ズッキーニのグリル
苺のサラダ
キュウリとスイカのマリネ
スモークサーモン
ローストビーフ
プルドバーベキュー
チキンのフライ
玉ねぎとチーズ、マッシュルーム入りオムレツ
クリームチーズのフライ
エッグス ベネディクト
野菜入りポレンタ
苺・葡萄・メロン
クレームブリュレ
キーライムタルト
アイスティー
「キル〜ヒアイスがすーぐできるー♪」
朝から怪しい歌を歌っている我が夫。え?ナニができるって?と、今日は早めに目が覚めてしまってネットサーフィンしていた私。今日も良い天気だ。
今日の朝は、サンデーブランチに行こうということになっていた。つい数日前にトンカツを食べに行ったばかりの南部料理屋さんだけど、日曜はサンデーブランチということでブッフェ料理が用意されている。いつもは8ドル程度で満腹になれる店だけど、ブッフェはやはりちょっと高めで14ドル。でも、その差額を払うだけの価値がある素敵な品揃えに、私もだんなもすっかり魅了されている。
「スタンプカードがいっぱいになってるから、普通の日のおかずは間違いなく1皿無料になるんだけど……」
「いや、でもさすがにサンデーブランチは無理でしょ。値段が違うし」
と、12個の枠が綺麗に埋まったスタンプカードを一応持参してお店に行ってみたところ、あっさりと「あら、いいわよ。これで1人無料よ」とお店の人に言われてしまった。サイドディッシュ抜きのおかずだけ(5ドルくらい)を1品買っても1個スタンプを押してくれるうえに、サンデーブランチも無料の対象になるとは、いい加減というか太っ腹というか、嬉しい店だ。ありがたく1人無料でサンデーブランチを堪能することにした。しかも息子は無料だし。
10時の開店直後にお店を目指したのだけど、すでに一家揃ってすっかり空腹状態。本当は上品にサラダやフルーツあたりからゆっくり食事に取りかかりたい心づもりではあったのだけど、私の足と手は勝手に動いて、むんずと1枚掴んだ皿を肉料理コーナーに移動させてしまう。巨大な塊肉で用意されている自家製ハムとローストビーフがあるカウンターの前で、
「ローストビーフくださいな♪」
と、いきなり1皿目からローストビーフ。とろりとグレービーソースをかけてもらったその皿に、続いて、ブリオッシュの上にハムとポーチドエッグを乗せて卵ベースのソースをかけた"エッグスベネディクト"、鶏肉のフライ、ポレンタなどをどかどかと盛りつけていく。あまりに濃厚な皿模様になってしまったので、最後に苺のドレッシングが添えられたサラダとフルーツを飾ってみた。これで写真的には美しいはず。多分。それでもやっぱりがっちょり濃厚な品揃えであることに変わらないけれど、なんとなく満足して席についた。
決して広くはない店の、レジの脇のささやかなスペースに作られているブッフェコーナー。それでもちゃんと温かく食べるべきものは温められているし、目の前でハムやローストビーフをスライスしてくれる。料理を選んでいると、
「ワッフルやオムレツもお作りしますよ?」
なんてカウンターの向こうから声がかかり、好みのソースや具で焼きたてアツアツの料理も作ってもらえるのが、また嬉しい。
チーズやデニッシュなどは段差をつけて機能的に皿が並べられ、フルーツや野菜が彩り豊かに散らされる。スモークサーモンの脇にはベーグルも用意され、刻み玉ねぎやスライスしたゆで卵、刻みトマトやピクルスやクリームチーズも小皿に。よくある業務用の大皿などではなく、分厚い石製のプレートにスモークサーモンが乗せられ、素焼きっぽい大皿にサラダが盛られ、毎度のことながらうきうきさせられる光景だ。
一応、南部料理のお店ではあるのだけど、サラダやサイドディッシュなどはほんのりイタリア風な感じもあるこのお店。苺の果肉が混ぜられた葉野菜のサラダには甘酸っぱい真っ赤な苺味のドレッシングが添えられていたりする。シンプルなズッキーニのグリルはオリーブ油と塩胡椒の風味。今日は初めて食べた"キュウリとスイカのマリネ"のようなものがあった。ピクルスの漬け汁のような酸味のある液体に、ざく切りにしたキュウリとスイカが入っているのだけど、「スイカは果物だから」と思って食べてしまうとちょっとした違和感が。「これはスイカじゃなくて、ウリなのよウリ、果物じゃなくて野菜なのよ」と念じながら食べると、その淡い甘さがけっこうピクルスっぽい味と似合わなくもないかなと思えてくる。
1皿目からごってり料理を胃袋全開で食べ始め、無料でついてくるドリンクはアイスティーにしてもらって、これもまたお代わりしながらぐいぐいと飲む。速攻食べ終わった1皿目に続き、2皿目にも再びローストビーフ。先ほどは盛らなかったプルドポークバーベキュー(グリルした豚肉を、細く細かく割いたもの。添えるのは甘辛いバーベキューソース)と、スモークサーモンも。再び野菜と果物も脇に添えて、1皿目と同じ勢いで平らげた。フルーツとデニッシュを前に嬉しそうな息子は、5枚目になるスモークサーモンをがつがつと食べている。息子によると、この店で一番美味しいのはスモークサーモンであるらしい。我が息子ながら、それはちと生意気ではないかと思う。
で、結局、1皿目でも2皿目でもしっかりローストビーフを堪能した私とだんなだった。皆で分けて食べようと1つだけ注文したオムレツは、玉ねぎとチーズとマッシュルーム入りにしてもらい、これもまた家族全員の胃袋に綺麗に消えた。
「……さて、3皿目ですが」
「もう1回ローストビーフ食べたいんだけどなぁ……それだとデザートが絶対入らなくなる」
「やっぱり?そう思う?そうだよねぇ……」
「ここはデザートのためにローストビーフを諦める、だな」
「この店に来るのは最後じゃないかもしれないけど、サンデーブランチは確実に最後だしね」
と、いそいそとデザートコーナーに。チョコレートチーズケーキやファッジケーキ、パウンドケーキなどが並ぶ中、私もだんなもクレームブリュレを1つずつ。更に私はキーライムタルトを、だんなはストロベリータルトを持ってきた。
「アメリカのお菓子は甘い」という通説に違わず、この店のお菓子類も甘さは強め。でも、素朴な味のケーキやタルト類はとても美味しいと私は思う。今日は特に、この店で初めて見かけたクレームブリュレが絶品だった。プリンのように黄色の色味が濃厚でふるんと柔らかく、卵と牛乳の素直な味が漂ってくる滑らかな舌触り。ほわんとライムの酸味が漂ってくるキーライムタルトも、スライスした生地に生クリームベースのさらりとしたソースがかけられていて、さっぱりとした味だった。
料理もデザートもしっかり堪能して、店を出るとまだ11時。荷作り用の梱包材の不足分を買いに安売り雑貨店TARGETに寄り道したのだけど、
「あぁっしばらく見ないうちにThe Simsの拡張ソフトが出てるし!」
「"アラビアのロレンス"のDVDが安売り中だ……」
「ずーっと欲しかった"スタンド・バイ・ミー"も買っちゃおうかなぁ……」
と、あれこれあれこれ衝動買い。昨日今日で、やっと"送る荷物"と"自分の手で持って帰る荷物"の仕分けの目処がついたのに、また微妙に荷物が増えてしまうことに……。
(フィッシュフライ、チキンナゲット、ハッシュドポテト、半熟ゆで卵乗せ)
コールスローサラダ
ビール(Corona、Budweiser)
食材処理強化週間の一環ということで、今日の夕飯はヨコイのスパゲッティ。「2ヶ月に1回ヨコイに飢えても食べられるように」という目安で持ってきた専用麺とレトルトパックは、しかしながら若干余ってしまっていた。もうちょっと飢えてから、もうちょっと恋しくなってから、と地味に我慢していたのがいけなかったらしい。で、今日は助っ人に同じ住宅内に住むMさんをお招きすることにした。Mさんなら大食らいだから大いなる助っ人になるに違いない。
具は冷凍庫に保存してあった揚げ物の品々。フィッシュフライとナゲットと……と、あるだけ出したら非常にジャンクな光景になった。フライものはオーブンで温め、大量の麺は茹でてから水で締めて、バターで炒める。レトルトパックは湯煎で温め、本来は目玉焼きにするところの卵はめんどくさくて半熟ゆで卵に。
「……はぁ、これが名古屋にしかないスパゲティなんすか……」
Mさんは、初めて見る"あんかけスパゲッティ"に、ちょっとびっくりした顔をしている。すみません、いつもはもうちょっとだけジャンク感が薄いんですけどね……と差し出した皿には、ごろごろとこれでもかと乗るフィッシュフライやナゲットの山。これね、3回くらい食べると妙にクセになっちゃったりするんだけど、第一印象はけっこう変な味でしょ?と笑いながら勧めると、
「はぁ……まぁ……」
と苦笑いしながらも大量の麺を平らげていく。今日茹でた麺は550gくらいあったらしいけど、大人3人子供1人で綺麗に食べきってしまった。冷蔵庫内に残っていたキャベツは千切りにしてにんじんと玉ねぎとあわせ、軽く塩して揉んだ後マヨネーズ加えて和えてコールスローに。
「もうすぐ皆さん、帰っちゃうんですねぇ……」
と、自分もあと少しで帰るだろうはずのMさんは、かなり寂しそう。
「俺たちも帰りたくないよー」
「いっそのこと、この町でお総菜屋でもやろうかと思っちゃうよ」
「でもまたきっと日本で会えるよね」
と、アメリカと仲間との別れを惜しみつつ、ちょっとばかりしんみりしながらの食事になった。でも明日はそのMさんとパンケーキ食べに行く予定。
私:
Wild Blueberry Pancakes
Iced Tea
だんな:
Water Ground Cornmeal Pancakes
Coffee
息子:
Polka Dot Pancakes
Milk
Mさん:
Raspberry Delight Pancakes
Iced Tea
テネシーで最初のパンケーキ屋さんが、グレートスモーキーマウンテンの麓町にオープンしたのが1960年のこと。その後、州都である我が町にものれん分けで開店し、平日の昼も休日の朝も大盛況なのが「Pancake Pantry」というお店だ。この町に来て一週間ほど経った頃に初めて来てから、この店の味に魅了されまくっていた私たち。
過去の留学生の中には、1人で全種類のパンケーキメニューを制覇したという猛者もいたそうだけど、さすがにそれは不可能そうだと、だんなと2人で全種類食べることを目指してみていた。20種類を越えるパンケーキメニューはもちろん、サンドイッチもハンバーガーもスープも、何を食べても素朴でしみじみとした美味しさがある。着々と食べ進んではいたものの、帰国が迫りつつあった段階で「完全制覇まで残り5品」というところ。冬場にいまいち食指が動かなくてこの店に来る頻度が減っていたのが敗因らしい。先週あたりに一度来て2品食べたけれど残り3品。家族3人で3品食べるには、ボリュームが厳しいお店だった。パンケーキ1種類ずつの写真を撮っていたりしたので、「あと1種類」と思うと収集心がうずいてしまう。
「というわけでMさん。よろしければパンケーキ屋さんにつきあっていただけないでしょうか。ただし、メニューは3種類固定なんです……。コーンミールと、ブルーベリーと、ラズベリー……」
数日前に、留学生仲間のMさんにそう相談してみたところ、「……え?ブルーベリーとラズベリー……」と一瞬笑顔が固まってしまったものの、良いですよ喜んで、と言ってくださった。
諸々の用事を済ませた後、研究室で勉強していたMさんを車に乗せてパンケーキ屋さんへ。だんなはストロベリー以外のベリー系の味が苦手で、Mさんはブルーベリーがちょっと苦手。そうすると必然的に私がブルーベリーパンケーキになり(ブルーベリーは好きなので望むところ)、だんながコーンミール、Mさんがラズベリー。息子にはキッズメニューの中からチョコチップを散らしたミニパンケーキにし、あとは各自コーヒーとか紅茶とか。混雑する時間を避けようと11時過ぎに行ったのだけど、店頭にはもう10人以上が列を作っているところだった。今日も大繁盛だ。
そして、各人の前にずらりと並べられた色とりどりのパンケーキ。何よりMさんの前にやってきたラズベリー・ディライトがなんとも乙女チックな外見だった。真っ赤なベリーを薄焼きパンケーキでぐるりと巻いたものが3本(1本の大きさが"まるごとバナナ"1本分くらいに相当する)、その上から更にベリーのコンポートがだばだばだ〜っとかけられている。とどめを差すように、上にはこんもりとホイップクリーム。女性が好みそうな外見の割には、ボリュームは凶悪だ。「うわ……」と呟いたMさんは、ちょっとばかり悲壮な顔をしながらフォークとナイフを構えて食べ始めた。
私のは、シンプルな5枚の普通サイズのパンケーキ。ガラス製のココットケースの中に粒の残るブルーベリーのコンポートがたっぷりと満たされて、ホイップバターが添えられている。ブルーベリーをかける量は調節できるので、食べやすいパンケーキだ。花のような独特なブルーベリーの香りがふわふわと漂って、甘酸っぱい味がなんとも良い感じ。だんなの前にやってきたコーンミールパンケーキも皿に5枚並んでおり、一見すると私のものと似ているものだけど、色が濃いめ。断面には刻みにんじんでも入っているのかと思うほど鮮やかな紅色の粒(コーンの粒)が覗いていて、プチプチとした食感が楽しいものだった。
「コーンミールも食べてみる?」
「あ、私のラズベリーも、どうぞ」
「ブルーベリーも食べてみてー」
と、互いの皿をつつきあいながら、多分これが最後のパンケーキ。例えば10年後に再びこの町にやってくる機会があったとしても、この店はこの味で変わらずやっていてくれそうな気がする。ごちそうさまでした。
インスタント味噌汁
ほうれん草とベーコンビッツのサラダ
コールスロー
ビール(Corona)
麦茶
そろそろ、帰国前の最終片づけ段階に入って、台所にも手を着け始めた(まだ手を着けていなかった、という……)。
送料や手荷物で持っていけるものの重量を考えると、ほとんどのものは誰かにあげるか捨てて行くしかない。「うー、片栗粉、すまん」とか「あぁ〜君のおかげで餃子が旨かったよラー油」とか「あまり使えなくてごめんバルサミコ」などと、少々切なくなりながら棚の中や冷蔵庫を片づけた。明日研究室に持っていって、欲しい人にあげることにしよう。って、なんでこんな時に出てくるんだよフルーチェ(←これは食べよう、と密かに決意)。
米も残っているし、そもそも米の飯が食べたいしね、と夕飯には米を炊く。
「でも、おかずはアメリカ〜ンなものがいいかも」
「アメリカ〜ンというと……肉、かな」
「肉だな」
「ステーキ丼、というのはどうだ」
「それ!イイ!ステーキ丼決定!」
と、本日はステーキ丼。研究室でラストスパートの仕事をして帰ってきただんなが途中のスーパーでアンガスビーフ(黒毛牛)のステーキ肉を買ってきてくれた。安売りしていたという袋入りのほうれん草は手で一口大にちぎってベーコンビッツを散らしてサラダに。昨夜の残りのコールスローと、棚から出てきたインスタント味噌汁。「何かあったときにあると便利だから」と買ったあれこれのインスタントものは、結局何もないまま棚にしまわれていたりして、最後にこうやって食べる羽目になるのは引越間際によくあることだ。けっこう大量にあったインスタント味噌汁は、ここしばらくせっせと飲んでいたのでやっと残り僅かになった。これからは闇雲にインスタントものを買い込むのは止めることにしよう、と内心密かに誓ってみる。
私が食器やサラダの準備をしている間に、だんなは肉焼き担当。この国に来た数ヶ月後に買ったスキレット(鋳鉄製フライパン)もすっかり油が馴染んで黒光りするようになり、こちらが思うとおりに調理できるようになってきた。だんなが焼くステーキは、ほとんど毎回見事に好みなミディアムレアだ。今日も表皮から3mmほどが茶色くその中はグラデーション状に薔薇色になった、綺麗な焼き加減だった。しかも中央は生じゃない。ざくざく切ってご飯に盛りつけ、ステーキを除いた後のスキレットにバターと醤油を落として軽く煮詰めたタレを上からかける。
「やっぱり、ステーキ丼は"高級バター醤油ご飯"じゃないとね」
「とにかくバターと醤油なのよね」
と頷き合いつつ、1枚のステーキ肉を家族3人の皿に盛る。1枚といっても、その1枚が800gくらいはあるんじゃないかというサイズのものだったので、かなりゴージャスな見栄えのステーキ丼になった。
肉汁とバターと醤油吸って、ちょっと下品じゃないかというくらいギトギト感のあるご飯をかっこんで、柔らかな肉を齧る。断面も巨大なら厚みもかなりある肉だったので、1切れの断面が1.5cm角の直方体のようになっていて、肉の1切れが"棒"という感じ。なかなかすごい。ステーキ食べているというより、塊肉をそのまま齧っているような気分になってくる。「ステーキ肉1枚を家族で分けたら、けっこう軽めのさっぱりした量になるよね」とか言っていたのに、全然そんな風ではなくなってしまった。そして今日も満腹。
麦茶
この家を出るのは、明後日。食材整理も最終段階に入り、
「冷凍うどんが残っているから、これは今日食べて……」
「冷凍庫、ラーメンも残ってるじゃん。これも食べなきゃ……あー、冷凍肉もあるし」
と、外食予定と平行に"我が家飯"の献立も綿密に立ててみる。カルピスは4缶あるから、風呂上がりに1缶ずつ飲もうか、とか。
今朝は、冷凍庫内のうどんと、冷蔵庫内の練り味噌を使い切りましょうということで味噌うどん。我が家の冬の定番である豚味噌鍋用の練り味噌が、鍋で食べるには足りないほどにちょっとだけ残っているのでそれを湯に溶き、冷凍うどんを煮る。具は、冷凍庫から発掘した豚と思われるひき肉と、野菜庫に残っていたほうれん草。鍋にたっぷりのうどんを作り、クーラーがんがんに効かせながら啜りこむ。スープの温度そのものも熱いのだけど、練り味噌の中に酒粕だの生姜だのにんにくだのがけっこうたっぷり入っているから、ものすごく身体が温まってくる。もう6月だというこの季節に、朝から熱いうどんはちょっとばかりヘビィだった。でも美味し。
Crunchy Shrimp Roll
Salmon Skin Roll
Eel Roll
Yellow Tail Roll
Tamago ×4
緑茶
……を、親子3人で。
今日はさすがに全力で荷作りを……と思いつつ、何故か気温も高く晴天な今日の気候に住宅内のプールにちらっと行ってみたりしながら、それでも片づけと掃除は着々と終わっていく。私が家の中をせっせと片づける脇でだんなはその荷物を運送会社にちまちま運んだり、研究所で最後の仕事を片づけたり。昼は家族皆で、お世話になった寿司屋さんに挨拶がてら最後の食事をしに行った。
ケンさんという人がご主人なので、店名も"Ken's Sushi"というお店は、大学にほど近いということもあっていつも学生さんや付近のサラリーマンで混雑している。妙に日本人のお客ばかりが目立つ日本食屋もあるけれど、この店のお客はそれほど日本人ばかりという印象はない。寿司メニューもあるけれど、うどんも蕎麦も天ぷらもトンカツも定食もある品揃えなので、旅行から帰ってきたときの夕御飯や、やる気のない昼御飯などには何かとお世話になっていた。他の日本食屋に比べると値段も手頃だし、味も好みだし、何しろケンちゃんが男前だ。この町で一番頻繁に訪れていた日本食屋さんがこのお店だった。
今日は、「日本じゃ食べられない寿司を食べて帰ろう」ということで、いかにもなアメリカチックな巻物ばかりを注文してみる。天かすと海老が巻かれたCrunchy Shrimp Rollに、サーモンの皮をちりりと焼いたものとキュウリ、にんじんを巻いたSalmon Skin Roll。Eel Rollには鰻とキュウリとアボガドが巻かれ、鰻丼のタレと同じ甘辛いてろんとしたタレがご飯に染みている。そして、葱と一緒にハマチを巻いたYellow Tail Roll。息子には卵の握りを4個頼み、テーブルの中央に大皿に乗せられてやってきた寿司を皆でもりもりと食べた。
海苔が内側に巻かれ、アボガドやクリームチーズが入っているアメリカの巻き寿司。最初は「うぇー、なんでマグロとクリームチーズ?」と思ったりしたのだけど、慣れてみるとこれもこれでけっこう食べられるものだ。しっとりした天かすが巻かれたCrunchy Shrimp Rollはだんなの大のお気に入りになってしまい、
「……これ、日本にもあったら食べるのに……」
と公言するほどしょっちゅうこれを食べていた。
魚介そのものの味は日本で食べるものには到底敵わないし(何しろ最寄りの漁港まで1000kmくらいあるわけで)、種類も当然日本ほど多くない。それでも、時折食べるこのお店の寿司に心底癒されていた我が家だった。日本に帰ったら、逆に「あー、海苔が内側の海苔巻きが食べたい」なんて思っちゃったりして(いや、でもやっぱり海苔は外側の方が……)。
コールスロー
ビール(Corona)
白玉だんご
麦茶
「冷凍庫内・冷蔵庫内を片づけましょうキャンペーン」ということで、今晩が最後の自炊。献立は、具沢山の味噌ラーメンだ。
もやしと肉は使い切れる分量を買ってきて、まずはそれらをジャジャジャッと炒める。湯を加えて沸騰させたら濃縮スープを投入し、麺は別茹で。あらかじめ温めておいたどんぶりにまずスープを注いで麺を入れ、最後に鍋に残ったもやしと肉をこんもり上に盛りつける。だんなが作ってくれる味噌ラーメンとか塩ラーメンは、大体こんな感じ。私は最後にホールコーンの缶詰を開けて上からこれでもかとコーンを散らし、バターを1かけ添えるのがお気に入りだ。かくして肉の茶色ともやしの白とコーンの黄色で、今日のラーメンも妙に華やかになった。
「……もうすぐ日本に帰るのにさ」
「今日食べたものがうどんと寿司とラーメンなんて、"そんなの日本で食べられるだろ!いくらでも!"って感じだよね」
「まぁ、アメリカ飯も食べ続けているからちょっと食休み、ってことで」
「明日はまたアメリカ飯がっちょり喰うぞ、ってことで」
と、皆でずるずるずー。朝に続いて夜も鼻の頭に汗びっしりだ。
食後は、残った白玉粉とあんこをなんとかしましょうと、白玉だんご作り。水で練った白玉粉を丸めて中央をぺこっとへこませてぽいぽいと鍋に投入していく。一度沈んだ白玉だんごが浮き上がってくるのを眺めながら、
「おーおー、今日も赤血球のような形状じゃのー」
と心中呟きながら冷水に取って皿に漉しあんと共に盛りつけてテーブルに出すと、だんながぽつりと
「白玉だんごってさ、赤血球のような形だよね」
と。……なぜ私が「赤血球、赤血球」と呟きながら茹でていた事を彼は知っているのだ。彼には隠し事はできないらしい。
麦茶
いよいよ今日が我が家で過ごす最後の1日。
最後の洗濯に行き、今日明日に着る洋服以外はせっせと畳んでドラムバッグの中に詰めていく。片づけの最終段階まで手を着けなかった台所もとうとう綺麗に片づいて、本当に「ああ、もう終わりだー」という気分が盛り上がってきた。……と思ったら、台所の棚の上に置いてあった段ボールから日本蕎麦とか出てくるし。
「日本蕎麦が出てきちゃったよ……」
呆然としていたのだけど、息子は横で
「おそばー、おそば食べたいな。つめたいおそばー」
と、何やらはしゃいでいる。そのままなし崩し的に朝食は日本蕎麦となった。幸い、海苔は捨てようと思っていたものがまだ残っていたので、それをたっぷり揉んでパラパラと散らす。1ガロン水のペットボトルに作った麦茶もあと僅か残っていたので、それを傍らにぞるぞると蕎麦を啜った。温かい季節のざるそばはサイコーだ。
「研究所の人に聞いたんだけどさ」
ぞるるるるーっと音高く蕎麦を啜りながらだんなが言った。
「日本人がRとLの発音の区別ができないように、アメリカ人は蕎麦を音立てて啜ることはできないらしいよ」
とのこと。それはもう、子供の頃から染みついた何かなのであるらしい。音立てて麺類を啜るのは好きだけど、やはり日本以外の国ではあまり通用しないお作法なんだなぁと旅行するたびに思わされるのだった。インドネシア人もタイ人も、ずるずるずーっと盛大な音を立てたりはしてなかったと記憶しているし。
私:
Tongue Plate $6.99
Horchata $0.99
Flan $1.99
だんな:
Fajitas Beef $6.99
Beer (Corona)
息子:
Cheese Quesadilla $1.39
とうとう荷作りも良い感じに佳境に入ったけど、"目の前にある詰めこみたい荷物"と"収納できるスーツケースやドラムバッグの容積"には思った以上の齟齬が生じてしまっている。スーツケースは全体重をかけて押さえ込まなければ閉められないし、ドラムバッグもチャックがはち切れそう。それなのに、目の前にはお菓子とかヘアクリームとか調理小物などがまだまだ散乱していた。
「これは……ここに入る、と」
と、だんなはピザ焼き台を手にとって、ガーメントケースに突っ込んでいる。え、ガーメントケースって、スーツ入れてるやつでしょ、なんでピザ台とか入れちゃうのー?と私が青くなっている脇で、「まだまだ」とか言いながら息子のおもちゃや調理小物まで放り込んでいる。もう、ぐっちゃぐちゃ。空港で検閲でもされた日には、果てしなく恥ずかしいバッグの中身になりつつあった。
現実逃避も兼ねて、昼御飯はお気に入りのメキシコ料理屋さんに。魚介ものやジャンボサイズマルガリータが美味しいお店だけど、今日の目当ては「プリン」。メニューに"Flan"なるものが載っていて気になっていたのだけど、これはどうもプリンのことであるらしい。今日案内された席は、まさにそのプリンが冷やされていた冷蔵ケースの正面で、アルミ型にみっちりと固められたプリンがずらずらと並ぶのが目の前にある席だった。
「そうそう、これ、これが食べてみたかったのよ〜」
と身もだえしながら料理を注文。私はタンプレート、だんなはビーフファヒータ。飲み物は、"甘酒からアルコールを抜いてシナモンを足し、ちょっと薄めたもの"といった感じのメキシコ特有のお米飲料、オルチャタ。この店のは自家製らしいけど、今日は妙に濃いめの味だった。いつもは"4倍希釈の甘酒"という感じだけど、今日は"2倍希釈"という感じ。喉に溜まる甘さだけど、サルサのピリッとした辛さなどにはこれがけっこう良く似合う。
グリルした後に細かくほぐしたような塩味ベースのタンが山盛りと、豆のペーストと赤いご飯、玉ねぎと香菜を刻んで和えたものが一皿にごそっと盛られてやってくる。アルミホイルにくるまれた焼きたてフラワートルティーヤを1枚取っては、肉をくるんでみたり、ご飯や豆も一緒にくるんでみたりしながら食べていく。皿に盛られた料理の量もけっこうあるのだけど、トルティーヤが胃袋の中でもこもこ膨れてきてしまうので、完食するのはいつもちょっとした覚悟と努力が必要だ。今日も顔を白黒させながらなんとか完食。そしてデザートに待望のFlan。
皿にかぽんとひっくり返されて出てきた、プルプルのプリンにはホイップクリームもちょこりちょこりと添えられていた。ちょっと固めな部分もあるけれど、とても滑らかな舌触りのカスタードプリン。たっぷりの卵と、牛乳分はコンデンスミルクを使ったような風味の、ベトナム風プリンに似たものだった。カラメルはついておらず、こってり濃厚な卵とミルクの味のするプリンに、注文したのは私のはずなのに息子とだんなが2人で「あーん」と大口開けて迫ってくる。結局3人で等分するような形で、ちっこいプリンはすぐになくなってしまった。
メキシコ料理、プリンも美味しいなんて、なんだかずるい。
Half chicken all dark with two sides (Curry sauce)
w/ House salad
w/ Bean & corn salad
ビール(Corona)
今日の夕食が、この町最後の食事。
車は夕方に売り払いの手続きに行ってしまったので、同じ住宅内のMさんが一緒にご飯を食べてくれることになった。どこかに行こうか、買って来ようか、と数日前から考えていたのだけど、結局、Calypso cafeで買ってくることに。このお店は、この町にやってきて最初の晩に食べたお店だ。町に到着したのも夕方遅い時間ということもあって、何が何だかわからないまま研究所のスタッフに「ここが美味しいわよー」と言われて来てみたお店。料理の注文ところかコインの種類すらよくわからず、ソフトドリンクが飲み放題ということも知らず、チップはどうすんだどうやって注文すんだ、とあたふたしながら食べに来たお店だった。それでもすごく美味しくて、「なんだ!アメリカって不味い不味い言われているけど美味しいじゃん!」と初日から目から鱗をだばだば落とすことになった思い出の店だ。
結局この店、中で食べるよりはテイクアウトしてきて食べる方が手軽らしいと学び、何度か買ってきて家でも食べていた。
メニューの基本は、チキン。1人用のプレートは1/4サイズや1/2サイズの鶏を選ぶことができる。ファミリーパックなら丸々1羽だ。で、バーベキューソースかカレーソースかを好みで添えてくれるのだけど、人気はなんといってもカレーソース。すりおろしリンゴがたっぷり入ったようなシャバシャバした冷たいカレーソースはほんのり辛くほんのり甘く、これで鶏肉がいくらでも食べられそうな気分になる。サラダ主体のサイドディッシュもかなり好みな味だった。
Mさんと共にだんなが買ってきてくれた、子供分も含めて4人分のチキンプレート。私が頼んだサイドディッシュはハウスサラダと豆ととうもろこしのサラダ。ちょっと甘めのドレッシングが添えられるハウスサラダにはチーズとトマトがたっぷり混ぜられているし、豆のサラダは5種類くらいの豆ととうもろこしがざっくりと甘酸っぱいドレッシングに和えられている。どれもちょっと珍しい味だけど懐かしさも感じさせる素朴な風味。
「これで最後なんですねぇ……」
と、続々帰国していく仲間を前にMさんは今日もとても寂しそうだった。
今日はこれ、明日はこれ、と怒濤のように食べていたここ1週間ばかりも、今日でおしまい。
明日はいよいよ機上の人。1日だけ寄り道して、ある人に会っていくのだけど、テネシーとはさよならだー。
牛乳
今日は5時半起き。6時半には家を出て、8時過ぎに発つ飛行機に乗ることになっている。
最後の朝食は、昨夜のうちに焼いておいたインスタントクロワッサン。缶を開け、切り取り線があらかじめつけられている生地を三角形の形に切り取ったら三角の底辺を手前にして頂点に向かってくるくると巻いていく。あとはオーブンで10分ほど焼けばできあがり。手軽でけっこう美味しいので、アメリカ滞在中に何度となくお世話になっていたものだった。2缶も冷蔵庫に残っていたので、ジャンボタイプはハムとチーズを巻いて朝御飯用に、ミニサイズはそのままプレーンで焼いて、息子の機内のおやつ用だ。
冷蔵庫内に唯一残っていた牛乳を紙コップで飲みながらクロワッサンを齧る朝6時。巨大な電気オーブンとも、最後まで「やっぱりガスの方が嬉しいんだけど」と思わされた電気コンロとも、狭くて湯の出が悪いユニットバスともこれでお別れだ。車に荷物を積んでいると、たまたま近くを住宅の管理人のおばあちゃんが通りかかった。だんなのお祖母ちゃんと同い年の、魔女のような顔をしたちょっと気むずかしい管理人さんだ。言うことはころころ変わるし、けっこういい加減なところもあるけれど我が家はとても気にかけてもらっていた。
「お引っ越しの準備はもう終わったのね?」
と話しかけられ、どうもお世話になりました1年間すっごく楽しかったしこの町もとても大好きでした、と頭を下げて住宅を後にした。
空港には、送ってきてくれたMさんと共にお世話になったA先生も見送りに来てくださって、ちょっとウルウルしてしまいながら搭乗口へ。いよいよこの町ともお別れかと余韻でウルウルしていたところ、「出発予定の飛行機がまだやってきてないんで、ちょっと遅れますねー」というトホホなアナウンス。8時過ぎに出るはずの飛行機は9時を過ぎても搭乗案内がなく、やっと飛び立ったのは9時半近くになってからだった。最後の最後まで、どうも私たちはバタバタだ。
ダブルチーズバーガー
フレンチフライ
オレンジジュース
ナッシュビル空港からダラス経由で西海岸のサンノゼへ。現地時間の午後2時頃には到着する予定であったのに、ナッシュビルを飛び立つのが遅れたせいでダラスの乗り換え便も間に合わず、振り替えられた1時間半後の便でサンノゼに向かうことになった。本当だったら機内食が出る便に乗る予定だったのに(アメリカの国内線の機内食というものは食べたことがなかったのでちょっと興味津々だった)、振り替え便は食事なし。
「ミールクーポンとかないの?私たち、本当は食事がつくはずだったのにー」
と空港のカウンターでちょっと文句をたれてみたところ、「わかるよ、貴方の言うこと、すごーくわかるんだけどね」と苦笑いした職員さんに
「But, I can't do anything」
と言われてしまった。アメリカ人は、何かとこの"I can't do anything"というフレーズを使う……ような気がする。
で、仕方なしにフードコート内にあったマクドナルドでハンバーガーを買ってきて搭乗口近くのソファに座って食べる。チーズバーガーとー、ポテトとー、と空いた席に品物並べて食べていたら、
「それ、マクドナルドだよね。どこにあった?」
「あらマクドナルド、どこにあるの?」
と立て続けに周囲の人に聞かれてしまった。今日のダラス空港関連は朝からスケジュールが乱れまくりらしく(ナッシュビル発の飛行機が遅れたのも、ダラスからナッシュビルにやってきる機体が遅れたせいだし)、あちらこちらで便が遅れるだの振り替えだのという話が渦巻いていた。私たちと同じ境遇の人が少なくないらしく、全体的に「昼はマクドかー」「あー、ピザで簡単に済ませるしかないかな」という空気がいつも以上に濃厚に漂っている。
アメリカで食べるマクドナルドもこれが最後と思うと、感慨が沸くような沸かないような。
蜜汁叉焼 $5.50
潮蓮焼鴨 $5.50
脆皮炸豆腐 $8.00
魚香帯子 $15.00
福建炒飯 $11.00
甜豆腐花 $2.20
時果凍布甸 $3.00
Beer (青島) ×3
Coke
プーアル茶
……を大人3人、子供1人で。
午後3時過ぎ、予定より1時間ほど遅れてやっとサンノゼ空港に到着。
セキュリティゲートのすぐ外で待っていてくれたのは、この地に住むDちゃんとSちゃん。共にWeb日記書き仲間で、1年かそれ以上はちょこちょこメールのやりとりをしている仲良しさんだ。私たちがアメリカに来てからというもの、何かというと西海岸方面から
「西海岸には来ないの〜?」
「カリフォルニアにおいで〜」
「美味しいものがいっぱいあるよ〜」
「特にアジア飯はサイコーだよ〜」
「だから、ニューオーリンズに何度も行ってないで西に来いってばぁ!」
と何度も怪電波が飛ばされてきていた。行きたいのはやまやまだけど、テネシーから西海岸はさすがに遠い。家から車で行くことは極めて大変だし、都市部だから国立公園巡りをしたりするよりは滞在費も高くつく。テーマパーク系は5歳の息子に参加できるアトラクションが少なそうだし。
で、苦肉の策として、「サンノゼ空港で国際便への乗り換えをする」という道を選択してみた。24時間以内に乗り換えすれば、"立ち寄り"扱いより安く済む。ただただDちゃんとSちゃんさんと会って宴会するために21時間ばかりここに滞在することになったのだった。
空港で「はじめまして、というか……やっと会えましたね」とニヤニヤしながら挨拶を交わし、Sちゃんさんは仕事に出かけていった。Dちゃんは私たちにつきあってくれるということで、彼の車に乗り込んで車をかっとばしての数時間のサンフランシスコ観光。ゴールデンゲートブリッジやユニオンスクウェアなどの"名所"を車でぐるぐるまわり、
「あとね、サンフランシスコと言ったらやっぱり"坂"ですよ"坂"。比較的楽に行けるところで一番すごいところに連れていきますね〜」
と、買ったばかりの車でぶいぶいとこれでもかな急斜面に連れて行かれた。すごいすごい。噂には聞いていたけれど、サンフランシスコの坂は本当にすごい。
「アレだね。"リアル ソニック ザ ヘッジホッグ"ができるね。坂をこう、猛スピードでぎゅーんと……」
「せりあさん、またそんなディープなことを……」
「おゆきさん、またそんなゲーマー丸だしなことを……」
と男たちに苦笑いされながら、きゃあきゃあと悲鳴あげつつシスコの坂を堪能した。くすんだパステルカラーの家々が並ぶ町並は、チャールストンあたりの東海岸の町にもほんの少し似ている。あちらは黒人文化の匂いが感じられるけど、西には少ないという感じ。
チャイナタウンを突っ切って、サンノゼに戻るともう午後8時前。飲茶だ寿司だベトナム料理だ焼肉はどうだと話し合い、時間もちょっと遅めだしねということでDちゃん曰くの"リトルチャイナ"なショッピングモールに連れて行ってもらった。昼間は飲茶メニューもあるJoy Luck Place (醉香居)という中華料理店に入り、一品料理をざくざく注文。
「福建炒飯があるよ」
「じゃあ、最後はそれにしてさー、それに繋がるようにおかず類を……」
「あー、この"帆立のにんにくチリ炒め"は美味しそうだね」
「鴨もいいなぁ。鴨食べたい」
メニューを広げてあれがあるこれが美味しそうと話し、あれこれ頼んだ。
テラテラと赤く光る薄切りチャーシューに、皮目がパリッと焼かれたダック。にんにくがガツンと効いた大ぶりの帆立にはビリビリと唐辛子の刺激があるソースが絡められ、ブロッコリーが共に盛りつけられている。山芋の衣らしい、サクサクとした衣がたっぷりつけられ揚げられた豆腐には醤油ベースのたれがついてきた。あとは、魚介のあんがかけられた卵チャーハン。デザートに、だんなは豆腐花、私はマンゴープリン。さほど待たずに料理のほとんどがテーブルにやってきて、なかなか壮観な光景になった。どれも、香港に行っても充分に通用する……とまではいかないけれど、アメリカで食べる中華料理としてはかなり本格的な味のものばかり。必死におしゃべりしつつ必死に食べて1時間半ほど。美味しいもので胃袋をたっぷり充満させて、引き続き2次会ということでDちゃんの家にビールを買ってなだれこみ、だらだらしつつSちゃんさんの仕事が終わるのを待つことに。
Sちゃんさんが合流したのは午後10時半過ぎ。それから日付が変わるまで、ハードレモネードやらビールやらを飲みながらDちゃんちでさんざんおしゃべりしてきた。全員食いしん坊かつ、ホームページの管理人ということもあり、話題はどうしても食べ物のことと「サイト運営の悲喜こもごも」なんてものに偏ってしまう。やっぱりこういうことは自分のホームページとはいえ書けないし、なんて裏話をお互い披露しながら、一応初対面のはずなのに昔からの友人みたいに楽しんでしまった。
「DちゃんDちゃん、寝室にコチジャンを置いておくのはいかがなものか」
と苦笑いしつつ説教してみたり。
結局、お開きになったのは午前0時を20分ほど過ぎたところだった。予約していたモーテルまでDちゃんに送ってもらった後は、ゾンビのようによろよろと入浴してそのままベッドに倒れ込んだ。楽しかったぁ。
クロワッサン
オレンジジュース・カフェオレ
午前1時を軽く過ぎたところで床についた昨夜。今日、6月6日は7時過ぎに目を覚ましたものの、どこかに出かける元気もなく、部屋でだらだらとネットサーフィンなどしてみたり。宿泊したモーテル(1泊60ドルちょっと。この界隈では嬉しくなるほど安かった……不便な場所だったけど)には無料で使えるLANの口がついていて、かなりの高速度でインターネットに接続できる。
「うぉっメール受信、早っ」
とか言いながら、メールの送受信をし、いつも見ているサイトの巡回をし、ついでに機上で読めそうな読み物類をダウンロード。8時半まで待って息子を起こした後、モーテル無料の朝食コーナーに飲み物を取りに行った。手元には昨夜の中華料理の残りを持ち帰ってきたものがあるし、息子のおやつになるかなとインスタントクロワッサンを焼いたものも持ってきている。朝御飯はこれでいいねちょうどいいねと部屋で食べた。
モーテルから空港へは、昨夜一緒に遊んでくれたSちゃんがわざわざ車を出してくれた。スーツケースにドラムバッグにドラムバッグサイズの巨大段ボール(スーツケースの重さが規定値を超えたので急遽これに詰め直し……)に、アルコール8本入りの段ボール。更にガーメントケースにカート、機内に持ち込むパソコン入りのボストンバッグその他諸々と笑ってしまうような大荷物を、3次元テトリスのような要領で車に詰め込みいざ出発。DちゃんもSちゃんさんも、色々つきあってくれて車まで出してくれてどうもありがとう。大急ぎでさわりだけ眺めたサンフランシスコとサンノゼだったけれど、またいつか来ようという気がもりもりと高まった。今度日本に来たら、今度は日本で遊ぼうねぇ〜。
かっぱ巻き・サーモンの寿司
牛テンダーロインの椎茸ソース
ご飯
パン
チョコレートケーキ
スパークリングウォーター
サンノゼ時間では6月6日のお昼12時半、日本時間では6月7日の午前4時半、サンノゼから成田までの直行国際線は予定どおり離陸した。
「そうか……今日は朝御飯食べたけど、食べた時間って日本時間でいうと日付は翌日の深夜1時くらいだったりするから……なんだか1日丸々消えちゃった気分」
と、アメリカにやってきた時にはその分得していた事(←その日は1日6食くらい食べていたわけで)を棚に上げて損した損した、とか呟いている私。6月6日の日記はどうすれば良いんだろう。モーテルで食べた朝食と機内食だけだなんて何だか虚しいような気もするし、6月6日は存在しなかったという方向でいこうかな、と思ったり。
離陸して1時間ちょっとで出てきた機内食は、サンノゼの時間に合わせて「昼御飯」(でも日本時間では午前6時あたり)。成田に近づいた頃、6時間以上経過してからもう1回出てくる食事は、日本の時間に合わせて「早めの夕御飯」(でもサンノゼ時間では午後10時あたり)ということになっているらしい。体内リズム(というか腹時計)はかなりぐちゃぐちゃになりそうだ。
メインディッシュは、サーモンのディルソース、ポテト添えか、牛肉の椎茸ソース、ご飯添え。どんなにトホホな味のご飯でもご飯がいいなぁと、家族全員揃って肉料理を頼んでみた。以前はあったはずのチャイルドミールは昨今の航空会社の経営不振の煽りからか、利用した航空会社では用意できないらしい。息子はそれでも果敢に肉を食べたりご飯を食べたり、添えられた寿司もしっかり食べていたりした。私が残したにんじん、息子は自分の分を綺麗に平らげていたりして。
牛肉は、「こ、こんなに赤いと嫌がる人もいるのでは……」というほどにミディアムな状態に火が通っていた。中はうっすらバラ色で、赤ワインベースのソースが案外と美味しい。ご飯はベショベショではあるし、寿司の具はキュウリとサーモンというちょっと物足りないものだったりしたけれど、けっこう満足。
パン
パイナップル・苺
チョコチップクッキー
緑茶
長い長い11時間ほどのフライト。アメリカに来て何度も飛行機に乗るようになってから知ったのだけど、ジャンボ飛行機だろうと左右に3列ずつしかない小型の飛行機だろうと、電源がついている席があるらしい。それは普通のソケットではなくDC電源というやつで、自動車用のアダプタつきの機器なら利用可能だとか。何時間もの退屈を紛らわすには……とそれ用のパソコン用ケーブルを購入し、元々それ用の電源コードが付属していたDVDプレイヤーと一緒に機内に持ち込んだ。あらかじめ電源つきの席をお願いねー、と席のリクエストをしておくことも忘れずに。
おかげで、アメリカで買ってきたDVDは見られるわ、バッテリーの残りを気にせずパソコンも使い放題だわでかなり気が紛れた帰り道になった。私はせっせとホームページの更新作業をしてみたり、メールを書いてみたり、更には仕事までしてみたり。それでも途中疲れて昼寝していたのだけど、息子は11時間少しも寝ずに飛行機ライフを満喫していた。WAL☆MARTで安売りしていたのを買ってきたアメリカの子供向け番組のDVDを見たり、席についている画面で子供向けチャンネルを堪能したり、音楽聞いてみたり、絵本を読んだり、おとなしく座りっぱなしで静かにあれこれ楽しんでいる。長距離移動に慣れている子供なんて……親としては嬉しくはあるけどよく考えてみると不気味だし生意気だ。なにモニターの光量調節とかやってるんだ、息子。なに、カントリーミュージック専門チャンネルとか嬉々として聞いているんだ、息子。軽食用にと配られたM&M'sを嬉しそうにポリポリ食べてるし。
日本まであと2時間というところ、空腹でやってられなくなってきた頃に"早めの夕食"が出てきた。うどんかピザかという選択で、すっかりアメリカ人の子供のようになった息子が「ピザ、ピザー」言っている。私とだんなはうどん。
一体どんなうどんかと思ったら、デレデレに煮崩れたような柔らかいうどんに野菜と鶏肉のあんをかけたようなものだった。粘度たっぷりのつゆ(というかソース)がテレテレとゲル状になっている。見た目はすごかったけれど、これまた味はけっこうまとも。
「……すごい見かけだけどね」
「けっこう美味しいかも」
と、だんなと一緒にずるずるずーっと食べた。息子は直径10cmくらいのミニピザを必死の形相で食べていたけれど、料理が出てきた午後2時は、アメリカで言うと真夜中。
「なんかね……ねむいよ……?」
と目を閉じながらピザをしばらくパクついた後、静かに眠ってしまったのだった。……あと1時間もしないで着陸なのにー。
レタスとキュウリと玉ねぎのサラダ
鶏肉と舞茸の吸い物
ビール、麦茶
午後3時頃、無事に飛行機は成田に到着。想像を絶する荷物(確か渡米するときも想像を絶する荷物だった記憶が)を抱えて、よろよろしながら必死で我が家を目指す。もう、久しぶりな風景に感慨を覚える余裕など全然なくて、眠気と疲れでヨレヨレになりながら汗だくで我が家に到着した。久しぶりの我が家は、アメリカの家に比べると天井が低いしものすごく狭く感じる。もう体が動かない〜。荷ほどきもできない〜。もうダメ疲れた。
で、夕御飯はお寿司を食べに行くような気力も全くなく、近所にあるお気に入りのカレー屋さんでカレーのルーを買ってくることになった。「高円寺ナイルカレー」(かつて高円寺にあったお店なので店名にその名がついているけど、存在しているのは千葉……)の、真っ黒いカレー。だんなはアメリカに住んでいる間、時々思い出したように
「ナイルのカレーが……たーべーたーい……」
と呟いていたものだった。辛さは少なく、かといって甘みが強いというわけでもない自然な味の不思議なカレー。黒々としてはいるけど、苦みがあるわけでもなく、なんだかちょっと不思議な味のカレーだ。私が必死で荷ほどきしている間、だんながカレーを買いに行き、母が吸い物とサラダを作ってくれた。
あれも食べたいこれも食べたいな欲求が充満しているのだけど、とりあえずは家中に散らばるほどにある大荷物をなんとか片づけなければならぬ。
昨日はもう、日本に帰ってきた安心感とか喜びとか落ち着き感よりも、「つかれたー」「早く眠りたいー」の一心だった。今朝は今朝で、時差ボケが激しい体質らしい私と息子は、早々に目が覚めて午前4時半頃からがさがさと活動し始める始末。1年分の手紙類(ほとんどはクレジットカードの請求書……)を整理しているうちに夜が明けた。
慣れ親しんだ我が家であるはずなのに、やはり10ヶ月も異国で生活してみると最初は戸惑ったり感動したりすることだらけ。
「トイレの便座が高すぎなくてちょうどいい〜、しかもウォシュレットが快感〜」とか、
「おおおー、牛乳パックが片手で楽々持てるサイズ〜」とか、
「ていうか、天井が低い〜、天井灯が明るすぎ〜」とか、
いちいち色々なものに反応してしまう。
だんなも6時過ぎには起きてきてしまい、今日は長く感じる1日となってしまった。休みの日というと10時頃から活動し始めるのが通常の生活だったので、何だか微妙に得した感じ。
朝御飯は、昨夜買ってきたカレールーの残りがあったので温めて食べる。柔らかく火が通った豚バラ肉がざくざく入る黒々としたカレーをさらっと食べて、今日は一日中片づけ片づけ。日本から持っていってそのまま持って帰ってきたものもあるけれど、アメリカで買って持って帰ってきたものも多々多々ある。全てを詰め込むには狭すぎる我が家なので、片づけるということはイコール捨てることでもある。この服は古すぎるからいらない、これは似たようなもの買ってきたからいらない、とゴミ袋に詰め詰めする。ネットオークションで売ったりバザーに出したりするのが環境保全や理想的経済行動を考える上では望ましいのだろうけど、私は「いらないと思ったからには即座即刻目の前から消えて欲しい」と思ってしまう性質だったりして、これがなかなか……難しい。はぁ、いらない洋服がいっぱい出てきてしまったわ……。
焼きトロサーモン
うずら納豆
つまみ玉子
ウニ
中とろあぶり焼き
ぼたん海老
イクラ
穴子きゅうり手巻き
あら汁
お茶
片づけに飽き飽きしたところで(正確には片づけ始めた古い漫画類を読みふけりはじめてしまったところで)、千葉方面にお買い物。昼御飯の目当ては、なんと言っても寿司!何が何でも寿司!
「さかな、さかな」
「ご飯の外に巻かれた海苔の巻物♪」
「イクラやウニ〜」
と、千葉に着くなりこの近辺のエリアにチェーン展開している回転寿司屋「銚子丸」に飛び込んだ。前からちょっと変わった寿司がくるくると回ってくる回転寿司屋ではあったのだけど、1年ぶりに来てみれば「帆立のカルパッチョ風握り寿司」とか「各種魚のあぶり焼き握り寿司」といった見たこともなかった品々がぐるぐると回りまくっている。更にはこれまたかつてはなかったケーキや天ぷら類までぐるぐると。
「今日は、リミッター無しということで」
「大トロも食べちゃうぞ、ということで」
「ぼくはね、オレンジのジュースと、たまごを食べるんだよー」
と、家族3人、目の前の動く皿に真剣な面もちでがぶり寄った。ここは正統派な、ごくごく普通の魚の握りを中心にしよう……と思いつつ、目の前を過ぎ去る焼きトロサーモン(表面をサッと炙ったサーモンの上に玉ねぎなどの野菜を乗せ、レモンが添えてある)に無意識に手を伸ばし、更には「うずら納豆」などというイロモノ系にまで手を出してしまう。今日のお勧め商品の看板を見ながら注文して握ってもらったりもしつつ、結局魚らしい魚よりも海老だのイクラだの玉子だの穴子だのといったものばかり食べてしまった。とにかくもう、どれを見ても懐かしくて美味しそうで手がにょろにょろと前方へ伸びてしまう。
寿司を堪能した後は、電器店に行って日本のパソコンの安さと品揃えの豊富さに改めてびっくりし、本屋に行ってここ数ヶ月に出ていたアジアンスィーツ系のレシピ本その他諸々を買い漁った。もう買い物するたびに「How are you?」の問いかけに「え……えっと、fine, thank you」と答えなくてもいいし、買い物後にいちいち「Have a good day」と言われるのに「Thank you, you too」も返さなくていい。デパ地下には美味しそうなケーキがずらりずらりと並んでいるし、枝つきの枝豆もあるしー!とまだ疲れてヨレヨレしていたけれどあれこれ買い物して帰ってきた。でも枝豆はまだ高かったので、今日買ったのは空豆。もうちょっと安い枝豆を見つけたらざくざく買ってきてざくざく茹でよう。うー、枝豆枝豆……。
黒鯛のお刺身
茹で空豆
鶏肉と舞茸の吸い物
羽釜ご飯
ビール、麦茶
今日、午前中に鮮魚がどさっとやってきた。
「帰国2日目なんて、まだ全然疲れていると思うけどね」
「でも、お魚食べたいのよね」
「どうせだったら、すっっごく美味しいお魚を食べたいのよね」
と、1週間ほど前に「日曜の朝に届けてね」と注文したのはクック&ダイン
※の鮮魚御用聞きセット。
以前から何度か利用していたのだけど、
午前中に漁港に揚がった魚をその日の内容でセットにしてネットに内容をアップ→注文する→翌日の午前中には家に届く
という仕組みとその新鮮っぷりが嬉しくて、以前から何度も利用していたお店だ。今回は「日曜に届けてねー。刺身にして食べるのと、塩焼きにして食べるのが美味しい魚がいっぱいあると嬉しいなぁ」という希望で申し込んでみた。
やってきたのは、大きな黒鯛が1尾、鰺が6尾、カマスとトビウオとエボダイが3尾ずつ、更にイカ(メトイカ)が2はい。これで5000円。3日くらいはこれでもかと魚を食べまくることができるので、そこからの荷物が届く度に毎回「うひょー!」と喜びの悲鳴をあげつつ1時間以上もかけて魚をさばくのだった。
今回は、
「いや、食べたい、って言ったのは僕だからー」
とだんなが出刃包丁握って魚をさばいてくれた。私もだんなも、魚をさばくのはまだまだシロウト以下の腕だ。身をほとんどつけずに中骨を取るなんてできないし、触りまくったら美味しくなくなるとわかっていても骨を抜く時にはついつい身をぺたくた押さえまくってしまう。刺身に仕立てた時の外見もまだまだまだまだ美しいとは言えないところだけど、それでもそのへんの魚屋で切り身を買ってきて食べるよりは断然美味しい魚の味が楽しめる。
カマスは3尾全部、鰺は一部を干物にし(キャンプ用に使う籠型の網に入れてベランダにぶらさげ、一夜干しする)、今日の夕飯は黒鯛の刺身と鰺のたたき。トビウオとエボダイは鱗とワタを抜いて丁寧に冷蔵庫にしまっておいた。
茹でてざっと塩をかけた空豆と、新鮮な刺身の夕御飯。昼も夜も魚を食べて、全然飽きることなく
「うまー!」
「超うまー!」
と騒ぎまくっていた私たちだったので、自覚していた以上に魚に飢えていたらしい。細かく叩いた鰺の身に生姜と刻み葱と醤油を混ぜてご飯に乗せてかっこむと、「やっぱり日本人で良かったなぁ……」と妙にしみじみしちゃうのだった。
アメリカもサイコーだったけど、さすがに鰺のたたきはなかなか食べられないし。