食欲魔人日記 01年03月 第1週
3/1 (金)
壁の穴(新宿)にて「タラコイクラ」(夕御飯)
鶏手羽スープの雑炊
冷茶

今年の風邪は腹に来るタイプらしい。今朝のだんなもやや顔色が悪く、「仕事は午後から行く……」と起き出した。困ったことに私もなんだか昨日から腹が痛いのだ。熱はなく喉も痛くならず、ただ腹痛と腹下しが襲ってくる。食いしん坊にとっては非常にダメージの強い風邪なのであった。なにせ、食欲を落とすことこのうえない。

「消化に良いもの……」
と、昨夜の塩味の手羽スープに御飯をぶっこみ、雑炊にすることにした。しばらく煮込み、柔らかく煮えたところで椀によそう。刺激物はいかんと思いつつ、黒胡椒をガリガリガリ。

塩味薄めの雑炊は、ピリリと胡椒が辛くても優しい味がした。うう、今日はおでかけ。がんばれーがんばれー私。

ジャムバターコッペパン
ホットミルク

だんながよろよろと出勤して行った後、一人元気な息子と昼御飯。
「パン!パン!」
と昨日買ってきたドッグパンを指さす。ホットドッグを作ろうと、ソーセージやキャベツと一緒に買ってきたやつだ。うう、でもホットドッグを食べたい気分じゃないなぁ。悔しい。

で、縦に切込の入ったそのコッペパンにバターとジャムを薄く塗って食べることにする。ジャムとバターで甘くこってり、良い感じ。胃腸が壊れているときに牛乳はまずかろうと思いつつ、砂糖をたっぷり入れたホットミルクも作っちゃう。飲みたいと口が欲するものは身体もきっと欲しがってるんだ、と思いつつガツガツ。

新宿 壁の穴にて
 タラコ イクラ
 本日のスープ

本日は演劇集団キャラメルボックスの観劇なのであった。新宿シアターアプルにて東京公演の初日だ。
息子はだんなの実家で見ていてもらうことにして、午後5時久しぶりの新宿に降りたった。冷たい雨がずっと降っている所為もあるけど、なんとなく新宿地下街はじとーっとしている。見ると、数ヶ月前にはここまでいなかった浮浪者がまた激増していた。アルタの地下入り口にまでみっしりと座り込んでいる。おっちゃんはともかく、おばちゃんまで座っていた。のほほんと暮らしているけど、社会はまだまだ不況のずんどこであるらしかった。

世間に思いを馳せる前に、私は私の胃袋に思いを馳せなきゃいけなかった。
だんなは"胃腸の病気の時は食べずに治す"ということができる人だ。対して私は"いかなる病も喰って治す"がポリシーだ。我慢が足りない人、と言えるかもしれない。

新宿に降り立った私は、無性にイクラものが食べたくなっていた。つい数十分前までは「中村屋でカレー、もしくはアカシヤでロールキャベツ」と思っていたのに、「イクラじゃしょうがないよなー、壁の穴のスパゲッティだな」と京王モール街に向かって歩き出す。

京王線乗り口の脇に延びる「京王モール街」には小さな小さな「壁の穴」のスパゲティショップがある。
「美味しいスパゲティ屋さんがあるのよ」
と当時新宿に勤めていた母がもう20年くらい前に連れてきてくれたお店だ。古くからある小さなお店だ。世間に「壁の穴」支店は数あれど、ここはなんとなく20年前から変わっていないようで、他の店が小綺麗なだけで美味しくない前菜などを出すようになっても(新宿南口の店は酷かった……)、この店は頑固一徹、変わってないような気がする。客層もサラリーマンのおじさんなどが多い。私は「壁の穴」系列だったらここが一番好きなのだ。

で、念願通りのイクラのスパゲティを注文。「タラコ イクラ」で1400円なり。お安くないスパゲティだけど、山盛りイクラが食べられるなら異論はない。数百円の「本日のスープ」もつけてもらった。

ほどなくやってくるコーヒーカップ入りのコンソメスープ。玉ねぎとにんじん入り。一緒にやってきたレタスのサラダには刻んだトマトときのこのバターソテーが乗っていた。熱いスープを啜って数分、湯気をたてたタラコスパがやってきた。
これでもかとバターを絡めたような濃厚な太めの麺にタラコがたっぷりと絡み、上から豪快にイクラがどっかんと積み上げられている。更に上にはざくざく切った海苔がたっぷり。木の器に入り、相変わらず何とも良い感じだ。やっぱりタラコスパは太めの麺でバターたっぷり、どっかんどっかんじゃなきゃ。

期待通り、潮の香りもバターの濃厚さも絶妙な美味しいスパゲティだった。
ここに来ると、ついついタラコ系かミートソースを喰っちゃうのよね。野菜やソーセージがたっぷり乗った「若者のアイドル」もそりゃ美味しいんだけど、ついついタラコかミートソースになっちゃうんだわぁ。

3/2 (金)
だんな特製鍋焼きうどん (夕御飯)
クリームパン
パンプキンパイ
ポタージュカップスープ
牛乳

起きると、我慢できるくらいの腹痛と、我慢できるくらいの吐き気と、我慢できるくらいの腹下しが私の身におこりまくっていた。どれも「我慢できるくらい」だというのがポイントで、しかも熱も頭痛も悪寒もしないから風邪だかなんだかわからない。でも、だんなの症状とまるで同じだったため、どうやらこれは風邪らしかった。

「喰って治す」
がポリシーの私は、今日も元気に食事する。今日の朝食は、昨日新宿地下街にて通りすがりに買ってきたパン屋さんのパン。パンプキンパイを温めて、インスタントスープも用意して喰う。
パンプキンパイは久しぶりだった。南瓜のペーストが詰まったほの甘いパイは、やっぱり美味しい。

豚にんにくおじや
冷茶

胃腸の調子はますます悪くなり、昼は一人病人食を作って喰ってみた。だんなが良く作ってくれた豚にんにくおじや。風邪でも美味しく食べられるスタミナ食だ。

御飯と水を適当に鍋に入れ、沸騰したところで薄切り豚肉をヒラヒラと入れてにんにくも入れる。にんにくは細かく刻むもよし、薄切りにするもよし、たっぷりと放り込む。醤油をさっと垂らして混ぜたらできあがり。塩をふっても胡椒をふっても良いけれど、ちょっと味が薄いくらいがいかにも病人食で良い感じだ。

アツアツのおじやを啜ると、身体があったまってとりあえず少しばかり復活の気分。毛布にくるまってストーブつけてしばし昼寝。うう、もうつらすぎるー。

だんな特製鍋焼きうどん
冷茶

さて、午後2時からぶっ通しで昼寝しまくっていた自分だが、5時過ぎに異臭で目が覚めた。起きあがって周囲を見渡すと、自分の吐いたものの海の中で泣きもせず、どこからか持ってきた雑巾を握りしめて途方にくれつつ掃除しようとしている2歳児の息子と目が合った。昼まで元気そのものだった息子までとうとう感染したらしい。っていうか、そういう時は泣いて訴えて良いんだよ〜、なに一人でぐしょぐしょになって掃除しようとしてるんだよおまえは〜、と居間の大掃除。

座布団カバーや座布団そのもの、衣類やら何やらを洗濯機に放り込み、「水でもお飲み」とお茶をあげたとたんにまた盛大に息子が吐いた。今度はソファーから畳から、先ほどは被害のなかった部位を洗わねばならない羽目に。半べそかきつつだんなに「早く帰ってきてぇ」と電話。だんなは「何食べられる?鍋焼きうどん?」と近所のマーケットで食料仕入れてきてくれた。

小さな土鍋に平麺のうどん。しっかり取った鰹だしに穴子の天ぷらとほうれん草とかまぼこ、半熟の卵。立派な立派な鍋焼きうどんを作ってくれた。
「吐き気がするよぉ〜」
と言いつつ、きっちり穴子の天ぷらと、ついでにキスの天ぷらと南瓜の天ぷらとイカの天ぷらを喰っていた私。いや、だってうどんのだしに天ぷらつけて食べると美味しいんだよ。だからついつい。

3/3 (土)
タラコとイクラのスパゲッティ (夕御飯)
だんな特製ホットドッグ
アイスカフェオレ

昨夜、重体の様相を呈していた息子は一変、元気になっていた。一番最初に起きて(といっても時間は10時半を回っていたけど……)元気にかけずり回っている。私も、昨日の苦痛が10だとすれば6くらいまで回復してきた。だんなに至っては「ちょっと不調」という程度であるらしい。週末だのに寝てられるか、という気分もする。

だんなはホットドッグが大好きだ。私は、ハムやソーセージなどの肉加工品に対してそれほどの愛は無かったのだけれど、だんなは「自家製ソーセージ」なんてメニューがレストランなどにあると気になってしょーがないらしい。ホットドッグも、大好物なのであった。おかげで私までその美味しさがわかるようになってきてしまった次第。いや、喜ばしいことなのだ。

「料理は、その料理をより愛する者が作るべし」
の我が家の掟に従い、ホットドッグはだんなの担当。キャベツにカレー粉ふってバターで炒め、それをフライパンでこんがり焼いたソーセージと一緒にドッグパンに詰めるのがポイントだ。ソーセージの上からとろけるチーズをかけ、それをトースターで数分焼いて、チーズが溶けたらできあがり。なかなか手間がかかっている。

プリッとしたソーセージと僅かに辛いキャベツ、とろけたチーズとケチャップの甘さ。パンもふかふか。ホットドッグって美味しいものだったのだ。またやろう、ホットドッグ。

京樽の
 ねぎとろイクラちらし
抹茶入り玄米茶

だんながお買い物に行ってくれた。「昼御飯は、何を?」との言葉に応え、
「イクラ。お寿司。不味くないやつ。小僧寿司不可。」
と即答すると、「難しいことを……」と困惑しながら出かけて行った。

1時間ほどして戻っただんなの手には、京樽のちらし寿司。文句のあろう筈はない。だんな、あっぱれだ。

小さめの容器の中に寿司飯。上にはねぎとろとイクラがこんもり盛られている。錦糸卵もたっぷりと。
イクラはコレステロールもカロリーもめっちゃ高いのに(だから胃にもたれそうなものなのに)、どうも吐き気がするときなどに恋しくなってしまうのよ。大好物だし。

酢飯に柔らかなまぐろの叩き、ぷちぷちのイクラは何とも良く似合う。醤油をふりかけ、ガリを口に放り込みながらガツガツと食べきった。ふー、旨いぞ。

タラコとイクラのスパゲッティ
かまぼこと葱の吸い物
冷茶

「夕飯は、さっぱりしたスパゲッティにしよう」
「海苔をかけるような和風のやつがいいなぁ……」
で、タラコスパになった。どのへんが「さっぱり」なのかは多分私にもだんなにもわからぬことだ。
で、でもタラコスパはつい数日前に喰ってきたような。しかも上には、ついさっき食べた昼飯に乗っていたイクラをてんこもりにして。……まぁ、いいか。タラコとイクラのスパに本日は決定。何だか近頃イクラづいている。

タラコスパは簡単だ。簡単なだけに、美味しい材料を使うと恐ろしく美味しくなる。タラコは当然無着色。素朴な色のやつをほぐして旨い日本酒で軽くほぐし、昆布茶の粉末を混ぜておく。盛り皿には山盛りの旨いバターを乗せて柔らかくしておき、先のタラコとゆっくり混ぜてタラコバターに。そこへ茹であがりのパスタをえいっと山盛りにし、えっさえっさと混ぜてから海苔をぶわっと。てっぺんにイクラをこんもり盛る。パスタはできるだけぶっといやつを使うのがらしくて良い。

さて、今日のパスタも大変美味しくできた。ミートソーススパゲッティなどもエンドレスに食べられる困った料理だけど、タラコスパに勝るものはない。食べても食べてもタラコとバターとイクラの味ばかりがするのに、いつまで喰っても飽きないのだ。
今日茹でたパスタも軽く4人前。もしかしたら5人前。それでも数分で無くなった。風邪も多分遠くに逃げたことだろう。

3/4 (日)
おでん (夕御飯)
すうどん

朝から土砂降りだった。なんてこった。週末の雨はちょっと鬱々となってしまう。

もそもそと9時過ぎに家族全員が起きだし、朝飯はうどん。すうどん。つゆとうどんだけの、これ以上ないくらいシンプルなうどんだ。

冷凍のカトキチうどんに、香川に行ったときに買ってきたいりこだしのインスタント顆粒だし。そこはかとなく、讃岐のあの味がするようなしないような、という感じ。
ううう、また行きたいなぁ、香川。

モスバーガーにて
 スパイシーモスチーズバーガー
 アップルパイ
 アイス烏龍茶

大雨の中、しかし今晩の夕飯の算段をしなければいけない。
「美味しい日本酒が残ってるよ。早く飲まなきゃ不味くなっちゃうよ。」
「おでんで一杯。」
「いいねぇ、おでんで一杯。」
というわけで、土砂降りの中マーケットに買い物に行く。練り物類や大根、卵などをたっぷり買い込み、早めの昼御飯と通り道のモスバーガーで済ませちゃうことにする。雨の日曜日、客足もまばらだった。

実は、昨日あたりからまた(またまたまたまた、くらいだけど)ダイエット熱が再燃し始めた私。この日記で「昨日から○kg減」とやったところで「今日は週末だから測らない」「今日は外食だから測らない」とすぐに立ち消えするのは目に見えているのでこっそりこっそりやることにした。

ゆえに、ポテトはいかんよなー。サイドメニューにチキンはいかんよなー。サラダもドレッシングがなー、と考えたあげく、「アップルパイ」。何だか事態は悪い方へ進んだような気がしないこともないけど、リンゴだからきっとヘルシーに違いない(←油や砂糖の存在を忘れていた私)。

唐辛子がたっぷり入ってるらしいスパイシーモスチーズバーガーと件のアップルパイ、そしてノンカロリーのアイス烏龍茶。
生のトマトが大嫌いだった頃はどこが良かったのかさっぱりわからなかったけど、今は分厚い分厚いトマトが入ったハンバーガーがとても美味しい。
ふかふかのパンにハンバーグどかーん、チーズどかーん、トマトがどかーんに、ミートソースに唐辛子入りソースがどっかんどっかん、と豪快に入ったバーガーは期待以上に美味しかった。口の周りがべたべたになっちゃうし、包み紙にソースがたっぷり溢れてきちゃうけど気にせずここは豪快に食べる。

おでん
純米大吟醸 塩原回顧(みかえり)の滝
御飯
ほうじ茶

おでんは、実のところそれほど好物じゃないと思っていた。だしで煮た大根やゆで卵にそれほど愛を感じないし、魚の練り物というのはあまり好みじゃない。何より、具を買ってきてただ煮るだけなんてものすごく手抜きなような気がして自己嫌悪に陥ってしまうのだ。

「何言ってんだよ!全然手抜きじゃないよー。おでん、美味しいよー。やろうよやろうよ。」
とだんなに言われたこともあり、もう1年ぶり以上になるであろう、我が家のおでん。

大根は米のとぎ汁で下煮して、ゆで卵もぬかりなく用意。他の具は、うずら卵の入った練り物、イカロール、がんも、はんぺん、ちくわぶ、下準備済みのパック入り牛すじといった具合。そうそう、餅きんちゃくも忘れちゃいけない。半分に切った油揚げを袋にして、中に小さな餅を詰めるのだ。これは私も大好物。

以上を大きな鍋に入れ、濃いめにとっただし汁に醤油と砂糖と味醂を入れてことことと煮込んでいく。はんぺんは煮上がりの20分前くらいに、餅きんちゃくもそのくらいのタイミングで入れなければいけない。全体的に良い具合になったら、陶器の方口の器に日本酒を並々注いでお猪口を準備。練り辛子も用意した。各自自分の食べたい具を鍋からよそって、おでんで一杯。

おでん、旨かったのである。旨いのである。しっかり取っただしには色々な具の旨味がすっかり染み込んで、ほの甘い練り物やふやふやしたはんぺんはとてもとても美味しかった。辛子をちょいとつけた大根を囓っては酒を呑み、練り物にくるまれたうずらの卵を囓っては酒を呑む。全体的に味といったらだしの味ばかりが強いのに、酒と似合っちゃってどちらも止まらなくなってしまう。

純米大吟醸とのとおり、まろやかな味のするやや甘口の酒はとても良い匂いがする。大根はいまいち煮込みが足りなかったけど、ちくわぶの周囲2mmが柔らかくクタクタになったところだとか、とろんと餅が柔らかく煮えた餅きんちゃくだとか、ひたすら箸が進んでいく。

結局大鍋とテーブルを4回ほど往復した。鍋を覗き込んで「あ、これ食べよう。」と探るのがまた楽しい。
「あ、ウィンナーがあったよ。これも放り込んじゃおう」
と途中で具が増えちゃうのもまた楽し。

結局、「なんだ、おでんって美味しいんだ」と自覚に至った今日の夕飯。
おでん専門店なんかでは、持ち帰りの「おでん缶」なるものがあるらしい。店名の入ったアルミの缶にあれこれと具を詰めてもらって、値段は4〜5000円くらいしちゃうものらしいけど、それって何だかとても美味しそう。
「仕事の帰りに買ってきてたもれ〜。銀座で買ってきてたもれ〜。」
と騒いだ私なのだった。中身のおでんも勿論だけど、その缶そのものがちょっと欲しいというのは秘密である(←でも多分だんなにはバレバレ)。