このUFO桃が美味しい!」という話も聞いたことがあって、数日前に買ってきてみた。

平べったくて、中央がぺこっとへこんでいて、「これが桃の仲間で良いのか、桃とは本来ハート型であるべきではないか」と問いただしたくなるような形の桃だ。皮の手触りも色具合も見事に桃で、売場周辺にはあの桃の芳香がぷわぷわと漂っているから、やっぱりこれは桃なのだ。でも、なんだかやっぱりヘン。皮がめちゃめちゃ剥きにくそうだ。

夕飯のメインは、日本の味をと豚肉と大根の煮込み。大根はしっぽと頭を切り落とされた、見るも無惨な円柱の形でマーケットに売られている。アジア食材屋などでは葉のついた丸のままの大根もあるけれど、小洒落た大型マーケットでは大根もセロリも、そういった"長い野菜"は綺麗にサイズを揃えて裁断されてラッピングされて売られている。束になったほうれん草などもあるけど既に1枚ずつにバラされて洗われて袋に入った「あとはサラダにするだけ」みたいなものがどうも主流っぽく売られているし、色々と"キレイ"だ。キレイすぎると思うところもある。こちらで見る野菜は今ひとつ土の存在が感じられないものが最初は多かったけど、でも案外食べるとしっかりとした味があってなかなか美味しい。大根も、ちゃんと大根の味がする。煮てもあまり柔らかくはならないけど、味の強い大根だ。

で、割烹料理屋「青柳」の主人、小山さんの著作か雑誌の特集かで見た豚肉と大根の煮物を作る。大根を適当に切り、豚肉は塊のままで水をひたひたに張り、数十分火を通していく。豚に火が通ったら豚を引き上げて一口大に切り、別鍋に移して先の煮汁と醤油を1:1の割合でひたひたに張って豚肉だけを醤油で煮ていく。適当に煮えたら大根の鍋に豚肉を戻し、醤油味の煮汁もちょっと加えて大根にうっすら醤油色がつくくらいに軽く煮る。確かレシピでは塩は使わず醤油だけだったような気がするけど、ちと味が足りない感があったので塩をがりがり入れて、完成。刻み万能葱をパラッとふって出すだけのシンプルな味の煮物だった。

そして、病人に野菜を喰わせねばという使命感に燃えてミネストローネスープ。A教授の自宅で採れたとお裾分けしてもらった真っ黄色のズッキーニ(緑じゃなくて黄色なもんだから、最初なんだこれは?と思った)とベーコン、ピーマン、ブロッコリー、キャベツ、にんじん、玉ねぎをベーコンと一緒にガーッと炒めて水入れて、水煮缶のトマトを放り込んであとは煮ていくだけ。塩とちょっとの顆粒コンソメ、ソースとケチャップを少しだけ放り込んで、具沢山のスープにした。先日買ってきた香菜を散らしたら、なんだか全然違う料理になったような気がするけど気にしない。

煮物だらけで野菜たっぷりの料理を作って「さ、喰え、たんと喰え」と未だちょっとへろへろ気味のだんなに食べさせたところ、多少は活力が出てきた模様。調子に乗って作ったミネストローネはなんか10人分くらいありそうで、数日これを食べるかなぁ……という感じ。

で、懸案の「UFO桃」。
買った時は固かったもんだから「熟してないのかな?」と1〜2日室温に置いてみたらそれがマズかったのか固いまますぐに食べるべきだったのか、水分が抜け気味でスポンジみたいなスカスカな歯ごたえになってしまっていた。果肉が茶色っぽくなっていて(表面は旨そうだったんだけど、中身が)、甘さも今ひとつで、どうもハズレを掴んできてしまった模様。多分、甘くて美味しいやつはすっごく良い味なんだろうなぁと思いつつのUFO桃初体験だった。今度はプラムでも買ってこようかしらん。楕円形の、ものすごく巨大なスイカなんかも売ってるけど、これはとてもじゃないけど食べきれなさそうだし。

8/11 (日)
Chicken simmered in soy and star anise (夕御飯)
ジャンボクロワッサン
ミネストローネ
グレープフルーツジュース

今日も寝て寝て寝まくって(最近は毎日9時間くらい寝ているのに、まだまだ寝られる自分がちょっとイヤ……)起床は10時。昨日、3個入って2ドルという値段のジャンボクロワッサンをマーケットで買ってきたので、軽く温めての朝御飯。ジャンボというだけあって、本当に巨大なクロワッサンは、我が家のパン皿から端が溢れそうなサイズだ。

昨夜の残りのミネストローネも温めて野菜もしっかり取って、最近肉ばかり喰っていたせいか今ひとつだった体調改善に励んでみる。
A教授の自宅で採れたという、いただきものの黄色のズッキーニは甘さが強くてすごく美味しい。なんでもズッキーニを研究室に持ってきた教授のその日のお昼御飯は、奥様手製のズッキーニキャセロールだったとか。容器に入ったそれをチンしてお昼に食べていたのがだんなに目撃されている。一口味見させてもらったら、これがまたすごく旨かったのだそうだ。いいなぁ。

Chicken simmered in soy and star anise
ピータン豆腐
ミネストローネ
御飯
ビール(コロナ)
緑茶

今日は一日中家でごろごろごろごろ。研究室には歴代留学生たちが置いていった日本語の書物が溜まりに溜まって本棚2つ分ほどの文庫本だの小説だのが置かれている。棚の下の方には何故か漫画の『ゴーマニズム宣言』までほぼ全巻揃っていて、ここ5日ほどは毎日数冊借りてきては家で読む日々が続いていたりする。密かに読みたかった本ではあったけど、まさかアメリカに来て読むことになるとは思わなかった。今日はベッドに寝転がって、ひたすらひたすら読み続けて、でもまだ4冊しか読めていない(私は遅読……だんなは私の3倍くらい早い)。

で、夕飯は買い置きの食材をあれこれ使ってチャイニーズな食卓を目指す。

もう何ヶ月も前にアメリカに留学で来ているという方から『new food fast』(donna hay/著 WHITECAP BOOKS 1999)という料理の本をいただいたことがあって、分厚く写真も美しいその本を日本で舐めるように見ていた。マグロのステーキとか「美味しそー!」、と思ってもマグロを買ってきて焼く勇気がなかったりして(あまり安いもんじゃないし、マグロ買ってきたら生で食べたくなるのが人情ってもんだし)、鶏肉の料理なんかをちょこちょこと参考にしていたりした。

英語で書かれたその本には和や中華の食材もけっこう頻繁に出てきて、青梗菜やワサビ、水菜なんかがよく登場していた。食材にはよく分からないものもあったり、火加減などの記述が今ひとつわからないところがあったけど、そのへん、アメリカに住むことになってものすごく「そうか、そうだったのか」と頷けるものがある。火加減の微妙な強弱は電気コンロじゃ難しい。売られている肉やマグロの切り身なんかも「さぁ、焼いて喰え!」的な厚切りおおぶりのものが多いから(しかも安いし)、これならがんがん焼いて食べられる。調味料も、アメリカで比較的入手が容易なものばかりが使われているので、いよいよ大活躍してくれそうなレシピの本なのだった。本はすんごく重くて持ってくることはかなわなかったので、ほとんどのレシピをパソコンのレシピデータベースに入力して持ってきてしまった。

レシピを見ると鶏肉料理といったら鶏胸肉を使うものばかりで、確かにマーケットで売られているのも胸肉ばかり。昨日はその胸肉を買ってきてみたので、「Chicken Simmered in Soy and Star Anise」なるものを作ってみることにした。フライパンに醤油と紹興酒(はないので日本酒で代用)を大さじ3強ずつ、オイスターソースとブラウンシュガー(はないので砂糖で代用)を大さじ2ずつ、スターアニス(八角)2個とシナモン1本(はないので無視……)を放り込んで熱し、そこに鶏肉を放り込んでタレを絡めつつ火を通していく。仕上がり間際に青梗菜も入れて火を通し、御飯を添えて完成……とある。シナモンを無視したり、紹興酒を日本酒で代用したり、青梗菜もないのでそれもまた無視……とめちゃめちゃやったものの、八角の甘い香り漂う中華チックなおかずができた。

そしてピータン豆腐。マーケットのサラダコーナーに何故か並んで売られている豆腐を角切りにして、アジア食材屋で6個2ドルくらいで売られていたピータンをざくざく切って散らす。彩りにプチトマトも半分に切って散らし、タレは醤油と酢と砂糖をほぼ同割に混ぜたものに胡麻油と花椒塩をひとふり。本当はラー油も垂らした方が美味しいらしいけど、ラー油は手元にないのだった。そして食べ際に香菜をこれでもかこれでもかとぶっかけて食べる。

割と美しく中華チックな食卓になったのに、なのにスープは昨夜の残りのミネストローネで、
「……これだけが調和を乱す……」
と呟いていたところ、だんなが
「ではミネストローネに胡麻油を垂らしてムリヤリ中華風にするというのはどうか」
と危険な発言をする。確かに胡麻油垂らして胡麻を散らせば中華風に……なるようなならないような。でも大変危険な実験なのでそれは止めておく。

ともあれ、胡麻風味の酢醤油ぶっかけたピータン豆腐も、淡白な鶏肉の煮込みも美味しかった。豆腐とピータンと香菜は、この組み合わせがあったらどこまでも食べていけると思えてしまうほど相性がいい。こっちの香菜は茎がモリモリと太くて匂いが強いのもまた嬉しかった。普通に料理に使うのか、どこのマーケットに行っても「Coriander」(コリアンダー)の名前でパセリなんかと共に売られていて、私は密かに喜んでいるのだった。

中国では「シャンツァイ」、英語圏では「コリアンダー」、イタリアでは「コリアンドロ」、タイでは「パクチー」なんて呼ばれている香菜は、やっぱりどこの国でも密かに人気があるらしい。私の中では「トムヤムクンに山盛り」という感覚が強く、台湾料理屋あたりで小皿に大盛り持ってきてもらうような、そんなアジアな印象がある。イタリア料理にも使われていてびっくりしたことがあったけれど、案外オリーブ油やトマトにも合っていて、ますます香菜が好きになった。
話によると香菜はメキシコ料理にも使われているらしい。今度タコスにもりもりかけて食べようかなぁとニヤニヤしている私だった。臭いけど美味しいんだわぁ。冷蔵庫に数日ほっぽっとくと茶色くドロドロと溶けるように傷みはじめるんだけど、それでもやっぱり好きなんだわぁ。