食欲魔人日記 03年05月 第4週
5/19 (月)
夫のいない数日間は連続カレーライス飯予定 (夕御飯)
鶏肉とごぼう、人参の炊き込みご飯
卵ご飯
さやいんげんの味噌汁
麦茶

今日からだんなは地獄の数日間。夕飯も家で食べられないほど忙しいらしく、
「3日間くらいは、出張しているようなもんだと思ってくれぃ」
と言われ、外出しなくても大丈夫なように冷蔵庫にわんさと食物を溜めこんでおいてある。ここ数日は涼しくて行けていないけれど住宅内のプールもオープンしていることだし、適当にぷらぷら遊んで3日間過ごすことにした。……運転免許を所持してはいるので車で外出もできなかないけど、さすがに息子と2人きりで車で外出というのはちと怖い。間違いなくゲームオーバーしてしまいそうだ(どんなゲームオーバーなんだか……)。

8時半過ぎに出かけていっただんなをお見送りし、そのちょっと後に起きてきた息子と一緒に朝御飯。洗濯したり掃除したりしていたら、朝御飯というより昼御飯に近い時間になってしまった。
昨夜の残りの炊き込みご飯と味噌汁。ご飯の量が1人分くらいしかなかったので、炊き込みご飯は息子にあげて私は冷凍ご飯を温める。卵ご飯にしましょう……と、湯を沸かして1分ゆで卵を作ろうとしていたところ、息子に
「おかーさんは?おかーさんはちゃいろいご飯、たべないの?」
と息子が台所にやってきて聞いてきた。一人分しかないからねー、君はちゃいろいご飯食べなよ。おかーさんは卵のご飯にするからさ、と説明したところ、
「ぼくもー、ぼくも卵のご飯たべるー」
と案の定言ってきた。じゃあ炊き込みご飯はいらないの?と聞くと、それも食べたいとのこと。

「ちゃいろのご飯とー、卵のご飯とー、おかーさんとぼくで半分こしよう。アーユーオッケイ?」
Are you OK?じゃないだろう、と苦笑いしながら、じゃあそうしましょうと2種類のご飯を半分こ。味噌汁も半分こ。

今日こそプールに行きたいところだけど、雨の降りそうな曇り空だし肌寒いし、ちょっと無理そう。

ビーフカレー
コーンスープ
グリーンサラダ
牛乳

私には密かな野望があった。
「だんなが不在の数日間があったら、大量のカレーを作成してだらだらとそればかりを食べて過ごすのだ」
という野望。ご飯さえ炊けば、美味しい食事にありつける。美味しいといってもカツ丼や牛丼が3食続くのは飽きがくるけど、カレーだったらご飯にかけるはもちろん、トーストの脇にカレーシチューとして添えるのもありだし、カレーうどんという手もある。スパゲティにかけるのだって旨いだろう。しかも、カレーライスとして三食食べても、そうそう飽きない。素晴らしきかなカレーライス。手抜きできるぞカレーライス。

「そういうわけで、カレーなのです」
と、夕飯に美味しいカレーを食べるべく、卵ご飯を平らげた直後にカレー作成を開始した。買ってきてある肉は、煮込み用の牛かたまり肉。一口大に切ってからまんべんなく塩胡椒して風味づけにカレー粉も少量ふりかけ、ダッチオーブンで全面をこんがりと焼き付ける。3個分の刻み玉ねぎと2本分のにんじんを投入し、あとは水をひたひたに入れて沸騰したらアクを取り、みっちり蓋をして数時間煮込んでいく。「おいしくおなりー」と念じるのを忘れずに。

午後3時頃にちょっとつまんでみた牛肉は、すっかりホロホロに煮くずれそうになっていた。このくらいでいいかな、と刻んだじゃがいもと更に追加の玉ねぎを入れ、20分煮たところでルーを投入。何日も食べるカレーは、凝りに凝ったインド風カレーなどよりも「とろける」とか「ゴールデン」とか「こくまろ」といったあの手のものに限る。今日はとろけるカレー、中辛。ルーを溶かしたら、とりあえず火を止めて冷ましておく。「特に作った次の日の朝が旨い」と言われるカレー(及び煮物類)は、一度常温まで冷ますことで味が素材に染み込み、素材の味もまたソースの中に出るからだと聞いたことがある。数時間だけど、一旦冷ませばちょっとは効果があるかなとやってみた。牛肉たっぷり、玉ねぎたっぷりカレーが無事完成。

あとは、息子が好物なコーンスープを作り、残っていたサラダ野菜も平皿に盛りつける。野菜にはチーズを軽く散らして、冷蔵庫の奥から発掘した市販のイタリアンドレッシングをぶっかけた。冷蔵庫の奥も食料庫も、微量に魔窟と化しているところがありそうなので(やっぱりあると安心♪とか言って買ったひじきとか切り干し大根とか、焼くだけのクッキー生地とか……)、そろそろ何とかせねばなぁと思う。でも、とりあえずカレーよカレー。

「作った次の日の朝」の旨さには一歩劣るものの、トロンと濃度強めのこってり味のカレーはなかなかのものだった。肉もほろんほろんだし、じゃがいもも煮くずれない程度に程良く火が通っている。食感が残る玉ねぎとトロトロに溶け去りつつある玉ねぎが共にざくざく入り、ただ、細いにんじん2本をざく切りにしたものは他と比べてちょっと存在感が少なめになってしまった。にんじんが少ないと、カレーはちょっと色気がない。
「あ、そうだったわ。アスパラこんがり焼いて最後に添えようと思ってたんだったわ」
食べ始めてから思い出したけど、後の祭り。

息子は美味しそうにカレーとスープとサラダの皿を前にして、必死にあれこれ食べている。
「今日の夕飯、どれが一番美味しいですか?」
と聞いてみたら、
「カレー!……あ、あのね、スープもおいしいぞ。サラダもね、おいしいぞ?」
と子供のくせにフォロー入りの返答をされた。スープ3杯にカレーを2杯。今日の息子もよく喰った。

5/20 (火)
2日目のカレーはアスパラとゆで卵乗せ
バタートースト
カレーシチュー
牛乳

今日のだんなは6時起床。なんでも朝7時前に集合せねばならず、夜は夜でパーティーに出なければならないらしい。
ちゃんと一緒に起きてご飯の準備をしてあげよう、と強く心に誓っていたのに、電子レンジが動く音とか着替えをしているらしい音とかが聞こえてはいたものの、全然起きられなかった。やっと目が覚めて7時半すぎに起きると、台所にゆで卵が2個乗っている。だんなは「ゆで卵乗せカレー」を食べて出発した模様だった。私と息子の分のゆで卵もちゃんと作っておいてくれるとは。ありがたやありがたや。

で、昨日熱い思いを胸に作成したカレーの鍋を前に、「今日も一日カレー飯」と新たに誓いを立てる。ここぞとばかりに今日もカレーを食べるのだ。誰にも邪魔させぬ。息子にも邪魔させぬ。

さすがに朝も夜もカレーライスじゃつらいかと思い、朝はトーストにした。でもカレーはもれなくついてくる。煮込んだカレーをそのまま小ボールに入れ、特に味を変えたわけでも水を入れたわけでもないけれど、
「ほーら、カレーシチューだよー」
と言ってテーブルに出す。ただ、トーストに合うかなぁと思ってカレーの上からシュレッドモッツァレラチーズをひとつまみ入れてみた。カレーの熱でチーズはすぐに溶けて、オニオングラタンスープの表面みたいに外見になる。トーストは、バターたっぷり塗ってサクサクに焼いた方がいいかな、とちょっと長めの時間オーブンに入れておき、カレーシチューの横に2枚添えた。

カレーはカレーライスとして食べるのがやっぱり一番美味しいとは思うけど、バタートーストにもすばらしくよく似合う。給食で出てきたみたいなコッペパンともけっこう合うよなとも思っているけど、さくさくに焼いたバタートーストの食感と適度な塩気が、ちょっと隅を浸して食べるカレーとすんばらしく似合う。もとより、2日目の朝のカレーそのものが涙ちょちょぎれるほど美味しかった。肉はどんどんほろほろに煮崩れていく一方で、更に少々煮詰まって水気も飛び、良い感じにトロントロン。やはりカレーはこうでなければ。

グリルアスパラとゆで卵乗せカレー
グリーンサラダ
Limonade

今日こそプール!と思っていたのに、今日も涼しく曇り空。息子が空を見上げて
「今日もあったかくならないねぇー。こまったねぇー?」
と眉毛を8時20分にして私を見上げてくる。プールはオープンしているけど、この天候で行っても風邪をひくだけだ。しょうがないので今日も家でだらだらだら。おかげで旅行記を書き終わることができた。

そして、夕飯。
「わーい!今日のゆうごはんは、カレーでしたー!」
と息子は素直に喜んでいる。でも母としてはちょっとばかり罪悪感。
スパゲッティにかけるとかピザに乗せるとかいうイロモノカレーにするにはまだ早いと、今日の夜もカレーライス。だんなが茹でておいてくれたゆで卵をスライスして飾り、ちょっと彩りが欲しいなとアスパラガスをこんがり炒めて上に並べた。残った少量のサラダも出し、お供にはレモネードのライム版、リモネード。ほんのり苦みのあるリモネードが最近好みで、ちょくちょく買っている。

あっためて冷まして、あっためて冷まして、を何度も繰り返したカレーは、そろそろ世紀末的な様相になりつつある。あれほど大きかった肉の塊がほとんど消滅し、すっかり液体の中にほぐれてしまって漂っている。にんじんやじゃがいもも煮崩れてかなり小さくなってきてしまった。でも、味はばっちり、申し分ない。

ぺろりと山盛りカレーをサラダと共に食べきった息子は
「はぁ〜おいしかった。あしたもカレー、食べよっか」
と食後直後にそう言った。……カレー、イヤになりませんか?と聞いてみたら「カレーすきよ?だいすきよ?」とにこにこ。どうやら私よりもうわてな人が私の目の前にいたらしい。

5/21 (水)
カレーと卵の自家製ピザ (夕御飯)
ツナのトーストサンド
アイスココア

カレー天国(そろそろ地獄)の3日目。
今日も今日とて忙しい我が夫は、
「7時半集合なんだよ〜」
と早めに起きて出ていった。カレーを温めて食べていったらしく、「いってきまーす」と彼が出ていった数十分後に起きた屋内に漂っているのはカレーの良い匂い。……美味しそうな匂いだし、実際食べたら美味しいのはわかってるけど、さすがに朝御飯にカレーはそろそろ厳しい。3日くらい毎日カレーばかり食べ続けるというのも幸せかもと思ったのだけど、毎食続くとさすがに幸せ感も薄れてきた。

「きょうも、カレー食べるの?」
無垢な瞳で聞いてくる我が息子に
「う"……」
と言葉を詰まらせて、やめやめ、朝御飯はカレーやめ、とサンドイッチの準備。

水分が抜けてちょっと固くなりつつあるパンはバタートーストにし、その間にツナのマヨネーズ和えの準備。刻み玉ねぎもたっぷり入れた。パンにバターを塗っている最中、
「サンドイッチだー」
と息子は楽しそうに見上げてくる。
「あのね、サンドイッチはねー。チーズはさむと、おいしいと思うよー」
などといっちょまえにアドバイスしてくる。じゃあチーズ出してよ、と言ってみると、冷蔵庫からちゃんとトースト用のスライスチーズを出してきた。おおー、えらいえらい。パルメザンチーズやシュレッドチーズといったトラップに引っかからず良くぞそれを取ってきた褒めてつかわす、とチーズも追加。

チーズを乗せたトースト1枚と普通のバタートースト1枚の間にツナサラダをたっぷり挟んだトーストサンド。たまにはちょっと変わったものを飲もうかと、アイスココアの準備もした。少量のお湯でココアを練って、それを牛乳で薄めて氷を2個。冷たいココアは甘くなくてもけっこう美味しく飲めるので砂糖は抜き。
今か今かとプールに入れる日を待っているのに、今日もやっぱり曇りで涼しい。
「あーん、もー。ぜんぜん晴れにならないのー。ねぇー?」
って、息子よ息子、いつも思うけれどあなたの口調って"おねぇ言葉"……(まぁ汚い言葉使いされるよりは良いんだけど)。

自家製ピザ
 カレー&エッグ ピザ
 チーズピザ
ビール(Foster)

ここ数日大変だっただんなのイベントも今日の夕方で終了したらしい。
「夕食は家で食べて、夜にみんなで打ち上げで飲みに行こうということになりましたー」
と、夕方だんなは帰ってきた。私はせっせとピザ焼きの準備中。だんなも毎朝食べていってくれたおかげですっかり残り僅かとなっていたカレールー、濃度もやたらと濃くなっていたということもあって「ピザにしましょ」ということになっていた。今日はちょっと手抜きに、ピザ生地作成はパン焼き機にがんばってもらう。粉と湯とイーストとオリーブ油と塩を放り込み、あとは成形するまで放置するだけ。

具はカレーの肉を細かくほぐしたものと、スライスした茹で卵、短めに切って茹でたアスパラガス。下焼きしたピザ生地の上にそれらをうりゃうりゃーっと散らした後、シュレッドモッツァレラチーズをこれでもかとふりかけて再びオーブンへ。1枚のピザはそれにして、もう1枚は残りのカレーが少なかったので半分をカレーピザ、半分をチーズピザにしたハーフ&ハーフに。チーズピザは、本当にチーズピザ。チーズだけを散らして焼いた。それはそれで居酒屋のつまみみたいで美味しいんだわー。何だか朝からチーズ食べているような気もするけれど気にしない。

数日ぶりでだんなと食べる夕御飯。ピザだけというのが少々物足りなかったけれど(サラダか野菜料理でももう1品作れば良かった……)、カレーピザは予想していたとおりに旨かった。ほんのちょっと厚めにしたピザ生地がもちもちとパンのようで、ほろほろ肉とよく似合う。ペースト状と言っても良いくらいに煮詰まってしまっていたカレーだったので、ピザの上に乗せるにも全く問題なくなっていた。

これでやっとカレー完食。そんなことやっている間に先週後半にスパッとやった指の傷もバンドエイドがいらない程度までくっついた。明日からまたちゃっちゃと料理するわよー。……多分。

5/22 (木)
久しぶりのパンケーキはリンゴンベリーソース添え
Nashville 「Pancake Pantry」にて
   Large Soup (Beef Barley)
 私:
   Swedish Pancakes
   Iced Tea
 だんな:
   Cherry Supreme Pancakes
   Coffee
 息子:
   Chocolate Milk

もうすぐ帰国なのである。で、最近気付いて「ヤバイヤバイ、なんとかしなきゃ」と思っていたことが1つ。

「とっとと行かなきゃ、Pancake Pantryの全種類パンケーキ制覇が不可能になっちゃう」

ということだ。
アメリカにやってきて1週間するかしないかのうちに行った、大学近くのパンケーキ屋さん。テネシーの最初のパンケーキ屋さんだというグレートスモーキーマウンテン麓町の同名店の、のれん分けにあたるお店だ。ナッシュビル店のパンケーキメニューは二十数種類。どれを食べても迫力の盛りつけと旨さで、全てを1人で食べることは無理でも全種類この目でみるくらいはしてみたい、とだんなや留学生仲間と共にせっせと種類を変えて食べ続けていた。そういえば、3ヶ月ほどもご無沙汰だ。アメリカにいられる時間は僅かというのに、まだ食べていないものが5種類ほどもあった。うーん、最低でも2回は行かなきゃクリアできない。

「だから、今日はパンケーキパントリーに行きましょう〜」
と、仕事明けですっかり疲れ果て10時半まで寝こけていただんなに声をかける。すっかり腹を減らして出向いたにも関わらず、今日もここのパンケーキで夕飯まで腹一杯になってしまった。

まだチャレンジしていないパンケーキをということで、私はスウェーディッシュ、だんなはチェリーシュープリーム。どちらも音の響きからして甘そうだ。説明文を読んで重々承知はしていたものの、やっぱり目の前にやってきたものを見て「うっひゃー」と驚いてしまう私たち。せめてもと甘さのないスープを取ったものの、私の皿もだんなの皿も果物コンポート山盛りの品だったものだから、なかなか苦戦を強いられた。

私の皿は、薄焼きパンケーキをクレープのように扇形に畳み、中にリンゴンベリーのコンポートが詰められている。それが3セット皿に乗り、横にはホイップバターとリンゴンベリーをざっくり練り合わせたソースとくし形に切られたレモンが添えられる。見た目のインパクトはさほどではないけれど、食べ進むとボディーブローのようにじわじわと効いてくる大変危険な一品だ。ああ、一口一口がクリス・ベノアの逆水平のように効いてくるよ、なんてアメプロファンにしかわからない事を呟いてみたり。

そして、だんなの皿は私のそれよりも更に乙女チックかつ凶悪な光景。薄焼きパンケーキは3枚。1枚1枚のその中にチェリーのコンポートがどっさりと乗せられ巻かれていて、1ロールの直径が5cmほどになっている。それが3本。上にはぱらりと粉砂糖、そしてこれでもかと積み上げられたホイップクリーム。それらを覆い尽くすように更にチェリーコンポートとシロップがてろてろーんと上からパンケーキの底にまで滴っている。もう、この量からして乙女が食べることを拒否しているような迫力だ。でもアメリカの乙女はこれ、食べちゃうのね……。

量はともかくとして、味は今日もサイコーだった。塩気のあるバターとリンゴンベリーのコンポートというのが思いのほか良く似合っている。プチプチと小粒のリンゴンベリーは、ラズベリーほどの酸味がなく、苺よりは甘さが少ない控えめな味。ちょっと独特な爽やかな香りが漂っている。ベリー類とパンケーキは良く似合う。ベリーとバターという組み合わせだって悪くないし、何より生クリームと最高に良く似合う。ふわふわに焼けた柔らかなパンケーキを口に運びつつ、それでも朝から甘系パンケーキはちょっときついかな、と苦笑いして完食。うー、これで夜まで何も食べられない……。

だんな特製 豚肉のスタミナ焼き
千切りキャベツ
千切り玉葱のおかか醤油
ごはんですよ
大根の味噌汁
羽釜ご飯
ビール(Corona)

カットフルーツ

だんな曰く、今日しなければいけない仕事はとりあえずないから今日はヒマよー、ということだったので、今日は一日家族でナッシュビル観光。もうすぐ帰国という段になって気がついたのだけど、我が家は自分たちが住む町の観光というものをほとんどしていなかった。改めて、ダウンタウンに車を止めて自分の足でダウンタウンを歩いてみる。あれこれ名所とされている場所を歩き、写真を撮り、戻ってきた。観光の最後はダウンタウンの外れにあるFarmers Marketで。この町近郊の農家が集まって販売している市場なので、作物の収穫時期である初夏から秋にかけて以外の季節は今ひとつ品揃えが悪いとのこと。ずっと行ってみたいと思っていたのだけど、今頃になって覗きに行ってみたのだった。

今の季節、出ているのはトマトやいんげん、ズッキーニなど。プラムに似た感じの桃やスイカなども出ている。一山いくらで売られている野菜類にうっとりしながら、生でスライスして食べたら美味しそうな白っぽい玉葱を買ってきた。アメリカのキャベツにしては巻きがゆるめな、ちょっとばかり春キャベツっぽい柔らかそうなキャベツも1個。
「自分の町の観光ってのも楽しいねぇ〜」
「でも、一番楽しかったのは最後のマーケットだったかも」
と苦笑いしながら帰ってきた。

夕御飯は、早速キャベツと玉葱をそれぞれ千切りして食べることに。冷蔵庫に薄切りの骨付き豚肉の買い置きがあったので、"しょうが焼きににんにくたっぷり混ぜこみました"みたいなタレでだんなが炒めてくれた。多めにできた生姜にんにくたっぷりの茶色いタレを刻みキャベツにしゃばしゃばとかけつつ食べる。刻み玉葱はおかか醤油で。ほとんど辛さがない玉葱は、塊のままショリショリと食べてもいけるんじゃないかという強めの甘さがあった。薄口醤油をたらっとかけて食べるのがちょうど良く、刻んだだけの玉葱をせっせと食べる。これがまた、ビールのよいおかずになってくれちゃって、もー。

早めの夕御飯をちゃっちゃと平らげた後は、木曜恒例のプロレス番組鑑賞。
ここ半年くらいで一番カッコよかったんじゃないかというタジリと、テイカーさんの復活が見られてすごく幸せ。はぁ〜いいわ、素敵だわ、マッチョマン。

5/23 (金)
Ken's Sushi Restaurant(Nashville)にて、ちらし寿司 (夕御飯)
「Alpha Bakery」のカレーパン
ターキーサンド
カフェオレ

今日は一日、日本に送り返す荷物の整理。
とりあえず冬服や数ヶ月は使わないであろう雑多なものを船便で送ってしまおうと昨夜から荷造りを始め、わやくちゃのままクローゼット前の空間にとっちらかしてある。朝起きるなり、
「うーん、この詰め方がちょっと気に入らないんだなぁ……」
とごそごそと作業を始めてしまった。荷物を大量に送り返すとなると送料は当然多くかかるのでできるだけ小さくまとめたいところではあるし、大体空港便でも船便でも荷物1個の重さや大きさにあれこれ制限があるらしい。ある会社のは30cm四方の箱に重さは関係なく詰め放題で一律いくら、とか、大きさはそれほど考えなくても良いけど重さはここまで、とか。

「船便、限界は44ポンドまでだってよー」
と言われ、ダッチオーブンは入るかいや無理だ、げっ厚手のテーブルクロスも無理じゃないか、などと大きさ以外に重さまで考えなきゃいけないジグソーパズル状態になってしまっている。20箱近くも買ってしまったベニエミックスの存在がさすがに恨めしい。でもこれは必ず全部持って帰るぞ。そのへんのスーパーで適当に買った部屋着を処分したとしても、お気に入りの調理器具と日本じゃ買えそうにない食材は持って帰るのだ。

朝からあーでもない、こーでもない、と部屋をひっかきまわしていたら、だんなが朝御飯の準備をしてくれていた。
冷凍庫で保存してあった「Alpha Bakery」のカレーパンを電子レンジで解凍してからオーブンへ。だんなが研究室から持ち帰ってきたターキーサンド(会議中に配られたお弁当が余ったらしい)は一口サイズに切ってから皿に積み上げ、あとは熱いコーヒーに牛乳をだばだばだ〜っと。

アメリカ人は、ターキーが好きだなぁとしょっちゅう思う。サンクスギビングなどの特別な日に丸焼きを食べるのはもとより、スーパーマーケットのハムコーナーには必ずターキーのハムが並んでいるし、サンドイッチメニューにもターキーサンドは当たり前に載っている。そして、どうやら断然人気なのがダークミート(もも肉)ではなくホワイトミート(むね肉)。私やだんなは
「元々パサパサしているターキーなのに、むね肉なんか一番パサパサで味気ないじゃんねぇ」
と思ってしまうのだけど、こちらに住む人は思いの外このホワイトミートに愛着があるらしい。

「やっぱり先生もホワイトミートがお好きなんですか?」
だんながボスのA先生に尋ねてみたところ、
「そうだね、基本的には"イエス"だね」
という答えが返ってきたそうだ。

それにしても、カレーパンは旨い。

オタフク焼きそば(カップ麺)
麦茶

「本は本専用の宅配があるんだよね?……うーん、20kg以上あるんだけど、パンフレットとか通販カタログも含めちゃっていいの?」
「ていうかさ、なんでベニエミックス1箱が1kg近くあるのかってのが、ここ一番の問題だよ……」
と、今日はとにかく一日中わやくちゃ。もう数日したら、まただんなには仕事が待っている。荷物整理を始めてしまったからには、今日明日中でできるところまではやってしまいたかった。こういう日に限って、「今日こそプール!」てな具合に日差しは強いし暖かい。

前任者から引き継いだまま使うことのなかったバーベキューセットを棚から下ろし、私たちから後任の人へ引き継ぐものと合わせてもう一度しまう。ありがたいことに、私たちが住むこの部屋はそのまま次代の研究室所属となる人に引き継がれることになったので、「アメリカに置いていくもの」の保存場所や処理については考える必要はなくなっている。ありがたやありがたや。

相変わらずベニエミックスの箱と格闘している私を家に残し、だんなはだんなで段ボールの調達や諸々の手続きに飛び回っている。昼御飯を準備する余裕もなく、ちゃちゃちゃっとカップ焼きそばで済ませてしまうことになった。
先日の国立公園旅行中に初めて食べてから妙に気に入ってしまった"オタフク"のカップ焼きそば。デンバーで買ったものを旅行中に食べたのだけど、再びその後デンバーに戻った時に思わず買って我が家に持ち帰ってきてしまったものだ。お湯入れて湯切りしてソース混ぜ合わせて、というのは他となんら変わりない普通のカップ焼きそばだけど、最後にマヨネーズも混ぜるようにと添付されている。微妙に漂うマヨネーズ感がたまらなくジャンクで良い感じ。ソースとマヨネーズと青海苔って妙に似合うのよねぇ〜と、麦茶がぶがぶ飲みながらカップ焼きそばをわしわしと食べた。

Nashville 「Ken's Sushi Restaurant」にて
 枝豆
 揚げだし豆腐
 ちらし寿司
 穴子巻き
 ビール(青島)

それにしても、今日は暑い。久しぶりに暑い。とうとう昼食後に荷物片づけをほっぽって息子と一緒に住宅内のプールに遊びに行ってしまった。水はまだちょっと冷たくて"泳ぎまくる!"とはいかなかったけれど、足を水に突っ込んだりしながら、しばらく水着ででれでれと寝そべっていた。おかげで部屋はまだまだまだまだ戦場だ。日本の家にも紅茶ポットと中国茶ポットがごろごろ存在しているのに、こちらで「フォルムがステキ♪」とか言って買ってしまった数個のポットはどうしよう。どうしよう、どうしよう、と言いながら、棚の奥から引っ張り出した漫画を思わず読みふけってしまったり。ヤママヤー。

「……お腹が空きました……」
と、一日中あちこち出歩いて色々手続きしてきてくれていただんなが呟いたのはもう6時近かった。あー、もう食事の支度しなくちゃ、でも台所もちょっとわやくちゃだぁ……と苦笑いした後、今日は結局外に飲みに行くことになった。ここんとこカレーだ何だと肉ものが続いていたのでお刺身が恋しいねと向かったところはKen's Sushi。通称「ケンちゃん」。

だんなは握りのセット、私はちらし寿司。ビールのアテに枝豆と揚げだし豆腐、息子には最近好物らしいざるうどん。
注文してすぐにやってきたビール(なんとなく青島ビールが恋しくて、今日は青島を頼んだ私)を一口二口飲んで待っていると、すぐに茹でたての枝豆と、表面をサクッと揚げた揚げだし豆腐もやってきた。大きく3切れ、ざくざくと器に盛られた豆腐には、1つに鰹節1つに生姜1つに刻み葱がこんもりと盛られている。甘すぎない程度に甘辛く調味されただしに浸り、気分は日本の居酒屋だった。

そして今日のちらし寿司もボリュームたっぷり。以前は「8種類くらいの具が2切れずつ盛られている」という印象だったちらし寿司だけど、今日はサーモン4切れにマグロとタコ、卵とカニカマが2切れずつ。更にイカやとり貝やハマチやサバや鯛が1切れずつ盛られていた。
「サバ〜♪」
「タコも2切れ〜♪」
とうきうきし、だんなの握りをちょっと分けてもらう代わりに私のちらし寿司もおすそわけ。ご飯が少しも見えないほどに盛りつけられたちらし寿司に、空腹も疲れも癒された。

このお店も、あと1回来られるかどうか。すっかり店のご主人とは顔なじみになっていたので、「実は来月帰国することになりまして。今までありがとうございました」と挨拶して店を後にした。「せっかく海外暮らしをしているのに、日本食ばかりに固執するのはカッコ悪い」という思いも強くありつつ、それでも日本食からすっかり離れての生活はできなかったし、家では食べられないお寿司となるとますます無性に食べたくなる時があった。けっこう安くて美味しくて居心地の良いお寿司屋さんがあって、本当に助かっていた。しかも管理が悪くて錆びさせてしまった包丁まで研いでもらってこともあったっけ。
またこの町に来ることがあったら、ケンちゃん、覚えていてくれるといいなぁ〜。

5/24 (土)
South Street(Nashville)にてボリュームたっぷりコンボバスケット (昼御飯)
インスタントクロワッサン(プレーン・モッツァレラチーズ入り)
アイスカフェオレ

今日も一日片づけ片づけ。昨日まとめた本の山は、結局30kg以上あったらしい(アメリカ来てから「あずまんが大王」とか買って揃えたりするから……)。朝一で郵便局に持っていってくれた我が夫は
「……1つのパッケージじゃ重すぎて送れなかった……」
と青ざめて帰ってきた。各地の美術館に行くたびに分厚いオフィシャルガイドブックとか買ってきたのがいけなかったんだと思う。あと、せっかくだからとちまちま買いそろえたケイジャン料理の本とかテネシー料理の本とかコンランショップのインテリア本とか……(しかもほとんど全てが人を殴り殺せそうなほど分厚い)。ああ、日本に帰っても絶対入れるところなんか絶対ないぞ。今、日本の本棚に入っている本と、送っちゃった本とを並べて優先順位つけて、下から順にBOOK OFFに行っていただくことにしよう……。

朝御飯は、缶開けて生地出して丸めてオーブンに放り込むだけのインスタントクロワッサン。いつもはPillsbury社のものを買っていたのだけど、今回はWAL☆MART製。どこのスーパーでも少なからずやっていることだけど、WAL☆MARTの独自ブランドの展開はおそろしいものがある。○○だったらやっぱり××社のものよね!という商品の横に必ず置かれている、ちょっぴり安い独自ブランドの各商品。ハインツのケチャップの横にはそれより数10セント安いウォルマートケチャップ、デルモンテの果物缶の横にやっぱり少しだけ安いウォルマート缶。ジュースからバターからトイレットペーパーまで、その気になれば全てのお買い物を独自ブランドで統べることができるんじゃないかというほど、その品揃えは豊富だった。いちいち売り場で
「うーん……20セント安いけど、味はどうなのかなぁ〜」
と悩むことになる。で、安さに負けて思わず購入してしまうのだ。

今回誘惑に負けたのは、インスタントクロワッサンだった。
「一回だけ試しに買ってみようか」
「ピルスベリー社のは、美味しいんだけどねぇ……ちょっと高いし」
と、まんまとウォルマート戦略に負けて買ってきた。缶を開けた時の生地の形の美しさはちょっといまいち。半量にピザ用に買っていた残りのモッツァレラチーズを巻き込んで焼いたところ、焼き上がりはあまりこれまでのものと比較しても遜色ないものだった。アイスコーヒーに牛乳だばだば入れて飲みつつ、焼きたてアツアツクロワッサン。……でも、やっぱり次からはピルスベリー社に戻すことにしよう。やっぱり本家本元のが美味しいような気がするし。

Nashville 「South Street Original Crab Shack & Authentic Dive Bar」にて
 私:
 Combo Basket (Oysters & Shrimp) $8.95
 Bohannon Pale Ale $4.00
 だんな:
 Pulled BBQ Pork $8.95
 Iced Tea $1.95
 息子:
 Coke $1.95

お昼は外食。
「あと帰国まで2週間弱に迫ったところですが!!」
「最後まで新規開拓の精神は忘れない、ということで!」
と、今まで行ったことのないお店に行ってみることにした。とは言っても、だんなは大学の授業の合間に来たことがある店だ。けっこう美味しいんだよ、と聞いていて、気になっていた店だった。店名の正式名称は「South Street Original Crab Shack & Authentic Dive Bar」という舌噛みそうなまどろっこしいものだけど、誰もそんな名前で呼ばず「サウスストリートでさー」などと表現しているらしい。大学が近くということもあって、学生さんに人気の店だ。ボリュームも学生さん向き。吹き抜けのテラス席では、昼となく夜となく、常に数人のグループ客がわいわいとやっているような店だった。

メニューには肉あり魚あり、でも少しだけ魚介寄り。バケツに入った魚介とソーセージと野菜の蒸しものが、ものすごいボリュームだけど味もサイコーであるらしい。私は、だんなが以前食べて美味しかったよという牡蠣フライにすることにした。
「あ、でもね、おゆきさん。2種類選べる"コンボ"ってのがあるから、それにしたほうがいい、絶対」
だんながひそひそとアドバイスしてくる。それじゃあ……と、牡蠣フライと海老フライの盛り合わせにしてみた。フライだったらビールでしょー、と真っ昼間からビールを一杯。だんなはアイスティーにして、お互い途中で交換したりしながら昼間のビールを楽しんだ。

やってきたのは、15cm×30cm、高さ10cmほどのバスケット。底にはこれでもかと大量のフライドポテトが敷かれていて、その上にはざくざくと牡蠣フライと海老フライが盛られている。ハッシュパピーも2個、ごろりと。フライの隙間に突っ込むように、タルタルソースのプラカップとケチャップにタバスコをたらしたプラカップが添えられている。うひー、魚介のフライはともかく、フライドポテトはとてもじゃないけど食べきれなさそうな分量だ。

しっかり衣がついたサクサクの海老と、ちょっと衣を変えてあるのかふわふわとした柔らかい牡蠣フライは、どちらもいけた。タバスコ独特の酸味が効いたケチャップにつけて食べるのがなかなか美味しい。プラカップをバスケットから取り出して脇に置き、タルタルソースもタバスコケチャップもじゃばじゃばつけながら食べていく。メニューには微妙にケイジャンくさい品名も並んでいて、全体的にほのかにスパイスが効いた料理になっている感じ。だんなが頼んだバーベキューポークもほろほろとした肉が香ばしくて美味しかった。

で、添えられていた"ハッシュパピー"とは、"甘みのないホットケーキの種を丸めて油で揚げた"という感じのもの。こんがりと茶色の表面の中は黄色くふわふわとした生地になっていて、この店のはスライス玉葱入りでほんのりと甘い。素朴な味で美味しいんだけど、ハッシュパピーって胃に溜まる……。

タンドリーチキン
アスパラとにんにくのミルクスープ
羽釜ご飯
ビール(Foster)

夕飯は、買い置きの鶏肉をなんとかしちゃおうと、タンドリーチキン。ヨーグルトとおろしにんにくとおろし生姜、レモン汁と塩とガラムマサラとチリパウダーその他諸々の香辛料をジップロックに投入してにっちゃにっちゃと混ぜ合わせ、そこに肉を放り込んでまぶしつけて冷蔵庫で5〜6時間マリネしておいてみた。あとはオーブンでこんがり焼くだけ。

野菜料理の1つでも添えようと思ったけれど、冷蔵庫の中にはパプリカとアスパラガス程度しかなく、ちょっと悩んだ末にアスパラ山盛りのスープを作ることにした。6かけ分ほどのにんにくをスライスしてバターで炒め、薄切り玉葱とざく切りアスパラガスも加えて炒め、湯をちょっと入れて顆粒コンソメを放り込み、少々煮込む。あとは牛乳と冷蔵庫に残っていた生クリームを注ぎ入れ、沸騰直前まで温めたらできあがり。ミキサーでギャギャギャギャギャとやったら美味しいポタージュになるんだろうなぁ……と思いつつ、アスパラそのものを齧りたい気分だったので「具沢山のミルクスープ」という感じになった。

今日もなんだかんだと1日動き、しかも暑い一日。昼と夜に飲んだビールがサイコーに美味しかった。フライとビールも似合うけど、タンドリーチキンとビールってのも、これまた……。

5/25 (日)
A先生宅で、フェアウェルパーティー (夕御飯)
冷やし中華
麦茶

朝起きるなり、
「冷やし中華冷やし中華冷やし中華が食べたいぞー」
とうるさい我が夫。
「……え、でもキュウリもハムもないよ?」
「買ってくるよ!ちょこっと出かけて買ってくる!」
我が夫、元気だ。本当にその言葉のとおり、近所のスーパーに車を走らせてキュウリとハムを買ってきてくれた。

"ブツ"は、常温保存可能なインスタント麺、「中華三昧」。確かデンバーで買ってきたやつだ。具は"基本3アイテム"であるところのキュウリとハムと錦糸卵。
「他に入れるものといえば?」
「うーん、蒸し鶏とかね、チャーシューの千切りとかね」
「あー、お店のものってトマトとか乗せてませんか?あと缶詰のミカンとか」
「ミカンはそうめんでもメジャーですな。赤い色を添えたいんだろうけど……紅生姜乗せたりな」
「紅生姜はいけませんねぇ」
「違いますよねぇ〜」
話しながら、私は錦糸卵を作成。だんなはハムとキュウリの千切りを作成。麺をじゃじゃっと茹でて湯切りしたら氷水で揉みつつ冷やし、具と共に盛りつけたら添付のタレをぶっかけて完成。

そういえば、アメリカにやってきて冷やし中華を食べたのはこれが初めてだった。私はそんなに冷やし中華に飢えていたという自覚はなかったのだけど、だんなは昨夏に一度も食べられなかったこともあってものすごく冷やし中華が恋しかったのだとか。
「そんなに恋しいんだったら"冷やし中華食べたい〜"って言ってくれたら中華麺買ってきてタレ自作して作ったのに」
ズルズル黄色い麺を啜りつつ苦笑いしてだんなに言うと、
「いや、でもさー。キュウリの歯ごたえが日本のとは違うよなぁとか、麺も違うよなぁとか思うとなかなか作ろうという気にはならなくて」
とのこと。胡麻風味の辛酸っぱい味は懐かしいものだった。黄色みの強いシコシコした麺も、冷やし中華の麺ならではの味がする。ツルツル啜って食べ終えたところで、ああ自分も冷やし中華に飢えていたんだなぁと自覚するに至った。……美味しかったぁ。

A先生宅で、フェアウェルパーティー
 プルドポークバーベキュー
 ベークドビーンズ
 コールスロー
 ポテトサラダ
 スィートコーンブレッド
 バタークリームケーキ
 Mさん特製 バナナプディング
 ビール、白ワイン、梅酒などなど

今日の夜は、1年お世話になったA先生宅で、最後のフェアウェルパーティー。5時においで、と言われていたので数十分前に我が家を車で出発して郊外にあるA先生宅に急ぐ。
留学生仲間全員が集まるとなると15人くらいになってしまうので、本当はガーデンパーティーにする予定だったと思うのだけど、今日はあいにくの雨。朝からしとしと降っていた雨は、霧雨くらいになりつつも夜まで降り続くことになってしまい、屋内のパーティーとなった。

確か、初めてA先生宅に招待されたのは7月27日のことだ。まだ留学生全員が揃っていない時期で、8人ほどでお邪魔したのだった。料理はその時と同じ、テネシースタイルのバーベキューであるプルドポークバーベキュー。バンズがたっぷり用意され、そのほぐした香ばしい豚肉をたっぷり挟み、ピリッと辛さのあるトマトソースをかけたりベークドビーンズやコールスローも添えつつ食べる。ベーコンと一緒に甘辛く煮たベークドビーンズに、セロリの香りが漂うちょっと甘めのコールスロー、甘さをつけたコーンブレッドなど、どれも既にすっかり馴染みのものとなった南部料理がテーブルに用意され、それぞれ紙皿に盛りつけてテーブルについたりテラスに出たりしてつまんではまたテーブルに戻って盛りつける。最初の最初、テネシーにやってきたばかりの頃は「バーベキューだよ」と出されたそのほぐし豚肉にかなり衝撃を受けたものだけど(バーベキューというと、やっぱり牛肉の薄切り肉を想像してしまうわけだし)、ほどよく塩気の効いたしっとりした豚肉はすごく美味しい。バーベキューソースをまぶしつけてギトギトになったところを食べるのも悪くないし、トマトっぽいソースと合わせてコールスローやビーンズに合わせて食べるのも旨い。

日が暮れ始めると外にはホタルが飛び始め、霧雨の向こうにはA先生宅で飼っている馬の姿がぼやけて見える。クラウディという名前の、灰色をしたA先生宅の飼い猫は今日も人懐こくそばに寄ってきてくれて、私と息子はついつい仲間との会話そっちのけで猫と真剣に遊んでしまった。どうも猫には弱い。数年前に逝去してしまった私の実家の飼い猫は、私が10歳の頃に捨て猫を拾ってきた後18年くらい生きていて、一人っ子の私としてはほとんど兄弟みたいな存在だった。学生の頃はずっと猫と枕を並べて寝ていたようなものだったので、今でも無性に猫をなでなでしたくなったりする。ああ、可愛いなぁ……肉球ぷにぷに。

ぷにぷにしまくっていたところ、だんなから「何か、イベントがあるみたいだよー」と声を掛けられてテラスから屋内に戻る。
A先生が青色で縁取られた大仰な衣装を身にまとい、小さな卒業証書授与式が行われた。ちゃんと厚紙に印刷され、A先生のサインが入った手製の卒業証書が全員に渡される。留学生本人たちだけかと思いきや、私や息子の分までちゃんと用意されていた。「研究所にエナジーをくれてありがとう」とか「色々サポートありがとう」なんてメッセージが入っている。我が家からは、CD-ROMに焼いたアメリカ生活の各イベントの記録写真を。ブラウザで見られるようにhtml形式のアルバムに整えたものを、ここ数日ちまちまと作っていたものを皆に1枚ずつ配って歩いた。

授与式が終わって、最後はケーキ。青と黄色のクリームがごってりと周囲を飾る、巨大なバターケーキがテーブルに用意された。研究所スタッフのMさんが作ってきてくれたという、巨大なボウルに入ったバナナプディングもある。バターケーキの、頭にキーンとくるような濃厚な甘さのクリームや、独特の粘っこさがあるプディングのカスタードクリームに「そうそう、これがアメリカのお菓子の味……」と苦笑いしながらそれでもいつのまにか平気な顔で食べられるようになっている自分に驚いてみたり。

フェアウェルパーティーも終わったことで、「はぁ〜、ホントに帰っちゃうのねぇ……」という気分がもりもりと沸き上がった(というか沸き下がった、というか)。
数日後には最初の帰国者であるIさんが日本に帰る。次は我が家でIさんの1週間後。うるるるるー。